原 著
Shared decision making の観点からみた在宅高齢者の
終末期栄養療法に関わるチームの合意形成における訪問看護師の支援
Support from visiting nurses for consensus building in a home care team involved in nutrition therapyfor elderly patients at the end of life : From the perspective of shared decision making
清水奈穂美
Naomi Shimizu
滋賀医科大学 医学部 看護学科 公衆衛生看護学講座 Department of Public Health Nursing, Shiga University of Medical Science
要旨:【目的】在宅高齢者の終末期栄養療法に関わるチームの合意形成における訪問看護師の支援を明らかにする. 【対象と方法】訪問看護師 11 名を対象に半構成的面接を用いた質的記述的研究を行った.【結果】6 カテゴリーが 生成された.訪問看護師はチームの合意形成にむけて【食べることに対する本人や家族の意向を把握しておく】こ とから対話を始め,食べることが困難になった時に【栄養療法の意向を関係者間で情報共有し話し合いの準備】を していた.話し合いの過程では【本人や家族と医療や介護の関係者の栄養療法に対する方向性を整える】【話し合 いの場で本人や家族の意向に沿った栄養療法の選択を支える】【安らかな最期を迎えられるように食べることや点 滴をやめる選択を支える】ことを行い【本人や家族や関係者の思いを通して選択した栄養療法の評価】をしていた. 【結論】訪問看護師は,食べることの変化を通して,本人の意向を基軸に家族や医療や介護の関係者の意向も整え, 対話を継続しながらチームの合意を図っていた.これらは,本人を尊重しつつも家族や周囲との関係性を大切にす る日本の文化を踏まえた支援であることが示唆された.
索引用語:在宅高齢者,終末期栄養療法,shared decision making
受付日:2019 年 9 月 30 日 採用決定日:2020 年 6 月 12 日 背 景 高齢化の急激な進展の中で,人生の最後の時期 をどう過ごすか,どのような医療を受けたいかだ けに留まらず,最期まで自分らしく過ごすことへ の関心が高まっている1).特に,在宅高齢者が食 べることができなくなった時の栄養療法の選択 は,どのような終末期を過ごすのかを考えること になり,高齢者本人や家族を含む医療と介護のチ ームによる話し合いが重要となる2).高齢者の栄 養療法に対する家族,医師,訪問看護師,ケアマ ネ ジ ャ ー や ヘ ル パ ー ら の 価 値 観 は 様 々 で あ り3)∼8),選択の決定に合意することが難しい場合 がある.価値観の相違がある中で,在宅高齢者の 終末期における栄養療法に関わるチームの合意を 図ることは最善の医療とケアを実現するために必 要である. 治療やケアの選択時に本人と医療者が合意を形 成する協働意思決定プロセス(shared decision making; 以 下,SDM と 略 ) が あ る.SDM は, 患者の価値観や選好,最善のエビデンスに基づく 治療選択肢と起こりうる有益性と有害性につい て,患者と医療者といった少なくとも 2 人以上の 関係者が,情報を共有し治療の選択にむけて合意 を形成し,選択した決定に同意するプロセスであ る9)∼11).高齢者の栄養療法に関する意思決定ガ イドライン2)においても,医療職や介護職と本人 と家族がコミュニケーションを図り合意を目指す プロセスを通して,共に選択・決定することを推 奨している.しかし,価値観は様々でありチーム
の合意に至るプロセスには葛藤を生じる可能性が ある.先行研究では,訪問看護師は,意思決定支 援におけるチーム内の葛藤を認識し支援してい た6)8)ことが示されたが,具体的な支援内容は明 らかにされていない.在宅において,訪問看護師 は,輸液や経管栄養に関する知識や技術をもつ医 療職であり,チーム内の葛藤を捉え,話し合いを すすめる役割を担うと考えられるが,チームの合 意形成への支援に焦点を当てた研究は少ない. 人生の最終段階における医療の選択を支えるこ とが求められるなかで,訪問看護師の支援を明ら かにすることは,在宅高齢者の終末期栄養療法の 在り方を鑑みることができ,在宅チームによる SDM における示唆を得ることができると考えた. そこで,本研究は,在宅高齢者の終末期栄養療法 に関わるチームの合意形成における訪問看護師の 支援を明らかにすることを目的とした. 対象者および方法 1.研究デザイン 質的記述的研究 2.対象者 在宅看護専門看護師および訪問看護認定看護師 の資格をもつ訪問看護師 11 名.終末期栄養療法 の選択には,倫理的問題に対する高度な実践が必 要となるため専門看護師や認定看護師を対象とす ることによりインタビュー内容の質を確保できる と考えた. リクルート方法は,日本看護協会に登録されて いる近畿 2 府 4 県の訪問看護ステーションに所属 する専門看護師や認定看護師を便宜的に抽出し, 電話にて研究の概要を説明し,協力を依頼した. 3.データ収集方法 データ収集期間は 2016 年 6 月∼10 月末.デー タ収集方法は半構成的面接を用いた.対象者の基 本属性,在宅高齢者の終末期栄養療法においてチ ームが合意形成に至った事例についてインタビュ ーを行った.インタビュー内容は,インタビュー ガイドに基づき「いつ,どこで,どのようなタイ ミングで話し合いをしたのか」,「なぜ話し合いが 必要だと考えたのか」,「誰とどのように調整した のか」,「なぜ調整が必要だと考えたのか」,「合意 にむけて何をどのように支援したのか」,「合意に 至ることができた結果をどのように評価したか」 などについて質問した.インタビュー時間は 1 回 60 分程度とした.対象者の同意を得た上で,イ ンタビュー内容を IC レコーダーに録音し,フィ ールドノートに記録をとった. 4.分析方法 質的記述的研究とは,現象の記述であり,語ら れた内容を抽象化して記述することにより明らか にしたい現象の理解を促すことである12).本研 究は,訪問看護師の語りから看護実践を記述しチ ームの合意形成における支援を明らかにすること から質的記述的研究による分析を行った.分析方 法は,インタビューデータから作成した逐語録か ら訪問看護師の支援に焦点を当て,意味のある文 節を取り出し,コード化(概念化)した.コード は,意味内容の類似性や相違性を比較分析し,新 たなコードの抽出がみられなくなった段階で飽和 に至ったと判断した.次に,類似したコードは, 一つにまとめ,概念の抽象度を上げ,サブカテゴ リー,カテゴリーを生成し,支援内容を検討した. また,真実性,信頼性,妥当性を確保するために, 分析過程においては解釈の手順やコード化の方法 に関する相互了解を得た上で,在宅看護および老 年看護の研究者,在宅看護の実践者と共に検討し た.データの分析や解釈の結果を対象者に示し, カテゴリー,サブカテゴリーの内容に同意できる かどうかを確認するメンバーチェッキングを行 い,承認を得た12)13).研究過程すべてにおいて在 宅看護の専門家よるスーパーバイズを受けた. 5.用語の定義 1)終末期栄養療法 経口摂取が困難となり生命に必要な栄養補給が できなくなった時に,自然な経口摂取,胃瘻,経 鼻経管栄養,中心静脈栄養,末梢静脈輸液,皮下 輸液から選択し実施するとした. 2)合意形成 訪問看護を利用している在宅高齢者とその家 族,在宅医,訪問看護師,ケアマネジャー,ヘル パーなどにより構成された関係者が,情報を共有 し,話し合いを通して,共に納得した選択・決定 をするとした. 3)チーム
訪問看護を利用している在宅高齢者とその家 族,在宅医,訪問看護師,ケアマネジャー,ヘル パーなどの関係者により構成されるグループとす る. 6.倫理的配慮 対象者へは,研究の主旨,研究協力の任意性, 中断する自由の随時保障,プライバシー保護の遵 守,匿名性の保持,目的以外にデータを使用しな いことを口頭と文書にて説明し,署名をもって同 意を得た.本研究は,大阪府立大学大学院看護学 研究科研究倫理委員会の承認(No.28-12)を受け て実施した. 結 果 1.対象者の概要 対象者は,在宅看護専門看護師 3 名,訪問看護 認定看護師 8 名,訪問看護師歴 10∼25 年,専門 看護師や認定看護師の活動年数は 4∼7 年であっ た.インタビューで語られた事例は 12 事例,イ ンタビュー時間は平均 55 分(範囲 28 分∼86 分) であった. 2.在宅高齢者の終末期栄養療法に関わるチーム の合意形成における訪問看護師の支援内容 在宅高齢者の終末期栄養療法に関わるチームの 合意形成における訪問看護師の支援内容は,6 カ テゴリー,32 サブカテゴリー,152 コードが生成 された(表 1).以下,文中のカテゴリーは【 】, サブカテゴリーは《 》とし,対象者の語りは斜 字を用いて記述し,「 」は語りの部分引用,( ) は文脈を明らかにするために補足を表す. 在宅高齢者の終末期栄養療法に関わるチームの 合意形成にむけて,訪問看護師は【食べることに 対する本人や家族の意向を把握しておく】ことか ら対話を始め,食べることが困難になった時に本 人や家族の【栄養療法の意向を関係者間で情報共 有し話し合いの準備】をしていた.そして,話し 合いの過程で生じたチームの揺れに応じて【本人 や家族と医療や介護の関係者の栄養療法に対する 方向性を整える】ことを行いながら【話し合いの 場で本人や家族の意向に沿った栄養療法の選択を 支える】ことをしていた.栄養療法の選択後も【安 らかな最期を迎えられるように食べることや点滴 をやめる選択を支える】ことを継続し【本人や家 族や関係者の思いを通して選択した栄養療法の評 価をする】支援をしていた. 1)【食べることに対する本人や家族の意向を把握 しておく】 訪問看護師は,病状から経口摂取が困難になる ことを予測し,事前に食べることができなくなっ た時の栄養療法に対する意向を本人に尋ねてい た.「発病した時から胃瘻や経管栄養といった無 駄な延命治療はしないと本人からいつもきいてい る」や「本人はもともと食べることがすごく好き な人で胃瘻や経管栄養といった不必要な延命はし ないという考えがある」といった《普通に食べる ことができていた時の本人の栄養療法に対する意 向を把握する》ことをしていた.また,食事摂取 量の変化をみながら嚥下機能低下に伴い《食事摂 取量が減少した時に本人や家族の栄養療法に対す る意向を確認する》ことをしていた.そして,食 べることに対する思いを通して《最後まで口から 食べて家にいたいという本人や家族の希望をき く》ようにしていた. 「(本人が)元気な時というか,訪問看護の開始 の当初から,もう年だし,眼も見えないけど,曲 がりなりにも自分の意思で行動できるから最後ま で家にいたい,食べることができなくても何もし なくていい,家で死なせてっていうのをきいてい る」(50 代 訪問看護師) 2)【栄養療法の意向を関係者間で情報共有し話し 合いの準備をする】 訪問看護師は,嚥下機能を評価し《本人の意向 を実現することで予測されるリスクと予後の見通 しを立てる》と同時に《本人や家族や関係者の栄 養療法に対する意向が一致していない状況を捉え る》ことにより話し合いの必要性を判断していた. そして《食べることが困難になった時に本人や家 族と医療や介護の関係者の話し合いの場をつく る》ために,チームに話し合いの必要性を投げか け,話し合いの日時や場所を調整していた.また, 介護体制や療養生活を見据えて《栄養療法の選択 に応じてケアを担う家族やヘルパーを話し合いに 誘う》ようにしていた.さらに,電話や直接会い
に行き《本人や家族の栄養療法に対する意向を医 師に伝え,事前に話を合わせておく》ことや《本 人や家族の栄養療法に対するステーション内のス タッフの意向を取りまとめる》準備をしていた. 「(医師に)生きていくために栄養が必要だと言 われると受け入れてしまうような家族だったか ら,本人の気持ちが一番大事かなと思ったので, 本人をまじえて,家族もまじえて,きっちり話し 合いをしないといけないと思ったんです」(50 代 訪問看護師) 3)【本人や家族と関係者の栄養療法に対する方向 性を整える】 話し合いの過程では,訪問看護師は《一度決め た最期まで口から食べて家にいたいという本人の 意向を再確認する》ことをしながら《キーパーソ ンとなる家族の栄養療法と療養場所に対する意向 を確認する》ようにしていた.意向が揺れた時に 表 1 在宅高齢者の終末期栄養療法に関わるチームの合意形成における訪問看護師の支援内容 カテゴリー(6) サブカテゴリ―(32) 食べることに対する 本人や家族の意向を 把握しておく 普通に食べることができていた時の本人の栄養療法に対する意向を把握する 食事摂取量が減少した時に本人や家族の栄養療法に対する意向を確認する 最期まで口から食べて家にいたいという本人や家族の希望をきく 栄養療法の意向を 関係者間で 情報共有し 話し合いの準備 をする 本人の意向を実現することで予測されるリスクと予後の見通しを立てる 本人と家族と関係者の栄養療法に対する意向が一致していない状況を捉える 食べることが困難になった時に本人や家族と医療や介護の関係者の話し合いの場をつくる 栄養療法の選択に応じてケアを担う家族やヘルパーを話し合いに誘う 本人や家族の栄養療法に対する意向を医師に伝え、事前に話を合わせておく 本人や家族の栄養療法に対するステーション内のスタッフの意向を取りまとめる 本人や家族と医療や 介護の関係者の 栄養療法に対する 方向性を整える 一度決めた最期まで口から食べて家にいたいという本人の意向を再確認する キーパーソンとなる家族の栄養療法と療養場所に対する意向を確認する 胃瘻や点滴を望まない本人と生きて欲しいと願う家族の意向をすり合わせる 本人を静かに見守りたい家族と何とかしたい家族の意向をすり合わせる 胃瘻や点滴を選択したほうがいいと考える医師と本人や家族の間に入り意向をつなぐ 点滴や食べることに対する訪問看護師とケアマネジャーやヘルパーの認識のずれを解決する 食事介助を支えるヘルパーの家族のような心情を理解しながらチームで栄養療法を検討する ことを促す 食べることに対する関係者間の合意を積み重ねるために話し合いを続ける 話し合いの場で 本人と家族の意向に 沿った栄養療法の 選択を支える 自らでも代弁でも栄養療法に対する本人や家族の意向の表出を支える 本人や家族の理解力に合わせた栄養療法の情報を提供し、本人や家族の理解を確認する ケアマネジャーやヘルパーに本人が食べることができない理由について説明する 本人や家族や関係者の栄養療法に対する意向とその理由についての対話をすすめる 栄養療法の選択にかけられる時間を判断し本人や家族に伝える 本人や家族が決定した栄養療法の選択をチームで尊重する 本人や家族の選択した栄養療法に合わせたケアの体制を保証する 安らかな最期を 迎えられるように 食べることや 点滴をやめる 選択を支える 本人の苦痛を考え点滴中止に向けて本人や家族の意向を確認する 食べることや点滴をやめることが本人の安楽につながることを家族やヘルパーやケアマネジ ャーに説明する 本人の苦痛のないように点滴中止を医師と相談する 食べることや点滴をやめることを本人や家族や関係者と共に受け入れる 本人や家族や 関係者の思いを通して 選択した栄養療法の 評価をする 口から食べて家にいたいという意向が実現できたことに対する本人の思いを捉える 点滴を選択して最期まで家でみることができたことに対する家族の思いをきく 話し合いを通して栄養療法の選択ができたことを家族や関係者と振り返る 食べることに対するチームの思いがひとつになり最期まで支えられたことを評価する
は《胃瘻や点滴を望まない本人と生きて欲しいと 願う家族の意向をすり合わせる》や《本人を静か に見守りたい家族と何とかしたい家族の意向をす り合わせる》ことをしていた.また,《胃瘻や点 滴を選択したほうがいいと考える医師と本人や家 族の間に入り意向をつなぐ》ことや《点滴や食べ ることに対する訪問看護師とケアマネジャーやヘ ルパーの認識のずれを解決する》ことをしていた. さらに,「点滴をしてほしい」や「無理をしてで も食べさせたい」と訴える《食事介助を支えるヘ ルパーの家族のような心情を理解しながらチーム で検討することを促す》ことや《食べることに対 する関係者間の合意を積み重ねるために話し合い を続ける》ことによりチームの方向性を整えてい た. 「(本人は)点滴以外の治療も,点滴も嫌やって いって,とにかく一切受け付けなかったんですよ. ずっと家にいるって.(選択に)迷っておられる 息子さんの苦しい思いを少しでも改善できるよう な,背中を押してあげられるようなことがあれば なと思って,今までこんな例があったよとか,そ ういう話をさせてもらった」(40 代 訪問看護師) 「点滴して欲しいっていったのもヘルパーさん やったんやけどね(中略).2 年間,みんなで関 わってきた中で,チームとして,やっぱし,みん なが思っていることがあったと思うし,私らがみ れてないその人の側面もあっただろうと思うし, みんなで話し合って決めていくって(ヘルパーに 話した)」(40 代 訪問看護師) 4)【話し合いの場で本人や家族の意向に沿った栄 養療法の選択を支える】 話し合いの場では,訪問看護師は《自らでも代 弁でも栄養療法に対する本人や家族の意向の表出 を支える》ことをしていた.意向を共有した後に は,栄養療法の選択肢や選択肢に応じた療養生活 の変化と予後の見通しについて,医師と協働し《本 人や家族の理解力に合わせた栄養療法の情報を提 供し,本人や家族の理解を確認する》ことや《食 べることができない理由をケアマネジャーやヘル パーに説明する》ことをしていた.《本人や家族 や関係者の栄養療法に対する意向とその理由につ いての対話をすすめる》なかで「本人にとって何 を大事にするのか」をチームに問いかけていた. そして《栄養療法の選択にかけられる時間を判断 し本人や家族に伝える》と共に,《本人や家族が 決定した栄養療法の選択を尊重する》ことや《本 人や家族が選択した栄養療法に合わせたケアの体 制を保証する》ことをチームで話し合い選択を支 えていた. 「最後までお母さん(本人)が望む生き方って なんだろうっていうことを,息子さんと娘さんに 考えてもらいたかったというのは一番あるかな. (本人が)しゃべれないから自分達が決めるって ことじゃなくて,元気だったら,口がきけたら, だから,あの(本人が)願うことを(中略),あ なたのお母さんだったら,どういう(栄養療法の) 選択をすると思いますか,それを考えて答えても らいたいんですって(みんなの前で)いった」(50 代 訪問看護師) 5)【安らかな最期を迎えられるように食べること や点滴をやめる選択を支える】 訪問看護師は,決定した選択を支えながら,看 取りの時期を判断し《本人の苦痛を考え点滴中止 にむけて本人や家族の意向を確認する》ことを続 けていた.食べることや点滴の有益性がないと判 断した時には,《食べることや点滴をやめること が本人の安楽につながることを家族やケアマネジ ャーやヘルパーに説明する》ことや《本人の苦痛 のないように点滴中止を医師と相談する》ことを していた.そして,家族やヘルパーやケアマネジ ャーに終末期の身体的変化を伝え,食べることを 支えてきたことを労いながら,本人が安らかな最 期を迎えられるように《食べることや点滴をやめ ることを共に受け入れる》ことを支えていた. 「点滴をせずに様子をみることもお父さん(本 人)が楽に過ごせる方法なんだけどもっていって. 奥さんが腑に落ちる,納得できるように,繰り返 し説明したというのはあります」(50 代 訪問看 護師) 「本人が(点滴を)嫌だっていうことをわざわ ざする必要があるのか,ま,点滴をして回復の見 込みがあるのであればもちろんするけれども,そ うでなければ本当にする必要があるのかっていう ところで,あの,もういっぺん先生とヘルパーさ
んとケアマネさんと話し合って(中略),点滴は(や める)っていう感じになった」(40 代 訪問看護師) 6)【本人や家族や関係者の思いを通して選択した 栄養療法の評価をする】 訪問看護師は,《口から食べて家にいたいとい う意向が実現できたことに対する本人の思いを捉 える》ことや《点滴を選択して最期まで家でみる ことができたことに対する家族の思いをきく》こ とにより,選択した結果を評価していた.また,《話 し合いを通して栄養療法の選択ができたことを家 族や関係者と振り返る》ことや《食べることに対 する思いがひとつになり最後まで支えられたこと を評価する》ことによりチームで選択を支えたこ とを振り返っていた. 「みんなで話し合って,最期,家での看取りに 至るまで,本人が食べられるときは食べる,口か ら食べることを続けることにみんなの覚悟が一致 できたことが良かったし,家族も医師もみんなや りきった感じだった」(40 代 訪問看護師) 考 察 終末期栄養療法に関わるチームの合意形成にお ける訪問看護師の支援は 6 カテゴリー抽出された (図 1).本研究では訪問看護師は常に本人と家族 を中心に話し合いをしていたこと,栄養療法の選 択は【話し合いの場で本人や家族の意向に沿った 栄養療法の選択を支える】ことを行い,栄養療法 の選択後も【安らかな最期を迎えられるように食 べることや点滴をやめる選択を支える】ことを継 続した 2 段階のプロセスがありチームの話し合い を通して決まることが特徴的であった. 1.本人と家族の意向の把握と話し合いの準備 訪問看護師は【食べることに対する本人や家族 の意向を把握しておく】ことから対話を開始し, 食べることの変化を通して,繰り返し意向を確認 していた.これは,本人や家族の意向に一貫性が あるのかを判断しながら,本人と家族に意向の変 更は可能であることを示し,意向の変更に対応し ていたと考える.また,事前に意向を確認してい たことは,本人や家族を尊重した栄養療法の選択 を支えるための準備であると考えられた.さらに, 食べることを通して,最後まで住み慣れた家です ごしたい思いや人として自然な死を迎えることを 希望する本人の生き方を知ることにつながってい た.小楠は,「生きていく上で身近な食べること の問題は高齢者にとっても身近であり,高齢者に 食べることへの思いを問うことにより高齢者なり の生き方についての考えを聴くことができた」と 述べている14).本研究においても,訪問看護師は, 食べることの思いから,本人のこれまでの生き方 や何を大事にしているのかということを知り,本 人や家族とその思いを共有しながら最期に望む生 き方,つまりは目標を捉えようとしていたと考え 図 1 在宅高齢者の終末期栄養療法に関わるチームの合意形成における訪問看護師の支援プロセス 訪問看護師は,意向を把握する時に対話を開始し,食べることの変化を通して繰り返し意向を確認 していた.そして,チームの合意を目指して行きつ戻りつしながら全てのプロセスで話し合い,対 話を継続していた. 【本人や家族と医療や介護の関係者の栄養療法に対する方向性を整える】 【本人や家族や関係者の思いを通して選択した栄養療法の評価をする】 【話し合いの場で本人や家族の意向に沿った栄養療法の選択を支える】 【安らかな最期を迎えられるように食べることや点滴をやめる選択を支える】 評価をする 話し合いの準備 方向性を整える 意向の把握 【食べることに対する本人や家族の意向を把握しておく】 【栄養療法の意向を関係者間で情報共有し話し合いの準備をする】 対 話 選択を支える
る.そして,本人や家族の【栄養療法の意向を関 係者間で情報共有し話し合いの準備をする】支援 は,本人や家族の意向を尊重するための根回しで あり,チームの合意にむけた事前準備であること が考えられた.合意形成の実現には,本人の意向 だけなく,家族や関係者の意向も把握し,問題を 分析する必要があるといわれる15).訪問看護師は, チーム内の意向の不一致を捉えた時に,話し合い の必要性を判断していたことから,それぞれの価 値観が選択に影響しないように話し合いを通して チームの合意を図ろうとしていたと考える.そし て,事前の根回しは,話し合いの場で療養者や家 族が意向を表出しやすいようにするための準備で あったと考えられた. 2.チームの方向性を整えチームで選択を支える 訪問看護師は,話し合いの過程で生じたチーム 内の葛藤を認識しながら【本人や家族と医療や介 護の関係者の栄養療法に対する方向性を整える】 支援を続けていた.これは,本人の意向を基軸に, 家族や関係者の意向も整え,対話を続けながらチ ーム内の合意を図っていたと考える.また,チー ム内の意向をつなぐ調整役を担っていたことは, 本人と家族や関係者との関係性を大切にしなが ら,本人の望む生き方をチームで支えようとして いたと考える. 選択の決定では【話し合いの場で本人や家族の 意向に沿った栄養療法の選択を支える】と【安ら かな最期を迎えられるように食べることや点滴を やめる選択を支える】支援があり話し合いを通し て決まることが特徴的であった.特に,話し合い の場では,本人や家族や関係者それぞれの栄養療 法に対する意向とその理由についての対話を促進 し,何を大事にするのかをチームに問いかけ,選 択の決定を支えていた.この対話の促進はチーム の合意を目指した支援であると考えられ,それぞ れの価値観や思いを分かち合いながら,共に納得 のいく選択を支えていたことが示された.看取り の時期には,点滴や食べることの有益性を判断し, 本人や家族と関係者の意向を確認しながらやめる 選択を支えていた.終末期の栄養に対する家族の 認識には「無理をしてでも食べさせたい」や「点 滴をすると元気になる」という思いがあったと報 告されている3)16).本研究ではヘルパーやケアマ ネジャーにも同様の思いがあり,訪問看護師は家 族だけでなく介護職にも終末期の身体的変化を伝 えていた.この支援は,家族や関係者と共に,本 人の安らかな最期を整え,残された家族の悔いの ない選択をチームで支えていたと考える. そして【本人や家族や関係者の思いを通して選 択した栄養療法の評価をする】ことにより,チー ムの合意形成のプロセスと選択の結果を評価し, 支援の在り方を振り返っていた.これは終末期栄 養療法における在宅チームの合意形成プロセスに 対する支援を高めていたと考えられ,チームの合 意は本人の望む生き方と家族の悔いのない選択を 支えていたことが示された. 3.在宅高齢者の終末期栄養療法におけるチーム の SDM への示唆 訪問看護師は,病状から経口摂取が困難になる ことを予測し,普通に食べることができている時 からどのような栄養療法の選択を考えているのか を本人に尋ねていた.意思表示が困難な場合には 家族から情報を得て元気な頃の本人の意向を把握 していた.そして,食べることの変化,すなわち 普通に食べることができていた頃,食べる量が減 った時,食べることができなくなった時を通して, 繰り返し話し合い,最後に望む生き方を捉え,チ ームの合意形成を目指していた.これらのことは, 食べることに対する本人や家族の意向を把握する 時に SDM プロセスを開始していたと考えられ る.さらに,このプロセスでは,本人と家族を中 心に医療や介護の関係者との対話を継続していた ことから,訪問看護師の支援は本人や家族と関係 者間の橋渡しとなり終末期栄養療法に関わる在宅 チームの合意形成を推進することになると考え る.欧米の文化では,個人達成を重視することが 幸福感を高めるのに対し,日本では関係性の調和 を重視することが幸福感につながると報告されて いる17)18).本人を中心とする SDM に対し10)11), 本研究では,本人を尊重しつつも家族や周囲との 関係性を大切にする日本の文化を踏まえた支援で あることが示唆された.今後,複数の事業所で構 成される在宅チームでは,終末期における点滴や 食べることに対する共通理解を得ることが課題で
あったことから,在宅高齢者の終末期栄養療法の 選択を支える教育プログラムが必要であると考え る. 4.結論と本研究の限界 本研究結果から,食べることを通して終末期栄 養療法についての対話を早期に始めることは,本 人のこれまでの生き方や人生の中で大事にしてい ることを知る手がかりとなり,本人の望む生き方 を把握できることが示された.また,本人や家族 や関係者それぞれの意向とその理由を理解するこ とがチームの合意につながると考えられ,訪問看 護師はチームをつなぐ調整役を担うことができる であろう.さらに,本研究で明らかになった支援 は,終末期栄養療法における在宅チームの合意形 成を推進し,本人を尊重しつつも家族や周囲との 関係性を大切にする支援であることが示唆され た.本研究は,在宅看護専門看護師や訪問看護認 定看護師の高度な看護実践から導きだされた結果 であり,一般化するには限界がある.今後,在宅 チームにおける終末期栄養療法の選択を支える教 育プログラムの開発が必要であると考える. 謝 辞 本研究にあたり在宅看護専門看護師や訪問看護 認定看護師の皆様,指導頂いた大阪府立大学中村 裕美子教授に感謝します.なお,本研究は大阪府 立大学大学院看護研究科における修士論文の一部 に加筆・修正を加えたものであり平成 27 年度, 平成 28 年度「笹川記念保健協力財団奨学金支援」 を受けて行った. 本論文に関する著者の利益相反なし 引用文献 1)厚生労働省.平成 26 年終末期医療に関する意識調 査等検討会報告書.2014.http://www.mhlw.go.jp/ f i l e / 0 5 S h i n g i k a i 1 0 8 0 1 0 0 0 I s e i k y o k u -Soumuka/0000041846_3.pdf,(2015/8/25 閲覧). 2)日本老年医学会.高齢者ケアの意思決定プロセスに 関するガイドライン人工的水分・栄養補給の導入を 中心として.2012.http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ proposal/pdf/jgs_ahn_gl_2012.pdf,(2016/3/1 閲覧). 3)山岸暁美,森田達也.遺族からみた水分・栄養摂取 が低下した患者に対する望ましいケア.J-HOPE: 63-68,2010. 4)小野若菜子,押川真喜子,西田志穂ほか.高齢者に おける在宅経管栄養法の選択とその意味に関する検 討―病院訪問看護科における調査から.日看会誌 15:54-62.2005. 5)会田薫子.認知症末期患者に対する人工的水分・栄 養補給法の施行実態とその関連要因に関する調査か ら.日老医誌 49:71-74,2012. 6)土井英子.終末期在宅高齢患者の経管栄養に携わる 訪問看護師の倫理的ディレンマ.インターナショナ ル Nurs Care Res 10:1-8,2011.
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Support from visiting nurses for consensus building in a home care team
involved in nutrition therapy for elderly patients at the end of life: From the
perspective of shared decision making
Naomi Shimizu
Department of Public Health Nursing, Shiga University of Medical Science
Objective: Home care team discussions with elderly patients and their families are crucial in deciding
whether to use artificial nutrition and hydration at the end of life. The purpose of this study was to clarify, from the perspective of shared decision making, the support needed from visiting nurses for consensus building in a home care team involved in nutrition therapy for elderly patients at the end of life.
Subjects and Methods: Semi-structured interviews of 11 visiting nurses were analyzed using a qualitative
and descriptive method.
Results: Six major categories of consensus building activities by the visiting nurses were found in the
inter-views: (1) grasping the wishes of patients and their families in relation to eating; (2) sharing patients’ and their families’ wishes about nutrition therapy with healthcare professionals in preparation for discussions; (3) adjusting the direction of nutrition therapy among patients, their families, and the home care team; (4) supporting patients and their families in their wish for nutrition therapy during the team discussion; (5) sup-porting the decision to stop eating and stop IV fluids for hydration so that patients can have a peaceful end of life; and(6) evaluating the nutrition therapy taking into consideration the thoughts of patients, their fami-lies, and the home care team members.
Conclusions: Visiting nurses grasped changes in patients’ eating, used that information to bring the wishes
of the families and healthcare and long-term care professionals close to the wishes of the patients, and con-tinued communicating to build team consensus. Such support appears to reflect Japanese culture, where the relationships of patients with their families and others around them is as well respected as the patients’ wish-es.