アニメの聖地巡礼のための写真撮影支援システムの検討
越後宏紀
†小林稔
† 概要:近年国内では聖地巡礼と呼ばれるアニメやドラマ,映画などの舞台となった場所に行く行為が流行している. 聖地巡礼をしている人は舞台となっている場所に行くと,映像で映し出されているカットと同じ位置,同じ画角で写 真撮影をすることがある.そこで本稿では,聖地巡礼している人の写真撮影のしかたについての調査と分析,撮影手 段の比較実験を行い,聖地巡礼における写真撮影を支援するシステムについて検討する. キーワード:撮影支援システム,インタフェース,ナビゲーションExamination of Photographing Support System for ‘Seichi-junrei’ of
Animation
HIROKI ECHIGO
†MINORU KOBAYASHI
†Abstract: The act of going to the place which has been a stage of the animation, the TV drama or the movie is called “Seichi-junrei”, and it is recently in fashion. Some of the people enjoying “Seichi-junrei” take pictures at the same location and the same angle of view as the scene appeared in the movies. In this study, we investigate the way of taking pictures by those people, and design the support tools to enrich such activities. In this article, we show our first design, which uses the translucent picture overlay technique, and the preliminary test results.
Keywords: photographing support system,interface,navigation
1. はじめに
日本では,アニメやドラマ,小説,映画などの舞台となっ ている場所を聖地と呼び,その場所に行くことを「聖地巡礼」 と呼んでいる.この「聖地巡礼」という言葉は 2016 年新語・ 流行語大賞トップ 10 に入賞しており,近年日本で注目され ている.聖地巡礼により地域活性化に成功した例もあるほ どである[1].聖地巡礼をする際,事前にアニメやドラマの スクリーンショットや映画のガイドブックなどを入手し, その画像や写真をもとに写真撮影する人を見かけることが 多い.そこで本研究では,聖地巡礼する人の写真撮影のしか たについて調査し,その調査結果をもとに聖地巡礼におけ る写真撮影支援システムを開発する検討を行った.2. 関連研究
聖地巡礼をテーマとしている研究はすでに行われている. たとえば,山崎らは聖地巡礼する旅行客を対象として観光 支援アプリケーションを試作した[2].アプリケーションの 行動履歴を記録する方法について議論しており,GPS を用 いてログを記録する機能やチェックイン機能を実装してい る. 加藤らは観光客にアプリを利用して写真撮影をしてほし いということからフォトラリーを用いた観光支援システム † 明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科Department of Frontier Media Science, Faculty of Interdisciplinary Mathematic Science at Meiji University
を提案した[3].フォトラリーを用いることで観光地を巡る 観光客視点の情報を知ることができ,フォトラリーから観 光エリアの新たな魅力の発見や発信につながるということ を明記している. 聖地巡礼をメインとしたアプリケーションもすでに存在 しており,舞台めぐり[4],にじたび,聖地巡礼 S,アニメス ポットといったものがある.この中でも舞台めぐりはアニ メの作品ごとに選択でき,地図とそのアニメのシーンが同 時に表示されるマップをもとに聖地巡礼できる.そのうえ アプリケーション内で撮影出来ることから,これらのアプ リケーションが実際の聖地巡礼においてどれほど利用され ているのかについても調査の対象とした.
3. 聖地巡礼の現状調査
聖地巡礼する人の写真撮影のしかたについて調査するた めに,聖地巡礼をしたことがある人にアンケートをとった. 聖地巡礼をしたことがある人は聖地で撮った写真を SNS に あげることが多いと考え,アンケート内容を Google フォー ムに記入し,そのリンクを Twitter で拡散した.アンケート 内容は以下のとおりである. (1) アニメやドラマ,映画などの舞台となった場所に旅行 したことがありますか. (はい・いいえ)(2) 聖地の場所(アニメやドラマ,映画などの舞台になった 場所)で写真を撮影したことがありますか. (はい・ いいえ) (3) アニメやドラマのスクリーンショットや冊子などとカ メラ(スマホカメラ等も含みます)を両方持って撮影し たりしますか. (はい・いいえ) (4) 聖地巡礼の際に持っていくものはありますか.(複数回 答可) (スマートフォン・タブレット・カメラ・アニ メ等のスクリーンショット・地図・冊子) (5) 聖地巡礼の際に使用するアプリはありますか.(ない場 合は無記入で大丈夫です.) (舞台めぐり・にじたび・ 聖地巡礼 S・アニメスポット・その他) アンケートへの信頼度を高くするために,アンケートに 「(1)アニメやドラマ,映画などの舞台となった場所に旅行 したことがありますか」という問いを最初に用意し,「はい」 と答えた人のみがその後のアンケートに進めるように設定 した.アンケートをツイートしてから 24 時間以内に回答し, なおかつ最初の問いを「はい」と答えた 73 名を今回の調査 の対象とした.(2)で「いいえ」と答えた人は(3)(4)の問いに 答える必要がないため,(2)で「はい」と答えた人のみ(3)(4), の問いに答えてもらうように設定した.
4. 調査結果と考察
4.1 アンケート調査結果 アンケート調査を行った結果,(2)で「はい」と答えた人は 73 名中 69 名であった.その中で(3)を「はい」と答えた人は 35 名,「いいえ」と答えた人は 34 名であった(図 1). (4)では,スマートフォンを持っていく人が 69 名中 66 名 であり,次いで冊子(パンフレット)が 29 名,アニメ等の スクリーンショットが 28 名となっていた(図 2). また,スマートフォンのみ持っていく人が 17 名に対し, スマートフォンとアニメ等のスクリーンショットを持って いく人が 26 名,スマートフォンと冊子を持っていく人が 28 名であった.スマートフォンとアニメ等のスクリーンショ ットまたは冊子を持っていく人は 40 名となっていた. (5)は「舞台めぐり」と答えた人が 4 名であり,それ以外 の人はどれも使っていないということであった. 4.2 調査の考察 アンケートの(3)(4)の回答より,写真撮影をする際にスマ ートフォンとアニメ等のスクリーンショットまたは冊子と いった 2 つ以上のものを持つ人は一定数いることが分かっ た.しかし,写真撮影をするときに 2 つ以上持つというの は,両手がふさがってしまい撮影するのが難しく大変であ ると考えられる.そこで提案システムでは,アニメ等のスク リーンショットや冊子に掲載されている画像などを表示さ せつつ,カメラ機能を使用できるようにする.また,(4)より 97.1%の人がスマートフォンを持っていくことが分かった ため,提案システムはスマートフォンで使用できるシステ ムにする.(5)の結果より,ほとんどの人が既存のアプリケ ーションを用いずに聖地巡礼していることが分かった.こ の理由として,回答者が「舞台めぐり」に登録されているア ニメ以外の作品の聖地巡礼をしていることが考えられる.5. 提案システムの検討
5.1 撮影手段の検討 アンケート結果の考察よりスマートフォンでカメラ機能 とアニメ等のスクリーンショットを同時に表示させるシス テムを提案する.その際,どのようにアニメ等のスクリーン ショットを表示すれば写真撮影をする人が撮りやすいのか 検討した.舞台めぐりでは,聖地として選択しているアニメ のスクリーンショットを画面の端に小さく表示させながら 撮る撮影手段が用いられているが,同じアングルや画角を 考えるとアニメ等のスクリーンショットを半透明にして表 示させた方が撮りやすいのではないかと考えた.そこで,シ ールにアニメ等のスクリーンショットを印刷し,そのシー ルをカメラ画面に貼ることで,提案手法のプロトタイピン 図 2 (4)のアンケート結果 Figure 2 Result of questionnaire No.4図 1 (3)のアンケート結果 Figure 1 Result of questionnaire No.3
グを行った.また, (a) カメラとアニメ等のスクリーンショットの両方を持っ ている場合 (b) 半透明のアニメ等のスクリーンショットを表示する場 合 (c) アニメ等のスクリーンショットをカメラの端に小さく 表示させる場合 以上の 3 種類を撮影手段の候補とした. 5.2 撮影手段の実験 前節であげた 3 種類の撮影手段を用いて撮影を行い,撮 影のしやすさを比較する実験を行った. アニメの聖地巡礼をする際,表示するアニメの画像は人 が描いて制作されているため,実写と全く同じアングルや 画角であることは少ない.そこで,使用する画像が実写画像 の場合とアニメ等の描かれた画像の場合も比較することと した. 実験に使用するものは iPhone 5S のカメラ機能,アニメ等 の画像を印刷した半透明のシール,同じ背景をカメラサイ ズの 4 分の 1 の大きさにした不透明のシールである.この 実験では,実写の画像として明治大学の中野キャンパス 11 階から撮影した写真を用いる.また,その写真を Adobe Photoshop を用いて絵画風に加工した画像をアニメ等のスク リーンショットの代わりとして用いることとした. 実験は実験参加者に実写の画像と加工した画像のそれぞ れを用いて,横に画像を持って両手で撮影(図 3),半透明の シールを貼って撮影(図 4),小さい大きさのシールを左下に 貼って撮影(図 5)の 3 種類の方法で,画像とできる限り近い 写真を撮影してもらう.すなわち,実験参加者は画像 2 種類 ×撮影手段 3 種類の計 6 回撮影することとなる.実験参加 者は 20 代学生の男女 10 名である.撮影後,それぞれの撮 影手段について(撮りやすかった・少し撮りやすかった・少 し撮りにくかった・撮りにくかった)の 4 段階で評価しても らった.また,実写と加工した画像のそれぞれにおいて 1 番 撮りやすかった撮影手段を選んでもらい,最後に撮影した 時に気をつけたことと感想を書いてもらった. 5.3 実験結果と考察 実験結果を表 1 に示す.実験は①と④が図 3 のように横 に画像を持って両手で撮影,②と⑤が図 4 のように半透明 のシールを貼って撮影,③と⑥が図 5 のように小さい大き さのシールを左下に貼って撮影している.4 段階の評価をも とに「撮りやすかった」を 4,「少し撮りやすかった」を 3, 「少し撮りにくかった」を 2,「撮りにくかった」を 1 とし た.撮影手段によって実験参加者 10 名の平均をそれぞれと ったところ,実写画像と加工画像ともに半透明のシールを 貼った撮影手段の場合が最も値が高く,次に横に画像を持 って両手で撮影した手段の場合となり,小さいシールを左 下に貼って撮影した手段の場合が最も値が低かった.最も 撮りやすかった撮影手段の選択については,実写画像にお いては半透明のシールを貼った撮影手段が最多で 8 名が選 択し,加工画像においては半透明のシールを貼った撮影手 段が最多で 7 名が選択した.実写画像と加工画像ともに,小 さいシールを左下に貼って撮影する手段を最も撮りやすい と選んだ人はいなかった.実写画像に比べて加工画像のほ うが分散の値が大きいのは,加工画像は実際の風景と一致 図 3 横に画像を持って撮影 Figure 3 Photograph with an image aside
図 4 半透明のシールを貼って撮影 Figure 4 Photograph with a semitransparent sticker
図 5 小さいシールを左下に貼って撮影 Figure 5 Photograph with a small sticker in the lower left
表 1 実験結果 Table1 Result 実写 加工 実 験 参 加 者 ① 横 ② 半 透 明 ③ 左 下 1番撮りやすい ④ 横 ⑤ 半 透 明 ⑥ 左 下 1番撮りやすい A 3 2 2 ① 4 3 2 ④ B 3 3 1 ① 3 3 1 ④ C 3 4 2 ② 3 4 2 ⑤ D 1 4 1 ② 2 3 1 ⑤ E 2 2 1 ② 2 1 1 ④ F 1 4 1 ② 1 4 1 ⑤ G 2 4 1 ② 2 4 1 ⑤ H 1 3 2 ② 1 2 2 ⑤ I 2 4 1 ② 2 4 1 ⑤ J 1 4 2 ② 1 4 2 ⑤ 平 均 1.9 3.4 1.4 2.1 3.2 1.4 分 散 0.69 0.64 0.24 0.89 0.96 0.24 しないため,撮りやすいと感じる感じ方にばらつきが生じ たのではと考えられる. 撮影する際に気をつけたことについては,建物の位置を 基準にしている人が 8 名であった.加工画像においては,な るべく雰囲気が近いところで撮るように気をつけたという 意見があった.感想では,半透明の撮影手段が見づらいとい う意見もあった一方で半透明の撮影手段が 1 番見やすかっ たという意見もあった.この意見の差は,半透明のシールを 用いて撮影すると,実際の風景と全く同じように重なると 撮りやすいと感じやすく,少しのずれが生じると見づらい と感じる人もいるのではないかと考えられる. 実際に実験参加者が撮影した画像を図 6,7 に示す.図 6 のように,横に画像を持って撮影したときの画像(図 6①) は左に傾いている.片手でスマートフォンを支えていて,バ ランスが取れなかったのではと考えられる.
6. まとめと今後の展望
本研究では,聖地巡礼する人の写真撮影のしかたについ て現状を調査した.また,それを支援する撮影手段について, シールを用いたプロトタイピングを行った.今後この調査 をもとに,聖地巡礼における写真撮影支援システムを開発 する.提案するシステムは聖地巡礼時に使用できるように スマートフォンで利用できるアプリケーションとする.カ メラ機能ではアニメ等のスクリーンショットを半透明に表 示できるようにする(図 8). 聖地巡礼中の画面は舞台めぐりを参考に地図を表示する とともにその聖地のスクリーンショットを小さく表示する. また,位置情報を取得しその聖地の場所に近づくと通知さ れるようにすることで,スマートフォンを見ずに聖地巡礼 を楽しむことができると考えられる.加藤らのフォトラリ ーを用いたアプリケーションや実験結果を参考に,実際に 聖地巡礼中に撮った写真を SNS 等で投稿できるように設定 する.その際,現在 Twitter や Instagram,Facebook などの SNS で撮った写真とアニメ等のスクリーンショットを一緒 に投稿している人を見かけるため,撮った写真とアニメ等 のスクリーンショットを一緒に投稿できるように設定する ことで,提案システムのユーザが投稿しやすくなるのでは と考えられる. 提案システムを実装した後,山崎らの実験を参考に聖地 巡礼の検証フィールドを設け,提案システムの実用性と利 便性,システムを使用したユーザの行動を調査していきた いと考えている. 謝辞 アンケート及び実験にご協力頂いた皆様に,謹ん で感謝の意を表する.参考文献
[1] 永田尚三. アニメの「聖地巡礼」を活用した地域活性化につ いての一考察.武蔵野大学政治経済研究所年報,2010,p.53-75. [2] 山崎壮平,田島孝治. 地域観光用アプリケーションに適した 行動履歴記録方式の検討.エンタテインメントコンピューテ ィングシンポジウム,2016,p.277-278. [3] 加藤福己,長尾聡輝,浦田真由,安田孝美. フォトラリーを 用いた観光支援システムの提案と開発.社会情報,2013, p.195-198. [4] “行けるアニメ!舞台めぐり”. https://www.butaimeguri.com/,(参 照 2016-12-26). 図 8 提案システムの構造 Figure 8 Structure of the suggestion system図 6 実写をもとに撮影した実験結果 Figure 6 Result of having token based on real photograph
図 7 加工画像をもとに撮影した実験結果 Figure 7 Result of having token based on processing photograph