はじめに 我が国の理学療法士の歴史はおよそ半世紀となる。近年では 毎年約 1 万人の理学療法士が輩出され,理学療法の質が問われ る時代に移行してきた。一方,医療・保健・福祉の領域にお いては,少子高齢化という社会情勢の変化,基礎科学の進歩, EBM に対する知識・技術の変革,予防医学への対応など理学 療法に求められる課題は山積していると考えられる。このよう な理学療法を取り巻く様々な環境変化に柔軟に対応するため に,専門職として生涯学習を推進し,自らの資質向上を図るこ とが理学療法士に求められる社会的要請であろう。国民の期待 に応えるべく良質な理学療法を提供するためには,現在の標準 的な理学療法を検証し,我々が進むべき道筋(針路)を多角的 に問い直すことがきわめて重要なことであると思われる。 そこで,理学療法を取り巻く環境の変化を概観し,近未来に おける理学療法の針路について問題提起を試みたい。 理学療法を取り巻く環境変化 理学療法を取り巻く環境変化は多岐にわたる。ここでは主要 な変化として,「人口減少社会と疾病構造の変化」「医学・医療 の変化」「理学療法研究の動向」の 3 点につき概観してみたい。 1.人口減少社会 1)日本の人口動態と将来推計 厚生労働省の平成 24 年度人口動態統計の概況1)によれば, 日本の総人口は 2008 年をピークとして減少に転じるとともに, 高齢化率は 2007 年に超高齢化の基準値を超えて 21%となって いる。さらに,国立社会保障・人口問題研究所が 2012 年 1 月 に公表した「日本の将来推計人口」2)によれば,人口減少・高 齢化のピッチは今後ますます早まると見込まれている。近未来 の日本は,これまでとは異なった社会を迎えるといってよいだ ろう。 人口減少社会の問題を論ずる際,総人口の減少が象徴的に取 り上げられることが多いが,近未来の日本は総人口が減少す るだけでなく,人口構成が一変するということが重要な変化 である。具体的な動向を列挙してみると,高齢化率は 2010 年 には 23%であるが,2060 年には 39.9%にまで増大し,老年従 属人口指数も 2010 年に 2.8 人であったものが,2035 年には 1.7 人まで減少する。同時に生産年齢人口も 2010 年の 63.3%から, 2060 年には 50.9%にまで減少する。さらに,出生率が向上し ても,出産年齢人口の減少により,結果として出生数は減少す る。また,超高齢化に伴い,死亡者数も増加する。年間死亡者 数は 2040 年には 167 万人に達し,その後,死亡者数は減少す るものの,出生数がさらに減少するため,人口減少の解決には つながらないと試算されている2)。 人口減少社会のもたらす主要な変化点をまとめると次のよう になるだろう。 ① 総人口は今後,約 50 年間で 3 分の 2 程度に減少し,その減 少幅は加速される。 ② 高齢化率の進展,特に後期高齢者(75 歳以上)の伸びが大 きくなる。 ③ 出生数および年少人口(15 歳未満)が減少する。 ④ 生産年齢人口および老年従属人口指数が減少する。 以上のように,人口減少社会の影響は社会,経済,政治,社 会保障などグローバルな観点から大きな問題として取り上げら れている。医療の問題に焦点を絞ってみても,その影響は計り 知れない。 2)医療の問題と対策 日本の医療の供給体制は①国民皆保険制度,②財源は公費負 担,病院・診療所は民間運営,③受診は自由(フリーアクセス) という特徴がある。この医療供給体制を維持するためには,人 口減少社会によって,どのような状況になるのかを推測し,そ れに対する準備が重要である。 島崎3)は人口減少社会を見据え,適用すべき社会の姿が一 変しているのだから,医学や医療のあり方自体を見直すことが 必要になると述べ,その著書の中で日本の医療について制度改 革や政策提言を行っている。第 1 に「専門分化した高度な医療 と包括的医療」である。現在の医療体制において専門分化は必 然の流れであるが,医療の受療率が高い高齢者では,ひとつの 疾病に複数の合併症を有する場合が多いため,総合的・包括的 医療も重要となり,心身の機能低下を考慮すると介護需要は いっそう高まるものと推察される。すなわち専門的かつ高度な 医療が必要とされる一方で,総合的な診療や日常生活活動の支 援が重要となる。第 2 に「医療の効率化」を挙げている。日本 の医療の供給体制の特徴を踏まえ,医師をはじめとする医療ス タッフの集積による医療密度を高めることを提案している。つ まり,在宅医療の推進だけでは現実的ではなく,介護老人保健 施設をはじめとする施設での介護・医療を充実させることが求
理学療法の針路を問う
*
内 田 成 男
**大会長基調講演
*Which Course is Needed for Physical Therapy in the Future **
富士リハビリテーション専門学校 (〒 417‒0061 富士市伝法 2527‒1)
Shigeo Uchida, PT: Fuji Rehabilitation Institute キーワード:理学療法,環境変化,針路
められるとしている。第 3 に「職能のレベルアップ」を挙げて いる。すなわち,専門的機能の高度化,業務分担の見直しによ る生産性の向上あるいは効率化が重要で,他の職能者に代替で きる業務を整理し,本来の専門的業務に専念できるように職能 のレベルアップが大切であるとしている。 医療全体のシステムが変化していく中,理学療法士はどのよ うな準備を進めていくべきであろうか。健康寿命の延伸や障害 予防に対して,どのように貢献できるかを考えなければなら ない。 2.疾病構造の変化 我が国の死因別死亡率年次推移4)をみると,1950(昭和 25) 年までは全結核が第 1 位であり,第 2 位が脳血管疾患であった。 1951(昭和 26)年より脳血管疾患が第 1 位となり,結核は 1953(昭和 28)年より 3 位以下となり,1955(昭和 30)年第 5 位,1960(昭和 35)年 7 位,1970(昭和 45)年 8 位,1980(昭 和 55)年 13 位,1990(平成 2)年 17 位,2000(平成 12)年 24 位,2010(平成 22)年 26 位と激減している。一方,脳血管 疾患では 1951 年より死因の 1 位となったが,30 年後の 1981(昭 和 56)年に第 2 位となり,第 1 位は悪性新生物にかわっている。 さらに,脳血管疾患は 1985(昭和 60)年から心疾患に次いで 第 3 位,2012(平成 23)年には肺炎に次いで 4 位となっている。 死因順位のみで結論づけられるものではないが,結核の場合 は徹底した感染予防策として結核予防法の制定(*1),予防接 種,栄養状態の改善などの効果があると考えられる。また,脳 血管疾患も同様に予防的な活動(血圧管理,減塩などの食生活 の改善,検診制度の充実など)が効果を発揮しているものと考 えられる。 また,疾病ごとの受療状況を入院患者数の動向5)でみると, 全体として入院患者数は減少傾向にある。平成 8 ∼ 23 年まで の疾患分類別にその推移をみると,増加している疾患として神 経系疾患,呼吸器系疾患(肺炎),骨折が挙げられ,悪性新生 物は変化が少なく,脳血管疾患や心疾患,糖尿病は減少傾向に ある。治療の進歩により,入院期間の短縮や外来通院での治療 に移行していることもあるが,神経系疾患,肺炎,骨折は増加 しており,筋骨格系の外来受療者数は顕著に増加している。ま た,脳血管疾患は入院・外来ともに減少しているが,有病者数 には大きな変化はみられない状況により,医療機関から在宅療 養や介護老人保健施設に移行していることが推察される。 以上,死亡原因,医療機関の受療率,有病者数などの変化か ら,理学療法の対象疾患もこの 10 数年で大きく変化している ことが理解できる。また,主要疾患への対策,さらに健康寿命 (Health life expectancy)の延伸を図るためには,多角的な“予
防”が重要であると考えられる。 3.医学・医療の進歩 医学・医療の進歩は著しく,まさしく日進月歩である。新薬 の開発,侵襲の少ない検査方法の確立,ロボット技術による遠 隔操作の手術,小型センサーによる身体内部の検査,麻酔方法 の進歩,画像診断装置の進歩など枚挙に暇がない。とりわけ, 再生医療については京都大学・山中伸也教授のノーベル賞受賞 を契機として,社会的にも注目度が高い。再生医療6)7)は様々 な臓器について研究が進んでいるが,リハビリテーション分野 に関わりが大きいのは,神経系,筋・骨格系,循環器系といっ た運動療法と直接的に関連がある臓器あるいは組織であろう。 ここでは理学療法に関係の深い治療方法や再生医療の進歩の一 部を紹介し,理学療法のあり方を考える話題としたい。 1)脳卒中に対する血栓溶解薬(rt-PA 静注療法) 急性期虚血性脳卒中に対する治療として期待の大きかっ た遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ (recombinant tissue-type plasminogen activator:以下,rt-PA)
の静脈内投与は,1996 年に米国で認可された後,我が国では 独自の用量による臨床試験(Japan Alteplase Clinical Trial: J-ACT)が行われ,2005 年に虚血性脳血管障害への適応拡大 がようやく認可された。日本脳卒中学会では「rt-PA(アルテ プラーゼ)静注療法適正治療指針(2005 年 10 月)」を発表し, 全国各地で適正使用講習会を実施した。その後,7 年間の国内 使用経験および国内外で本治療法に関する新たなエビデンスが あきらかにされ,2012 年 8 月には,治療可能時間の延長(4.5 時間以内)が我が国でも保険適応となり,「rt-PA(アルテプ ラーゼ)静注療法適正治療指針第二版」8)が作成される。この 指針では,適応基準などの大幅な見直しが行われているが,治 療薬,治療開始可能時間,治療の適応,施設,発症からの対応, 診察,検査,画像診断,適応の判定と説明・同意,投与開始後 の管理,など詳細に規定している。また,承認から 10 年以上 経過している欧米では,さらなる治療成績の向上に向けて,次 世代の急性期治療(たとえば rt-PA 静注療法中に頭蓋外より超 音波照射を併用し,血栓溶解の効率化を図る取り組み)が本格 化している。 このように脳血管疾患は高血圧を主因とした脳内出血が激減 し,脳梗塞の比率が多くなってきた。そこで登場した rt-PA 静 注療法の良好な成績が報告され,リハビリテーションとの関連 性では離床基準や座位訓練の施行基準なども示されているが, 具体的なリスク管理,運動療法について言及した論文は少な い9‒12)。 2) 脳卒中(脳梗塞)に対する自己培養骨髄間葉系幹細胞の静 脈内投与 脳梗塞の先進医療について,阿部13)は虚血性脳障害に対す る治療として遺伝子治療,内在性幹細胞活性化,外来幹細胞移 植などに期待が寄せられ,ともに実用的な治療へ発展していく だろうと述べている。本望ら14)は種々のドナー細胞を用いた 細胞移植に関する基礎研究を経て,近年では骨髄幹細胞をド ナー細胞とした神経再生の効果に着目した研究を重ねてきた。 そして,2007 年 1 月より脳梗塞亜急性期の患者を対象とした 自己骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与について,その安全性と治 療効果について検討している15)。12 名の脳卒中患者に本治療 を適応し,1 例ごとに詳細に追跡調査(治療後 1 年間)した結 果,身体機能の改善度(NIHSS:National Institutes of Health Stroke Scale による評価)や MRI などの画像診断による評価 結果では良好な成果が得られ,中枢神経系の腫瘍や異常な細胞 増殖,神経学的悪化などは認められなかったとしている。この 治療法の最大の長所は直接移植のほか,静脈内投与でも治療効
果が期待できることであり,感染症のリスクや免疫拒絶反応が なく,倫理的問題もないことなどの利点がある14)。 自己培養骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与の治療メカニズムは ①サイトカインによる神経栄養・保護作用,②血管新生作用 (脳血流の回復),③神経再生作用の 3 つが考えられており,今 後の課題としては,自己骨髄幹細胞の調整や幹細胞の培養・精 製工程に関わる Stem Cell Engineering などが挙げられている。 また,幹細胞による治療効果のメカニズムは,多彩な作用メカ ニズムが時間的・空間的に多段階に作用することが特徴であ り,その過程も従来の自然経過とはまったく異なることから, それぞれのステージで適切なリハビリテーション方略と目標設 定が求められ,再生医療における的確な評価手法の開発も必要 であるとしている15)16)。 3)脊髄損傷に対する iPS 細胞の応用 iPS 細胞を利用した再生医療については,医学的な専門書 や論文以外にも多くの一般向けの書籍などが刊行されてい る18‒20)。岡野ら21)24)は神経幹細胞による研究からスタート し,ES 細胞による脊髄損傷治療を経て,現在は iPS 細胞を利 用した治療研究を主軸に,実際の臨床応用に向け精力的に研究 を行っており,脊髄損傷モデル動物では運動機能および組織学 的検討において良好な成績であったとしている。移植細胞が機 能回復に寄与するメカニズムについては,①移植細胞によるシ ナプス形成,②移植細胞による再髄鞘化,③移植細胞によるト ロフィクサポートの 3 つが提唱されている。 今 後 の 課 題 と し て は, 移 植 細 胞 の 腫 瘍 化 と シ ナ プ ス の misdirection(過誤神経支配)の 2 つが想定されている。前者 については,“安全な iPS 細胞クローン”と“危険な iPS 細胞 クローン”が確認されており,成人組織由来 iPS 細胞の臨床応 用に向け安全性に関わる非常に重要な知見が得られたとの報告 がある25)。後者については,リハビリテーションの果たす役 割が大きい。神経細胞の発生分化は,前期と後期に分類するこ とができ,再生医療では発生分化の前期過程を再現する。次の アポトーシスとシナプス再編による神経回路の構築,すなわち 電気的な活動を必要とする後期過程では,リハビリテーション が重要な鍵を握ると考えられる。つまり,運動機能の再教育 (運動療法)によりシナプスの形成,選別の過程を活性化し, 新たな神経回路を構築していく支援をするためには,よく考え られたリハビリテーションの方法が検討されなければならない だろう26)27)。 現状の iPS 細胞を利用した再生医療には,まだまだ多くの壁 が存在するようであるが,近い将来,本格的な臨床応用が開始 される可能性が高い。そのような状況に対応できるような理学 療法を展開できるよう準備していくべきではないだろうか。 4)関節軟骨再生に対する再生医療 関節軟骨の修復能力は非常に弱く,その原因として血流が乏 しいこと,細胞周囲に密度の高い基質が存在しており,軟骨細 胞自体が高度に分化しており,ほとんど部分増殖しないことが 挙げられる。関節軟骨修復については様々な手法で研究が進め られ,患者の要求や症状,軟骨欠損の状況,靭帯・半月の損傷 の有無など総合的に勘案し,適応が吟味されなければならな い28)29)。
Ochi ら30)32)は自家軟骨細胞と細胞増殖の足場(scaff old) に着目し,組織工学的手法を用いて軟骨様組織を培養する手 法を世界に先駆けて確立し,1996 年より自家培養軟骨移植 (autologous chondrocyte implantation: 以 下,ACI) の 臨 床 応用を行っている。ACI は免疫応答などの安全性も確認され ており,Lyshorn score などの評価指標できわめて良好な成績 であったとしている。本治療法は軟骨採取と移植の 2 段階の手 術が必要となること,適応が限定されることなどの課題もある が,平成 25 年 4 月から「膝軟骨」の再生医療として患者自身 の軟骨細胞を活用する自家培養軟骨「ジャック(JACC)」が保 険適用となった33)。機能回復(獲得)には,その後のリハビ リテーションが重要であり,専門医がいることや設備があるこ ととともに,運動器リハビリテーション料の施設基準に適合し ているものとされ,適切なリハビリテーション治療が実施でき る体制があることが保険適用の条件となっている。平田ら34) は軟骨修復術後のリハに関する情報は不足しており,最適なリ ハ・プログラムは確立されていないため,長期的な効果のフォ ローもしつつ,リハの効果・治療方略を検討していくべきであ るとしている。 4.理学療法研究の動向 理学療法の領域では基礎から臨床まで多くの研究成果が報告 され,学術集会の規模,頻度,領域においても大きく発展して いると考えられる。また,理学療法に関する論文は日本理学 療法士協会が発行する「理学療法学」に加え,関係の深い学 術誌を含めると非常に多くの論文が発表されている。そこで, 今 回,Physical Therapy( 以 下,PT),Archives of Physical Medicine and Rehabilitation(以下,APMR),理学療法学(以 下,理学誌)の 3 誌について近年の動向を調査した。PT と APMR については,1998 ∼ 2012 年の 15 年間を,5 年間ごと に 区 分 し,「PubMed」 に て stroke・cancer・regenerative・ knee osteoarthritis のキーワードにて論文数を検索した(表 1)。 理学誌は 2008 ∼ 2012 年の 5 年間における掲載記事について, 基礎・運動器・神経系・内部障害・生活支援・物理療法・教育 管理の 7 つの専門領域に分類し,理学療法学データベースの キーワード検索にて論文数を確認した(表 2)。 PT では学術記事の総数は着実に増加しており,stroke およ び knee osteoarthritis に関する論文数の増加が大きい。また, cancer で検出された学術記事は比較的多い結果となったが,関 節軟骨や再生医療に関する論文数は非常に少ないことがわかっ た。APMR でも同様の傾向を示し,stroke を含む学術記事が 圧倒的に多く,cancer および knee osteoarthritis も比較的多く 検出されたが,再生医療に関してはごくわずかであった。 一方,理学誌では 5 年間の学術記事数(研究論文,短報,症 例研究,総説,講座,学術集会等の講演論文)は 590 編であり, 年間の発行部数を考慮すると PT と大きな差異はみられない。 しかし,研究論文に限定してみると,基礎系が圧倒的に多く, 臨床理学療法分野では神経系が多く,次いで生活支援,内部障 害の順であった。運動器分野では学会発表は多くなされている が,理学誌上では論文化されることが少ないと考えられた。な お,癌(がん,悪性腫瘍含む)に関する論文は 3 件で,再生医
療に関する論文は見あたらなかった。 以上,大変粗雑な分析ではあるが,今後は肺炎予防,癌医療, 再生医療など疾病構造の変化や医学の進歩に合致した理学療法 の検証が必要であろう。 理学療法の針路を問う あらゆる思考や学習あるいは研究活動は「問う」という態度 が原点となる。目の前の対象者に対し適切な理学療法を実践す る臨床場面においても,「問いかける姿勢」がなければよりよ い治療は成立しない。これまで述べてきた通り,理学療法を取 りまく様々な環境変化の中で,現在の理学療法士は大きな岐路 に立たされており,現実を直視し問い直すことが不可欠な姿勢 であろう。 半田協会長は「理学療法士のこれからを考える─超高齢化 社会と震災からの示唆─(日本理学療法士協会 広報誌「PT あ!」vol. 13:2012)」の中で,理学療法の近未来像について 大変興味深い論述を展開している。すなわち,今後の理学療法 士に求められることとして,障害予防と経済貢献,専門性の拡 充,大学教育,2 階級制度,社会的認知,課題意識を挙げ,い くつかの具体的な方向性を示している。すでに具体的な施策を 進めている事項もあるが,今後の理学療法の進むべき道筋(針 路)は以下の 3 点に集約されるだろう。1 つは理学療法を取り 巻く環境変化(人口減少社会,疾病構造の変化,医学・医療の 進歩など)を的確に捉え,近い将来をよく考え推測することで ある。2 つ目はその環境変化に対し,どのように貢献できるか を探り準備を進めることである。たとえば免疫力を高めるため の理学療法の研究を推進し,健康寿命の延伸や介護予防等に貢 献することが挙げられる。3 つ目として,理学療法が貢献して いるか否かの判断基準となる評価手法を開発・確立することで ある。リハビリテーション医療における評価尺度の使用頻度は 15 年間以上大きな変動がなく,順序尺度が多いといった特徴 があり,定量的評価法の開発も含め新たな評価法の開発が期待 されている35)。以上,既存の知識・技術に甘んじることなく, 現状のパラダイムを変えていくことが,理学療法の針路をより よい方向に向けていくのではないだろうか。最後に,Charles Darwin の言葉を引用し,この小論を綴じたい。 『最も強い者が生き残るのではなく,最も賢い者が生き延び るのでもない。唯一生き残るのは,変化できる者である。』 文 献 1) 厚生労働省ホームページ 平成 24 年人口動態統計月報年計(概数) の 概 況.www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai12/ dl/gaikyou24.pdf(2013 年 10 月 3 日引用) 2) 国立社会保障・人口問題研究所:日本の将来推計人口─平成 24 年 1 月推計の解説および参考推計(条件付推計)─人口問題研究資料 第 327 号,2013. 3) 島 崎 謙 治: 日 本 の 医 療 ─ 制 度 と 政 策, 東 京 大 学 出 版 会, 東 京, 2011. 4) 厚生労働省ホームページ 人口動態統計 年報 主要統計表第 7 表 1998 ‒ 2002 2003 ‒ 2007 2008 ‒ 2012
stroke Phys Ther 24 70 83
APMR 210 341 310
cancer Phys Ther 18 7 13
APMR 42 52 43
regenerative Phys Ther 0 0 1
APMR 0 0 1
knee osteoarthritis Phys Ther 5 17 32
APMR 21 24 53
total Phys Ther 499 578 828
APMR 1461 1691 1792
表 1 Physical Therapy 誌と Archives of Physical Medicine and Rehabilitation(APMR)誌の学術記事数
表 2 理学療法学における学術記事数 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 合 計 基 礎 26(14) 36(12) 42(10) 41(7) 26(10) 171(53) 運動器 12(1) 18(3) 21(2) 28(3) 23(0) 102(9) 神経系 20(4) 23(1) 24(9) 19(7) 17(7) 103(28) 内部障害 12(2) 12(3) 13(2) 18(5) 17(2) 72(14) 生活支援 11(3) 23(3) 14(2) 18(6) 13(2) 79(16) 物療 3(0) 3(0) 3(0) 5(0) 3(1) 17(1) 教育・管理 6(1) 6(0) 13(1) 14(1) 7(1) 46(4) 合 計 90(25) 121(22) 130(26) 143(29) 106(23) 590(125) カッコ内の数値は研究論文数を示す
www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii01/deth7.htm(2013 年 10 月 3 日引用) 5) 厚生労働省ホームページ 平成 23 年(2011)患者調査の患者調査の 概 況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/11/dl/kanja. pdf(2013 年 10 月 3 日引用) 6) 一般社団法人日本再生医療学会ホームページ.www.asas.or.jp/ jsrm/index.html(2013 年 10 月 3 日引用) 7) 厚生労働省ホームページ 革新的医薬品・医療機器・再生医療製 品実用化促進事業について.www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/ bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kakushin/index.html(2013 年 10 月 3 日引用) 8) 日本脳卒中学会ホームページ rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適 正 治 療 指 針( 第 二 版 ).http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA02.pdf (2013 年 10 月 3 日引用) 9) 平野照之:急性期血行再建療法の最新動向.リハ医学.2012; 49: 375‒378. 10) 北川泰久:脳卒中急性期治療とリハビリテーション.リハ医学. 2009; 46: 297‒305. 11) 岡田 靖,峰松一夫,他:rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の承 認後 4 年間の全国における実施状況調査─地域格差の克服に向け て─.脳卒中.2010; 32: 365‒372. 12) 中島隆宏,豊田一則,他:超急性期虚血性脳血管障害に対する rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法:効果と限界.脳卒中.2008; 30: 768‒771. 13) 阿部康二:脳梗塞の遺伝子治療・再生医療.医学のあゆみ.2007; 223: 449‒456. 14) 本望 修,大石美里,他:骨髄幹細胞を用いた脳梗塞の臨床応用. 脳 21.2009; 12: 318‒321.
15) Honmou O, Houkin K, et al.: Intravenous administration of auto serum-expanded autologous mesenchymal stem cells in stroke. Brain. 2011; 134: 1790‒1807. 16) 本望 修:再生医療 脳卒中.J Clin Rehabil.2008; 17: 673‒678. 17) 佐々木雄一,本望 修:脳梗塞に対する自己培養骨髄幹細胞の静 脈内投与.PT ジャーナル.2012; 46: 553‒556. 18) 朝日新聞大阪本社科学医療グループ:iPS 細胞とは何か 万能細胞 研究の現在.講談社,東京,2011. 19) 金子隆一,新海裕美子:この一冊で iPS 細胞が全部わかる.石浦 章一(監),青春出版,東京,2012. 20) Newton 別 冊 夢 の 再 生 医 療 を 実 現 す る iPS 細 胞( 第 2 版 ). ニュートンプレス,2012. 21) 海苔 聡,岡野栄之:iPS 細胞を用いた脊髄損傷治療.医学のあゆ み.2011; 239: 1428‒1433. 22) 海苔 聡, 収彦,他:iPS 細胞を用いた脊髄損傷治療.BRAIN and NERVE.2012; 64: 17‒27. 23) 松井 健,岡野栄之:神経再生の最前線.杏林医会誌.2012; 43: 29‒34. 24) 西村空也,小林喜臣,他:神経再生 iPS 細胞を用いた脊髄再生治 療開発.Phama Medica.2013; 31: 33‒36.
25) Tsuji O, Miura K, et al.: Therapeutic potential of appropriately evaluated safe-induced pluripotent stem cells for spinal cord injury. Proc Natl Acad Sci USA.2010; 107: 12704‒12709. 26) 向野雅彦,里宇明元,他:再生医学とリハビリテーション.リハ 医学.2005; 42: 702‒707. 27) 向野雅彦,里宇明元:再生医学へのリハビリテーションの貢献の 可能性.J Clin Rehabil.2008; 17: 1183‒1186. 28) 脇谷滋之:関節軟骨再生の現状と将来.YAKUGAKUZASSHI. 2007; 127: 857‒863. 29) 杉田憲彦,中村憲正:アスリートの関節軟骨損傷,その病態と治 療の overview.臨床スポーツ医学.2013; 30: 303‒308.
30) Ochi M, Uchio Y, et al.: Current concepts in tissue engineering technique for repair of cartilage defect. Artif Organs. 2001; 25: 172‒179.
31) Ochi M, Uchio Y, et al.: Transplantation of cartilage-like tissue made by tissue engineering in the treatment of cartilage defects of the knee. J Bone Joint Surg Br. 2002; 84: 571‒578.
32) 亀井豪器,安達伸生,他:アスリートの関節軟骨損傷に対する自 家培養軟骨細胞移植術.臨床スポーツ医学.2013; 30: 327‒332. 33) 厚生労働省ホームページ ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する 指 針( 平 成 25 年 厚 生 労 働 省 告 示 第 317 号 ) 平 成 18 年 7 月 に 制 定,平成 22 年に全部改正,平成 25 年に全部改正─厚生労働省 ヒト幹細胞を用いる臨床研究について.www.mhlw.go.jp/bunya/ iryou/iryousaisei.html(2013 年 10 月 3 日引用) 34) 平田和彦,安達伸生,他:関節軟骨損傷からのスポーツ復帰─リ ハビリテーション─.臨床スポーツ医学.2013; 30: 361‒365. 35) 佐藤隆一,才藤栄一,他:リハビリテーション関連雑誌における 評価法使用動向調査─ 8 ─.リハ医学.2012; 49: 57‒61.