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金銭・物品の不足等の損害に関する労働者の責任 : 成果と展望-香川大学学術情報リポジトリ

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目 次 Ⅰ.独自のテーマとしての金銭・物品の不足等に関する責任 Ⅱ.金銭・物品の不足等に関する法的な責任 .請求の根拠,義務および利益 .労働者の責任制限原則の適用可能性 .使用者の共働過失 .証明責任 Ⅲ.金銭・物品の不足等に関する契約上の責任 .強行法としての労働者責任に関する原則 .合意権限の射程 Ⅳ.結論 Ⅰ.独自のテーマとしての金銭・物品の不足等に関する責任 いわゆる労働者の金銭・物品の不足等に関する責任の根底にある法的実際的な現象 は,ずっと以前から認識されている。それに該当するのは,あるべき量と実際の量との 差異という意味での金銭または物品の不足量であり,また,それに関連する問題,すな わちそのような損失を被った使用者は,金銭または物品の保管を引き受けた労働者に対 して,発生した不足の賠償を請求しうるかである。事例群として中心となるのは,労働 者が管理する金庫での金額不足や任せられた商品倉庫における数量不足である。それと ならび問題となるのは,運送荷物や作業用具の紛失である⑴。こうした形態は,たとえば

金銭・物品の不足等の損害に関する

労働者の責任−成果と展望−

リューディガー・クラウゼ

細 谷 越 史(訳)

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車両の損傷といった労働者の責任が問題となるケースから明白に際立たせる つの特徴 を最初から示している。すなわち,第 に,金銭・物品の不足等のケースでたびたび容 易に想起されるのが,金銭などが単純に「消え去る」のではなくて,「どこか別の場所」 にあり,それゆえ使用者側の不利益が,他の当事者の実質的に同等の利益と向い合うと いうことである。経営手段の損傷による使用者の損害は一般に加害者に何ももたらさな い一方で,金銭やそれ以外の財物の奪取による加害の場合には明らかに事情が異なる。 こうして,金銭・物品の不足等に関する責任のケースは憤慨をもって争われる。すなわ ち,使用者が,まさに労働者がその報酬を「改善する」のに適した機会を利用したとい う疑いを抱き,あるいはさらに表明することは稀でないであろう。誰しもそのような 「利益の取得」が起こることをほとんど否定することはできないであろう⑵。反対に,実 際上責任のない労働者は,そのように不躾で名誉を傷つける非難に対して抵抗するであ ろう。第 の特殊性は,金銭残高および物品在庫の場合,単純に計算上の損失に容易に 至りうるという点にある。車両の損害が明白である一方で,レジ入力の際の単純な打ち 間違いは,実際上損失が生じることなく,帳簿上の損失につながりうる。第 に,金 銭・物品の不足等に関する責任は,法律ないし裁判官法から生じる責任原則の修正を目 的とする ―― 多くの場合労働契約上の ―― 取決めが問題となる労働者責任のほとんど 唯一の領域である。 金銭・物品の不足等のケースは,労働者責任に関する判例に最初から随行してきた。 最初の関連する諸判決は,一部,労働者の責任制限に関する独自の原則が形成される⑶数 十年前に出された⑷。この初期の諸判断は,実質的に,金銭・物品の不足等に関する責任

! Deinert, RdA , , ; Otto / Schwarze, Die Haftung des Arbeitnehmers, . Aufl., , Rn. ; Pauly, JR , ; MünchArbR / Reichold, . Aufl., , § Rn. ; Reinecke, ZfA , , f. 参照。貸与された作業用具を金銭・物品の不足等の責任という問題領域に含めることに反対するものと して Hermann, in : Festschrift Reuter( ), S. , がある。さらに LAG Hessen v. . . − Sa / , DB , 参照。紛失された鍵束についての事後負担の賠償は,金銭・物品の不足等の責 任事例ではない。

" 最近の事例として,たとえば LAG Hamm v. . . − Sa / , juris.

# こうした発展の嚆矢と一般に考えられるのが ArbG Plauen v . . − Ca / , ARS , であ る。これに続くものとして RAG v. . . − RAG / , ARS , , f. ; RAG v. . . − RAG / , ARS , , がある。したがって,固有の問題領域に関する労働者の責任法理の形成は,実質 的に 年以上をかけて行われてきた。

$ 基本的に RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , ;さらに RG v. . . −Ⅲ / , Recht Nr. ; RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , RG v. . . −Ⅲ / , HRR Nr. ; RG v.

. . −Ⅲ / , HRR Nr. ; RAG v. . . − RAG / , ARS , , ; RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , . これらの判例の大部分が官吏法上の雇用関係に関わるものであった ということは,この脈絡においては重要ではない。

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論が,司法の一層発展する中で⑸,最初からある意味で独自に展開し,一度小道に入り込 むと惰性の力が働くことの分かり易い典型としてある程度今日もなお妥当することに貢 献してきたようである。さらに,金銭・物品の不足等の責任は,以前から学説において も度々独立したテーマとして論じられてきたことにより,その独自性が強められたので ある⑹。 一般的な(法的な)金銭・物品の不足等に関する責任の主たるテーマは,証明責任の 分配である。それは,実際上の出来事の経過が不明確であるということがかかる責任事 例の焦点であるという事情にもとづく(Ⅱ..参照)。これまでずっと一定の役割を果た してきたのは,証明責任と関連する適切な請求の根拠という問題である(Ⅱ..参照)。 これに対して,労働者の責任制限に関する一般的な原則の適用可能性という問題は解決 された(Ⅱ..参照)。くわえて,事例形態により,使用者の共働過失が重要となりうる。 それは,たしかに金銭・物品の不足等の責任に特有の観点ではないが,しかし少し注意 を払うに値する(Ⅱ..参照)。最終的に,特別な(契約上の)金銭・物品の不足等に関 する責任(Ⅲ.)は,当該合意は強行的な労働者保護法に照らして審査されなければな ! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP ErstattG§ Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP ZPO§ Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP ZPO§ Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Hatung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohatung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. .

" Bulla, DB , ff. und ff. ; Endemann, ArbuR , ff. ; Woltereck, ArbuR , ff. ; ders., RdA , ff. ; ders., ArbuR , ff. ; ders., DB Beil. Nr. , S. ff. ; Palme, BlStSozArbR , ff. ; Moser, BB , ff. ; Hansen, ArbuR , ff. ; Bleistein, DB , ff. ; Jung, BlStSozArbR , ff. ; Reinecke, ZfA , ff. ; Pauly, JR , ff. ; ders., BB , ff. ; Lansnikker/Schwirtzek, BB , ff. ; Stoffels, AR-Blattei SD . , ; Deinert, RdA , ff. ; Schwirtzek, NZA , ff. ;研究書として Langer, Die Mankohaftung, ; Barton, Die Mankohaftung von Filialleitern, ; Woltereck, Ersatzansprüche des Arbeitgebers gegen den Arbeitnehmer bei Mankoschäden, ; Jung, Mankohaftung aus dem Abeitsvertrag, ; Ruff, Mankohaftung im Arbeitsrecht, ; Schwirtzek, Die Mankohaftung im Arbeitsverhältnis, ; Stollenwerk, Mankohaftung - Sondergebiet oder Fallgruppe ?, ; Pander, Mankohaftung und Beweislastverteilung, ;また Sandmann, Die Haftung von Arbeitnehmern, Geschäftsführern und leitenden Angestellten, ; Schumacher, Die privilegierte Haftung des Arbeitnehmers, を参照。

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らないか,あるいは,判例により定立された労働者の責任制限原則は任意法と理解され うるにとどまるのかというなお一層増大する論争により占められている。金銭・物品の 不足等の責任に妥当する法命題をこの間整理した BAG(連邦労働裁判所)の最近の一 連の判断は 年代後半のものであるがゆえ⑺,それでも一方でこれまでの展開を回顧 することが必要であり,他方で,債務法の現代化が座標系(Koordinatensystem)を変更 したのか否かについて注意を向けなければならない。 Ⅱ.金銭・物品の不足等に関する法的な責任 .請求の根拠,義務および利益 金銭・物品の不足等に関する責任は,当初から主に一般的な給付障害法の枠内で理解 されていた。不法行為および不当利得にもとづく請求権は,たしかに個々の事例において 考えられるのだが,しかし,それが独自の意味をもつのは,排除条項(Ausschlussklausel) が,契約上の請求権を対象とするが,法律上の請求権は対象としないというように定式 化されている場合に限られる⑻。(今日の)給付障害法の枠内において,金銭・物品の不 足等に関する責任事例において適切な請求の根拠を選択する際に重要なことは つの要 素,すなわち,いかに(考えうる)労働者の義務違反が性格づけられるか,そして使用 者はいかなる利益を主張するのかである。 a)使用者の完全性利益を保護するための労働者の行為義務 一連の義務が問題となる限りで,労働者は様々な行為義務を負うことについて一致し ている⑼。たとえば,労働者は第 に使用者に損害を与えない(それゆえ自身で金庫に手 を出さない)義務を負い,第 にその労務(たとえば金庫の管理)を,使用者の損害(た とえば第三者が金庫に手を出すことによる)が回避されるように,可能で期待可能な限 り遂行する義務を負う(たとえばトイレに行く際にはいつも金庫の鍵を閉めることによ る)。最初のケース(金庫に手を出すこと)は,もっぱら BGB(民法典) 条 項の意 味における配慮義務の違反と評価しうるが,しかし(くわえて)不完全履行とは評価し えない。なぜならば,そこでは最初から,労働者は使用者の完全性利益(Integritätsinteresse)

! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. .

" Erfk/ Preis, . Aufl., ,§ a BGB, Rn. .

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を侵害する行為を控えなければならないということだけが問題となるからである⑽。これ に対して,第 のケース(一時的な不在の際に金庫を十分に保護しなかった)において は,労働者は給付義務に,しかも全く損害が生じない場合にも(誰もその間金庫に手を 付けないことから)違反する。したがって,使用者は,そのような不注意な労働者にい ずれにせよ是正警告を与えることができる。さらに,多くの論者は,使用者の完全性利 益の保護が問題となるがゆえに,そのような行為を,同時に,労働者による配慮義務の 違反とみなすことを支持する。もっとも,後に損害が生じた場合にのみ論じられるので あるが⑾。 正当な請求の根拠の問題について今や決定的に重要であるのは,使用者がどのような 利益を主張するのかである。その点について疑いがないのは,金銭・物品の不足等の責 任が問題となるケースでの使用者の利益は,使用者が労働者に任せた財物に手を出した ことを非難するのか,そうではなくて監視における不注意のみを非難するのかとは関係 なく,生じた金銭・物品の不足等の賠償を請求することにのみつねに向けられるという ことである(上述のように,金庫における不足金額の補償)。いかなる使用者も,第 のケースにおいて,使用者は,労働者に対して,その業務について合意された賃金を 完全な範囲で支払うにもかかわらず不十分な労務給付しか受領し得ないことにより理 論的に生じる損害の賠償を請求しえない⑿。換言すれば,使用者は,労働者の義務準則 (Pflichtenkanon)はもっぱら行為に関連するものであるとの解釈にもとづき,ただ完全 性利益の侵害ゆえの補償を要求するのであり,給付利益の侵害ゆえの補償を要求する のではない。したがって,BGB 条は,周知ではあるが(労務給付は追完し得ない ので不能となる:金庫は 及的に施錠できない),請求の根拠として問題にならない。 なぜならば,この規定は給付の利益に限定され(BGB 条 項参照),完全性の利益 を包括しないからである。それゆえ,金銭・物品の不足等の賠償については,BGB 条 項が唯一の請求の根拠であることに変わりはない⒀。このことは,また,労働者の 給付の目的がまさに使用者の完全性利益の保護に見出され,それゆえ,独自の保護義 ! これが最も明白となるのは,業務終了後に金庫に手が付けられる場合である。

" Staudinger-Otto, BGB, Neubearb. , § Rn. C f. :「二重の端緒」; Schwarze, Das Recht der Leistungsstörungen, ,§ Rn. . 配慮義務の訴えによる請求可能性の問題については Staudinger-Otto / Schwarze(a. a. O.), § Rn. 参照。

# この点について,労働の最小価値の見積もりは実際上ほとんど克服し得ない障害に行きあたるであろ う。HWK/ Krause(Fn. ), § a BGB, Rn. f.参照。

$ 同様に MünchKommBGB/ Henssler, . Aufl., ,§ a Rn. ; HWK/ Krause,(Fn. ), § a BGB, Rn. ; MünchArbR/ Reichold(Fn. ), § Rn. . このような意味において Staudinger-Otto(Fn. ), §

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務の存在が否定される場合にも妥当しなければならない。なぜならば,そのような状況 においても,不完全履行(たとえば金庫の不十分な監視により)により生じる損害を給 付に代わる損害賠償によりカバーするのではなく⒁,BGB 条 項に委ねる方が多く 支持されるからである⒂。それにくわえて,労働義務をそのように分類するのが幾重に も不適当であろう理由は,労働者が負担する給付は,重点に即して言えば,使用者の財 産価値の固定した現在高を単純に保持するのではなくて,使用者の利益のために金銭 や物品を取扱い,その際,現在高や在庫の不足が生じないように注意を払うという点に ある。 b)判例における使用者の給付利益を保護するための結果に関連する義務 もっとも,判例は,労働者の義務の行為に関連づけられた評価について,立ち止まっ ていたわけではない。たとえば,周知のように,伝統的な一連の論拠が存在しており, それによれば,事務管理に関する規定(BGB 条, 条, 条から 条, 条から 条)また寄託に関する規定(BGB 条以下)は,一定の金銭・物品の不 足等に関する事例において,労働関係に適用することができ⒃,そのことは古い文献にお いて広く是認されていた⒄。これは,労働者はその労働関係の枠内で一定の財産を受け取 り,労働者は使用者の要求に応じてそれをそのままの状態で引き渡さなければならない (BGB 条または 条)という考え方と結びついている。これによれば,労働者 はこの状況において単に客観的に注意深い労働給付の義務を負うだけではない。むし ろ,労働者が負うべき義務は,その監視下に置かれる金銭や財物の現在高を使用者に引 渡すことにより,一定の結果をもたらすことである。たしかに,関連する判例におい て,つねに数多くの問題が未解明のまま残されてきた。個々の事例において事務管理法 または寄託法のどちらを引き合いに出すことができるか,両方の規範が適用されうる

! たとえば Griegoleit/ Riehm, AcP ( ), S. , f. " Schwarze(Fn. ), § Rn. .

# RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , から始まる(もっとも官吏についてのケースである);すで に明白に LAG München v. . . − / , ARS , , ;同様に BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnemers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP ErstattG§ Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . .

− AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. . $ Bulla, DB , 参照。

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か,事情によっては両方の規範複合体が平行して適用されうるのか,タイプの混合した 契約が容認されうるのか,個々の規定の類推適用が問題となるのか,一定の諸原則だけ が個々の法実体に適用されうるのかである⒅。この問題は以下の点で重要である。すなわ ち,観念的な意味において決定的に重要なのは,金銭・物品の責任事例のグループの中 には,労働者が一定の行為義務を負うだけでなく,さらに一定の結果をもたらす義務を 負うケースという独自の領域が存在するという基本的な想定のみである⒆。 こうした二元的な責任モデルは,第 のカテゴリーに当たるケースで,法的効果とし て,以前の判例においても散発的に肯定されていた本源的な引渡し請求権にさしあたり つながる⒇。しかし,実際に,争いは,通常,労働者の責任領域に置かれたまさに使用者 の財貨(金銭や物品)の引渡しをめぐり行われるのではない。むしろ,事務管理法ない し寄託法への立ち戻りは,不能の法という形態での副次的な損害賠償法が適用されるた めの糸口としてのみ裁判所の役に立つこととなった。なぜならば,判例は ―― たいて いの場合詳細な審査はないとしても ―― 労働者にとって受け取った物の引渡しが(も はや)不可能であり,すなわち,BGB 条の用語における給付義務が排除されるこ とから出発するからである。 結果に関連した労働者の義務を認めることにより,同時に,労働者に委ねられる金銭 や物品の現在高や在庫の性格が変更される。労働者の義務を純粋に行為と関連づけて解 釈することは,財産的な価値のある有価物はすでに使用者の支配領域にあり,労働者は (ただ)それがそこに残るように配慮しなければならないという想定にもとづく一方で, 結果と関連づけた解釈の基底に暗黙に存在するのは,労働者がはじめに有価物を使用者 の支配領域に移行させなければならないという考え方である。ある在庫不足が賠償され るべきであるならば,労働者の結果に関連する義務の拘束については,それゆえに,完 全性利益ではなく,給付の利益が妥当する。こうした出発点によれば,金銭・物品の不 足等は BGB 条 項, 項および 条を根拠に補償されなければならない。 判例は,労働関係に金銭・物品の不足等の責任事例における受け取った物の引渡し請

! それゆえ非常に批判的なのが Hermann, in : Festschrift Reuter( ), S. , ff.

" したがって Hermann, in : Festschrift Reuter( ), S. , ff.による実際上正当な批判はむしろ問 題の副次的な観点に妥当する。

# BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. 参照。使用者のため に集められた金銭について基本的にこれを支持するものとして RAG v. . . − RAG / , ARS , , ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter. Ⅲ. .)がある。これに対して異なる傾向を示すものとして BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Verwirkung Nr. があり,ここでは,集められた金銭の横領が積極的契約違反(引渡しの不能ではなく) と位置づけられている。

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求権を添加することを,つねに一定の前提条件と結び付けてきた。長い間,労働者は特 別な信頼的な立場を保有したかどうか,その業務は一定の独立性と結びついたかどうか が考慮された。それは 年代の終わりに明白な重心移動に至った。今や,引渡しの 不能にもとづく損害賠償請求が存在するためには,使用者がもはや個々の金庫残高や商 品在庫の(直接的な)占有者ではなかったという事実状況を作り出したことが重要であ る。労働者は通常 BGB 条の意味での占有補助者(Besitzdiener)にすぎないのであ るが,そのことは物に対する単独でのアクセスならびに独立した管理を前提とするとさ れる。そのような独立した管理に属するのは,労働者が経済的な熟慮をし,物の利用に 関する決断を行わなければならないというのである。一定の疑念にもかかわらず,BAG は,こうした新たな論拠により,以前支持された考え方よりも狭い手がかりを採用し た。 BAGは, 年以降妥当している新債務法のもとでも, つの部分からなる責任構 想に固執するのか否かを判断する機会をまだ得ていない。疑念は,少なくとも一目見 て,債務法改革により導入された BGB a条から生じうるであろう。この規定によれ ば,債務者に(客観的な)義務違反について責に帰すべき事由がないことの証明を負担 させる BGB 条 項 文の一般法規は,労働契約上の義務の違反にもとづく損害賠 償請求には適用されない。こうして,BGB a条の適用範囲においては,労働者の故 ! Gotthardt, Arbeitsrecht nach der Schuldrechtsreform, . Aufl., , Rn. ; HWK/ Krause(Fn. ), § a BGB, Rn. ; Münch ArbR/ Reichold(Fn. ), § Rn. ; Walker, JuS , , 参照。もっとも, BGB 条への立ち戻りにもかかわらず,責に帰すべき不能ではなく,積極的契約違反という給付障 害形態が一部では認められていた。BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter Ⅲ. .)参照。

" BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ;このような意味で BAG v. . . −

AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitehmers Nr. も参照。

# BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ;これに賛同するものとして LAG Baden-Württemberg v. . . − Sa / , juris ; LAG Sachsen v. . . − Sa / , jurisがある。

$ 新 たな進路の詳細な輪郭を与えるのに重要な BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. は明白に BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. を引き合いに出す。

% BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter Ⅱ. .)の自己評価が同 様である。さらに Lansnicker / Schwirtzek, BB , f. ; Pallasch, Anm. zu BAG EzA BGB§ Arbeitnehmerhaftung Nr. (unter .)参照。

& 証明責任規則や抗弁規範の意味については Staudinger-Otto(Fn. ), § Rn. D f.参照。また,BGH v. . . − Ⅻ ZR / , NJW , (証明責任の転換)も参照。

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意・過失についての証明責任は使用者に帰せられる。これまで,不能の法を一定の金 銭・物品の不足等の責任事例に適用する実質的な誘因の一つは,このようにして同時 に,給付不能のケースにおいて債務者に自身の責に帰すべき事由がないことの証明を負 担させた BGB(旧) 条が援用され得たということであった。BGB(旧) 条が労 働者責任の領域において一般的にまさに適用されなかった一方で,それゆえ金銭・物品 の不足等の責任領域では特定の形態において,労働者の責任問題の証明責任を労働者に 転嫁した道具が利用可能であった。もし BGB a条がそのような証明責任の転換を無 条件に排除するのであれば,引渡しの不能にもとづく使用者の損害賠償請求の考え方お よび給付に代わる損害賠償請求の主たる動因は失われるであろう。こうして,結論的 に,損害賠償請求を完全性利益の侵害または給付利益の侵害のいずれに依拠させるかは 重要でなかった。異なる請求の根拠を援用することは(BGB 条 項あるいは, 条 項,同条 項, 条),法律学上のガラス玉遊び(Glasperlenspiel)にすぎないで あろう。もっとも,判例が,特定の文脈において,事務管理法ないし寄託法を手段とし て不能の法を援用し,責に帰すべき事由がないことの証明責任をこうして労働者に負わ せるという,以前の法の下で展開してきた見解を今日の法において延長し,BGB a 条をそのようなケースでは例外的に不適用とすることを,最初から排除すべきでない。 c)誤った方向への展開としての結果に関連した義務の労働関係への適用 労働関係を混合的な契約と評価し,そこから不能の法へと立ち戻る判例の二元的な責 任構想は,学説においてすでに長い間厳しい批判にさらされ,今日でもほとんど一致し て否定されている。 ! これについてはⅡ. . b)を参照。

" BAG v. . . − AZR / , AP ZPO§ Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB § Nr. 参照。

# BGB(旧) 条が適用されないことを認めるが,しかし BGB 条を通じて労働者に金庫残高から 自身のために不当に一切金銭を引き出さなかったことを証明させる BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. も有益である。

$ これについて詳しくはⅡ. . c)を参照。 % Otto / Schwarze(Fn. ), Rn. f.参照。

& 支持する学説は MünchArbR/ Blomeyer, . Aufl., , § Rn. ; Lansnicker / Schwirtzek, BB , ; Pander(Fn. ), S. ff.のみである。

' Boemke / Müller, SAE , , ; Deinert, RdA , , ff. ; MünchKommBGB/ Henssler(Fn. ), § a Rn. ; Krause, Anm. zu BAG AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unerⅠ. .); ErfK/ Preis(Fn. ), § a BGB, Rn. ; Preis / Kellermann, SAE , , f. ; MünchArbR/ Reichold(Fn. ), § Rn.

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司法の考え方は,すでに事務管理法ないし寄託法の視点から説得力を持たない。たと えば,なぜ労働者が金庫残高や商品在庫を比較的独立して管理することが事務管理関係 につながるとされるのかをほとんど理解するのが困難である一方で,BGB 条によ り関連付けられる委任法はまさに ―― 具体的な事務のみに関係するが ―― 厳格な指 示・命令の拘束を予定する(BGB 条)。さらに,寄託関係は本質的に物の保管を前 提とする(BGB 条参照)。受寄者は寄託された物に場所と保護を保障しなければな らない。しかし,労働者にとって,使用者の物のための独自の場所を保障することは通 常問題となり得ない。 また,労働法の見地からも重要な異議が存在する。すなわち,司法は,事務管理や寄 託の諸要素を取り入れることで,使用者の金銭や物品を取扱う際の継続的で客観的な注 意深い業務を目指す労働関係の性格を,制度に反するように,結果に関連づけられる複 数の引渡し義務に変換する。くわえて,独自の引渡し請求権を考えることが不必要なの は,使用者がその指揮・命令権によりすでにいつでも金庫残高や商品在庫の引渡しを命 じる権限を有するからである。最終的に,労働者の特性はまさに従属的な労働を行う義 務により際立つことから,結果と関連づけられた義務を労働者のある程度の独立性とい うメルクマールと結びつけることは疑わしい。 それにもかかわらず,最近の判例において用いられる,労働者の直接的な占有という 基準も,それにより金銭・物品の不足等の責任が不能の法へと るべきとされる限りで 何も変えることができていない。たとえば,受任者が事務管理関係の遂行というやり方 で,委任者から独立した占有的立場を得るか否かという事情は,当該契約の成立にとっ て重要ではない。また,寄託関係は直接的な占有の委譲のみによっては成立しない。そ のことは別として,たしかに,労働者は使用者に帰属する物に対する BGB 条 項 の物権法上の意味における単独の(直接的な)占有者であり,それは不能の法の適用に とって問題となり,くわえて特有の引渡し請求権の債務者であるということはまったく

! MünchKommBGB/ Seiler(Fn. ), § Rn. , 参 照。それゆえ批判的であるのが Herrmann, in : Festschrift Reuter( ), S. , である。

" BGH v. . . − I ZR / , BGHZ , , ; MünchKommBGB/ Henssler(Fn. ), § Rn. ; Soergel / Schur, . Aufl., Bd. , ,§ Rn. .

# Herrmann, in : Festschrift Reuter( ), S. , .

$ これについて詳細は Krause, Anm. zu BAG AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unterⅠ. .)参照。 % この論拠は,金銭・物品の不足等の責任事例以外での BGB 条の特別な形態における適用を排除し

ない。BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Nr. 参照。

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考えられる。典型例は,労働者が私的に利用することが許されている業務用自動車であ る。純粋に公用で使用される自動車の場合とは異なり,使用者はその車両を安易に自身 で引き受けたり,あるいは労働者にそれを引渡すように指示することは許されない。な ぜならば,労働者はそのようなケースにおいて占有補助者(Besitzdiener)ではなく,占 有媒介関係(Besitzmittlungsverhältnis)(BGB 条)にあるからである。むしろ,使用 者は,労働関係が終了するときに,公用車委託契約(および BGB 条)にもとづき 引渡し請求権を有する。労働者は,引渡し請求に応じず(たとえば車両が盗難されたこ とから),責任を免れることが で き な い な ら ば,BGB 条 項, 項, 条 に よ り,給付の代わりに損害賠償責任を負う。なお,ここでは,金銭・物品の不足等の責任 は問題とならない。 これに対して,他の全ての形態において,労働者は物権法上単に BGB 条の意味 での占有補助者であり,それゆえ,まさに使用者を排除するような占有法上の立場をも たないことについて,疑いはない。判例が,事務管理ないし寄託法それに関連して不能 の法を労働関係の中で援用することに少なくとも狭い適用領域を確保しようとする新し い論拠は,物権法上も維持できない。民事法上の観点から避けて通れないのは,金銭・ 物品の不足等の責任事例の基礎としての財産価値は使用者にすでに帰属し,それが労働 者の実際上の処理権限の下に置かれる場合でも,労働者によってはじめて獲得される必 要はないということである。労働者は一定のケースで「より近く」におり,それゆえ使 用者よりも残高不足に至った出来事の経過の説明に寄与できるという事情を考慮すると いう BAG のまったく正当な関心事は,別のやり方でより良く考慮されうる。そのた め,労働関係の中に事務管理または寄託法の諸要素を組込むという不自然な考え方は必 要でない。したがって,金銭・物品の不足等に関する全ての責任事例において,給付障 害法の枠内で請求の根拠として引き合いに出されるべきは BGB 条 項のみである。 .労働者の責任制限原則の適用可能性 今日では,労働者の責任制限原則の適用可能性という問題について多くを語る必要は ない。その点について,判例は,数十年間,金銭・物品の不足等の責任事例において, 労働者に責任制限を役立てることを拒否してきた。司法はすでに非常に早期に,労働者 の責任制限の基本的前提条件である周知の危険内包労働(gefahrgeneigte Tätigkeit)とし ! LAG Hamm v. . . − Sa / , juris, Rn. ; Becker-Schaffner, DB , , . " これとならび,BGB 条以下にもとづく請求権が考慮される。

# 同様に MünchArbR/ Reichold(Fn. ), § Rn. . $ これについてはⅡ. . c)参照。

(12)

て,多数の払込みと支払いを行う金庫の管理とそれに伴いまさに典型的な金銭・物品の 不足等の責任状況を挙げていたにもかかわらずである。BAG 大法廷により,責任制限 原則の適用のための一般的な前提条件である労働の危険内包性という基準が放棄された ことにより,判例がこの進路変更に続いて初めてあっさりと突出部分を整理する時が到 来した。これにより,金銭・物品の不足等の補償を請求される労働者は,いまや包括的 に企業内損害調整のための原則を享受する。このことは,損害の発生の根底に経営上の 活動(betriebliche Tätigkeit)が認められる限りで,とくに BAG が独自の引渡し義務を 前提として出発するケースにも妥当する。 .使用者の共働過失 司法がこれまで労働者の責任制限原則を金銭・物品の不足等の責任事例に適用するこ とを拒絶してきたことは,その副次的な効果として,判例が損害の発生についての使用 者の共働過失を比較的寛容に容認することにつながった。たとえば,少なからぬ判例の 判断は,一般的な経営上のリスクが使用者の具体的な誤りとして評価され,使用者に BGB 条 項を介して「真正の」共働過失が負わされるかのような印象を与える。 しかし,責任制限を金銭・物品の不足等の責任事例へと一般的に拡大することにより, 共働過失の非難を一般的なリスクによって意図的に強化することは不必要となってき た。金銭・物品の不足等の責任領域においても,経営上のリスクは,労働者責任の原則 的な制限のための根拠として,また使用者の具体的な共働過失として,二重に用いられ るべきではない。それゆえ,実際上落ち度があると評価され,くわえて金銭・物品の不 足等の発生に寄与した行為方法だけが,損害賠償を軽減するものとして,使用者に非難 されることが許される。この点で,たとえば,使用者が管理を怠ったことにより,第三

! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. 参照。

" RAG v. . . − RAG / , ARS , , ;同様に BAG v. . . − AZR / , AP BGB § Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter . a)).

# BAG v. . . − GS / (A), AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. . $ BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. .

% 明白に異なる見解として Walker, JuS , , がある。

& 詳 細 な 事 例 分 析 を 行 う も の と し て Zhu, Die Mankohaftung im Arbeitsverhältnis nach der Schuldrechtsmodernisierung, .

' かかる危険性についてはすでに Krause, NZA , , が指摘していた。 ( 一般的に同様に BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Nr. .

(13)

者が引き起こし恒常的に深刻化する赤字に労働者が有効に対抗するのを困難にすること が考慮されうる。 .証明責任 金銭・物品の不足等に関する事例の主要問題であり続けるのは,当事者はいつも在庫 不足の原因について争い,詳細な実態はしばしば解明され得ないという現象に適切に対 処することである。請求権者が請求を基礎づけるすべての諸事情を証明しなければなら ないという一般原則を無制約に適用しようとするならば,そのことは,具体的な出来事 からしばしばより離れたところにいる使用者が「証明の危機」に陥る危険性をもたらす。 a)憲法上の観点 金銭・物品の不足等の責任に関する証明問題は,通常,もっぱら民事法の問題として 理解される。しかし,民事法的な問題に包括的な憲法上の意味を付与することが支持 されるべきでないとしても,その証明問題は,憲法上の背景をもつ。たとえば,BVerfG (連邦憲法裁判所)は医師の責任事例における証明責任について,平等命題(GG(基 本法) 条 項)および法治国家原則(GG 条 項)は証明法の運用に一定の要求を 行うと判示した。それによれば,訴訟における武器の平等の要請および公平な手続きの 原則は,実際上の状況により典型的に必要な証明を行い得ない当事者に一般的に特定の 申立てについての証明責任を負担させることを禁ずるとされる。医師の治療行為の状況 は,労働者の金庫残高や商品在庫についての責任と同視できないが,金銭・物品の不足 等の責任事例における証明責任の適切な修正に関しては,使用者はある程度の軽減に頼 らざるを得ないのかが問われなければならない。さもなければ,責任法が原則として使 用者に容認する保護が行われないという危険が存在するであろう。このことは,使用者 が労働者の責任制限原則を通じて減じられた責任法上の保護により生活しなければなら ない場合に,より一層妥当する。それにくわえて,責任法を行為可能性という全体的な 調和体(Gesamtensemble)に埋め込むことが考慮される。その行為可能性とは,損害か ら自身を守り,あるいは発生した損失に反応し,それによりとくに基本法上保障された

! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. 参照。

" 明白なケースとして BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr.(unter Ⅱ. . a))。

# BVerfG v. . . − BvR / , BVerfGE , , ff.

$ BVerfG v. . . − BvR / , BVerfGE , , . 証明責任に関する憲法上の準則の詳細に ついては Reinhardt, NJW , ff.参照。

(14)

自身の法益(GG 条 項)を(さらなる)侵害から保護するべく,使用者が自由に利 用しうるものである。労働法が(正当な理由から)一方で,根拠なく中断なしにビデオ で労働者を監視することを禁じ,他方で,使用者の財貨に手を付けた疑いのみが向けら れる労働者の解雇に厳格な条件による制約を課するならば,実体法上の責任の条件が存 在するにもかかわらず,使用者は実際上労働者が引き起こした損害を主張する機会をも たないように,金銭・物品の不足等の責任事例における証明法を操作することは問題で あろう。もちろん,労働者の責任制限の背景には,基本法上保護される利益(GG 条 項)が同様に存在し,使用者の証明法上の状況の改善は実体法により保障された労働 者の優遇(Privilegierung)を空洞化してはならないということが考慮されなければなら ない。 b)初期の判例による証明責任の転換 判例の事務管理法ないし寄託法への「逃避」は,この規範の複合体を包括的に労働関 係に統合することにしばしばほとんど寄与しなかった。むしろ,第一に重要であったの は,先述のように,使用者の証明法上の状況を改善することであった。したがって,判 例は,すでに非常に早い時期に BGB(旧) 条を引き合いに出し,それにより,引 渡しの不能と位置付けられた金銭・物品の不足等について責に帰すべき事由がないこと の証明責任を労働者に負担させた。このように使用者に有利となる証明責任規制の魅力 は非常に強かったので,その規制は,司法により,金銭・物品の不足等の責任事例にお いて,当該労働者だけが金庫や商品在庫にアクセスし得る場合に,ときに直接的に, BGB 条や 条に依拠せずに活用された。その点で明らかとなるのは,労働関係 を複合的な契約として評価するかというしばしば議論されたテーマは,金銭・物品の不

! BAG v. . . − ABR / , AP BetrVG § Überwachung Nr. ; BAG v. . . − ABR / , AP BetrVG § Nr. ;より一層厳格な諸条件を負わされる秘匿されたビデオによる監 視については最近の BAG v. . . − AZR / , EzA BGB§ Persönlichkeitsrecht Nr. , Rn. がある。

" vHH/L/Krause, KSchG, . Aufl., , § Rn. ff.参照。

# BAG v. . . − GS / (A), AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter C. Ⅲ.)参照。 もっとも,その際に憲法の制御力を過大に評価すべきではなかろう。Otto / Schwarze(Fn. ), Rn. ff. 参照。

$ RG v. . . − Ⅲ / , RGZ , , f.(官吏のケース)参照。

% BAG v. . . − AZR − , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter Ⅱ. .); 同様 に−BGB(旧) 条にも言及することなく−たとえば RG v. . . − Ⅲ / , Recht Nr. ; RAG v. . . − RAG / , ARS , , ; BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr. .

(15)

足等の責任に関する証明責任の分配という主要な問題と比べて,最終的に副次的な地位 しかもたないということである。結論的に,いずれにしても,使用者は金銭・物品の不 足および,金庫,商品倉庫などが当該労働者ただ一人の管理に委ねられたという事実の みを証明する必要があった。そうすると,労働者のなすべき事柄は,金銭・物品の不足 等は自身が責任を負うべき事情により惹起されたのではないことを主張し,場合によっ ては立証することであった。 もちろん,判例はすでに以前から,こうした証明責任規制 ―― 労働者自身に消極的 な証明を要求する ―― を緩和し,免責証明が効果的に行われたというたしかな可能性 を満足させようと試みてきた。もっとも,当該判例を詳細に考察すれば,相当な不明確 性に行き着く。たとえば,一方で,金銭・物品の不足等が労働者の故意・過失なくして 発生したという可能性を単に証明することで十分であるとみなされたり,他方で,具体 的な原因の証明が要求された。さらに,時折,労働者の一般的な信頼性が活用されるべ きであるとされた。BAG は,中間的な道を歩んだが,その際,しかし必ずしも明らか でなかったのは,免責証明の要求の軽減がつねに考慮されるべきであったか,あるいは それは金銭・物品等の不足の原因が使用者の危険領域に由来したという重大な可能性が 存在した場合に限定されるのかということである。 c)今日の法的状況 これらすべては債務法改革の立法者の(厳密に数えれば の)修正する語句によっ て反故となったということができよう。BGB a条は今や明白に,使用者は労働者に 対して義務違反についての責に帰すべき事由を証明しなければならないと規定する。実 際上,学説上の支配的な見解は,BGB a条が,今日,金銭・物品の不足等の責任事 例におけるあらゆる証明責任の転換を阻止することを前提としている。こうした見解に プラスの材料を提供するのは,規定の文言および,一応,(客観的な)義務違反につき 責に帰すべき事由がないことを請求権排除の抗弁に変形し,それにより証明責任を一般

! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. ; BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr. ;一見したところより一層寛大であるのが BAG v. .

. − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter Ⅲ. .)であり,これは,第 三者が金庫の現金に近づいたことの証明責任を労働者に負わせている。

" RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , , . # RG v. . . −Ⅲ / , HRR Nr. .

$ RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , , ; RG v. . . −Ⅲ / , RGZ , , . % たとえば BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (BGB

(16)

的に債務者に移転した BGB 条 項 文は労働法において適用されるべきではない とする立法理由である。 しかし,詳細に見ると,こうした解釈は簡潔すぎてうまく妥当しないことが明らかで ある。たとえば,立法理由においては,さらに,BGB a条はこの間存在してきた BAG の司法を維持しようとするとされている。その注釈として,BGB(旧) 条が適用不 可能であるとする少し前に出された BAG の判断を参照するように指示されている。こ れは新規制により変更されるべきでないとされ,それにより学説における懸念が考慮さ れた。今や BAG はその立場を次の点に依拠させた。すなわち,BGB(旧) 条は単 に証拠からの近さという観点だけにもとづくものではない。むしろ,その規定は,同時 に,債務者により給付リスクが引き受けられたことを表現している。こうした考え方 は,労働者の責任には妥当しない,と。しかしながら,その判決はもっぱら,従前の理 解によれば積極的契約違反にもとづく労働者の賠償義務が問題となったケースのみを引 き合いに出す。それゆえ,BAG の命題は つの部分からなる責任概念の一方のグルー プにのみ妥当する。判決は,かかる責任モデルのもう一方のグループおよび,BAG の 見方によれば事務管理または寄託法が適用される結果として義務と結果の関連性により 際立つ構造を別の個所で考慮している。BGB a条は判例の定まった考え方を維持す べきであるが,この見方はただ一定のケースを念頭に置いて言われるのであれば,本規 定は,当時考慮の外に置かれた状況を単に引き合いに出すことにより,後から拡大的に 理解することはできない。こうして,BGB a条はそれ自体,BAG の以前の原則が 例外事例のために補正されるであろうかぎり,BGB 条 項 文のモデルによる証

! Gotthardt(Fn. ), Rn. ff. ; Schaub/Linck, ArbR-Hdb., . Aufl., ,§ Rn ; ErfK/ Preis(Fn. ), § a BGB, Rn. ; Schlodder, Der Arbeitsvertrag im neuen Schuldrecht, , S. f. ; Walker, JuS

, , . 同 様 に Pander(Fn. ), S. f.は,BGB a条 を 明 白 に BGB 条 項・ 項, 条に関連した BGB 条, 条にもとづく請求権にも適用しようとし,その後(S. ff.)危険領域 説を通じて BGB 条 項 文に立ち戻るがそれはほとんど説得力がない。労働者の義務違反全体に対 する BGB a条の一律の適用可能性については BAG v. . . − AZR / , AP ZPO§ Nr.

, Rn. も参照。 " BT-Drucks. / , S. .

# BT-Drucks. / , S. ;こうした意味においてすでに BT-Drucks. / , S. . $ BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. .

% Löwisch, NZA , , .

& BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter B. Ⅱ. . c)aa))参照。 ' BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter B. Ⅰ. .)参照。 ( Staudinger-Richardi/ Fischinger, BGB, Neubearb. ,§ a Rn. は硬直化(Versteinerung)という

(17)

明責任の分配と矛盾しない。 今や BGB 条 項 文による労働者の証明義務は,それが責に帰すべき事由がな いことにのみ関連し,同時に客観的な義務違反には関連しないであろうとしても,相当 の効力を発揮しうるであろう。新しい給付障害法の主要な概念である「義務違反」は, 結果に関連した給付義務の場合に,客観的な給付の不足を前提とするのみで,債務者の 義務に反する行為・態度を前提とはしない。客観的に義務に反する行為を放棄し,同時 に生じる具体的な債務者の行為を責に帰すべき事由の領域に移転することを放棄しつ つ,客観的な義務違反をそのような理解することは,結果をもたらす義務が債務者に負 わされ,それゆえすでに(完全な)結果が生じないことが法秩序に反する場合に,正当 化される。こうした考え方の基底には,すでに述べたように,BGB(旧) 条の規制 が存在した。まさに,BAG の 年代後半の諸判断は,この点で若干不鮮明である。 BAGは,一方で不能の法の適用可能性を占有の喪失という比較的狭い基準により使用 者にとって抑制しようとするが,他方で,金銭・物品の不足等が単に存在し,労働者が ただ一人金庫や商品倉庫にアクセスし得たことで足りるとすることにより,客観的な義 務違反を肯定する可能性は広く開かれている。これにより,結論的に,客観的な義務違 反よりも消極的な結果が特徴づけられるか,または少なくともそのような結果から決定 的に客観的な義務違反の存在が推論される。たしかに,こうした BAG による労働者に 不利な客観的な義務違反の「要件緩和」は,使用者が BGB(旧) 条の不適用によ り労働者の責に帰すべき事由と同時に具体的に有責の行為・態度について証明する義務 を負うべきであるとすることにより再び調整された。しかしながら,一旦労働者の義務 と結果の関連性の想定についての境界を超えたならば,責に帰すべき事由に関して引き 返すことは,ほとんど首尾一貫していない。それは,BGB a条が,結果に関連する 義務が問題となる場合,使用者に残る証明責任に関する乗り越えられない制約とはほと んどみなし得ないのでなおさらである。しかも,それは技術的な意味における不能法に

! その点で MünchKommBGB/ Henssler(Fn. ), § a Rn. ; ders., RdA , , f. ; Staudinger-Richardi/ Fischinger(Fn. ), § a Rn. も補足される。

" MünchKommBGB/ Ernst(Fn. ), § Rn. ; Staudinger-Otto(Fn. ), § Rn. C ff. ; Schwarze (Fn. ), § Rn. ,§ Rn. .

# BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter Ⅲ. . c)); BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter B. Ⅱ. b)aa)); 同様にすでに BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr.(unter Ⅱ. . a)). これに対して,労働者ただ 一人のアクセスがなければ客観的な義務違反の存在を認めるべきではない。BAG v. . . − AZR

/ , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter Ⅲ. . b))参照。

(18)

立ち戻るのか,それ以外の客観的な義務違反を前提として出発するのかに左右されな い。したがって,使用者は,労働者の義務を結果に関連するものと評価するならば, BGB 条 項 文の意味での労働者の客観的な義務違反を最終的に確定するために は,金銭・物品の不足等および労働者が金庫または商品倉庫にただ一人アクセスし得た ことだけを証明すれば足りるであろう。 すでに請求の根拠という問題との関連で詳論したように,結果をもたらす義務は,し かしながら,労働関係の性格と整合しない。労働者は,全体としての真正の金銭・物品 の不足等の責任事例において,注意深く活動する義務を負うにとどまり,具体的な結果 をもたらす義務を負うわけではない。その点について,たとえば労働者がある支店の運 営を単独で担当しなければならないという事情も全く変更し得ない。さもなければ,使 用者は,単純な組織替えにより(たとえば,これまで 人の労働者が働いていた支店に おいて経費を理由にポストが つ削減される),これまで純粋に働く義務であった労働 義務を結果をもたらす義務に変形することができることになろう。これは,事業上の損 失(たとえば万引きによる)が,いかに損失が生じたのかという問題についての証明責 任が労働者に移転されることにより,実際上労働者に転嫁されるという結果につながる であろう。労働者が使用者の要求に応じて金銭や商品を引渡さなければならないという ことは,同様に,相応の証明責任の分配を正当化しうるであろう労働関係における真正 の結果と関連した給付義務のための証拠では決してない。なぜならば,最終的に重要な ことは,労働者が,不足のない金銭や商品の現在高や在庫を引渡すことができない状態 にあり,また責任を免れ得ないことだけを理由に給付の代わりに損害賠償責任を負うべ きか否かだからである。したがって,証明責任を労働者に移転することは,労働義務の 結果との関連性に依拠することはできない。それゆえ,労働者の金銭・物品の不足等の 損害についての責任の出発点は,一般原則によれば請求権者である使用者が証明しなけ ればならない行為義務の客観的な違反である。 たしかに,民事裁判所の判例は,すでに長い間,結果に関連した給付義務とは独立し て,個々の場合に客観的な義務違反をも考慮した証明責任の転換につながりうる危険領 域による証明責任の分配を支持している。BGH(連邦通常裁判所)は,こうした考え 方を,債務法改革後,そしてBGB 条 項 文および 文を根拠として固く保持し た。比較可能な考え方は,引渡し義務に ることなく,不足残高および労働者がただ一 ! これについては前述のⅡ. . c)を参照。 " BGH v. . . − ⅫZR / , BGHZ , , f. ; BGH v. . . − ⅨZR / , BGHZ , , 参照。 # BGH v. . . − ⅫZR / , NJW , .

(19)

人金庫または商品倉庫にアクセスし得たことの証明で十分であるとした金銭・物品の不 足等の責任をめぐる以前の諸判断において現れている。労働者の外的な過誤行為という 意味での客観的な義務違反が内的な注意の違反との間で通常区別されなかったとして も,責任構成要件のそれ以外の要素はすべて労働者に割り当てられた。 それにもかかわらず,こうした理論的な試みはここでの文脈においてそれ以上展開し ない。さしあたり,結果に関連しない労働契約上の義務の違反が問題となるすべての事 例において,労働者の責に帰すべき事由の証明責任を使用者に移転し,それにより適切 な証明責任分配の手がかりとなる労働者の危険領域という想定からその基盤を剝奪する BGB a条を ―― 正当な範囲において ―― あげることができる。そのうえさらに, 内容的に矛盾するのは,実質的に使用者の組織化権限に起因する労働者の責任制限原則 を金銭・物品の不足等の責任事例にも適用しておきながら,しかし,同時に,規則通り の証明責任の転換をさらに客観的な義務違反に鑑みて正当化すべきであるほど強く自立 した労働者が責任を負うべき危険領域を前提として出発することである。これは,その ような危険領域の創出が広範に使用者の組織化権限の下にあり,労働者の自主的な決定 にはもとづかないであろう場合に一層妥当する。判例がこうした方法で根拠づけられる 労働者への証明責任の移転を免責証明についての要求の軽減を通じて再び緩和するとし ても,これに妥当する原則はほとんど強固でないように思われるから,それは弱い慰め にすぎない。最終的に,使用者が負担すべき事業者リスクの労働者への転嫁は結果との 関連性により際立つ事例においても妨げられなければならないという BAG の指摘は, 司法それ自体があまりに頻繁に「証明法上の手段による責任の移転」が問題となる証明 責任の転換という考え方に完全には立たないことを示している。 したがって,使用者の認知領域の外にあり,同時に労働者の認知領域の中にある事情

! この点については Deutsch, Allgemeines Haftungsrecht, . Aufl. , Rn. ff.

" BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr. ; LAG Düsseldorf v. . . − Sa / , EzA BGB§ Nr. .

# それゆえ,再び BGB 条 項 文に達するために,危険領域説を通じて BGB a条を克服しよう とする Pander(Fn. ), S. ff.は説得的でない。

$ BAG v. . . − GS / (A), AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter C. Ⅱ. .); HWK/ Krause(Fn. ), § a BGB, Rn. ; ErfK/ Preis(Fn. ), § a BGB, Rn. ;これについては Otto / Schwarze(Fn. ), Rn. ff.も参照。

% この点については上述のⅡ. . を参照。

& 同様に(判例の見方によれば結果に関連しない金銭・物品の不足等の責任事例についても)BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter B. Ⅱ. . c)aa))。

' BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. 参照。 ( たとえば Stoll, AcP ( ), S. ff.

(20)

が問題となるならば,規則通りの証明責任の転換の代わりに,客観的な義務違反および 責に帰すべき事由について,証明責任の軽減(abgestufte Darlegungs- und Beweislast)と いう道具をより良く活用することができる。このように裁判所によりすでに長い間きわ めて多様な文脈において実地に適用されてきた手法については,信義誠実という実体法 上の原則または ―― より説得的に ―― 真実を述べる義務(Wahrheitspflicht)や完全義 務(Vollständigkeitspflicht)と関連する手続法上の訴訟促進義務を引き合いに出すこと ができる。訴訟法への立ち戻りによって明らかになるのは,金銭・物品の不足等の責任 領域において,企業内損害調整の原則が労働者からまさに取り除こうとするリスクを実 体法上労働者に再び押し付けることは問題とならないということである。むしろ,証明 責任の軽減の根本的な考え方は,両当事者は訴訟において迅速でかつ内容上適切な判断 をもたらすという訴訟の目的のために一定の諸原則に拘束されるということである。 このことは労働者にも妥当し,労働者がその活動を使用者の組織領域内で行い,経営者 のリスクを負担するのが最終的に使用者であるにもかかわらず,ある危険を労働者の 責任領域に最終的に帰属させることが重要であるかのような印象を与える危険領域 (Gefahrenbereich)という概念によるよりも,認知領域(Wahrnehmungsbereich)という 概念によってより良く説明される。最終的に,上述の考察から,使用者にとって実体的 な責任法を貫徹することが手続法上不可能とされてはならないという憲法上の目的が肯 定されなければならないであろう。 これは詳細には以下のことを意味する。すなわち,使用者は損害の証明にくわえ,さ しあたり客観的な義務違反の存在と労働者の責に帰すべき事由を指し示す状況証拠を提 示しなければならない(ZPO(民事訴訟法) 条 項)。そうすると,労働者の事柄 は提示された状況証拠に実質的に反論することである(ZPO 条 項)。さらに,使 用者の申立てが認められる(ZPO 条 項)。場合によっては,使用者に証明責任が 帰属する証拠事実について証拠があげられなければならない。使用者が労働者の外見上 の過誤行為について証明したならば,これにより基本的に内的な注意の違反も説明され る。比較的柔軟な道具である証明責任の軽減は,判断されるべき事情を全体として適切 ! たとえば最近の明確な事例として BGH v. . . −Ⅰ ZR / , NJW , , 。

" たとえば MünchKommZPO/ Wagner, . Aufl., ,§ Rn. f. # 詳しくは Peters, in : Festschrift Schwab( ), S. ff. $ Ⅱ. . a)参照。

% その点について,労働者がただ一人金庫にアクセスしうるならば,使用者は収入につき,労働者は支 出について証明する義務を負うことが依然として認められている。くわえて,使用者は労働者の帳簿通 りの金庫の運営を引き合いに出すことができる。Otto / Schwarze(Fn. ), Rn. 参照。BGB a条の 規定はこうしたルールを修正する根拠をもたらさない。

(21)

に評価することを可能にする。労働者の単独でのアクセスないし特定の金庫または商品 領域についての単独での管理という基準はたしかに引き続き主要なものであるが,しか し,「過酷な」証明責任の転換のために不可欠であるほどは決定的ではない。たとえば, 対応する取引の事実がないのに数多くのキャンセルを行うことは不正な陰謀の証拠たり うる。最終的に,BGB a条も使用者に有利となる証明責任の軽減とは矛盾しない。 むしろ,立法者は,BAG がまさに金銭・物品の不足等の責任領域で展開してきた証明 責任の軽減については何も変更されるべきではない,と明白に表明した。それは,結論 的に,この間実に支配的な学説における見解にも当てはまる。BAG は,同様の原則を 構造的に比較可能な労働者の補償請求権との関連で少し前に適用した。その上さらに, 金銭の不足が生じた金庫にもっぱら当該労働者だけがアクセスし得たという特定の事例 においては,使用者にとって有利となるように労働者の過誤行為についての表見証明 (Anscheinsbeweis)を肯定することができる。そうすると,労働者のなすべき事柄は, 金銭不足の原因として,別の出来事が発生したことの重大な可能性を示すことにより, かかる表見証明を揺さぶることである。実際上,これにより,取り立てて言うべき相違 する行動が証明責任の軽減の手法により明らかにされることはないであろう。 今や労働者の責任制限原則が適用可能であることが明らかにされていることから,使 用者のなすべき事柄が,主張される程度の請求権が存在するために,労働者の故意・過 失の程度を証明することであるのは明白である!。これに対して,使用者の共働過失は当 然に労働者により申し立てられ,場合によっては証明されなければならない。

" LAG Hamm . . − Sa / , juris参照。 # BT-Drucks. / , S. .

$ MünchKommBGB/ Henssler(Fn. ), § a Rn. ; HWK/ Krause(Fn. ), § a BGB, Rn. ; ErfK/ Preis(Fn. ), § a BGB, Rn. ; MünchArbR/ Reichold(Fn. ), § Rn. ; Walker, JuS , ,

;また Oekter, BB , , も参照。

% BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Haftung des Arbeitgebers Nr. (unter Rn. ). & これに対して,表見証明の前提条件として一つの表見証明で十分たらしめようとするのは誤りであ

る。しかし明白に BAG v. . . − AZR / , AP TV Ang Bundespost§ a Nr.(unter Ⅱ. . a.))。 ' 同様に Deinert, RdA , , .

( この点については上述のⅡ. を参照。

! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr.(unter B. Ⅱ. . b)bb)): 労働者の 少なくとも通常の過失の推論を許す証拠を使用者が申し述べることが必要である。

(22)

Ⅲ.金銭・物品の不足等に関する契約上の責任 労働者の責任が一般的に契約上の合意の対象となるのは稀であるのに対して,金銭・ 物品の不足等の責任領域では,すでに長い間,上述の責任制限原則を使用者側の有利と なるように変更しようとする特別な取決めが用いられている。多くの場合に問題となる のは,様々な表現により,労働者が故意・過失の有無に関わらず金銭・物品の不足等に ついて責任を負わなければならないことを結論的に目的とする労働契約レベルでの取決 めである!。 .強行法としての労働者責任に関する原則 法律ないし裁判官法にもとづき労働者責任について妥当する原則から労働者の不利と なるように逸脱する労働契約上の取決めを評価する際に出発点となるのは,こうした原 則が強行法に属するか,それとも単に任意法とみなされるがゆえに,普通契約約款規制 (AGB-Kontrolle)のみが実施されうるのかという問題である。 元来,労働者の責任を優遇する規制の適用可能性が否定されてきたことからして,長 い間この問題に立ち入って取り組む誘因はわずかに存在したにすぎない。それでも,す でに労働者の責任制限に関する「すべての裁判の源」は,この原則が労働契約当事者の 自由裁量に委ねられるものではないことを認識させる!。当該原則が金銭・物品の不足等 の責任にも拡大されることにより,このテーマに的を絞って取り組む時期が到来した。 これについて,BAG は,その大法廷のしかるべき転換!に関連して何度も誤解のないよ うに明らかにしたのが,労働関係における責任規制において重要なのは,労働契約と労 働協約当事者を拘束する片面的に強行的な労働者保護法である,ということである!。こ れは,少なくとも労働契約上の取決めについてみると,学説上の支配的な見解にも妥当 する!。しかし,すでに少し前から,反対の考え方も次第に発言の意思表示をしている!。 異なる見解は,まず第 に民事法の観点に依拠するが,しかし憲法上および方法論上 の考察をも論拠として持ち出す。民事法のレベルにおいて重要なのは,判例が展開して ! ここでは,金銭・物品の不足等の責任に関する取決めの考えうる数多くのバリエーションを取り扱う ことはできない。これはとくに証明責任契約という特別な事例群に妥当する。これについては,たとえば MünchKommBGB/ Henssler(Fn. ), § a Rn. ; HWK/ Krause(Fn. ), § a BGB, Rn. ; Deinert, RdA , , ff.を参照。

! ArbG Plauen v. . . − Ca / , ARS , 参照。

! BAG v. . . − GS / (A), AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. (unter C. Ⅲ. .). ! BAG v. . . − AZR / , AP BGB§ Mankohaftung Nr. ; BAG v. . . − AZR /

(23)

きた責任原則は BGB 条ないし同 条,すなわちそれぞれ任意的な性格をもつ諸 規定にもとづくということである!。しかしながら,労働者の責任制限原則を経営リスク (Betriebsrisiko)という基本思想から根拠づけ,かかるリスクを使用者に対して BGB 条の類推適用により帰責するという,判例!および支配的な学説!により支持される考 え方からは,こうした法命題が任意的なものとみなされうるとの結論は導かれない。む しろ,判例法上の企業内損害調整のモデルは,使用者の促しにより再び直ちに無効にさ れることのないように,基本的に強行的な性格を持たねばならない適切な損害分配を目 的とする。責任リスクについての責任負担は,決して個別契約のレベルで労働者の負担 となるように操作できる事柄ではない。くわえて,責任規制を原則的に強行的な裁判官 法と認定することは,事前に定式化された契約および純粋な個別合意に対して統一的な 審査基準を与えることにつながり,そのことは法的安定性に寄与する。さらに,考慮さ れなければならないのは,判例が展開してきた原則は,本来立法者が創出しなければな らなかったが,労働契約法や労働者責任に関する特別規制の欠缺ゆえに決して実現しな かった,労働関係のリスク構造に適合した責任モデルを具現化することにより,法律を 補充する効果をもつということである!。立法者がそのテーマを引き受けていたとすれ ば,労働者責任に関する規定を強行法とみなし,せいぜいのところ金銭・物品の不足等 の責任に関する取決めについて狭い通路を許容したにとどまるであろうことはほとんど 疑いがなかろう。数多くの草案とりわけヘンスラーとプライスによる労働契約法草案!が このことを十分に証明している!。以上の点について,BGB 条へと立ち戻ることも

! MünchKommBGB/ Henssler(Fn. ), § a Rn. ; Krause, NZA , , ; Otto, Jura , , ; Peifer, ZfA , , f. ; Schwarze, RdA , , ; Taube, Die Haftung des Arbeitnehmers nach der Schuldrechtsreform, , S. ff. ; Waltermann, RdA , , f. ;条件付きで Walker, in : Festschrift Canaris, Bd.Ⅱ( ), S. , ff.も。

! ErfK/ Preis(Fn. ), § a BGB, Rn. ; ders., in : Festschrift Jahre BAG( ), S. , f. ; ders., Grundfragen der Vertragsgestaltung Arbeitsrecht, , S. f. ;賛同するものとして Gotthardt(Fn. ), Rn. ; CKK/ Klumpp, AGB-Arbeitsrecht, . Aufl., ,§ Rn. ; MünchArbR/ Reichold(Fn. ), § Rn. ; Sandmann(Fn. ), S. ff. ; Schwirtzek, NZA , , f. ;今や詳細に Schumacher (Fn. ), S. ff.

! Preis, in : Festschrift Jahre BAG( ), S. , f.

! BAG v. . . − GS / (A), AP BGB§ Haftung des Arbeitnehmers Nr. 参照。

! HWK/ Krause(Fn. ), § a BGB, Rn. (他人の利益性という観点をくわえて指摘する) ; より詳 しくは Krause, NZA , , ff. ;また Waltermann, RdA , , f.も参照。

! 法律上の規準がいかなる性格を有するであろうかという仮定的な考察を行うものとして Richardi, in : Gedächtnisschrift Dietz( ), S. , も参照。

! §§ , Abs. Diskussionsentwurf eines ArbVG, NZA Beilage / .

参照

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