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<論説>約束による自白の証拠能力

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Academic year: 2021

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(1)約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 約束 に よる 自 白の証 拠 能 力 典. 辻. =は. 央. じあ に. ≡榔 四. 本. 難. 繋. 謄戴. 自白の証拠育 旨 力. お わ りに. 一. は じめ に. 被 疑 者 ・被 告 人 に よ る 自 己の 犯 罪 を 認 め る 旨の 供 述 で あ る 自 白 は,人 が あえ て 自身 に不 利 益 とな る事 実 を 認 め る こ と は真 実 で あ る との 経 験 則 に基 づ いて 類 型 的 に証 拠 価 値 を 高 く評 価 され,古 くか ら 「証 拠 の王(又 は女 王)」 と称 せ られ て き た よ う に,刑 事 裁 判 に お け る決 定 的 な 証 拠 と して 重 宝 され て き た(1)。 現 在 で も,そ の よ う な 自 白 の位 置 づ け に変 化 は な く,大 半 の 刑 事 裁 判 に お いて,本 質 的 に被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白 に基 づ いて 簡 易 迅 速 に有 罪 認 定 が な され て い る(2)。 も っ と も,他 方 で,刑 事 裁 判 が 被 疑 者 ・ 被 告 人 の 自白 に偏 重 す る こ とは, 自 白 も証 人 の 供 述 と 同様 に人 の 供 述 過 程 を た ど って 公 判 に顕 出 され る もの (1)田. 宮裕. (2)通. 常 第 一・ 審 に お け る 自 白 事 件 の 割 合 は,2003年. を 超 え,審. 『刑 事 訴 訟 法 ・新 版 」344頁(1996年)。. 理 期 間 は2.6∼2.8か. 2.4回(同6.8∼7.6回)と. 月(否. な っ て い る(最. お け る 刑 事 事 件 の 概 況(上)」. か ら2007年. 認 事 件 は8.9∼9.5か. 廷 回 数 は2.3∼. 高裁判所事務総局刑事 局. 曹 時61巻2号213,253頁(2009年)。. 33. に お い て 概 ね90%. 月),開. 「平 成19年. に.

(2) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. で あ る こ とか ら,物 的 証 拠 に重 点 が 置 か れ る場 合 に比 べ て,類 型 的 に誤 判 の 虞 が 高 くな る。 ま た,自 白獲 得 に向 けて,い. き お い取 調 が 過 酷 な もの と. な り,被 疑 者 ・被 告 人 の 黙 秘 権(憲 法38条1項)が. 不 当 に侵 害 され る こ と. に もつ な が りか ね な い。 そ こで,憲 法 は,前 者 の 問 題 性 につ いて は,自 白 に加 え て 補 強 証 拠 を 要 求 す る こ とで(補 強法 則=憲 法38条3項,刑 条2項),後. 訴 法319. 者 の 問題 性 につ い て は,拷 問 等 の 黙 秘 権 侵 害 につ な が る取 調 に. よ る 自 白の 証 拠 能 力 を 否 定 す る こ とで(自 319条1項),そ. 白法 則=憲 法38条2項,刑. 訴法. れ ぞ れ保 護 を 図 って い る。 本 稿 は,こ の う ち,後 者 の 問題,. す な わ ち 自 白法 則(自. 白の 証 拠 能 力)の 問 題 につ いて,特. に,従 来 か ら自. 白 の証 拠 能 力 が 否 定 され う る一類 型 と され て き た 「約 束 に よ る 自白」(又 は利 益 誘 導 に基 づ く自 白)に 重 点 を お いて 検 討 す る。 この 類 型 は,後 述 で 検 討 す る と お り,最 判 昭 和41年7月1日 号537頁 が 自 白 の証 拠 能 力 を 否 定 した こ と を 嗜矢 と して,既. 刑 集20巻6 に活 発 に 議 論. が な され て い る と こ ろで あ る。 も っ と も,そ の 理 論 的 基 礎 付 け に こ そ争 い は あ るが,証 拠 能 力 を 否 定 す る と い う結 論 につ いて は さ した る異 論 は見 ら れ な か った 。 しか し近 時,最 判 平 成21年7月14日. 刑 集63巻6号623頁. が即. 決 裁 判 手 続 に お け る被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白 につ いて 証 拠 能 力 を 肯 定 す る判 断 を示 した こ とか ら,こ の 問 題 を 改 めて 検 討 す る必 要 が 生 じて い る。 す な わ ち,事 件 を 即 決 裁 判 手 続 に よ り簡 易 迅 速 に審 判 す る た め に は,被 疑 者 ・ 被 告 人(及. び弁 護 人)の. 同意 を 必 要 とす るが,こ の こ と は,事 前 に,即 決. 裁 判 に よ る場 合 の 被 疑 者 ・被 告 人 に と って の 利 点(特. に科 刑 制 限)を 要 素. とす る,刑 事 訴 追 側 と被 疑 者 ・被 告 人 側 との 交 渉 が 行 わ れ る こ と及 び それ に伴 って 被 疑 者 ・被 告 人 が 自 白す る こ とを 前 提 と し,そ こ に,一 一 定の取引 的 要 素 の存 在 を 認 め る こ とが で き る(3>。 す な わ ち,被 疑 者 ・被 告 人 が 検 察. (3)辻 本 典 央 「判 例 研 究 ・即 決 裁 判 にお け る上 訴 制 限 」 近 法57巻3号(2009年)。. 34.

(3) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 官 との 交 渉 に よ る約 束 に基 づ いて 自 白す る場 合,そ の 自 白 は,一 定 の 利 益 と交 換 関 係 に お いて 行 わ れ る もの で あ る こ とか ら,そ れ は ま さ に従 来 か ら その 証 拠 能 力 が 否 定 され て き た約 束 に よ る 自 白で あ る と位 置 づ け られ る。 この よ うな 自 白 は,は た して,そ の 証 拠 能 力 を 否 定 され るべ き もの で あ ろ うか 。 取 引 に よ る事 件 処 理 は,我 が 国 で も,以 前 か ら,ア メ リカ合 衆 国 にお け る プ リ ・バ ーゲ ニ ン グ に基 づ く有 罪 答 弁 の 検 討 を 通 じて,ま た 近 時 で は, ドイ ツで 新 た に立 法 され た合 意 手 続 の 紹 介 を 通 じて,様 て き た。 ま た,2010年. 々議 論 が 重 ね られ. 度 の 刑 法 学 会 で は,「 司 法 取 引 の 理 論 的課 題 」 が 第. 二 分 科 会 の 共 同研 究 の テ ー マ と して 掲 げ られ て い る。 この よ う に,刑 事 手 続 に お け る取 引 的 要 素 の 存 在 は,そ の 規 制 如 何 を 含 めて,喫 緊 の 検 討 課 題 とな って い る。 就 中,簡 易 迅 速 な 事 件 処 理 と い う関 心 か ら は,被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白の 位 置 づ け は,犯 罪 事 実 の 存 否 が 争 わ れ る対 決 型 の 公 判 に比 べ て,決. して 低 い もの で はな く,そ の 重 要 性 は よ り高 ま って い る。. 本 稿 は,取 引 に よ る事 件 処 理 に不 可 欠 と も いえ る被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白 が 刑 事 訴 追 側 との 約 束 に よ り行 わ れ た場 合,そ の 証 拠 能 力 如 何 と い う問 題 を 検 討 す る。 も っ と も,そ の 検 討 に際 して,従 来 の 自 白法 則 に関 す る枠 組 み との 関 係 が 問 わ れ な けれ ばな らな い。 それ ゆえ,ま ず は,従 来 の 自 白法 則 に関 す る議 論 を 一一 覧 し,そ れ を 前 提 と して,約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力 如 何 と い う問 題 を 検 討 し,私 見 を 提 示 した い と思 う。. 二. (1)憲. 自 白 の証 拠 能 力(自. 法38条2項. 白 法 則 論). に よ る と,「 強 制,拷. 問 若 し くは脅 迫 に よ る 自 白又 は不. 当 に 長 く抑 留 若 し く は 拘 禁 さ れ た 後 の 自 白 」,刑 訴 法319条1項 これ に加 え て. に よ る と,. 「そ の 他 任 意 に さ れ た も の で な い 疑 の あ る 自 白 」 は,刑. 35. 事裁.

(4) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 判 の事 実 認 定 に 際 して,「 証 拠 とす る こ とが で きな い」④。 この よ う に,憲 法 上 の 基 本 的人 権 の一 つ と位 置 づ け られ る 自 白の 証 拠 能 力 に 関 す る 制 限 は,一 般 に 「自白 法 則 」(又 は 自 白排 除 法 則)と. 呼 ば れ るが,周 知 の とお. り,そ の 理 論 的 基 礎 付 け に関 して,次 の よ うな 対 立 が 見 られ る。. (2)ま ず,主. と して 自 白す る側(被 疑 者 ・被 告 人)の 主 観 面 に着 目 し,. その 供 述 過 程 に お け る任 意 性 が 侵 害 され た場 合 に,そ の 自 白が 排 除 され る べ きで あ る とす る見 解 が あ る。 この いわ ゆ る 「任 意 性 説 」 と呼 ばれ る見 解 は,さ. らに,2つ. の 観 点 に分 か れ て 主 張 され る。. 第 一 に,「 虚 偽 排 除説 」 は,強 制,拷 問 等 に よ り任 意 性 に 疑 い が あ る 自 白 は,そ こ に虚 偽 が 混 入 して い る虞 が 大 き く,類 型 的 に その 信 用 性 が 乏 し い もの で あ る と して,不 任 意 自 白の 証 拠 能 力 を 否 定 す る。 この 見 解 は,特 に無 実 者 に対 す るえ ん 罪 防 止 の 観 点 が 重 視 され て い る と い って よ い。 これ に対 し,第 二 に,「 人 権 擁i護説 」 は,憲 法38条2項. は 同条1項. の黙秘権 保. 障 の 担 保 的 規 定 で あ る と理 解 し,強 制,拷 問 等 に よ り任 意 性 に疑 いが あ る 自 白 は,黙 秘 権 と い う基 本 的 人 権 を 侵 害 す るが ゆえ に証 拠 能 力 を 否 定 され るべ き と主 張 す る。 この 見 解 は,無 実 で あ るか 否 か を 問 わ ず,全 て の 被 疑 者 ・被 告 人 に保 障 され るべ き黙 秘 権(供 述 の 自 由)と い う人 権 保 護 の 観 点 を重 視 す る もの と い って よ い。 も っ と も,虚 偽 排 除 の 観 点 と人 権 擁 護 の 観 点 は いず れ も両 立 す る関 係 に あ る と して,双 方 の 観 点 を併 用 す る見 解(「 併 用 説 」 又 は 「折 衷 説 」)が,有. 力 に主 張 され て い る。. この2つ の 観 点 か ら主 張 され る任 意 性 説 に は,そ れ ぞ れ,次 の よ うな 批 判 が 述 べ られ る。 まず,虚 偽 排 除 説 に対 して は,自 白法 則 は証 拠 能 力 の 問. (4)最 大 判 昭 和45年11月25日. 刑 集24巻12号1670頁. は,憲 法38条2項. と刑 訴 法319. 条1項 の 適 用 範 囲 は異 な らな い と して い る。 こ れ に よ る と,不 任 意 自 白の 排 除 が 一・ 般 に,憲 法 上 の 基 本 的 人 権 と して 手 続 的 に保 障 を 受 け るべ き こ と とな る。. 36.

(5) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 題 で あ るが,こ の 見 解 は証 明 力 判 断 と混 同す る もの で あ る。 また,強 制 等 に よ る不 任 意 自 白で あ る こ との 疑 い は あ るが,他 の 証 拠 か ら 自 白が 真 実 で あ る こ とが 裏 付 け られ る場 合 に,こ の 見 解 に よれ ば,証 拠 能 力 が 認 め られ る こ と にな って しま う。 他 方,人 権 擁 護 説 に対 して は,憲 法38条2項. を同. 条1項 の 担 保 規 定 にす ぎな い と位 置 づ け,黙 秘 権 侵 害 に よ る 自 白 は1項 自 身 か ら証 拠 排 除 され るべ き とす る と,2項. は その 独 自の 意 義 を 奪 う こ と に. な って しま う。 ま た,本 稿 の テ ー マで あ る利 益 誘 導 に基 づ く約 束 に よ る 自 白 は,後 述 す る とお り,伝 統 的 に証 拠 能 力 を否 定 す る もの とさ れ て き た が, この よ うな 場 合 に被 疑 者 ・被 告 人 の 意 思 決 定 の 自 由が な お も保 障 され て い る限 りで,こ の 見 解 は,証 拠 能 力 を 否 定 す る結 論 を 説 明 す る こ とが で きな い。 併 用 説 は,こ の よ う に批 判 され る各 々の 弱 点 を 補 い合 う形 で 主 張 され る よ う にな っ た もの で あ る。. (3)こ れ に対 し,主 と して 取 調 を す る側(警 察 官 等 の 捜 査 機 関)の 行 為 態 様 に着 目 し,強 制,拷 問 等 に よ る任 意 性 に疑 いが あ る 自 白 は,取 調 行 為 態 様 の 違 法 性 ゆえ に証 拠 能 力 が 否 定 され るべ き とす る見 解 が あ る。 この い わ ゆ る 「違 法 排 除 説 」 は,ア メ リカの 証 拠 法 則 に関 す る判 例 理 論 の 展 開 に 影 響 を受 け,「 自白採 取 の過 程 に お け る適 正 手 続(デ. ュ ー ・プ ロセ ス)な. い し合 法 手 続 を 担 保 す る一一 つ の 手 段 」 で あ り,違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 が 自 白採 取 過 程 に も当 然 に妥 当す る べ き と主 張 す る もの で あ る(5)。 最 判 昭 和53 年9月7日. 刑 集32巻6号1672頁. が,物 的 証 拠 に関 して 違 法 収 集 証 拠 排 除 法. 則 の 適 用 可 能 性 を 認 めて 以 来,学 説 上,自. 白 に関 して も この 法 則 が 適 用 さ. れ るべ き とす る見 解 が,通 説 的 に主 張 され る よ う にな った 。 この 違 法 排 除 説 は,任 意 性 説 が 強 制 等 に よ る違 法 な 取 調 方 法 の 供 述 者 へ の 意 思 決 定 へ の 影 響 を 考 慮 す る もの で あ るが,供 述 者 の そ の よ うな 主 観 の (5)田. 宮裕. 『捜 査 の 構 造 」293頁(1971年)。. 37.

(6) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 立 証 は非 常 に困 難 で あ る との 批 判 か ら出発 し,む しろ,そ の よ うな 供 述 者 の 主 観 と は独 立 して 取 調 行 為 の 違 法 性 その もの が 端 的 に評 価 され るべ き と す る。 これ に よ り,立 証 の 困 難 性 が 払 拭 され,適 正 な 刑 事 手 続 が 実 現 され る こ と にな る と い うわ けで あ る。 違 法 排 除 説 は,そ の 憲 法 上 の 根 拠 規 定 及 び不 任 意 供 述 の 理 解 につ いて, 次 の よ うな バ リエ ー シ ョンが あ る。 第 一一 の 見 解 は,適 正 手 続 の 保 障 を 定 め た憲 法31条 が,違 法 な 手 続 に よ って 獲 得 され た物 的 証 拠 だ けで な く,強 制 等 に よ る不 任 意 自 白を 排 除 す る た めの 根 拠 規 定 で も あ る と し,憲 法38条2 項 は いわ ば 自 白採 取 過 程 に お け る適 正 手 続 を 担 保 す る た めの 注 意 規 定 で あ る と主 張 す る(6)。これ に対 し,第 二 の 見 解 は,憲 法38条2項. は,違 法 収 集 自. 白を 排 除 す る証 拠 禁 止 規 定 で あ る と位 置 づ け,不 任 意 自 白 は その よ うな 違 法 収 集 自 白の 最 も基 本 的 な 類 型 で あ る と主 張 す る(7)。 この よ う に して,違 法 排 除 説 は,違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 と い う適 正 手 続 の 観 点 か ら要 請 され る本 質 的 な 証 拠 法 則 が 自 白 に も 当然 に適 用 され るべ き とす る こ とを 基 礎 と し,そ の 発 想 自体 の 正 当性 に は お よ そ疑 いが な い こ と か ら(8>,学説 上,有 力 に支 持 され て い る。 も っ と も,自 白法 則 を この よ う に 違 法 排 除 法 則 の 観 点 か ら一一 元 的 に理 解 す る見 解 に対 して は,そ も そ も,不 任 意 自 白を 排 除 の 要 件 とす る条 文 構 造 に適 合 す るか と い う解 釈 上 の 疑 問 点 か ら,不 任 意 自 白の 証 拠 排 除 を す べ て 自 白獲 得 方 法 の 違 法 性 で 説 明 で き る か は疑 問 で あ る とす る批 判 が 向 け られ る。 確 か に,違 法 排 除 説 の 論 者 か ら は,本 稿 の テ ー マ で あ る約 束 に よ る 自白 につ い て,「 国 家 機 関 が 正 義 ・礼 譲 を ま も る と い う意 味 で,違 法 排 除 説 が よ りよ く説 明 で き る」 と い っ た主. (6)田 宮(前 掲 注(5))『捜 査 の 構 造 」293頁 。 (7)鈴 木 茂 嗣 『続 ・刑 事 訴 訟 の 基 本 構 造 ・下 巻 」525頁(1997年)。 (8)大 澤 裕 「自 白 の任 意 性 と そ の立 証 」 松 尾 ・井 上 編 『刑 事 訴 訟 法 の 争 点 ・第3 版 」170,172頁(2002年)。. 38.

(7) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 張 や(9),「 約 束 内容 の 違 法 性 な い し自 白獲 得 の 手 段 と して 一 定 内容 の 約 束 を す る こ と 自体 の 違 法 性 」 に加 え て,約 束 不 履 行 の 事 例 に関 して は 「不 履 行 と い う こ と 自体 の 違 法 性 」 を 考 慮 す る こ とで 違 法 排 除 説 か ら も説 明 可 能 で あ る と い っ た主 張 が な され て い る⑩。 しか し,こ の よ うな説 明 に対 して は, いず れ も 自 白獲 得 方 法 の 「不 適 当 さ」 の 説 明 に と ど ま り,「違 法 」 とい う 評価 を基 礎付 けで き て い るか は疑 問 で あ る とす る批 判 が 向 け られ て い る⑪。. (4)以 上 の と お り,こ れ まで の 自 白法 則 の 理 論 的 基 礎 付 け に関 す る議 論 は,任 意 性 説 と違 法 排 除 説 との 対 立 と い う形 で 展 開 され て きた 。 しか し, その 後,両 説 は互 い に矛 盾 す る もの で はな く,不 任 意 自 白 につ いて は虚 偽 排 除 説 と人 権 擁i護説 を 併 せ て 考 慮 し,さ らに取 調 を 含 む 捜 査 の 違 法 性 次 第 で は,「 任 意 に さ れ た もの で は な い 疑 の あ る」 と ま で い え な い場 合 で も, その 自 白の 証 拠 能 力 が 否 定 され る場 合 が あ る と して,任 意 性 説 と違 法 排 除 説 を 止 揚 させ る見 解 が 登 場 した⑫。 この いわ ゆ る 「総 合 説 」(又は 「二 元 説 」) と称 せ られ る見 解 は,自 白の 証 拠 能 力 が 問 わ れ る場 面 ご と に各 々の 問 題 点 を う ま く説 明 で き る だ けで な く,憲 法38条2項. 及 び刑 訴 法319条1項. の解. 釈 に お いて も無 理 が な く,学 説 の み な らず,実 務 か ら も強 い支 持 を 得 て い る⑱。 その 一 例 と して,著 名 な 「ロザ ール 事 件 」 を挙 げ る こ とが で き る。. (9)田 宮(前 掲 注(5))『捜 査 の 構 造 」300頁 。 ⑩. 鈴 木(前 掲 注(7))『続 ・刑 事 訴 訟 の 基 本 構i造・下 巻 」536頁 。. qD大 ⑰. 澤(前 掲 注(8))「 自 白の 任 意 性 とそ の 立 証 」172頁 。 米 山正 明 「利 益 誘 導 と 自 白 の任 意 性 」 大 阪刑 事 実 務 研 究会 『刑 事 証 拠 法 の 諸. 問 題 ・下 巻 」283,290頁(2001年),三. 井誠 「 刑 事 手 続 法 入 門 ・自 白の 排 除 法 則. とそ の 根 拠(1)」法 教246号76頁(2001年),大. 澤(前 掲 注(8))「 自 白の 任 意 性 とそ. の 立 証 」172頁 。 (13)石 井 一 正 「自 白 の証 拠 能 力 」大 阪刑 事 実 務 研 究 会 『 刑 事 公 判 の諸 問 題」405頁 (1989年),大. 谷 剛 彦 「自 白の 任 意 性 」 平 野 ・松 尾 編 『新 実 例 刑 事 訴 訟 法 皿 」137. 頁(1998年)。. 39.

(8) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 本 件 は,被 告 人 女 性 が 同居 男 性 を 殺 害 した と して 起 訴 され た事 件 で あ る が,捜 査 段 階 に お いて 計9泊. とな る宿 泊 を 伴 って 行 わ れ た取 調 の 適 法 性 及. び その 間 に得 られ た 自 白の 証 拠 能 力 が 問 題 とな っ た。 一一 審(千 葉 地 判 平 成 11年9月8日. 判 時1713号143頁)は,自. 白の 任 意 性 及 び違 法 排 除 の 双 方 の 観. 点 か ら証 拠 能 力 を 検 討 した うえ で,証 拠 能 力 を 肯 定 した。 これ に対 し,二 審(東 京 高 判 平 成14年9月4日. 判 時1808号144頁)は,「. 自 白を 内容 とす る. 供 述 証 拠 につ いて も,証 拠 物 の 場 合 と 同様,違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 を 採 用 で きな い理 由 はな いか ら,手 続 の 違 法 が 重 大 で あ り,こ れ を 証 拠 とす る こ とが 違 法 捜 査 抑 制 の 見 地 か ら相 当で な い場 合 に は,証 拠 能 力 を 否 定 す べ き で あ る と考 え る。[原 文 改 行]ま 訴 法319条1項. た,本 件 に お い て は,憲 法38条2項,刑. に い う 自 白法 則 の適 用 の 問題(任 意 性 の 判 断)も. あ るが,. 本 件 の よ う に手 続 過 程 の 違 法 が 問 題 と され る場 合 に は,強 制,拷 問 の 有 無 等 の 取 調 方 法 自体 に お け る違 法 の 有 無,程 度 等 を 個 別,具 体 的 に判 断(相 当な 困 難 を 伴 う)す るの に先 行 して,違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 の 適 用 の 可 否 を検 討 し,違 法 の 有 無 ・程 度,排 除 の 是 非 を 考 え る方 が,判 断 基 準 と して 明 確 で 妥 当で あ る と思 わ れ る。」と判 示 し,任 意 性 の 判 断 に踏 み 込 む こ とな く,す で に違 法 排 除 の 観 点 で 証 拠 能 力 を 否 定 した。 本 件 は,一 一 審 と二 審 と で,自. 白の 証 拠 能 力 の 判 断 が 分 か れ たが,違 法 排 除 と任 意 性 の 両 観 点 を 総. 合 的(又. は二 元 的)に 証 拠 能 力 の 判 断 に取 り込 む と い う判 断 構 造 に違 い は. な い。 それ ゆえ,こ の 裁 判 例 は,総 合 説(又. は二 元 説)に 立 つ もの と評 価. す る こ とが で き る。. (5)こ の よ う に して,任 意 性 の 観 点 と違 法 排 除 の 観 点 を 止 揚 す る総 合 説 が 有 力 とな っ たが,こ れ に よ り全 て の 問 題 点 が 解 消 され たわ けで はな い。 それ ら全 て を 検 討 す る こ と は,本 稿 の 課 題 で はな く,問 題 点 の 指 摘 に と ど め る。 40.

(9) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 第 一一は,従 来 か らも議 論 され て き た こ とで あ るが,任 意 性 説 と違 法 排 除 説 を 統 合 した場 合,人 権 擁i護説 と違 法 排 除 説 の 関 係 を 如 何 に理 解 す るべ き か とい う点 が 問 題 とな る。 す な わ ち,違 法 排 除説 が 問 題 とす る違 法 取 調 は,人 権 擁 護 説 が 保 護 しよ う とす る黙 秘 権 を 侵 害 す る もの で あ る と い うの で あれ ば,両 説 に違 い はな い こ と にな る。 しか し,い ず れ にせ よ虚 偽 排 除 の 観 点 が 別 途 残 され て お り,こ の 問 題 点 に実 質 的 な 意 味 は認 め られ な い。 第 二 は,任 意 性 説 と違 法 排 除 説 を 統 合 す る と い う場 合,特 38条2項. 及 び 刑 訴 法319条1項. の実 定 法 規 定 と の 関係 如 何 と い う点 が 問 題. とな る。 す な わ ち,違 法 排 除 の 観 点 が,自 るべ き もの で あ るか,又. に後 者 と憲 法. 白法 則 の 中 に一 元 的 に解 消 され. は,右 実 定 法 規 定 に基 づ く自 白法 則 は任 意 性 説 が. 担 当 し,い わ ば それ と は別 の 次 元 で,証 拠 法 則 の 一 般 ル ー ル と して(物 的 証 拠 と共 通 の もの と して)違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 が 適 用 され るの か,と. い. う問 題 で あ る。 この よ うな 関 心 か ら,前 者 を 総 合 説,後 者 を 二 元 説 と命 名 す る こ とが,内 容 の 理 解 に お いて 便 宜 で あ る と いえ よ う。 例 え ば ロザ ー ル 事 件 控 訴 審 判 決 を 見 る と,こ れ は二 元 説 に立 つ もの と評 価 す る こ とが で き る。 この 見 解 か らは,憲 法 及 び刑 訴 法 の 解 釈 と して 成 文 に違 法 排 除 説 を 読 み 込 む こ との 難 点 を 克 服 す る こ とが で き る。 ロザ ー ル 事 件 控 訴 審 判 決 は, その よ うな 理 解 を 前 提 に,自 白法 則 に対 す る違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 の 観 点 の 独 立 性 を 導 き,さ. らに裁 判 実 務 で は客 観 的 判 断 が 可 能 な 違 法 排 除 の 観 点. か ら検 討 す るべ き こ と まで 判 示 して い る。 しか し,こ の 実 務 上 の 便 宜 は, 違 法 排 除 を 自 白法 則 の 中 に解 消 し,一 元 的 に理 解 した場 合(総 合 説)で も, な お否 定 され る もの で はな い。 それ ゆえ,結 局 は,こ の 問 題 点 に も実 質 的 な 意 味 は認 め られ な い。 第 三 は,問 題 とな る取 調 の 方 法 と 自 白 との 因 果 性 如 何 と い う,多 分 に実 践 的 な 問 題 点 で あ る。 この 点 は,確 か に,任 意 性 説 の 観 点 か ら は,供 述 者 の 主 観 面 が 問 題 とな る取 調 か らどの よ うな 影 響 を 受 けた か の 考 察 が 不 可 欠 41.

(10) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. で あ るの に対 し,違 法 排 除 説 か らは,捜 査 機 関 側 の 取 調 態 様 が 自 白の 排 除 を要 請 す る ほ どの 質 的 ・量 的 に重 度 に至 っ た場 合,も. はや 供 述 者 の 主 観 面. を考 慮 す る こ とな く証 拠 排 除 され う る こ とか ら,被 疑 者 ・ 被 告 人 に と って, 立 証 活 動 と して 後 者 の 方 が 有 利 で あ る と も いえ る。 しか し,違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 の 理 論 的 妥 当性 は肯 定 しつ つ,そ の 適 用 に よ る証 拠 排 除 に は抑 制 的 で あ る判 例 の 動 向 を 見 る限 り,証 拠 排 除 に向 けて 定 立 され る要 件 如 何 に よ って は,双 方 の 観 点 に お いて いず れ が 有 利 又 は不 利 で あ るか は,一 般 的 に決 定 で き る もの で はな い。. (6)以 上 の と お り,自 白の証 拠 能 力 に関 す る憲法38条2項,刑. 訴 法319条. 1項 の 理 論 的 基 礎 付 け につ いて,任 意 性 説 と違 法 排 除 説 の 対 立 か ら出発 し て,現 在 で は,両 説 を 統 合 ・止 揚 す る見 解 が 有 力 とな って い る。 確 か に, 違 法 排 除 説 の 観 点 を 自 白法 則 の 中 に読 み 込 む の か,又. は,独 立 の 二 元 的 な. 構造 の もの と理 解 す るの か は さ らに検 討 の 必 要 が あ るが,両 説 の 問 題 とす る側 面 が 異 な る こ と,自 白排 除 を 要 請 す る諸 利 益 は個 別 の 問 題 状 況 に お い て 異 な る こ とを 考 え る と,こ の よ うな 総 合 的 考 慮 は,基 本 的 視 座 に置 いて 正 しい と いえ る。 その 上 で,あ え て 任 意 性 説 と違 法 排 除 説 の 観 点 を この よ うな か た ちで 総 合 的 に止 揚 す る見 解 に理 論 的 視 座 を 提 供 す るな らば,そ れ は,刑 事 手 続 に お け る被 疑 者 ・被 告 人 の 主 体 的 地 位 の 保 護 に求 め られ るべ きで あ ろ う。 す な わ ち,違 法 収 集 証 拠 排 除 の 観 点 も,不 任 意 自 白の 排 除 の 観 点 も,そ の よ うな 情 況 で 採 取 され た証 拠 の 使 用 は,被 疑 者 ・被 告 人 の 主 体 的 地 位 を 侵 害 す る もの で あ るか ら,自 白法 則 を 被 疑 者 ・被 告 人 の 主 体 的 地 位 の 保 護 と い う視 点 で 統 一一 的 に理 解 す る こ と は許 され るで あ ろ う。 逆 に いえ ば,自 白採 取 過 程 に お け る手 段 及 び効 果 に関 して,被 疑 者 ・被 告 人 の 主 体 的 地 位,具 体 的 に いえ ば 自 白を 行 うか 否 か につ いて 自 己決 定 の 自 由が 保 障 され て い る限 り,そ の よ うな 意 思 決 定 に基 づ いて 行 わ れ た 自 白 につ い 42.

(11) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. て 証 拠 能 力 を 認 め る こ と に障 害 はな いの で あ る。. 三. 利 益 約 束(利. (1)最 判 昭 和41年. 益 誘 導)に 基 づ く 自 白 の 証 拠 能 力. 「児 島 税 務 署 収 賄 事 件 」. 利 益 約 束(利 益 誘 導)に 基 づ く自 白 は,そ の 証 拠 能 力 を 如 何 に評 価 され るべ きで あ ろ うか 。 本 稿 の テ ー マで あ る この 論 点 は,自 白法 則 を 如 何 に理 解 す るか で 結 論 が 異 な りう る もの と され,ま. さ にそ の 「試 金 石 」 と位 置 づ. け られ る べ き 問 題 で あ る⑭。 こ の 問 題 に 関 す る裁 判 例 の リー デ ィ ン グ ・ ケ ー スで あ り,学 説 の 活 発 な 議 論 を 惹 起 した の が,最 判 昭 和41年7月1日 刑 集20巻6号537頁. 「児 島税 務 署 収 賄 事 件 」 で あ る。 著 名 事 件 で は あ る が,. 本 稿 の 検 討 に お いて も その 土 台 とす るべ く,少 し詳 し く紹 介 して お こ う。 本 件 は,税 務 署 職 員 で あ っ た被 告 人Xが,自. 己 の 担 当 す る税 務 調 査 に際. して,対 象 者 か ら調 査 に際 して 便 宜 を 図 る よ う請 託 を 受 けて 金 品 等 の 賄 賂 を 収 受 した と して 起 訴 され た事 件 で あ る。 公 判 で は,Xが た 自 白が 証 拠 と して 採 用 され たが,右 の で あ っ た。Xは,収. 捜査段階で行 っ. 自 白 は次 の 経 過 にお いて 得 られ た も. 賄 容 疑 で 逮 捕 され た 後,警 察 官 の 取 調 に対 し,金 品. 受 領 の 事 実 は認 めて い たが,こ れ を 貰 い受 け る まで の 意 思(収 受 の 意 思) はな か っ た と して,犯 行 を 否 認 して い た。 贈 賄 者Aの 弁 護 人 で あ った 弁 護 士Bは,自. 分 の 軽 率 な 行 為 に よ りXに 迷 惑 を か けた の でXの た め に も尽 力. して 欲 しい とのAの 意 を 受 け,担 当検 察 官 との 面 談 に際 し,Xの. た め に陳. 弁 した と こ ろ,「 被 告 人 が 見 え す い た 虚 構 の 弁 解 を や め て 素 直 に金 品 収 受 の 犯 意 を 自供 して 改 俊 の 情 を 示 せ ば,検 挙 前 金 品 を そ の ま ま返 還 して い る との こ とで あ るか ら起 訴 猶 予 処 分 も十 分 考 え られ る案 件 で あ る 旨 内意 」 を. ω. 大 澤(前 掲 注(8))「 自 白の 任 意 性 とそ の 立 証 」172頁 。. 43.

(12) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 打 ち 明 け られ,「 被 告 人 に 対 し無 益 な否 認 を や め卒 直 に 真 相 を 自供 す る よ う勧 告 した らど うか と い う趣 旨の 示 唆 」 を 受 け た。Bは,自 等 を総 合 考 慮 す る と,Xの. 身の持つ情報. 否 認 に もか か わ らず 賄 賂 収 受 の 意 思 を 認 定 され. て もや む を 得 な い事 件 で あ る と判 断 し,前 述Aの 意 思 を も汲 ん で,Xの. 実. 質 的 利 益 を 希 求 す る との 善 意 か ら(病 弱 で あ っ たXが 早 く釈 放 され る よ う 考 慮 して),検 察 官 の意 図 を了 承 し,Xの し,そ の 同意 を得 た上 で,Xに. 弁 護 人 と と も にXの 家 族 らと会 談. 面 接 し,「検 事 は君 が 見 え す い た嘘 を 言 って. い る と思 って い るが,改 俊 の 情 を 示 せ ば起 訴 猶 予 に して や る と言 って い る か ら,真 実 貰 っ た もの な ら正 直 に述 べ たが よ い。 馬 鹿 な こ とを 言 うて 身 体 を損 ね る よ り,早 く言 うて楽 に した方 が よか ろ う。」と述 べ て 自 白を 勧 告 し た。Xは,Bの. 勧 告 に一一 応 の 賛 意 を 示 し,そ の 後 の 取 調 に お いて,賄 賂 収. 受 の 意 思 及 び その 使 途 等 につ いて 自 白 した。 しか し,検 察 官 の前 述 「内意 」 は,XがAか. ら受 領 した と疑 わ れ て い た現 金10万 円 は費 消 せ ず す で に全 額. が 返 還 され て い る と い う こ とを 前 提 に発 せ られ た もの で あ り,Xは. 右 自白. に お いて 当該 金 員 は返 還 す る こ とな くす で に費 消 した と供 述 した こ とか ら (ち な み に,Bは,Xが. す で に右 金 員 を返 還 して い た もの と誤 信 し,そ の よ. う な条 件 をXに 伝 え て い な か っ た),検 察 官 は,Xを. 受 託 収 賄 罪 で起 訴 し. た。 一・ 審(岡. 山 地 判 昭 和37年12月20日 刑 集20巻6号544頁)は. ,自 白 の証 拠. 能 力 につ いて 特 段 言 及 す る こ とな く,こ れ を 証 拠 と して 採 用 し,Xを と した(懲 役8月,執. 行 猶 予3年,追. 徴 約1万. 円)。Xは,控. 有罪. 訴 し,捜 査. 段 階 に お け る 自 白の 証 拠 能 力 を 争 っ たが,二 審(広. 島高 岡 山支 判 昭 和40年. 7月8日. 「起 訴 猶 予 云 々 の 発 言. 刑 集20巻6号545頁)は,検. 察 官 及 びBの. を した こ と につ いて は批 判 の 余 地 」 が あ り,Bを. 介 した検 察 官 の 内意 を 受. けて 全 て を 自供 し改 俊 の 情 を 示 した に もか か わ らず 起 訴 され たXが. 「憤 憲. の 情 を いだ くの は も と よ り理 解 し得 る」,「右 前 提 条 件 が 被 告 人 に伝 達 され 44.

(13) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. な か っ た た め,こ れ を 知 る 由 もな い被 告 人 が 両 者 の 予 想 に反 す る 自 白を な す に至 っ た もの で あ り,こ の 点 に被 告 人 の 誤 算 と悲 劇 の 原 因 が あ った 」 と してXに 同 情 の 意 を示 しつ つ も,「 自白 の 動 機 が右 の よ うな 原 因 に よ る も の と して も,捜 査 官 の 取 調 べ それ 自体 に違 法 が 認 め られ な い本 件 にお いて は,前 記 各 供 述 調 書 の任 意 性 を 否 定 す る こ と は で き な い。」 と して,Xの 主 張 を 排 斥 した。Xは,上 昭 和29年3月10日. 告 し,原 審 判 断 は過 去 の 高 裁 裁 判 例(福. 判 特26号71頁)に. 岡高 判. 相 反 す る と主 張 した と こ ろ,最 高 裁 は,. 「被 疑 者 が,起 訴 不 起 訴 の決 定 権 を もつ 検 察 官 の,自 白を す れ ば起 訴 猶 予 に す る 旨の こ と ばを 信 じ,起 訴 猶 予 にな る こ とを 期 待 して した 自 白 は,任 意 性 に疑 い が あ る もの と して,証 拠 能 力 を 欠 く もの と解 す る の が 相 当 で あ る。」 と判 示 し,Xの. 主 張 を 容 れ て,自. 白の 証 拠 能 力 を 否 定 した(但. し,. 自 白以 外 の 証 拠 か ら有 罪 認 定 は支 持 され る と して,上 告 棄 却)。. (2)学 説 の 評 価 本 件 は,以 上 の と お り,検 察 官 と被 告 人(又 は弁 護 人)と の 間 で 「約 束 」 が 結 ばれ たわ けで はな く,こ れ を 「約 束 に よ る 自 白」 と分 類 す る こ と に対 す る批 判 も見 られ る⑮。 も っ と も,検 察 官 の一 定 条 件 に お い て起 訴 す る意 思 が な い との 「内意 」 は,こ れ が 第 三 者 を 通 じて 被 疑 者 ・被 告 人 に伝 達 さ れ た場 合 に お いて も,被 疑 者 ・被 告 人 に と って は一 定 の 利 益 と引 換 え に供 述 を 誘 引 づ け られ る もの と して,約 束 と 同 じ構 造 を 持 つ 。 そ れ ゆえ,本 件 を,約 束 に よ る 自 白の 一類 型 と して,考 察 の 基 礎 とす る こ と は許 され るで. (15)河 上 和 雄 『自 白 ・証 拠 法 ノ ー ト(2)』232頁(1982年)は,本. 件 を 「約 束 に よ る. 自 白」 で はな く,「被 疑 者 に対 し,第 三 者 が 虚 偽 の 事 実 を 述 べ て 自 白を 得 た 例 」 で あ る と述 べ る。 香 川 喜 八 郎 ・百 選8版162頁. は,「 「約 束 自 白」 と い う よ り も. 「利 益 誘 導 に よ る 自 白」 と位 置 づ け た方 が,考 察 対 象 が広 が る(括 弧 内 省 略)こ とか ら,妥 当 と思 わ れ,現. に多 くの下 級 審 判 例 で 「利益 誘導 に よ る 自 白」 が 使. わ れ て い る」 と指 摘 す る。. 45.

(14) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. あ ろ う。 そ こで,本 件 最 高 裁 判 決 が,原 審 の 証 拠 評 価 を 支 持 し,自 身 も他 の 証 拠 を 基 に有 罪 で あ る こ とを 認 定 しな が らも,な お本 件 の 事 実 経 過 に お いて 得 られ た 自 白の 証 拠 能 力 を は っ き りと否 定 した点 につ いて,そ の 評 価 が 問 題 とな る。 本 最 高 裁 判 決 の 理 解 と して,最 高 裁 調 査 官 解 説(坂 本 武 志)は,約. 束に. よ る 自 白 は,従 来 か ら学 説 上 も一般 に任 意 性 が な い もの と して その 証 拠 能 力 を否 定 され て お り,英 米 法 にな らう その 要 件(① 約 束 内容 が 不 起 訴 な ど 刑 事 責 任 に関 係 す る もの で あ る こ と,② 約 束 主 体 が 右 事 項 に処 分 権 限 を 持 つ もの で あ る こ と,③ 約 束 と 自 白 との 間 に因 果 関 係 が あ る こ と)を 満 たす 場 合 に は,こ れ に よ り得 られ た 自 白 は,そ れ に向 け られ た 「強 い心 理 的 強 制 」 が 働 く こ とゆ え に虚 偽 で あ る蓋 然 性 が 極 め て 高 く,か つ,「 捜 査 の 公 正 … … 裁 判 の 公 正 に対 す る信 頼 を 失 わ せ る」 もの で あ る と して,右 要 件 を 充 足 す る本 件 事 情 に お いて は,自 白の 証 拠 能 力 を 否 定 した本 判 決 を 「ま こ と に正 当」で あ る と解 説 して い る(⑥ 。 学 説 上 も,右 三 要 件 は狭 す ぎ る とす る 批 判 は見 られ るが(1の,本最 高 裁 判 決 が証 拠 能 力 を 否 定 した結 論 自体 につ い て は,ほ ぼ異 論 は見 られ な い よ うで あ る。 も っ と も,そ の 理 論 的 基 礎 付 け に お いて,各. 々の 自 白法 則 に関 す る理 解 に よ り対 立 が 見 られ る。. まず,任 意 性 説 に よ る と,特 に約 束 に よ る 自 白 は,虚 偽 排 除 の 観 点 か ら 排 除 され るべ き典 型 例 と して 挙 げ られ て い る。 す な わ ち,利 益 を 提 供 した 上 で の 約 束 に よ る 自 白の 誘 引 は,類 型 的 に,被 疑 者 ・被 告 人 が 「嘘 を 言 う お それ の あ る状 況 」が認 め られ る と い う わ け で あ る(⑧ 。 ち な み に,任 意 性 の q6)坂 本 武 志 ・昭 和41年 度 最 判 解 刑 事 篇100,103頁 ⑰. 。. 児島武雄 「 約 束 に よ る 自白」 熊 谷 ほか 編 「証 拠 法 体 系H』48頁(1970年)は, 英 法 に よ る と,① 約 束 内容 は刑 事 責 任 に 関す る もの に 限 られ ず,個 人 的 欲 望 な どの 世 俗 的 な もので も足 りる,② 約 束 主 体 に つ い て も,少 な く と もそ の 利 益 が 刑 事 責 任 に関 す る もので あ る とき に は,警 察 官 等 の 刑事 訴追 に 何 らか の 権 限 を 有 す る もの で あ れ ば よい とす る。. q8)平 野 龍 一 『刑 事 訴 訟 法 』229頁(1958年)。. 46.

(15) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 観 点 だ けで な く違 法 排 除 の 観 点 も合 わ せ て 考 慮 す る総 合 説 の 立 場 か ら も, 本 件 の よ うな 約 束 に よ る 自 白の 事 例 につ いて,虚 偽 排 除 の 観 点 を 中心 に考 察 す る べ き との 見 解 が 有 力 で あ る⑲。 も っ と も,任 意 性 説 の 中 で も,単 純 に こ の点 に 関 す る英 米 法 証 拠 法 則 の適 用 を 準 用 す る の で はな く,「 そ の 方 法 の 違 法 性 お よ び それ が 被 告 人 の 心 理 に及 ぼ した影 響 が 強 制 に準 じる もの で あ るか ど うか な どの 点 が 標 準 とな る」⑳,「[虚 偽 排 除 の 観 点 に 加 え て]方 法 その もの が 人 間 の 品 位 を 全 く無 視 した もの と い うべ く,人 権 擁 護 の 点 か ら強 制 ・拷 問 に準 じて任 意 性 な し と解 す べ き」⑫1),とい った 見 解 も主 張 され て い る。 これ に対 し,違 法 排 除説 の立 場 か らは,本 最 高 裁 判 決 の 理 解 と して,「 最 高 裁 が 自 らその 真 実 性 を 認 定 しつ つ 約 束 自 白を 排 除 した こ と は,最 高 裁 が 後 者 の 立 場[違 法 排 除 説]に 立 つ もの との 理 解 を 有 力 な ら しめて い る」 と 位 置 付 け た 上 で,「 本 件 事 案 が 「検 察 官 」 に よ る 「起 訴 猶 予 」 の 約 束 の 背 信 と い う事 実 を 含 ん で い る と い う点 か ら 「方 法 の 違 法 性 」 が 問 題 と され 得 [る]」⑫ ⇒,「検 察 官 の 約 束 違 反(breachofconfidence)の. 点 が,特 に,手 続. の 公 正 を 害 す る もの と して,最 高 裁 を して 自 白排 除 に踏 み 切 らせ た 」 と い っ た分 析 が 見 られ る㈱。 す な わ ち,違 法 排 除 説 の立 場 か ら は,ま ず 「約 束 内容 の 違 法 性 な い し自 白獲 得 の 手 段 と して 一 定 内容 の 約 束 を す る こ との 違 法 性 」 が 問 わ れ る こ と にな り,例 え ば 自 白 と引 換 え に麻 薬 や 覚 せ い剤 を 与 え る 旨の 約 束 をす る場 合 ⑳ な ど は,直 ち に約 束 の 違 法 性(及 ⑲. 三 井 誠 「刑 事 手 続 法 入 門 ・判 例 にお け る 自 白排 除 の 根 拠 」 法 教248号80,84頁 (2001年),米. 山(前 掲 注q2))「利 益 誘 導 と 自 白の 任 意 性 」294頁 。. ⑳. 団 藤 重 光 「新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 ・7訂 版 」253頁(1967年). ⑳. 高[H卓 爾 「刑 事 訴 訟 法 ・2訂 版 」218頁(1984年). ⑳. 小 田 中聰 樹 「判 例 研 究 」 警 研39巻9号129,137頁(1968年)。. ㈱. 谷 口正 孝 ・昭 和41年 ・42年度 重 判110,112頁. 。 同 旨,龍 岡 資 晃 「約 束 ・偽 計. に よ る 自 白」 判 夕397号18頁(1979年)。 ⑳. び 自 白の 証. 名 古 屋 高 判 昭 和26年8月13日. 判 特27号141頁 。. 47.

(16) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 拠 排 除)を 認 め る こ とが で き る が,そ れ に 至 らな い場 合 で あ っ て も,「 約 束 不 履 行 の 場 合 に は,こ れ に不 履 行 とい う こ と 自体 の違 法 性 も加 わ る」,つ ま り,刑 事 訴 追 機 関 に よ る約 束 不 履 行 は信 義 誠 実 違 反 の 行 為 で あ り,そ の よ うな 状 況 で 自 白を 証 拠 と して 利 用 しよ う とす る行 為 の 違 法 性 が 証 拠 排 除 を基 礎 づ け る とい うわ け で あ る㈱。 従 って,違 法 排 除 説 の観 点 か ら は,自 白の 証 拠 能 力 の 判 定 に際 して,利 益 約 束 に よ る 自 白の 誘 引 だ けで な く,そ の 約 束 の 遵 守 如 何 も重 要 な 要 素 とな る⑳。. (3)以 後 の 裁 判 例 の 動 向 リー デ ィ ン グ ・ケ ー ス とな っ た最 判 昭 和41年 以 降,利 益 約 束 に よ る 自 白 の 証 拠 能 力 の 問 題 は,最 高 裁 で直 接 に争 点 とさ れ た事 例 は見 られ な い が伽, 下 級 審 で多 くの事 例 を 重 ね て い る㈱。 本 稿 で そ の 全 て を網 羅 す る余 裕 もな く,ま た検 討 に際 して 重 要 で あ る と も思 わ れ な いの で,約 束 ・利 益 誘 導 に よ る 自 白で あ る と認 め た うえ で その 証 拠 能 力 を 否 定 した,若 干 の 裁 判 例 を. ㈲. 鈴 木(前 掲 注(7))「続 ・刑 事 訴 訟 法 の基 本 構 造 ・下 巻 」536頁 。 同 書 で は,不 起 訴 処 分 の 約 束 が 内容 的 に違 法 で は な い と して も,約 束 と引 換 え に 自 白を 採 取 し よ う とす る行 為 ま で直 ち に違 法 で は な い と い え るわ け で は な い と さ れ て い る。. ⑳ ⑳. 竹 崎 博 允 ・判 例 百 選 第4版150,151頁(1981年)。 著 名 な 「ロ ッキ ー ド事 件 丸 紅 ル ー ト大 法 廷 判 決 」(最 大 判 平 成7年2月22日 集49巻2号1頁)で. 刑. は,ア メ リカ在 住 の証 人 を 同 国 の手 続 に 基 づ く刑 事 免 責 規. 定 を 適 用 した上 で 得 た嘱 託 証 人 尋 問調 書 の証 拠 能力 が 問 題 とな った が,最 高 裁 調 査 官 解 説 に よ る と,「 本 件 の 場 合,証 人 は,も. と も と再 び来 日す る意 思 は な. く,我 が 国 で 起 訴 され る可 能 性 は ほ と ん ど な か った の で あ るか ら,刑 事 免 責 を 受 けて もそ の こ と に よ る利 益 は さ ほ ど大 き い とは い え ず,ま た,真 実 を 証 言 し て も訴 追 され る お それ は な く,逆 に虚 偽 の供 述 を す る と偽証 罪 に 問 わ れ る こ と に もな るの で あ るか ら,刑 事 免 責 は虚 偽 の 自白 を す る誘 因 とは な らな い 」 と解 説 さ れて い る(龍 岡資 晃,小 川 正持,青 柳 勤 ・平 成7年 度 最 判解 刑 事 篇1,49頁)。 ⑳. 三井誠 「 刑 事 手 続 法 入 門 ・自 白 の証 拠 能 力 242号135頁,243号110頁(2000年)参. 照。. 48. 判 例(3)∼(5)」法 教241号88頁,.

(17) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 紹 介 して お く に と ど め る 。. (i)浦 和 地 判 平 成4年3月19日. 判 タ801号264頁. 本 件 は,被 告 人 が 自 ら甲市 に寄 付 した200万 円 の返 還 を 求 め て 同市 長 を 暴 行 脅 迫 し,畏 怖 した 同人 か ら右 金 員 の 返 還 を 受 けて これ を 喝 取 した との 事 実 につ いて,恐 喝 罪 で 起 訴 され た事 件 で あ る。 被 告 人 は,捜 査 段 階 にお いて,当 初,恐 喝 の 外 形 的 事 実 は認 めて い たが,犯 意 につ いて は否 認 して い た。 しか し,被 告 人 は,勾 留 期 間 の 延 長 後,担 当 のA刑 事 か ら,被 告 人 が 恐 喝 につ いて 全 面 的 に 自 白す れ ば,被 告 人 が 同時 に捜 査 を 受 けて いた 贈 収 賄 事 件 に関 して,彼 が 仕 事 上 の 付 き合 いで 親 しか ったBら(甲. 市 職 員). につ いて は立 件 しな い等 と して 説 得 され た た め,恐 喝 罪 に関 して 全 面 的 に 自 白 した。 しか し,そ の 後,右 約 束 に反 してBが 逮 捕 され た た め,被 告 人 は,公 判 に入 る と,再 び否 認 に転 じ,右 捜 査 段 階 の 自 白の 証 拠 能 力 を 争 っ た。 裁 判 所 は,被 告 人 の 右 事 実 関 係 に関 す る供 述 を 認 め,A刑 「被 告 人 に約 束[Bら. 事の行為 は. の 汚 職 事 件 を 立 件 しな い 旨]な い しそ の 旨 の利 益 誘. 導 を し,逆 に,右 利 益 誘 導 に応 じな けれ ば これ らの 汚 職 事 件 を 立 件 す る 旨 暗 黙 の う ち に脅 迫 を 加 え て 自 白を 懲 悪 した と認 め られ,本 件 自 白調 書6通 は,警 察 官 に よ る右 の よ うな 違 法 ・不 当な 取 調 べ の 影 響 下 にお いて … … 作 成 され た もの と認 め られ る。 … … この よ うな 違 法 ・不 当 な 取 調 べ の 影 響 下 に作 成 され た 自 白調 書 は,そ の 任 意 性 に疑 い が あ る とい うべ きで あ る。」と 判 示 し,自 白の 証 拠 能 力 を 否 定 した。. (li)福 岡高 判 平 成5年3月18日. 判 時1489号159頁. 本 件 は,被 告 人 が13件 の 建 造 物 侵 入 ・窃 盗 を 実 行 した と して 起 訴 され た 事 件 で あ る。 被 告 人 は,当 初,乙 市 内で 実 行 した3件(乙 逮 捕 され,当 初 は 自 白 して い たが,ま 49. 事 件)を 理 由 に. もな く否 認 に転 じた と こ ろ,捜 査 官.

(18) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. か ら,乙 事 件 につ いて す べ て 自 白す るな らば,自 身 に覚 え が あ る丙 市 内の 事 件(丙 事 件)は 立 件 しな い と持 ちか け られ た た め,再 び乙 事 件 につ いて 自 白 した。 さ らに,被 告 人 は,捜 査 官 か ら,そ の 他 の 余 罪 につ いて も 自供 す れ ば,① 自供 した件 数 の う ち3割 程 度 しか 送 検 しな い,② 取 調 室 内で の 煙 草,飲 料 の 購 入 代 金 は被 告 人 に負 担 させ な い,③ 取 調 が な い 日で も,毎 日被 告 人 を 留 置 場 か ら出 し,煙 草 を 吸 わ せ る,④ 現 場 引 当の と き,手 錠 ・ 腰 縄 を外 す,⑤ 前 刑 の 仮 出獄 の 取 消 に よ り服 役 す べ き残 りの 日数 を 留 置 場 で 消 化 させ る,⑥ 婚 約 者 とす ぐに電 話 連 絡 を 取 らせ るな どの 便 宜 を 図 る, と い っ た こ とを 持 ちか け られ た た め,丙 事 件 を 送 検 しな い こ とな どの 条 件 と引 換 え に,さ. らに その 他10件 の 余 罪 につ いて も 自 白 した。 結 局,丙 事 件. は警 察 段 階 で 放 置 され た た め送 検 され な か っ たが,被 告 人 は,乙 事 件 お よ び10件 の 余 罪 を 理 由 に起 訴 され た。 一一 審 は,被 告 人 の 右 自 白 に関 す る証 拠 能 力 を認 め,起 訴 事 実 す べ て につ いて 有 罪 と した。 これ に対 し,二 審 は, 自 白の 任 意 性 判 断 に あ た って は,人 権 擁 護 お よ び虚 偽 排 除 の 観 点 に基 づ く こ と を判 示 した うえ で,取 調 中 に た ば こや コ ー ヒーの 提 供 を 受 け た り,多 少 の 金 品 を 受 領 す るな どの いわ ゆ る 「世 俗 的 利 益 」 に関 して は,人 権 擁 護 の 面 に お いて 考 慮 す る必 要 はな く,定 型 的 に虚 偽 自 白が な され る状 況 で あ る と は い え な いが,「 他 の 事 件 を 自白 す れ ば丙 事 件 を 送 致 しな い とい う約 束 は,い わ ゆ る不 起 訴 の 約 束 に等 しい もの で あ って,丙 事 件 を 起 訴 して も らい た くな い と い う被 告 人 の 弱 み につ け こん だ もの で,到 底 許 され る捜 査 方 法 で は な い 。」 と判 示 し,右 約 束 以 降 にな さ れ た 自 白 につ い て,す べ て その 証 拠 能 力 を 否 定 した。 上 記2件. につ いて,自. 白の 任 意 性 の 検 討 に あ た って は,自 白採 取 側 の 事. 情 と して,① 提 示 利 益 の 内容(被 疑 者 に と って 価 値 が 高 い ほ ど,虚 偽 自 白 の 誘 発 及 び供 述 自 由侵 害 の 虞 が 高 い),② 利 益 提 示 者 の権 限(取 調 官 に約 束 利 益 の 処 分 権 限 が あ る こ と,又 は被 疑 者 に お いて その よ う に信 じる理 由が 50.

(19) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. あ る こ とが,任 意 性 を否 定 させ る方 向 に 向 か せ る),③ 提 示 した意 図(自 白獲 得 を 意 図 した と認 め られ る場 合 の 方 が,不 用 意 に 発 言 した 場 合 よ り も,自 白へ の 誘 引 力 が強 い),④ 提 示 の 方 法(具 体 的 な い し明 確 に な され る と誘 引 力 が 強 くな る),被 疑 者 側 の事 情 と して,⑤ 提 示 され た 利 益 の 受 け 止 め方(利 益 の 大 き さ は被 疑 者 の 個 人 的事 情 に よ って異 な る),⑥. 自白に. 至 っ た動 機 ・因 果 関 係(利 益 誘 導 と 自 白 との 間 に 因果 関 係 が 必 要),⑦. 自. 白 当時 の 身 体 的 精 神 的 状 況(精 神 状 態 が 不 安 定,知 能 程 度 の が 低 いな どの 事 情 は,捜 査 官 の 利 益 誘 導 に容 易 に誘 引 され や す い),取 調 の 状 況 全 般 と し て,⑧ 利 益 提 示 ま で の捜 査 経 過 と 自白 時 期(③ 及 び⑥ の 認 定 に 重 要 とな る),⑨ 約 束 履 行 の 有 無(違 法 排 除 の観 点 か らは重 要 な要 素 とな る)と い っ た要 素 を 総 合 的 に考 慮 して 判 断 され るべ きで あ る と し,裁 判 所 の 具 体 的 事 例 に お け る結 論 を 支 持 す る見 解 が見 られ る㈲。 ま た,(li)事件 に つ いて,世 俗 的 利 益 の 供 与 に関 して は,他 の 裁 判 例 との 関 係 か ら,当 該 事 案 にお け る 判 断 に と ど ま るの で あ り,一 般 化 され るべ きで はな い,不 訴 追 約 束 に関 し て は,判 決 文 か ら明 解 で はな いが,被 告 人 の 供 述 自 由を 侵 害 す る違 法 ・不 当な 取 調 方 法 で あ り,虚 偽 自 白を 誘 引 す る お それ が 類 型 的 に高 い もの と判 断 され た との 分 析G①や,世 俗 的 利 益 の 供 与 は,そ れ 自体 で は被 疑 者 ・被 告 人 に対 す る人 権 侵 害 はな いが,取 調 全 体 に お いて 「飴 と鞭 」 が セ ッ トと し て こ うい った 利 益 供 与 が行 わ れ る よ うな 場 合 に は,「 トー タル の取 調 べ 方 法 の 相 当性 全 体 を 見 た 中で 虚 偽 を 誘 発 す る可 能 性 が 高 い と い う こ とで あれ ば,任 意 性 に疑 いが 生 じる こ と も あ り得 る」 と い っ た評 価Gl)も見 られ る。. ⑳. 米 山(前 掲 注 ⑫)「 利 益 誘 導 と 自 白の 任 意 性 」295頁 。. G① 多[H辰 也 ・判 評436号231頁(1995年)。 ⑳. 大 澤 裕 ・朝 山芳 史 「対 話 で学 ぶ 刑 訴 法 判 例 ・約 束 に よ る 自白 の 証 拠 能 力 」 法 教340号86,98頁(2009年)。. 51.

(20) 近畿大学法学. (4)検. 第57巻 第4号. 討. (i)以 上 の と お り,我 が 国 に お け る従 来 の 判 例 ・学 説 に お け る議 論 を 見 る と,約 束 に よ る 自 白 は,前 掲 昭 和41年 最 判 に お け る調 査 官 解 説 にみ る よ う に,少 な くと も. ① 約 束 内容 が 不 起 訴 な ど刑 事 責 任 に関 係 す る もの で あ. る こ と,② 約 束 主 体 が 右 事 項 に処 分 権 限 を 持 つ もの で あ る こ と,③ 約 束 と 自 白 との 間 に因 果 関 係 が あ る こ と と い う要 件 を 満 たす 限 り,そ の 証 拠 能 力 が 否 定 され る と い う こ とで,結 論 が 固 ま って い る よ うで あ る。 そ して,そ の よ うな 結 論 に よ るな らば,我 が 国 の 刑 事 訴 訟 に お いて,お. よ そ取 引 的 要. 素(例 え ば,訴 追 側 が 減 刑 や 他 事 件 を 不 訴 追 とす る こ とを 約 束 し,被 疑 者 側 が そ れ と引 換 え に 自 白す る こ とを 約 束 す る な ど)は 一 切 否 定 さ れ る こ と に な る もの と思 わ れ る。 も ち ろ ん,そ の よ うな 割 り切 っ た 考 え方 も, 相 応 の 合 理 性 を 持 つ 。 しか し,最 大 判 平 成7年2月22日. 刑 集49巻2号1頁. 「ロ ッキ ー ド事 件 丸 紅 ル ー ト大 法 廷 判 決 」に よ る と,重 要 証 人 に対 しその 者 自身 に刑 事 免 責 を 与 え る こ と と引 換 え に証 言 を 求 め る 「刑 事 免 責 」 は,少 な くと も 「我 が 国 の 憲 法 が,そ の 刑 事 手 続 等 に関 す る諸 規 定 に照 ら し,こ の よ うな 制 度 の 導 入 を否 定 して い る もの と ま で は解 され な い」。 ま た,前 掲 平 成21年 最 判 は,即 決 裁 判 手 続 に お け る被 告 人 の 自 白の 証 拠 能 力 に関 し て,「被 告 人 に対 す る手 続 保 障 の 内容 に照 らす と,即 決 裁 判 手 続 の 制 度 自体 が 所 論 の よ うな[安 易 な 虚 偽 の]自. 白を 誘 発 す る もの と は いえ な い」 と判. 示 して お り,刑 事 裁 判 に お け る取 引 的 要 素 が 常 に被 告 人 の 自 白の 証 拠 能 力 を失 わ せ る もの と は解 され て いな い よ うで あ る。 それ ゆえ,約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力 と い う問 題 は,現 在 に お いて,刑 事 裁 判 に お け る取 引 的 要 素 の 導 入 如 何 と い う問 題 と関 連 して,改. めて の 検 討 が 必 要 とな って い る。. (ii)こ の 問 題 の 検 討 に あ た り,実 体 的 真 実 の 追 求 を 至 上 原 理 と し,取 引 に よ る刑 事 事 件 処 理 の 導 入 につ いて も 当初 は否 定 的 で あ っ たが,後 52. に活 発.

(21) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. な 議 論 の 末 に正 面 か らこれ を 採 用 した ドイ ツ に お け る議 論 が 参 考 にな る も の と思 わ れ る。 まず,ド. イ ツ刑 訴 法 に よ る と,尋 問 方 法 が 暴 行,薬 物 投 与,欺 岡 等 に よ. り被 疑 者 ・被 告 人 の 意 思 決 定 ・意 思 活 動 の 自 由 を 侵 害 す る もの で あ る と き,あ る い は,刑 訴 法 上 許 され な い強 制 が 使 用 され,又. は法 律 に規 定 が な. い利 益 が 約 束 され た と き,そ の よ うな 手 続 に お いて 得 られ た 自 白の 証 拠 能 力 が 否 定 され る(StPO136a条1項,3項)。. 刑 事 訴 追 機 関(裁 判 所 を含 む。. 以 下 同様)と 被 疑 者 ・被 告 人 との 間 で 行 わ れ る取 引 ・合 意 に基 づ く自 白 に 関 して いえ ば,例 え ば,① 刑 事 訴 追 機 関 側 か ら提 示 され る利 益 の 内容 が, 取 引 を 拒 否 した場 合 の 帰 結 と比 較 して,も. はや 取 引 に応 じるか 否 か につ い. て 選 択 の 余 地 が な い ほ ど較 差 が 大 き い場 合(違 法 強 制 類 型),② そ もそ も利 益 を 提 示 した者 が,そ の 利 益 につ いて 処 分 しう る地 位 にな い場 合(欺 岡 類 型),③. 提 示 され た利 益 は,法 律 に定 め が な い もの で あ る場 合(非 合 法 利. 益 提 示 類 型),こ れ を証 拠 と して使 用 す る こ と が で き な い。 逆 に い え ば,① な い し③ の 要 素 が 否 定 され る場 合,取 引 に基 づ く約 束 に よ る 自 白 は,そ の 証 拠 能 力 を 否 定 され な い。 この よ うな 帰 結 は,違 法 不 当な 尋 問 方 法 を 禁 止 す るStpO136a条 に関 す る理 解 に よ る。 す な わ ち,同 条 は,ド イ ツ基 本 法1条. の趣 旨. に い う 「人 間. の 尊 厳 」 の 保 護 に資 す るべ き具 体 化 規 定 で あ り,被 疑 者 ・被 告 人 はた とえ 犯 罪 の 容 疑 を か け られ た者 で あ る と して も,単 な る 「手 続 の 客 体 」 と され て は な らな い こ とを,そ の 趣 旨 とす る。 尋 問 を行 う 国 家 機 関 の 側 に対 し て,司 法 形 式 的,法 治 国 家 的 に秩 序 を 保 たれ た手 続 にお いて の み 真 実 の 探 求 が 許 され るべ き こ とを 命 じる こ と に よ り,被 疑 者 ・被 告 人 の 防 御 に関 す. 圃LutzMeyer-GoBner,Strafprozessordnung52Auf.,§136aRn.1,2009; ClausRoxin/BerndSchUnemann,Strafverfahrensrecht26Auf.,S. 177ff.,2009.. 53.

(22) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. る意 思 決 定 ・意 思 活 動 の 自 由が 保 障 され る と い うわ けで あ る勧。 そ して,こ の よ うなStpO136a条. の 適 用 問 題 は,被 疑 者 ・被 告 人 と刑 事. 訴 追 機 関 との 間 で 一一 定 の 事 前 交 渉 に基 づ く合 意 の 形 成 に よ る簡 易 迅 速 な 事 件 処 理 手 続(Absprache,Vers塩ndigung)に. 際 して,次. の よ う に理 解 さ. れ て い る。 す な わ ち,刑 事 訴 追 機 関 が 被 疑 者 ・被 告 人 との 交 渉 に際 して, そ も そ も実 現 意 図 の な い利 益 を 提 示 す る こ と は欺 岡 に あ た り許 され ず,ま た,も はや 責 任 に相 応 しな い ほ ど軽 い刑 を 提 示 す る こ とな ど,合 意 に応 じ た場 合 と拒 否 した場 合 とで 著 しい差 が 生 じる場 合 に は,非 合 法 利 益 の 約 束 ま た は刑 訴 法 上 許 され な い強 制 に よ る 自 白の 誘 引 で あ る と して,許 容 され な い㈱。 しか し,減 刑 を は じめ提 示 さ れ る利 益 が い ま だ実 体 法 及 び 手 続 法 に お いて 許 容 され う る と認 め られ る場 合(合 法 利 益 の 提 示)に. は,こ れ を. 禁 止 され る もの で はな く,そ の 約 束 に基 づ いて 行 わ れ た被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白を 証 拠 と して 使 用 す る こ とが 許 され る剛。 ま た,合 意 手 続 に関 して 新 た に法 定 され た規 定 で は,事 前 交 渉 に際 して 約 束 され た利 益 が 事 後 に事 情 の 変 化 等 に よ り遵 守 され な くな っ た場 合 に, その 利 益 を 期 待 して 行 わ れ た被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白 は,証 拠 か ら排 除 され るべ き こ とが 定 め られ て い る(StpO257c条4項3文)。. す な わ ち,裁 判 所. は,事 後 の 事 情 変 化 に よ り事 前 に約 束 した刑 が も はや 責 任 に相 応 しな い と 判 断 す る と き,又 は,裁 判 所 の 約 束 の 基 礎 と され た被 疑 者 ・被 告 人 側 の 行 為 が 行 わ れ な か っ た と き,そ の こ とを 事 前 に告 知 す る こ とを 条 件 に,事 前 に合 意 され た 約 束 か ら離 脱 す る こ と が で き る(同 条 項1,2,4文)。. 裁. 判 所 が 事 前 合 意 か ら離 脱 す る こ との 可 能 性 は,実 体 的 真 実 主 義,責 任 相 応 刑 の 原 則 か ら,す で に これ まで に も承 認 され て き たが,そ の 際,既. に行 わ. れ た被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白を な お も事 後 の 公 判 で 証 拠 と して 使 用 で き るか ㈹JudithHauer,Gest証ndnisundAbsprache,2007. 鋤BGH刑. 事 第 四 部1997年8月28日. 判 決(BGHSt43,195)。. 54.

(23) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. と い う 問題 に つ い て は,争 い が あ った絢。 そ して,立 法 過 程 に お い て も, 2006年 連 邦 司 法 省 案 鮒 及 び同 年 連 邦 上 院 案Gのまで は,は っ き りと,裁 判 所 が 合 意 か ら離 脱 した後 もな お証 拠 と して の 使 用 を 妨 げ られ な い こ とが 定 め られ て い た。 しか し,2009年 連 邦 政 府 最 終 案 ㊨aでは,こ れ が 修 正 され,合 意 離 脱 後 の 自 白 の証 拠 使 用 は お よ そ 禁 止 され る こ とが,法 定 され る に い た っ たの で あ る。 この 点 につ いて,連 邦 政 府 最 終 案 は,合 意 の 有 効 性 を 信 頼 して行 わ れ た 自 白 を合 意 が 失 効 した 後 に 証 拠 か ら排 除 す る こ とで,「 手 続 の 公 正 さ」 が 確 保 され る と説 明 して い る。. ㈹. 以 上 の ドイ ツ法 に お け る議 論 か ら得 られ た知 見 を 基 に,約 束 に よ る. 自 白の 証 拠 能 力 の 問 題 に関 す る試 論 を 提 示 す る。 まず,刑 事 手 続 に お け る取 引 的 要 素 を 肯 定 す るな ら ば,取 引 に向 けた 交 渉 で 一一 定 の 利 益 が 提 示 され た と い う こ とだ けで,被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白の 証 拠 能 力 を常 に否 定 す る こ と は で き な い。 ドイ ツ 法 に見 る よ うに,被 疑 者 ・被 告 人 に対 す る利 益 の 提 示 が,そ れ 自体 な お も手 続 の 公 正 さを 逸 脱 す る もの で はな く,ま た,利 益 の 内容 が 逆 に取 引 を 拒 否 した 場 合 との 較 差 に お いて 自 白の 任 意 性 を 害 さな い ほ どの もの で あ るな ら ば,約 束 に よ る 自 白 で あ って も その 証 拠 能 力 を 認 め られ て よ い。 い う まで もな く,そ れ は,我 が 国 に お け る 自 白排 除 法 則 の 議 論 に あて は め る と,前 者 が 違 法 排 除 の 観 点 に,後 者 が 任 意 性 の 観 点 に,そ れ ぞ れ 対 応 す る。 そ れ ゆえ,自. 白の 証 拠 能. 力 に関 して,取 引 に お いて 提 示 され る利 益 の 内容,約 束 した 主 体 の 利 益 実 現 に向 け た権 限,約 束 履 行 の 実 現 と い っ た点 か ら,類 型 化 して 考 察 され る ㈲Andr百Graumann,VertrauensschutzundstrafprozessualeAbsprachen,2006. ㈹http://www.bmj.de/files/一/1234/RefE%20Verst註ndigung.pdf ⑳BR-Drs.235/06. (3⑳BT-Drs.16/12310.. 55.

(24) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. べ きで あ ろ う。 まず,約 束 され た利 益 が 実 現 され な い場 合,ド. イ ツの 新 法 にな らい,す. べ て 自 白の 証 拠 能 力 は否 定 され るべ きで あ る。 この こ と は,利 益 内容 が, 刑 事 訴 追 に関 す る もの で あれ,い わ ゆ る世 俗 的 利 益 で あれ,変 わ る もの で はな い。 ま た,約 束 した機 関 が,当 初 か ら約 束 を 遵 守 す る意 思 が あ っ たか 否 か に も関 わ らな い。 その よ うな 意 思 が あれ ば,む. しろ欺 岡 に よ る 自 白誘. 引 と して 当然 に証 拠 能 力 を 否 定 され るべ きで あ るが,そ の よ うな 意 思 が な い場 合 で も,約 束 が 実 現 され る こ と に対 す る被 疑 者 ・被 告 人 の 信 頼 は保 護 され な けれ ばな らず,手 続 の 公 正 さを 確 保 す る た め に,自 白の 証 拠 排 除 が 要 請 され る。 次 に,約 束 され た利 益 が 世 俗 的 な もの で あ る場 合,そ の 内容 が 法 治 国 家 と して 許 容 され るべ き もの で あ るか 否 か,つ. ま り自 白獲 得 に向 け た捜 査 手. 段 と して の適 法 性 如 何 と い う観 点 か ら考 察 され な けれ ば な らな い。 例 え ば,自 白す れ ば覚 せ い剤 等 の 禁 止 薬 物 を 与 え る と い っ た約 束 は,当 然 な が ら許 され な い。 他 方,通 常 配 給 され る弁 当以 外 に寿 司 や 丼 物 な どの 食 事 を 与 え る,た ば こを 吸 わ せ る,少 量 の 飲 酒 を 許 す,家 族 や 友 人 へ の 電 話 を 許 す と い っ た利 益 供 与 は,社 会 通 念 に お いて 相 当な 範 囲 に と ど ま る もの と認 め られ る限 り,許 容 され て も よ い(相 当性 を 逸 脱 した場 合 に は,違 法 排 除 の 観 点 及 び任 意 性 の 観 点 の いず れ か らも証 拠 能 力 を 否 定 され る)。 最 後 に,約 束 利 益 が 刑 事 訴 追 に関 す る もの で あ る場 合,つ. ま りいわ ゆ る. 司 法 取 引 的 な 態 様 に よ り行 わ れ た 自 白の 場 合 は ど うか 。 この 場 合 に関 して も,や は り,提 示 利 益 が 極 端 に不 相 当な もの,あ. る い は非 合 法 な もの で あ. る と き は,自 白の 証 拠 能 力 は否 定 され るべ きで あ る。 例 え ば,自 白 に対 す る余 罪 の 不 訴 追 を 約 束 す る場 合,そ の 不 訴 追 が も はや 検 察 官 の 起 訴 裁 量 権 を逸 脱 す る よ うな もの で あ る と き は,違 法 排 除 の 観 点 か ら証 拠 能 力 を 否 定 され るべ きで あ る。 ま た,提 示 利 益 が 極 端 な 優 遇 で あ る と き は,被 疑 者 ・ 56.

(25) 約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力. 被 告 人 に お いて も はや 取 引 に応 じて 自 白す るか,又. は 申 出を 拒 否 して 争 う. か の 選 択 の 自 由が も はや 存 在 しな い もの と いわ ざ るを え ず,任 意 性 の 観 点 か ら,虚 偽 自 白を 誘 引 し,黙 秘 権 の 行 使 を 不 当 に妨 げ る もの と して,証 拠 能 力 は否 定 され な けれ ばな らな い。 逆 に,自 白す れ ば即 決 裁 判 手 続 に よ る こ とを 申 し立 て る と い っ た折 衝 は,同 手 続 に よ る こ との 相 当 性 が 認 め られ る限 り,適 法 な 取 引 と して 許 容 され て よ い。 ま た,自 白 に対 す る当 該 事 件 に お け る減 刑(軽. い求 刑 を 含 む)を 約 束 す る こ と は,そ の 減 刑 の 範 囲 が な. お も 当該 所 為 の 責 任 に相 応 す る もの で あ り,取 引 を 拒 否 した 場 合 に想 定 さ れ る程 度 の 刑 と比 較 して,そ の 較 差 が も はや 取 引 に応 じるか 否 か につ いて 選 択 の 余 地 が な い ほ ど広 い もの と い う程 の もの で はな い場 合 に は,違 法 排 除 の 観 点 か らも,任 意 性 の 観 点 か らも,自 白 に証 拠 能 力 を 認 め る こ とを 妨 げ られ な い。 な お,実 際 に約 束 され て は いな いが,弁 護 人 また は被 疑 者 ・被 告 人 にお いて 一一 定 の 利 益 が 約 束 され た と誤 解 して 自 白 され た 場 合 も,そ の 証 拠 能 力 が 問 題 とな るが,そ れ は,被 疑 者 ・被 告 人 の 訴 訟 活 動 にお け る意 思 決 定 の 環 疵 の 問 題 と して,本 稿 で は検 討 の 対 象 外 とす る働。. 四. お わ りに. 以 上,本 稿 で は,約 束 に よ る 自 白,す な わ ち被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白が 刑 事 訴 追 機 関 か ら提 示 され た利 益 と引 換 え に行 わ れ た 場 合 の 証 拠 能 力 につ い て 検 討 した。 この 問 題 は,従 来 の 議 論 に お いて,一 般 的 に証 拠 能 力 を 否 定 す る との 結 論 で 固 ま って い た。 これ に対 し,本 稿 は,ド イ ツ にお け る 自 白 と合 意 手 続 との 関 係 に関 す る議 論 を 参 考 に,刑 事 手 続 にお け る取 引 的 要 素 ㈲. 辻 本 典 央 「弁 護 活 動 に お け る理 疵 の被 疑 者 ・被 告 人 へ の 帰 属 」 立 命327=328 号(2010年)。. 57.

(26) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. の 承 認 ・導 入 を も念 頭 に お きつ つ,問 題 とな る取 引 ・利 益 誘 導 の 場 面 ご と に類 型 化 して,各. 々 自 白の 証 拠 能 力 が 否 定 され るべ き根 拠(自. 白法 則)に. 沿 って 検 討 され るべ き こ とを 主 張 した。 本 稿 で 提 示 した結 論 は,な お検 討 の 余 地 も多 く,い まだ 試 論 の 域 を 出 る もの で はな い。 も っ と も,近 時,我 が 国 の 学 説 で も注 目 され て い る刑 事 手 続 に お け る取 引 的 要 素 の 承 認 ・導 入 の 問 題 を 検 討 す る に際 し,最 も重 要 な 問 題 の 一一 つ で あ る 自 白の 取 扱 に関 して,一 一 定 の 方 向 性 を 示 す もの で あ る。 筆 者 自身,す で に別 稿 で 司 法 取 引 の 導 入 可 能 性 を め ぐる問 題 を 検 討 して い るが ㈹,本 稿 が これ と併 せ て,今 後 の議 論 に お いて 批 判 ・検 討 の対 象 と さ れ る こ と にな れ ば幸 いで あ る。. ω. 辻 本 典 央 「刑 事 手 続 に お け る取 引(1) 57巻2号(2009年. ・未 完)。. 58. ドイ ツ に お け る判 決 合意 手 続. 」近法.

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