固体表面研究用オージェ電子分光装置の製作
西 守 克 己*。 徳 高 平 蔵*・ 足 立 純 一*・ 高 原 博 道*。 奥 井 勇*(1972年 10月 31日 受理)
Augcr Elcctron SpectrOscopy Apparatus for Surfacc Studics
by
Katsumi,NIsHIMORI,*Heizoh,ToKUTAKA*;JuniChi,ADACHI*;
Hiromichi,TAKAHARA*,Isamu,OKUI*;
(Received October 31 1972)
Abstract
A retarding methOd using LEED optics has been apPlied tO detect Auger elec― trOns emitted frOm a sOlid surface, SecOndary electron emissiOn current gathered in a c01lector of a LEED Optics has been differentiated tO get mOre clear Auger electrOn signals, Details of the abOve system are described in this Paper・ Satisfa―
ctOry results of Auger sPectra frOm surfaces of KCl and MoS2 Crystals are 21so presented. 1・ ま え が ぎ 腐食作用
,触
媒反応,熱
イオ ン放出,また薄膜のエ ピ タキシャル成長,そ
してもっと広 くには,半
導体界面 の 問題など,固
体表面及びその周辺に付随 した問題は非常 に多い。このような意味で団体表面を研究する必要性は ますます増えてきた。特に固体表面の清浄な数原子層を 調べ るには, 近年の超高真空装置 (∼10-10 tOrr)の 発 達で容易に可能 とな った。 この目的のために開発された 技術のうちで,LEED(低
速電子線回折)は
団体表面研 究に大変 よく利用されてい る。 しか し, LEED(Ger_
merl);Estrup and McRae2))は,
表面 の数原子層を みるのに適 しているが,た
だ試料が単結晶である場合の み,回
折像が見 られ るので応用範囲にはおのず と制限が ある。そこで,団
体表面 の化学分析が同時にできれば, 表面不純物 とLEED回
折像 との対応 もつきやす くなる。 この表面の化学分析の手段としてよく使 わ れ て いるの*電
子工学科 * Department of electrOnics は,オージェ電子分光(AES)で
ぁる。 この報告においては,まずオージェ電子分光の原理 と 装置の概略を述べ,次
に我 々が製作した装置の詳細及び それを使 ったい くつかの測定例をあげる。2.ォ
ージェ電子分光の原理と装置の概略 原子 内の内殻 レベルにある電子の空孔が生 じた時, よ り高い レベルにある電子が,そ
の空孔をうめてその差の エネルギーは電磁波放射 として飛び出す。 これが普通の 光子放 出の過程である。オージュ電子放出とは,この電 磁波放射のない遷移のことで,空
孔をうめた時にできた 余剰の工赤ルギーをよ り高い レベルにある電子がもらっ て,原
子か ら飛び出すことをい う。 このためオージェ電 子は原子の固有のエネルギー レベル差によって飛び出す エネルギーがきまる。故にオージェ電子のエネルギー分 析をす ることによって,そ
れをもた らす原子を同定す る ことができる。表面化学分析のためのオージェ電 子 分 光 法は
,最
初 Lander3)に より指摘されたが, HariS4)及
びPalm― berg5)ら が二次電子エネルギー分布曲線を 電 子 回路的 に微分する方法を発案 しオージェ電子検出をより容易に した。LEED装
置を使 ったオージェ電子分析器では, reta―rding g
dに
Eボル トの電圧をかけると, E電
子ボル ト以上の電子が全部通過 し,ス ク リー ン コ レ クターに は, Emaxl cEJ=∫
EN
σ
)dE
側
の電子が単位時間内に集め られることになる。もちろん は,式の Emaxは 弾性散乱 された電子のエネルギー,す
な わち一次入射電子のエネルギーに相当す る。 この装置の 特徴 はLEED装
置 と併用できる点にある。今,retardi ng gridにE ttk sin ωtの電圧をかけた場合, コレク ター(LEEDの
スクリー ン)に
集 まる電流は,1(E+ksin
ωt)=ェ (E)十 N(E)k sin
ωt十弓酔 停上弓 劾
十 ・…………
(21
とかける。 この式か らも分るように,モ
ジュレーシ ョン 電圧 としてkSin ωt(k≪E)を
retarding‐gidに
かけた時,出力に現われる電流の2の に比例 した成分をとり 出せば
,そ
れはdN(E)/dEに
比例 した分を見ているこ とになる。そのようすをFigユ に示す。 この原理に基いて考案 された,オージェ電子を検出す るための, LEEDと
併用できるように したAES装
置 の主 な構成 としては,一
次電子 ビームを試料に照射する ために試料 ボックス前におかれたAuger Cun,試
料か らの二次電子を分光す る前述の retardingグリッド, その retardingグ リッドにモジュレーシ ョン電圧をか けるためのモジュレーシ ョン回路, LEED)ヒ
学系のス ク リー ンコレクタ…に集め られた二次電子中のオージェ 電子による微小電流を 検 出 す る た め の 同調増幅器,Filter及 びLock‐in‐
Ampが
ぁ り,
最後に Lock‐in―AmPか
らの出力を記録するX一
Yレコーダーか ら成 り 立 っている。 しか し, AES分
光法 はごく最近数年間の うちに急速に発展 してきたもので,実
際に設計,製
作す る際,個
々の部分の構成について詳 しく技術的に記述 し た文献 はほとんど見当 らない現状であるため, 自作する にはきわめて容易でない。次に,我
々が製作したAES
装置について,そ
れ らを詳 しく個 々に述べ ると同時に, 技術的に改良及び工夫 した点についても述べ る。3,LEED/AES装
置 我 々が製作 した装置をFig.2に
示す。 この装 置 は Gal10n et.al.6)に よるものが原形である。 この装置 の特徴は,Palmberg5)ヵf提案 したような単なる抵抗負 荷で とるのと違 って,Fig.2の
ように同調回路で2ω の成分を選び出しす ぐプ リアンプで初段増幅をしている ことである。 この方式では ω に高い周波数を選ぶこと ができる。個 々の装置については,叩丁
F ャ.﹁ \ ︵口 ︶ Z 弓 ︵ ︵口 ︶ Z N(E)Fig。 l The relatiOn between an secondary electron energy distribution curve No)and
its differential dN ω)/dE, whose electrons are eコ nitted froコn solid surface.
Fig.2 A bloctt diagram of AES apparatus, (i)モ ジュレーシ ョンー フィルター回路
前述の retardingグ リッドに ωに相当する弁別周波 数 だ
=2.6kHzを
供給す る回路で ,発 振器の歪による2£鳥 取 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第
3巻
第2号
結合で Fetardingグ リッドに連結 してい る。他方
,発
振器か らの こ周波数を全波整流 して倍周波数にした後ireference周 波数 としてLOck‐in‐
Ampに
供 給 している。 (ii)プ リア ンプ(前置増幅器) プ リア ンプに使 った回路を
Fig.3に
示す。 これは利 得26dBの
イ ンピーダ ンス変換回路で,
高入カイ ンピ ーダ ンス 300MΩ 程度をとれるようにし,
出カイ ンピ ーダ ンスは30kΩ 程度である。 2SK15Y 2SC373 2SC373Fig。 3 A circuit for an ね
npedance transducer
and a pre― amplifier.
(iii)フ ィル タ…回路 (Notch Filter)
フィル ターには Cal10n et.al.6)と 同 じように受動 フ ィル ターを使用 した。その回路設計に際 して我 々は基本 周波数fを 2.6kHzにとってい るか ら, 2.6kHzで急激 な減衰極をもち
,
かつ電源回路か らの60Hzぁ
た りの 低周波分をカ ットオフできるように し, 必要 とす る5,2kHz(2f周
波数)で
は,ほ
とん ど減 衰 しない ように 工夫 した。即ち,2.6kHzを共撰周波数 とし, 遮断周波 数を 3.25kHzと した誘導並列m型
高域β波器(m=o,6
となるのでβ波特性はシャープである)を
前段部に三段 重ね,さ らに′波特性を改善するため定K型
高域β波器(K=lkΩ
)を
2段,そ
して最終段に前 と同じ誘導並 列m型
高域β波器を備え, lkΩ イ ンピーダ ンス整合を とってい る。その回路図と′波特性をFig,4と
Fig.5 に示す。この Filterの 使用に よりFig.5ょ りわか る ように周波数2.6kHzで60dBの
減衰が得 られる。(iV)Phase sensit
e Detector(PsDと
以下 呼ぶ)これ は市販 のものでな く
,著
者 らの ところでIC演
算 増幅器 を使 って製作 した。7)市販 のもの と違 って使用同 調周波数を 宅£の5,2kHzに固定 したので,Q値
を市販Fig。 4 A passive filter whose frequeny char―
acteristic is shown in figure 5, which is specially designed in Order to attenuate f
(2.6KHz) 1 Vout Vin 10 1 10-4 5。2K乳 2.6KHz 工
V 1 2 3 4 5 KHz
Fig.5 The frequency passing characteristic of the passive filter shown in figure4
のもの(例えば
NF社
*製Q∼3ぐ らい)と比べて37ぐらいにすることができた。また安価 (およそ 5万 円以下
)で
製作できたことも特徴である。その他の回路のデー夕として,
O信
号系特性 (Pre_Ampと Tuned‐Amp)
利得 95.4dB(5.2kHzで ) 入力換算雑音電圧 約400nV 同調周波数増幅器のQ 37
0参
照信号系特性 入力感度0,35V
O出
力特性 4--18--11 *株式会社NF回
路設計ブロック 東京都大 田区山王出力直流電圧 (フルスケール時
)200mV
ドリフ ト フルスケール時の±5%/時
その他,超
高真空装置は日電バ リア ン社*製,LEED
光学系は 日電バ リアン社*配給のもの,オ
ージェ電子発 生用の一次電子銃はVacuum GeneraOrs社
**製のも のを使用 した。LEED光
学系の制御系,
オージェ電子 銃の制御系は自作のものである。オージェ電子銃のフィ ラメン ト加熱用には自作 した直流安定化電源 (出力 2∼3V, 3∼ 5Aで
リップル率0.05%以 下)を
使用 した。 また retardingグ リッ ドに送る 0∼1卜Vの
可変電圧 はフルーク社 ***製直流高圧電源lkVの
出 力 を10タ ー ンヘ リカルーポテ ンシ ョメーターでとり出し,ポ
テ ン シ ョメーターはサーボモーターで動作させた。そして出 力電圧の 1/10を X一Yレ
コー ダ ー のX軸
に 送 り analyzing電 圧を記録 した。4.実
験結果と検討 分解能のよいオージェグラフを得 るために,特
に影響 を与えるのはFig。2に
おける同調負荷か らプ リア ンプ のところである。もちろんプリアンプとしてはFig.3のFlg.6 The first attempt tuning circuit,
K
Fig.7]【Ci Auger graph and the sccOnd attempt capacitive coupling tuning circuit.
撫礁 洋 盃と
義
t屡認翻 暉籍
静
,潔
瑠 総 饂 絆陥
Fnglani
キヤ
*John FIuke MFG.CO.,INC,,P,O.BO払
LEED Screen
Impedancё
T
鳥 取 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第
3巻
第2号
ものか ら出発 した。Fig.6の
回路では雑音が多すぎて オージェグラフは得 られなか った。その理由としてプ リ ア ンプのアースが とれなか ったことが 考 え ら浄る。以 下,Fig,7,Fig.8と
ぃ ぅ順に改良 した。 Fig。7の
ものでは f周 波数同調回路を二個並列に独立 して配 し, 各々をコンデ ンサー結合 したので,プ
リアンプのアース がとれ,か
つ同調がスムーズにできた。特に,Fig.8
の試みではFig,7の
同調回路を使用 し,プ
リア ンプの 高入カイ ンピーダンス 300MΩ に対 し,
出カインピー ダンスをFig.8に
示すように 1.5kΩ と下げることが でき,次
段 とのインピーダンス整合できるように改良 さ れた。 結果は大気中男開 したKCl,MoS2(Fig。
9) の例に示されているように,きれいなK,Cl,Mo,S
のオージェピー クが示 されている。 現在,先
に使用 したKCI,MoS2上
に微少量の銀を蒸 着 し,微
少不純物の固定にオージェ電子分光装置が どこ まで使えるかを調べている。 またフィル ター部を能動 フ ィル ターに代え,オ
ージェグラフがより改善されるか どイ , 予 , r T う ・ サ ・ P
鳥 取 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第
3巻
第2号
うかをみようとしている。最後にPSDは
現在 5.2kHz しか 同調できないが,これも改良して2,6kHzをも同 調できるようにし,(21式からもわかるようにd郎(E)/dEと
共にN(E)曲
線もとれるように改良 中 である。 謝辞 この研究を遂行するにあたり
,電
気工学科小林助教授 よりX―Yレ
コーダ‐を借用し,電
子工学科松浦講師よ りLock―h=Ampに
関して御助言をいただいた。筆者 らはここに深 く感謝いたします。 文献
1)L.H.Gerner and c,D.Hartman,Rev,
Sci lnstr., 31, 784(1960)
2)P,J,Estrup and E.G.McRaei Surface Sci., 2境 1 (1971)
3)J.J.LandeF,Phys,ReV.,91,1382(195め
4)L.A.Harris,J.Appl.Physt,39,1428o968j
めPo W`Palttberg and T,N.Rhodin,J.Appl.
Phys,, 39, 2425 (1968)
6)T.E.Gal10■ ,I.G.Hi=ginbotham and M.
PFuttOn)J,Phァs,■,SCi・ Instr,,2,894(196の