メコン地域開発プログラムの淵源と意義 (巻頭エッセイ)

メコン地域開発プログラムの淵源と意義 (巻頭エッ

セイ)

著者

吉田 恒昭

権利

Copyrights 日本貿易振興機構（ジェトロ）アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

巻

134

ページ

1-1

発行年

2006-11

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00005360

巻頭エッセイ

﹁ メ コ ン ﹂ は 多 く の 読 者 に と っ て ま だ 馴 染 み が 薄 い か も し れ な い 。 し か し 、 こ の 地 域 を 旅 す れ ば 、 失 わ れ た 日 本 文 化 の 原 風 景 が 色 濃 く 残 っ て い る こ と に 気 が つ く 。 モ ン ス ー ン 気 候 、 稲 作 文 化 、 そ し て 仏 教 を 我 々 と 共 有 し て い る 。 メ コ ン 地 域 に お け る 越 境 協 力 は 東 西 冷 戦 構 造 の 崩 壊 と と も に や っ て き た 。 し か し 、 長 い 歴 史 を 振 り 返 っ て 見 れ ば 、 こ の 変 化 は こ の 地 域 が 綿 々 と 営 ん で き た ﹁ 当 た り 前 ﹂ の 姿 に 立 ち 戻 っ た の に 過 ぎ な い と 私 に は 思 え る 。 即 ち 、 メ コ ン 地 域 は そ の 別 呼 称 で あ る ﹁ イ ン ド シ ナ ﹂ の 由 来 の 如 く 、 古 来 、 中 国 と イ ン ド の 巨 大 文 明 が 行 き 交 う 海 と 陸 の 回 廊 で あ っ た 。 ま た 、 こ の 地 域 は 半 島 の 宿 命 で あ る 大 陸 内 部 か ら 放 出 さ れ る エ ネ ル ギ ー と 外 洋 か ら の 異 端 文 明 を 結 節 す る 役 割 を 担 っ て き た よ う に 見 え る 。 こ の 視 座 は メ コ ン 地 域 を 展 望 す る 上 で 極 め て 重 要 で あ る 。 西 欧 列 強 諸 国 が ア ジ ア を 植 民 地 化 し た 時 代 に あ っ て も 、 こ の 回 廊 に 形 成 さ れ た 港 市 ネ ッ ト ワ ー ク は 機 能 し 、 人 々 は 縦 横 に 移 動 し 、 交 易 の 利 益 を 最 大 限 享 受 し て い た 。 近 代 国 家 が 成 立 し た 時 、 彼 ら は モ ザ イ ク 状 に 構 成 さ れ た 多 民 族 国 家 と な っ た 。 前 述 し た 事 柄 は こ の 地 域 を し て 外 部 か ら の 多 様 な 価 値 に 対 し て 寛 容 で 、 教 条 的 で あ る よ り も 実 用 主 義 を 行 動 規 範 と す る 特 性 を 付 与 せ し め た よ う に 思 え る 。 こ の 地 域 の 比 較 優 位 で あ る 。 メ コ ン 地 域 の 連 携 協 力 は 一 九 八 八 年 に タ イ の 首 相 に よ っ て 提 唱 さ れ た ﹁ イ ン ド シ ナ を 戦 場 か ら 市 場 へ ﹂ に 始 ま る 。 半 世 紀 に わ た っ て 紛 争 騒 乱 に 怯 え て い た 人 々 へ の ﹁ 平 和 の 配 当 ﹂ を 市 場 開 放 経 済 の 導 入 に よ っ て 達 成 し よ う と 意 図 し た の で あ る 。 こ の 動 き を 的 確 に フ ォ ロ ー し た の が 一 九 九 二 年 か ら 始 ま っ た ア ジ ア 開 銀 に よ る 組 織 的 ・ 戦 略 的 ・ 実 用 的 な 越 境 プ ロ グ ラ ム で あ る 。 こ れ は 急 速 に 深 化 発 展 し 、 二 ○ ○ 二 年 に は ﹁ 大 メ コ ン 圏 サ ミ ッ ト ﹂ が 開 催 さ れ 、 地 域 の 成 長 ・ 公 正 ・ 繁 栄 を 長 期 ビ ジ ョ ン と し て 共 有 す る 。 越 境 協 力 を 促 進 す る 標 語 は 三 つ の Ｃ ︵ co nn ec tiv ity , co m pe titi ve ne ss, co m m un ity _︶ で あ る 。 メ コ ン 地 域 協 力 の 核 心 で あ る 越 境 イ ン フ ラ 構 築 と 共 通 政 策 の 導 入 を 特 徴 と す る ３ Ｃ の 開 発 方 式 は 今 や 中 央 ア ジ ア 、 南 ア ジ ア 、 そ し て ア フ リ カ に 波 及 し て い る 。 こ の 開 発 方 式 は 越 境 イ ン フ ラ 開 発 整 備 の メ リ ッ ト を 各 国 が 最 大 限 内 部 化 す る こ と を 意 図 す る 。 こ れ ら の 具 体 的 事 例 の 幾 つ か が 本 特 集 で 紹 介 さ れ る 。 メ コ ン 地 域 は 今 後 ま す ま す 目 を 離 せ な い 。 二 一 世 紀 の 日 本 の 命 運 は ア ジ ア 諸 国 と の ﹁ 間 合 い の と り 方 ﹂ に 決 定 的 に 依 存 し て い る 。 メ コ ン 地 域 と の さ ら な る 官 民 協 働 を 、 ア ジ ア 全 体 の 動 態 構 図 を 踏 ま え て 一 層 大 切 に し た い 。 ︵ よ し だ  つ ね あ き ／ 東 京 大 学 大 学 院 新 領 域 研 究 科 教 授 ︶

メコン地域開発プログラムの淵源と意義

吉田恒昭

1─アジ研ワールド・トレンド No.134（2006．11）