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長良川河口堰湛水域におけるヨシ群落の死滅の原因 ― 全国各地のヨシ群落の観察からの考察 ―

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33 伊豆沼・内沼研究報告 14 巻, pp. 33–54 (2020)

長良川河口堰湛水域におけるヨシ群落の死滅の原因

全国各地のヨシ群落の観察からの考察

山内克典・古屋康則

*

岐阜大学教育学部生物学教室 〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸 1-1 *責任著者 E-mail [email protected] キーワード:干出,感潮域,汽水域,水没,通気組織,ヨシ 2019 年 6 月 4 日受付 2020 年 1 月 21 日受理 要旨 長良川河口堰運用後,河口堰湛水域のヨシ群落のモニタリング調査を続け,また全国各地の河 川河口域・汽水湖においてヨシ群落の分布調査を行い,次のような結果を得た.1)長良川河口堰湛水 域では,河口堰運用後ヨシ群落は急激に死滅し,運用後7 年目の 2002 年までに,面積にして約 9 割 が消失した.群落の消失過程は,面から線へ,線から点へ,そして点の消滅と形容することができる. 点状ヨシ(株立ちヨシ)の水中部は地下茎とひげ根が緊密に絡み合ったマット状を呈している.土中で はひげ根は少なく,疎らな地下茎が縦横にのびて地上部を支えている.株立ちヨシは河川水から溶存 酸素や栄養分を十分に取り込めるため,その生育は良好である.株立ちヨシの死滅は,洪水時に倒壊 しておこる.2)日本各地の 22 河川および 6 ヶ所の汽水湖の感潮域のヨシ群落の観察から,ヨシは基本 的に潮間帯に生育していること,潮間帯のヨシ群落内部において,潮溜りを形成する局地的凹地にヨ シは生育しないことが確認された.すなわち,水深がごく浅くても,常時水没している地盤・土壌にヨシ は生育していないことが明らかになった.ヨシ群落は,通常,水没と干出を繰り返す地盤・土壌に生育 するのであり,通気組織の働きには限界があるため,還元状態にある水没土壌では長期間生存できな いと考えられる.

はじめに

木曽三川を含め日本各地の河川下流部汽水域には広大なヨシPhragmites australis群落が発達し ている.長良川河口堰の建設・運用が長良川汽水域の広大なヨシ群落にどのような影響を与えるのか, 様々な議論が交わされた(奥田 1990,建設省河川局・水資源開発公団 1993,山内 1996,山内ほか 2010a,b).しかし,ヨシへの影響が詳細に検討されることがないまま,1995 年に河口堰の運用が開始さ れた.広大なヨシ原の行先は人々の重大な関心事であり,堰運用後,私たちはヨシ群落の変化を継続的

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34 に調査してきた.その結果,長良川河口堰運用後7 年目までに堰上流湛水域のヨシ群落の約 90%が消 失したことを明らかにした(山内ほか 2010a,b).その消失過程は,面から線へ,線から点へ,そして点の 消滅と表現できる.河口堰湛水域の水位は通常標高T.P.0.80m–T.P.1.30m の範囲で調整される.面か ら線への減少は比較的水深の深い区域(生育地盤標高:T.P.約 0.70m 以下)で運用後 3 年の間に急速 に進行した(山内ほか 1999,2010a,b). 本報告では,まず,既報告では不明な点が多かった長良川の点状ヨシ(以後株立ちヨシとする)の特徴 について明らかにし,その死滅過程を調査結果から整理する.次に,河口堰運用によりヨシ群落が水没し た当初から感じていた疑問,つまり,ヨシはその生育地が常時水没することになっても生存できるのかどう かという基本的な問題について検討する.そのため,まず,全国各地において実施したヨシ群落と水位条 件の調査結果を示し,最後に長良川で起きたヨシ群落の死滅と生存の要因について総合的に考察す る.

調査地と方法

長良川のヨシ群落 河口堰運用 10 年後から,株立ちヨシの特徴,死滅状況を継続的に観察した.とくに梅雨や台風時期 の洪水時に河口堰のゲートが開けられ,干潮時にヨシ生育地盤が干出したとき(2011 年 9 月 22 日と 2012 年 6 月 20 日)に,9km 地点右岸において株立ちヨシの大きさやヨシ(地上茎)密度を調査した.ま た,洪水時に倒壊した株立ちヨシの状態を観察した.2019 年 1 月 28 日には,河口堰湛水域 7–10km 地点の両岸で,生残ヨシの生育地盤高を調べた.当日の河口堰上流の水位は 9:00–15:00 の間は標高 T.P.1.10m で安定していた(独立行政法人水資源機構長良川河口堰管理所 オンライン)ため,水面水 位 T.P.1.10m を基準にしてヨシ生育地盤の標高を推定した.株立ちヨシについては,根茎マットの上面 の高さを目視により調べた. 全国各地のヨシ群落 水位が観測されている日本各地の河川感潮域と汽水湖(汽水内湾・内海も含む),および琵琶湖各地 において,ヨシ群落の分布・生育状況の調査を行った.調査した水域は,日本海側で14 河川,太平洋側 (瀬戸内海を含む)で8 河川の合計 22 河川,汽水湖(内湾・内海を含む)においては 6 湖である(表 1). 河川河口域の水位は,隣接海域の潮位とほぼ同じと見なし,各河川河口に最も近い潮位観測地の潮 位を適用した.各観測地の潮位は,気象庁(オンライン)に掲載される潮位表(天文潮位)および実測によ る潮位偏差により推定した.ただし,実測潮位は気圧配置等の影響によって,天文潮位より20cm 前後高 いことも低いこともある. 長良川に隣接する揖斐川については,感潮域の上・中・下流に相当する河口から 6.0km,15.8km, 23.5km,28.2km の 4 地点において(大潮時の感潮域上端は 34.4km 地点;山内 2010),2012 年 3 月26 日と 4 月 8 日に実地調査を行った.揖斐川の河口から 4.8km 地点中州の潮間帯ヨシ群落内には 局地的凹地が潮溜りを形成しているため,2013 年 7 月 10 日にはこの付近のヨシの生育状況を調べた. なお,ここで潮間帯とは大潮最高高潮線と大潮最低低潮線の間とした(朝倉 2003).潮溜りの水位およ

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35 び地盤高は,河口堰下流250m(5.15km 地点)に設置された自動観測装置の水位(独立行政法人水資 源機構長良川河口堰管理所ホームページ)を基準にして,水管水準測量を行った. 琵琶湖については,国土交通省近畿地方整備局琵琶湖河川事務所(オンライン)で発表される水位を 用いた.ヨシに関しては,群落の生育場所のうち最も低い箇所に生えている個体の地上茎根元地表面(ヨ シ群落最低位部)の標高あるいは基準面表示高度を,水面の高度を基準にして目視により推定した.最 も高い箇所(最高位部)のヨシについては今回調査しなかった.

結果および考察

1.長良川における株立ちヨシの特徴および死滅過程 河口堰運用前に河口堰から13.8km 地点間に一面に広がっていたヨシ群落(34.4ha)は,浅瀬河床に 線状の群落を残して2002 年までに約 9 割が消滅した(山内ほか 2010a,b).その後,線状に生育してい 地域・種別 河川名 府県・観察地点 調査日時 日本海側 雄物川 秋田・河口より約1.3km右岸地点 2013. 5. 24  河川 最上川 山形・河口より約4km右岸地点 2012. 5. 14 阿賀野川 新潟・河口より約1km左岸地点 2014. 11. 9 庄川 富山・河口より約3km左岸地点 2012. 3. 27 小矢部川 富山・河口より約2km左岸地点 2012. 3. 27 羽咋川 石川・河口より約1km左岸地点 2013. 4. 13 大野川 石川・河口より約2.1km左岸地点 2013. 4. 13 大聖寺川 福井・河口より約1km左岸地点 2012. 3. 27 竹田川 福井・河口より約3km右岸地点 2012. 3. 27 九頭竜川 福井・河口より約2km右岸地点 2015. 4. 9 由良川 京都・河口より約2km左岸地点 2012. 4. 5 野田川 京都・阿蘇海河口地点 2012. 4. 5 川上谷川 京都・久美浜湾河口地点 2019. 2. 6 円山川 兵庫・河口より約2km左岸地点 2019. 2. 6 太平洋側 北上川 宮城・河口より約5km左岸地点 2015. 5. 24  河川 名取川 宮城・河口より約2km右岸地点 2014. 11. 18 阿武隈川 宮城・河口より約1km左岸地点 2014. 11. 18 久慈川 茨城・河口より約2km右岸地点 2012. 5. 24 利根川 千葉・河口より38km右岸地点 2013. 3. 12 揖斐川 三重・河口より約6km右岸地点 2012. 4. 8 瀬戸内河川 揖保川 兵庫・河口より約1.5km左岸地点 2012. 4. 5 千種川 兵庫・河口より約2km左岸地点 2012. 4. 5 汽水湖 八郎潟 秋田・船越水道左岸側水路末端    河口より約6km地点 2013. 5. 24 北潟湖 福井・河口より約1km地点 2015. 4. 9 三方五湖 福井・久々子湖南端 2015. 4. 9 阿蘇海 京都・野田川河口 2012. 4. 5 久美浜湾 京都・川上谷川河口 2019. 2. 6 中海 鳥取・美保関中学校裏 2012. 4. 6 表1.全国各地のヨシ群落の分布・生育状況の調査場所・地点と日時.

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36 たヨシ群落もほぼ全滅し,現在,株立ちヨシの形で点状に残存しているだけである(図 1).面状の群落か ら線状の群落への衰退は急激にまた広範囲に起きた.一方,線状から点状への衰退については,私た ちが全く予想していなかったことであり,その原因については後述する. 洪水時に河口堰のゲートが開けられ,干潮時にヨシ生育地盤が干出したときに,株立ちヨシを観察した. 株立ちヨシは地上茎と葉からなる上部,地上茎の基部から下の水中の根茎部,および地下の根茎部の 3 部に分けられた(図2A).水中の根茎部は,地下茎とひげ根が緊密に絡み合い,空間を埋め尽くすマット 状を呈しており(以下,根茎マット),河床から立ち上がって水中に露出した状態にあった(図 2A).通常 図1.長良川河口堰湛水域のヨシ.A:群落1(左岸 7.3km 地点.2019.1.28.水面標高T.P.1.10m).株立ち ヨシの根茎マット上面は水面より10cm 低い(左側)ものから5cm 高い(右側)ものまで.本地点は河口堰運用 前にはヨシ群落が川岸に沿って約50m 幅で帯状に分布していた.B:群落2(左岸 9.0km 地点.2019.1.28. 水面標高T.P.1.10m).株立ちヨシの根茎マット上面は水面より 2–5cm 高い.本地点では左右両岸とも河口 堰運用前にはヨシ群落が川岸に沿って約50m 幅で帯状に分布していた.

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37 図2.長良川河口堰湛水域の株立ちヨシ.A:根茎マット(長良川8.9km 地点右岸.大雨出水時の河口堰ゲー ト開放時.2016.9.21).破線 a,茎基部(根茎マットの上面); b,現在の地表面(根茎マットの下面);d,株立 ちヨシの直径 56cm;h,現地表面からヨシ群落死滅前地表面(根茎マットの上面)までの高さ 62cm;r,ひげ 根(地下茎以外の空間を埋め尽くす茶褐色の物体);ss,地下茎(明色点状,棒状の物体).根茎マット部は通 常水中にある.B:河口堰運用後15 年目(長良川右岸 9km 地点より下流を見る.2010.6.28.大雨出水時の 河口堰ゲート開放時).2019 年には写真前から 2 つの株立ちヨシは消滅し,右奥に見える株立ちヨシが残存し ている.根茎マットの上面の標高はT.P.1.17m.C:河口堰運用21 年後(長良川 8.9 km 地点右岸.2016.9. 21.大雨出水時の河口堰ゲート開放時).ヨシ地上部は倒伏している.このような状態は私たちの長年の観察 でも初めてで,きわめて大きな力,例えば流木などがなぎ倒したものと思われる.D:洪水による倒壊(長良川 左岸9km 地点.2010.6.28.大雨出水時の河口堰ゲート開放時).矢印は洪水時になぎ倒された株立ちヨシ.

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38 の健全なヨシ群落では,根茎マットは地下に埋まっているもの であり,根茎マットが地上部に露出していることはない.これ は,広範囲にわたってヨシが死滅したことで,根茎が腐敗し, 土壌の緊縛力が低下して,わずかに生き残った株立ち状のヨ シ周辺の地盤が浸食されることで形成されたと考えられる(山 内ほか 2010a,b). 河口堰のゲートが閉じられている通常時には、株立ちヨシ の大半では,その根茎マット上面は水面より2–5cm 高かった. 他方,少数ではあるが,水面より10cm 低い箇所もあった(図 1A).今回,岸辺のヨシは約 T.P.0.90m–T.P.1.30m の地盤 に生育していること,残存している株立ちヨシは,その根茎マ ット上面の高さから見て,河口堰運用前にはT.P.1.00m–T.P. 1.17m の地盤に生育していたことが確認された. 9km 地点右岸における株立ちヨシの大きさ(根茎マット上 面における長径と根系マット上面の河床面からの高さ,2011. 9. 22 調査)および株立ちヨシの地上茎密度(9km 地点右岸, 2012.6.20 調査)の調査結果は表 2 および表 3 に示される. 建設省・水資源開発公団(当時)の長良川 8 地点合計 21 ヶ 所の調査では,河口堰運用前のヨシ平均密度はすべての調 査箇所において100 本/m2以下であった(建設省中部地方建設局・水資源開発公団中部支社 1995). 河口堰運用1 年後の 1996 年 6 月における伊勢大橋上流のヨシ密度は最大で約 180 本/m2であり(山 内ほか 1999),1999 年 7 月には 120 本/m2以下であった(山内ほか 2010a,b).また,2000 年 7 月に おける 9.7km 地点(生育地盤の標高,T.P.105cm)では約 250 本/m2であった(山内ほか 2010a,b). 既知のヨシ密度と比べて,今回調査した株立ちヨシの茎密度は極めて高く,平均で836.9/m2であった. 株立ちヨシは株の大きさを拡大することはないが,衰退もしないようである.株立ちヨシ形成後 10 数年 間ほとんど変わらない姿で生存し続けるものもあった(図1,図 2B,C).株立ちヨシにおいて,根茎マットの 外側に新しい地下茎やヒゲ根が伸長している様子は観察されなかった.地下茎やヒゲ根は光を避け,根 茎マットの内側に形成され,根茎マット内で伸長し,極めて高い密度で空間を満たしていると考えられる. 長良川では,株立ちのヨシの死滅は出水時に起きた(図 2D).出水時の強い水流によってなぎ倒され 表3. 株立ちヨシにおける地上茎密度. 株立ちヨシ 長径 短径 面積 地上茎数 地上茎密度 観察番号 (cm) (cm) (m2) (本) (本/m2) 1 50 40 0.16 91 568.8 2 30 30 0.07 58 828.6 3 40 35 0.11 102 927.3 4 44 35 0.12 110 916.7 5 50 40 0.16 150 937.5 根茎マット 高さ(cm) 長径(cm) 1 50 55 2 43 56 3 49 41 4 48 42 5 40 27 6 44 45 7 45 38 8 53 35 9 42 30 10 46 30 11 54 38 12 62 57 13 42 50 14 53 49 15 48 44 16 52 65 17 58 62 18 56 67 19 57 66 20 60 80 表2.株立ちヨシの大きさ(根系マット 上面の河床面からの高さと長径).

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39 ることもあれば,流木などのより強い力によってなぎ倒されることもある.現在までに生残しているものも, 流木などによってなぎ倒され,最終的には消滅するのであろう. 2.全国各地のヨシ生育場所の水位とヨシ死滅との関係 河川感潮域および汽水湖のヨシ 河口堰運用10 年後から,株立ちヨシの特徴,死滅状況を継続的に観察した.とくに 梅雨や台風時期 の洪水時に河口堰のゲートが開けられ,干潮時にヨシ生育地盤が干出したとき(2011 年 9 月 22 日と 2012 年 6 月 20 日)に,9km 地点右岸において株立ちヨシの大きさやヨシ(地上茎)密度を調査した.ま た,洪水時に倒壊した株立ちヨシの状態を観察した.2019 年 1 月 28 日には,河口堰湛水域 7–10km 地点の両岸で,生残ヨシの生育地盤高を調べた.当日の河口堰上流の水位は 9:00–15:00 の間は標高 T.P.1.10m で安定していた(独立行政法人水資源機構長良川河口堰管理所 オンライン)ため,水面水 位 T.P.1.10m を基準にしてヨシ生育地盤の標高を推定した.株立ちヨシについては,根茎マットの上面 の高さを目視により調べた. 表4 および図 3 に河川感潮域と汽水湖におけるヨシ群落と生育地水位の調査結果を示す.日本海側 の各河川および汽水湖では干満の潮位差は比較的小さく,潮間帯の高低差は天文潮位で見ると 56cm から72cm の間にあった. 日本海側では,水際以外の大部分のヨシ群落において,その生育地盤は大潮最低潮位より 30cm 以 上高かった.最低位部が大潮最低潮位より低いヨシ群落は 1 つの例外を除いて皆無であった.例外は, 唯一九頭竜川河口の砂礫地で見られた(図3B).一方,潮間帯の高低差が大きい太平洋側では,ほとん どの河川でヨシ群落最低位部は大潮最低潮位より50cm 以上高いという結果であった.揖斐川では,ヨシ 群落最低位部と大潮最低潮位との高低差は130cm 以上になると推定された.今回ヨシ群落最高位部地 盤高は調べられなかったが,次の事実は,基本的にヨシ群落最高位部が潮間帯内に位置することを示唆 するものである.1)国土交通省・水資源機構による長良川河口堰湛水域の造成中洲において,ヨシ植栽 直後にはヨシがよく繁茂したが,数年後には中州中央部はオギMiscanthus sacchariflorusやセイタカ アワダチソウ Solidago altissima,ヤナギ類など他植物に交代した(山内ほか 2010a,b).これら造成中

調査場所 直近の潮位 観測地 観察時の潮 位*2 観察年の最 高潮位*3 観察年の最 低潮位*3 ヨシの生育状況 ヨシ根元地 表面の高さ*4 八郎潟 秋田 26cm 46cm -10cm 大部分の生育地盤は水面 より約20cm以上高い.水 際では約2m幅で生育地盤 は水面下約20cmまで低 下 16cm 雄物川 秋田 25cm 46cm -10cm 水面より約5cm以上高い 地盤に生育.一部水際の み水面下15cmの地盤より 生育 20cm 最上川 酒田 5cm 47cm -13cm 水面より約15cm以上高い 地盤に生育 33cm 表4.河川感潮域および汽水湖におけるヨシ群落の分布と水位(潮位*1).

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40 調査場所 直近の潮位 観測地 観察時の潮 位*2 観察年の最 高潮位*3 観察年の最 低潮位*3 ヨシの生育状況 ヨシ根元地 表面の高さ*4 阿賀野川 新潟西港 19cm 45cm -13cm 水面より約5cm以上高い 地盤に生育.一部水際の み水面下15cmの地盤より 生育 17cm 庄川 新湊 4cm 53cm -15cm 水面より約15cm以上高い 地盤に生育.一部水際の み水面下10cmの地盤より 生育 9cm 小矢部川 新湊 1cm 53cm -15cm 水面より約5cm以上高い 地盤に生育 21cm 羽咋川 金沢 13cm 51cm -12cm 水面より約5cm以上高い 地盤に生育 30cm 大野川 金沢 13cm 51cm -12cm 水面より約5cm以上高い 地盤に生育.一部水際の み水面下5cmの地盤より 生育 20cm 大聖寺川 三国 -7cm 47cm -17cm 水面より約地盤に生育5cm以上高い 15cm 北潟湖 三国 -12cm 48cm -13cm 水面より約15cm以上高い 地盤に生育 16cm 竹田川 三国 -7cm 47cm -17cm マコモより岸側(高標高側) の干出地に生育 21cm 九頭竜川 三国 -10cm 48cm -13cm 大部分は水面より約5cm 以上高い地盤に生育.水 面より約25cm低い河床に も生育.河床は礫地 -22cm 三方五湖 敦賀 -2cm 48cm -16cm 水面より約5cm以上高い地盤に生育 19cm 由良川 舞鶴 8cm 56cm -11cm 大部分は水面より約5cm 以上高い地盤に生育.水 面より約5cm低い河床にも 生育 14cm 野田川・阿 蘇海 宮津 3cm 52cm -20cm 水面より約5cm以上高い 地盤に生育 28cm 川上谷川・ 久美浜湾 津居山 -2cm 51cm -18cm 水面より約15cm以上高い 地盤に生育 31cm 円山川 津居山 10cm 51cm -18cm 水面より約20cm以上高い 地盤に生育.群落水際で は水面より26cm低い河床 にも生育 2cm 表4.続き.

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41 調査場所 直近の潮位 観測地 観察時の潮 位*2 観察年の最 高潮位*3 観察年の最 低潮位*3 ヨシの生育状況 ヨシ根元地 表面の高さ*4 中海 境 4cm 58cm -8cm 水面より約15cm以上高い 地盤に生育 27cm 北上川 鮎川 38cm 142cm -10cm 水面より約10cm以上高い 地盤に生育.水深約5cm までの低標高側にヨシの 死滅残骸あり.東北地方太 平洋沖地震で約70cm地 盤沈下*5 58cm 名取川 仙台新港 59cm 169cm -12cm 大部分は水面より高い地 盤に生育.水際のみ水深 約15 cmの河床より生育. 水深約20cmの浅瀬に茎 の死滅残骸あり.東北地方 太平洋沖地震で約50cm 地盤沈下*6 56cm 阿武隈川 仙台新港 67cm 169cm -12cm 大部分は水面より15cm以 上高い地盤に生育.水際 のみ水深約20cmの河床 より生育.ヨシの死滅残骸 見られず.東北地方太平 洋沖地震で約20cm地盤 沈下*7 59cm 久慈川 日立 4cm 153cm -15cm すべて水面より高い地盤に 生育 19cm 利根川 銚子漁港 35cm 158cm -10cm すべて水面より高い地盤に生育 45cm 揖斐川 名古屋港 -81cm 131cm -160cm すべて水面より高い地盤に 生育 79cm 揖保川 姫路 63cm 131cm -18cm すべて水面より高い地盤に 生育 81cm 千種川 姫路 51cm 162cm -18cm すべて水面より高い地盤に 生育 69cm *6 国土地理院調査:直近の観測地宮城県岩沼市押分字新田で47 cm沈下. *7 国土地理院調査:直近の観測地宮城県亘理町逢隈字水塚で20 cm沈下. *1 潮位は各地の基準面表示で示される.ただし,名古屋(揖斐川)と境(中海)については標高で示す. *2 潮位偏差により修正した推定潮位. *3 天文潮位. *4 ヨシ群落最低位部ヨシの根元地表面の大潮最低潮位からのおおよその高さ. *5 国土地理院調査:直近の観測地宮城県南三陸町志津川字深田で69 cm沈下. 表4.続き.

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43 洲の地盤高は,水位変動範囲と同じT.P.0.80m から T.P.1.30m である(建設省中部地方建設局・水資 源開発公団中部支社 1999).これら造成中洲では現在までに T.P.1.20m 以上の高さの地盤のヨシは死 滅した.また,「ヨシが順調に定着・生育したことから本植栽地の調査を1997 年度で終了させた」(国土交 通省中部地方整備局・水資源機構中部支社 2006)とされた左岸 11km 地点のヨシ植栽地において,当 初良く繁茂したヨシは 1999 年までに水際の一部を残してすべて他の植物に交代した(山内ほか 2010a,b).2)河口堰運用前のほとんど変わらない状態を維持している長良川 12.5km 地点のヨシ群落 は地盤高T.P.0.97m–T.P.1.27m の範囲に生育していた.T.P.1.16m 以上,とくに T.P.1.30 以上の地盤 ではオギやゴキヅルActinostemma lobatumなどの植物が繁茂していた(山内ほか 2010a,b).つまり, ヨシは地下水位が数 10cm の地盤で生理的には生存可能であっても,実際には,他種植物との生存競 争の結果,大潮最高潮位より低い地盤にその分布を制限されていると判断される. 以上のように,ヨシ群落は基本的に潮間帯に生育していることが明らかになった.いいかえれば,ヨシ 群落の生育地は,基本的に浸水と干出を繰り返す場所であり,常時水没している場所には存在しなかっ た.唯一の例外は,九頭竜川河口部に見られたが,生育場所は礫質であり,地下間隙水は一定程度,溶 存酸素の豊富な河川水と交代していると考えられる箇所であった. 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災によって東北地方の広範な太平洋沿岸に数 10cm におよぶ地盤 沈下が生じた.沿岸の塩性湿地や各河川の潮間帯に発達したヨシ群落は水深の増加によって大きな影 響を受けると考えられる.今回,私たちは北上川や名取川の河口において低い地盤のヨシ群落が死滅し たことを確認した(図3D).一方,地盤沈下の規模が小さかった阿武隈川ではヨシの遺骸は観察されなか った.ヨシの消滅は巨大津波の直接的な破壊によるものではなく,地盤沈下によって生じた生育地の水 深増加が原因であると考えられる.したがって,これら死滅したヨシの復活は地盤の上昇がない限り実現 しないであろう. 日本の湖沼や河川において,ヨシが分布する沿岸帯には様々な水生植物が生育するが,それらは水 深に応じて生活型ごとに帯状分布を形成することが知られている(國井 2001).湖沼や河川の辺縁部に はヨシ,マコモ Zizania latifolia,ガマ Typha latifolia などの抽水植物,水深が増すとヒシ Trapa

japonica,ヒツジグサ Nymphaea tetragona などの浮葉植物,さらに深くなるとクロモ Hydrilla

verticillata やマツモCeratophyllum demersumなどの沈水植物が生育する.しかし,私たちの調査

では,このような生活型による帯状分布はほとんど見られなかった.22 河川中竹田川 1 河川でのみ,ヨシ 群落の前面にマコモ群落が見られただけである.その他の河川ではヨシが流心側の前面に分布していた. 河口堰運用前の長良川でもヨシは流心側前面に分布していた(建設省中部地方建設局・水資源開発公 団中部支社 1995).汽水湖では 6 ヶ所すべてでヨシ群落は沖側湖水に直接面していた(図 3A,C). 揖斐川のヨシ 水位とヨシ分布に関して表5 に示す結果を得た.4 月 8 日の名古屋港実測潮位は,満潮時 T.P.0.84m, 干潮時T.P.-1.66m で,それらの水位差は 250cm であった.揖斐川 6km 地点における水位差は 230cm 図 3.日本各地の河川感潮域と汽水湖におけるヨシ群落.A:北潟湖のヨシ群落(福井県吉崎町.2015.4.9. 11:50).水面より約 15cm 以上高い地盤に生育.B: 九頭竜川のヨシ群落(河口より約 2km 地点右岸. 2015.4.9,13:15).大部分は水面より約 5cm 以上高い地盤に生育.水面より約 25cm 低い河床にも生育する が,枯死したヨシも多い.河床は礫地.C:久美浜湾川上谷川河口のヨシ群落(2019.2.6.12:45).水面より約 15cm 以上高い地盤に生育.D:北上川のヨシ群落 (河口より約 5km 地点左岸.2015.5.24.11:40).地盤高 の低い部分でヨシ死滅後の茎残骸が見られる.2011.3.11 の東日本大地震で約 70cm の地盤沈下があった.

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44 図4.揖斐・長良川 4.8km 地点中州潮間帯潮溜まり周囲のヨシ群落(2013.7.10.調査).A,密生ヨシ群落;B, 疎生ヨシ群落;P,小池=潮溜まり,干潮時水深 8cm(2 時間 30 分で 0.5cm 低下). 干潮時T.P.-1.66m で,それらの水位差は 250cm であった.揖斐川 6km 地点における水位差は 230cm で,名古屋港における水位差より 20cm 小さい.単純に,揖斐川の水位が満潮時に名古屋港満潮時水 位より10cm 低く,干潮時に名古屋港干潮時水位より 10cm 高かったと仮定すれば,当日の揖斐川干潮 時の水位は約T.P. -1.56m,ヨシ群落最低位部地盤高は T.P.-0.25m と推定される.河川感潮域では上 流ほど潮間帯の水位差は小さくなるはずである.揖斐川の調査では,上流に行くにつれて水位差は次第 に減少し,28.2km 地点では 63cm であった.ここでも,ヨシの生育範囲はすべての調査地点で,少なくと も最低位部は潮間帯内にあることが確認された. 2013 年 7 月 10 日に,揖斐川河口から 4.8km 地点の中州において,潮溜り付近のヨシの生育状況を 調べた.当日の名古屋の最低低潮位(実測値)はT.P. -1.01m,最高高潮位は T.P.1.08m であったが, 本地点の潮位変動もほぼ同じと考えられる.潮溜りの水面標高は 11:00 に T.P.0.18m で,水深は 8cm であった.13:30 には水深は 7.5cm に低下したが,干潮の間,潮溜りは常時 7cm 以上の水深を維持する と考えられる. 本潮溜りでは,満潮位がT.P.0.18m 以下であった日は年間 2 回,干潮位が T.P.0.18m 以上であった 日は0 回であり(2013 年天文潮位),ほぼ毎日冠水・干出を繰り返していることになる.図 4 に示すように, ヨシは潮溜りのみならず周辺の低湿地にも分布していなかった.当日の本地点の最低低潮位は T.P. -1.01m で,ヨシ群落の最低位部の地盤高は T.P.-0.15m であった. 琵琶湖のヨシ 表6 および図 6 に示すように,琵琶湖のヨシ群落は,どの観察時においても水面より高い地盤に生育し ていた.琵琶湖の水位は,非洪水期(10 月 16 日–6 月 15 日)には+0.30m,洪水期には-0.20m(6 月 16 表5.2012年4月8日における揖斐川感潮域各地点の潮間帯とヨシ. 調査地点(河口からの距離) 観察日の干満水位差(cm) 最低位部ヨシ根元地表と干潮時水面との水位差(cm) 6.0km地点 230 129 15.8km地点 178 108 23.5km地点 106 36 28.2km地点 63 55

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45 図5.琵琶湖のヨシ群落.A:群落1(草津市烏丸半島南西基部.2015.9.27).当日の琵琶湖水位:-0.28m.株 立ちヨシの根茎マット上面は水面より15–25cm 高い.陸側ヨシ生育地は水面より 15cm 以上高い.水際の水 深は15cm.B:群落 2(高島市新旭町響庭.2018.8.22.琵琶湖水位-0.41m).株立ちヨシの根茎マット上面は 水面より20–35cm 高い.陸側ヨシは水面より 35cm 以上高い地盤に生育. 日–8 月 31 日)および-0.30m(9 月 11 日–10 月 15 日)を上回らないように管理されている(国土交通省 近畿地方整備局琵琶湖河川事務所 オンライン).1993–2015 年の 22 年間の水位状況を見ると,年間 最低水位は-0.33m 以下で,最も低下した 1994 年には-1.24m であった.私たちの観察では,琵琶湖の ヨシ群落は-0.3m の水位を基準にすれば基本的に約 10cm 以上水面より高い地盤に生育していることに なる.しかし,琵琶湖では,ヨシの分布は,湖水面を基準に高低差ほぼ±1m の範囲内にあるといわれてい る(吉良 1991).今回の私たちの調査は,水深が-0.40cm より深い地盤のヨシ群落を見落としたのであろ うか? そのヨシは今回私たちが見たヨシとは違う形態・生態を持つ可能性はないのであろうか? 1984 年末 から 1985 年始めにかけて起こった異常渇水のときには,水位が最低-0.95m まで下がり,ヨシの地上茎

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46 の基部からでた水中根が乾きあがる状態になった(吉良 1991).地上茎基部の根が水中に露出している のであれば,根は湖水中から酸素を取り込むことができる.琵琶湖の水中ヨシは土壌が還元状態であっ ても,その悪影響を軽減できると考えられる.また,今回の調査で,株立ちヨシは水位約-0.80m 前後の比 較的深い湖底にも生育していることが確認されたが,これらのヨシは水中に露出した無数のひげ根から容 易に酸素を吸収できるであろう.-40cm より深い地盤に生育しているヨシは,通常のヨシとは異なり,形態・ 生態が特殊化している可能性がある. 3.長良川河口堰上流部におけるヨシ群落死滅の原因 長良川河口堰湛水域において,堰運用後12 年目(2007 年)までに,標高 T.P.0.80m より低い地盤の ヨシ群落はすべて消滅したが(山内ほか 2010a,b),堰運用から 24 年後の本調査で,ヨシの衰退がさら 表6.琵琶湖におけるヨシの生育状況と水位. 調査日(水位) 調査地 ヨシの分布・生育状況 2014. 10. 4(-0.40 m) 草津市水生植物公園 大部分は水面より約20cm以上高い地盤に生育. 水際では株立 ちヨシ(根茎マット上面は水面より約20–40cm高い)が散見され る 草津市木浜1(南) 水際は杭等で護岸工事がなされている.水面より約30cm以上高 い地盤に生育 2015. 9. 27(-0.28 m) 草津市烏丸半島南西側 基部 大部分は水面より約5cm以上高い地盤に生育.水際に株立ちヨ シが多数見られる.株立ちヨシの根系最上部は水面より約15– 45cm高い.水際湖底の水深は15cm 草津市赤野井 生育地盤は水際で水面より約5cm以上高い 2018. 8. 22(-0.41 m) 湖北町今西丁野木川 河口 生育地地盤は水面より約10cm以上高い.株立ちヨシの根茎マッ ト上面は水面より約10cm以上高い 湖北町「湖北みずどり ステーション」 生育地地盤は水面より約20cm以上高い 高島市今津町浜分桂浜 園地 河床は砂礫からなり,株立ちヨシの根茎マット上面は水面より約 15cm–35cm高い.陸側ヨシは水面より約35cm以上高い地盤に 生育 高島市新旭町響庭 株立ちヨシの根茎マット上面は水面より約20cmないし約35cm 高い.株立ちヨシ1株が風波で倒壊していた.陸側ヨシは水面より 約35cm高い地盤に生育 高島市新旭町針江 広大なヨシ群落が見られた.陸側ヨシは水面より約30cm以上高 い地盤に生育 野洲市湖岸緑地中主 吉川地区 琵琶湖とつながる沼地. 生育地地盤は水面より約15cm以上高 い.株立ちヨシの根茎マット上面は水面より約15cm高い

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47 に進み,T.P. 0.90m より低い地盤のヨシはほぼ消滅したことが確認された.これら大規模なヨシ死滅の原 因は何であろうか? 過去に指摘されたヨシ群落衰退・死滅の原因を検討の素材にして,長良川で起きたヨシ死滅の原因に ついて考察する. 直接的・物理的なヨシ生育地の破壊 近年,土地開発や築堤などの土木工事にともなう埋め立てや浚渫によって,生育地が消失した.長良 川でもブランケット工事や護岸工事,あるいは河底の浚渫などの,直接的・物理的な生育地の破壊によっ て,堰運用開始の 1995 年までに広大なヨシ生育地が消失した.実に、約 300ha あったヨシ原は,約 100ha にまで減少していたのである(吉田 2000).護岸工事や浚渫は,15km 地点付近のマウンドを残 して,堰運用前にほぼ終了していたので(藤田ほか 2003),堰運用後におきたヨシ群落の死滅の原因と してこれ以上の直接的物理的要因の検討は行わない. 富栄養化 湖水の富栄養化による藻類の大発生およびその波及的影響がヨシ群落の衰退の原因となることが指 摘されている(桜井 2002).アオコなどの藻類が大発生すると,ヨシ群落の前面を守っていた沈水植物・ 浮葉植物の群落を壊滅させてヨシを波浪の攻撃にさらすとされる.また,吹き寄せられた藻類が群落内に 沈殿・腐敗して,底質の酸素を奪い,ヨシの根や地下茎を腐らせるとされる.しかし,前述したように,私た ちの調べた河川,汽水湖において,沈水植物・浮葉植物,あるいはマコモなどの他の抽水植物がヨシ群 落の前面を守るというような植生構成はほとんど見られなかった.ヨシ群落は直接河川水・湖水に面し,そ の波浪の浸食から岸部を守っているのが実態である.また,堰運用後に藻類の発生は増加したが(村上 2002),アオコの大発生を生じさせるような極端な富栄養化は起きていない. 船舶の波浪 船舶,ことにモーターボートが立てる波は,ヨシの根を洗い出して群落を後退させるという.ドイツのヨシ 保護条例では,ヨシ帯にボートが近づくことを禁止している(吉良 1991).長良川では,河口堰運用後に 堰上流湛水域ではモーターボートや水上バイクが増加したが,他方,シジミ漁の漁船の操業は消滅した. これら船舶の立てる波がヨシ群落の衰退を招いたとは次の理由で考えにくい.(1)堰運用前の長良川を 含め,木曽三川汽水域ではシジミ漁船が頻繁に操業していたが,ヨシ群落に悪影響を与えたという事例 は知られていない.(2)河口堰運用後まもなく,ヨシ群落は岸側あるいは中央部から死滅していき,ボート の波をもっとも強く受ける流心側のヨシがもっとも後まで生残した(山内ほか 1999,2010a,b). 粗大物体のローリング 桜井(1991)によれば,霞ヶ浦や琵琶湖など大きな湖の湖岸では,流木や古タイヤは強風の高波にも まれて繰り返し岸辺の水草群落の上をころげまわり水草を破壊する.このようなローリングによる破壊は, ヨシ群落にもおよぶ.沖側前面の弱い部分が流木等になで切りにされる.生長期に水上に出た茎や葉の 部分を繰り返し切り取られると早晩ヨシの地下茎は腐敗するので,底泥を押さえている力が失われ,浸食 が進んで残っている群落の根元がえぐられる.時にはヨシ群落が小さな島のように,つまり株立ち状に分 離するという.しかし,長良川河口堰湛水域では,流木や古タイヤなどの粗大物体は通常ほとんど見られ ない.洪水時に流入してもそれらは国土交通省・水資源機構によって速やかに除去される.まれにヨシ群 落縁辺に侵入しても,流木は周囲のヨシによって固定化されるので,風波によって動き回り,ヨシを破壊 することはない.流木等のローリングが長良川のヨシ死滅の原因とは到底考えられない.

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49 硫化水素の発生 桜井(2002)は,建設省・水資源開発公団(当時)の河口堰モニタリング委員会に報告された資料から, 微凹地における微細な有機物の集積,河床の嫌気化,さらには硫化水素の発生という一連の環境悪化 を想定し,河口堰湛水域のヨシが枯死した原因がヨシの適応限界をこえる量の硫化水素の発生にあると した.しかし,建設省・水資源開発公団の通常のモニタリング調査では,ヨシとの関連で硫化水素の調査 がなされたことはない.桜井氏の検討した資料は,河口堰運用後の平成7 年から平成 12 年までに出版さ れ一般に公開された「長良川河口堰モニタリング年報」ではなく,「長良川下流部におけるヨシ群落の保 全対策について」(建設省中部地方建設局・水資源開発公団中部支社 1999)という文書であると思われ る.しかし,この報告書でも硫化水素の調査は行われておらず,硫化水素に関する一言の言及もない.ま た,桜井氏の「硫化水素説」では硫化水素による枯死と酸素欠乏による根茎の腐敗による枯死との関係 が不明瞭である. 河口堰運用後,長良川河口域で硫化水素の発生があったことを否定するつもりはないが,それが湛水 域で広く生じ,生物の生存を脅かしたとは考えにくい.実際,ヨシ群落が急激に死滅した時期に,ヨシ群 落の死滅した河床にクロモやオオカナダモEgeria densaなどの沈水植物が大量に発生していた(山内 ほか 1999).底生動物では,岸辺浅瀬にはカニ類(千藤ほか 2010),ユスリカ幼虫(粕谷ほか 1999) や,カワニナ類などの貝類も多数生息していた.また,これらの調査活動中に硫化水素の異臭を感じるこ とはなかった. 河床の嫌気化 前述した建設省・水資源開発公団の河口堰モニタリング委員会資料(建設省中部地方建設局・水資源 開発公団中部支社 1999)では,ヨシの枯死した箇所,まばらな箇所,よく繁茂した箇所の 3 ヶ所におい て,ヨシの生育状態や様々な環境要素を調査し,比較検討を行っている.この報告のなかで私たちは次 の2 点に注目したい. 第1 に,底土中のヨシの根茎重量と地下茎に形成された芽の数の鉛直分布である(図 6 として転載). 枯死した箇所の地下茎やヒゲ根の重量は,まばらな箇所や繁茂した箇所に比べて極めて少ない点は,枯 死後分解が進んだと考えれば当然であるが,注目すべき点は,底土表層(深さ 0–10cm)に比べて底土 の深い箇所(深さ 10–50cm)ほど重量が低下する点である.他方,ヨシの疎らな箇所,繁茂した箇所では 表層よりも下層の底土中で地下茎とヒゲ根の重量は顕著に大きい.この事実は,ヨシ地上部からよりはな れた地下茎やヒゲ根への酸素供給が十分でなく,底土深部で早く枯死・分解が進んだことを示唆するの ではないだろうか.次に芽の数についてみると,ヨシのよく繁茂している箇所では芽の数が多く,深い場所 の地下茎にも相当数の芽が形成されているのに対して,ヨシがまばらな箇所では表層近くに芽が集中し ており,ヨシが枯死した箇所では芽は少なく,すべて死んでいた.ヨシのまばらな箇所と繁茂した場所との 比較では,地下茎やヒゲ根の量や鉛直分布状況に大きな違いはないが,芽の数では顕著な違いが認め られたのである.芽の数がヨシの生育度の旺盛さの一端を示すと考えれば,深い底土中では外見上違い が認められなくとも,地下茎やヒゲ根の生育度の旺盛さにはすでに大きな差が生じているのではないだろ 図 6.ヨシの繁茂状況と地下茎の状況.建設省中部地方建設局・水資源開発公団中部支社(1999)の図-6 を 転載.N-1 から N-9 は長良川下流域のヨシの成育状況ごとに設定した採取地点.比較対照地点として長良川 と揖斐川の水際側にN-10 と I-1 地点を設けた.なお,グラフの縦軸は「水深」となっているが、底土サンプルの 深さなので「河床表面からの底土の深さ」であろう.

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50 図 7.ヨシの繁茂状況と底質の酸化還元電位(現地測定)の関係.建設省中部地方建設局・水資源開発公団 中部支社(1999)の図-9 を転載.凡例にある調査地点は図 6 のものと同じ.グラフの縦軸は図 6 で述べたよう に「河床表面からの底土の深さ」とすべき. うか. 第2 に,底土の著しい嫌気化である.酸化還元電位は「繁茂した箇所」では-100 から-200mV 前後で あったが,「枯死した箇所」では-350mV 前後まで低下していた(図 7 として転載).ヨシは底質の酸素欠 乏にはかなり耐えるが,それも酸化還元電位として-200mV 程度が限界だとされる(桜井 2002). なお,この調査(1998 年 10 月実施)で「繁茂した箇所」とされたヨシ群落(右岸 9.4km 地点,生育地盤 標高:T.P.0.20–0.90m)も,私たちの調査では 2010 年までにすべて死滅した. ヨシは水生植物の中の抽水植物に分類される.すなわち,植物体の一部が水中にあるが,大部分は気 中に出ている植物で,ヨシ,マコモ,ヒメガマ T. domingensis などがこれにあたる.嫌気条件になりやす い地下部に酸素を供給するために,葉,茎,あるいは根に通気組織と呼ばれる空隙があることなど,水中 や水辺の生活に適した形態を持つ(國井 2003).ヨシの生育環境としての水位は,水深約 2m から,地 下水位約1m までであり水深約 50cm から地下水位 20cm の間でよく繁茂する.地下茎には通気組織が よく発達しており,地上部の葉や茎,あるいは枯死した茎を通して根茎へ大気中の酸素が送られていくた め,ヨシは湛水条件下での還元状態にある土壌にも十分生育することができる(鈴木ほか 1988).一般 に,ヨシ群落が流れの比較的緩やかな,有機物や細粒鉱物等が沈殿して河床・湖床が嫌気化しやすい 環境に生育することに異論をはさむ者はいないであろう.長良川河口堰湛水域のヨシ死滅域で,酸化還 元電位が著しく低いことは建設省・水資源開発公団の河口堰モニタリング委員会資料(建設省中部地方 建設局・水資源開発公団中部支社 1999)で実証されている.以上のように,既知の知見を概観したとき, ヨシの生存に決定的に重要な条件として,通気組織による酸素輸送がどれほどの有効性を持つのか,と いう問題に突き当たる. 通気組織の酸素輸送機能に関しては,細見(2004)が多くの研究について紹介・解説を行っている. 分子拡散や対流により空気が流れるマスフローなどのモデルが検討され,通気組織を通じて地下部へ酸 素輸送があることが示される.しかし,酸素輸送の速度あるいは根茎へ供給される酸素量が根茎の長期 生存を保証するにたるものであるかどうかは不明である. 結局,長良川河口堰湛水域のヨシ群落死滅の原因は,通気組織の機能の過大評価を排して,根茎の 酸素不足による死と推定するのが妥当であろう.

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結論

今回の河川下流域潮間帯や琵琶湖のヨシ群落の観察で,ヨシ群落は基本的に一定期間干出する地 盤・土壌に生育することがわかった.ただし,このことだけでは,ヨシの生存に地盤・土壌の干出が必要で あることを意味しない.干出がヨシの生存に悪影響を及ぼさないというだけのことであるかも知れない.し かるに,長良川河口堰湛水域のヨシ群落の死滅は,この問題を考察する上で決定的な事実を示した.す なわち,干出しないあるいは短期間干出するだけの土壌のヨシ群落は全滅した事実である.このことは, 干出はヨシの生存にとって必要であることを示すものである.ヨシは通常,水没と干出を繰り返す地盤・土 壌に生育するのであり,通気組織の働きには限界があるため,還元状態にある土壌ではいわゆる根腐れ が起こり,長期間生存できないと推定できる.流れの停滞した水域では,水没した地盤・土壌の間隙水は 容易に動かず,細菌や動・植物の呼吸によって溶存酸素は容易に消失する.停滞水域が有機物の沈 殿・腐敗が起きやすい場所であることは酸素の消費に拍車をかけるであろう.通気組織による酸素輸送に は限界があるはずで,土壌深部の根に十分な酸素を供給することができず,深部からヒゲ根が死滅して いく状況を想定することは合理的である. 私たちの考察が問題提起となって,ヨシ死滅の原因解明がさらに進展すれば幸いである.なお,ヨシほ ど詳しく調べられた訳ではないが,河口堰運用後,他の抽水植物,マコモ,サンカクイ Schoenoplectus

triqueter,ミズガヤツリCyperus serotinus,ガマなども,運用前に見られた地点すべて(それぞれ15,

12,6,5 地点)で消滅した(千藤・後藤 2010).抽水植物各種についても,その生存の水位条件につい てはより詳細な検討が必要である.

引用文献

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53 山内克典・古屋康則・足立 孝. 2010a. 長良川河口堰運用後の河口堰上流部のヨシ群落の変化. 長良 川河口堰事業モニタリング調査グループ (編). 長良川河口堰運用 10 年後の環境変化とそれが地域 社会に及ぼした影響の解析, pp. 55–65. 長良川河口堰事業モニタリング調査グループ, 名古屋. 山内克典・古屋康則・足立 孝. 2010b. ヨシ群落の死滅と生存. 長良川下流域生物相調査団 (編). 長 良川下流域生物相調査報告書2010 河口堰運用 15 年後の長良川, pp. 22–33. 長良川下流域生物 相調査団, 岐阜. 吉田正人. 2000. 河口堰が河口域の河川生態系に与えた影響. (財) 日本自然保護協会保護委員会河 口堰問題小委員会 (編). 河口堰の生態系への影響と河口域の保全, pp.111–124. (財) 日本自然保 護協会, 東京. (担当編集委員:横山 潤)

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54 Izunuma-Uchinuma Wetland Researches 14: 33–54, 2020

Cause of extinction of reed, Phragmites australis, in the water-covered area of the Nagara Rivermouth Barrage

Katsusuke Yamauchi & Yasunori Koya*

Department of Biology, Faculty of Education, Gifu University, Yanagodo 1–1, Gifu, Gifu 501-1193, Japan

*Corresponding author E-mail: [email protected]

Keywords: aerenchyma, brackish water, estuarine basin, exsiccation, Phragmites

australis, submergence

Received: June 4, 2019/ Accepted: January 21, 2020 Corresponding Editor: Jun Yokoyama

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