純正な和音の響きを作る能力を育成するリコーダー学習
~小学校音楽における指導内容 ・ 方法~ 鹿児島県立福山高等学校 遠 藤 武 夫 リコーダーは演奏者が自分の音感をもとに音高を作ることのできる作音楽器であり,純正律 による純正な和音の響きを作ることができる。しかし,小学校音楽では運指や読譜の指導に重 点が置かれ,作音楽器としての特性が活かされてこなかった。リコーダーの特性を活かして純 正な和音の響きを作る能力を育成することは,児童の和音表現能力を向上させ,リコーダー以 外の表現活動においても作り上げる音楽の質的向上に寄与するもので,有意義である。そこで, 純正な和音の響きを作る能力を育成するリコーダー学習の在り方について研究することにした。 本論文では,小学校段階における指導内容・方法の試案を作成し,3年,4年,6年で授業 実践と検証を行った。4年次の長短3度音程の指導については課題が生じたが,他学年の指導 内容・方法は純正な和音の響きを作る能力の育成に有用であることが明らかになった。 キーワード:小学校音楽,リコーダー,純正律,純正な和音,和音の学習 Ⅰ.研究テーマについて 日本で小学校音楽にリコーダーが導入されたの は昭和20年代のことである。リコーダーは独奏, 器楽アンサンブル,歌唱とのアンサンブル,創作, 鑑賞など様々な場面で活用され,旋律や音の重な り,和音の学習にも有効であること,また,楽器 が安価で手軽に持ち運びできることから,現在に 至るまで教育用楽器として採用され,指導法も研 究されてきた。 小学校での実践で成果をあげた研究者として, 柳生力があげられる。柳生は1973年,「ふえはと もだち リコーダーアンサンブル曲集」(日本コ ロンビア,ELS-3364)というレコードをリリー スした。これは柳生が,大阪府吹田市立千里第一 小学校でクラス授業の児童の演奏を録音し,「卒 業記念」として制作したものである。柳生(2010, p.6)は「このレコードは日本の音楽教育を揺り 動かすほどの反響をもたらした。子どもの,そし てクラス授業における器楽とはこういうものであ る,という学習指導要領や,教科書の指針(簡易 楽器による合奏)を覆し,楽器と楽曲,子どもと 大人の芸術の関係が根底のところで問い直されて いたからである。」と述べている。筆者は30年数 年前に 「ふえはともだち リコーダーアンサンブル 曲集 第2集」(日本コロンビア,GS-7033」を聴き, 巧みな旋律表現や和音の響きの美しさに衝撃を受 けた。柳生(1978,p.1)は「作音という言葉は, 単に無機質な音一般ではなく,表現への限りない 欲求に基礎をもった音楽に使える音を作る意味の はずである。」と述べている。柳生の「作音」に ついての解釈は音楽表現の本質をとらえたもので あると考える。しかしながら,学級で音楽を指導 している教師には,この解釈が十分に浸透してい ない現実がある。「奏者が自分の音感をもとに音 高を作る」という「作音」の一般的な意味すら知 らずに,運指や読譜の指導に終始している教師も いる。 この現状を変えるためには,作音楽器としての 特性を活かした純正な和音の響きを作る学習の導 入が有効であると考えた。なぜなら,純正な和音 の響きを作る活動においては,教師と児童はリ コーダーの作音楽器としての特性を意識せざるを 得ないからである。導入の結果としてリコーダー アンサンブルの和音の響きはもちろんのこと,合 唱や鑑賞等の活動の質も向上するものと考える。 また,純正律の音楽には癒しの効果があることは 広く知られている。玉木(2002,pp.3-4)は氾濫 する現代音楽に警鐘を鳴らし,純正律の音楽を身 体によい癒しの音楽として推奨している。音楽の 役割の一つである「癒し」の観点からも,純正な 〈原著論文〉 日本教科教育学会誌 2019.12 第42巻 第 3 号 pp.15-24 DOI: 10.18993/jcrdajp.42.3_15 3和音の響きを追究することには意義があると考え る。『小学校学習指導要領解説音楽編』(2018)に は純正な和音についての記述はないが,柳生がリ リースしたレコードに収録された児童の演奏や小 学校の音楽教師としての筆者の経験から,中・高 学年の児童には純正な和音を美しく表現する能力 が備わっていると考える。音楽の授業における指 導内容と指導方法を確立することにより,純正な 和音の響きを作る能力を育成する音楽学習は可能 になると考える。 以上のことから本研究では,純正な和音の響き を作る能力を育成するリコーダー学習というテー マを掲げ,小学校における指導内容・方法の試案 を作成し,それらの有用性について,授業実践を 通して検証することとした。 Ⅱ.純正な和音の響きを作る能力を育成するため の指導内容・方法 1.純正な和音の響き 純正な和音の響きとは,周波数の比が単純な整 数比である純正音程を用いて表現される完全協和 音程(完全1度,完全4・5度,完全8度),不 完全協和音程(長短3度,長短6度)による和音 の響きのことであり,「うなり」が出ないのが特 徴である。ピアノや電子キーボード,鍵盤ハーモ ニカなど1オクターヴ内の音程を均等な周波数比 で分割した平均律で調律された楽器では,完全協 和音程や不完全協和音程でも「うなり」が発生し, 純正な和音の響きは作れない。 2.純正な和音の響きを作る能力を育成するため の指導内容 純正な和音の響きを作る能力を育成するために は,純正な和音の響きを聴き取る感覚と純正音程 を作るためにリコーダーの音高をコントロールす る技能が必要になる。これらの感覚と技能が純正 な和音の響きを作る能力を育成するための指導内 容である。 これらは車の両輪のようなもので,どちらを欠 いても純正な和音の響きを作る能力は育成できな い。また,これらは一体的に高めていくことが大 切である。 (1)純正な和音の響きを聴き取る感覚 純正な和音の響きを聴き取る感覚とは,「和音 を構成する音と音が協和した状態」を聴き取る感 覚のことである。 この感覚を高めるには,和音の「うなり」に着 目させながら,2人組や3人組で和音を作る活動 を通して音と音が協和した状態を数多く経験させ ることが大切である。 (2)リコーダーの音高をコントロールする技能 リコーダーの音高をコントロールする技能と は,純正な和音の響きに必要な純正音程を作るた めの技能である。具体的には平均律を中心に± 15.6セント程度の範囲で音高を自由にコントロー ルすることが求められる。 この技能を高めるためには,息のスピードの変 化やタンギング等の基礎技能を丁寧に習得させる ことが大切である。 3.純正な和音の響きを作る能力を身につけるた めの指導方法 指導内容を習得させるための指導方法として 「まね吹き・まね歌い」と「和音練習」を考案した。 (1)まね吹き・まね歌い まね吹きは,教師がリコーダーで短いフレーズ を演奏し,その場で児童に模奏させる活動である。 まね歌いは,リコーダーで演奏したフレーズを 教師がリズム唱,階名唱,タンギング唱で歌い, その場で児童に模唱させる活動である。 音高,リズム,旋律,アーティキュレーション にポイントを置いて,「まね吹き」と「まね歌い」 の活動を組み合わせることにより,音高に対する 感覚やリコーダーの基礎技能を効果的に身に付け させる。以下に,活動例を示す。 ア.音高の変化にポイントを置いた活動例 <まね吹き> <まね歌い> ta - i - a - i -| a―― ti - a - i - a -| i―― 教師は既習の音を使い,2拍目と4拍目の音高 を変化させる。活動を通して,舌の高さにより息 のスピードが変化することに気付かせる。そのた めには母音を変化させたタンギング唱を歌まねさ 図1 音高の変化
せることが効果的である。音高を高くする場合に は母音をa から i に,音高を低くする場合には母 音をi から a に変化させるとよい。 イ.リズムにポイントを置いた活動例 <まね吹き> <まね歌い> ソ-ソソソ-ソソ|ソ-ソ-ソ- タンタタタンタタ|タンタンタン tu - tututu - tutu | tu - tu―tu―
教師は単音で多様なリズムを演奏し,児童の実 態を考慮しながら階名唱やリズム唱,タンギング 唱を織り交ぜ,リズムに対する意識や感覚を高め る。 ウ.旋律にポイントを置いた活動例 <まね吹き> <まね歌い> ソ-ラ-ソ-ララ|ソ-シ-ド- タンタンタンタタ|タンタンタン tu - tu - tu - tutu | tu - tu - tu - 教師は既習の音を使った旋律を演奏する。児童 の実態を考慮し,階名唱やリズム唱,タンギング 唱を織り交ぜながら,運指の技能を高めるととも に,音高に対する意識や感覚を高める。 エ.アーティキュレーションにポイントを置いた 活動例 <まね吹き> <まね歌い> ソ・ラ・ソ・ド・|ソ-ラ-ソ- タ・タ・タ・タ・|タ-タ-タ- tu・tu・tu・tu・| tu - tu - tu - 教師はノンレガート,レガート,スタッカート などのアーティキュレーションを用いた旋律を演 奏する。児童の実態を考慮し,階名唱やリズム唱, タンギング唱を織り交ぜながら,アーティキュ レーションに対する意識や感覚,タンギングに対 する意識やタンギングの技能を高める。 (2)和音練習 和音練習は,純正な和音の響きを聴き取る感覚 とそれをリコーダーで作るための技能を高める活 動である。和音練習1と和音練習2で2音の重な り(不完全協和音程,完全協和音程)を習得させ ることにより,和音練習3と和音練習4の3音の 重なりに対応できる力を養う。 ア.和音練習1 和音練習1は,同音から長短3度音程の和音を 作る練習である。練習には1A と1B の2種類が ある。1A は基準音の上に純正な長短3度音程の 和音を作るための練習であり,1B は基準音の下 に純正な長短3度音程の和音を作るためのもので ある。 ※ 図5・ 6の「⇩」は低めに,「⇧」は高めに音を重 ねることを示している。 この練習は,2人組で行う。同音で2拍伸ばし, 図2 リズム 図3 旋律 図4 アーティキュレーション 図5 和音練習1A 図6 和音練習1B 表1 まね吹き・まね歌いで身に付く感覚・技能等 活動のポイント 身に付く感覚・技能等 ア 音高の変化 ・音高に対する感覚 ・息をコントロールする技能 イ リズム ウ 旋律 エ アーティキュレー ション ・リズムを聴取する能力 ・階名の知識と運指の技能 ・旋律を聴取する能力 ・タンギングの技能
3拍目で長短3度音程に移行する。 純正な長短3度音程の和音の響きを作るには表 2のとおり「高め」もしくは,「低め」に音を重 ねる必要がある。指導に当たっては,合奏指導向 けキーボード(筆者はヤマハ製HD81を使用。以 下,HD と表記する。)を使用し,純正音程によ る和音の響きを聴かせながら,教師が必要に応じ て「低め」もしくは「高め」と助言する中で,純 正な和音の響きを作らせる。 イ.和音練習2 和音練習2は,同音から完全4・5度音程の和 音を作る練習である。練習には2A と2B の2種 類がある。2A は基準音の上に純正な完全4・5 度音程の和音を作るための練習であり,2B は基 準音の下に純正な長短4・5度音程の和音を作る ためのものである。 ※ 図7・8の「⇩」はやや低めに,「⇧」はやや高め に音を重ねることを示している。 この練習は,2人組で行う。同音で2拍伸ばし, 3拍目で完全4度・5度に移行する。 純正な完全4度・5度音程の和音の響きを作る には,表3のとおり「やや高め」もしくは,「や や低め」に音を重ねる必要がある。指導に当たっ ては,HD で純正音程による和音の響きを聴かせ ながら,教師が必要に応じて「やや低め」もしく は「やや高め」と助言する中で,純正な和音の響 きを作らせる。 ウ.和音練習3(ヘ長調の主要三和音) ※ 図9の4小節目の各音の音高は,C(+2.0セン ト)G(+3.9セント),E(-11.7セント)である。 この練習は,3人組で行う。和音練習1と和音 練習2の応用である。指導に当たっては,HD で 純正音程による和音の響きを聴かせたり,上と中, 上と下,中と下のように,2つのパートで音を重 ねたりさせる。 教師が3音の関係を聴き取り,必要に応じて「高 め」もしくは「低め」と助言する中で,うなりの ない純正な和音の響きを作らせる。 エ.和音練習4(イ短調の主要三和音) ※ 図10の4小節目の各音の音高は,E(+2.0セント), H(+3.9セント),Gis(-11.7セント)である。 この練習も,和音練習1と和音練習2の応用で, 指導に当たっては,和音練習3に倣う。 4.小学校における指導内容・方法の試案 考案した指導内容・方法を『小学校学習指導要 領解説音楽編』(2018)と教育芸術社の3年から 6年までの教科書を参考にしながら,系統性を考 慮して構成し,試案として表4のとおりにまとめ た。キーワードは,指導内容の理解や定着を図る 表2 純正な長短3度音程の和音の作り方 ※表中の数字は,平均律を基準としたものである。 長3度音程 短3度音程 基準音の上に 重ねる場合 低め 高め -13.7セント +15.6セント 基準音の下に 重ねる場合 高め 低め +13.7セント -15.6セント 図7 和音練習2A 図8 和音練習2B 表3 純正な完全4・5度音程の和音の作り方 ※表中の数字は,平均律を基準としたものである。 完全4度音程 完全5度音程 基準音の上に 重ねる場合 やや低め やや高め -2.0セント +2.0セント 基準音の下に 重ねる場合 やや高め やや低め +2.0セント -2.0セント 図9 和音練習3 図10 和音練習4
ために筆者が考案したものである。なお,「ハモり」 は純正な和音が響いた状態を表す造語である。 Ⅲ.検証(授業実践) 指導内容・方法の試案を検証するための授業実 践を行った。 1.授業実践の対象等 (1)学 校:霧島市立牧之原小学校 (2)学 級: 3年(29名),4年(30名),6年(24 名) (3)時 期:平成30年1月~2月 (4)時 数:各クラス4時間 (5)指導者: 筆者(通常の授業は各クラスの担任 によって行われている。) 2.3年の授業実践 完全1度音程がぴったし合っているのか,う なっているのかを聴き取る感覚とリコーダーで完 全1度音程をぴったし合わせる技能の変容,そし て,まね吹き・まね歌いの効果について検証する ことをねらいとして行った。 (1)授業の概要 各時間の学習目標と主な学習活動は以下のとお りである。 1時間目: 同じ音の重なりのわずかなちがいを ききとろう ① 指導者のリコーダーと HD の音高のずれを聴 き取る。 ②「ぴったし」と「うなっている」という言葉 の意味を実際の2音の響きを通して捉える。 ③実音テスト1回目(完全1度音程) 2時間目: たがいの音を 「ぴったし」 合わせよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 高めの音から息のスピードを調節し HD の音 に「ぴったし」合わせる。 ③ 2人で G の音を合わせ指導者にチェックし てもらう。(1回目) 3時間目: 気持ちと音を「ぴったし」合わせて えんそうしよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ②「そよ風」(石川冬樹 作曲 『小学校の音楽3』 教育芸術社)を互いの音高に気をつけて演奏 し,指導者の個別指導を受ける。 4時間目: 音を「ぴったし」合わせる学習のま とめをしよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 2人で G の音を合わせ指導者にチェックし てもらう。(2回目) ③実音テスト2回目(完全1度音程) (2)結果と考察(児童数29名) 授業中に行った実音テスト,指導者のチェック を通して児童の感覚や技能の変容について考察す る。 ア.感覚 感覚を測るための実音テストは,1時間目に1 回目を,4時間目に2回目を実施した。 テストでは,表5に示した各音をHD とリコー ダーで演奏し,ぴったし合った音と15セント程度 のずれのある音の2種類を聴かせて,「ぴったし 合っている」と感じる方を答えさせた。 「うなり」という言葉の意味は,HD とリコー ダーで作ったうなりを児童に聴かせながら,うな りの強弱の周期を手の上下の動きで表現させる活 動を通して捉えさせた。「ぴったし」 という言葉 の意味は,HD とリコーダーのうなりが徐々にな くなり,完全に止まるまでの変化を,手の動きを 添えながら注意深く聴かせる活動を通して捉えさ せた。 表4 小学校における指導内容・方法(試案) 学年 指導内容 キーワード 指導方法 3 ・ 音と音がぴったし合う感 覚 (完全1度) ・ 音の高さを息のスピード で変化させる技能 ぴったし うなり まね吹き まね歌い 4・5 ・ 2音がハモる感覚(長短 3度,完全4・5度) ・ 音 の 高 さ を 変 化 さ せ, ぴったし合う音やハモる 音を表現する技能 ぴったし うなり ハモり 高め 低め やや高め やや低め まね吹き まね歌い 和音練習1 和音練習2 6 ・ 3音がハモる感覚(長短 3和音) ・ 音 の 高 さ を 変 化 さ せ , ぴったし合う音やハモる 音を表現する技能 ぴったし うなり ハモり 高め 低め やや高め やや低め まね吹き まね歌い 和音練習1 和音練習2 和音練習3 和音練習4
(ア)実音テストの結果 (イ)考察 1回目の第1問の正答率は20%と低かった。こ れは,かねての音楽学習でわずかな音高の違いに 着目した経験がないことが要因であると考える。 1回目の正答率の平均は61%であったが2時間の 学習を経た2回目の調査では正答率が平均84%ま で伸びた。高さを意識して音を聴いたり,まね吹 き・まね歌いで音高を変化させたりする活動を通 して2音が「ぴったし」合っている状態を聴き取 る感覚が高まったものと考えられる。 イ.技能 音高をコントロールして相手の音に「ぴったし」 合わせる技能に関する活動は,2時間目に1回目 を,4時間目に2回目を実施した。 実際には「2人組でG の音をぴったし合わせ よう」という活動に指導者が個別にかかわりなが ら指導を行った。相手の音と「ぴったし」合わせ ることができたかについての評価は指導者が行っ た。2人の児童がお互いの音高を聴き合って息の スピードを揃えて音を一つにまとめようとし,お おむね満足できる状態であれば,「ぴったし」合っ ていると評価した。下の (ア) に示した組数は, 合 わせることができたと評価した2人組の数である。 なお,このクラスは29名であるので,3人組を 一つ作った。従って,全体の組数は,14組である。 (ア)指導者による評価 G の音を「ぴったし」合わせることができた組 数は以下のとおりである。 1回目(2時間目) 7組(50%) 2回目(4時間目) 12組(86%) (イ)考察 1回目は,すべての2人組に「息のスピードを 遅くして」「相手と息のスピードを揃えて」「相手 の音を良く聴いて」などのアドバイスを与えた。 結果,7組(50%)が2音を「ぴったし」合わす ことができた。これらのアドバイスは息をコント ロールできる児童には効果的であったと考える。 2回目は,活動を児童に任せて指導者はチェッ クを中心に行った。3組は指導者のアドバイスな しで2音を「ぴったし」合わせることができるよ うになり,全体では12組(86%)が音を合わせる ことができた。3時間目,4時間目に行った音高 の変化にポイントを置いた「まね吹き・まね歌い」 により息をコントロールする技能が高まったこと によるものと考える。 児童は,音の高さを意識してリコーダーを演奏 する学習を初めて経験したが,4時間の授業で14 組中12組(86%)が2音をぴったし合わせること ができるようになった。全員に音高をコントロー ルする技能を身に付けさせることはできなかった が,高の高さを意識して「まね吹き・まね歌い」 の活動を行うことにより,達成率はさらに高まっ ていくものと考える。 3.4年の授業実践 長短3度音程の和音の響きがハモっているの か,うなっているのかを聴き取る感覚とリコー ダーで長短3度音程の純正な響きを作る技能の変 容,そして,まね吹き・まね歌い,和音練習1A と1B の効果について検証することをねらいとし て行った。 (1)授業の概要 各時間の学習目標と主な学習活動は以下のとお りである。 1時間目: 2音のひびきのわずかなちがいをき きわけよう ① HD で純正律と平均律による長短3度音程の 和音の響きを聴き比べる。 ②「ハモっている」「うなっている」という言葉 の意味を実際の和音の響きを通して捉える。 ③実音テスト1回目(長短3度音程) 2時間目:あいての音とハモろう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 「陽気な船長」(市川都志春 作曲『小学校の 表5 3年実習テスト結果
音楽4』教育芸術社)のパートを確認する。 3時間目: あいての音との「ハモり」を感じて えんそうしよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 和音練習1A と1B を行い,長短3度音程の 純正な和音の響きをつかむ。 ③ 2人組で長短3度音程の和音の響きを作り, 指導者にチェックしてもらう。(1回目) 4時間目:学習のまとめをしよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 2人組で長短3度音程の和音の響きを作り, 指導者にチェックしてもらう。(2回目) ③実音テスト2回目(長短3度音程) (2)結果と考察(児童数30名) 授業中に行った実音テスト,指導者のチェック を通して児童の感覚や技能の変容について考察す る。 ア.感覚 長短3度音程に対する感覚を測るための実音テ ストは,1時間目に1回目を,4時間目に2回目 を実施した。 テストでは,表6に示した各長短3度音程を HD を用いて純正律と平均律で演奏し,「ハモっ ている」と感じる方を答えさせた。 なお,「ハモっている」と「うなっている」と いう言葉については3年生と同様の方法で,実際 の和音の響きを通して捉えさせた。 (ア)実音テストの結果 (イ)考察 表6に示すとおり,長短3度音程の和音の響き について,1回目の正答率の平均は53%と低かっ 表6 4年実習テスト結果 た。2時間の学習を経て4時間目に実施した2回 目も正答率の平均は54%とほぼ変容が見られず学 習の成果が認められなかった。 このことから,長短3度音程の和音の響きを聴 き取る感覚は,短期間では習得が難しいことが明 らかになった。要因としては,長短3度音程が不 完全協和音程であり,完全協和音程と比較すると 調和の度合いが弱いということが考えられる。 イ.技能 2人組で長短3度音程の和音の純正な響きを作 る技能に関する活動は3時間目に1回目,4時間 目に2回目を実施した。 実際には,和音練習1A と1B に2人組で取り 組む活動に,指導者が個別にかかわりながら指導 を行った。相手の音と「ハモり」を作ることがで きたかについての評価は指導者が行った。2人の 児童がお互いの音高を聴き合って,息のスピード を調節しながら音高をコントロールして和音の響 きを作り,おおむね満足できる状態であれば,「ハ モっている」と評価した。下の(ア)に示した組 数は長短3度音程の和音で「ハモり」を作ること のできた2人組の数である。 なお,このクラスは30名であるので,全体の組 数は,15組である。 (ア)指導者による評価 長短3度音程の和音で純正な響きを作ることの できた組数は以下のとおりである。 1回目(3時間目) 7組(47%) 2回目(4時間目) 11組(73%) (イ)考察 1回目は,すべての2人組に純正律による和音 の響きをHD で聴かせながら「高めに」「低めに」 などのアドバイスを与えた。結果,7組(47%) が長短3度音程の純正な和音の響きを作ることが できた。これらのアドバイスは息をコントロール できる児童には効果的であったと考える。 2回目は,活動を児童に任せて指導者はチェッ クを中心に行った。2時間目と3時間目に行った 「まね吹き・まね歌い」の活動で4名の児童が息 をコントロールできるようになったことにより, 11組(73%)が長短3度音程の純正な和音の響き を作れるようになった。 児童は,表4の「3学年の指導内容・方法」の
学習経験なしに,本学習に取り組んだ。4時間の 授業で15組中11組(73%)が純正な響きを作るこ と が で き る よ う に な っ た が, 3 年 生 の 達 成 率 (86%)より13%低くなった。長短3度音程の和 音の響きの聴き取りが難しく,音高をどの程度「高 め」や「低め」にコントロールすればよいのかが 判断できなかったことが,純正な響きを作ること ができなかったことの要因の一つであると考える。 4.6年の授業実践 完全4・5度音程の和音の響きと長短3和音の 響きがハモっているのか,うなっているのかを聴 き取る感覚とリコーダーで長短3和音の純正な響 きを作る技能の変容,そして,まね吹き・まね歌 い,和音練習3,和音練習4の効果について検証 することをねらいとして行った。 (1)授業の概要 各時間の学習目標と主な学習活動は以下のとお りである。 1時間目: 和音の響きのわずかな違いを聴きわ けよう ① HD で純正律と平均律による長短3和音の響 きを聴き比べる。 ② 「ハモっている」「うなっている」という言葉 の意味を実際の和音の響きを通して捉える。 ③実音テスト1回目 2時間目:3音をハモらせよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 和音練習3を2パートずつ演奏して,響きを 確かめる。 ③ 3人組で和音練習3を演奏して和音の響きを 作り,指導者にチェックしてもらう。(1回目) 3時間目: 和音の「ハモり」を感じながら演奏 しよう ①まね吹き・まね歌いをする。 ② 3人組で和音練習3を演奏して和音の響きを 作り,指導者にチェックしてもらう。(2回目) 4時間目: 音の重なり音を「ぴったし」合わせ る学習のまとめをしよう ①実音テスト2回目 ②まね吹き・まね歌いをする。 ③ 3人組で和音練習4を演奏して和音の響きを 作り,指導者にチェックしてもらう。(1回目) (1)結果と考察 授業中に行った実音テスト,指導者のチェック を通して児童の感覚や技能の変容について考察す る。 ア.感覚 完全4・5度音程の和音の響きと長短3和音の 響きに対する感覚を測るための実音テストは1時 間目に1回目を,4時間目に2回目を実施した。 テストでは,表7及び表8に示した和音を, HD を用いて純正律と平均律で演奏し,「ハモっ ている」と感じる方を答えさせた。 なお,「ハモっている」と「うなっている」と いう言葉については3年生と同様の方法で,実際 の和音の響きを通して捉えさせた。 (ア)実音による調査 (イ)考察 表7に示すとおり,完全4・5度音程の純正な 和音の響きについて,正答率の平均は1回目が 86%であり,2時間の学習を経て4時間目に実施 した2回目は98%であった。正答率は高くなり2 時間の学習の成果が見られた。表3に示したとお り,純正律と平均律の音高の差が2.0セントと僅 かであるため2音のうなりの強弱の周期が長く, 違いを捉え易かったことも正答率が高くなった要 因の一つであると考える。 また,表8に示すとおり,長短3和音の純正な 響きについて,正答率の平均は1回目が78%であ り,2時間の学習を経て4時間目に実施した2回 目は83%であった。正答率の5%上昇は,2時間 の学習の成果であると考える。 表7 6年実習テスト結果1 表8 6年実習テスト結果2
イ.技能 3人組で長3和音の純正な響きを作る技能に関 する活動は2時間目に1回目,3時間目に2回目 を実施した。 また,短3和音の純正な響きを作る技能に関す る活動は4時間目に1回実施した。 長3和音の活動には和音練習3を,短3和音の 活動には和音練習4を用いた。3人組で取り組む 活動に,指導者が個別にかかわりながら指導を 行った。相手の音と「ハモり」を作ることができ たかについての評価は指導者が行った。3人の児 童がお互いの音高を聴き合って,息のスピードを 調節しながら音高をコントロールして和音の響き を作り,おおむね満足できる状態であればハモっ ていると評価した。下の(ア)に示した組数は「ハ モり」を作ることができたと評価した3人組の数 である。 なお,このクラスは24名であるので,全体の組 数は8組である。 (ア)指導者の評価 長3和音の純正な響きを作ることのできた組数 は以下のとおりである。 1回目(2時間目) 5組(63%) 2回目(3時間目) 7組(88%) 短3和音の純正な響きを作ることのできた組数 は以下のとおりである。 1回目のみ(4時間目) 7組(88%) (イ)考察 長3和音の1回目は,すべての3人組に純正な 音高による和音の響きをHD で聴かせながら「高 めに」「低めに」などのアドバイスを与えた。結果, 5組(63%)が純正な和音の響きを作ることがで きた。これらのアドバイスは息をコントロールで きる児童には効果的であったと考える。 長3和音の2回目は,活動を児童に任せて教師 はチェックを中心に行った。結果,7組(88%) が純正な和音の響きを作ることができた。2時間 目から毎時間,音高の変化やアーティキュレー ションを中心に「まね吹き・まね歌い」の活動を 行うことにより,舌の柔軟性が改善して音高のコ ントロールがうまくできるようになった2組は純 正な和音の響きを作ることができるようになった。 短3和音は1回行った。各組に個別のアドバイ スを与えることで7組(88%)が純正な響きを作 ることができた。 児童は,表4の「3・4・5学年の指導内容・ 方法」の学習経験がなかったが,4時間の授業で 8組中7組(88%)が純正な響きを作ることがで きるようになった。これまでの合唱や合奏におけ る和音の学習も活かされたものと考える。 なお,表4の3,4,5学年の指導内容・方法を 系統的かつ継続的に指導すれば,どのレベルまで 表現力が高まるかについては,今後の研究課題と したい。 Ⅳ.研究のまとめ 1.成果と課題 (1)純正な和音の響きを聴き取る感覚について ア 完全協和音程(完全4・ 5度音程)による和 音の純正律と平均律による響きの違いを聴き取 る感覚は,「うなり」に着目させることにより 効果的に習得させることができた。 また,完全協和音程と不完全協和音程の両方 を含む長短3和音の純正律と平均律による響き の違いを聴き取る感覚も, 「うなり」 に着目させ ることにより効果的に習得させることができた。 イ 不完全協和音程(長短3度音程)の和音の純 正律と平均律による響きの違いを聴き取る感覚 は,「うなり」に着目させる方法では十分に高 めることができなかった。吉沢(1998,p.11) は長短3度音程の和音が「ハモった」時に生ま れる「差音」に着目する方法を提唱している。 このことも参考にしながら,今後,課題の解決 を図っていきたい。 ウ 和音の響きを聴き取る学習で使用した「ぴっ たし」「うなり」「ハモり」等のキーワードは, 児童の理解や感覚を高める上で有効であった。 しかし,長短3度音程の響きをとらえさせる言 葉として使用した「うなっている」については 検討が必要である。 (2)音高をコントロールする技能について ア 和音練習1・3・4は,純正な和音の響きを 聴き取る感覚と純正音程を作るために音高をコ ントロールする技能を一体的に高める上で有効 であった。和音練習2は扱えなかったので,今 後,検証していきたい。
イ 純正な和音の響きを作る際のアドバイスとし て「ぴったし」「高め」「低め」「やや高め」「や や低め」の言葉を使ったが,和音練習や実際の 楽曲の練習におけるキーワードとして有効で あった。 ウ 音高のコントロールには息のスピードの調節 が必須であるが,スムーズな音高のコントロー ルにはタンギング,運指等の基礎技能も欠くこ とができない。まね吹き・まね歌いを効果的に 行い,リコーダーの基礎を積み上げることが大 切であることが明らかになった。 2.おわりに 今後は,表4の指導内容・方法の改善を図ると ともに,中学校における指導内容・方法を考案・ 検証し,純正な和音の響きを作る能力を育成する リコーダー学習の研究に取り組みたい。 最後に,本研究を進めるにあたり,授業実践に 御協力いただいた霧島市立牧之原小学校の原園 功一校長先生,永田由紀子先生,宮下洋平先生, 上野洋樹先生に心から感謝申し上げます。 引用・参考文献 小原光一(2016)『小学生の音楽3』,教育芸術社. 小原光一(2016)『小学生の音楽4』,教育芸術社. 小原光一(2016)『小学生の音楽5』,教育芸術社. 小原光一(2016)『小学生の音楽6』,教育芸術社. 玉木宏樹(2002)『純正律は世界を救う』, pp.3-4,文化創作出版. 東川清一(2001)『古楽の音律』,文化創作出版. 東川清一(2013)『音律論:ソルミゼーションの 研究』,春秋社. 文部科学省(2018)『小学校学習指導要領(平成 29年告示)解説音楽編』,東洋館出版社. 柳生力(1978)『学級におけるリコーダー指導の 研究』,p.1,音楽之友社. 柳生力(2010)「楽器と楽曲の様式を踏まえた学 習とその指導の実践-「簡易楽器」と「子ども らしさ」を越えて」,『音楽教育実践ジャーナル, 7巻2号』,p.6. 吉沢実(1998)『リコーダーアンサンブルの基礎 と技法【改訂版】』,p.11,全音楽譜出版社.
A Recorder Learning Program to Develop Elementary School Students’ Abilities to Produce a Chord with Pure Intonation: Instruction Contents and Method for Elementary School Music Programs
by Takeo ENDO
Kagoshima Prefectural Fukuyama High School
On a recorder a performer can control the pitch of each individual note. Thus, it is possible to produce a chord with pure intonation. However, due to elementary school music programs placing an overemphasis on correct finger positioning and the ability to read music notation, it is my belief that the unique characteristics of the recorder are not being fully utilized. The development of students’ abilities to produce chords with pure intonation will enhance the beauty of their chords, and thus, improve the overall quality of the music they express. Therefore, this study examined effects of the instruction to help elementary school students produce these chords on their abilities.
At the initial stage of this study I constructed a tentative teaching plan and gave practical lessons to 3rd,
4th, and 6th grade students and analyzed the results. Problems arose in the teaching of major and minor thirds
to the 4th grade students. However, my plan was effective in developing the 3rd and 6th grade students’ abilities
to produce chords with pure intonation.