Title
教職を目指す学生とともに創る特別活動の授業実践−学
び合い、高め合う学級集団づくりの一提案
Author(s)
上地, 幸市
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(16): 71-77
Issue Date
2014-03-05
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/11905
<実践報告>
教職を目指す学生とともに創る特別活動の授業実践
-学び合い、高め合う学級集団づくりの一提案
上地 幸市
要 約 本稿は,生徒指導の 3 機能を生かした特別活動の授業における「学び合い,高め合 う学級集団づくり」を目指した授業実践の過程をまとめたものである.その主な結果 は以下の 3 点であった. 1)学級目標を自分たちで決めて実行することにより,学びの主体者としての講義への 参加態度や意欲の向上につながり,自己有能感を育み、学び合い,高め合う学級集 団づくりに生かせることを学んだ. 2)折り句による自己紹介法 ( アクロスティック自己紹介法 ) など,仲間意識を高める アイスブレイクを実践することにより,共感的な人間関係を育成することの大切さ を理解し,学び合い,高め合う学級集団づくりに生かせることを学んだ. 3)学級生活のルールや学習のルールを自分たちで決めて実行することにより,学び 合い,高め合う学級づくりにとってルールを守ることが重要であることを理解し, 自己決定する力や仲閒に対するリスペクトの心,自己をコントロールする意識が高 まってきた キーワード:生徒指導の 3 機能,学級目標,学級生活のルール,学習のルール,アクロスティッ ク自己紹介法 1. 実践の背景と目的 各教科や特別活動等の授業や学級経営及び学校行事等,すべての教育活動において生徒指導 の三機能である「自己存在感を育む」「共感的な人間関係を育成する」「自己決定の場を与える」 (坂本,2003)を生かした実践が求められている.そこで,本実践は,これら 3 つの機能を生 かした授業の具現を図り,学び合い,高め合う学級集団づくりのあり方を学ばせることを目的 とした.具体的には,講義の第 1 回目と第 2 回目の授業において,授業の在り方についての演 習を通して学生が学習したこと,演習の中で学生が設定した目標やルールについて学生の自己 評価に着目した. 2. 実践のねらいと学生たちの到達目標 本実践では,3 つの機能を生かした授業のねらいを以下の 4 点とした. ①学びの主体者である学生自らが,個としての講義への参加から,「学びの共同体」としての 講義への参加意識を高めるためには,科目としての集団目標を定め,実行することが大切であ ることを理解させる(学級目標づくり).沖縄大学人文学部紀要 第 16 号 2014 ②学び合い,高め合う学級集団づくりはよりよい人間関係づくりが基本であることを,仲間 意識を高めるアイスブレイクの実践を通して理解させる(共感的な人間関係の育成). ③生徒一人一人にとって居場所のある学級とは,個性を認め合い,学級生活のルールを守り, 共同し合うことが大切であることを理解させる(自己存在感の育成). ④自らの課題解決に向けて,自ら判断し,決定する場がある学級とは,自分たちで決めた学 習のルールを守り,学び合う集団づくりが大切であることを理解させる(自己決定の場). また本実践は,教職を目指す学生に授業への参加意欲や態度形成,そして,学び合いや高め 合う集団づくりが重要であることを体験的に学ばせることで,学生たちが授業に対して自己目 的的に取り組めるようになることも目指した.そこで,次の 4 点を到達目標とした. ①学級目標を自分たちで決めて,実行することの大切さを理解している. ②共感的な人間関係を育成することの大切さを理解している. ③自分たちで決めた学級生活のルールを守り共同し合うことの大切さを理解している. ④自分たちで決めた学習のルールを守り,学び合い,高め合う学級集団を目指すことの大切 さを理解している. 3. 実践の概要 実践 1:「仲間意識を高めるためのアイスブレイク ・ 折り句自己紹介(向山・田上,2003)」 ねらい:①印象に残る自己紹介で共感関係をつくる. ②話し方や声の大きさなど,自分を印象づけるための自己紹介の仕方を習得する. 方 法:①折り句 ( アクロスティック ) による自己紹介文を作り交流する. ②「決められた時間内に何名と自己紹介できるか」を競うビンゴゲームを取り入れる. 実践 2 :「腹式呼吸法で集中力アップ昨戦」(「立腰」の名称で実施) ねらい:①学習時間の静(聞く)と動(話す)の切りかえと集中力や学習に向かう姿勢,意欲 を高める. 方 法:①授業の始めに毎時間 2 分間「黙想-腰骨を立てる-腹式呼吸」を実施する. ②集中力が欠けている時は,授業の途中でも行うことを確認する. 進め方:「立腰教育」の提唱者である教育学者森信三氏による「立腰の功徳 10 カ条」や実施方法, 留意点等を説明し実施する. 実践 3 :講話「こんな学級集団にしたい」 講話のポイント ①学びの主体者である学生が,自ら考え,判断し,表現できる学生として学び続け, 共同で授業づくりに取り組むことができるよう支援する. ②目指す学級集団の姿を互いに学び合い高め合う学級,互いを認め合い注意し合う学 級とし,そのために,学生自身で学級集団目標や学級生活のルール,学習のルールを 作成できるよう支援する. ③教職を目指す学生として,自分の目指す教師の姿や望ましい学級について具体的な 姿がイメージできるよう支援する.
実践 4:「学級目標,学級生活のルール,学習のルールをつくろう」 ねらい:①自分の考え,意見をもち,まとめ表現する力や協同で考えをまとめる力を身につけ 互いに学び合い,高め合うことの大切さを理解させる.②学び合い,高め合う学級集 団をつくるためには,学級目標や学級生活のルール,学習のルールを自分たちで決め て実行することが大切であることを理解させる. 方 法:①各自で学級目標や学級生活のルール,学習のルールをワークシートに記入する. ②学生全員の意見を共通項で整理し数点の中から投票により決定する. ③決定した学級目標と学級生活のルール,学習のルールを教室の前面に張り出し意識 化 ・ 行動化を図る. ④学級目標や学級生活のルール,学習のルールが達成できたか等,形成的評価と総括 的評価を行うことを事前に知らせる. 4. 実践における学生の学びの内容 4.1. 実践 1 における学生の学び ・折り句の自己紹介で自分のことを考えるのは少し難しかったけど,他の人の自己紹介を聞い て,当てはまっていれば自由に書いて良いことが分かるとすごく考えやすかった.普通に自 己紹介をするよりも印象深く残るので,自己紹介のアイスブレイクとしては,もってこいだ と思った. ・昔,私は人見知りで自己紹介が大嫌いでした.あの時の自分にこの折り句自己紹介法を誰かが 教えてくれていたらもう少し早く人見知りが克服できたかもしれない.将来,英語の先生に なったらこの方法を使いたい.もちろん,自己紹介は英語でね. ・折り句を使った自己紹介法と誕生日計算法等アイスブレイクの方法を翌日,(ボランティア実 践で)完全な不登校ではなく,学校には来るけれど学級に入れない3人の児童たちを見る機 会があり,早速使わせてもらいました.子どもたち(4年)とおかげさまですぐに打ちとけ ることができ,下校後まで実際に寺子屋みたいですが,ちゃんと教科の勉強をすることがで きました.ただアイスブレイクができただけでなく,彼らの学ぶこと→クリエイティブな活 動の楽しさを感じてもらえ,さらに学ぶことに前向きになってもらえたのが自分のことのよ うに嬉しかった. 4.2. 実践 2 における学生の学び ・私は授業中や普段の生活から姿勢が悪いと自分で自覚しているので,この機会に立腰をして直 していきたいと思う. ・姿勢が悪いなあと思った時やウトウトした時に行うとかなり目が覚めました. ・立腰(功徳 10 カ条)について,まさか(成果がある)?と思っていたが,やってみたら授業 に集中することができました.今では眠くなったり集中力が途切れたりした時に欠かさず取 り入れています. 4.3. 実践 3 における学生の学び ・学級づくりをテーマに活動内容などを決めることになった.どのような学級をつくっていくの
沖縄大学人文学部紀要 第 16 号 2014 かを決めることが難しく,頑張ろうと思った.模擬授業までできるように頑張りたい. ・楽しむ時間とふざける時間といった基本的な聞く時,話す時等メリハリの付け方,けじめの大 切さを心がけ,絶えず,「自分だったらこのときどうするか? / 自分がこの立場ならどう感じ るのか?」等の考え方を体験させ,人としての思いやりをもつよう自分自身 ( 担任 ) も常に実 践し,その姿を見せることも大切だと思う. ・私自身,「 学ぶ 」 ということが大好きで,どんなに長い期間をかけても何かを 「 理解 = 学ぶ 」 こ とはとても楽しくステキなのだと常々思っています.その体験を一度でも獲得した子どもた ちは自ら知的好奇心を持ち,どんどん学習していくのも見てきました.そのきっかけを提供 できる“教師”はとても凄い責任があると共に夢もあると考えます.しかし,私は人見知り が子どもの頃から強くて,集団行動がとても苦手なので,毎回かなり振り絞って教室に入り ます.この特別活動の講義で,私と同じような恐怖心を持つ生徒さんたちが少しでも「学ぶ」 ということに楽しく集中できる環境づくりの方法や心構え等をたくさん学びたいです. 4.4. 実践 4 における学生の学び 本実践では,学生たちに本授業のクラスを一つの学級として捉え,学級目標と学級生活のルー ル,学習ルールを考えさせた.その結果は以下の通りである. ・学級目標 ①ともに考え,みんなで成長する学級 ②あらゆる出会い,経験を活かして己を高める学級 ・学級生活のルール ①グループ発表の時は仲閒に迷惑をかけないよう絶対に休まない ②寝ている人がいたら,起こしてあげる ③10分以上の遅刻をしない ④室内では帽子を取り,飲食はしない ・学習のルール ①自分の考えや意見を大切にすると共に互いの意見を尊重し合う ②話す,聞く,書く,考えるなど,時間・行動のメリハリをつける ③失敗を怖がらない,「一緒に頑張ろう」と声かけをする ④恥を捨て,積極的に発言する このような学習活動を通した学生たちの学びの内容は以下の通りである. ・ 自分が学級をつくる際には,「学級生活のルール」や「学級目標」を学級のみんなで考えてい きたい.それは,「自分たちでルールをつくり守る」ということや「自分たちでつくった目標 をどうすれば到達できるのか」を考える機会を与えることにつながると思う. ・ 学級目標に,個人だけではなく,皆で頑張っていこうという意志が見られるものが多く,な んかとても心強く感じました.一人で頑張らないといけない場面もありますが,色々な人の 意見もたくさん聞ける環境にあるので,良いとこをたくさん吸収して,みんなに負けないよ うに自分も成長していきたいです. ・皆から出された 「 学習のルール 」 と「生活のルール」は,学級づくりを意識したものばかりで, すごく良いなぁと思いました.次回,どのような学習目標ができるか楽しみです.
5. 本実践における学生の自己評価 ここでは,上記の演習を通して学生たちが設定した学級目標や学級生活のルール,学習のルー ルの達成状況について検討する.達成状況については,「学級集団目標」に関する質問(2 項目), 「学級生活のルール」に関する質問(7 項目),「学習のルール」に関する質問(6 項目)について, 15 コマの中間と終了後に学生の自己評価として実施した.なお,回答は「5:非常にそう思う, 4:そう思う,3:どちらともいえない,2:あまり思わない,1:全くそうは思わない」の 5 件 法とした. 表 1 は,「学級集団目標」についての自己評価の結果を示したものである.表 1 によると,「学 級目標」についての学生による自己評価の中間と終了後の結果を比較すると,「非常にそう思う (そう思うを含む)」の数値が 11 ポイント以上高くなっている. 特に「どちらともいえない」が終了後は,10 ポイント強減少していることから,学び合い, 高めあう学級集団を目指し,学びの主体者として講義に臨んでいることがわかる. 表 2 は,「学級生活のルール」についての自己評価の結果を示したものである.表 2 によると, 質問項目①③⑤⑦の項目では,中間・終了後とも 70%以上の数値を示しており,ルールの定着 率が良好であるといえる.授業では,グループによる探究学習を取り入れたため,「発表の時は 仲閒に迷惑をかけないよう休まない」が終了後の評価が 80.6%,「発表者の話をしっかり聞く」 が同じく終了後に 96.8%と高くなっており,ルールを意識した行動がとれるようになったと考 えられる. しかし,「②寝ている人がいたら起こしてあげる」が中間評価も低く,終了後はさらに低くなっ ていることから,他者とのよりよい人間関係づくりや共同による学びの質を高めるという意識 の低さが課題といえよう.また,「⑥仲閒だけで座らない」が中間・終了後とも 50 余%となっ ていることから,より多くの人と交流し,学び合うことの大切さを理解させる必要がある.さ
沖縄大学人文学部紀要 第 16 号 2014 らに,「④授業中,携帯をいじらない」が中間・終了後とも 60%前後,「⑦ 10 分以上遅刻しない」 は,中間・終了後で 70%程度と,あまり変化が見られないことから,学習に取り組む意欲や態度, 集中力を持続させるための指導が必要となってくる. 表 3 は,「学習のルール」についての自己評価の結果を示したものである.表 3 によると, 質問項目①②⑥の項目は,中間・終了後とも 70%以上の数値を示しており,自己存在感や共感 的な人間関係が育ちつつあるといえる.また,「④恥を捨て積極的に発言する」が,終了後には 22 ポイント高くなっていることから,自己決定の力も高まってきたと考えられる. しかし,「③失敗を怖がらない,『一緒に頑張ろう』と声かけをする」と「⑤お互いの情報をシェ アし合う」の数値が 60%強となっていることから,共同で課題解決に向かう学びの質の高まり と共同学習の経験の拡充を図るための指導が必要となってくる. 6. 本実践の成果と課題 本実践では,1 限目の授業後の感想に,「自分を知ってもらうために色々考えて折り句を作り, 発表をした.したことのない人ともコミュニケーションをとることができたし,相手の性格な どを知ることができて楽しかった」という感想があり,「折り句自己紹介法」によるアイスブレ イクは仲間意識を高めることにつながった.また,「学級生活のルール」の質問項目①の数値が, 終了後で 80.6%,質問項目⑤は,96.8%と高くなっており,学級目標を意識した授業への参加 や発表者へのリスペクトの心が高まってきた.さらに「学習のルール」の質問項目①から⑥では, 「非常にそう思う(そう思う)を含む」の平均値が終了後で 80.0%となっていたことから,「学 習のルール」の定着率は高く,自己存在感や共感関係の構築,自己決定の力を育むことができ たと考える. 一方,課題として以下の 2 点が挙げられる.一つ目は,「学級生活のルール」の質問項目①か ら⑦において,「非常にそう思う(そう思う)を含む」の平均値が終了後で 67.8%となっており, 中間評価より終了後の評価が低くなっていた.そのため,学級生活のルールを自分たちで創り 守ることは,学習の質の高まりに影響するということを理解させるための指導の工夫が必要で ある.二つ目は,アクションリサーチ等,共同で課題解決に取り組み学びの質を高めたり,ディ ベート等のアクティブラーニングにより,思考力,判断力、表現力を育む指導の工夫が必要で ある.
<引用参考文献>
坂本昇一(2003)生徒指導を支える人間観と目標,そして機能 生徒指導と同行して-日本生 徒指導の体系化を目指す-.月間生徒指導学事出版 8 月号
向山洋一・田上善浩(2003)中学の学級経営 ~ 黄金のスタートを切る 3 日間のネタ 110~