統合失調症の精神療法から見た主体の誕生
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(2) 統合失調症の精神療法から見た主体の誕生. 人見. じて現実的な世界に参加できるようになると、次第に誇大妄想を訴えるこ とがなくなる. O. それと平行して魔術的世界、アニミズム的世界に向かい、. 魂の救済を求めるような儀式に熱中するようになる。周囲の者がそれに参. t o r c hは統合失調症患者 加することにより、対人関係は著明に改善した。 S の世界と実存について現象学的、実存分析的研究を行い、患者は太古的世 界、原始的世界に住んでいることを明らかにしている。ここでは患者との 交流は母親という存在のレベルにおける交流を越えて、太古的世界におけ る交流にまで及んでいる。 このような精神病的水準にある患者に対するアプローチとして、. B e n e d e t t iは距離を取って客観的に対応するのみでは不十分であり、その スプリットした世界に飛び込み、そこでの交流を通じて肯定的な対話に持 ち込むべきであると主張する。統合失調症のさまざまな症状は単なる精神 病理症状として看倣されてはならない。それは精神病理的ではあるが、な お展開する可能性を有する自己投企の試みとして受け止められねばならな い。病的体験に彩られた自閉的世界に対しでも、患者との交流を可能にす る精神病理が存在する。それが E .B l e u l e rが統合失調症の症候論において. r a n s i t i v i s m u sであり、「自他混 人格の症状として取り上げた「転嫁症JT 同化 JA p p e r s o n i e r u n gである。転嫁症とは患者の体験が他者に転嫁され ることであり、患者の人格の一部が離れ落ちて、他の人格に結びつけられ る。その結果、自分が行い体験していることを他者がしていると信じる。 これと反対に、自他混同化とは他者の人格が自らの人格の一部のように体 験されることである。その結果、他者が患者のなかに取り込まれて、他者 が行い経験していることを自分がしていると信じる。 これらの現象は、患者がいかに自我をコントロールする能力を喪失して p るかということを示している。治療者の現実的な立場とこのように自我. を喪失した患者の立場とはあまりにかけ離れているが、患者との関係を確 保するためには、この人格の症状、自我意識の病理に働きかける以外には. (66). -57-.
(3) 文学・芸術・文化. 1 7 巻 1号. ∞. 2 5 .7. ない。それにより、理性によっては直接に通じ得ないところのものが、 「自他混同的に」理解できるようになり、患者との共人間的なシンメト リーの感覚が呼び覚まされる。このような関係は意識的な関与によってで はなく、単純に 患者に対する興味および患者との情動的接触から生じてく d. る。こうして現実の治療者と患者とのあいだに横たわる非シンメトリーが 止揚されることになる。言い換えれば、両数性の経験のなかで非シンメト リーの感覚が止揚される。精神療法的姿勢とは、こちらがいかに転嫁症と 自他混同化を太古的な交流形式へと転換させる用意ができているかという ことでもある。. B e n e d e t t iはこのような治療関係を通じて展開される病理を、「前に進む 精神病理」と名付けている。それは精神病理現象を単に病的なもの、余計 なもの、発展のないものとみなして、それをただ理性的モデル、生物学的 モデルに還元しようとするのではなく、みずから精神病的空間に赴いて、 「そのなか」で、より広い交流が生まれ、新しい自己の生成の可能性が開 けることを期待するからである。患者「一人だけ」の自聞から、治療者と 「二人」での自聞が生まれる。このような両数性の状態から、患者の新し い自己の生成が生じることを期待する。いわば病理現象を通して健康な自 我の働きを取り戻して L¥く過程が、「前に進む精神病理」の意義である。. e n e d e t t iによ このような「前に進む精神病理」において生じるのが、 B り「移行主体」む b e r g a n g s s ub j e k tと名付けられたものである. O. これが精. 神病の対話的空間における展開の担い手となる。これは転嫁症と自他混同 化が目まぐるしく交錯する「第三の現実」のなかで、治療者と患者のあい だに横たわっている非シンメトリーの緊張から生じてくる。それはどちら か一方の人格に属しているというものではなく、患者とのあいだを媒介す る自律的な精神的現実とでもいうべきものである。それは対話的空間にお いて交流が展開するところの太古的な手段となるような「幻想的主体j. p h a n t a s m a t i s c h eS u b j e k t eでもある。これは幻想の世界における特殊な形 -56-. (67).
(4) 統合失調症の精神療法から見た主体の誕生. 人見. 成物である。治療者の肯定的な着想により、患者のこころのなかに新しい 自画像を生み出すものであり、自己の母組織となるものである。 具体的に述べる。治療関係が進むなかで、治療者がネクタイを直そうと する。すると、「ぼく、鏡ですJといって、目の前で鏡のポーズを取る。 ここでは患者が治療者の全人格を写そうとしている。治療者はすでに第三 の現実のなかに引き込まれている c そこで治療者をスケッチしてもらうこ とにする。患者はスケッチを重ねる毎に、自己のイメージ、自己の人格部 分をどんどん治療者のイメージに転嫁させて p く。当初は、治療者はその 変化に気づくことなく、スケッチされた自分のイメージに自他混同化して 満足している。そのうちに現実のスケッチの内容はどんどん変化する。治 療者の顔のイメージが次第に変化し、ネクタイをして白衣を着ている治療 者の姿は変化し、白衣は患者の衣服の柄に変容して行く。その結果、治療 者と患者の自我が合体して、新しく創作された自画像が描かれることにな る。それは治療者の人格とも、患者の人格とも一致しないが、自他混同化 と転嫁症を通じて新しく生み出されたものである。心理機制という表現を 用いれば、転移と逆転移から、同一化と対抗同一化から、取り込みと投影 から生じてきたものである。いわば無意識の世界における創造的な活動の 結果としての幻想の世界の産物である。 移行主体の出現を促すこのような転嫁症と自他混同化は、決して特異的 な精神病理現象ではない。. B e n e d e t t iは、早期幼児期の体験を大人の視点. から描写しようとすれば、すべて「転嫁症的である」と主張する。それが 最も激しいのが母親であり、自分の感情と表象で乳児のこころの世界を満 たそうとする。それなくして世界は透徹することができない謎のままに留 まってしまうからである。子どもはそれに幻想的に同一化し、さらにそれ に対する母親の自他混同化の過程を通じて、早期幼児期の母子関係が展開 する。まさに母親という存在は、統合失調症の精神療法にとって最も重要 な問題であるのみならず、万人にとっても共通の問題である。. (68). -55ー.
(5) 1 7巻 1号. 文学・芸術・文化. 2 0 0 5 .7. 統合失調症の精神療法を通じて明らかになるこのような同一化の過程は、 早期幼児期の新しいパージョンであり、ここに治療へのきっかけがある。 移行主体とは、このような欠乏している自我意識を回復させる過程におい て生じてくる。移行主体を通じて、本来の主体的なものが生じてくる。統 合失調症の精神療法の体験からは、早期幼児期とはまさに前主体的構造が 準備される段階である。主体は幻想的体系のなかから形成されてくる。そ こでは寄る辺ない子どもに甘えを許す母親の存在が決定的な意味を持って いる。その母親のイメージは個体発生的なものを超えて、系統発生的なイ メージにまで連続している。いずれにしても主体とは、自己の「内から」 とともに、自己の「外から」の働きなくしては生じてこない。それと同時 に主体は幻想的主体という側面をも有している。このような治療体験を通 じて、「人間の条件Jについての基本形態に迫ることが可能となる。 文 献 1) B e n e d e t t i,G :T o d e s l a n d s c h a f t e nd e rS e e l e .V e r l a gf u rM e d i z i n i s c h eP s y c h o l o g i e . 1 9 8 3 . 2) B e n e d e t t i,G :P s y c h o t h e r a p i ea l se x i s t e n t i e l l eH e r a u s f o r d e r u n g .Vandenhoeck& Ruprech t .1 9 9 2 . 3)人見一彦:分裂病概念の源流.金原出版, 1 9 9 7 .. Fhd. d 品A. (69).
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