日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-82 282
-ストレスへの認知行動的対処方略の変化はストレスチェックの判定に影響を及ぼすか
○中村 亨1)、戸田 愛貴子1)、坂野 雄二1,2) 1 )医療法人社団五稜会病院札幌CBT&EAPセンター、 2 )北海道医療大学心理科学部 問題 2015年12月より、メンタルヘルス不調の未然防止を 目的としてストレスチェック制度が開始された。これ により、常時使用する労働者数が50名以上の事業場で は、 1 年に 1 回以上のストレスチェックの実施が義務 となった。また、ストレスチェックで高ストレスと判 定された労働者は、医師による面接指導の対象とな り、高ストレスと判定された労働者から申し出があれ ば、医師による面接指導を行うことが事業者の義務と なった。しかし、ストレスチェックを受検した労働者 のうち、医師による面接指導を受けた割合は0.6%(厚 生労働省,2017)にとどまり、医師による面接指導だ けではなく、労働者自身のセルフケアの促進も重要な 課題といえる。 ところで、ストレスの軽減には、問題や状況に合っ た対処方略を用いることが重要である。問題や状況に 合わせて、適切に対処方略を調整することができれ ば、ストレスを軽減できる反面、問題や状況に適さな い対処方略を用いると、ストレスを強める可能性があ る。このため、実際に高ストレスな状態を改善した労 働者や、良好な状態を維持している労働者が、どのよ うに対処方略を調整しているのかを明らかにすること は、セルフケアの促進に有益と考えらえる。 そこで本研究では、ストレスチェックの判定の変化 と対処方略の変化の関係を検討することとした。 方法 分析対象者:当センターのストレスチェックを受検 した者のうち、2015年12月〜2016年11月(期間 1 )と 2016年12月〜2017年11月(期間 2 )の両方でストレス チェックを受検し、所属先企業と本人から研究への結 果提供に同意が得られた2977名(男性1856名、女性 1121名、42.36±12.53歳)を分析対象とした。対象者 は 2 回のストレスチェックの結果によって、期間 1 で 高ストレスと判定されたが、期間 2 では高ストレスと 判定されなかった高ストレス改善179名(男性117名、 女性62名、39.83±11.34歳)、期間 1 と期間 2 の両方 で高ストレスと判定された高ストレス持続群211名 (男性147名、女性64名、37.96±10.52歳)、期間 1 で は高ストレスと判定されなかったが、期間 2 で高スト レスと判定されたストレス悪化群224名(男性137名、 女性87名、39.80±11.11歳)、期間 1 と期間 2 の両方 で高ストレスと判定されなかった良好維持群2363名 (男性1455名、女性908名、42.36±12.53歳)に分けら れた。 測定指標:高ストレスの判定にはストレスチェック で標準項目となっている職業性ストレス簡易調査票57 項目版(BJSQ)を用いた。ストレスチェック実施マ ニュアル(厚生労働省,2015)で例示されている素点 換算表を用いた場合の評価基準に従って、高ストレス 判定を行った。 対処方略の測定には、TAC-24(神村ら,1995)を用 いた。TAC-24は「カタルシス」「放棄・諦め」「情報収 集」「気晴らし」「回避的思考」「肯定的解釈」「計画立 案」「責任転嫁」の 8 尺度で構成されており、本研究 では各尺度得点について、期間 2 の得点から期間 1 の 得点を引くことで変化量を算出した。 測定方法:ストレスチェックを実施する際、イン ターネット上のストレスチェックシステムで受検した 対象者に、個人情報の保護に関する説明と研究への情 報提供の依頼を表示し、情報提供への同意を得た上 で、BJSQとTAC-24への回答を求めた。 なお、本研究は医療法人社団五稜会病院の倫理委員 会の承認を得て実施した。 結果 群間の対処方略の変化の違いを検討するために、一 要因分散分析を用いてTAC-24の 8 尺度の変化量の平均 値の差を検討した。その結果、 8 尺度すべて有意差が 認められた(図 1 )。 多重比較の結果、高ストレス改善群は、高ストレス 持続群に比べ、「カタルシス」「情報収集」「計画立案」 が増えており、「放棄・諦め」「肯定的解釈」は減って いた。高ストレス持続群は、高ストレス改善群に比 べ、「カタルシス」「放棄・諦め」「情報収集」の変化 が小さく、「気晴らし」「計画立案」が減り、「肯定的 解釈」は増えていた。ストレス悪化群は、良好維持群 に比べ、「カタルシス」「情報収集」「気晴らし」が減っ ており、「肯定的解釈」「責任転嫁」が増えていた。良 好維持群は、他の群に比べ、全体的に変化が小さかっ た。 考察 本研究では、ストレスチェックの判定の変化と対象 方略の変化の関係を検討するため、 2 回のストレス チェックの判定結果により対象者を 4 つの群に分け、日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-82 283 -各群の対処方略の変化の違いを検討した。 その結果、高ストレス改善群は、高ストレス持続群 に比べ、他人に話を聞いてもらったり、他人から情報 を集め、対応を考えたりすることが増え、諦めること や、肯定的に考えることが減っており、気分転換をし ながら、問題解決を図ろうとする方向へ対処方略が変 化していた。また、ストレス悪化群は、良好維持群に 比べ、気分転換を図ったり、他人に話したり、他人か ら情報を集め、対応を考えたりすることが減って、肯 定的に考えたり、自分の責任ではないと考えることが 増えており、問題の捉え方を変えることで、気分の改 善を図ろうとする方向へ対処方略が変化していた。 高ストレス改善群とストレス悪化群では、 8 つの対 処方略全てで逆の方向に対処方略が変化していたこと から、ストレスを軽減するためには、周囲のサポート も利用しながら、気分の安定化を図り、積極的に問題 に取り組む対処方略を増やすことが有効と考えられ る。高ストレスになることを防ぐためには、そうした 対処方略を減らさず、用い続けることが必要と考えら れる。特に肯定的に考える対象方略が、高ストレス改 善群では減ったのに対し、高ストレス持続群とストレ ス悪化群では増えたことから、単に肯定的に考えるの ではなく、問題や状況について現実的に考え、変えら れることは積極的に変えてくことが重要といえるだろ う。また、ストレスチェックの判定が変わった高スト レス改善群とストレス悪化群は、判定が変わらなかっ た 2 つの群に比べ、対処方略の変化が大きいことか ら、ストレスの軽減には、特定の対処方略だけを変え るのではなく、複数の対処方略をバランスよく調整す ることが必要といえる。 ストレスチェックの判定の変化の仕方が異なると、 対処方略の変化の仕方にも違いがあることが確認され た。これにより対処方略の調整により、ストレスの軽 減や悪化防止が図れることが示唆された。実際に労働 者のストレスを軽減し、メンタルヘルス不調を未然に 防止するためには、ストレスチェックの実施と同時 に、対処方略を測定する検査を行い、自分の対処方略 を確認できるようにすると共に、自分のストレス状態 に合わせた、対処方略の調整を学ぶ研修を実施するこ とが有益と考えられる。 本研究の課題として、問題や状況の変化を考慮して いないことが上げられる。有効な対処方略は問題や状 況によっては異なるため、問題や状況の変化も考慮し て、対処方略とストレスの変化について改めて検討す る必要がある。