Author(s)
大城, 和也; 廣瀬, 孝
Citation
沖縄地理(15): 27-46
Issue Date
2015/6/25
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/21587
-27-Ⅰ は じ め に 主として亜熱帯島嶼環境下にある琉球列島の 島々の海岸には,現生のサンゴ礁が発達し,また, マングローブ湿地,石灰岩提,円錐カルストなど, 日本本土ではみられない地形が発達している(前 門 1990).また,トカラ構造海峡以南の琉球列島 の島々には,主にサンゴの死骸から成る琉球石灰 岩の台地が広く分布している(木庭 1990).琉球 列島に分布している石灰岩の多くは,第四紀に堆 積した琉球石灰岩であり,日本本土でもみられる 古生代~新生代第三紀の石灰岩の分布面積は小さ い.日本における石灰岩の分布面積は,国土の約0.5 % と少ないが,沖縄県では,陸地面積の約 30 % を 占め,主要な地質となっている(前門 1996).琉 球列島にみられる特徴的な地形の多くは,サンゴ 礁と主としてそれが岩石化した石灰岩とに関係す る熱帯地形と呼べるものである. 石灰岩は水に溶けやすい性質を有しているため, 石灰岩地域では,溶食作用によって石灰岩提や円
沖縄島の新旧石灰岩地域における降雨流出特性
大 城 和 也
*・廣 瀬 孝
**(
*琉球銀行・
**琉球大学法文学部)
Runoff Characteristics at Old- and New- Limestone Area
in Okinawa Island
Kazuya OSHIRO* and Takashi HIROSE**
(*Bank of The Ryukyus, Limited, **Faculty of Low and Letters, University of the Ryukyus) 摘 要 本研究では,沖縄島に分布する年代や岩相の異なる2 種類の石灰岩地域の湧水地点において約半年間に わたり水文観測を行なった.その結果,多孔質な第四紀琉球石灰岩地域にある志喜屋の湧泉と緻密な古期 石灰岩地域にある具志堅大川との間には,降雨流出特性や水質に違いがみられた.基底時における単位面 積あたりの流量は,古期石灰岩地域のほうが多く,カルシウムイオン濃度は琉球石灰岩のほうが高かった. また,降雨イベント時の流量変化をみると,具志堅大川では,台風接近時の300 mm を超えるような,暴 風雨時にのみ流量に大きな変化が現われ,一方,志喜屋の湧泉では,数10 mm から数 100 mm にいたるほ とんどの降雨イベントにおいて降雨に速やかに対応した流量の増加がみられた.また,降雨イベント時に おける流量の減衰は,具志堅大川では,1 日程度と速やかであるのに対し,喜屋の湧泉では,定常時の流 量に戻る期間は数日から数週間を要し,ピーク流量の値が大きいほどその時間は長かった.このような違 いは,具志堅大川では,岩体の割れ目だけが主な水の通り道となっているのに対し,志喜屋の湧水では, 琉球石灰岩自体の透水性が高いために,割れ目だけではなく岩体自体が風化層のような役割をしたためで あるとともに,地質構造の違いによる地下水システムの違いによると考えられた. キーワード:石灰岩,琉球石灰岩,沖縄島,流出特性,透水係数
錐カルストなどのような凸地形や,ドリーネやウ バーレなどと呼ばれる凹地形,さらには地下にお ける石灰岩の溶食作用によって形成された鍾乳洞 などといったカルスト地形と呼ばれる特徴的な地 形が発達している.カルスト(karst)とはスロベ ニア語で,「不毛の地・痩せ地」を意味する“kras” という言葉が語源にあり,一般的に石灰岩の溶食 作用によって形成されている地形を示すことが多 い(荒川・三浦 1990).石灰岩と水との接触によっ て形成され発達したカルスト地形は世界各国でみ ることができ,非石灰岩地域とは大きく異なった 特徴的な地形をしているため,観光地となってい る場所も多い.また,石灰岩地域では溶食作用と いう特徴的な風化・侵食プロセスが起こるため, 風化層の発達が乏しく,地表河川が発達せず,地 下水系が形成されるという特徴を持っている.た とえば,表層地質の大部分が琉球石灰岩からなる 宮古島では,地表河川はほとんどみられない.砂 岩と泥岩からなる島尻層群が不透水層基盤となり, その上を覆うかたちで分布している琉球石灰岩の 空隙や割れ目に地下水として水が貯留され(古川 1990),海岸の崖下などに多くの湧水がみられる. このように,石灰岩地域は,特徴的な地形・水文 環境を有している. 河川などの降雨流出特性,水循環,水収支など, 地域における水文環境の把握は,水資源管理や流 域管理などに必要不可欠である.特に,島嶼地域 では,小さな集水面積のため,水資源問題は重要 課題の一つである.前述したように,石灰岩地域 は特徴的な地形・水文環境を有しており,この地 域における水文環境の把握は,それが主要地質で ある沖縄での有用性はもちろん,石灰岩が分布す る太平洋島嶼地域の島々においても有用である. 石灰岩地域と非石灰岩地域における水文環境に 関する特徴や従来の研究をまとめると以下のよう になる.非石灰岩地域では,地表付近に基盤岩が 風化した風化層が形成され,雨水はホートン地表 流や飽和地表流,側方浸透流によって地表や土壌・ 風化層中を流れ,河川に流出する(田中 1996). 一般的に,風化層は岩盤に比べて透水性が高いた め,非石灰岩地域では,風化層が地下における水 の主要な流出経路となっていると考えられる.水 循環に関する研究において,流出解析と呼ばれる 降雨流出に関する研究は古くから水文学の中心的 研究課題であり様々な研究がなされている(田中 1996).丸井(1991)は,層状斜面を形成している 多摩丘陵を対象とした降雨流出の過程を報告して いる.これによれば,大雨時には斜面全体の風化 層に雨水の浸透が起こり始め,瞬間的な地下水体 の拡大が生じ,河川流出の増大を招いている.また, 沖縄においても,沖縄島北部の非石灰岩地域にお ける山地森林流域や人為的開発による裸地を含む 小流域において,水や土砂の流出に関する研究が 行われ,長期の流出率が約50%であること,降雨 イベント時の流出率は30 % 程度であること,ま た,溶存物質や浮流物質の流出が多いことなどの 知見が得られている(廣瀬・林 2003;加來・廣瀬 2006;廣瀬・古堅 2010). 一方,風化層の発達が乏しい石灰岩地域では, 雨水は基盤岩となっている石灰岩の割れ目を伝い 地下水面にまで到達したのち,湧泉や井泉として 地表に湧き出す場合が多い(William 1988).つまり, 石灰岩地域では,基盤岩の割れ目や岩盤中に発達 した地下水系が流出経路になっていると捉えるこ とができる. 以上のように,石灰岩地域と非石灰岩地域とで 水の涵養過程や流出過程は異なるため,水の流出 特性も異なることが予想され,また,いくつかの 報告もなされている.日本の代表的なカルスト地 域である山口県秋吉台にある秋芳洞での降雨流出 と地下水水質の調査結果では,地下水のカルシウ ムイオン(Ca2+)濃度は,洪水出水のような場合を 除くと明確な季節変化がみられ,生物活動の結果 生産される土壌中の二酸化炭素(CO2)濃度とタイ ムラグを伴って対応するとしている.また,降雨 イベント時のカルシウムイオン(Ca2+)濃度は複雑 な変化を示し,降雨の直接流出成分が多く含まれ る希釈効果もみられるが,減衰時に降雨前の基底 流出時よりも高いカルシウムイオン(Ca2+)濃度の 水が流出することが観測されている.ハイドログ ラフの流出成分の分離を行った結果,秋芳洞の降 雨流出は,低濃度の雨水が短時間で地下河道へ抜 けるような直接流出成分の寄与は小さく,滴下水 の溜まり水のような石灰岩中に貯留されているカ
-29-ルシウムイオン(Ca2+)濃度の高い水が,上からの 圧力により押し出される成分の寄与が大きいとし ている(吉村・井倉 1992;井倉 1996). また,阿武隈山地での,花崗岩,花崗閃緑岩, 斑れい岩の3 種の深成岩(非石灰岩)と石灰岩を 基盤とする4 つの流域における水の流出特性に関 する比較研究からは,石灰岩流域と深成岩流域(非 石灰岩)では流出特性が大きく異なることが判明 している.石灰岩流域では降雨に対し明瞭に遅れ た流出の2 次ピークがみられること,また,2 次 ピーク時には流量の増加に伴って電気伝導度(EC) が降雨イベント前よりも高い値まで上昇すること などが観測され,石灰岩地域の割れ目や洞窟な ど,水の流出経路の違いが関係していることが推 定されている.また,深成岩3 種においても,流 出ピークの大きさや減衰の速さなどの流出特性に 違いがみられ,風化層の厚さや物性の違いと関係 があるとされている(廣瀬ほか 1993;Hirose et al. 1994). 前述したように,石灰岩は沖縄における主要地 質であり,また,沖縄島には,地質年代の異なる 2 種類の石灰岩が分布している.1 つは,日本本 土にも分布している中・古生代の古期石灰岩であ り,本部半島を中心とした北部地域に分布してい る.もう1 つは,喜界島以南の琉球列島のほとん どの島々に分布し,沖縄島の中南部を中心に分布 している第四紀の琉球石灰岩である.両者は岩石 物性が大きく異なっており,古期石灰岩は間隙率 が小さく(数% 以下),緻密な岩相を呈している のに対し,地質年代の新しい琉球石灰岩は,空隙 率が高く(数十%),岩石強度も小さいという特徴 を持っている(前門 1996).前門(1988)は,沖 縄島に分布する地質年代の異なる新旧の石灰岩試 料を土壌中に埋設し,水が流動する開放系の環境 下での溶解実験を行い,古期石灰岩よりも琉球石 灰岩の方がより多く溶けることを報告し,岩石の 空隙率の差,それに伴う岩石と水の接触時間の差 が溶解度に関係していると推定した.琉球石灰岩 の透水係数は10-1~10-3cm/sec と比較的高く,岩 石の透水係数はこれより数オーダー低い場合が多 く,たとえば,島尻層群泥岩の透水係数は10-7~ 10-9cm/sec と非常に小さい(古堅ほか,1992).琉 球石灰岩の透水係数の値は砂質土層の透水係数(榧 根 1973)と同程度で,すなわち,風化層と同定度 の透水係数を持つと考えられる.したがって,琉 球石灰岩は岩体そのものの透水性が高いと考える ことができ,割れ目などが主要な水の通り道になっ ている緻密な古期石灰岩と異なり,割れ目以外に も岩体全体が流出に関与している可能性が考えら れる.しかし,このような観点から石灰岩地域に おける流出特性などの水文環境に関する研究はほ とんど行われていないため,琉球石灰岩地域と古 期石灰岩地域における,降雨流出特性などの差異 は不明瞭なままである. そこで,本研究では,物性が異なり地下水の流 出経路も異なっていると考えられる2 種類の石灰 岩の地域において,降雨流出特性および湧水の水 質変化を測定することで,これら石灰岩地域の湧 水で,降雨時の水質変化や流出特性がどのように 異なるかを明らかにすることを目的とし,また, その要因を考察した.そのため,古期石灰岩,お よび琉球石灰岩が分布している沖縄島において, それぞれが分布している地域で調査地点を選定し て水文観測を行なった. Ⅱ 研究対象地域の概要 本研究では,古期石灰岩,および琉球石灰岩が 分布している沖縄島を研究対象地域とし,古期石 灰岩地域として本部町の具志堅大ふぷがー川,および琉球 石灰岩地域として南城市の志喜屋の湧泉の2 か所 を観測地点とした(図1,2).具志堅大川は,層 状石灰岩や塊状石灰岩といった中生代三畳紀の示 準化石が確認された石灰岩と緑色岩類が分布して いる今帰仁層(林 1985)に位置している湧水で ある(図3).湧出口の周辺はコンクリートで整 備されており,現在では主に農業用水として利用 されている.志喜屋の湧泉は,沖縄島における代 表的な地層の1 つである琉球層群の琉球石灰岩 (古川 1985)が分布している地域にある湧水であ る.観測場所の水路は,「ミンナグチ湧泉」と「下 志し喜屋の泉」と呼ばれている(知念村史編集委員ち ゃ 会 1989)隣接した 2 か所の崖下湧水から流れ出し た水が合流している場所で,観測地点下流側には 貯水池がある.本研究では,「志喜屋の湧泉」と呼
ぶことにした(図4).志喜屋の湧泉は,古くは周 辺住民の生活用水として利用され,現在では主に 農業用水として利用されている.なお,観測地点 選定の際には,以下の点を考慮した.①湧水の涵 養域と考えられる地域に雨水の涵養を妨げる住宅 地や道路の舗装などがあまりなされていない環境 である.②湧出口から出てきた水が1 か所に集中 し,流量の変化が捉えやすい状況である.③半年 間にわたり観測地点に複数の機材が設置できる環 境で,機材設置の許可が得られる場所である. Ⅲ 研究方法 具志堅大川および志喜屋の湧泉において,降雨 流出特性および湧水の水質を捉えるために,以下 のような水文観測機材を設置した.流量変化を捉 えるために,水圧式水位ロガー(HOBO Water level logger)を水路の底部付近に設置し,水圧と水温の 観測を行なった.水位ロガーには10 分間隔で水圧 および水温のデータが記録され,得られたデータ は,志喜屋の湧泉においては,水路近くに別に設 置した気圧観測用ロガーのデータを用いて大気圧 補正を行なった.機材の関係上,具志堅大川では 気圧用ロガーは設置できなかったため,名護の気 象観測所における気圧データを用いて気圧補正を 行なった.気圧補正を行なった水位データは,現 場で測定した,基準の場所の水位と流量から得ら れた関係式を用いて流量に換算した.また,志喜 屋の湧泉においては,水位ロガーとともに電気伝 導度(EC)ロガー(キャンベル社製)を設置し, 10 分間隔で水の電気伝導度(EC)を観測した. 雨量を観測するために,観測地点から約20 m 離 れた比較的開けた場所にDavis 社製の転倒マス型 雨量計とHOBO 社製のイベントロガーを設置した. ロガーに記録されたデータは10 分ごとに積算し, 10 分間隔の雨量データとした.また,現場に設置 した雨量計のトラブル等を考慮し,アメダスの本 4 5 図1 古期石灰岩地域における観測場所の位置 ●:具志堅大川,×:アメダス本部観測所 (国土地理院地図(maps.gsi.go.jp/) をもとに作成). 図2 第四紀琉球石灰岩地域における観測場所の位置 ●:志喜屋の湧泉,×:アメダス糸数観測所 (国土地理院地図(maps.gsi.go.jp/)をもとに作成).
-31-6 図3 具志堅大川 ((a):湧出口,(b):中流の水路,(c):下流の 水路(観測地点)) 部観測所および糸数観測所で観測されている雨量 データを記録した.具志堅大川と本部観測所との 距離は,直線距離にして約2 km であり(図 1 参照), 志喜屋の湧泉と糸数観測所との距離は,直線距離 にして約4 km である(図 2 参照). 降雨イベントに伴う降雨流出時の水質データを 得るために,オートサンプラー(ISCO3700)を設 置して採水を行なった.オートサンプラーは,観 測地点の水路に設置した水位センサーが降雨イベ ントに伴う水位の上昇を感知すると連続採水を開 始するように設定した.このオートサンプラーは, 1 L のボトル 24 本の自動採水が行なえるもので, 本研究では,採水の時間間隔を1 時間に設定し, 降雨イベントに伴う流量増加時の24 時間分の水試 料を得られるようにした.オートサンプラーによっ て採水された水試料は,0.45μm のメンブランフィ ルター(ADVANTEC 社)を用いて吸引濾過を行な い,濁度を求めた.手法は廣瀬・林(2003)を参 考にした. また,降雨イベントの終了時や定常時(基底流 量時)に,ロガーデータの回収とともに水位,流速, 電気伝導度(EC),pH,および水温の測定を行ない, 定常時を中心に適宜手採水も行なった.電気伝導 度(EC)と pH,および水温の測定には,それぞ れポータブルタイプの電気伝導度計(東亜TDK 社 製 CM-21P)と pH 計(東亜 TDK 社製 HM-21P) を使用した.測定された水位と流速から流量を計 算し,水位と流量の関係式を作成した.
2014 年 6 月 28 日~ 12 月 30 日の期間に,古期石灰 岩地域の具志堅大川においては,2014 年 6 月 29 日 ~12 月 30 日の期間に行なった.また,石灰岩地域 における流域面積は地表の地形から判断することは 困難なので,観測期間全体の流量と雨量,および従 来の研究における蒸発散量と流出率を用いた水収支 の計算からそれぞれの流域面積を求めた. Ⅳ 結果と考察 1.定常時の水文特性と水質 観測地点における定常時の湧泉の流量,電気伝 導度(EC),pH,およびイオン濃度の平均値を表 1 に示す.流量を除く水質の平均値は,具志堅大 川では,2014 年 7 月 30 日,9 月 3 日,9 月 12 日, オートサンプラーおよび手採水によって採水さ れ た 試 料 の 一 部 を 選 定 し, 陽 イ オ ン(Na+・K+・ Mg2+・Ca2+), お よ び 陰 イ オ ン(Cl-・NO 3-・SO42-) の濃度をイオンクロマトグラフ法で測定した.測 定は,琉球大学の機器分析支援センターに依頼し た.イオン濃度の測定結果においては,濃度(mg/ L)から当量濃度(meq/L)を求めた.また,石灰 岩の主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)の溶 解で出される主要な陰イオンとして重炭酸イオン (HCO3-)があるが,分析センターでの依頼分析で は計測できなかったため,当量濃度(meq/L)の陽 イオンと陰イオンのバランスを計算し,その差を 重炭酸イオン(HCO3-)の濃度とした. 水文観測は,琉球石灰岩地域の志喜屋の湧泉では, 7 図4 志喜屋の湧泉 ((a):ミンナグチ湧泉,(b):下志喜屋の泉,(c):観測地点)
-33-4,320 ㎥ /day と 2,592 ㎥ /day であり,志喜屋の湧泉 に比べ,1.5 倍以上も具志堅大川の基底流量が多い. pH の値をみると,両観測地点で,弱アルカリ性 を示し,石灰岩地域の従来の知見と一致する.電 気伝導度(EC)の値は具志堅大川では 67.0 mS/m, 志喜屋の湧泉では71.2 mS/m と,琉球石灰岩の志 喜屋の湧泉で若干高い値を示している.廣瀬・林 (2003)によれば,沖縄島北部の国頭礫層と名護層 にまたがる小流域での電気伝導度(EC)の値は約 35 mS/m で,また,加來・廣瀬(2006)によれば, 沖縄島北部の嘉陽層の砂岩・粘板岩互層の小流域 では電気伝導度(EC)の値は 15 ~ 20 mS/m であり, 本研究の石灰岩地域では,他の地質に比べ高い値 を示している. 定常時の平均値から作成した水質のヘキサダイ ヤグラムを図5 に示す.具志堅大川,志喜屋の湧 泉ともに,カルシウムイオン(Ca2+)と重炭酸イオ ン(HCO3-)の濃度が卓越しており,石灰岩地域の 特徴を示している.カルシウムイオン(Ca2+)と 重炭酸イオン(HCO3-)の濃度が,志喜屋の湧泉の 方で高い値を示しているが(表1,図 5),これは, 岩体の割れ目に加え多くの空隙を有している琉球 石灰岩の物性が大きく関わっていると考えられ, 前門(1988)の溶解実験や廣瀬・大城(2014)の 溶食速度に関する研究に調和的である. 具志堅大川と志喜屋の湧泉において,カルシウ ムイオン(Ca2+)と重炭酸イオン(HCO3-)の次に 高い値を示しているのは,ナトリウムイオン(Na+) と塩化物イオン(Cl-)である.また,ナトリウム イオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)との関係(図 6) 8 Na++K+ Ca2+ Mg2+ SO42‐+NO3‐ HCO3‐ Cl‐ 8 6 4 2 0 2 4 6 meq/L8 具志堅大川 Ca2+ Mg2+ SO42‐+NO3‐ HCO3‐ Cl‐ Na++K+ meq/L 志喜屋の湧泉 8 6 4 2 0 2 4 6 8 図5 定常時のヘキサダイヤグラム 1 流量 EC 水温 Na+ K+ Mg2+ Ca2+ Cl- NO3- SO42- HCO3 -(mg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L) (mg/L)
(meq/L) (meq/L) (meq/L) (meq/L) (meq/L) (meq/L) (meq/L) (meq/L)
24.5 0.6 8.0 116.2 41.3 5.3 19.8 358.7 1.07 0.02 0.66 5.80 1.17 0.09 0.41 5.88 30.2 2.5 9.6 132.1 43.3 14.6 56.5 373.9 1.31 0.06 0.79 6.59 1.22 0.23 0.59 6.33 4320 67.0 7.6 22.1 具志堅大川 志喜屋の湧泉 2592 71.2 7.7 23.5 観測地点 (m3/day) (mS/m) pH (℃) 表1 定常時の流量と水質 ※イオン濃度については,上段太字が濃度(mg/L),下段斜字が当量濃度(meq/L)を示す. 10 月 14 日,11 月 21 日の 5 回の手採水試料の平 均値で,志喜屋の湧泉においては,2014 年 9 月 3 日,10 月 15 日,11 月 20 日,11 月 28 日の 4 回の 平均値である.また,流量は現場で測定した値の 内,直前の降雨がない,いわゆる基底時の流量を 示していると思われる値の平均である.表1 より, 具志堅大川と志喜屋の湧泉での流量は,それぞれ
9 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 10 20 30 40 Cl ‐(m g/L ) Na+(mg/L) 志喜屋の湧泉 具志堅大川 標準海水 図6 ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)の関係 (標準海水の線は,ポール・R・ピネ(2010)を参考に作成). から,多くの場合,標準海水に近いNa+とCl-の濃 度比になっている.これは,両観測地点が海に近 いことから,海水・海塩粒子が影響している可能 性が示唆される.また,志喜屋の湧泉が,標準海 水よりもナトリウムイオン(Na+)の濃度がより高 くなっているので,地表に降った雨が湧水点に出 てくるまでの間に供給される量が多いことが推測 される. また,志喜屋の湧泉がカリウムイオン(K+),硝 酸イオン(NO3-)および硫酸イオン(SO42-)の濃 度が具志堅大川に比べかなり高い値を示している (表1).これは,志喜屋の湧泉の集水域と考えられ る台地上では,具志堅大川の集水域と考えられる 場所より農業が大規模に行なわれており(図1,2 図参照),肥料の影響が表れたと考えられる. 2.降雨流出特性と水質の変化 1)具志堅大川(古期石灰岩地域) 具志堅大川における 2014 年 6 月 29 日から 12 月 30 日までの降雨量,流量,電気伝導度(EC)およ び水温の時間変化を図7 に示す.この期間におけ る観測地点の総降雨量は1,404.7 mm であり,最大 日雨量は10 月 11 日の 353.4 mm,最大降雨強度は 11 月 28 日の 16:00(15:50 ~ 16:00)に観測さ れた30.0 mm/10min であった.また,参考データ としてアメダス本部観測所の雨量データも示して いるが(図7 の上段),本研究の観測期間中におけ る本部観測所での総降雨量は1,296.5 mm であり, 観測地点の総降雨量と大きな差異はない.観測地 点における期間全体の雨量,および流量のデータ を用い,従来の研究から流出率を50 %と仮定し (廣瀬 2013),水収支から具志堅大川の涵養域の面 積を推定すると,1.04 km2と見積もられた.また, この値を用いることで求めた推定涵養域における 単位面積あたりの流量は,1 日あたり 4,154 m3/km2 である. 転倒マス型雨量計,およびイベントロガーから 得られた雨量のデータから,観測期間内において 5.0 mm/10min 以上の降雨強度が観測された日を , まとまった雨のあった降雨イベントとして抽出し た.一降雨イベントは,砂川・廣瀬(2010)と同様に, 6 時間以上の無降雨状態があった場合に別の降雨イ ベントとして区別した.その結果,約半年間の観 測期間中に8 回の降雨イベントが観測された(表 2). 図7 より,具志堅大川における流量は,観測初 期の夏季では多く,冬季に向かうにつれて少なく
-35-10 0 10 20 30 40 0 0.04 0.08 0.12 0.16 6/29 7/19 8/8 8/28 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 水 温( ℃ ) 流 量 (㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) 水温(℃) 0 5 10 15 20 25 30 雨量( m m/ 10 mi n )
①
②
③ ④
⑤
⑥
⑦ ⑧
観測地点 0 5 10 15 20 25 30 雨量( mm /1 0mi n ) 本部アメダス 図7 具志堅大川の水文観測結果(観測期間全体) 2 継続時間 総降雨量 最大降雨強度 ピーク流量 (○h○m) (mm) (mm/10min) (m3/sec) ① 2014/7/8 3:00 - 7/9 15:00 36h00m 311.4 15.9 0.09 ② 2014/7/30 15:50 - 7/31 21:20 29h40m 112.8 7.8 0.07 ③ 2014/8/31 4:20 - 8/31 8:30 4h20m 99.9 19.8 0.06 ④ 2014/9/5 21:30 - 9/6 22:30 25h10m 69.6 9.0 0.06 ⑤ 2014/9/23 3:50 - 9/23 11:50 8h10m 24.3 14.4 0.05 ⑥ 2014/10/10 22:00 - 10/12 1:20 27h20m 384.0 17.7 0.13 ⑦ 2014/11/28 11:50 - 11/29 0:30 12h50m 172.2 30.0 0.04 ⑧ 2014/12/4 7:20 - 12/4 14:10 7h00m 33.0 10.8 0.05 日時 イベント 表2 具志堅大川における降雨イベント一覧 ※表中のイベント番号①~⑦は,図 7 の降雨イベントの番号に対応する.なっており,季節的な流量変動がみられる.これは, 年間における降水量の季節変動に対応しているも のと考えられる.また,台風8 号が沖縄島に襲来 した7 月 8 日(降雨イベント①)と台風 19 号が沖 縄島に最接近した10 月 11 日の暴風雨時(降雨イ ベント⑥)を除くと降雨に対する流量の変化があ まりみられなかった.たとえば,約1 日間の降雨 量が112.8 mm,最大降雨強度が7.8 mm/10minであっ11 0 5 10 15 20 雨量( m m/ 10 mi n ) 降雨イベント② 0 10 20 30 0 0.04 0.08 0.12 7/30 0:00 7/30 12:00 7/31 0:00 7/31 12:00 8/1 0:00 水 温( ℃ ) 流量 (㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) 水温(℃) 0 10 20 30 雨量( m m/ 10 mi n ) 降雨イベント⑦ 0 10 20 30 0 0.02 0.04 0.06 11/28 0:00 11/28 12:00 11/29 0:00 11/29 12:00 11/30 0:00 水温( ℃ ) 流量 (㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) 水温(℃) 図8 降雨イベント②および⑦前後のハイドログラフ(具志堅大川)
-37-た降雨イベント②や,約半日間の降雨量が172.2 mm,最大降雨強度が 30.0 mm/10min であった降雨 イベント⑦では,降雨に対して流量に大きな変化 が確認できない(図8). 流量に大きな変化がみられた2 回の降雨イベン ト に お い て, 図9 は,7 月 8 日の 3:00 から 7 月 9 日の 15:00 にかけての降雨イベント(イベント ①)前後のハイドログラフを示している.この期 間の総降雨量は311.4 mm であり,最大降雨強度は 7 月 9 日の 7:00(6:50 ~ 7:00)に観測された 15.9 mm/10min であった.この期間は沖縄島に台風 8 号が襲来していたため,暴風雨や急激な流量の増 加よって水位ロガーに不具合が生じ,降雨イベン ト中に流量の値が急激に落ち込んでいる.しかし, 図9 中に示されている矢印のように,降雨量のピー クに対して約10 分後に流量のピークが現われてお り,雨量に対して速やかに応答していることが確 認できる.また,それらのピーク流量時にわずか ながら水温も上昇している.これは大気の温度に 近い夏季の高温の雨水の影響によるものと考えら れる. 図10 は,10 月 10 日の 22:00 から 10 月 12 日の 1: 20 にかけての降雨イベント(イベント⑥)前後の ハイドログラフを示している.この期間における 観測地点の総降雨量は384.0 mm であり,最大降雨 強度は10 月 11 日の 23:50(23:40 ~ 23:50)に 観測された17.7 mm/10min であった.また,この 降雨イベント時にオートサンプラーによる水試料 の連続採水が行なわれたので,流量と水温に加え, 濁度とカルシウムイオン(Ca2+)濃度,および電 気伝導度(EC)の変化も示した.前述したように, 具志堅大川には電導度ロガーを設置することがで きなかったため,電気伝導度(EC)の値については, オートサンプラーによって採水された水試料から 直接ポータブルタイプの電気伝導度計を用いて値 を測定した. 10 月 10 日の 2:00 からに降り始めた断続的な 雨では流量に大きな変化は起こっていない.10 月 11 日の 0:00 頃から降り始めた連続的なまとまった 降雨により,10 月 12 日の 18:00 には流量が定常 時の2 倍近くまで増加した.この時点までの降雨 量は160.2 mm で,10 月 11 日の 23:50 に雨量のピー12 0 5 10 15 20 雨量( m m/ 10 mi n ) 降雨イベント① 0 10 20 30 0 0.04 0.08 0.12 0.16 7/8 0:00 7/8 12:00 7/9 0:00 7/9 12:00 7/10 0:00 水 温( ℃ ) 流量( ㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) 水温(℃) 図9 降雨イベント①前後のハイドログラフ(具志堅大川)
13 0 5 10 15 20 雨量( m m/ 10 mi n ) 降雨イベント⑥ 0 30 60 90 120 150 0 0.04 0.08 0.12 0.16 10/10 0:00 10/10 12:00 10/11 0:00 10/11 12:00 10/12 0:00 10/12 12:00 10/13 0:00 水温 (℃ )E C (mS /m ), Ca 2+(mg /L ), 濁 度( mg /L ) 流量 (㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) 水温(℃) EC(mS/m) カルシウムイオン(mg/L) 濁度(mg/L) 図10 降雨イベント⑥前後のハイドログラフ(具志堅大川) クが現われると,10 分以内に流量のピークが現れ た.濁度のピークも流量のピークと対応しており, 流量のピーク時にカルシウムイオン(Ca2+)濃度 は最低値を示している.このことは,雨水の流出 による希釈の効果だと考えられる.また,暴風雨 時に流量のピークが現われても,降雨イベントが 終了して10 分後にはピーク流量の半分近くの値に まで減衰し,約4 時間後には,流量は定常時に近 い値にまで減衰していることが観察された.また, 最後の24 本目のサンプル採水時は,流量はかなり 減衰しているもののカルシウムイオン(Ca2+)濃度 は定常時の平均値に比べかなり低いままであった. これは,カルシウムイオン(Ca2+)濃度の低い雨水 が寄与した流出の可能性がある.図10 には示して いないが,降雨イベントの後半に採水された水試 料には高濃度のナトリウムイオン(Na+)と塩化物 イオン(Cl-)が確認された.これは,台風19 号の 暴風によって巻き上げられた海水や海塩粒子が影 響しているものと考えられる.降雨イベント初期 にカルシウムイオン(Ca2+)濃度のばらつきがみら れるが,流量の増加に伴いカルシウムイオン(Ca2+) 濃度が低下しても電気伝導度(EC)の値は上昇し ている.これは,降雨イベント後半の高濃度のナ トリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)によ る影響と考えられる. 以上のように,古期石灰岩地域の具志堅大川で は,300 mm を超える大雨時以外には,降雨イベン トに対する流量の変化は観測されなかった.古期 石灰岩は地下深くまで石灰岩が連続し,現在より も低海水準期に形成された地下水系が発達してい ることが考えられる.また,貯水タンクの役割を する凹地が地下水系に存在していることも考えら れる.したがって,それらがより複雑な水の流動 システムを形成し,ある一定以上の降雨量がない と湧出口に向かう流出が起こらないような現象が 観察されたと考えられる.貯水タンクを仮定した 水の通り道に着目して表すと,図11 のような模式 図になる.また,ピーク流量が現われても,降雨 イベントが終了すると約4 時間後には定常時近く の値まで流量が減衰していることが確認できた. 2)志喜屋の湧泉(琉球石灰岩地域) 志喜屋の湧泉における2014 年 6 月 28 日から 12 月30 日までの降雨量,流量,電気伝導度(EC),
-39-および水温の時間変化を図12 に示す.この期間に おける観測地点での総降雨量は522.2 mm であり, 最大日雨量は台風8 号が沖縄島に接近した 7 月 8 日の111.3 mm,最大降雨強度は 12 月 4 日の 9:00 (8:50 ~ 9:00)に観測された 15.0 mm/10 min であっ た.前述の具志堅大川と同様に志喜屋の湧泉の涵 養域を推定すると,2.92 km2と見積もられた.また, この値を用いることで求めた推定涵養域における 単位面積あたりの流量は,1 日あたり 888 m3/km2 である. 志喜屋の湧泉においても具志堅大川と同様に,5.0 mm/10min 以上の降雨強度が観測された日をまと まった雨のあった降雨イベントとして抽出すると, 約半年間にわたる水文観測期間中に8 回の降雨イ ベントが観測された(表3). 約半年間の水文観測から,降雨イベントが始ま ると,雨量の程度にもよるが,約3 時間から 9 時 間後に流量が増加し始め,雨量のピークが現われ ると,約1 時間から 5 時間後に流量のピークも現 われている.また,流量増加時には電気伝導度(EC) の値が減少している.降雨量やピーク流量の値に よってばらつくが,ピーク流量時から定常時に戻 るまでの期間は数日から数週間であり,具志堅大 川に比べゆっくりである.具志堅大川のハイドロ 図11 古期石灰岩地域における水の流出経路の模式図 グラフと同様に,参考データとしてアメダス糸数 観測所の雨量データも示している.観測期間中に おける糸数観測所での総降雨量は914.5 mm であ り,志喜屋の湧泉で観測された総降雨量と大きな 差がある.アメダスの糸数観測所は,観測地点の 集水域と考えられる背後の台地に続く位置にある ものの,観測地点からは直線距離にして約4 km 離 れているため,糸数観測所の近辺に降った雨が直 接的に志喜屋の湧泉の流量に影響するとは考えに くい.しかし,降雨には地域的なばらつきがある ため,観測地点で確認できなかった雨が志喜屋の 湧水に影響している可能性がある.したがって, 観測地点および糸数観測所の雨量データを参照す ることで志喜屋の湧泉の推定涵養域内に降った雨 を把握することができるであろう.また,流量の 少ないときに電気伝導度(EC)を記録するセンサー が水面から出たことによる不具合で正確な電気伝 導度(EC)の値が記録されなかったが,その期間 については欠測処理を行なった. 以下,志喜屋の湧泉における降雨流出特性を示 す. 図13 は,7 月 7 日 の 23:40 か ら 7 月 9 日 の 13:40 にかけての降雨イベント(イベント①)前 後のハイドログラフを示している.この降雨イベ ントにおける総降雨量は164.4 mm,最大降雨強 14
-40-1 図12 志喜屋の湧泉の水文観測結果(観測期間全体) 0 20 40 60 80 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 6/28 7/13 7/28 8/12 8/27 9/11 9/26 10/11 10/26 11/10 11/25 12/10 12/25 EC (mS /m ), 水温( ℃ ) 流量(㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) EC(mS/m) 水温(℃) 0 5 10 15 20 25 30 雨量( mm/ 10 mi n ) 観測地点 0 5 10 15 20 25 30 雨量( mm/ 10 mi n ) 糸数アメダス
①
②
③
④⑤
⑥
⑦
⑧
図12 志喜屋の湧泉の水文観測結果(観測期間全体) 表3 志喜屋の湧泉における降雨イベント一覧 ※表中のイベント番号①~⑥は,図12 の降雨イベントの番号に対応する. 継続時間 総降雨量 最大降雨強度 ピーク流量 (○h○m) (mm) (mm/10min) (m3/sec) ① 2014/7/7 23:40 - 7/9 13:40 38h10m 164.4 8.4 0.86 ② 2014/7/31 16:40 - 8/1 3:50 11h20m 47.7 7.2 0.74 ③ 2014/8/17 5:20 - 8/17 14:50 9h40m 36.9 6.3 0.26 ④ 2014/9/10 14:20 - 9/10 14:50 40m 14.7 6.6 0.05 ⑤ 2014/9/11 8:30 - 9/11 8:50 30m 10.2 8.7 0.09 ⑥ 2014/10/11 13:50 - 10/11 22:10 8h30m 107.1 5.7 0.87 ⑦ 2014/12/4 7:40 - 12/4 14:20 6h50m 40.5 15.0 0.16 ⑧ 2014/12/20 5:40 - 12/20 14:10 8h40m 29.1 9.9 0.09 イベント 日時-41-2 図13 降雨イベント①前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉) 0 2 4 6 8 10 雨量( m m /10m in ) 降雨イベント① 0 20 40 60 80 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 7/7 7/8 7/9 7/10 7/11 7/12 EC (mS /m ), 水温( ℃ ) 流量(㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) EC(mS/m) 水温(℃) 図13 降雨イベント①前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉) 度 は7 月 9 日 の 10:20(10:10 ~ 10:20) に 観 測された8.4 mm/10min であった.7 月 7 日の 23: 40 頃に雨が降り始め,7 月 8 日の 8:50 頃に 4.8 mm/10min の降雨強度が観測されると,約 9 時間後 には定常時の約10 倍まで流量が増加している.こ の降雨イベント内で6.0 mm/10min 以上の降雨強度 が観測されたのが3 回確認でき,それぞれの雨量 のピークに対して約1 時間から 3 時間後に流量の ピークが現われている(図13 の矢印参照).また, 流量の増加とともに電気伝導度(EC)の値も上昇 するのがみられた.電気伝導度(EC)は溶存イオ ン量の指標となるものであり,溶存中のイオン量 が多ければ電気伝導度(EC)の値も高くなる.つ まり,降雨イベントの初期にみられる電気伝導度 (EC)の値の上昇は,無降雨期間中に地下に溜まっ ている水,すなわち,石灰岩の主成分である炭酸 カルシウム(CaCO3)を多く溶かしこんだ地下水が, 雨水の流出や圧縮された空気によって押し出され て湧出したためだと考えられる.その後の電気伝 導度(EC)の値は,流量が増加すると低下し,流 量が減衰すると定常時の値に戻っている.これは, 雨水の流出によって炭酸カルシウム(CaCO3)を 溶かした地下水が希釈されたことによるものと考 えられる.降雨イベント後は,具志堅大川とは異 なり,定常時の流量に戻るまでに約3 週間要した (図12 参照). 図14 は,7 月 31 日の 16:40 から 8 月 1 日の 3: 50 にかけての降雨イベント(イベント②)前後の ハイドログラフを示している.この降雨イベント における総降雨量は47.7 mm,最大降雨強度は 7 月31 日の 22:20(22:10 ~ 22:20)に観測され た7.2 mm/10min であった.降雨イベント前の流量 は0.02 m3/sec であり,流量のピークは 3 回観測さ れている.7 月 31 日の 3:20 頃と 8 月 1 日の 13: 10 頃に現われている流量ピークは,雨が降り始め る前の流量増加や無降雨での流量増加と,流量変 化が雨に対応していないが,これは,志喜屋の湧 泉の涵養域と考えられる背後の台地上に降った雨 が影響していると考えられる.7 月 31 日の 22:20 (22:10 ~ 22:00)に 7.2 mm/10min の降雨強度が 観測されると,約5 時間後に流量のピークが現わ れた.電気伝導度(EC)の値はピーク流量時に最
-42-3 図14 降雨イベント②前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉) 0 2 4 6 8 10 雨量( mm/ 10 mi n ) 降雨イベント② 0 20 40 60 80 0 0.2 0.4 0.6 0.8 7/30 7/31 8/1 8/2 8/3 EC (mS /m ), 水温( ℃ ) 流量(㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) EC(mS/m) 水温(℃) 図14 降雨イベント②前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉) 図15 降雨イベント③前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉) 0 2 4 6 8 10 雨量( mm/ 10 mi n ) 降雨イベント③ 0 30 60 90 120 150 0 0.1 0.2 0.3 8/14 8/15 8/16 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 EC (mS /m ), 水温( ℃ ), 濁度( mg /L ), Ca 2+(mg /L ) 流量(㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) EC(mS/m) 水温(℃) 濁度(mg/L) カルシウムイオン(mg/L) 図15 降雨イベント③前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉)
-43-も低く,流量が減衰すると定常時の値に戻ってい る.降雨イベント②は降雨イベント①に比べ雨量 が少ないためか,降雨イベントが終了すると約1 日後には定常時の流量の値にまで戻っているもの の,具志堅大川に比較すると時間をかけて減衰し たことが確認できる. 図15 は,8 月 17 日の 5:20 から 14:50 にかけ ての降雨イベント(イベント③)前後のハイドロ グラフを示している.この降雨イベントにおける 総 降 雨 量 は36.9 mm,最大降雨強度は 8 月 17 日 の10:10(10:00 ~ 10:10) に 観 測 さ れ た 6.3 mm/10min,定常時の流量は 0.04 m3/sec であった. また,この降雨イベントにおいて,流量の増水時 から減水時にかけてオートサンプラーによる連続 採水を行い,流量,電気伝導度(EC),水温に加え, 濁度とカルシウムイオン(Ca2+)濃度の変化も測定 した. 8 月 17 日の 5:20 頃から雨が降り始め,10:10 頃に6.3 mm/10min の降雨強度が観測されると,約 3 時間後に流量のピークが現われるとともに,降雨 イベント①,②と同様に,降雨イベント初期に電 気伝導度(EC)の値が上昇する現象が確認できる. 濁度の値については,ピーク流量時には高く,流 量が減少するにしたがい値が低くなっている.カ ルシウムイオン(Ca2+)濃度は,流量が増加し始め ると徐々に低下し,ピーク流量時に最低値を示し た.これは,炭酸カルシウム(CaCO3)を多く溶 かした地下水が雨水の流出によって希釈されたた めだと考えられる.流量が減少するとともに,カ ルシウムイオン(Ca2+)濃度は,定常時の値に近づ いていくものの,志喜屋の湧泉における平均値(表 1 参照)までは戻っておらず,それよりも低い値を 示している.したがって,雨水による炭酸カルシ ウム(CaCO3)濃度が希釈された水の流出が降雨 後も続いていることが示唆される.降雨イベント ③では,他の降雨イベントに比べ降雨量が小さい からか,ピーク流量の値は小さく,降雨イベント が終了すると,約4 日後には定常時の流量にまで 戻っている. 図16 は,10 月 11 日の 13:50 から 22:10 にか5 図16 降雨イベント⑥前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉) 0 2 4 6 8 10 雨量( mm/ 10 mi n ) 降雨イベント⑥ 0 20 40 60 80 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 10/11 0:00 10/11 12:00 10/12 0:00 10/12 12:00 10/13 0:00 EC (mS /m ), 水温( ℃ ) 流量(㎥ /s ec ) 2014年 流量(㎥/sec) EC(mS/m) 水温(℃) 図16 降雨イベント⑥前後のハイドログラフ(志喜屋の湧泉)
けての降雨イベント(イベント⑥)前後のハイド ログラフを示している.この降雨イベントにおけ る総降雨量は107.1 mm,最大降雨強度は 10 月 11 日の17:40 に観測された 5.7 mm/10min,定常時の 流量は0.03 m3/sec である.雨量のピークは 3 回あり, それぞれの雨量のピークに対して数十分から数時 間後に流量のピークが3 回観測された.たとえば, 10 月 11 日の 15:40 頃に 5.4 mm/10min の降雨強度 が観測された10 分後には流量にピークが現われ, 17:40 頃に 5.7 mm/10min の降雨強度が観測される と,約1 時間後に流量のピークが現われた.また, 降雨イベントが終了すると,流量が定常時に近い 値に戻るまで約5 日を要している.イベント⑥で も雨が降り始める前に流量が増加しているが,こ れも観測地点背後の台地上に降った雨の影響によ るものと考えられる.また,降雨イベント①と同 様に,降雨イベントの初期に電気伝導度(EC)の 値が上昇する現象が観測され,その後も他の降雨 イベントと同様に,ピーク流量時には電気伝導度 (EC)の値が低下し,流量が減衰期に入ると基底 時に近い値に戻っている. 以上のように,琉球石灰岩地域の志喜屋の湧泉 では,雨が降り始めると,雨量の程度によるが, 約3 時間から 9 時間後に流量が増加し始めた.降 雨のピークが現われると約1 時間から 5 時間後に 流量のピークも現われており,具志堅大川に比べ, ピーク雨量時とピーク流量時の時間差が大きいこ とが確認された.これは,琉球石灰岩の岩体にあ る空隙の中を流れる水の速さが,岩体の割れ目を 通る水の速さに比べ遅いためであると考えられる. また,具志堅大川に比べ流量の立ち上がりが速い 様子がみられるとともに,流量の減衰が比較的長 い時間続くような流出特性も観測された. このように,古期石灰岩地域に比べ,流量の立 ち上がりが急なのは,岩体に多数の空隙を有して いることにより,水の通り道が数多く存在してい るためだと考えられる.その他にも,流量の速や かな立ち上がりに比べて流量の減衰が緩やかにな るようなハイドログラフの形は,廣瀬ほか(1993) で報告されている花崗岩や花崗閃緑岩流域におけ るハイドログラフなど,風化層が発達した地域の 流出形態とよく似ている.したがって,岩体の割 れ目に加え多数の空隙が水の通り道となっている 琉球石灰岩地域では,岩体全体が風化層のような 役割をしていることが示唆される.また,琉球石 灰岩は不透水島尻層群泥岩の上に堆積しているた 20 図17 琉球石灰岩地域における水の流出経路の模式図
-45-め,湧水点より下方の地下水システムへの水の流 動は非常に少ないと考えられ,透水性の悪い基盤 の上に形成された風化層が主な水の通り道になる 非石灰岩地域と地質構造的に似ていると考えられ る.琉球石灰岩地域における水の流動を模式図で 表すと図17 のようになる. Ⅴ ま と め 本研究では,沖縄島に分布する年代や岩相の異 なる2 種類の石灰岩地域において湧水地点におけ る降雨流出特性と流量の変化に伴う水質の変化を 追うために,約半年間にわたり水文観測を行なっ た.その結果,多孔質な琉球石灰岩地域にある志 喜屋の湧泉と緻密な古期石灰岩地域にある具志 堅大川との間には水の通り道の違いから(図11, 17),降雨流出特性にも違いがみられた.本研究で 得られた結果をまとめると以下のようになる. ・定常時における1 日の流量は,具志堅大川では 4,320 m3/day,志喜屋の湧泉では 2,592 m3/day で あった. ・定常時のカルシウムイオン(Ca2+)と重炭酸イオ ン(HCO3-)の濃度においては,具志堅大川に比べ, 志喜屋の湧泉で高い値が確認された.これは,岩 体の割れ目に加え多くの空隙を有している琉球石 灰岩の物性が大きく関わっていると考えられ,先 行研究と調和的である. ・具志堅大川では,台風8 号(7 月)と台風 19 号 (10 月)が沖縄島に接近した暴風雨時にのみ,流 量に大きな変化が現われ,暴風雨時以外の降雨イ ベントにおいては,流量に大きな変化が観察され なかった.これは,具志堅大川には,岩体の割れ 目だけが主な水の通り道となっているとともに, ある程度の降雨量がないと湧出口に向かう流出が 起こらないような状況,低海水準期に形成された 湧水点より下方の地下水系の存在や,貯水タンク のような役割をする凹地の存在など,より複雑な 水の流動システムを形成しているためだと考えら れる.また,暴風雨時に流量のピークが現われて も,降雨イベント終了時には速やかに流量が減少 し,翌日には流量は定常時の値に近づいた. ・一方,志喜屋の湧泉では,数10 mm から数 100 mm にいたるほとんどの降雨イベントにおいて降 雨に速やかに対応した流量の増加がみられた.ま た,ピーク流量の大きさにもよるが,ピーク流量 から定常時の流量に戻る期間は数日から数週間を 要し,ピーク流量の値が大きいほど定常時の流量 の値にまで戻るまでの時間が長かった.このよう な流出特性は,基盤岩上の風化層が主要な流出経 路と考えられる非石灰岩地域の流出特性に似てお り,下層の島尻層が不透水基盤の役割をし,琉球 石灰岩は岩石自体の透水性が高いために,割れ目 だけではなく岩体自体が風化層のような役割をす ることを示唆する. ・両観測地点においてピーク流量時には,電気伝導 度(EC)とカルシウムイオン(Ca2+)濃度が最小 値を示した.これは,雨水による希釈効果と考え られる. ・志喜屋の湧泉において,降雨イベントの初期に, 流量の増加とともに電気伝導度(EC)の値も高 くなる現象が観察された.これは,無降雨期間中 に地下に溜まっている水,すなわち,石灰岩の主 成分である炭酸カルシウム(CaCO3)を多く溶か した地下水が湧出したためだと考えられる. このように,種類の異なる石灰岩地域で水の流 出や水質の変化を調査すると,地質構造や透水性 などの物性を反映した結果がみられた.しかし, それぞれの石灰岩地域における降雨流出特性は, 岩体の割れ目の幅や規模などにも左右されるもの と考えられる.石灰岩地域における降雨流出特性 の全貌を明らかにするには,引き続き長期にわた る水文観測を行なっていく必要がある.また,他 の湧水地点でも長期的な水文観測を行ない定量的 なデータを得ることで,降雨流出に関する岩石ご との一般性や湧水地点ごとの特異性を明らかにす る必要がある.宮古島やグアム島などは第四紀の 石灰岩中の地下水を水道用水の水源としているた め,本研究で得られた知見は,同様な地域の水資 源管理を考える上で有用な情報となると考える. 本稿は,著者の一人大城が提出した琉球大学大学院 人文社会科学研究科の修士論文を骨子に加筆修正した ものである.本研究を進めるにあたり,前門 晃先生, 渡久地 健先生をはじめとする琉球大学法文学部地理
学教室の先生方には貴重な助言をいただきました.南 城市志喜屋の大田区長,および本部町具志堅の金城区 長には機材の設置に協力していただきました.また, 琉球大学大学院の院生であった武石 裕さんには現地 調査に協力していただきました.匿名の査読者には非 常に有益な指摘をいただきました.以上の方々に心か ら感謝いたします. ( 受付 2015 年 4 月 30 日 ) ( 受理 2015 年 6 月 17 日 ) 文 献 新荒川達彦・三浦 肇(1990):溶かされたサンゴ礁――カ ルスト地形.サンゴ礁地域研究グループ編:『熱い自然 ――サンゴ礁の環境誌』古今書院,215-229. 井倉洋二(1996):カルスト地域の水文地形.恩田裕一・奥 西一夫・飯田智之・辻村真貴編:『水文地形学――山地 の水循環と地形変化の相互作用』古今書院,217-225. 榧根 勇(1973):『水の循環』共立出版. 加來友花・廣瀬 孝(2006):沖縄島北部与那川の山地小流 域における水と土砂の流出特性.沖縄地理,7,135-145. 榧根 勇(1973):『水の循環』共立出版. 木庭元晴(1990):琉球列島第四紀のサンゴ礁形成と島弧変 動.サンゴ礁地域研究グループ編:『熱い自然――サン ゴ礁の環境誌』古今書院,155-175. 砂川朋美・廣瀬 孝(2010):沖縄島北部亜熱帯林における 樹冠通過雨量,樹幹流下量および樹冠遮断量に関する研 究.沖縄地理,10,9-18. 田中 正(1996):降雨流出過程.恩田裕一・奥西一夫・飯 田智之・辻村真貴編:『水文地形学――山地の水循環と 地形変化の相互作用』古今書院,56-66. 知念村史編集委員会(1989):『知念村史 第二巻資料編 2 知念の文献資料』 知念村. 林 大五郎(1985):7 沖縄島中・北部.木崎甲子郎編:『琉 球弧の地質誌』,沖縄タイムス社,93-106. 廣瀬 孝(2013):沖縄島の水文環境――水資源・水利用と 水収支.地理歴史人類学論集,4,67-76. 廣瀬 孝・大城和也(2014):水の流出からみた沖縄島にお ける新旧石灰岩地域の溶食速度に関する一考察.国際琉 球沖縄論集,3,1-9. 廣瀬 孝・恩田裕一・松倉公憲(1993):異なる基盤岩石か らなる小流域の流出特性について.筑波大学水理実験セ ンター報告,17,57-64. 廣瀬 孝・林 賢太郎(2003):裸地を含む山地小流域にお ける水および土砂の流出特性――沖縄島北部大保大川支 流の源流域における水文調査.沖縄地理,6,15-31. 廣瀬 孝・古堅大喜(2010):沖縄島北部与那川における浮 遊土砂と有機物の流出に関する研究.沖縄地理, 10,29-34. 古川博恭(1985):8 沖縄島南部.木崎甲子郎編:『琉球弧 の地質誌』沖縄タイムス社,107-114. 古川博恭(1990):宮古島における地下ダムの構想とその技 術開発.島しょ水環境研究グループ編:『島しょ水環境の 展望――沖縄・ハワイのアプローチ』ひるぎ社,48-72. 古堅勝也・宮城俊彦・池間修宏(1992):沖縄県における地 下水中のトリクロロエチレン等の現状について.沖縄県 公害衛生研究所報,26,113-118. 前門 晃(1988):土層を用いた石灰岩の溶食に関する野外 実験.地形,9,61. 前門 晃(1990):けずられてできた熱帯地形――円錐丘の 語るもの.サンゴ礁地域研究グループ編:『熱い自然― ―サンゴ礁の環境誌』古今書院,230-240. 前門 晃(1996):多様な琉球列島のカルスト地形.漆原 和子編:『カルスト ――その環境と人びとのかかわり』 大明堂,17-21. 丸井敦尚(1991):層状に堆積した斜面における降雨流出プ ロセスと地中水の貯留機能.地理学評論,64A-3,145-166. 吉村和久・井倉洋二(1992):石灰岩地域秋吉台における水 循環と地下水水質の形成.地下水学会誌,34-3,183-194. ポール・R・ピネ(2010):『海洋学』東海大学出版会.
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