日本における再生医療と生命倫理政策:規制科学論の観点から
Regenerative Medicine and Bioethics Policy in Japan:
From the Perspective of Regulatory Science.
田中丹史
要旨 本稿では日本の再生医療をめぐる生命倫理政策が規制科学の観点からどのよう に評価できるかを検討した。その結果、人クローン胚の作成をめぐる政策において は、研究の科学的合理性に疑義を唱える科学者も存在したが、科学論争が行政の委 員会の中で起こることはなかった。これに対し、幹細胞からの生殖細胞、ヒト胚の 作成に関する政策では、政策の科学的エビデンスの担保が十分とは言えず、必ずし も科学者がそうした作業を責任を持って実施したわけではなかった。以上から、日 本の再生医療をめぐる生命倫理政策においては科学的エビデンスに基づく政策形成 のために科学者で構成された小委員会を設置することが必要ではないかと提言し た。 キーワード 規制科学、再生医療、生命倫理Abstract This paper evaluates Japanese bioethics policy toward regenerative
medicine from the perspective of regulatory science. Concerning policymaking about human cloned embryos, although some scientists questioned the scientific rationality of the research, the scientific controversy among scientists did not occur in administrative councils. Regarding policymaking about germ cells and embryos made from stem cells, as the scientific evidence provided for the policy was insufficient, scientists did not necessarily perform their work responsibly. Finally, in relation to Japanese bioethics policy on regenerative medicine, the author of this paper suggests the necessity of a special committee consisting of scientists to formulate scientific evidence-based policy.
Keywords regulatory science, regenerative medicine, bioethics
1 はじめに:生命倫理政策と規制科学 生命倫理政策の形成過程は規制科学であると言われる場合がある。規制科学とは政治学者の S・ジャサノフにより提唱された概念であり、政策に用いられる科学知識とそれに関わる審議 会委員の活動を指す(Jasanoff 1990: 6)。科学技術社会論者の藤垣裕子によれば、規制科学は 意思決定において信頼できる知識を生み出す活動であり、その知識は公共の妥当性境界(公共 の判断基準・根拠)や社会的現場に依存した条件も含むものであるべきだという(藤垣2003: 187)。また科学的合理性(科学的に妥当だとされる根拠)と社会的合理性(複数の判断基準か ら選択をする際の社会的根拠)の双方を持つ知識であるともいう(同上)。 東京医科歯科大学教養部研究紀要第 51 号:57〜70(2021)
生命倫理政策も生命科学が対象となっている以上、科学の知見が深く関わる政策であり、さ らにその国の生命観等の文化といった社会的条件を踏まえる必要が形成過程で生じる領域であ る。そのため、科学的合理性と社会的合理性の双方を必要とする規制科学としての特徴を持っ ている領域と想定してよいだろう。しかしこれまでの日本の生命倫理政策の形成過程の分析(額 賀2009)では、生命倫理政策に関する審議会は規制倫理学(生命科学研究における倫理的妥当 性を論じ、価値観の対立を調停する活動のこと)の特徴を持つとされ、規制科学としてどのよ うな特徴があるのかは検討されてこなかったと言ってよい。そこで本稿では再生医療政策を事 例として、日本の生命倫理政策において規制科学がどのように展開し、どのような問題点を持っ ているのかを検討することを目標としたい。 ではなぜ再生医療政策を取り上げるかと言えば、まず日本初の生命倫理法(町野2001)とも 言うべき、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が成立した分野であり、生命 倫理を名称とした審議会が開かれ、多分野の専門家の合議により政策が形成されたからである。 そうした本格的な生命倫理政策が開始された分野で規制科学の活動がどのようになされている かを振り返ることは生命倫理政策論として重要であると言ってよい。さらに再生医療政策はジャ サノフが影響を受けた社会学者のL・サルターの議論から社会学者の額賀淑郎が析出した規制 科学の四要件(額賀2009: 128)に該当すると考えられるからである。四要件とは、(1)科学 が政策に用いられること、(2)科学が経済的・社会的利害を伴う法的問題と関わること、(3) 規制科学の審議が独自性をもつこと、(4)規制科学は科学に伴う倫理問題を明確にすること を指す。厳密に規制科学の活動がなされたと考えられる分野で政策形成過程の特徴を明らかに することは価値を持つと言ってよいだろう。 以上の問題意識から、以下では生殖細胞、胚に由来する幹細胞の作成をめぐる政策と幹細胞 からの生殖細胞・胚の作成をめぐる政策に分けて、日本の再生医療に関する生命倫理政策がど のように議論されていくかを分析することとしたい。 2 生殖細胞、胚に由来する幹細胞の作成をめぐる公的論議 2-1 科学技術会議生命倫理委員会の活動:法律と指針の分離 1998年2月に科学技術会議生命倫理委員会にクローン小委員会が設置され、12回の審議の後、 1999年11月に「クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方」が発表されている。 クローン小委員会は生命科学9名、法学3名、科学史1名、社会学1名、宗教学1名、哲学1名の委 員で構成されていた(1)。この基本的考え方の中では、人クローン個体(クローン人間)を産生 しなければ、人間の尊厳や安全性といった価値を侵害するような重大な弊害をもたらすことは なく、人クローン胚(除核した未受精卵に体細胞の核を移植してできる胚)の研究利用によっ て医療等の向上に貢献する可能性がある点も否定できないとされている。ただし、人クローン 胚は人個体の産生につながるものであるため、ヒト胚と同様に人の生命の萌芽として尊重され ることも必要であるとされる。以上から、正当な理由がある場合には人クローン胚を扱う研究 は許容しうる余地があるとされている。なお「クローン技術による人個体の産生等に関する基 本的考え方」の「(1)クローン技術によるヒト胚の作成及び人個体の産生」という節で、移 植医療に関する記述があるため、ここで言われている医療等の具体例はそうした移植医療を指 すのであろう。つまり再生医療への貢献を指しており、そうした治療目的を持つ研究は否定で きないという見解であると考えられる。ただし、これらの研究の是非は、ヒト胚研究小委員会
(1999年2月に特にヒトES細胞に関する審議のため科学技術会議生命倫理委員会に設置された) の審議に委ねられるべきともされている。また規制形式については、人クローン個体の産生は 人間の尊厳や安全性といった価値を侵害するため、あらゆる者に有効な規制として法律による 禁止をすべきであり、人クローン胚の研究については上記の重大な弊害をもたらすことはなく 医療等の向上に資する面があるため、より柔軟な規制の方が適しているが、この規制方式の点 についてもヒト胚研究小委員会の検討に委ねられるべきとされている。その後、生命倫理委員 会が1999年12月に「クローン技術による人個体の産生等について」を発表している。人クロー ン胚について、個体を産生しなければ人間の尊厳や安全性を侵害することはなく、拒絶反応の ない移植医療の研究や基礎研究において有用であり、ヒト胚研究小委員会の審議も踏まえて、 人クローン胚の扱い等も含めた規制を構築すべきとしており、既述の「クローン技術による人 個体の産生等に関する基本的考え方」に沿った内容となっている。 続いて、ヒト胚研究小委員会の活動に関しては1999年2月からの14回の審議後、2000年3月に 「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」が発表されている。ヒト胚 研究小委員会は生命科学7名、法学2名、科学史1名、社会学1名、マスコミ関係者1名で構成さ れていた(2)。この中でヒトES細胞については、まず医療面からの期待が大きく、ヒトを対象 とした生命科学の基礎研究においても有用と考えられるとされている。さらにヒト胚の研究利 用は、人の生命の萌芽を操作するという点で人間の尊厳に抵触しかねず、ヒトES細胞の樹立 は人の生命の萌芽としてのヒト胚を用いるという点から慎重に行われなくてはならないともさ れる。これに対し、人クローン胚の是非は余剰胚から樹立されたES細胞を利用した研究の実 績が蓄積されるのを待って、その医療への応用の可能性について評価した上で再検討されるべ きであり、人クローン胚からはヒトES細胞を樹立すべきでないとされている。クローン小委 員会では人クローン胚を利用した研究は容認できるとされていたのに対し、ヒト胚研究小委員 会では現状では行うべきではないとされており、意見に相違が生じている。ただしクローン小 委員会の「クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方」では、既述のように人 クローン胚の研究の是非についてはヒト胚研究小委員会の審議に委ねられるべきとされている ため、生命倫理委員会全体としては、人クローン胚の研究は現状では行わないという見解が提 示されたと見なせる。その後、2000年3月に科学技術会議生命倫理委員会が「ヒト胚性幹細胞 を中心としたヒト胚研究について」を発表している。その中で、人クローン胚等に関する規制 の枠組みについて人クローン個体等の産生を禁止する法律に位置付けて早急に整備すること と、ヒトES細胞に関する規制の枠組みについては指針として早急に整備することが謳われ、 人クローン個体産生の禁止については法律によって、ヒトES細胞に関する規制はガイドライ ンでという形で規制形式を分けて行うべきであるという見解が発表された。この規制の区別は どのようにして生じたのかは生命倫理委員会という親委員会の議事録を読解しても必ずしも明 確ではない(3)。 こうした議論を踏まえた上で、2000年3月13日開催の第8回生命倫理委員会の場において、事 務局からクローン技術の規制等に関する法律案の説明があった。その法律案では人クローン胚 等を母胎へ移植することを法律で禁止すること、人クローン胚等の研究については指針に基づ く事前の届出制とすることとされた。このようにして日本では生殖クローニングと治療目的ク ローニングを分離する倫理的枠組みが主張された。その後の規制は、生命倫理委員会での議論 と事務局からの説明におおよそ沿ったものとなっている。具体的には人クローン胚等の母胎へ の移植を禁止する法律として、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が2000年
11月に成立し、人クローン胚等の研究については2001年12月に「ヒトに関するクローン技術等 の規制に関する法律」第4条に基づき「特定胚の取扱いに関する指針」(4)が策定され、ヒトES 細胞研究については2001年9月に「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」が告示されてい る。 2-2 総合科学技術会議生命倫理専門調査会の活動 2-2-1 指針の策定への答申 2001年1月の省庁再編により、科学技術会議が廃止され、総合科学技術会議が内閣府に設置 された。それに合わせて総合科学技術会議内に生命倫理専門調査会が発足している。この生命 倫理専門調査会の最初の仕事は上記の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」と「特定 胚の取扱いに関する指針」に関する諮問への答申であった。前者の「ヒトES細胞の樹立及び 使用に関する指針」に関しては、2001年4月19日に文部科学省より総合科学技術会議へその案 が諮問され、同年8月30日に答申が発表されている。指針案の修正すべき事項として、指針案 第3条に関連し、基礎的研究と臨床研究の区別をはっきりとさせ、人に適用する臨床研究を当 面行わないことが明確となるようにするべきだとしている。また指針案第4条に関して、ヒト 胚を取り扱う際にはヒト胚は人の生命の萌芽であることに配慮し、礼意を失わないようにとい う表現を変更し、不適切な取扱いが人間の尊厳を侵害する恐れがあることを明確にすべきとし ている。基礎研究と人に直接適用される臨床研究を分離して考えるという研究倫理の基本的な 考え方が見解として提示されており、人間の尊厳を原則とする考えも導入されていることが見 てとれる。続く後者の「特定胚の取扱いに関する指針」に関しては、指針案が2001年8月30日 に文部科学省により総合科学技術会議へ諮問され、同年11月28日に答申が発表されている。こ の中ではヒト受精胚の取扱いに関する問題全体の議論がまだ不足している段階にあるため、基 本的に動物胚と考えられる動物性集合胚のみを認めることとすべきとされる。その他の特定胚 については、人クローン胚とヒト性融合胚とヒト胚核移植胚は有用性が認められる(人クロー ン胚とヒト性融合胚は免疫拒絶反応のない移植医療・細胞治療に関する研究、ヒト胚核移植胚 はミトコンドリア病等の治療・予防)ものの、ヒト受精胚の取扱いに関する議論を待って当否 を考えるべきであるとされ、他の4つの特定胚は交雑個体を生む可能性、研究の有用性が低い 等といった理由から、当面は作成および使用を認めるべきではないとされた。これらの中で人 クローン胚は最も有用性が高いと判断されていたが、認可にはヒト受精胚の取扱いに関する議 論が必要とされている。そのため、この答申の段階では有用性が認可すべきか否かの重要な要 素となっていることは確かであるが、ヒト受精胚をどのように位置づけるかという倫理的議論 の方を優位に立たせていると見なしてよいだろう。 2-2-2 ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方 総合科学技術会議生命倫理専門調査会は、2004年7月の第38回専門調査会まで、ヒト受精胚 や人クローン胚等の特定胚の位置づけ、研究目的での作成・利用等を検討した。第21回の専門 調査会(2002年10月25日)で井村裕夫会長より、これまでの議論の論点を少人数で整理すると いう提案がなされた(5)。論点整理は第23回専門調査会(2003年8月1日)に報告書素案という形 で提示され、この素案をたたき台に中間報告書が取りまとめられ、2003年12月26日に発表され た。中間報告書では、ヒト受精胚や特定胚の倫理的位置付け、ヒト受精胚の科学的研究の現状、
特定胚の作成・利用の科学的必要性、胚の取扱いの制度的枠組み等が論じられていた(島薗 2006: 247-250)。 その後、中間報告書へのパブリックコメント等を経て、2004年7月23日に最終報告書である「ヒ ト胚の取扱いに関する基本的考え方」が発表されている。この最終報告書ではヒトES細胞の 研究は必要とされ、人クローン胚の作成・利用が限定付きで認められている。既述のように科 学技術会議生命倫理委員会の議論の段階ではヒトES細胞の研究の蓄積を待って人クローン胚 の研究利用は認められるべきとされていたが、人クローン胚に関して国の方針が変更されたこ とを意味する。この結論に関しては、2004年1月から専門調査会の会長を引き継いだ薬師寺泰 蔵会長から第35回専門調査会(2004年6月23日)で「人クローン胚の作成・利用に関する暫定 的結論の提案」が配布され、突如、多数決方式で決定がなされたために批判が生じた。最終報 告書「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の構成は、第1はじめに、第2ヒト受精胚、第3 人クローン胚等の特定胚、第4制度的枠組み、第5むすびから成り立っているが、動物集合胚を 除く人クローン胚以外の特定胚は十分に検討できなかったため、今後検討すべき課題となって いる。人クローン胚を認める基本的な考え方としては、ヒト受精胚と同様の原則に基づくとさ れており、具体的には人へと成長し得る人の生命の萌芽である胚は人間の尊厳という社会の基 本的価値を維持するために特に尊重しなければならないという原則がそれに該当する。人間の 尊厳を原則としながら、人々の健康と福祉に関する幸福追求という基本的人権に基づく要請に も応える必要があるとされ(6)、人クローン胚の作成・利用が十分な科学的合理性に基づき、か つ社会的に妥当である場合は例外的に認められるとされている。人間の尊厳を守ることを原則、 幸福追求権を例外を認める事由とし、具体的な条件として科学的合理性と社会的妥当性が存在 すれば、人クローン胚研究は認められると判断したことになる。人クローン胚を用いた研究の 科学的合理性に関しては、ヒトES細胞を用いた再生医療が難病治療に有効な手段となる確証 はないが、いくつかの疾患に対して動物モデルでの有効性が示唆されていること、ヒトES細 胞研究の成果を再生医療技術として実現するためには拒絶反応の問題を避けて通れないことか ら、人クローン胚由来のヒトES細胞が必要であり、動物における生物学的知見の検証のため、 臨床応用を含まない難病等の基礎研究に限定して人クローン胚の研究が必要とされている。他 方、社会的妥当性に関しては、パーキンソン病やI型糖尿病等、現在は根治療法が無い様々な 疾患や障害に悩み苦しむ多くの人々への治療法の提供から担保されるとされている。 これに対し、最終報告書に添付されている「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方最終報告 書に対する共同意見書」(石井委員、位田委員、勝木委員、島薗委員、鷲田委員)では異なる 見解が提示されている。ただしこの共同意見書はヒト胚を人の生命の萌芽と捉え、その安易な 取扱いは人間の尊厳と人間の生命に関する基本的価値を損なうと見ている点では最終報告書と 同様である。しかし共同意見書は、まずヒト受精胚の作成につき、「研究目的でのヒト受精胚 の作成については、原則として禁止されるべきである。しかし生殖補助医療の研究にヒト受精 胚を作成し使用することは例外として許される場合がありうる。だが、これらを例外として認 めるには、その実情についての調査がなされておらず、認める条件や根拠についても議論がな されていない」と、研究の現状が把握されていない点を批判している。さらに人クローン胚の 作成につき、「人クローン胚から得られるES細胞が本当にそうした再生医療に利用しうるのか について、科学的根拠も十分に示されていない。さらに、審議の過程でこの点について十分に 理解し納得できるような説明もなされていない。したがって、少なくとも、この問題について の倫理的議論が深まり、また十分な科学的根拠が提示されることにより社会の理解と納得が得
られるようになるまでは、人クローン胚の作成を認めるべきではない」としており、科学的合 理性に関する議論が不足していること、また社会の理解と納得を得る努力を欠いている、すな わち社会的合意の形成プロセスが欠如していることを指摘している。共同意見書の提出者のう ち、勝木委員は生物学が専門であり、科学者の視点から見ても科学的合理性に関する議論が不 足していたという判断が存在したと解釈できる。薬師寺会長の主導により、多数決によって人 クローン胚の作成・利用が決定されたことは、そうした科学的合理性に関する議論が不足して いると捉える委員とそうではない委員との間での健全な科学論争が発生する可能性を断ち切っ てしまうという効果を持った点が問題であったと言うこともできるだろう。 2-3 考察:生殖細胞、胚から作成される幹細胞をめぐる再生医療の生命倫理 以上が、1990年代後半から2000年代前半の日本における生殖細胞、胚に由来する幹細胞をめ ぐる再生医療の生命倫理政策の議論の概略である。まず肯定的に評価すべきは人間の尊厳が倫 理原則として徐々に地位を上昇させていった点である。既述のように1990年代後半の科学技術 会議生命倫理委員会クローン小委員会の段階では、人クローン個体を産生しないかぎり、人間 の尊厳を侵すことはないと考えられていた。そのため、人クローン胚の作成自体は再生医療と いう有用性があり、人間の尊厳に抵触していないと判断されていたと言っても大過ないだろう。 そうした状況の中で、ヒト胚研究小委員会によって、ヒト受精胚に関しては人の生命の萌芽と いう位置づけがなされ、人クローン胚については明確ではないが、同様とされているように推 定できる。その後、総合科学技術会議生命倫理専門調査会の活動期になり、状況が変化してい く。2001年の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」案の諮問に関する答申の中で、ヒ トES細胞の作成・利用に関連して、ヒト受精胚の不適切な取扱いが人間の尊厳を侵害する可 能性があることが指摘されている。人クローン個体を産生しなくとも再生医療研究において人 間の尊厳に反する場合があると見なされたことになる。さらに2004年の総合科学技術会議生命 倫理専門調査会「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」において、ヒト受精胚と人クローン 胚が人の生命の萌芽として同等の地位に明確に位置付けられた。その取扱いの原則として人間 の尊厳が打ち出されている。人間の尊厳を守ることを原則としつつ、人の健康・福祉に関する 幸福追求を例外とし、科学的合理性と社会的妥当性の担保(7)を具体的な条件として、ヒト受 精胚と人クローン胚の作成・利用は認められることとなった。このように人間の尊厳はその対 象を徐々に拡大し、形式としては原則としての地位を獲得することになった。 しかし、問題点も存在する。具体的には「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方最終報告書 に対する共同意見書」の中で指摘されているように、例外を認めるための研究の科学的合理性 に関する検討が十分に審議されていないという点である。総合科学技術会議生命倫理専門調査 会は2004年に「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」を発表するまで、15名の委員(生命科 学者7名、法学者4名、作家1名、ジャーナリスト1名、宗教学者1名、哲学者1名)(8)により、計 38回の審議を行っているが、科学的合理性の担保が十分ではないという見解がある。特に重要 であるのは、既述のように生物学者である勝木委員からもそうした批判が出ていることである だろう。勝木委員は「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」が発表された後に、人クローン 胚の作成について3本の論文(勝木2004a、勝木2004b、勝木2006)を発表している。それらの 中で動物でのクローン個体の誕生に関連し、その成功率の低さから、体細胞核移植卵に何らか の共通の問題があるのではないかという疑念が持たれる上、動物のクローン胚で異常が現れて いる以上、ヒトでは起こらないということを証明しなければならないと主張している。そして
「未知の要素が多い現象についての説明は、研究の当事者を含め周辺分野、また医学や生物学 をよく理解できる専門家に第一次的に任されるべきである」(勝木2006: 48)(9)とし、人クロー ン胚作成と再生医療に関して専門家の説明責任が存在することを述べている。この点はこれま での政策形成過程を踏まえると重要である。既述のように、2000年の「ヒト胚性幹細胞を中心 としたヒト胚研究に関する基本的考え方」の段階では、「現時点では、余剰胚から樹立された ES細胞を利用した研究の実績が蓄積されるのを待って、その医療への応用の可能性について 評価した上で、その是非について再検討がなされるべきであり、人クローン胚からのヒトES 細胞の樹立は行わないものとすべき」とされていた。そのため、余剰胚から樹立されたES細 胞研究での科学的成果の蓄積すなわち科学的合理性の発生を待って人クローン胚の研究を行う べきと判断されていた。これに対し、2004年の「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」では 動物モデルで得た知見の適応検証等のために、臨床応用を含まない、難病等の基礎的な研究に 限定して人クローン胚の研究を実施することは、科学的合理性があるとされている。これらの 政策の経過を踏まえると、2001年に「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」が策定され て以来のヒトES細胞研究で人クローン胚の研究についても科学的合理性が確認されたと専門 調査会は判断していると見なしうる。これに対し、勝木委員は動物のクローン研究の知見から、 人クローン胚研究の科学的合理性に対して疑義を表明していることになる。なお、この点は科 学的合理性のみに関わっているのではない。既述のように研究の科学的合理性の担保は、人間 の尊厳原則の例外が認められるための条件であった。そのため、研究の科学的合理性の有無は 人間の尊厳原則が遵守されているかどうかをも表していることになる。つまり科学的合理性が 存在しているかどうかは倫理が守られているかどうかにつながっている。しかし既述のように、 総合科学技術会議生命倫理調査会では人クローン胚の研究をめぐる科学的合理性に関する論争 は起こらなかった。科学的合理性に関する疑義を含む意見は一種の少数意見として最終報告書 に付記されるにとどまった。生命倫理政策は科学的合理性のある研究を推奨する科学技術政策 の側面があるはずだが、人クローン胚と再生医療研究をめぐる政策では科学的合理性に関する 議論が深まることなく、振興へと梶を切ったことになる。そのため生命倫理政策と呼ぶには倫 理原則の地位が画然としていない状況にあると言ってよいだろう。 3 幹細胞からの生殖細胞、胚の作成をめぐる公的論議 3-1 文部科学省科学技術・学術審議会と総合科学技術(・イノベーション)会議生命倫理専 門調査会における議論 人クローン胚の作成の是非をめぐる議論の後に、再生医療政策と倫理の関係が議論となった のはヒトES細胞、iPS細胞、組織幹細胞を用いた生殖細胞と胚の作成の是非についてである。 これらのうち、ヒトES細胞については、2001年の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」 の中で、ヒトES細胞からの生殖細胞の作成は禁止とされていた。これは人の生命の萌芽であ る胚を破壊して作成されるヒトES細胞からさらに人の生命の萌芽の元となる生殖細胞、人の 生命の萌芽である胚を作成することは倫理的に問題があると判断されたためであろう。幹細胞 からの体細胞の作成と生殖細胞の作成の分離という倫理的枠組みが形成されたことになる。そ の後、2008年3月に文部科学省科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細 胞等研究専門委員会の下にヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会が設置され、ヒ トES細胞等からの生殖細胞の作成の是非が具体的に審議された。その結果、2009年2月、生命
倫理・安全部会により、「ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用について」が発表されて いる。この文書では、ヒトES細胞等から生殖細胞を作成することは、「これまで困難であった 精子や卵子のヒトの体内における成熟・分化機構の検討を可能にするものであり、生殖細胞に 起因すると考えられる不妊症や先天性の疾患・症候群の原因解明や新たな診断・治療方法の確 立につながることが期待される」として、有用性の観点から認可すべきとされている。その上 で作成された生殖細胞からヒト胚を作成することについては、研究目的で人の生命の萌芽を大 量に作成することにもつながるため、その是非については、総合科学技術会議生命倫理専門調 査会の「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」に基づき、慎重な検討が必要としている。さ らに動物実験の状況等から、ヒトES細胞等から作成された生殖細胞からのヒト胚の作成は当 面行わないことが適当であると結論づけている。その結果、2010年に「ヒトES細胞の使用に 関する指針」の改訂により、ヒトES細胞からの生殖細胞の作成が認可され、同年「ヒトiPS細 胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針」が策定されている。 その後、総合科学技術会議生命倫理専門調査会(2014年より総合科学技術・イノベーション 会議生命倫理専門調査会)により審議が行われ、2015年に「ヒトの幹細胞から作成される生殖 細胞を用いるヒト胚の作成について(中間まとめ)」が発表されている。専門調査会の委員は 多分野の委員で構成され(10)、生命科学の専門家4名、法学2名、宗教学1名、哲学1名からヒア リング(11)を行って作成された。この報告では、「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」に基 づいて、ヒトの幹細胞から作成された生殖細胞を用いたヒト胚の作成が認められるかが検討さ れている。まず科学研究の現状が検討され、「現時点で、生殖細胞の作成研究は、ヒト始原生 殖細胞様細胞(hPGCLCs)の作成まで至っているが、生殖細胞(精子・卵子)には至ってい ない状況にある」とし、さらに研究はヒト胚(擬似胚)を作成し、生殖細胞の正常性、安全性 の確認を目的とする基礎的研究(第一段階)と、生殖細胞(精子・卵子)が正常に作成され、 それによるヒト胚の作成・利用による基礎的研究(第二段階)とに段階分けされている。その ような評価の上で、「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の「ヒト受精胚尊重の原則」に 則り、例外が認められる条件、すなわちヒト胚の作成が認められるための科学的合理性と社会 的妥当性を検討している。前者の科学的合理性については、ヒト胚の作成により、作成される 生殖細胞の正常性、安全性の知見が獲得され、ヒトの発生及び分化の解明に資する基礎的研究 に新たな知見を提供することになることや、受精障害の解明や受精後の発生過程に起因する疾 患の解明につながるとして肯定的な評価を下している。他方、社会的妥当性については、作成 される生殖細胞から樹立される胚の研究により、不妊症、受精後の発生過程に原因があると考 えられる疾患の診断及びその疾患の治療に資する知見が得られることが想定されるため、そう した疾患を抱え苦しむ人々に治療法を提供することに期待することには、社会的妥当性が認め られるとしている。ただし、研究目的での胚作成には社会的な懸念が生じる可能性があり、ま ずはヒト胚の作成を性急に行わずに、段階的に基礎的研究が進められることが妥当であるとさ れている。 3-2 考察:幹細胞から作成される生殖細胞、胚をめぐる再生医療の生命倫理 幹細胞を用いた生殖細胞、胚の作成に関する政策についてまず指摘できるのは、政策の連続 性である。幹細胞から生殖細胞を作成し、受精を行えば、ヒト胚が作成できるため、その研究 利用等については「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」を踏まえる必要が出てくる。その ため、胚の作成については文部科学省科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会の「ヒトES
細胞等からの生殖細胞の作成・利用について」では「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」 に基づく慎重な検討を要するとされ、さらなる議論の必要性が喚起された。それを受けて公表 された総合科学技術・イノベーション会議生命倫理専門調査会の「ヒトの幹細胞から作成され る生殖細胞を用いるヒト胚の作成について(中間まとめ)」では「ヒト胚の取扱いに関する基 本的考え方」において求められていたヒト胚の作成に関する科学的合理性と社会的妥当性の担 保について具体的に検討されている。このように「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の 枠組みが維持される形で議論がなされていった点が特徴として挙げられる。 続いて指摘できるのは、科学研究の進展の状況から規制の枠組みを構築している点である。 「ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用について」、「ヒトの幹細胞から作成される生殖細 胞を用いるヒト胚の作成について(中間まとめ)」のどちらの作成過程においても、専門家に 対するヒアリングを行っているが、そうした活動を踏まえた上で、前者、後者ともにヒト胚を 作成する段階にないとしている。不妊症研究等の有用性も認識されていたが、科学研究におけ る知識の蓄積の度合いを踏まえた段階分けと言ってよい。これに対し、社会的妥当性に関する 議論はあまりなされていないとも言える。 さらなる特徴として言えるのが、科学的合理性の具体化である。「ヒトES細胞等からの生殖 細胞の作成・利用について」では生殖細胞の作成の必要性として、ヒトの精子・卵子の成熟・ 分化機構の理解を挙げるにとどまったが、「ヒトの幹細胞から作成される生殖細胞を用いるヒ ト胚の作成について(中間まとめ)」においては、例えば生殖細胞を作り出した上でさらに胚 を作成しなければ得られない科学的知見として、胚盤胞までの発生率・異常の確認、前核形成 の検討、染色体異常数(頻度)、核ヒストン化学修飾の検証、着床前期胚特異的なDNAメチル 化動態の確認が挙げられている。このように科学的に合理性のある具体的な研究領域を指摘し ているのが特徴と言える。 以上の点から次のように言うことができる。「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の作 成段階では、ヒト胚を扱う研究の現状がきちんと把握されないまま、最終報告書がまとめられ たという批判が生じた。しかし幹細胞からの生殖細胞、胚の作成に関する議論では、当該研究 分野の進捗状況を把握した上で、実施してもよい研究とそうではない研究の段階分けを行って いる。さらに人クローン胚の作成をめぐっては科学的合理性が存在するか否かも論議を呼んで いたが、幹細胞からの生殖細胞、胚の作成に関する議論の場面では、科学的合理性を持つ研究 の具体例が挙げられるようになった。このように「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の 枠組みを維持しながらも、幹細胞からの生殖細胞、胚の作成を議論する場面では政策と科学の 関係は一定程度改善していると評価できるだろう。 ただし「ヒトの幹細胞から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成について(中間まとめ)」 の作成過程を踏まえると必ずしもそうとは言い切れない面が出てくる。この中間まとめに関す る議論は具体的には第75回総合科学技術会議生命倫理専門調査会(2013年9月20日)から第91 回総合科学技術・イノベーション会議生命倫理専門調査会(2015年9月9日)にかけて行われた。 この17回の会議で議論を実質主導したのは事務局である。会議の議事録にあたる議事概要(案) には「ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚作成の検討に係る議論の進め方に ついて」が議題として書かれていても議論が積極的に行われていない回が多く、第87回の会議 (2015年2月24日)にて、資料「ヒトES細胞等から作成される生殖細胞によるヒト胚の作成・ 利用研究について(検討用)」を事務局が配布し、それまでの会議での議論・ヒアリングの結 果をまとめた上で、議論の方向性を提示したことが実際の審議を開始させたと言ってよいから
である。さらに、第90回の会議(2015年7月31日)から「ヒトの幹細胞から作成される生殖細 胞を用いるヒト胚の作成について(中間まとめ案)」を事務局が配布し、2回の議論を経て、「ヒ トの幹細胞から作成される生殖細胞を用いるヒト胚の作成について(中間まとめ)」ができて いる。第90回の中間まとめ案の段階から最終的な中間まとめになるまでの過程における大きな 変更は、案の段階では「5. 生命倫理上の論点の整理について」(中間まとめ案: 11頁)とされて いた箇所が「5. ヒト胚(擬似胚)作成に関する考え方」(中間まとめ: 12頁)というタイトルに 変わったことと、「整理B」(中間まとめ案: 17-18頁)としてヒト胚研究の負の側面がまとめら れていた箇所が削除された点(12)にほぼ尽きている。そのため「ヒト胚の取扱いに関する基本 的考え方」の枠組みに従い、科学的合理性と社会的妥当性の観点から中間まとめを実質構築し たのは事務局であり、科学的合理性のある研究についてももちろん委員の発言やヒアリング等 によって専門家の意見を踏まえてはいるがまとめたのは科学者ではなく事務局であった。つま り専門家である科学者が責任を持って科学的合理性のある研究を提示するという科学的助言が 十分に行われたとは必ずしも言えないのである。専門家の説明責任が果たされたとは言い切れ ない面がある。 4 おわりに 以上を踏まえ、まとめれば次のようになる。まず日本の再生医療をめぐる生命倫理政策にお いては、(1)審議会が多くの生命科学系委員で構成され、専門家のヒアリングも行われたこと、 (2)法律や行政ガイドラインが策定されたこと、(3)複数の審議会が独自に審議を行ったこ と、(4)生殖クローニングと治療目的クローニング、幹細胞からの体細胞の作成と生殖細胞 の作成の区別といった形で倫理的な枠組みを構築したこと、というように規制科学の四要件が 当てはまることが確認できる。 その上で、日本の再生医療をめぐる生命倫理政策における規制科学の特徴を述べれば、まず クローン政策に見られたように、科学的合理性の担保が不十分な場合があるということである。 生命科学系の委員が多く参加し、専門家のヒアリングが行われても、研究の推進に科学的な観 点から疑義を示した委員の見解が審議に影響を与えることがなく、健全な意味での科学論争が 起こらないままになってしまう。そのため、第一節で述べたように規制科学は意思決定におい て信頼できる知識を生み出す活動であり、科学的合理性と社会的合理性の双方が担保される必 要があるが、難病の治療に役立つ社会的妥当性という形での社会的合理性に基づいて一方的に 結論が出されてしまうことがあると言える。またそこでの社会的合理性は市民の理解と合意と いう観点を欠いた社会的合理性である点も問題である。 続いて幹細胞からの生殖細胞・ヒト胚の作成に関する政策におけるように、現在の研究の実 状を踏まえ、科学研究としてどこまでは許されるのかといった議論はなされるが、科学者がそ れをまとめることなく、さらにそうした研究が進展した場合の社会的な影響に関する議論があ まり行われないまま、結論が出される場合もある。つまり科学的合理性を一定程度担保するの みで、社会的合理性の担保が実質的に行われない場合があるのである。このように科学的な必 要性のみで決定されてしまうことはやはり意思決定において信頼できる知識の生産の観点から 見て問題であり、上流工程(研究開発の早い段階)からの市民参加等を重視する科学技術ガバ ナンスの観点(藤垣2018: 57)から言っても肯定的には評価できない。 以上を踏まえ、日本の生命倫理政策に関する今後の提言としては次のような仕組みが指摘で
きる。第一に研究の科学的合理性に関する審議を専門とする小委員会の設置の必要性である。 最先端の科学は作動中の科学であり、専門家の間でも意見が分かれていることが少なくない。 そうした中で、現在の科学研究の状況を専門家がどのように捉えているかを独自の組織で議論 し、意見対立も含めて示すことが系統的な(organized)知識(同上: 47-48)を提示することに つながり、信頼できる知識生産につながるものと考えられる。続いて指摘できるのは、市民代 表の委員を積極的に登用することである。これまでの再生医療の生命倫理政策に関する委員会 は生命科学系の委員が多数を占めていた。しかし研究の社会的合理性を担保するためには、難 病研究等に役立つという社会的妥当性の枠組みばかりではなく、より広範な社会的影響を被る 市民の知見を欠かすことはできない。科学的な必要性のみならず、社会的合理性の観点からも 上流工程で多様なステークホルダーにより議論していく必要があると考えられるのである。 (人文社会科学分野 非常勤講師) 註 (1)委員は岡田善雄(千里ライフサイエンス振興財団理事長)、青木清(上智大学生命科学研究所所長)、 位田隆一(京都大学大学院法学研究科教授)、勝木元也(東京大学医科学研究所教授)、加藤尚武(京 都大学文学部教授)、菅野覚明(東京大学文学部教授)、菅野晴夫(癌研究会名誉教授)、高久史麿 (自治医科大学学長)、武田佳彦(東京女子医科大学名誉教授)、豊島久真男(住友病院院長)、永 井克孝(三菱化学生命科学研究所所長)、橳島次郎(三菱化学生命科学研究所主任研究員)、町野 朔(上智大学法学部教授)、横内圀生(農林水産省畜産試験場長)、村上陽一郎(国際基督教大学 教授)、森島昭夫(上智大学法学部教授)である(島薗2006: 185-186)。 (2)委員は岡田善雄(千里ライフサイエンス振興財団理事長)、相澤慎一(熊本大学医学部附属遺伝発 生医学研究施設教授)、位田隆一(京都大学大学院法学研究科教授)、勝木元也(東京大学医科学 研究所教授)、迫田朋子(NHK解説委員)、高久史麿(自治医科大学学長)、武田佳彦(東京女子 医科大学名誉教授)、豊島久真男(住友病院院長)、西川伸一(京都大学医学部教授)、橳島次郎(三 菱化学生命科学研究所主任研究員)、町野朔(上智大学法学部教授)、村上陽一郎(国際基督教大 学教授)(同上: 189-190)である。 (3)議事録に基づくと、クローン小委員会では第10回(1999年6月16日)の審議の際にヒトクローン個 体の産生に関しては法律で禁止する旨の一応の合意ができている。ES細胞の規制に関しては、第 4回ヒト胚研究小委員会(1999年6月11日)の際に事務局側からガイドライン規制が提案された。 橳島委員や村上委員からヒト胚研究全体に関する考察が必要だという発言があったが、後の回で もES細胞に規制対象を限る枠組みは維持された。 (4)特定胚は次のようなものを指す(森2005: 104)。人クローン胚(すでに存在している人の体細胞か らの核移植によって作られる胚)、ヒト動物交雑胚(ヒトの生殖細胞と動物の生殖細胞の間の受精 によって作成される胚)、ヒト性集合胚(ヒトの胚と動物の胚・細胞が一体となった胚)、ヒト性 融合胚(動物の未受精卵にヒトの体細胞核を移植して作成される胚)、ヒト胚分割胚(ヒトの初期 の胚を分割した胚)、ヒト胚核移植胚(ヒトの初期胚からの核移植によって作られる胚)、ヒト集 合胚(ヒトの細胞とヒトの胚を融合させて一体とした胚)、動物性集合胚(ヒトの細胞が動物の胚 と集合して一体となった胚)、動物性融合胚(ヒトの未受精卵に動物の体細胞核を移植して作成さ れる胚)である。
(5)第23回議事概要(案)によれば、位田委員を座長として活動し、さらに位田委員の発言によれば、 井村会長、勝木委員、高久委員、町野委員が参加していた。 (6)中間報告書の段階では、幸福追求ではなく有用性が挙げられていたという(島薗2006: 165)。 (7)ヒト受精胚に関しては、人への安全性が十分に配慮されることも条件とされている。 (8)委員は相澤慎一(理化学研究所発生再生科学総合研究センターグループディレクター)、石井美智 子(明治大学法学部教授)、位田隆一(京都大学大学院法学研究科教授)、香川芳子(女子栄養大 学学長)、垣添忠生(国立がんセンター総長)、勝木元也(大学共同利用機関法人自然科学研究機 構理事・基礎生物学研究所所長)、島薗進(東京大学大学院人文社会系研究科教授)、曾野綾子(作 家)、高久史麿(自治医科大学学長)、田中成明(京都大学理事・副学長・大学院法学研究科教授)、 西川伸一(理化学研究所発生再生科学総合研究センターグループディレクター)、藤本征一郎(医 療法人社団カレスアライアンス天使病院院長)、町野朔(上智大学法学部教授)、南砂(読売新聞 社編集局解説部次長)、鷲田清一(大阪大学理事・副学長)である(同上: 202-203)。委員の他に 総合科学技術会議の議員が参加しているが、石井紫郎議員の他は発言量も少なく議論に大きな影 響を与えていない。 (9)ただし非専門家が全く説明できないわけではなく、「説明が客観性にもとづいているか否かの判断 は、専門家でなくとも可能であり、そのことから専門家の説明は丁寧なものでなくてはならない」 (勝木2006: 48)としている。 (10)名簿から明らかな第81回から第91回までの委員は次の通りである。青野由利(毎日新聞社論説室 専門編集委員)、阿久津英憲(国立成育医療研究センター研究所幹細胞・生殖学研究室長)、位田 隆一(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科特別客員教授)、加藤和人(大阪大学大 学院医学系研究科教授)、高木美也子(日本大学総合科学研究所教授)、辰井聡子(立教大学大学 院法学研究科教授)、田辺功(株式会社ココノッツ取締役特別顧問)、玉井眞理子(信州大学医学 部保健学科准教授)、田村京子(帝京平成大学薬学部教授)、樋口範雄(東京大学大学院法学政治 学研究科教授)町野朔(上智大学名誉教授)、水野紀子(東北大学法学部教授)、武藤香織(東京 大学医科学研究所教授)、森崎隆幸(国立循環器病研究センター研究所分子生物学部長)、吉村泰 典(吉村やすのり生命いのちの環境研究所代表理事)。第87回から、位田委員、田辺委員、町野委 員に代わり、小幡純子(上智大学大学院法学研究科教授)、甲斐克則(早稲田大学大学院法務研究 科研究科長)、滝田恭子(読売新聞東京本社論説委員・編集委員)が委員となっている。なお括弧 内の所属・職位は当時のものである。 (11)ヒアリングの対象者は、第75回:野瀬俊明(慶應義塾大学先導研究センター教授)、第76回:小川 毅彦(横浜市立大学医学科分子生命医科学系列教授)、第77回:小倉淳郎(理化学研究所バイオリ ソースセンター室長)、斎藤通紀(京都大学大学院医学研究科教授)、第82回:盛永審一郎(福井 大学客員教授)、島薗進(上智大学特任教授)、第83回:秋葉悦子(富山大学経済学部教授)、第84 回:奥田純一郎(上智大学法学部教授)である。なお括弧内の所属・職位が当時のものである。 (12)この変更に関しては直接の変更の要因と言える箇所とは言えないが、第90回の議事概要(案)の 17頁に原山優子会長の次のような発言がある。 さっき辰井さんがおっしゃったように、全体を通して読むと、ネガティブな要素がかなり 強く出ていてしまって、可能性について、方向性について、どっちかというと前向きなとこ ろが弱くなっているというところが、ある種のバランス感覚が少し悪いというご指摘があり ました。それに関して、事務局としてもう一回精査することも可能ですし、そういう意味で「負
の側面」と書いたところもありますし、現時点で、この辺は危惧する点というのも幾つか書 きながらなんですが、もう一回バランスを見直した上でもって、再度皆様のほうにご提示す るという形でいかがでしょうか。 つまり事務局の方では研究のリスク、負の側面を「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」の枠 組みも踏まえて強調する方向性があったが、委員の間でのバランスが悪いという解釈により、負 の側面という箇所がまとめから削除されることにつながったものと推測される。 文献 藤垣裕子『専門知と公共性:科学技術社会論の構築へ向けて』東京大学出版会, 2003. ────『科学者の社会的責任』岩波書店, 2018.
Jasanoff, S. The Fifth Branch Science: Advisers as Policymakers. Cambridge, London: Harvard University Press, 1990. 勝木元也「ヒトクローン胚作成の是非」『科学』74(9), 1035-1037, 2004a. ────「ヒトクローン胚作成に根拠はあるか」『総研大ジャーナル』(6), 42-43, 2004b. ────「ヒトクローン胚作製と再生医療をめぐる説明責任:真に説明されるべきことは何か」『科学』 76(1), 48-51, 2006. 町野朔「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律:日本初の生命倫理法」『月刊法学教室』 (247), 86-92, 2001. 森崇英『生殖の生命倫理学:科学と倫理の止揚を求めて』永井書店, 2005. 額賀淑郎『生命倫理委員会の合意形成:日米比較研究』勁草書房, 2009. 島薗進『いのちの始まりの生命倫理:受精卵・クローン胚の作成・利用は認められるか』春秋社, 2006.