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測定精度の改善に向けて

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 765 ∼ 766 頁(2015 年)測定精度の改善に向けて. 765. ワークショップ. 測定精度の改善に向けて* 山 崎 弘 嗣**. る。いわば測定の精度指標である。もちろんこれは検査の感度. はじめに. sensitivity のことではない。たとえば,ゴニオメーターを用い.  測定(観察)は科学的思考の基盤である。理学療法士の科学. た肩関節回旋角度測定の「私の」MDC が 3°であれば,変化量. 的思考は日々の幅広い臨床推論を支えると思われる。科学的根. 5°は変化したと判断するのに適当な量である。しかし,実際に. 拠に基づくプロとしての態度には自然科学的な分析的視点が. このような判断基準を,いつでもどこにでも誰にでも適用して. 伴っていてよい。自らの完成度を高めるべく未知なる細部と向. いいか,つまりどこまで一般化していいかについては,統計学. かい合う。. 的な理論背景や実験計画についての配慮を含めなければいけ.  ただ,なにをすればいいかについては誰も教えてくれない。. ない。. 手探りで詰めて進むほかない。理学療法基本評価検討ワーキン.  具体的にいえば,MDC(95%区間での値)は信頼性指標と. ググループが今回提案した 2 種類の指針は,理学療法士による. しての級内相関係数 ICC を用いて,次式のように計算できる 2)。. サイエンスの完成度を高めることを期待している。この方針に (1). 沿って,完成度を高める取り組みをすすめるなら,私はどうす るか。  地味で拍子抜けだが,結論を先取りすれば「構え」である。.  SD は標準偏差。ICC は複数回の測定値のデータセットの分. 自らの動く身体に向かい合う人間科学的な構えがいる。的確な. 散分析から算出され,反復した結果が一貫・一致する程度を表. 身体づかい・言葉づかい・心がまえが先導役であろう。. す。検査者内信頼性(ICC (1,k) )と検査者間信頼性(相対信頼 性, 多 く は ICC (2,k) ) と が あ る が, ど ち ら の ICC を 用 い て. 精度指標と技能. MDC を算出するかは目的による。研究論文を読み方の基本に.  たとえば,私がゴニオメーターで計測した肩の外旋角度が以. なるが,データセットを得るための母集団,測定者の特性,測. 前より 5°大きいと観察したとする。これには測定誤差と外旋. 定機器,測定方法などが相関の強弱とその解釈にかかわってい. 可動域の増大とが混在すると考えて両者の程度問題を論ずるの. る。だから「私の」精度を知るには「私の」身体を使って得. が,釈迦に説法ながら,測定の信頼性 reliability の視点である。 「外旋可動域が増大した」と判断してよいかどうかの詰めるべ. られた測定結果 ICC (1,k)をもとにしなければいけないことに なる。. き問題以前に信頼性指標の理論背景を調べるはめになると,一.  一般化のあやうい例を挙げよう。 「2 分間歩行テストの MDC. 向に問題が片づかない。程度問題を扱うための数論的な安心は. は 42.5 m である 3)」や「高齢者の片足立ち保持時間の MDC. いずれ得るとしても,かといってたとえば「その程度の外旋が. は 24.1 秒である 4)」という報告がある。鵜呑みにして,私が. ADL 上どのように問題か」と,より複雑な意味づけの問いに. 片足立ち保持時間を測定するときには 24.1 秒以内の変化は誤. 置き換えてしまうと,ここでの関心は埋没してしまう。. 差範囲内であると,直ちに判断してよい,のではない。その前.  今この判断を下すために信頼性よりもピンとくる指標が. にその研究報告が今の「私の」測定に拡張して解釈できる内容. ある。測定の反応性 responsiveness である. 1). 。「変化を捉え. を備えている論文であるかを,自分で読んで確かめる必要があ. られる最小の変化量」という意味の最小可検変化量 minimal. る。. detectable change:以下,MDC(あるいは minimum detect-.  「私の」精度を知りたいときには絶対信頼性 5)(測定の標準. able difference, minimal important difference な ど と も い う ). 誤差 standard error of measurement:SEM)や測定の技術誤. を介して,先のような判断基準を理解することがある。MDC. 差 technical error of measurement:以下,TEM を求めるこ. が小さいほど,その測定が対象の特性変化を鋭敏に捉えられ. とがある 6)。. *. Attitude for Improvement of Measurement Accuracy 国立研究開発法人理化学研究所脳科学総合研究センター研究員 (〒 463‒0003 愛知県名古屋市守山区下志段味穴ヶ洞 2271‒130) Hiroshi Yamasaki, PT, PhD: RIKEN Brain Science Institute キーワード:測定,精度,構え. (2). **.  ここで i は対象者番号,xi1 ‒ xi2 は 2 回ずつ測定した値の差,.

(2) 766. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. N は対象者数である。これを,すべての計測値の平均値 x– で.  客観的であっても曖昧な測定値に基づいていてはなおさら判. 割って,% TEM を算出することもある。. 断は怪しくなる。いい加減な測定と準拠枠のない主観的判断の 連続では心がまえが疑わしい。臨床の感覚からすれば教科書的 (3). で「特殊」な検査測定の「曖昧」な結果から正しい判断を下そ うとするあの強迫観念的な苦しさは実習生のときに体験してい.  これを用いると測定技能のレベルを表現すことができる。た とえば Perini ら. 7). によれば皮脂厚計測の初心者は 7.5%以下,. る。自然科学の文脈の中だけにいると客観的であるためには測 定(特定しうること)が必要と勘違いしてしまうが,人間科学. エキスパートは 5%の% TEM のスキルが求められる。また. への心配りをもって,客観性と正確性とをきちんと分けて扱い. WHO によると周径計測のリファランスとなるのは,頭部周径. たいものである。現実の臨床教育では状況に応じた正確な測定. でいうと 0.16 cm の TEM となる精度の技能をもった人達の測. と客観的判断の組み合わせの身体づかい・言葉づかい・心がま. 定値である. 8). 。上手な人は細かい部分を扱えることを明示して. いる。このような指標を用いて自己の測定精度を把握できると 知っておくとよい。信頼性の相関係数を用いるよりも直接的に (身体感覚的に) ,技能(精度)を理解できてわかりやすいと 思う。. えを会得する,と説明できる状況でありたい。. ま と め  理学療法基本評価検討ワーキンググループの提案指針の方向 性で,教育・習得できる技能としての測定精度に関心を向けた.  過去の研究報告の一部を眺める限りでは,関節可動域測定 の MDC についてはモーションキャプチャシステムやスマー トフォン等のポータブルデバイスを用いた方法についての報 告があるが 9),ゴニオメーターを用いた場合の報告はあまり ‒12). ない。徒手筋力計を用いた筋力測定 10. やパフォーマンス測. 定 13)14)に比べて,関節可動域は関節可動域「テスト」として, 痛みが伴うか否か,制限要因は同定できるか否かという定性的 な診断学的推論にウェイトが置かれ,改善の指標として用いる ことが少ないのかもしれない。とはいえ 1°刻みでの角度測定 の可能性の考慮さえ放棄していいだろうか。定量的指標として のサイエンスの余地がまだあると思われる。  繰り返しになるが,過去の研究論文にある MDC や TEM の 値を解釈する場合は,細部にわたって理解する構えが必要にな る。その構えは身体づかいのことだから練習すれば上手にな る。理学療法士によって行われる何事かが科学的でなくてよい なら,正確性や客観性について考える必要もないし,屋外歩行 訓練を見守る理学療法士の歩き方のほうが妙に気になってもそ れは忘れていい。. 正確性と客観性  「正確に測定し,客観的に判断する」現在のところ,これか ら実践するのがよい。これを逆にして「客観的に測定し,正確 に判断する」という場合,後半に苦しい息切れが残る。日常の 数々の自己決定の「正確さ」はいわずもがな。むろん前半の客 観的測定については,これまでの理学療法基本評価検討委員会 が独自に保証しようと試みてきたことであり,正確な測定の条 件として大事なことである。ただ後半部分はリファランスとの 量的比較ができないうちは「かけ声」にすぎない。  客観性と正確性は同じではない。ジオルジは次のように述べ ている 15)。「客観性に到達するためには,主体の側にある種の 態度・構えが必要とされる…主体は客観的構えをとるとき,自 分に〔そのとき〕現れ,与えられるどんなものによって導かれ ることをも許す(p. 152)…客観的であるということは,曖昧で あったり,特殊であったりすることがありうる(p. 153)…客観 性は準拠枠に関連しているのであって,必ずしも特定しうるこ とと関連しているのではない(p. 155)」. 「構え」の必要性についての私見を述べた。. 文  献 1) Bohannon RW: Responsiveness of hand-held dynamometry to changes in limb muscle strength: A retrospective investigation of published research. Isokinet Exerc Sci. 2009; 17: 221‒225. 2) Haley SM, Fragala-Pinkham MA: Interpreting Change Scores of Tests and Measures Used in Physical Therapy. Phys Ther. 2006; 86: 735‒743. 3) Bohannon RW: Two-minute walk test performance by adults 18 to 85 years: Normative values, reliability, and responsiveness. Arch Phys Med Rehabil. 2015; 96: 472‒477. 4) Goldberg A, Casby A, et al.: Minimum detectable change for single-leg-stance-time in older adults. Gait and Posture. 2011; 33: 737‒739. 5) Wagner JM, Rhodes JA, et al.: Reproducibility and Minimal Detectable Change of Three-Dimensional Kinematic Analysis of Reaching Tasks in People With Hemiparesis After Stroke. Phys Ther. 2008; 88: 652‒663. 6) Harris EF, Smith RN: Accounting for measurement error: A critical but often overlooked process. Arch Oral Biol. 2009; 54S: S107‒S117. 7) Perini TA, de Oliveira GL, et al.: Technical error of measurement in anthropometry. Rev Bras Med Esporte. 2005; 11(1): 86‒90. 8) WHO Multicentre Growth Reference Study Group: Reliability of anthropometric measurements in the WHO Multicentre Growth Reference Study. Acta Peadiatrica. 2006; 450: 38‒46. 9) Shin SH, Ro DH, et al.: Within-day reliability of shoulder range of motion measurement with a smartphone. Man Ther. 2012; 17: 298‒304. 10) Bohannon RW: Minimal detectable change of measures of knee extension force obtained by hand-held dynamometry from five patient groups: A systematic review. Isokinet Exerc Sci. 2010; 18: 133‒135. 11) Bohannon RW: Minimal detectable change of knee extension force measurements obtained by handheld dynamometry from older patients in 2 settings. J Geriatr Phys Ther. 2012; 35: 79‒81. 12) Ieiri A, Tsushima E, et al.: Reliability of measurements of hip abduction strength obtained with a hand-held dynamometer. Physiother Theory Pract. 2015; 31: 146‒152. 13) Donoghue D, Stokes EK: How much change is true change? The minimum detectable change of the Berg Balance Scale in elderly people. J Rehabil Med. 2009; 41: 343‒346. 14) 下井俊典,谷 浩明:最小可検変化量を用いた 2 種類の継ぎ足歩 行テストの絶対信頼性の検討.理学療法科学.2010; 25: 49‒53. 15) アメディオ・ジオルジ,早坂泰次郎,他(訳):現象学的心理学 の系譜─人間科学としての心理学─.勁草書房,東京,1981,pp. 150‒155..

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参照

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