82 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 1.ニューヨーク研修について これまで海外の医療現場を見たことがなかった私 にとって、今回の短期海外研修は非常に魅力的で あった。医学生時代からこの企画を知り、宮城県内 の研修医として本企画に参加できたことを光栄に思 う。2011 年の東日本大震災で医療ボランティアと して来日された現20 イーストメディカルクリニッ ク院長のKamal Ramani 先生、米国日本人医師会 現 会 長 でMount Sinai 大学内分泌代謝科教授の Robert T Yanagisawa 先生ら米国日本人医師会メ ンバーを中心として、被災3県の宮城、福島、岩手 の初期研修医に米国の医療を垣間見る機会を提供し ていただいている。私は2018 年 12 月 10 日月曜日 から14 日金曜日にかけて、マンハッタン、ブルッ クリンのクリニックを1週間見学させていただい た。今回の短期海外研修を経験したことで、日本の 医療を客観的な視点で捉えなおすことができたよう に考える。 貴重な学びの場を提供していただいた、米国日本 人医師会、東北大学病院卒後研修センター、宮城県 医師育成機構の皆様には厚く御礼申し上げます。 2.チャイニーズタウンのクリニック 初日の月曜日はチャイナタウンにあるChu 先生 のクリニックへ。チャイニーズアメリカンの先生 で、お父様の代からチャイニーズタウンで診療所経 営をなされている。宿泊先のニューヨーク中心部に あるWellington ホテル周辺とは違った趣漂う地域 で、漢字で書かれた中国語の看板が並ぶ光景は、ま るで中国に移動したかのようだった。クリニックで は20 件ほどの上下部内視鏡検査を見学させていた だいた。地球の反対側でも日本と同じような診療が 行われていたことに驚いた。「人種によって肌の色 は違えども、消化管の粘膜は同じような色なのだ」 と短絡的に感動してしまったが、様々な人種を相手 にする米国の先生方からすると、粘膜の色も人種に よって少し異なるとのことである。成田空港から 14 時間かけて到着した日本から遠く離れた地でも、 内視鏡診療が行われている。医学が広く世界に普及 したからこそよりよく生きられる人が増えたのだろ うと、医学の道に進んだことを誇りに思った。私は 消化器内科にも関心がある。Chu 先生に「ぜひ GI に」と米国流に固く握手をしてくださり、大変励み になった。 3.上手に使う漢方医学 火曜日はDegenhardt 先生のクリニックへ。東京 出身、育ちは茨城県と非常に日本語が堪能な先生で あった。家庭医学が専門のマンハッタンの中心街に ▲Chu 先生と 短期海外研修報告書
ニューヨークレポート
短期海外研修報告書
滝井孝英 国立病院機構仙台医療センター 初期研修医83 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 短期海外研修報告書 あるクリニックである。漢方医学によるアプローチ も試みる手法を見るのは初めてのことで斬新に感じ られた。「この患者さんは20 代の頃から担当して いるけれどもう三十路。みんな年を取ったね」とい う診療の合間に仰っていたセリフが印象的であっ た。家庭医学の神髄を垣間見ることができたように 思う。米国では加入している保険によって、受診で きる医療機関が異なる。Degenhardt 先生のクリ ニックでは、一般的なサラリーマン家庭以上を主に 対象としていて、より手厚い医療が提供されてい た。中国にも留学経験がおありとのことで、針治 療、灸、漢方医療等にも精通されておられるが、こ うした医療はある一定以上の保険に加入していない と対象にはならないとのことであった。 4.30 代インド人男性、健診異常 Ramani 先生のクリニックは5番街とマディソン アベニューの間にあった。オフィス街のため患者さ んは若い方ばかりで、さまざまな人種の方が来院さ れていた。健康診断の血算のデータだけ提示され、 「これは何かわかる?」と質問された。症例は30 代 のインド系アメリカ人の男性。RBC 450 × 104mm3、 Hb 11.8 g/dL、Ht 38.1%、MCV62 fl、MCHC31.0 と小球性貧血を認める。日本国内の診療ならばひと まず便潜血検査を提出したくなるところだが、血清 鉄、フェリチン、ビタミンB12、D は基準範囲内で あった。このため鉄欠乏性貧血とは矛盾する。臨床 診断は日本では稀なサラセミアであった。好発人 種はイタリア人、インド人、ギリシャ人とのこと。 貧血の問診のスクリーニングとして、「ベジタリア ンではないのか?」「結婚しているか、子供をつく る予定はあるか?」を聞くのは米国の内科医として は基本とのこと。これまで日本人の患者さんしか担 当したことがなかったため、人種による違いを考慮 するのは初めての経験で非常に勉強になった。血液 検査の基準値は人種によって異なる。白血球数はア ングロサクソン系では10,000/mm3を少し超えてい ても基準範囲内とみなすとのこと。東京オリンピッ クを控え、外国人の診療をする機会が日本国内でも 少なくなくなってくるかもしれない。日本ではなか なか獲得できない視点を学べた。 5.米国の眼科診療 短 期 海 外 研 修 の 締 め く く り はAsoma 先 生、 Hayashi 先生の眼科クリニックであった。日本で 視力検査によく用いられているランドルト環はあま り使用されず、アルファベットを読むことに重きが 置かれていること、視力検査の標記が日米で異なる ことを知った。 ▲Degenhardt 先生と ▲Ramani 先生と ▲Asoma 先生と
84 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 短期海外研修報告書 6.最後に 日本とは国民皆保険制度がとられている日本では 所得の如何にかかわらず平等の医療が提供されてい るが、米国では加入している保険によって受けられ る医療が異なってくる。日本の医療費は増大し、 2025 年には 60 兆円に達すると予測されている。 米国の現場を見て、国民皆保険の有用性を再認識す ることができたが、同時に我が国の国民皆保険の持 続可能性についても議論を深めていかなければなら ないのではと肌で感じた。 この度は日本では味わうことのできない貴重な体 験ができたことを関係各位に深く感謝いたします。 ▲Hayashi 先生と ▲宮城、福島、岩手の3県の初期研修医とともに