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仮想マシン技術の展望

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仮想マシン技術の展望

Prospects for Virtual Machine Technology

あ ら ま し 57, 3, 05,2006 サーバの性能向上とハードウェアによる仮想化のサポートにより,仮想マシン(VM: Virtual Machine)技術が本格的な普及期に入ってきた。すでに仮想マシンが普及している メインフレームの場合と同様に,PCサーバやUNIXサーバの仮想マシンは,サーバ統合に よるコスト削減を目的に利用されてきた。さらに,メインフレームには存在しなかったライ ブマイグレーションという技術を獲得して,新しい目的での応用も広がってきている。一方, クライアントPCにおいても,セキュリティのために仮想マシンを利用しようという新たな 動きがある。 本稿では,クライアントPCおよびサーバでの仮想マシン技術について利用目的の視点か ら俯瞰ふ か んする。また,仮想マシン技術の将来方向について述べる。さらに,富士通の取組みと して,仮想マシンに関するサポートの強化とオープンソースの仮想マシンに対する貢献につ いても触れる。 Abstract

Through performance improvements and hardware support for virtualization, virtual machine technology is now ready to be widely deployed. Just as for mainframe computers, virtual machines for PC and UNIX servers have been used so far to reduce costs via server consolidation. On top of this, through the acquisition of advanced technology called live migration, which had not existed in mainframe computers, applications for new purposes are also expanding. In addition, a new use of virtual machines is being explored for client PCs as well to ensure their secure environments. This paper describes the usage patterns of virtual machines for servers and clients. It also presents the future directions of virtual machine technology. Finally, Fujitsu’s support for virtual machines and contributions to open source virtual machine software are mentioned.

湯原雅信(ゆはら まさのぶ) サービス指向プラットフォーム開発 戦略室 所属

現在,仮想マシンを用いたサービス プラットフォームの開発に従事。

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仮想マシン技術の展望

ま え が き 仮想化とは,計算機リソースの抽象化のことであ り,計算機の黎れい明期から追求されてきた基本的な 概念である。仮想化は,物理的な制約を取り除いた り,互換性を保ったり,柔軟性を向上させる。 仮想化概念を取り入れているソフトウェアは多数 あるが,最近,仮想化ソフトウェアとして注目され ているのは, ・デスクトップ仮想化(クライアント仮想化) ・サーバ仮想化 ・OS仮想化 ・プレゼンテーション仮想化 ・アプリケーション仮想化(ストリーミング) などである。 本稿では,デスクトップ仮想化とサーバ仮想化に 関係する仮想マシン(VM:Virtual Machine)に ついて,利用目的の観点から解説する。その中で, そのほかの仮想化についても簡単に触れる。また, 仮想マシンに関する今後の技術動向を述べ,最後に, 富士通の取組みについて述べる。 仮想マシンとは 広義の仮想マシンには,Java VMのような言語 処理系や,マシン命令セットの異なる計算機のエ ミュレーションも含まれる(図-1)。(1) 本稿では,近 年特に注目の集まっている狭義の仮想マシン,すな わち,物理的な計算機(物理マシン)の上に,複数 の計算機が存在するように見せる技術について述べ る。ここで,仮想マシンを実現するソフトウェアな いしファームウェアを「VMソフト」,仮想化され たマシンまたはその上のOSを「ゲストOS」と呼ぶ ことにする( 図-2)。仮想マシンの歴史は古く, 1960年代後半にまでさかのぼる。ここ数年,仮想 マシンが注目を集めるようになった背景には,PC サーバの性能が向上し,CPUが多コア化する方向 にあること,x86系のプロセッサにVM支援機能が 入ってきたこと,PCサーバ用のVMソフトが熟成 してきたことがある。 仮想マシンも仮想化の一種であるため,仮想化の 一般的なメリットを継承する。すなわち,物理的制 約を取り除くということでは,1台の物理マシンで 一つのOSしか動かせないという制限から解放し, 複数OSの同時走行が可能になる。互換性について は,デバイスの物理的な差異を隠蔽ぺいすることで, ハードウェアの違いや進歩に対するOSの互換性を 向上させる。柔軟性ということでは,マシン手配の 時間を大幅に短縮し,物理マシンとOSとの強い依 仮想マシン(広義のVM) アプリケーションレベルのVM (VM上でアプリケーションが動作) システムレベルのVM (VM上でOSが動作) 同一命令セット 異種命令セット 同一命令セット(狭義の VM) 異種命令セット 中間言語 バイナリ ハード上 z Java VM z .NET MSIL z Pascal pコード z Apple Rosetta (PowerPC MACアプ リon Intel MAC) z Intel IA-32EL(IA32ア プリon IPF) z 富士通PRIMERGY6000 {オフコンのOS (ASP) on IA-32} z VMware Workstation z VMware Server z Microsoft Virtual PC z Microsoft Virtual Server

z VMware ESX Server z Microsoft Hyper-V z Xen z Sun LDoms z 富士通AVM 汎用OS上 汎用OS上 ハード上 z QEMU CPU内 z Transmeta Crusoe 汎用OS内 z KVM (OSのプロセス) (VMソフトの位置) 図-1 仮想マシンの分類

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物理マシン VMソフト ゲスト OS {専用モニタ(Hypervisor)型の場合} ゲスト OS ゲスト OS 図-2 狭義の仮想マシン

Fig.2-Narrowly defined virtual machine.

存関係を断ち切ることで,OSを動作させたまま業 務アプリケーションを別の物理マシンに移動するこ と(ライブマイグレーション)を可能にする。 以降では,これらの仮想化メリットが,具体的に どのようなシーンで利用されるかについて,デスク トップ仮想化とサーバ仮想化に分けて見ていく。 デスクトップ仮想化 デスクトップ仮想化とは,パソコンマシンの仮想 化(PC仮想化)であり,サーバ仮想化に対してク ライアント仮想化とも呼ばれる。VMソフトの上で, ク ラ イ ア ン トPC用のOS,すなわち,Windows VistaやWindows XPなどを動かす。 デスクトップ仮想化には,物理マシンがクライア ントPCの場合と,サーバマシンの場合がある。こ れらを順に見ていく。 ● クライアントPC上でのデスクトップ仮想化 クライアントPCにVMソフトを導入して,仮想 化したクライアントPCを利用する場合である。つ ぎのような目的で利用される。 (1) PC上で異なるOSを動かしたい 例 え ば ,OS のバージョンアップ時に,新版 (Windows Vista)では動作しないアプリケーショ ンがあるため,旧版(Windows XP)を使い続けた い場合,あるいはWindowsとLinuxを同時に使いた いという場合に利用される。 (2) 異なるアプリケーションを動かしたい 使用したいアプリケーションが複数あり,それぞ れが要求するOSが異なる,あるいは一つのOSに同 時にインストールできないため,複数のOSが必要 になる場合である。従来であれば,OSと同じ数の PCが必要となるが,仮想マシンにより1台のPCで 済ますことができる。例えば,Microsoft Officeの 旧版(2003)を新版(2007)とともに使い続けた いが,新版と旧版を同時にインストールできない場 合である。今後クライアントOSを64ビットに移行 する際には,32ビットOSでしかサポートされない アプリケーションのため32ビットOSも動作させた いという場合も出てくるだろう。 (3) クライアントOSのセキュリティを高めたい クライアントOSでのセキュリティ確保を一般 ユーザにゆだねていては,セキュリティ対策を徹底 することが困難である。そこで,OSの下にVMソ フトを入れ,VMソフトを企業内で集中管理するこ とにより,一般ユーザの悪意や誤操作にも耐えるセ キュリティ対策を実施する。例えば,情報漏えいの 原因となりやすいUSBメモリへの書込みをVM層で 禁止したり,ネットワークの通信をVM層で暗号化 したりするなどが考えられている。 (4) 特定アプリケーションのセキュリティを高め たい 汎用のクライアントOSとは別に,用途を限定し たOS(+アプリケーション)のための専用ゲスト OSを動作させ,それを徹底的にセキュア化すると いう新しい考え方が検討されている。 複雑な汎用のクライアントOSに比べると,用途 を限定してスリム化したOSの方が,一般にセキュ リティの確保が容易である。例えば,高セキュリ ティを必要とする金融取引には,専用OSとアプリ ケーションの組を仮想アプライアンス(Virtual Appliance)として提供し,実行時にはソフトが改 変されていないことを厳密にチェックした上で,取 引を開始するようにする。また,肥大化しつつある 携帯電話のソフトウェア環境で,セキュリティを重 視する特定のアプリケーション群を,自由度を重視 する汎用アプリケーション群から隔離するために, 仮想マシンを利用することが検討されている。 ● サーバマシン上でのデスクトップ仮想化 サーバマシンにVMソフトを導入して,その上で 仮想化したクライアントPCを実現する。仮想化さ れたクライアントPCは,物理的なクライアントマ シンからリモート接続して利用する,いわゆるシン クライアントの実現形態の一つである。仮想マシン の利用により1台のサーバマシンで複数のクライア ントPCを仮想化することができる。利用目的とし ては,つぎのようなことが考えられる。

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(1) クライアントPCのコストを削減したい クライアントPCに必要となる性能や容量を下げ, 機能を限定することにより,クライアントPCのコ ストを削減する。また,機能を限定することで故障 箇所が減り,長寿命化につながる効果もある。 (2) クライアントPCのセキュリティを高めたい ハードディスクをサーバに移動することにより, クライアントPCが万一盗難に遭っても,情報漏え いしないようにする。 (3) クライアントPCの運用管理コストを削減し たい 仮想化したクライアントPCはサーバ側にあるた め,パッチ管理,ストレージの2重化,バックアッ プなどの運用管理を集中的に行えるようになり,全 体的なコストが下がる。 なお,シンクライアントの別の実現形態として, 一つのサーバOSに複数ユーザが同時にログインし て,アプリケーションを利用する形態(プレゼン テーション仮想化と呼ばれる)があるが,クライア ントOS用アプリケーションの動作やユーザごとに 異なるアプリケーションの扱いに制約がある。また, サーバで集中管理をしつつ,アプリケーションを必 要に応じてクライアントPCに転送(ストリーミン グ)する技術として,アプリケーション仮想化(ア プリケーションストリーミング)も提供されている。 サーバ仮想化 サーバ仮想化では,サーバマシンにVMソフトを 導入して,仮想化したサーバを利用する。サーバ仮 想化の導入は,これまでコスト削減が主目的であっ たが,そのほかのメリットにも重点が置かれるよう になってきている。 ● コストを削減したい (1) サーバ分割 大規模マシンを分割して,複数のマシンとして使 いたいという用途である。メインフレームでは,大 型になるほど単位性能あたりのコストが安くなる傾 向があったため,小型機を複数購入するより,大型 機を分割して利用した方が経済的であった。電気的 にマシンを分割する物理パーティションと比べ,仮 想マシンは分割粒度が小さいなどの利点がある。 (2)サーバ統合 複数のサーバを一つの物理マシンに統合するため に仮想マシンを利用する。サーバ統合には,ブレー ドサーバなどで筐体を一つにする方法もあるが,仮 想マシンと組み合わせれば,より多くのサーバを統 合できる。 サーバ分割とサーバ統合は同じことに対する違う 見方であるが,サーバ分割として意識する場合はゲ ストOS間の独立性が強く求められ,サーバ統合と して意識する場合は統合できるサーバ数が問われる 傾向がある。いずれにしても,物理サーバ数を減ら すことにより,ハードウェアのコスト,ハードウェ アの運用管理や保守のコスト,設置スペースを削減 することができる。サーバのエコ対策としても, サーバ仮想化は最も効果のある技術の一つである。 散在していたサーバを集中させることで,セキュリ ティ対策も徹底しやすくなる。 サーバ分割/統合のための類似技術にSolarisコン テナのようなOS仮想化がある。OS仮想化は,OS の機能で資源を分割して,あたかも複数のOSイン スタンスが動作しているように見せる技術である。 OS仮想化は,仮想マシンに比べてオーバヘッドが 少ない傾向があるが,種類が異なるOSの同時動作 ができない,一つのインスタンスでのOS障害がほ かのインスタンスに波及しやすいという問題がある。 ● 変化に強いシステムにしたい 物理的なサーバに比べ,仮想的なサーバは以下の ような点で柔軟であり,ビジネス環境の変化にIT システムを素早く対応させることができる。 (1) サーバ手配時間の短縮 新たなサーバが必要になったとき,物理マシンの 購入手続きから始めると数箇月かかることも珍しく ないが,仮想サーバなら端末から指示するだけで, 数分程度で手配できる。 (2) 負荷の変化に対応 サーバ負荷の変化に対しては,サーバに割り当て る計算機資源(CPU,メモリ,I/O)の量や数を増 減する必要がある。サーバ仮想化では,仮想サーバ (ゲストOS)に割り当てる計算機資源を,端末から の指示で簡単に変更したり,スケジュールに基づき 割当てを変更したり,さらに割当てを自動的に最適 化することもできる。ライブマイグレーション技術 (図-3)を組み合わせると,高負荷な物理マシンか ら一部の仮想サーバを別の低負荷な物理マシンに移 すこと,あるいはデータセンタ全体の負荷が低く

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物理マシン VMソフト ゲスト OS ゲスト OS 物理マシン VMソフト ゲスト OS OS動作中に移動 図-3 ライブマイグレーション Fig.3-Live migration. なったときに,仮想サーバを一部の物理マシンに集 めて,空いたサーバの電源を切ることが可能である。 (3) ライフサイクルの違いに対応 業務アプリケーションは,いったん運用を始める と5年,10年と長期にわたり使い続けることがある。 一方,OSはマイナバージョンやService Packごと に見ると,修正パッチが出ている期間は多くの場合 数年間である。さらに,PCハードウェアは数箇月 で変化する。このようなライフサイクルの違いがあ るため,PCサーバの更新時期になると,新ハード ウェアに対応するため,OSの版数を上げなければ ならなくなるが,業務アプリケーションを新版の OSに対応させる予算がないとか,そのソフトウェ アに詳しい技術者がいなくなっているというような 事態がしばしば発生する。このようなとき,業務を OSごと仮想マシン上に移したり,あるいは最初か ら仮想マシン上で動かしたりすることにより,業務 アプリケーションやOSを変更しないまま,新しい ハードウェアに置き換えられる可能性がある。 ● ビジネス継続性を高めたい ビジネスを停止させない対策として,サーバ仮想 化技術を利用することができる。 (1) VMソフト層での冗長化 ネットワークやディスクアクセスに関して,VM ソフト層で冗長化することで,ゲストOS層に手を 入れずに,故障に強いシステムを構築できる。 (2) 保守時の業務継続 定期的なハードウェア保守,あるいはハードウェ アが故障し冗長性が劣化したときの緊急保守の際に は,電源を切断する必要がある。そのような場合で もライブマイグレーション技術を利用すれば,業務 アプリケーションやOSを停止せずに別の物理マシ ンに移動し,動作を継続させることができる。 (3) 別マシンでの待機や再起動 業務アプリケーションやOS,あるいはハード ウェアの致命的な障害発生時に,別の物理マシン上 で業務を継続運用する。ホットスタンバイ型の場合 は,サーバ仮想化により,複数の待機系を1台の物 理サーバに配置したり,サーバを切り替えるまでは 待機用の資源をほかの業務で有効利用したりするこ とが可能である。また,コールドスタンバイ型の場 合は,障害発生時に適切な物理マシンを選択してそ の上で再起動することができる。仮想マシンは,物 理ハードウェアの初期化が不要な分,物理サーバの 場合より起動時間が短い特徴がある。 仮想マシン技術を応用して,待機系とマシン命令 レベルで同期を取るフォールトトレラント(Fault Tolerant)技術も開発されている。 (4) 一括バックアップ VMソフト層でバックアップを行うことで,全ゲ ストOSのバックアップを一括して行うことがで きる。 (5) 災害対策 サーバ仮想化環境では,ゲストOSに手を入れる ことなく,VMソフト層で別地域のサーバにゲスト OSを複製し,災害に備えることができる。 ● 仮想アプライアンスを活用したい OSからアプリケーションまでを含んだ仮想アプ ライアンスは,従来のソフトウェアと同様に市場に 流通させることが可能である。仮想アプライアンス には,OSをインストールしただけのものから,そ のまま利用できるアプリケーションを含んだものま である。VMware用には,玉石混淆こうであるが,すで に1000以上の様々な仮想アプライアンスが登録さ れている。 仮想アプライアンスを発展させると,サービス指 向 ア ー キ テ ク チ ャ (SOA : Service Oriented Architecture)の各サービスを仮想アプライアンス で実現し,仮想アプライアンスを組み合わせること でシステムを組み上げるという,新しいシステム構 築手法も可能になるだろう。 仮想マシンの技術動向 メインフレームで確立された仮想マシン技術が, 現代のプロセッサに急速に吸収されてきたというの が最近の大きな流れであり,この流れは現在も続い

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ている。一方で,メインフレーム時代には存在しな かった前述のライブマイグレーション技術が開発さ れ,ライブマイグレーションに基づいた仮想マシン の新しいソリューションが発展中である。 本章では,今後PC系に普及すると思われる仮想 マシン技術について簡単に述べる。 ● メモリアクセスの高速化 仮想マシン環境では,OSが行うアドレス変換 (ゲストOSの仮想アドレスからゲストOSの物理ア ドレスへ)と,VMソフトが行うアドレス変換(ゲ ストOSの物理アドレスからマシンの物理アドレス へ)の2段階のアドレス変換が行われている。従来 のPCでは,1段階のアドレス変換しかサポートして いないハードウェアを利用して,2段階の変換を実 現していた。新しいプロセッサは,メインフレーム と同様に,2段階の変換をサポートし始めている (Intel の Extended Page Table , AMD の Rapid

Virtualization Indexing/Nested Page Table)。 ア ド レ ス 変 換 情 報 を キ ャ ッ シ ュ す るTLB (Translation Lookaside Buffer)も,複数のゲス トOSの情報を同時に保持できるようになり,ゲス トOSを切り替える度にクリアする必要がなくなる (IntelのVPID,AMDのTagged TLB)。 これらのハードウェアの支援により,ゲストOS からのメモリアクセスのオーバヘッドが更に小さく なると期待される。 ● I/Oアクセスの高速化 PC系の仮想マシン環境では,ゲストOSからの I/Oアクセスの度に,必ずVMソフトが関与する。 この関与をなくし,ゲストOSが直接I/Oハードウェ アにアクセスする直接I/O技術が提供されつつある (IntelのVT-d,AMDのIOMMU)。この技術により, I/O性能を物理マシン並みにしつつ,デバイスから の不正なアクセスからメモリを保護することがで きる。 直接I/Oを用いると,仮想マシンで隠蔽していた 物理デバイスの違いに再びさらされることになる。 したがって,仮想化したI/Oと直接I/Oを,要件によ り使い分ける必要がある。

● HBA(Host Bus Adapter)の仮想マシン対応 仮想マシン環境では,ネットワークやファイバ チャネルなどのHBAの数を節約するため,一つの HBAを仮想化して複数のゲストOSから共有するこ とができる。これをハードウェアで支援するため, 一つのHBAの中に,複数の仮想的なHBA機能を実 現したHBAが開発されている。 この技術は,前述の直接I/Oと組み合わせること が で き ,PCI-SIG で SR-IOV ( Single Root I/O Virtualization)などの仕様が標準化されている。 ● OSの仮想マシン対応 VMソフトの実現方式として,仮想化のオーバ ヘッドを減らすため,VMソフトに合わせてOS カ ー ネ ル を 変 更 す る , 準 仮 想 化 ( para-virtualization)方式があり,カーネルを変更しな い完全仮想化(full virtualization)方式と併用さ れている。 これまでは,物理マシン用のカーネルと,準仮想 化用のカーネルが別々に必要であり,OSの開発者 にとっても,利用者にとっても望ましい形ではな かった。準仮想化をサポートするVMソフトの種類 が増え,さらに状況が悪くなってきた。 この問題に対するLinuxコミュニティの答えが paravirt-opsである。paravirt-opsは,一つのカー ネルで,物理マシンや,複数のVMソフトに対応す る(OS起動時に指定)。paravirt-opsは,準仮想化 用の最新カーネル版数と,物理マシン用の最新カー ネル版数がずれる問題も同時に解決する。 あるVMソフト用の準仮想化カーネルを,異なる VMソフト上で動かす技術として,準仮想化カーネ ルとVMソフトの間に挿入するアダプタソフトウェ アの開発も進められている。 ● ストレージ仮想化との連携 これまで別々に管理されていたサーバ仮想化とス トレージ仮想化とを連携させ,一元管理することで, サーバ仮想化からストレージ仮想化のメリットを活 用しやすくする。 例えば,ゲストOSイメージの複製(クローン) にストレージ仮想化が提供する装置内高速コピーを 利用する。また,ストレージ仮想化の機能で,ゲス トOSが使用するディスクの内容を,別サイトのス トレージ装置に常に複製しておけば,災害時に別の サイトで業務システムを立ち上げることができる。 ● ネットワーク仮想化との連携 ストレージと同様に,ネットワーク仮想化とサー バ仮想化との連携も進められている。VMソフト内 の仮想ネットワークの管理と,物理的なネットワー

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仮想マシン技術の展望

表-1 富士通がサポートする代表的な仮想マシン関連ソフトウェア

サーバ種別 サーバ製品 仮想マシン関連ソフトウェア

メインフレーム GS21 AVM/EX(Advanced Virtual Machine/Extended) LDoms(Logical Domains),

Solarisコンテナ UNIXサーバ SPARC Enterprise

PRIMEQUEST仮想マシン機能 (Red Hat Enterprise Linux) 基幹IAサーバ PRIMEQUEST

VMware ESX Server Microsoft Hyper-V PCサーバ PRIMERGY

Linux仮想マシン機能 (Red Hat Enterprise Linux)

ク機器(スイッチやルータ)管理を一元化する。 例えば,ライブマイグレーションの際のVLAN設 定の変更を,仮想マシンの管理ソフトから自動的に 行うことができるようになる。VMソフトに対応し たネットワーク機器も出現してきている。 ● 仮想マシンから仮想プラットフォームへ 仮想マシンのメリットの理解が浸透するにつれ, 個々のサーバを仮想化するだけの世界から,複数の サーバやストレージ,ネットワークを含んだプラッ トフォーム全体を仮想する世界へ発展していくもの と考える。それに伴い,システムインテグレーショ ンも,すべて仮想化された世界で構築する形に徐々 に変わっていくと思われる。 富士通の取組み 富士通の仮想マシンへの取組みは,1980年の AVMにさかのぼる。AVMはメインフレーム向けの VMソフトであり,約30年の経験と実績を持つ。現 在,4系統のサーバ製品に対して,富士通がサポー トしている代表的な仮想マシン関連ソフトウェアを 表-1に示す。 富士通では,お客様に安心してご利用いただける ように,Sun Microsystems,VMware,Microsoft, Red Hatのそれぞれのベンダと提携して,強固なサ ポート体制を組んでいる。 2008年12月には「仮想化ソリューションセン ター」を開設した。(2) このセンターでは,仮想化シス テ ム の 専 門 家 集 団 に よ る 技 術 支 援 を 強 化 し , Platform Solution Centerを活用した仮想システム の検証支援,仮想化技術に関する情報発信などを推 進する。 オープンソースのVMソフトへも貢献している。 とくにXenについては,コミュニティ開発に参加し て貢献するとともに,(3) Xenがベースとなっている PRIMEQUEST仮想マシン機能やLinux仮想マシン 機能の品質向上につなげている。Xenで正式採用さ れた開発コードの実績数では,世界でもCitrixに次 ぐ第2位グループにつけている。国内ベンダで継続 して大きな貢献をしているのは富士通だけである。 2008年11月には,富士通がホストとなってアジア で初めてのXen Summit(Xenの開発者会議)を開 催した。(4) む す び 仮想マシンの技術は急速に進歩しており,PC系 の仮想マシンも本格的な展開時期に入ってきた。富 士通としては,仮想マシン技術を今後のITシステ ムのキー技術ととらえ,引き続き開発と技術支援を 行う。9割以上で仮想マシンが用いられている大型 メインフレームと同様に,PC系でも今後仮想マシ ンが当たり前の技術になり,仮想化による様々なメ リットがビジネスの武器として活用されることを期 待している。 参 考 文 献

(1) Jim Smith et al.:Virtual Machines:Versatile Platforms for Systems and Processes . Morgan Kaufmann,2005. (2) 富士通プレスリリース:「仮想化ソリューションセ ンター」を開設. http://pr.fujitsu.com/jp/news/2008/12/22.html (3)小口芳彦ほか:サーバ仮想化技術とその最新動向. FUJITSU,Vol.58,No.5,p.426-430(2007). (4) Xen Summit Asia 2008.

http://www.xen.org/xensummit/ xensummit_fall_2008.html

参照

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