エアロゾルシンポジウム
「難治性鼻副鼻腔炎に対する局所療法」
司会の言葉
大木 幹文1,田中 康広2 1北里大学メディカルセンター 耳鼻咽喉科 2獨協医科大学埼玉医療センター 耳鼻咽喉科 副鼻腔炎においては好酸球性副鼻腔炎など,外科的治療を施行しても術後再発の可能性を秘めてい ます。このような症例には全身ステロイド薬あるいは最近では生物学的製剤も使用されるようになっ てきました。一方で日常診療における局所管理から再発の防止をはかりまたバイオフィルムによる感 染の防御が求められます。そこで,今回,第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会総会・学術 講演会会長の小林一女昭和大学教授のご厚意と当学会エアロゾル研究推進部会の推薦によりまして, 感染症・エアロゾルの観点から好酸球性副鼻腔炎に限らない難治性副鼻腔炎に対する局所アプローチ の有益性についてのシンポジウムを企画させて頂きました。内容といたしましては,平野康次郎先生 (昭和大学)に鼻噴霧用ステロイドなどによる処置,術中局所投与,術後管理などについて基本をま とめて頂きます。実地医家からの立場から森繁人先生(もり耳鼻咽喉科アレルギー科クリニック)に 日常外来における難治性副鼻腔炎の治療管理,ネブライザー療法や局所処置などの工夫についてお話 頂きます。さらに,通常のネブライザー機器よりも鼻副鼻腔周辺に薬液をより効果的に沈着させるた めに開発された加圧振動型のネブライザー機器の有用性について,兵行義先生(川崎医科大学)に解 説して頂きます。最後に,one way one disease の観点から副鼻腔炎に対する吸入ステロイドの経鼻呼 出療法の最近の知見について,小林良樹先生(関西医科大学呼吸器内科)より紹介頂きます。新進気 鋭の各先生方のお話を伺うことで,難治性の鼻副鼻腔炎の治療に明るい未来が築かれますよう祈念し ております。第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用
©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology
1. 難治性副鼻腔炎の局所療法 ―術中の工夫と術後処置について―
平野 康次郎 昭和大学医学部 耳鼻咽喉科学講座 近年,好酸球性副鼻腔炎に代表される難治性副鼻腔炎が増加している。このような副鼻腔炎は手術 を行っても再発するリスクがあり,ステロイドの内服を避けられない症例や症状をコントロールでき ない症例がある。本年,難治性副鼻腔炎に対して生物学的製剤の適応が広がった。難治性副鼻腔炎患 者にとって福音となりうる製剤であるが,高額の医療費などの問題もある。免疫アレルギー疾患にお いては phenotype,endotype に応じた治療選択,つまり Precision Medicine(層別化医療)が求められ ている。難治性副鼻腔炎においても,生物学的製剤のような systemic な治療が必要な phenotype の患 者もいれば,local な局所療法により治療可能な phenotype の患者もいる。本シンポジウムでは難治性 副鼻腔炎における局所療法の有用性について討論する。 局所療法はネブライザー療法,局所処置, 鼻洗浄,ステロイド点鼻,吸入ステロイドの経鼻呼出療法などがある。私は主に手術に関連した局所 療法について述べさせていただく。手術の際は徹底的な単洞化が必要なことは言うまでもないが,中 鼻道や嗅裂を開大するための工夫が報告されている。また,術後には内服薬に加え鼻洗浄やステロイ ド点鼻薬を使用されていることが多いと思われるが,それでもポリープが再発する症例や中鼻道が閉 塞する症例があり,その際に有用と考えられる局所療法について報告する。 難治性副鼻腔炎におい ても局所療法で治療可能な患者(phenotype)が存在する。局所療法による病勢のコントロールは鼻 科学分野においては特に重要であり,局所療法を行えることが耳鼻咽喉科の強みであるとも言えるで あろう。難治性副鼻腔炎に対する局所療法に関して最新の知見などを報告する。 第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用2. 難治性鼻副鼻腔炎に対する局所療法の意義―実地医家からの提言
森 繁人 もり耳鼻咽喉科アレルギー科クリニック 副鼻腔炎の『難治性』については明確な定義はないが,臨床像と経過を考慮したとき,1)好酸球 性副鼻腔炎や原発性繊毛機能不全症候群(PCD)のように,あらゆる治療手段をもってしてもコント ロールに難渋するもの,以外に 2)侵襲的手段でなければ根治が期待できないもの(古典的慢性副鼻 腔炎),3)侵襲的治療の適応外であるが,長期の通院加療を余儀なくされるもの(幼小児慢性鼻副鼻 腔炎や好酸球性副鼻腔炎の基準を満たさないアレルギー性鼻炎合併副鼻腔炎)などがあげられる。 「副鼻腔炎診療の手引き」では約 3 か月のマクロライド少量療法を含めた保存的治療で奏効しない 場合は手術の適応とされている。しかし生命予後にほぼ影響しない本疾患にあって,手術は希望せず, 治癒でなくとも「維持と悪化防止」を希望する患者が実は少なくないことは,「開業医」の立場になっ てしばしば実感するところである。 1)のうち好酸球性副鼻腔炎ではステロイド全身投与が著効するが,投与量や期間に関するコンセン サスは得られていない。投与を最小限にして良好な状態を維持するために,処置を含む鼻局所療法の 意義は大きい。また PCD 類似例や 2)の群では,マクロライドにまさる薬物療法が存在しない現状で は,鼻局所療法を合わせた根気よい保存的治療による「維持と悪化防止」は治療の選択肢の一つとさ れるべきであろう。また耳鼻咽喉科診療所の主な患者層である 3)の群に対して,VAS を用いた局所 療法の短期的改善度の検討を行い,その有用性について考察したい。 今般の SARS-CoV2 禍における局所処置回避の中で,従前からの耳鼻咽喉科診療スタイルの是非が 問われようともしている。将来にわたり耳鼻咽喉科医が耳鼻咽喉科医であるために,日常臨床の多く を占める鼻局所療法の重要性を本発表を通じて提言したい。 第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology
3. 新規加圧補助デバイスを有するネブライザー局所療法の検討
兵 行義1,2,高野 頌3 1川崎医科大学 耳鼻咽喉科 2医療法人社団 兵耳鼻咽喉科医院 3同志社大学 バイオマイクロフルイディクサイエンス研究センター 鼻副鼻腔炎の治療法のひとつとして,噴霧した薬剤粒子を鼻副鼻腔局所に送達するネブライザー療 法は日常診療で頻用されている。しかし,単にネブライザー機器による噴霧薬剤粒子送達の従来法で は,十分ではなく,創意工夫がなされている。その一つに,何らかの圧力変動を付加して有用性を高 める必要があり,付加圧力として,1)間欠的な大きな圧力,2)小さく頻回する圧力振動,3)直接 的な陰陽圧などの手法が報告されている。手法 2)については,低周波正弦波による加圧振動型のネ ブライザー機器が既に市販されている。 これらの圧力変動付加の手法でも,十分な機能性が発揮できるとはいえず,さらに有効な薬剤送達 法が求められている。そこで,本研究では,吸気と同期して矩形波圧力振動を付加する新機能をもち, 既存のネブライザー機器に付属する新規加圧補助デバイス(やまぐち次世代産業育成・チャレンジ アップ補助金事業:株式会社アノード,第一医科株式会社,加圧振動付加装置:特開 2020-39523)を 試作した。新規加圧補助デバイスの特長は,1)吸気と同期して特定の矩形波圧力振動の付加により 上・中鼻道を介して副鼻腔への薬剤局所投与,2)従来のネブライザー機器に付属できる軽量・簡易 な補助デバイスである。ヒト鋳型鼻副鼻腔モデル(改良型)(川崎医科大学倫理委員会承認番号 3130)を用いた実験的検討から,従来のネブライザー機器では主として鼻前庭への薬物送達量が多い のに対し,試作した新規加圧補助デバイスを有するネブライザー機器では中鼻甲介・嗅裂部への薬剤 送達が顕著に認められた。したがって,吸気と同期する矩形波圧力振動の付加は,鼻副鼻腔局所への 薬剤送達量を高めるという点で従来法とは異なる新たな機能性を示し,鼻副鼻腔炎治療に有効である と判断された。新規補助デバイスは従来の鼻副鼻腔炎のみならず難治性疾患や術後管理などにも有用 と推察される。 第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用4. 吸入ステロイド経鼻呼出療法から Airway Medicine を再考する
小林 良樹1,2,朝子 幹也1,2,神田 晃1,2,岩井 大1 1関西医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2関西医科大学附属病院 アレルギーセンター 好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は,喘息を高率に合併する難治性好酸球性気道疾患として位置づけら れている。疾患コントロールにおいて,上・下気道を包括的にケア(Airway Medicine)することが定 石である。Airway Medicine の中心となる吸入ステロイド(ICS)経鼻呼出療法は,術後再発のコント ロールに効果的であるだけでなく,手術回避に繋がることも期待できる。本セミナーでは,ICS 経鼻 呼出療法の原理と効果発現の条件について解説する。ICS 経鼻呼出療法の効果不良因子として,治療 開始時の ECRS 重症度(鼻ポリープサイズや副鼻腔 CT スコア)があげられ,手術介入や生物学的抗 体製剤の併用が必要とされる。炎症局所におけるステロイド抵抗性も効果不良の一因であり,長時間 作動性 β2刺激薬や抗体製剤によるホスファターゼ活性化が感受性改善に有効である。ICS 経鼻呼出療 法は,その有効性と安全性からほとんどのケースでコントローラーとして長期間継続される。長期間 使用においても鼻腔内常在菌への影響(菌の検出率および分布)は認められなかった。一方で,経口 ステロイド薬や鼻噴霧ステロイド薬の減量に寄与することから,弱毒菌に対する感染予防が期待でき る。Airway Medicine における治療戦略は,ICS 経鼻呼出療法を軸とした炎症局所のケアである。その 局所効果を最大限に活かすために適切な吸入・呼出条件を熟知し,必要に応じて手術介入や抗体製剤 を併用することで,難治性好酸球性気道炎症の制御への道が開かれる。第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用