自国発
ブランドの海外への移転研究
∼日本から韓国へ,製品戦略・ブランド戦略の移転∼
滋賀大学経済学部教授
林 廣茂
1 ブランド移転:何を移転するのか 1−1 テーマの設定 1-1-1 はじめに 1990 年代に盛んになった日本のブランド論もまた、新しいマーケティング論として国内 向けでは現在、日本的な習熟と創造のレベルに達している。他方同じく 90 年代初期から 急速に進行しているマーケティングのグローバリゼーションの中で、本章の関心領域であ る消費財の分野でも、日本のマーケティングは、グローバル対応の競争戦略を構築する役 割を課せられている。 これを日本のマーケティングの「グローバルな移転」と考えると、移転するのは以下の 4P(移転の 4P)である。①製品戦略(Product:製造技術、製品コンセプト、ブランド を含む)、②プログラム(Program:広告クリエイティブ、販促、流通などのプログラム)、 ③プロセス(Process:製品、ブランド開発の手順、広告戦略立案の手順、ブランド・マネ ジメントのマニュアル、調査システムなど)、④人と人の交流や共同作業を通した知識やノ ウハウの移転(People)。本章では製品戦略のうち特に、国内で獲得したブランドの価値 体系1(BIブランド・アイデンティティ、BBブランドの具体的な価値であるベネフィット =便益、BEブランド・エクイティ)の海外移転に焦点を絞る。 以下ブランドの価値体系をブランドと言う。その海外への移転をブランド移転、海外で BEを獲得するために競争力のあるブランド価値を創造することをブランド戦略の移転と 呼ぶことにする。 日本発ブランドの移転ではこれまで、主としてアメリカにおける家電、自動車、カメラ といった耐久消費財の分野で、「トヨタ」、「ソニー」、「キャノン」などの企業ブランドによ る成功物語に見られる「結果としてのブランド価値とブランド・エクイティ」についての 知見があった。 他方FMCG の分野ではこれまでまったくと言ってよいほど、欧米企業(P&G、コルゲ ート、ネスレ、ユニリーバ、コカ・コーラなど)によるブランド戦略のグローバル移転の 成功物語を取り上げることに終始している。ここでも取り上げられているのは結果として の「ブランド価値とブランド・エクイティ」である。 1 Aaker(1996)、青木(2000)による。1-1-2 ブランド移転のフレーム・ワーク しかし、日本発ブランドの移転戦略を構築するためのフレーム・ワークや道筋、につい てはほとんど論議されてこなかった。家電や自動車などの耐久財の他にFMCGの分野でも、 多くのブランドが日本国内でBEを獲得しているのだから、これらのブランドがSAL移転や AI移転2 を通してグローバルにBEを獲得していくためのフレーム・ワークやガイドを呈示 していくことも、ブランド論やブランド戦略の移転論に携わっているわれわれの責務であ ると考える。このことを筆者は、本章での「ブランド移転研究」の中心課題とする。 グローバル・マーケティングの実態を、「競争はグローバルで、消費はローカルである が、徐々にグローバルな共通性が広がっている。それをつなげるのが戦略形成プロセスの 標準化」ととらえかつ実践している筆者は、国別(地域別)と製品(サービス含む)カテ ゴリー別のブランド移転研究があってしかるべし、と考えている。国別や製品カテゴリー 別に消費者のニーズは、差異性の方が共通性よりも一段と大きいのが現実である。3 国 別、製品カテゴリー別にブランド移転を成功させるには脈々ならぬ企業努力が必要なので ある。 1-1-3 日本から韓国へのブランド戦略の移転を研究する 本章では、主として日本から韓国へ、そして一部は韓国から日本へ、本格的な「ブラン ド移転」の気運が高まりつつある現状を踏まえて、先駆的に、「ブランド戦略の移転」への 展望を論じようとしている。具体的に取り上げる製品カテゴリーは主として乗用車と化粧 品の2 分野である。 2 林(1999)は、移転する側が外国(企業)などから自主的にマーケティング技術の4P(プロ ダクト、プログラム、プロセス、ピープル)などを学ぶモードを、AI移転、と定義している。 採用と模倣(Adopt and Imitate)、応用と革新(Adapt and Innovate)、習熟と創造(Adept and Invent)の頭文字である。他方外国(企業)へ自主的にマーケティング技術を移転するモード を、SAL移転、と名付けた。標準化(Standardization)、適応化(Adaptation)、現地化 (Localization)の頭文字を利用した。但し移転のモードとその有効性とのリンクには触れてい ない。諸上(2000)は、移転のモードとマーケティング競争力との関連はない、と述べている。 3 国家の違いによるニーズの共通性と差異性については、共通性派と差異性派の議論が続いて いる。Levitt(1983)、DomzalとUnger(1987)などは前者の論客であり、Kotler(1986)、Wind (1986)などは後者に属する。筆者の立場は両方の中間である。国境を越えたグローバルな共 通ニーズのセグメントが拡大しつつ一方で、消費者のライフ・スタイルやそこから派生するニ ーズは、国別(across countries)の差異性の方が国内(within countries)の差異性より一 段と大きい、というEshghi and Sheth(1985)の研究結果に賛成する。
1-2 製品戦略とブランド戦略、その移転の系譜 1-2-1 1999 年以前:韓国企業による AI 移転の 2 つのパターン 日本発の製品戦略やブランドの韓国への移転にはこれまで、大きく言って2 つの流れが あった。先ず日本発ブランドの韓国への移転である。現在韓国市場で成功している主要な 日本発の消費財ブランドは、数としては多くはないが、それぞれの製品分野で 1∼2 位か それに準じるシェアを獲得している。発売開始が早い順に、飲むヨーグルトの「ヤクルト」 (スタートは1971 年)、フィルムとレンズ付フィルムの「フジフィルム」(同 1974 年)、 ガステーブルの「リンナイ」(同1974 年)、訪販の化粧品「ポーラ」(同 1986 年)、スポー ツ飲料の「ポカリスエット」(同1987 年)、たばこの「マイルドセブン・ライト」(同 1989 年)、プレミアム化粧品の「SHISEIDO」(同 1997 年)などである。 JTの「マイルドセブン・ライト」と「SHISEIDO」を除いてこれらのブランドのマーケ ティングの主体性は韓国側パートナーがスタート時点から握っている。もともと韓国側が これらの製品分野を韓国初で導入するためまたは既存分野での競争力を獲得するために、 日本側にブランド名の導入を含む製品戦略・ブランド戦略の日本からのAI移転を申し入れ たのである。日本側はブランドの使用権と製造面での技術や中間資材の提供をし(合弁の 生産会社を設立したケースもある)、マーケティングでは韓国側がイニシアティブを取り、 日本側はアドバイザー役に留まっている。4 JTは支店を経て 100%の現地法人を設立し、韓国内に独自の販売代理店網(卸に相当) を構築する道を選んだ。5 最初の数年間は日本製ということだけで販売店(町のたばこ店) から取扱いを拒否されたり、1995 年の独立 50 周年には日本製品のボイコット・キャンペ ーンの最大の標的になったりした。しかしこういった紆余曲折はあったが、現在では輸入 たばこ市場(全体の10%)の第一位ブランドである。 資生堂はそれ以前 20 年間近く現地企業と戦略提携(製造技術やマーケティング・ノウ ハウの提供)を行い、資生堂の製品ブランドの販売とマーケティングをその企業に依存し ていた。しかし期待した成果が得られなかった。そのためグローバル・マルチブランド展 開を機にマジョリティーを持つ合弁会社に切り替えて、百貨店を中心に「SHISEIDO」ブ ランドといくつかのファミリー・ブランドの受容性拡大に注力している。6「SHISEIDO」 ブランドのBE評価はかなり高い。 もう一つの流れは、ブランドを伴わない日本企業の製品戦略を韓国企業がAI移転して、 4 これらのブランドの韓国への移転について、当該日本企業と韓国企業の関係者から証言を頂 いている。 5 JTの韓国へのブランド移転については、1991 年から 1995 年にかけて直接韓国でのマーケティ ングに携わり現在、事業企画室次長である今林秀二氏の論文(2000)及び氏とのインタビューな どによる。 6 資生堂の韓国でのマーケティング展開については、同社海外セルフ営業部長前田新造氏の論 文(2000)及び氏とのインタビューなどによる。
韓国で新たにブランドを作り「国内初」の製品導入をするか、既存製品への競争力を獲得 することである。7 そのため日本企業から、技術ライセンス契約を結んで製品化技術の提 供を受けたり、中間資材を購入する。製品コンセプトの提供も受ける。そしてブランド戦 略やマーケティング戦略はすべて韓国サイドが作り上げて実践する。その他にもライセン スなどを伴わない製品、サービス、小売店などのコンセプトやノウハウの無断でのAI移転 は現在でも日常茶飯事化している。 このパターンの韓国への移転は実は、耐久・非耐久を問わず消費財だけを考えた場合で も、日本からの移転がない分野を探すことが難しい。自動車、AV 機器、時計、カメラ、 シャンプーや洗剤などのトイレタリー、化粧品、加工食品(スープやカレー)、外食産業、 喫茶店、ブティックなどなどがこれに当てはまる。カラオケの人気ぶりは元祖の日本を凌 ぐほどである。 このことを後で検証するが、日本発ブランドに対してある製品カテゴリーでは、「日本」 へのネガティブな原産国評価が生じるために、ある種の反発や対抗心が表面に現れてくる のだが、「日本という国家ブランド」のラベルがなければ、日本発の製品やサービスを韓国 人は大変好む、ということを裏付けている。 1-2-2 そして今、ブランドの相互移転が始まろうとしている 1999 年 6 月末に韓国が遂に、日本メーカーの自動車や AV 機器の輸入禁止を撤廃した。 その前年に金大中大統領によって「日韓の不幸な歴史を乗り越えて、(中略)、未来志向的 な関係を発展させる」との発言がなされその結果、特に韓国側から日本へのアニモシティ (反日感情)が和らぎつつある。と同時に日本文化の公式的な輸入禁止も段階的に解かれ つつあり、日本発の映画やアニメーション、POP 歌手の公演が若者を中心に人気を集めて いる。 このように日本という国家のイメージが、公式的にもかつてのマイナスからプラスに転 じる気運が生れつつある中で、日韓双方の企業の主体でそれぞれ相手国へのブランド移転 が本格化されようとしている。 2001 年 1 月から、トヨタ自動車が 100%の現地法人を設立して「レクサス・シリーズ」 (日本でのブランドは、セルシオ、アリスト、アルテッツア、ハリア)の韓国での輸入販 売を開始した。高級車セグメントで、「IT 長者」と言われる富裕層(成功した自営業者を 含む)に初年度は年間900 台を販売する計画である。12 月末現在で 841 台販売したとい われている。 他方同じく2001 年 1 月から韓国のトップ・メーカーである現代自動車が 100%出資の 日本法人を通じて、若者向けの大衆モデル( 3 車種)の日本での発売を開始した。「エラ 7 林(1996、1999)は、韓国企業による日本の製品・サービス及びそのコンセプトの韓国への AI移転のケースを多く収集して紹介している。
ントラ」(1,800 cc/2,000 cc,セダン)の他に「トラジェ」(2,000 cc/2,700 cc,ミニバ ン),「サンタフェ」(2,400 cc/2,700 cc,SUV)がある。20 代か 30 代で自分のライフ・ スタイルを自己表現したい人達をターゲットにした車種である。日本の各対抗モデルより 10∼20%低い価格設定している。初年度で 1,112 台販売した。 資生堂は、そのグローバル・マルチブランド戦略の展開を韓国でも加速させるため、 「SHISEIDO」の他にも、「イプサ」ブランドで百貨店で新たにコーナー作りをスタート させた。更には2001 年の 2 月から、セルフ化粧品として「アスプリール」(スキンケア)、 「マシェリ」(ヘアケア)、「ウーノ」(男性化粧品)の日本でのベスト3 ブランドを、企業 ブランドである「SHISEIDO」を冠にしないで、量販店ルートで発売開始した。 韓国で第一位の化粧品メーカーである太平洋が、韓国で最も強いBE を確立したプレミ アム・ブランドの「ヘラ」(総合化粧品)や「雪花秀(ソラスー)」(スキンケア)を日本へ 導入すべく、日本の化粧品卸店との共同作業を進めている。日本人と韓国人の肌の性質が 大変類似していると言われているので、スキンケアを中心に韓国製品に対して日本女性の 受容性がある、と期待してのことである。 1-3 ブランド戦略の移転 1-3-1 マーケティングの移転理論をブランド移転研究へ応用する 筆者は数年来、国境を越える日本のマーケティング移転理論を構築する研究を続けてい る。本章の目的に沿って、現在までに練り上げた移転のフレームワークをブランド戦略の 移転に利用する。日韓間の製品戦略・ブランド戦略移転の過去と現在を検証し、主として 日本から韓国へのブランド戦略とその移転の将来を展望する。 1-3-2 ブランドの何を移転するのか これを論じるためには先ず、今日到達しているブランド論の成果や筆者の実務経験に依 りつつ、ブランドとは何か、競争力があるブランド・アイデンティティ(BI)、ブランド 価値(BV)や信頼感(BC)、消費者の評価結果としてのブランド・エクイティ(BE)と は何か、を整理しておきたい。8 (1)ブランド価値の創造とブランド・エクイティ評価 企業が作り上げる製品はブランド化されて、消費者にとって意味(価値)のある商品に 転換される。ブランド価値が消費者の支持を得ることで企業に売上や利益をもたらす。 8 ブランド論の成果については、Aaker(1991, 1996)、Kapferer(1997)、Keller(1998)、 Ries et al. (1998)、小川(1994)、青木他編著(1996,1997、2000)、石井(1999)、片平(1999)、 嶋口他(1999)、などを参考にした。
企業は図1 で示したように、商品属性や企業属性などを組合せてブランド・アイデンテ ィティの要因を決定し、消費者にとってのベネフィットや信頼性を創造して(=価値創造) 商品として市場に送り出す。消費者は自分の価値観やライフスタイルに適合するブランド を買って使用する。その結果がブランドの評価(=BE)として企業の資産となる。BE を 最適にマネジすることで企業に永続的な売上と利益をもたらす。 図 1 ブランドと売上の関係 企業 によるブランド価 値(BV)の創造 ブランドのア イデンティティー (BI)の決 定 1.商 品 属 性 2.企業属性 3.パ ーソナ リティー 4.シンボ ル 1.機能的ベネフィット 2.情緒的ベネフィット 3.自己表現的ベネフィット ブランド・ベネフィット (BB)の提案 消費 者によるブランドの評価 1.ブラン ド・ロ イヤ ル ティ 4.信頼性 ブランド・エクイティ(BE) 4.ブラン ド連 想 売上 / 利益 David A. Aakar (1991,1996) を基 に作 成 5.その 他 の ブラ ンド資産 2.ブラン ド認 知 3.知 覚品質 (2)ブランド価値の構造 周知のようにブランド価値の中身であるベネフィットには階層性があり、9 更に製品タ イポロジーによってそのベネフィットの具体的な中身や重要度が異なっている。10 9 Aakerによるベネフィットの階層性の他に、ReynoldsとGutman(1988)のラダリング法によ る価値の階層モデルがある。両者のコンセプトは少し異なっているが、ブランドが提供する価 値は、物理的・機能的ベネフィット以上のものである、という強い共通性がある。 10 ブランド・ベネフィットの階層構造とその重要度について、陶山(1996)が以下のように論じ ている。ブランドをハード型ブランドとソフト型ブランドに分けて、ハード型ブランドではハ ード機能の価値がより重視され、ソフト型ブランドではソフト型機能の価値がより重視される。 林(1999)は、製品のタイポロジーによって、提供するベネフィットが機能・性能中心から文化・ 心理中心の間で変化するという仮説を立てた。ただしベネフィットの重要度が製品タイポロジ ーによって変る、という見解は今回初めて文章化した。
筆者はベネフィットの重要度が、製品タイポロジーによって異なることを、日韓両国で のケースを通して確認している。図2 で示したように、家電、自動車、洗剤といった分野 のブランドの価値構造は主として、製品の技術の高さや原料品質の良さに(=製品特徴) 大きく左右される性能・機能ベネフィットがコアになっている(タイプⅠ)。 図2 製品タイポロジーと製品ブランド価値構造 タイプ
I
タイプII
タイプIII
自己表現的ベネフィット 情緒的ベネフィット 機能的ベネフィット 製品特徴 機能・性能ベネフィット 製品(Product - bound製品) 文化・心理ベネフィット 製品(Culture - bound製品) アーカー (1996) ,ガットマンとレイノルズ (1984)を基に,各階層の重要性を加味した。 折衷 ベネフィット製品 自己表現的ベネフィット 情緒的ベネフィット 機能的ベネフィット 製品特徴 自己表現的ベネフィット 情緒的ベネフィット 機能的ベネフィット 製品特徴 Aaker(1996)、Reynolds と Gutman(1988)を基に、各断層の重要性を加味した。 化粧品や加工食品のような文化・心理的ベネフィットの製品分野のブランド価値は同じ く原則として、自己表現的及び情緒的ベネフィットがコアとなる(タイプⅢ)。 他方機能・性能ベネフィットの製品分野に属する「ソニー」の「ウォークマン」とか、 「ホンダ」の「アコード」といった特定のブランドを分析すると、「自分のライフスタイル」 の表現として「ウォークマン」を利用したり、「洗練さ」の自己表現として「アコード」を 愛用している多くの人達がいる。現代自動車(韓国)の最高級車「ダイナスティ」は大企 業のオーナー会長が運転手付きで乗る車であり、名前の意味「王朝」から言っても富や権 力を表現している。これらの製品分野はだから、益々折衷ベネフィット構造の価値を提供 している(タイプⅡ)。 シャンプー分野では、同一ブランドであっても、東南アジアではより機能重視(タイプⅠ)で、日本や韓国では情緒的及び自己表現的ベネフィットも重視される価値構造になる のが普通である(タイプⅡ)。11 企業ブランドの信頼性は、信頼感がある、好意が持てる、有名である、といった次元で 構成され、それが製品分野などの違いによって図3 で示したように、その次元の重要度が 変る。 図 3 製品分野と企業ブランドの信頼性構造
タイプ
A
タイプ
B
タイプ
C
自動車やAV分野の企 業ブランド Popular ( 広告のセンス,話題性) 好意 (好意,身近か) 信頼感 (サイズ,技術力,信頼) ノヴァクション社の社内データ・ベースを基に作成した。 Popular (広告のセンス,話題性) 好意 (好意,身近か) 信頼感 (サイズ,技術力,信頼) Popular (広告のセンス,話題性) 好意 (好意,身近か) 信頼感 (サイズ,技術力,信頼) トイレタリー分野の企業 ブランド 化粧品やファッション分野 の企業ブランド 1-3-3 国境を越えるブランドの移転 日本から韓国へ、ブランド及びブランド戦略を移転するというのはどういうことなのか。 以下に整理しておきたい。「移転元国(日本)で獲得した(成功した)ブランド・エクイテ ィ(BE)評価が移転先国(韓国)でも期待通りに得られ、期待売上(またはシェア)や利 11 ユニリーバの「ラックス」、P&Gの「ビダルサスーン」のアジアでの展開でこのことが観察さ れている。益が実現できたら、ブランド移転は成功したと言える」、とブランド移転の目的を定義する。 そのためには、移転元国で創造されBEを確立したブランドの価値体系が、それを構成す る①BI、②BB、③BCと共に、移転先国の消費者に受容されるような(つまり移転先国で も競争力がある)ブランド価値とその構成要因である①BI、②BB、③BCに翻訳されなけ ればいけない。12 つまりブランド移転とは、移転先国でブランド価値体系を新たに創造 することである。そしてそこでも消費者に支持されて期待通りのBEを獲得することである。 日本発ブランドを韓国企業が主体となって韓国へ移転したこれまでのパターンに特徴 的なことは、「日本発」であることをBI として使わないで実質的に韓国ブランドとしてブ ランド価値を移転することだった。また日本発の製品戦略を韓国企業が主体となって韓国 へ移転したパターンでは、韓国企業のオリジナルブランド名を付けた上で、中身は日本発 のブランド価値を韓国市場で再現するという方法であった。 本章で論じられる「ブランド移転のフレームワーク」はもちろん、日本企業が主体で日 本発ブランドとその戦略を韓国へ移転することについてである。 2 ブランド移転の促進要因と阻害要因 2-1ブランド移転のフレーム・ワーク 2-1-1 移転プロセス・モデル 移転元国(日本)から移転先国(韓国)へ、日本企業が主体的...にブランド戦略を移転す るための「ブランド戦略の移転プロセス・モデル」を図4 に示した。13 このプロセスを経 て日本発のブランドを韓国へ移転するとすると、その移転が成功するかどうかはプロセス (Ⅰ)、(Ⅱ)、(Ⅲ)を構成する要因を理解する企業の能力、促進要因を最大限に取り込み つつ阻害要因のインパクトを最小化してブランド戦略を韓国向けに翻訳する企業の戦略立 案能力、にかかっていることは論を持たない。 図 4 ブランド戦略の移転プロセス・モデル 12 例えばKeller(1998)は、ブランドのグローバル移転について、「本国での強いブランド・ アソシエーションが自動的に他国に移転できると考えるのは間違い」(560 頁)、「製品カテゴリ ーの需要があるとしても、自社のブランドが成功するかどうかは別の話」(560 頁)と述べる。 13 林(1999)の 31 頁から 49 頁をもとにして移転プロセス・モデルを考えた。
移転元国(韓国) でのブランド戦略 ブランド価値の創造 (BIの決定 とBBの提案) BE評価 ブランド戦略の移転プロセス・モデル 機能・性能製品 文化・心理製品 折衷製品 小 強 小 弱 大 弱 大 強 (共) (受)(共) (受) ① ② ③④ 1.プロダクト 2.プログラム 3.プロセス 4.ピープル (Ⅲ)マーケティング移転の 4P‘sとその競争力の測定 (Ⅰ)経済・物質文化と 社会・精神文化の理解 受容性(強弱) 共通性 ︵ 大小︶ 林 (1999),pp. 33-49,を基に作成した。 移転元国(日本) でのブランド戦略 ブランド価値の創造 (BIの決定 とBBの提案) BE評価 (Ⅱ)製品タイポロジー による需要構造の発見 2-1-2 環境要因とその消費者の態度や行動へのインパクト 本説と次節でプロセスの(Ⅰ)→(Ⅱ)の順に、日本からのブランド移転の成否を左右 する環境要因の仮説抽出とその検証を行う。(Ⅰ)がマクロ環境分析に相当し、(Ⅱ)がミ クロ環境分析に相当する。プロセス(Ⅲ)は、第四章でカバーする。 2-2 プロセス(Ⅰ)文化要因 2-2-1 ブランド戦略の移転を左右する マーケティング技術の移転(移転の4P)の中身やスピードは、日本と韓国それぞれ、 マーケティング・インフラストラクチャーを構成する文化要因の発展度合の共通性(大小) や相互の受容性(強弱)に左右される。 ここでは経済・物質文化(EMC)と社会・精神文化(SSC)に焦点をあて、主として製 品戦略やブランド移転戦略に影響を与える要因を取り出す。これらの要因は企業が直接操 作することのできないマクロ環境要因であるが、消費者の態度や行動を左右する。だから 企業のブランド移転戦略を促進する要因であったり、阻害する要因であったりする。そし
て長期的には、企業のマーケティング活動がそれらの要因の進歩や発展をもたらすことに もなる(図5)。 プロセス(Ⅰ)のEMC と SSC の共通性と受容性は次のように説明される。先ず EMC の要因である。 図 5 文化要因 グローバルなブランド文化(GBC)の発展度合 (共通性の度合) マーケティング文化(MKC)の発展度合 (共通性の度合) 経済・物質文化(EMC)の発展度合 (共通性と受容性の度合) 社会・精神文化(SSC)の発展度合 (共通性と受容性の度合) ブランド・マーケティング の発展プロセス 社会進歩の 循環プロセス 林 (1999),p. 22,より一部変更して転載 2-2-2 経済・物質文化の要因 日本のマーケティング技術(移転の4P)がおびただしく韓国に移転されている事実を、 GDP で代表される日本と韓国の経済規模の大小(日本 500 兆円、韓国 45 兆円、1999 年) とか特許登録件数で代理される技術開発力の強弱(日本が20 万件で世界一、1997 年)に 関連づけて説明する。つまり経済力・技術力格差を利用した日本から韓国への移転である。 1970 年代から今日まで、日本から韓国へあらゆる製品分野で、韓国企業の主体でマー ケティング技術(移転の4P)が移転されたのは、韓国企業が日本の一段と先行したマー ケティング技術(移転の4P)を求めたからである。消費財に限らないが、同期間日本か
ら韓国への直接投資の累計額や技術供与件数の累計数は、日本企業によるものが第一位を 占めている。アメリカが第二位である。このことも、日本から韓国へのマーケティング技 術移転の多さの傍証になるだろう。 乗用車の市場サイズや普及率は、GDP/1 人当りで説明される。14 1997 年日本と韓国 の自動車の保有台数は7,000 万台と 1,000 万台で,人口 1,000 人当りの保有台数では、557 台と226 台である。販売台数では同年で 580 万台と 120 万台である。高額な輸入乗用車の 市場サイズは日本約26−27 万台で、韓国 7,000−8,000 台である。 周知のように韓国はアジアで日本に次ぐ経済力を持ち、耐久、非耐久を問わず消費財市 場は大きい。日本と韓国のそれぞれ大きな消費市場に、日本発のブランドや韓国発のブラ ンドが相互にあまり(ほとんど)移転していないのが現実である。他方台湾、香港、アセ アン諸国では日本発ブランドと韓国発ブランドが多く移転されてそれぞれ受容されている。 だからEMC 要因は日本から韓国への資本及び技術の移転や、韓国市場のサイズとかポテ ンシャルを推定するのには有用だが、日本発のブランド移転を必ずしも促進する要因とは 言えない。むしろ日本の経済力の強さが反発要因となり、ブランド移転が阻害されている 面もある。以下で取りあげる。 2-2-3 社会・精神文化の要因 マーケティング技術(移転の4P)、なかんずく日本から韓国へのブランド移転は、ほと んどの場合日本という「国家ブランド」の何らかのイメージと一緒に移転する。つまり「ソ ニー」、「資生堂」、「トヨタ」などのブランド移転それ自体が、とりもなおさず現代の日本 文化の移転でもある。だから両国のSSCの共通性や相互の受容性に強く左右されるのがブ ランド移転の営為である。図4(Ⅰ)のマトリックスは特にSSCについて、共通性(大小) と受容性(強弱)の 4 類型を示している。15 共通性(アフィニティ)のSSC要因として は言語、宗教、価値観、ライフスタイル、16 などがあり、受容性のSSC要因には主とし て消費者愛国主義(CP)や原産国(COO)評価があって、これらの共通性と受容性の度 合が消費行動のパターンに強く影響することが多くの研究で実証されている。17 消費者 14 国土が広大な国(米国と豪州)と国土が狭い国や地域(シンガポールと香港)を除くと、 多くの国でGDP一人当りと人口 1,000 人当りの保有台数が強くリンクしている。小坂(1997) は、GDP一人当りのサイズと多くの消費財の普及率(乗用車、テレビなど)を、世界 20 カ国以 上について回帰分析によって、関連付けている、75―93 頁。 15 詳細は林(1999)、31−49 頁を参照のこと。 16 文化的アフィニティと消費行動パターンの類似性については、Usnier(1996)、203―241 頁、に詳しい。 17 消費者愛国主義や原産国評価の消費行動パターンへの影響力を論じた研究は大変多い。年 代別に筆者が参考にしたのは以下の通りである。Nagashima(1970,1977)、Hampton(1977)、 Morello(1984)、Lumpkin et al.(1985)、Johanson & Thorelli (1985)、Johanson & Nebenzahl (1986)、Heslop et al.(1987)、Min Hon(1988)、Ahmed et al. (1994)、Gürhan-Canli et al.(2000)。 消費者愛国主義とは、①自国製品を外国製品より一段と好む態度や行動、②自国製品が一段と
愛国主義の逆は相手国への強い反発や対抗心となることもある。原産国評価にはポジティ ブとネガティブの側面がある。 2-2-4 日本と韓国での(Ⅰ)と(Ⅱ)の関連性 図 4(Ⅰ)の象限④が日本と韓国の双方向(↔)に関連する関係で、SSC 同士の「共通 性は大きいが受容性が弱い」のである。そのため両国間の現在までのブランド移転につい て言えば、日本と韓国のEMC のレベル(アジアで 1 位と 2 位の所得水準など)から見る と、双方向での活発な移転があってしかるべきなのに、実際には移転がなかなかはかどら なかった、ということである。 筆者は、「乗用車やAV 機器のような機能・性能製品は、製品の国際比較優位性が強い国 (例えば日本)から弱い国(例えばアメリカへ)へ相対的にスムーズに移転される」(林 1999)、と論じた。日本の経済規模が今日のように大きくなれたのは、アメリカやヨーロ ッパで日本発の機能・性能製品が比較的にスムーズに受容されたからである。しかし日本 ↔韓国で見ると、グローバルな競争力を持っている日本発の「トヨタ」や「ホンダ」、韓 国発の「現代(ヒュンダイ)」や「三星(サムソン)」などのブランドさえも双方向の移転 をほとんど実現していない。お互いの「文化の受容性が弱い」ことがその理由である、と 考える。具体的には自国製品に対するCP が強く相手国へのネガティブな COO 評価があ るのではないか、ということである。 他方化粧品や加工食品のような文化・心理製品の移転について、SSC の共通性の大小に かかわらず、移転先国での移転元国の「文化の受容性が強い」場合に、相対的にスムーズ に行く、とも論じた。日本と韓国の間では、SSC の共通性が「大」であるが受容性が「弱」 であるために、非耐久消費財分野のほとんどすべてといって良い製品カテゴリーで、日本 発でも韓国発でもブランド移転が見られないのが現実である(韓国側がイニシアティブを 取った「フジフィルム」、「ヤクルト」などいくつかの日本発ブランドを除く)。 2-2-5 個人の価値観の態度や行動へのインパクト SSC 要因である言語、宗教、価値観は、その国の長い歴史、伝統に育まれて形成されて おり、短期的には変化しない。特に価値観は客観的尺度で測定し辛いにもかかわらず人々 の態度や消費行動にその国特有のパターンを与えると言われる(図6)。だから日本の企業 とそのブランドの移転にとって、韓国人の価値観は促進要因にもなり、法規制とは別の自 然の参入障壁(Natural Entry Barriers:NEB)にもなる。
良いという思い込み、③自国製品を買うのが当り前という”Buy National”な行動、を意味する。 原産国評価は、移転元国やその製品に対する知覚評価であって、①ある国家の一般的なイメー ジ(連想)、②特性製品分野でのある国家のイメージ、③企業ブランドや製品ブランドに対す る①と②の関連、と定義する。
図 6 文化要因(国家や民族に特有なもの) 個人の態度や行動 購入・使用行動 文化の源泉 1. 言語 2. 国籍 3. 教育(一般) 4. 職業(専門) 5. グループ(人種) 6. 民族 7. 宗教 8. 家族 9. 性別 10. 社会階層 11. 企業(組織)文化 マーケティングによる 消費者理解の領域 文化とは優劣ではなく、しかも客観的尺度で測定し辛い。 Usunier (1996), p.12, をもとに作成 個人の文化 価値判断基準 やニーズ 自己と他者間の文化 のインターラクション 2-2-6 消費者愛国主義と原産国評価の態度や行動へのインパクト SSCのもう一方の要因である自国や自国製品に対するCPや、他国や他国製品に対する COO評価も短期的にはなかなか変化しない。18 そして韓国人の態度や行動を左右する。 例えば日本発のブランドであるかフランス発であるか(COO 評価がプラスなのかマイ ナスなのか)、乗用車か化粧品か(製品タイポロジーによってCP や COO 評価の発現が変 化する)、そして国産品愛好の度合が強いかどうか(極端な場合排外的になるかどうか)な ど、によって知覚評価とそれに応じて態度や行動が変るだろう。このことの科学的客観性 を論じることにあまり意味はないが、強い現実であり、日本企業による日本発のブランド 移転戦略は韓国人の CP の程度や COO 評価の違いによる知覚評価を理解して、多くの適 応化をしなければならないだろう。 18 ここで想定している原産国としての日本とは、企業とその製品ブランドの出身国としての日 本である。
第一節で取り上げた韓国企業のイニシアティブによる日本発の製品戦略やブランド戦 略の移転は、韓国人の日本に対する直接的な対抗的CP やネガティブな COO 評価を避け るための「迂回戦略」だった、と言えよう。日本企業の主体でブランド移転する場合には、 対抗的CP やネガティブな COO 評価が直接日本企業とそのブランドに向けられることが 十分考えられる。 2-2-7 まとめ 日本発ブランドの韓国への移転戦略を構築するためには先ず、韓国人の①価値観、②消 費者愛国主義と原産国評価、に代表されるSSC 要因とその態度や行動へのインパクトを理 解することが大切である。その上で韓国市場に向かってブランドの移転戦略を構築すべき である。これまでに筆者は、これらのSSC 要因を測定し、その中身を知り態度や行動への インパクトを解釈する努力を続けてきた。以下に調査の目的と概要を示す。 2-3 社会・精神文化要因の測定 2-3-1 価値観の測定 消費者の態度や行動を強く左右すると言われている価値観を、Hofstede(1980)に倣っ て4 次元で尺度化し(5 点評価)、日本人と韓国人について比較した。4次元とは、①権力 の集中度合、②個人主義志向と集団主義志向の度合、③男性的と女性的の度合、④リスク・ テイキングの度合、である。 検証しようとした仮説は、①乗用車や化粧品などに対する韓国人の態度や行動は、上記 4次元で評価される価値観に関連づけて説明できる(仮説1)、②日本、日本発製品やブラ ンドに対する韓国人のCP や COO 評価は、他の国(アメリカやドイツなど)、その製品や ブランドに対するCP や COO 評価とは異なる(仮説 2)、である。 調査は 1998 年、両国の広告・マーケティングの専門家(企業の広告・マーケティング 担当幹部及び大学等の研究者:日本45 名、韓国 53 名)を対象にして実施した。年令分布 は30 代後半から 50 代である。代表性よりも質的精度を重視した。また調査後にインタビ ュー形式で、評価点の理由を自由解答してもらった。 2-3-2 CP と COO 評価の測定① その①として、工業国19としての日本と韓国について1994 年、ソウル(359 名の男女) と東京(270 名の男女)でアンケート調査をした。年令分布は 20 才から 49 才までである。 ①工業国の好ましさを10 点法で測定した。②そして 17 の属性について 7 点法で国別の知 19 工業国家とは、「乗用車、カラーテレビ、時計、カメラ、フィルム、洗剤、ビール、化粧品 など日頃私達に馴染みの深い製品を生産・販売しているメーカーの出身国」、と定義した。
覚評価をした。日本と韓国を直接比較することを避け、アメリカ、ドイツなど5 カ国を加 えた相対評価をした。検証しようとした仮説は、日韓双方でブランド移転が活発でないの は、①それぞれ相手国に対してネガティブなCOO評価イメージを持っている(仮説 3)、 ②自国製品に強いCPを持っている(仮説 4)、からである。 2-3-3 CP と COO 評価の測定② その②として、乗用車と化粧品それぞれについてその原産国である日本と韓国への、① 好意度測定(10 点法)と、②17 の属性評価(7 点法)を行った。 1999 年、乗用車の原産国として日本と韓国の他に、アメリカ、ドイツなど 5 カ国を加 えて評価した。対象者は東京とソウルで各150 名で、乗用車を所有する(RV やミニバン を含む)30 才から 45 才の男性である。 化粧品は2000 年、日本(東京)、韓国(ソウル)、フランス(パリ)、アメリカ(ニュー ヨーク)について、それぞれの国生れの化粧品について、グループ・インタビュー形式で 自由に発言してもらった。対象女性はソウル(48 名)と東京(40 名)で、25 才から 35 才までの独身女性である。国産品の他に、欧米製(ソウルでは日本製も含む)のプレミア ム化粧品を常用している。 検証しようとした仮設は以下の通りである。①乗用車の原産国日本への評価は、韓国人 のCP と COO 評価に左右される(仮説 5)。②日本生れの化粧品への評価は、韓国人の CP に左右されないが、日本に対するCOO 評価に左右される(仮説 6)。 3 社会・精神文化要因の測定結果とブランド移転への示唆 3-1 韓国人の価値観とブランド移転への示唆 3-1-1 分析結果 図7(a)はアメリカ人と比較して、図7(b)は自画像だけを、日本人と韓国人がそれぞれ測 定した結果である。日本人は日本人のプロファイルを、韓国人は韓国人のプロファイルだ けを測定した。 アメリカ人をコントロールにして比較すると、日本人と韓国人のプロファイルは良く似 ており、両者の価値観の共通性が大きい、と言える。特に両者は権力の集中度と集団主義 志向が高いというアジア的な価値の共通性を持つ。 他方絶対評価では、両者の差異性が際立つ。すべての尺度次元で韓国人の自画像評価点 が高く、日本人のそれは中庸である。個人主義志向と集団主義志向が両立している韓国人 と集団主義志向に偏りがちな日本人の違いが特に大きい。一面的であるとの批評があるこ
とを承知のうえで、以下に日本人とかなり異なる典型的な韓国人像を描いてみる。 図 7(a) 日本人と韓国人の自画像 (アメリカ人=0) +100 +50 0 -50 -100 アメリカ人 個人 主義志 向 男性 的 ︵ 独 立 心 ︶ リス ク テ ー キ ン グ 権力 集中度 集団 主義志 向 韓国人 日本人 韓国人 日本人 図 7 (b) 日本人と韓国人の自画像
個人 主 義 男性 的 ︵ 独 立 心 ︶ リス ク テ ー キ ン グ 権力集 中 度 集団 主 義 1 2 3 5 4 韓国人 日本人 韓国人 日本人 3-1-2 態度や行動へのインパクト20 (1)集団主義の志向性。韓国人の集団への強い忠誠心は自分を中心に家族→会社→国家へ と同心円となって広がる。それぞれの階層で外のグループへの対抗心が強く排外主義にな りやすい。国家の経済力を支える製品分野では特に、国産製品への強いCPを持ちやすい一 方21で、経済力だけでなく文化の点でも韓国より上位であると知覚しているアメリカやド イツなどに対しては、プラスのCOO評価を持ち、反米や反独のCPにはなり辛い。日本と 日本製品に対しては、一段と強いCPの裏返しとしての対抗心と、マイナスのCOO評価を 持ちやすい。 (2)個人主義の志向性。グループ内での上位志向(競争に勝って上位に立つ)が強い。不 断の努力をして早く高いポジションに立とうとする。他方現在所属しているグループ(会 社)で認められなかったら、ごく簡単に別のグループに移動(転社)する。 (3)権力の集中度。大企業の中で上位に立つことで得られる見返りは、権力、富、尊敬の 20 以下の解釈については、古田(1995)と小倉(1998、2001)に負うところが大きい。 21 韓国人ではなく日本人(集団志向)とアメリカ人(個人志向)との比較で、集団志向の日 本人が品質の良し悪しに関係なく、一段と自国産製品を好む傾向が強い、という研究がある 本人が品質の良し悪しに関係なく、一段と自国産製品を好む傾向が強い、という研究がある
栄誉である。城のような家に住み、運転手付きで最上級の国産車で送迎される。家の豪華 さや車のランクが、富や権力の序列をシンボライズする。そして人々の尊敬を受ける。 成功した自営業者は、権力は持っていないが、一段と大きな家に住み、国産車より一段 と上位の輸入車を乗りまわす。 (4)男性的(独立心)。グループを守り、また上位移行を実現するために韓国人は闘争心 を奮い立たせ、リスクを取ることもいとわない。特に家族や国家は取り替えられないから、 家族をしっかり守り、強い愛国主義を発揮しながら、競争に勝ち抜いて社会や国家に認め られることが大切である。これが韓国人男性が達成しようとする望ましい人間像である。 他方女性の上位志向は、闘争力の強いそして上位移行が確実な男性と結婚することに向 けられる。有名女子大を卒業する。成人のお祝いに美容整形の費用を父親から提供しても らう。プレミアム・ブランドの化粧品を使って美しくなる。こうして女性は上位志向を実 現する。 (5)日本に対しては、複雑なCPとCOO評価が現れる。序列意識が強い韓国人から見て国 際政治・経済の面で上位である日本への対抗心がある一方で、日本に対して朱子学的な文 化上位意識を持っている韓国人が多く、そのため韓国製品への強いCPの発露となりその反 動として、日本製品への強い反発を持ちやすい。そして強いマイナスのCOO評価を持つ傾 向が強い。 (6)以上の議論を通して定性的に仮説1と仮説2が検証されたと考える。 3-2 日本と韓国の国家イメージとブランド移転への示唆 3-2-1 分析結果 (1)工業国家としての好ましさ。工業国家としての日本と韓国の好ましさ得点の違いを別 にすると、他の5 カ国への好ましさは日本人と韓国人の評価にほとんど違いがない(図8 (a))。日本人は日本を最も好ましく、韓国を大変低く評価した。韓国人は、日本を最も好 ましく、韓国を日本より低いが、フランスやイギリスと同等に好ましいと評価している。 (2)イメージ次元の内容とその重み。図 8(b)で見ると、日本人と韓国人では好ましさを評 価する次元の重みに大きく違いがある。日本人は、「高性能で信頼できる製品を作る、親近 感が持てる、政治経済の影響力がある」、などで国への好ましさを判断する。韓国人は、「高 性能で信頼できる製品を作る」では日本人と同じだが、「センスの良い買いたい製品を作る、 手頃な値段で作る」といった別の次元で国への好ましさを判断する。 (3)日本のイメージ。韓国人から見る日本は、「親近感はない」が、「高性能で信頼できる 製品を作り、センスがあって買いたい製品が多い」国である(図8(c))。日本という国には (Gürhan-Canli et al.,2000)。
親しみを持てないが、工業製品については、マイナスのCOO評価はないようである。 日本人にとっては自国が最も好ましい国であり、製品力や信頼感の点、そして親近感の 点でも申し分ない。 図8 (a) 工業国家としての好ましさの得点(10 点法) 日 本 人 に よ る 評 価 韓 国 人 に よ る 評 価 日 本 韓 国 ア メ リ カ ド イ ツ フ ラ ン ス イ ギ リ ス 台 湾 9 .1 4 .3 7 .0 7 .8 6 .1 6 .3 4 .2 8 .3 6 .4 7 .5 7 .7 6 .4 6 .6 4 .4 図 8(b) 工業国家のイメージ次元とその重み(%) 1. 高性能で信頼できる製品を作る 2. 親近感が持てる 3. 政治的・経済的影響力がある 4. センスのよい、買いたい製品が多い 5. 文化的であり、環境保護に熱心である 6. 手頃な値段の製品を作る 日本人 韓国人 51 16 15 9 6 3 49 2 9 24 2 15 100 100 (17属性の評価をもとに因子分析他によって求めた)
図 8(c) 日本と韓国のイメージ評価 イメージ次元 1.高性能・信頼製品 2.親近感 3・政治的・経済的影響力 4.センスある買いたい製品 5.文化的・環境保護 6.手頃な値段 イメージ得点 (平均=100) 日本のイメージ(平均=0) 日本人による 韓国人による 韓国のイメージ(平均=0) 日本人による 韓国人による イメージ得点=Σ(各次元の評価得点×図表8②の重み) 116 92 13 -24 -38 44 206 75 -57 -1 91 -15 -5 176 -113 9 -38 -137 -84 65 46 -83 119 -33 -48 -66 43 62 3-2-2 ブランド移転へのインパクト (1)韓国人が日本に親しみが持てないのは事実だが、工業製品の原産国としての好ましさ では先進国中一番高い。日本製品に対する対抗心や反発、そしてネガティブな COO 評価 もない、と解釈できるだろう。年令の若い層ほどそうなのである(図 9(a))。だから若い 韓国人ほど、日本発の製品やブランドの受容性が高いことを想像させる。日本企業による 積極的なブランド移転のマーケティングの機会が広がっているのではないか。 自国への親しみは強いが、日本との相対比較で自国産の工業製品の魅力度が低い。但し 製品タイポロジーによっては、上記と異なる態度が発現する可能性があることは、韓国の 価値観の分析で見た通りである。 (2)日本人は韓国に若い人ほど親近感を持っているので(図 9(b))、手頃な値段で少なく ともポジティブに評価できる製品を提供することで、日本人の受容性を高められるのでは ないか。例えば渋谷や新宿で既に衣料雑貨や韓国食品などでは、韓国産であることがプラ スのCOO 効果になりつつある。また韓国産の焼酎「眞露(ジンロ)」は日本で最も BE の 強い韓国産ブランドの一つになっている。これは「焼肉と眞露」という「本場の食文化」 を情緒的ベネッフィット化することに成功したケースであろう。
(3)しかし双方向での活発な工業製品のブランド移転が実現するためには、日本人も韓国 人もそれぞれに特有な「心理・知覚の罠」から自由になることが必要だろう。ここ数年来 急速に自由になりつつあるとは言っても、深い根の部分ではまだそれぞれに強い足かせに なっている。日本人は、「韓国製品は安かろう、悪かろう」という知覚評価から、韓国人は、 「正面切って日本の製品やブランドが好きだと言えないメンタリティー」から、自由にな ることである。 (4)韓国人に関しては仮説 3 と仮説 4 は当てはまらない。日本人に関しては仮説 3 は当て はまらないが、仮説4 が当てはまる。 図 9(a) 年代別の日韓両国のイメージ 韓 国 人 の 日 本 に 対 す る イ メ ー ジ 工 業 国 家 と し て の 好 意 度 ( 1 0 点 満 点 ) 性 能 信 頼 ( 平 均 = 0 ) セ ン ス ・ 買 い た い ( 平 均 = 0 ) 2 0 代 3 0 代 4 0 代 8 .6 8 .0 8 .3 + 8 5 + 7 7 + 6 4 + 1 0 8 + 8 3 + 8 8 - 8 0 - 5 6 - 3 7 親 近 感 ( 平 均 = 0 ) 図 9(b) 年代別の日韓両国のイメージ 日 本 人 の 韓 国 に 対 す る イ メ ー ジ 工 業 国 家 と し て の 好 意 度 ( 1 0 点 満 点 ) 性 能 信 頼 ( 平 均 = 0 ) セ ン ス ・ 買 い た い ( 平 均 = 0 ) 2 0 代 3 0 代 4 0 代 4 .8 4 .6 4 .6 - 9 3 - 1 2 2 - 1 2 2 - 1 1 8 - 1 4 1 - 1 5 1 + 3 4 - 4 - 1 親 近 感 ( 平 均 = 0 )
3-3 乗用車での原産国効果とブランド移転への示唆 3-3-1 分析結果22 (1)乗用車原産国としての好ましさ。韓国人は好ましさの点で日本を、日本人も好ましさ の点で韓国を、それぞれ大変低く評価した(図10(a))。そして両者とも自国を最も好まし いと評価した。自国製乗用車への強いCP(韓国人と日本人に共通)と相手国製乗用車への 強い対抗心(韓国人に顕著)、そして相手国へのネガティブのCOO評価(韓国人と日本人 に共通)が現れた結果である。他の5 カ国への評価に両者の違いはあまりない。 (2)イメージ次元の内容とその重み。日本人の知覚評価は(図 10(a))、原産国への親近感、 車の性能や品質感、をバランス良く判断する(最初の 3 次元の重みが同じ)。韓国人は親 近感をとりわけ重視する。そのうえで性能や品質感を判断する。 (3)日本のイメージ。韓国人にとって日本は親近感が低く、しかも車の性能や品質感でも マイナスである。日本人にとって自国は、すべての次元で大きくプラスである。つまり韓 国人は日本を過小評価し、日本人は自国を過大評価している。 日本人にとって韓国はどの次元でも低く、とりわけ乗用車原産国としての親近感がなく、 性能や品質で劣ると知覚している。日本人による韓国の過小評価である。韓国人にとって 自国は親近感があり、品質感ではドイツやアメリカより低いが、性能は日本より上位にあ る。逆に韓国人による自国の過大評価である。 図 10(a) 乗用車原産国としての好ましさの得点 日 本 韓 国 ア メ リ カ ド イ ツ イ ギ リ ス フ ラ ン ス イ タ リ ア 6 .2 8 .5 8 .0 7 .8 6 .7 6 .7 6 .3 9 .2 4 .5 7 .6 8 .4 6 .4 7 .0 6 .0 日 本 人 に よ る 評 価 韓 国 人 に よ る 評 価 ( 1 0 点 法 ) 22 いくつかの項目で論旨を損なわない程度に数字の変更をした。
図 10(b) イメージ次元とその重み(%) 1.親近感が持てる 2.高性能で信頼が持てる車を作る 3.高性能で競争力がある車を作る 4.環境保護に熱心である ‐ その他 ‐ 日本人 韓国人 26 26 25 10 13 34 20 18 16 12 図 10(c) 乗用車原産国としての日本と韓国のイメージ
1.親近感がもてる
2.高性能な信頼できる
車を作る
3.高品質で競争力が
ある車を作る
4.環境保護に熱心である
− その他 −
イメージ得点
*
(平均=100) 日本のイメージ(平均 =0) 韓国のイメージ(平均 =0) 日本人による 韓国人による
98
120
87
50
-
196
-48
-33
-14
-36
-
75
-120
-85
-73
-40
-
31
79
10
-23
23
-
128
* 図表8(c)を参照 日本人による 韓国人による *図8(c)を参照3-3-2 ブランド移転へのインパクト (1)日本発の乗用車は韓国で先ず、自動車分野での日本への対抗心、ネガティブな COO 評価という強い逆風を受けることだろう。韓国人にとって自国の自動車産業は国民経済の 柱である、という強い産業主権意識があり、とりわけ強いCP の対象になっている。日本 車が韓国人のマジョリティーの支持を受ける、ということは当面ないだろう。 (2)韓国発の乗用車も日本では、「親近感が低く、性能や品質が劣る」という逆風の中を 進むことだろう。日本人のマジョリティーが当面、考慮集合の中に韓国車を入れることは ないだろう。 (3)だからそれぞれスタート時点でのターゲットとなるのは、日本車にとっては、マジョ リティーの韓国人の「知覚の罠」から比較的自由な輸入車オーナーであり、韓国車にとっ ては同じくマジョリティーの日本人の「知覚の罠」から比較的自由な20 代から 30 代のカ ー・オーナーだろう。 (4)以上の議論を踏まえ、仮説 5 が検証された、と考える。 3-4 化粧品での原産国効果とブランド移転への示唆 3-4-1 分析結果 (1)化粧品の価値構造。メーキャップ化粧品とスキンケア化粧品では消費者のニーズが異 なる(図 11(a))。日韓両国の女性に共通しているニーズがある。メーキャップでは、「私 を美しくする、私の個性に合う」自己表現的ベネフィットの比重が大きく、スキンケアで は、「私の肌に合う、天然原料を使っている」機能的ベネフィットが大切である。 韓国人女性にとってメーキャップとは、特に「私を美しくしてくれる」希求のシンボル であり、日本人女性にとっては「美と個性」のバランスが求められる。韓国人女性は「濃 く目立つ」ことを美しさの条件と捉えており、日本人女性は「薄くナチュラルに」を美し さの条件にしている。 (2)各国生れの化粧品。化粧品の評価にはメーキャップとスキンケアの両方が含まれてい る(図11(b))。 フランスとアメリカ生れの化粧品への知覚評価は、日本人と韓国人で大変共通している (インタビューの中では対象者はパリ生れとニューヨーク生れという都市名でも発言し た)。連想の内容は、フランスの化粧品は「エレガンス、大人の女らしさ」など自己表現的 ベネフィットが中心である。アメリカの化粧品では自己表現的と情緒的ベネフィットのバ ランスが良く取れている。 韓国人女性にとって日本生れの化粧品は、機能的ベネフィットへの評価が高く(肌への 効果など)、情緒的にも信頼されている(品質や丹念な作りに対して)。しかし自己表現的 ベネフィットに欠ける。つまり「美しさ」を強く求めている彼女達に自己表現のメッセー
ジを提供していない。韓国生れの化粧品は、「エレガンスではないが、自分のライフスタイ ルに合う」と評価されている。 図 11(a) 化粧品の価値構造
メーキャップ化粧品
(発言頻度数%)
1.私を美しくしてくれる
2.私の個性に合う
3.高級な,洗練された
4.信頼できる,安心できる
1.私の肌に合う
2.天然の原料を使っている
3.自分で肌の診断ができる
4.使い便利
5.経済性
スキンケア化粧品
(発言頻度数%)
日本人 韓国人 日本人 韓国人32
28
16
14
40
25
14
12
消費者ニーズ
46
12
10
9
9
40
22
16
13
7
図 11(b) 各国生まれの化粧品のイメージ(発言頻度による) 自己表現的
情緒的
機能的
自己表現的
情緒的
機能的
自分に合う ライフスタイルに合う スキンケア重視 技術 色がよい 自分に合う ライフスタイルに合う 安心・高品質 信頼 信頼・高級 プレステージ エレガンス 女らしさ ? 消費者 ベネフィット 韓国(ソウル) 生れの化粧品 ( )内はネガティブ フランス(パリ) 生れの化粧品 アメリカ(ニューヨーク) 生れの化粧品 エレガンス 大人の女らしさ 若さ キャリアウーマン 都会的 シック 信頼・高級 プレステージ 肌への効果 肌にやさしい 丹念に作っている 機能的に良い 韓国人の肌に合う 肌への効果 肌にやさしい 天然 ? ? 安心・高品質 信頼 (効能イメージがない) 日本人の肌に合う 安心 品質が良い (品質が不安) スキンケア重視 落ちない口紅 活動的な キャリアウーマン 都会的 おしゃれ 日本(東京) 生れの化粧品韓国
人
日
本
人
3-4-2 ブランド移転へのインパクト (1)韓国人女性に日本生れの化粧品への反発はほとんどなく、かなりプラスの COO 評価 がある。しかしパリ(エレガンス)やニューヨーク(キャリア・ウーマン)のような自己 表現的ベネフィットが欠けている。日本(東京)発の明確な文化メッセージが欲しい。現 状ではむしろ、日本生れのスキンケア化粧品の受容性が一段と高いと推察される。 (2)日本人女性は、韓国の化粧品を認知していないし、したがって価値評価は大変低い。 日本への移転には、製品戦略やターゲティング戦略を立てる上で丹念なセグメンテーショ ンが必要であろう。韓国生れにネガティブのCOO 評価を持たないセグメントを発見する、 または思い切って韓国生れの連想を切り離したブランド戦略を採用する、といったシナリ オが考えられるだろう。 (3)仮説 6 は検証された。4 乗用車ブランド戦略の移転 4-1 消費者ニーズを理解する 4-1-1 調査概要 図4 のプロセスⅢプロダクトの移転(製品戦略、ブランド戦略の移転)について、韓国 で国産車オーナー150 名(30 才∼45 才)を対象に、①メーカーへの消費者ニーズ、②個 別車種モデルへの消費者ニーズ、を抽出した。そして欧米車メーカーと日本車メーカー3 社(トヨタ、ホンダ、日産)に対するポジショニング評価をした。 また輸入車オーナー50 名(35 才∼55 才)に対して、別途に上記①と②を実施した。 いずれも1999 年に実査した。日本発の個別車種モデルのデータは収集していない。 4-1-2 目的 この調査を通して明らかにしたいことは、以下の3通りである。①自動車メーカーへの 信頼感や安心感を構成する要因とその重みを取り出すことである(図3を参照)。そして、 日本車メーカーに対して、韓国での企業ブランドの信頼性を創造するためのガイドを提供 することである。②COO 評価と自動車メーカーへの信頼性評価が、関連しているかどう かを確認する(COO 評価のメーカー評価への波及)。最後に③個別車種ブランド自体の価 値構造を明かにし、日本車モデルによるブランド価値創造へのインサイトを提供する(図 1と図2参照)。 4-1-3 分析結果23 (1)自動車メーカーの価値構造。国産車オーナーと輸入車オーナーで価値構造が異なって いる(図 12(a))。国産車オーナーは、「高性能や技術力」など機能面での企業評価が大切 で(全体の 51%の重み)、「高級・信頼」の情緒的評価が続いている。輸入車オーナーは、 「高級・信頼」が最も大切である(全体の36%の重み)。 (2)乗用車のCOO評価とメーカー評価の関連。前節 3 の乗用車のCOO評価スコアと上記 の構造上で評価されたメーカーのスコアとの関連を図 12(b)で示した。日本へのCOO評価 の低さが日本車メーカーのイメージ・スコアの低さに影響していると推察する。韓国人の CPのシンボルが現代自動車である。 アメリカのCOO 評価は高いが、メーカーへのイメージ・スコアは低い。韓国の自動車 市場の閉鎖性を強く批判するのがGM とフォードである、という反発がこの評価をもたら したと思える。また、調査時点で起亜自動車は現代自動車に買収され(1999 年)、大宇自 動車はその母体である大宇グループが解体したことが(1999 年)、それぞれのメーカー評 23 いくつかの項目で論旨を損なわない程度に数字の変更をした。
価に反映されているようだ。 輸入車オーナーでのメーカー評価では、母数が少ないが BMW とメルセデスが大変高 く、イメージ・スコアはそれぞれ154 と 148(平均=100)だった。フォードとトヨタの イメージ・スコアは110 と 107 である。トヨタは国産車オーナーよりも(図 12(b)でトヨ タ84)輸入車オーナーでのイメージが高い。 (3)車種ブランドの価値構造。図 12(c)でモデルのサイズ別に価値構造を示した。国産車 オーナーで、大型車モデルに対して「自分に合っている」自己表現的ベネフィットの重要 度が高い。「快適さ」という情緒的ベネフィットは車のサイズに関係がなく大切なことであ る。 輸入車オーナーにとっては一段と「自分に合っている」ことが大切だ。 この構造の中で、ベネフィットの提供度合が高い(消費者の受容度が高い)価値あるブ ランドが、国産では「グレンジャーとダイナスティ」(いずれも現代自動車製)、輸入車で は「BMW シリーズとベンツシリーズ」が双璧である。日本車ブランドは想起もなく評価 データを収集できなかった。 図 12(a) 自動車メーカーの価値構造
自動車メーカーの価値構造
(韓国人:重み%) ベネフィット次元 輸入車オーナー (35∼45才:150名) 1.高性能・国際競争力 のある車を生産する 2.高級車を作る,信頼できる 3.技術力がある 4.環境問題に熱心である 5.親しみがある ー その他 ー 32 20 19 15 10 4 24 36 20 14 5 1 国産車オーナー (35∼45才:150名)図 12(b) 原産国とメーカーの関連(国産車オーナー) 70 80 90 100 110 120 130 140 原産国のイメージ・スコア 170 160 150 140 130 120 110 100 90 80 70 60 企業 ブ ラ ン ド の イ メ ー ジ ・ ス コ ア イタ リ ア 日本 フ ラ ン ス イギ リ ス ドイ ツ 韓国 アメ リカ トヨタ ホンダ ニッサン
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BMW ダイムラークライスラー・
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起亜 大宇 現代・
GM・Ford図 12(c) 乗用車ブランドの価値構造(韓国人オーナー:重み%) ベネフィット次元 1.快適さ 2.自分に合っている 3.高性能である 4.技術力が高い 5.経済価値が高い(下取りなど) ― その他 ― 国産車オーナー 中型車 モデル 大型車 モデル 輸入車オーナー 大型車 モデル 30 23 16 14 10 7 29 28 16 16 10 1 30 34 16 13 7 -4-1-4 ブランド移転へのインパクト (1)日本車メーカーは、韓国人乗用車オーナーに対して、実質的にゼロの BE から(ある いはマイナスから)、「高性能・技術力」、「高級・信頼」、「環境保護に熱心」なメーカーで あるというブランド価値に対する知覚を持ってもらう努力をしなければならないだろう。 これらの知覚次元で日本ばかりでなく国際的にも高い評価を得ているのだから、その事実 を丹念に伝えて理解してもらうことが必要だろう。 (2)他方原産国日本へのネガティブな COO 評価、原産国韓国への強い CP と日本への対 抗心といった逆風も強いので、日本車メーカーはステップ・バイ・ステップで逆風の弱い 消費者ターゲットや市場セグメントからブランド移転をすることになるだろう。 (3)車種ブランドについて言えば、輸入車オーナーをターゲットにして、自己表現的ベネ フィット(自分に合っているなど)を一段と強く提案する、といったブランド価値を創造 する移転戦略が相応しいだろう。