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算数障害と算数困難の差異に関する研究 : Rey複雑図形による視空間認知能力との関連

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Academic year: 2021

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†障害児教育専攻 障害児教育専修 指導教員:窪島 務 原 著 論 文

算数障害と算数困難の差異に関する研究

―― Rey 複雑図形による視空間認知能力との関連 ――

真 理 子

The study on the differences between Mathematical

learning disabilities and Mathematical difficulties

―― From the relationships of Mathematics abilities

and Rey-Osterrieth Complex Figure ――

Mariko HORIGUCHI

Abstract

The discrepancy between MLD (mathematical learning disabilities) and LA (low achievement) and visual-spatial perception ability were investigated and mathematics ability. In this study, Mathematics Test and Rey (Rey-Osterrieth Complex Figure) were implemental for a group of 381 children (second, third, fourth, fifth, sixth grade) who attended in general education setting. The results showed that the scores of MLD were lower than LA the scores of Rey, and especially the scores of the strategy to visual construct were low. Moreover the results showed the same tendency about children whose scores were both low and high in Rey. That is to say, the discrepancy between MLD and LA may be associated with visual-spatial perception ability. But the results did not show the same about all children. The more detailed study should be needed. There were some relations about mathematics ability and visual-spatial perception ability between MLD and LA, but the relations were not so tide. Visual-visual-spatial perception ability of Rey may not necessarily indicate the mathematics abilities. Perhaps visual-spatial perception scores of Rey may be limited under the some conditions.

は じ め に 修士論文では,算数障害と算数困難の差異を 明らかにする方法の検討,算数障害とは何かと いう算数障害の本質・定義にアプローチするこ とを目指し,①どのカットオフポイントを用い た時,MLD と LA の差異をより明確に抽出す ることができるか,② MLD と LA の差異に読 書力や視空間認知能力はいかなる関連があるの かを検討した。本論では紙数の都合上②の算数 と視空間認知能力の関連について取り上げる。 Ⅰ 問題と目的 視空間認知障害を持つ算数障害児の場合,数 量概念の発達や桁の大きい数の表記,筆算など

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に困難を示すことが報告されている1,2)が,算 数障害と視空間認知能力は具体的にどのように 関連するのかは未だ解明されていない。また, 視空間認知障害を持つ算数障害に限る事なのか, それとも算数障害全般に般化できるものなのか も明らかにされていない。 秋元 (1999) は算数障害の基準を満たす言語 性 LD9 名 (V 群) と非言語性 LD6 名 (N 群) に課題を行った。 その結果,V 群である言語性 LD の子どもた ちはアナログ時計の時刻の読み,算数用語や九 九の想起,数唱,数字の読み,繰り上がりや繰 り下がりのある計算,計算手順の混乱,小数の 聴覚的混乱,数字をシンボルとして操作するこ と,単位や目盛りの読み方の聴覚的混乱,立式 に困難を示した。N 群である非言語性 LD の子 どもたちは,数を量として理解すること,数字 や数式の意味理解,図形概念の視覚的理解,分 数の量的理解,線分図の視覚的理解に困難を示 すことが明らかにされた (表 1-1)。これらの 困難の背景として,V 群は WISC-R の数唱, N 群は絵画完成・PIQ が有意に低いことから V 群は言語性能力の障害により,N 群は視覚・ 空間能力の障害により算数障害が生じると結論 づけた3)。N 群は視覚―空間能力の障害により 算数障害が生じるとしているが,彼らの視空間 認知能力を測定しているわけではなく,算数学 習の数を量として理解することや線分図,筆算 等,視空間認知能力を要するであろう問題での つまずきによる分類であり,はたして彼らの視 空間認知能力が本当に低いのかは明らかでない。 熊谷 (2007) は学習障害児の数量概念に着目 し,その理解度を測定する手法についての基礎 研究として,小学 1 年生 140 名と 2 年生 167 名 に基準となる数を表す線分 (又は円) に対して, 提示されたある数の長さ (大きさ) の線分 (又 は円) を描画する線分・円描画課題を行った。 その結果を,クラスター分析し,課題に特異的 な反応を示す子どもの特徴を分析している。そ れによると,1,2 年生の数量概念を測定する 課題としては,線拡大課題,線縮小課題,円拡 大課題が有効であることを示している。特異的 な反応を示す子どもの特徴の分析では,子ども たちの 91.5% が学年相当の数量概念をもつこ と,7.8% が数量の把握において遅れや偏りが 疑われること,0.7% が線数量概念の遅れが疑 われること明らかになった4)。この問題では, 数量概念だけでなく視空間認知能力を必要とさ れる。しかし,この論文においては数量概念と 視空間認知能力との関連は明記されていない。 このように,MLD の背景に視空間認知能力 の問題があると論じながらも視空間認知能力の 測定を行っていない,あるいは数量概念と言い つつも視空間認知能力の影響を考慮していない ことが問題点としてあげられる。また,視空間 認知障害を持つ算数障害児の場合,数量概念の 発達や筆算,桁の大きな数の表記などに困難を 示すことが報告されているが,算数障害と視空 間認知能力は具体的にどのように関連するのか は未だ解明されていない。 そこで本論では,視空間認知能力を測ること のできる Rey-Osterrieth Complex Figure (以 下 Rey 複雑図形) を用い,MLD と LA の差異 に視空間認知能力はいかなる関連があるのかを 検討する。Rey 複雑図形は,簡単には言語的に 符号化できない複雑な図形を患者に直接模写さ ・数を量として理解すること ・数字,数式の意味理解 ・図形概念の視覚的理解 ・筆算の桁がずれる ・分数の量的理解 ・線分図の視覚的理解 →数量概念の発達,図形の概念や数式の意味の視覚的 理解が困難。つまり数学的思考において本質的な障害 ・アナログ時計の時刻の理解 ・算数用語・九九の想起 ・数唱 ・数字の読み ・繰り上がり・下がりのある計算 ・計算手順の混乱 ・小数の聴覚的混乱 ・数字をシンボルとして操作する ・単位,目盛の読み方の聴覚的混乱 ・立式 →視覚的な概念の理解や具体的操作は可能であるが, 算数用語の記憶や用いることが困難 視覚―空間能力の障害 言語性能力,左脳の機能障害 表 1-1 秋本分類

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せ,さらに記憶を頼りに描画するよう求める検 査であり,Rey (1942) によって考案され,の ちに Osterrieth (1994) によって 60 人の成人 母集団を基に標準化された5)。Rey 複雑図形で は一般に,構成能力,視覚―空間認知,視覚性 ―知覚性記憶のための有用なスクリーニング手 段として考えられおり,ベンダーゲシュタルト 検査あるいはベントン視覚記名検査のようなよ り簡単な描画検査よりも高い描画能力と記憶力, 持続的注意力を必要とする。また近年,発達期 の児童の視覚的構成や記憶検査としての有効性 が報告されている6)-8) Ⅱ 方 法 1.対象児 滋賀県下の小学校通常学級 2〜6 年生 (2 年 88 名,3 年 88 名,4 年 70 名,5 年 75 名,6 年 60 名) 2.手続き (1) 算数検査 検査課題は 1 年間で学習する内容を網羅した もので,教科書から数問ずつ選出したものを問 題として作成した (表 2-1)。検査は 2 枚にわ たって構成されており,1 枚目は計算領域中心, 2 枚目は図形や計測,数などの計算領域以外の 問題で構成されている。検査は学級単位で集団 的に,各学級担任が行い,当該学年より 1 学年 下の算数検査を用いた (2 年生は 1 年生課題)。 MLD,LA の分類は Geary (2007) を参考にし て算数検査の結果により 15 パーセンタイル以 下を MLD 群,16 から 35 パーセンタイルを LA 群とした9) (2) Rey 複雑図形 検査は検査方法を習得している滋賀大キッズ カレッジのスタッフが学校に出向き,学級単位 で集団的に実施した。検査はペンスイッチ法を 採用し,見本と白紙,5 色のカラーペンを各自 に配布した。実施方法は模写については見本の 図を出来るだけ詳しく写すこと,「色を変えて」 という指示により次のカラーペンに変えること, ペンスイッチの時間は描画の様子を見ながら概 ね 30〜45 秒とした。図版及び描画用の用紙は 回転させてはいけないことを教示した。ペンス イッチ法では予めペンの順を規則的に並べてお き,指定した色のペンを使用するよう教示した。 色の順序は試行毎に変化させた。検査は模写・ 直後再生・遅延再生 (30 分後) を行い,後で 再生してもらうことを予告せず行った。 採点は構造化法を用いた。構造化法は構造化 図 1-1 Rey 複雑図形 時刻 数 単位 (かさ) B 問題 (2 年レベル) C 問題 (3 年レベル) D 問題 (4 年レベル) E 問題 (5 年レベル) A 問題 (1 年レベル) 表 2-1 算数検査項目 面積 時間換算 長さ (単位) 長短比較 角度 角度 組合せ 図形 数系列 文章題 大きな数 図形用語 位の理解 面積 小数同士割り算 円の用語 文章題 アナログ時計読み 文章題 (複雑) 円周 分数と整数 計測 (長・重) 計測 (ものさし) 集合数と序数 小数 (倍数・1/10) 数直線 数 (倍・1/10) 数直線 図形 図形 単純計算 小数計算 筆算 (2÷2 桁) 掛け算筆算 九九 単純混合式 計算商 1/10 小数筆算 筆算 筆算立式 文章題 (単純) 小数同士掛け算 文章題 割り算 文章題 複雑計算 分数計算 筆算 (2÷1 桁) 多位数の掛け算 計算 (筆算)

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方略を反映する6)と言われており,採点は 4 つ の部分から構成される。第 1 の構成方略は主要 な図の構成を捉えて描画がされているかどうか という観点から採点するもので,対象は①図の 中心にある大きな長方形,②長方形の中にある 大十字,③長方形の対角線,④図の右側にある 大きな三角形,の 4 点が直線部分を分割せずひ とまとまりのものとして描画されているかどう かを判定した (各 5 点,計 20 点)。第 2 のクラ スタは 36 点法で対象となっている 9 つの部分 を構成する形が対象となる。それらの形態や位 置の正確さにより判定した (計 18 点)。第 3 の 細部存在はクラスタ同士をつないでいる直線の 短い線分が採点対象であり,6 つの細部存在の 有無を判定した (計 6 点)。第 4 の細部位置は, 第 3 で判定した細部存在の位置の正確さを判定 した (計 6 点)。 なお,直後再生と遅延再生の描画には記憶の 要因が大きいが,本論では視空間認知能力・構 成能力との関連を検討するために Rey 複雑図 の模写を分析対象とした。 Ⅲ 結 果 1.Rey 複雑図形の学年別傾向 Rey 複雑図形検査は成人の高次脳機能検査の 1 つである。そのため,成人における平均値は あるが,子どもの場合標準化されたデータがな い。そこで本研究では,算数検査と同様のカッ トオフ基準を用いて,Rey 複雑図形の得点によ り① Rey 低群 (15 パーセンタイル以下),② Rey 平均下群 (16 パーセンタイルから上限 30 〜35 パーセンタイル) ③ Rey 平均上群 (50 パーセンタイル〜85 パーセンタイル),④ Rey 高群 (85 パーセンタイル以上) の 4 群を設け た。 その結果,2 年生 Rey 低群の合計得点は 15 点と他群と比べ低く,中でも特に構成方略とク ラスタの得点が低い。Rey 低群,Rey 平均下群 ともに細部存在の得点は 4 点以上と高いが,細 部位置はそれに比べ低く,細部はかけているが その位置は正確でないことが示された。 3 年生の Rey 低群は他群と比べ合計得点が 10 点以上低く,構成能力や視空間認知能力に 5.2 6.0 16.2 16.8 Rey 高群 (9 人) 構成方略 (20 点) クラスタ(18 点) 細部存在(6 点) 細部位置(6 点) (50 点)合計 表 3-1 各群 Rey 複雑図形検査 (模写) の結果 6 年 30.5 3.0 5.6 11.1 10.8 Rey 平均下群 (8 人) 38.8 4.9 5.9 14.3 13.7 Rey 平均上群 (18 人) 44.2 13.2 Rey 平均上群 (26 人) 41.7 5.1 6.0 14.2 16.3 Rey 高群 (9 人) 22.6 2.0 4.4 8.4 7.7 Rey 低群 (9 人) 4.3 9.4 8.0 Rey 低群 (11 人) 5 年 28.3 2.9 5.6 11.0 8.9 Rey 平均下群 (15 人) 36.3 4.2 5.8 13.1 37.2 4.4 5.6 13.8 13.4 Rey 平均上群 (21 人) 42.8 5.4 5.9 16.4 15.0 Rey 高群 (9 人) 22.9 1.3 Rey 高群 (10 人) 24.8 1.9 5.1 10.5 7.3 Rey 低群 (8 人) 4 年 30.0 3.1 5.2 11.9 9.8 Rey 平均下群 (14 人) 11.4 9.2 Rey 平均下群 (16 人) 37.0 4.5 5.8 14.1 12.7 Rey 平均上群 (28 人) 42.5 5.1 5.8 14.9 16.7 5.2 5.9 14.3 11.4 Rey 高群 (11 人) 18.5 1.6 3.8 7.4 5.6 Rey 低群 (11 人) 3 年 28.1 2.5 4.9 2 年 22.8 2.1 4.9 9.2 6.6 Rey 平均下群 (16 人) 29.9 3.4 5.6 11.7 9.2 Rey 平均上群 (32 人) 38.2 15.2 1.1 3.7 6.4 4.0 Rey 低群 (13 人)

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困難を示す。Rey 低群,Rey 平均下群ともに細 部位置の得点が低く,正確さにやや欠ける。 Rey 高群はクラスタや細部存在,位置に関して は Rey 平均上群と大差ないが,構成方略の得 点が高く,他群よりも構成能力が優れているこ とが示された。 4 年生の Rey 低群と Rey 平均下群では,ク ラスタや細部存在の得点は両者に大差は見られ ないが,構成能力や細部の正確さにおいては Rey 低群がやや劣る。細部の正確さを示す細部 存在では Rey 低群も 5 点以上と,4 群ともに高 い。 5 年生の Rey 低群は合計得点が 23 点と 4 年 生と比べやや低くなる傾向がある。構成方略で は Rey 低群と Rey 平均上群の得点に大差はな く,両群の構成力に大差はない。部品の形や位 置の正確さを判定するクラスタでは Rey 低群 が低く,次いで Rey 平均下群,Rey 平均上群 の順に高くなり,Rey 平均上群と Rey 高群は 大差ない結果である。 6 年生では,構成方略において Rey 低群が 8 点と著しく低いが,他群は 10 点以上である。 Rey 平均下群の構成方略の得点は他学年の Rey 平均下群の中でも最も高い値である。合計得点 はどの群も 4,5 年生と大差ない。 以上のように,Rey 平均下群では 2 年生から 3 年生にかけ得点は伸びており 3 年生以降停滞 傾向にある。低群では 2 年から 3 年にかけては 合計得点に大差は見られないが,3 年から 4 年 にかけ伸びている。学年平均の合計得点は 3 年 生 以 降,停 滞 傾 向 が 見 ら れ た。久 保 田 ら (2007) は 4 年生以降,スコアは停滞傾向にあ ることから,4 年生の頃に何らかの転換期があ ること示唆したが,本論では 1 学年早い 3 年生 での停滞傾向を示した。また,久保田らのデー タによると,約 40 点でその後は停滞傾向に なったが,本論では 5 点低い,約 35 点での停 滞傾向であった。 2.Rey 複雑図形の成績と算数傾向 次に Rey4 群の算数検査の傾向を検討した。 分散分析を行った結果,2 年 A 問題では (i) 数系列 (F(3, 68)=3.9, p<.05),(k) 100 まで の数 (F(3, 68)=2.7, p<.05) において群の主 効果が有意であった。多重比較の結果,数系列 と 100 までの数の問題において Rey 平均下群 に比べ Rey 平均上群の正答率は低く,さらに 数系列では Rey 高群に比べ Rey 平均上群の正 答率は低かった。また,図形には視空間認知機 能も必要となるため Rey 複雑図形との関連が 示唆されたが,2 年 A 問題においては,そう ではなかった。低学年で習う比較的簡単な図形 問題では,Rey の得点が低くともそれほど影響 を受けないことが示された。 3 年 B 問題では,(b) 九九 (F(3, 60)=2.8, p<.05),(g) 数 直 線 (F (3, 60)=3.8, p<.01) において群の効果が有意であったが,多重比較 の結果,4 群間に有意差は認められなかった。 つまり,Rey の得点の高低による算数への影響 は 3 年生においては明らかにならなかった。 4 年 C 問題では,(k) 時刻 (F(3, 48)=3.1, p<.05) の問題において群の効果が有意であっ た。多重比較の結果,(k) 時刻の問題では 4 群間に有意差は認められず,(f) 計測問題にお 図 3-1 Rey 各群合計得点推移

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いては Rey 低群と Rey 平均上群との間に 5 % 水準での有意差が認められ,Rey 平均上群の正 答率が高かった。Rey 低群と Rey 平均上群の Rey 複雑図形得点を比較すると,特に構成方略 やクラスタ,細部位置において平均値に差がみ られた。したがって,構成能力やクラスタのよ うな部品の形態や位置の正確さ,細部の正確さ などが計測に関連するのではないだろうか。 5 年 D 問題では,(a) 2 桁÷1 桁の筆算 (F (3, 57)=5.4, p<.01),(c) 小数筆算 (F(3, 57) =3.3, p<.05),(d) 文 章 題 (F (3, 57)=7.0, p<.01),(g) 数直線 (F(3, 57)=5.8, p<.01), (i) 角度 (F(3, 57)=6.6, p<.01) の問題におい て群の効果が有意であった。多重比較の結果, (a) 2 桁÷1 桁の筆算,(c) 小数筆算,(g) 数 直線において 4 群間に有意差は認められなかっ た。文章題では Rey 低群より Rey 平均上群の 正答率が高かった。Rey 複雑図形検査の中で Rey 低群のみ平均値が低かった項目は細部位置 であった。Rey の細部位置は,各要素間の接続 部である短い線の位置が正しいかどうかであり 注意力が必要とされる。この能力が低い場合, 文章題にも影響がでることが予測される。角度 の問題では Rey 低群より Rey 平均下群の正答 率は低く,更に Rey 低群より Rey 高群の正答 率は高かった。角度を求める問題は図形領域に 含まれる。図形領域は一般的よりに視空間認知 能力が必要とされるが,この問題では Rey 複 雑図形の得点が高くなるにつれ正答率も高くな るという比例関係は見られず,従って図形領域 の中にもより視空間認知能力を必要とする問題 と,視空間認知能力の要素の少ない問題とある ことが示された。 6 年 E 問題では,(b) 小数計算 (F(3, 40) =3.9, p<.05),(c) 商を 1/10 まで求める筆算 (F (3, 40)=2.9, p<.05),(f) 円 周 (F (3, 40) =4.4, p<.01) の問題において群の効果が有意 であった。多重比較の結果,(b) 小数計算で は 4 群 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ ず,(c) 商 を 1/10 まで求める筆算では,Rey 低群と Rey 平 均下群との間に 5 % 水準での有意差が認めら れ,(f) 円周では,Rey 低群と Rey 平均下群 との間に 1 % 水準での有意差,Rey 低群と Rey 高群との間に 5 % 水準での有意差が認め られた。 以上のように,Rey の得点が著しく低い場合, 4 年 C 問題以降の計測や文章題,角度,筆算, 円周の問題において,正答率も低い事が明らか となったが,2 年 A 問題の数系列と数の問題 においては Rey の得点が高い方が数系列と数 の正答率が低いという結果が示された。 3.MLD と LA の差異と Rey 複雑図形 (1) 計算領域における MLD1 と LA1 の差異 と Rey 複雑図形 計算外領域における 4 群と区別するため,計 算領域による分類は群名の後ろに 1 をつける。 計算領域により分類した各群の Rey 複雑図 形の得点を比較した結果,2 年生,3 年生,4 年生,6 年生においては群の効果が有意でな かった。また,5 年生では群の効果は有意で あったが多重比較の結果,4 群間に有意差は認 められなかった。つまり,2 年から 6 年全ての 学年において計算と Rey 複雑図形との間に差 異は認められなかった。計算問題を基準にグ ループ化した場合,各群の中に Rey 複雑図形 の得点の高い者と低い者の両方が含まれていた ためであると予測される。 (2) 図形,数,計測領域における MLD2 と LA2 の差異と Rey 複雑図形 図形等の領域により分類した 4 群の Rey 複 雑図形の得点を比較した結果,2,4,6 年生に おいて群の効果は有意でなかった。5 年生にお いては群の効果が有意であったが,多重比較の 結果,4 群間に有意差は認められなかった。 3 年生のクラスタでは,LA2 群と HA2 群と の 間 に 1 % 水 準 で の 有 意 差 が 認 め ら れ た。 LA2 群の得点は 12 点,HA2 群の得点は 14 点 であり,HA2 群に比べ LA2 群は 2 点低かった。 MLD2 群は LA2 群より低い 11 点であったが, 他 群 と の 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た。 MLD1 群の中に,Rey 複雑図形の得点が 6 点 や 9 点など著しく低い者,更に 36 点,37 点と 高得点の者も含まれていたためと考えられる。 LA2 群の得点は 21 点から 38 点と MLD2 群ほ どばらつきは見られなかった。細部位置では, MLD2 群と TA2 群との間に 5 % 水準での有意 差,LA2 群と TA2 群との間に 1 % 水準での有

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意差が認められた。TA2 群の得点は 4.5 点, MLD2 群は 2.3 点,LA2 群は 3.2 点であり,両 群に比べ TA2 群の得点は 1 点以上高かった。 細部位置では 6 点満点のため,1 点の差は大き いものであった。 以上のように,MLD2 群と HA 群や TA 群 との間にいくつかは有意差が認められたが, MLD と LA の差異と Rey 複雑図形の関連は明 らかにならなかった。 4.算数検査と Rey 複雑図形による分類にお ける両検査の傾向 算 数 4 群 (MLD,LA,TA,HA) の Rey 複雑図形の結果を検討した結果,MLD 群の中 にも Rey 複雑図形の高い者と低い者の両方が 含まれていた。そこで,算数と Rey 複雑図形 の得点により分類し,各群の算数と Rey 複雑 図形の傾向を検討した。分類は MLD 群を更に Rey 低群,Rey 平均下群,Rey 平均上群,Rey 高群と,表 3-2 のように分類した。 その結果,MLD 児や LA 児の Rey 複雑図形 の得点は Rey 低群の者が多く,MLD 児は Rey 複雑図形の得点が低い傾向にあることが示され た。特に 5 年生では MLD 児の中でも Rey 低 群が 5 人と多く,TA 児や HA 児の中には Rey 低群が 1 人もしくは 2 人と少ない。他学年にお いても,TA 児や HA 児の Rey 複雑図形は平 均以上の得点をとっている者が多く,HA 児は Rey の得点が低い者が少ない傾向が示された。 次に各群の算数と Rey の得点を算出した (表 3-3)。その中でも特徴的であった 5 年生の 結果を記述する。 5 年生の MLD 児の中でも,Rey 複雑図形の 得点が低い者の方が 2 桁÷1 桁の筆算の正答率 が 13% と低く,小数筆算では,MLD 児におい TA Rey 低群 Rey 平均下群 Rey 平均上群 Rey 高群 1 1 2 1 2 2 2 1 0 2 2 3 1 1 7 3 1 7 10 3 HA Rey 低群 Rey 平均下群 Rey 平均上群 Rey 高群 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 表 3-2 各群人数 5 1 0 1 1 3 3 3 2 3 2 0 3 0 4 0 MLD Rey 低群 Rey 平均下群 Rey 平均上群 Rey 高群 3 1 5 2 3 3 8 2 3 6 3 1 5 4 4 3 4 1 5 1 LA Rey 低群 Rey 平均下群 Rey 平均上群 Rey 高群 1 4 8 4 1 7 11 4 2 3 10 2 2 4 10 2 2 3 6 6 3 0 2 1 LA TA HA 人数 表 3-3 5 年各グループ毎の算数と Rey 複雑図形の結果 13.1 13.3 5.8 4.0 36.2 8.0 11.1 5.9 3.3 28.3 9.0 8.0 6.0 1.0 24.0 15.5 13.0 6.0 5.5 40.0 13.8 12.8 5.8 4.4 36.6 9.0 10.7 5.7 3.3 28.7 9.0 11.0 4.0 1.0 25.0 15.0 14.0 6.0 5.0 40.0 8.0 11.0 5.0 3.0 27.0 6.4 8.2 4.0 1.6 20.2 構成方略 クラスタ 細部存在 細部位置 模写合計 MLD 98 98 98 82 95 71 93 96 57 95 95 84 90 100 100 100 100 100 100 50 100 100 100 100 90 95 83 50 100 100 82 33 38 50 100 83 67 62 72 71 44 69 75 64 29 25 100 44 71 54 54 59 83 61 72 100 77 56 8 92 67 67 33 54 66 94 61 50 0 56 67 25 67 25 11 67 43 50 83 83 0 0 45 0 25 100 50 33 33 43 44 67 0 0 0 18 33 0 100 0 100 67 48 33 13 13 20 10 15 7 5 35 20 7 33 18 16 筆算 (2÷1) 筆算 (2÷2) 小数筆算 文章題 D-1 円用語 分数と整数 数直線 面積 角度 数 D-2 D 合計 17.0 16.0 6.0 4.0 43.0 13.0 14.0 5.5 4.0 36.5 10.5 11.5 6.0 1.0 29.0 10.0 10.5 4.5 1.0 26.0 17.0 14.3 6.0 5.0 42.3 1 2 8 3 3 1 0 1 5 100 100 100 100 100 100 100 100 75 100 100 95 98 100 92 100 100 98 83 100 100 100 100 100 98 98 100 92 100 100 98 100 100 100 100 100 100 100 99 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 96 92 75 100 90 83 88 100 69 100 100 89 90 95 95 92 95 95 70 86 98 80 85 82 84 89 Rey 高群 Rey 平均 上群 Rey 平均 下群 Rey 低群 Rey 高群 Rey 平均 上群 Rey 平均 下群 Rey 低群 1 2 2 2 4 11 7 Rey 高群 Rey 平均 上群 Rey 平均 下群 Rey 低群 Rey 高群 Rey 平均 上群 Rey 平均 下群 Rey 低群

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ては Rey 複雑図形の得点の高低に関係なく正 答率は低い。一方,LA 児は Rey 複雑図形の得 点が高くなるにつれ小数筆算の正答率も 50%, 73%,69%,100% と高くなる傾向が見られた。 数直線課題において MLD 児の Rey 低群は正 答 率 が 35%,Rey 平 均 下 群 100%,Rey 高 群 100% と Rey 複雑図形の得点が高くなるにつれ 数直線の正答率も高くなった。しかし,LA 児 や TA 児,HA 児においてそのような傾向は見 られなかった。面積の問題においても MLD 児, LA 児は Rey 複雑図形の得点が低い者よりも高 い者の方が正答率が高い傾向が見られた。特に MLD 児の Rey 低群と Rey 平均下群は面積の 正答率が 20% 以下であるが,MLD 児の Rey 高群は正答率 50% と高かった。角度の問題で は,MLD 児においては Rey 複雑図形の得点の 高い者も低い者も正答率が 7 %,33% と低いが, LA 児においては,Rey 複雑図形の得点が高く なるにつれ角度の正答率も 11%,67%,71%, 83% と高くなることが示された。 以上のように MLD 児においては,2 桁÷1 桁の筆算や 2 桁÷2 桁の筆算,数直線問題で Rey 複雑図形の得点が高くなるにつれこれらの 問題の正答率も高くなる傾向が見られた。LA 児においては,小数筆算や面積,角度の問題に おいて Rey 複雑図形の得点が高くなるにつれ これらの問題の正答率も高くなる傾向が示され た。また,Rey 低群の中でも MLD 児は合計得 点が 20 点と LA 児や TA 児,HA 児の Rey 低 群の者と比較しても 4 点以上低く,特に構成方 略の得点が 6 点と他群と比べて低いことが明ら かになった。 Ⅳ 考 察 MLD と視空間認知能力との関連が示唆され るがどのような関連があるのかは未だ明確でな い。そこで本論では MLD と LA の差異と視空 間認知能力がどのように関連するのかを検討し た。 1.視空間認知能力の高低による算数成績の 傾向 まず初めに,視空間認知能力の高低による算 数成績の傾向を検討した。その結果,2 年 A 問題の数系列と数の問題では Rey 平均下群に 比べ Rey 平均上群の正答率の方が低く,更に 数系列では Rey 高群に比べ Rey 平均上群の正 答率は低かった。4 年 C 問題の計測では Rey 低群に比べ Rey 平均上群の正答率は低く,5 年 D 問題の文章題では Rey 低群より Rey 平均上 群の正答率が高く,角度の問題では Rey 低群 より Rey 平均下群の正答率は低く,更に Rey 低群より Rey 高群の正答率は高かった。6 年 E 問題の筆算では Rey 低群より Rey 平均下群の 正答率は低く,円周では Rey 低群より Rey 平 均下群,さらには Rey 低群より Rey 高群の方 が正答率が高かった。以上のように,Rey の得 点が著しく低い場合,4 年 C 問題以降の計測や 文章題,角度,筆算,円周の問題において,正 答率も低い事が明らかとなったが,2 年 A 問 題の数系列と数の問題においては Rey の得点 が高い方が数系列と数の正答率が低いという結 果が現れた。視空間認知障害を持つ場合,数概 念の獲得が遅れることが指摘されているが1) 本論ではそのような傾向は見られなかった。 MLD 児の数概念の弱さは視空間認知能力以外 の異なる認知的背景が関与するのかもしれない。 また,視空間認知能力と言っても数概念に用い られる視空間認知能力と Rey 複雑図形検査に より測ることのできる視空間認知能力とは異な る可能性も示された。 Rey 複雑図形には,視知覚や視空間構成,運 動機能,プランニング,持続的注意などの諸機 能が関与すると考えられている。4 年 C 問題の 計測問題は,はかりの目盛りを読みとったり, 巻き尺の目盛りを読み取る課題であった。これ らの問題では,目盛りの読み取り間違いや巻き 尺の○ m を見落とす誤りが多く,Rey 複雑図 3 年 低<平均上 4 年 計測 低<平均上 低<平均下 低<高 5 年 文章題 角度 低<平均下 低<平均下 低<高 6 年 筆算 円周 平均上<平均下 平均上<高 平均上<平均下 2 年 数系列 数 表 4-1 Rey4 群と問題毎の有意差

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形の持続的注意との関連が示唆された。 角度や円周の問題では,答えを求める公式を 記憶できているかも重要であるが,直径はどこ かなど図形の中から問題を解くための要素を取 り出せるかどうかも重要である。そのため視知 覚や視空間構成が関与する Rey 複雑図形の得 点が低い場合,これらの正答率も低いことが予 測された。また,算数の問題を解くためにはプ ランニングが重要な役割を果たす。特に文章題 では,問題解決に向けていくつかのステップを 踏まなければならない。その際にプランニング が働くと考えられる。 図形の問題では一般的には視空間認知能力が 必要とされると考えられているが,本研究では 低学年において Rey4 群と図形問題の正答率と の間に有意差は認められず,高学年の角度等の 図形問題においてのみ Rey 複雑図形の得点が 低い場合,図形等の正答率も有意に低い事が示 された。低学年の図形は,形のマッチングや 様々な図形から三角形や四角形を選ぶもので あった。このような簡単な図形問題では,視知 覚や視空間構成能力の要素が少なく,これらの 能力を介さなくとも解ける問題であること,こ の問題を解くには視空間認知能力より別の能力 がより関連することが考えられる。比較的易し い図形問題は視空間認知の要素は少なく直観的 に判断できるものなのではないだろか。秋元 (1999) は視覚―空間能力の障害により算数障 害が生じた場合,数量概念の発達や図形概念, 数式の意味の視覚的理解が困難になることを挙 げている3)。しかし,本論では視空間認知能力 が弱くても数概念にはつまずきを示さず,低学 年の図形問題にもつまずきを示さなかった。秋 元は症状分類からそれらのつまずきの要因とな りうる認知能力を検討しているが,本論では視 空間認知能力の弱さによる算数の症状分類で あったためと考えられる。つまり,数量概念の 発達や図形概念の理解などのつまずきの背景の 1 側面には視空間認知能力が考えられるが,そ れだけではなく他の認知的要因も関連すると考 えられる。 また,視空間認知障害をもつ算数障害の場合, コップに入った水の量を比較したり,書かれた ものを見て比較するなど視覚を通して形成され る量の概念が形成されにくい,また,「おはじ きを 5 個ください」と要求しても 5 番目に当た るおはじきを 1 個だけくれるなど,数が量を表 す集合数として使えないこと10),計数行為, 視覚的な大小や長短比較などの量の比較,数字 が表す量の意味理解,筆算や桁の大きな数の表 記などに困難を示すこと2)が報告されている。 視空間認知障害を持つ場合,数量概念でつまず くという報告が多いが,本研究での算数の正答 率の低さと Rey 複雑図形の得点の低さとは比 例関係にはなく,MLD 児の数系列や位の理解 などの数の領域でのつまずきが必ずしも視空間 認知の弱さによるものではない可能性が示唆さ れた。 2.MLD と LA の差異と Rey 複雑図形 次に MLD と LA の差異と Rey 複雑図形の 関連を検討した。その際,算数検査の「計算領 域 (群名の後ろに 1 と記す)」,「計算以外の領 域 (群名の後ろに 2 と記す)」を別に分類した。 その結果,算数と Rey 複雑図形との間に差異 が認められたのは,3 年生 B 問題の「計算以外 の領域」のみであった。B 問題の「計算以外の 領域」では,クラスタにおいて LA2 と HA2, 細 部 位 置 に お い て MLD2 と TA2,LA2 と TA2 との間に差異が認められた。しかし,「計 算領域」により分類した MLD1 と LA1 との間 に差異は認められず,さらに「計算以外の領 域」により分類した MLD2 と LA2 との間にも 差異は認められなかった。MLD 群の中にも Rey 複雑図形の得点が高い者と低い者の両方が 含まれたためである。4 群ともに群内に Rey 複 雑図形の得点の高い者と低い者が含まれており, 算数につまずきを示す MLD 児が必ずしも Rey 複雑図形で測れる視空間認知能力が低いわけで はなく,MLD 児にも視空間認知能力が高い等, 異なる認知パターンの者が含まれることが明ら かになった。 3.算数検査と Rey 複雑図形による分類にお ける両検査の傾向 算 数 4 群 (MLD,LA,TA,HA) の Rey 複雑図形の結果を検討した結果,MLD 群の中 にも Rey 複雑図形の高い者と低い者の両方が

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含まれていた。そこで,算数と Rey 複雑図形 の得点により分類し,MLD や LA の中でも Rey 複雑図形の得点が高い者と低い者の算数の 傾向を検討した。その結果,MLD 児において は,2 桁÷ 1 桁の筆算や 2 桁÷ 2 桁の筆算,数 直線問題で Rey 複雑図形の得点が高くなるに つれこれらの問題の正答率も高くなる傾向が見 られた。LA 児においては,小数筆算や面積, 角度の問題において Rey 複雑図形の得点が高 くなるにつれこれらの問題の正答率も高くなる 傾 向 が 示 さ れ た。ま た,Rey 低 群 の 中 で も MLD 児は合計得点が 20 点と LA 児や TA 児, HA 児の Rey 低群の者と比較しても 4 点以上 低く,特に構成方略の得点が低いことが明らか になった。 Rey 複雑図形の大要素となる構成方略にはプ ランニングが必要とされる。MLD 児の Rey 低 群の者はこの構成方略の得点が MLD 児の Rey 平 均 下 群 や Rey 高 群 よ り も 低 い。つ ま り, MLD 児の Rey 低群にはプランニングの弱さが あるのではないだろうか。わり算筆算では, 「商をたて,かけ算をし,引き算をする」と実 に多くの過程が必要であり,プランニングが必 要とされると考えられる。そのため,プランニ ングの弱い MLD 児の Rey 低群の者はこの問 題の正答率が低いのではないだろうか。また, 筆算の場合,計算スキルだけでなく計算をする 際,どこに数字を書くかにより答えが異なり, その位置を決めるのに視空間認知能力は必要と される。本論においてもこれらの問題では少な からず視空間認知能力が必要とされていると考 えられた。しかし,わり算筆算において MLD 児は Rey 複雑図形の得点が高くなるにつれ正 答率も高くなる傾向にあったが,LA 児につい ては Rey 複雑図形の得点が低い者の方が正答 率が高い,あるいは Rey の高低に関わらず正 答率に大差は見られないこともあった。従って MLD 児についてのみ,わり算筆算に視空間認 知能力の関与が大きいことが考えられる。 面積において MLD 児は Rey 複雑図形の得 点の高い者の方がその正答率も高い傾向が示さ れ,角度において LA 児は Rey 複雑図形の得 点が高くなるにつれ正答率も高くなった。これ らは図形領域の問題である。一般的に言われて いるように図形問題には視空間認知能力が関与 する可能性が示された。しかし,5 年生が行っ た課題の中には他にも図形領域の問題が含まれ る。図形領域といっても視空間認知能力の関連 が強いものとそうではないものがあるのではな いだろうか。 図形や筆算は視空間認知能力が必要とされ, 視空間認知障害や視空間認知能力の弱さを指摘 される子どもにおいては筆算の桁揃えができな い,図形問題においてつまずきを示すことが報 告されてきたが,本論では全ての学年で必ずし もそのような結果は見られず,図形や筆算での つまずきは視空間認知能力の弱さが要因である と直結させることには疑問が残った。図形で必 要とされる視空間認知能力と Rey 複雑図形検 査で測ることのできる視空間認知能力とは異な るのかもしれない。つまり,視空間認知能力と いってもその能力に多様性がある可能性が示さ れ,Rey 複雑図形検査ではその一部しか測定で きない可能性も考えられた。従って,視空間認 知能力の測定法を含め今後は検討していく必要 がある。 Ⅴ ま と め 本論では,算数と視空間認知能力の関係,す なわち MLD と LA の差異に視空間認知能力は いかなる関連があるのかを検討した。その結果, 以下の点があきらかになり,加えて今後の課題 も見えてきた。 MLD 児は Rey 複雑図形の得点が低い傾向が あること,Rey 複雑図形の得点によって分類さ れた MLD 児の算数の結果と Rey 複雑図形の 結果を検討していくと,5 年生 MLD 児の中で も Rey 複雑図形の得点が低い者は,わり算筆 算や数直線,面積などの正答率が低い事,Rey 複雑図形の中でも構成方略が低いことが示され た。これらの背景にプランニングの問題や視空 間認知の問題があることが考えられた。しかし, 他学年のわり算筆算やその他の筆算問題におい て必ずしもそのような傾向が認められる訳では ないことが示された。今後は対象児を増やし更 なる検討が必要である。 また,一般的に視空間認知能力が必要とされ

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ている図形問題においても,視空間認知能力の 関連が見られる問題とそうでない問題の存在が あることも示唆された。従って一般的にいわれ るような「図形問題=視空間認知能力」という 解釈には疑問が残った。Rey 複雑図形で測定す ることの出来る視空間認知能力と図形問題で必 要とされる視空間認知能力は異なるのかもしれ ない。 また,MLD と LA の差異と Rey 複雑図形関 しては,同じ Rey 低群であっても LA 児より MLD 児の方が Rey 複雑図形の得点が低く,中 でも特に構成方略の得点が低い傾向があった。 これは Rey 低群だけでなく,Rey 高群におい ても同様であった。つまり,MLD と LA の差 異の背景に構成方略が関連する可能性が示唆さ れた。しかし,全ての学年,全ての Rey の群 でそのような傾向が見られたわけではなく,今 後も慎重な検討が必要である。 以上のことから算数と視空間認知能力につい ては,いくつかにおいては関連傾向が見られた が,予想していた程ではなかった。Rey で測る ことのできる視空間認知能力が必ずしも算数障 害の要因とならないのかもしれない。あるいは Rey 複雑図形検査で測ることの出来る視空間認 知能力は限られているのかもしれない。 Rey 複雑図形は成人の脳損傷の評価法として 作成されているためその採点方法も成人用であ る。近年,発達障害児のアセスメントとして使 用され始めたが,その採点方法はまだ確立され ていない。今後,どのような採点方法が算数障 害児の評価をするにあたって有効かも検討課題 である。 また,本論では視空間認知の測定に Rey 複 雑図形を使用したが,視空間認知の測定には他 にも測定法がある。算数障害の要因となりうる 視空間認知の要因については視空間認知スキル の測定問題も含めてさらに慎重な検討が必要と される。 引 用 文 献 1 ) 大石恵子 (1994) 構成行為,読み書き,算数に 学習困難を持つ症例 LD (学習障害) ―研究 と実践― 第 3 巻,1・2 号,22-33 2 ) 内山千鶴子 (2005) 症例 ある視空間認知障害 児における算数障害とその過程 小児の精神 と神経,45 巻 2 号,167-175 3 ) 秋元有子 (1999) Dyscalculia のサブタイプの 研究―算数障害の認知能力の特性についての 検討―白百合女子大学発達臨床センター紀要, No. 3,8-15 4 ) 熊谷恵子 (2007) 学習障害児の数量概念の理解 度を測定する手法についての基礎的研究 LD 研究,16(3)

5 ) Charles J. Golden, Patricia Espe-Pfeifer, and Jana Wachsler-Felder 著 櫻井正人訳 (2004) 「高次脳機能障害検査の解釈過程―知能,感覚 ―運動,空間,言語,学力,遂行,記憶,注 意―」三秀舎 6 ) 久保田あや子,窪島務 (2006) 発達性ディスレ ク シ ア の ア セ ス メ ン ト に お け る Rey-Osterrieth 複雑図形 (ROCF) の有効性の検討 ―小学生における ROCF の発達的変化と書字 エラーとの関連―滋賀大学教育実践セン ター紀要 7 ) 服部淳子,加藤義信,山口桂子,他 (2000) 日 本の小学生の視空間認知能力の発達評価に対 する Rey-Osterrieth Complex Figure Test の妥 当性について 愛知県立看護大学紀要,6 巻, 19-25

8 ) 萱村俊哉,中嶋朋子,坂本吉正 (1997) Rey-Osterrieth 複雑図形における構成方略の評価 とその意義 神経心理学,13 巻,34-41 9 ) David C. Geary, Mary K. Hoard, Jennifer

Byrd-Craven, Lara Nugent and Chattavee Numtee (2007) Cognitive Mechanisms Underling Achievement Deficits in Children With Mathematical Learning Disability University of Missouri-Columbia

10) 大石恵子 (1982) 症例から見た小児の計算困難 及び読み書き困難の基本障害 脳と発達,14 巻 3 号,305-31

参照

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