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群馬県がん登録に関わる社会情勢の変化と登録精度の推移

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群馬県がん登録に関わる社会情勢の変化と登録精度の推移

茂 木 文 孝,

永 弘 子, 田 中 直 美

川 崎 容 子, 真 鍋 重 夫, 千木良 英 昭

高 橋

郎, 猿 木 信 裕, 小 山

要 旨 【背景・目的】 地域がん登録はがん対策の企画や評価には不可欠で,安定した高い登録精度が要求される.群 馬県がん登録の精度がどのような要因の影響を受けて変化してきたかを明らかにする. 【対象と方法】 1994年から 2009 年までの届出数や精度と, がん登録関連法令, 厚生労働省研究班や県内のがん登録に関係す る会議との関連を年次別に整理し検討した. 【結 果】 当初は順調に届出数が増加したが, 1999 年から国 や群馬県で個人情報保護の検討が行われたのに呼応して届出数は減少し, 個人情報保護法が制定された 2003 年には最低になった. しかし, 2004年にがん登録精度向上を目的とする群馬大学特別支援事業が立ち上がり, 康増進法と厚生労働省の研究班やがん医療 てん化政策よる追い風を受けてがん登録の整備を推進した結 果, 届出数は再び増加し精度が向上した. 【結 語】 がん登録の精度は法令や政策の影響を受けてきた. 安 定した精度を得るにはがん登録の法制化が望ましい.(Kitakanto Med J 2010;60:345∼351) キーワード:地域がん登録, 登録精度, 個人情報保護, 法的根拠, 群馬大学重粒子線医学研究センター 目 的 現在のわが国における三大死因は, 悪性新生物, 心疾 患, 脳血管疾患である. 悪性新生物は 1981年に脳血管疾 患を抜いて以来, 死因の第 1位を独走している. 2009 年 のがん死亡者数は 343,954人であったが, 年間の全死亡 者数が 1,141,920人であることからすると, 3人に 1人は がんで死亡していることになる. 地域がん登録事業は, がんの実態把握 (罹患率とがん 患者の生存率の計測) や対がん活動の評価のほかに, が ん要因解明の疫学研究やがん検診の有効性や精度管理な どにも利用されており, がん対策をすすめる上で必要不 可欠の「羅針盤」と位置付けられている.現在,38道府県 1市において地域がん登録が実施されているが, 康増 進法が施行されるまではガイドラインのみで法的基盤が なく, 施行後も財政的支援が乏しい中で医療関係者の篤 志的努力により運営がなされてきたために, 登録精度が 低いのが最大の問題点になっている. 群馬県では, 1994 年 1月 1日から群馬県が群馬県 康づくり財団に業務を 委託するかたちで地域がん登録事業を実施している. 今回, 我々はがん登録事業に関わる法令や政策といっ た社会情勢の変化と, 群馬県地域がん登録における悪性 新生物届出票の届出数や登録精度の推移とを重ね合わせ ることで, 群馬県がん登録の精度がどのような要因の影 響を受けて変化してきたかについて検討を行った. 方 法 1994年から 2009 年までに受け付けた悪性新生物届出 票の受付枚数や, 登録精度の負の指標となる「死亡票の みで登録された患者 (Death Certificate Only: DCO) の 割合」の年次推移と, 同期間のがん登録に関わる法律や 条例, 関係省庁の通達, 厚生労働省の研究班, 群馬県や群 馬大学のがん登録に関係する協議会の動きとの関連を年 次別に整理し検討した.なお,罹患数や DCOは上皮内が んを含めて集計した. 1 群馬県前橋市堀之下町16-1 群馬県 康づくり財団群馬県地域がん登録室 2 群馬県前橋市大手町1-1-1 群馬県 康福祉部 保 予防課 3 群馬県太田市高林西町617-1 群馬県立がんセンター麻酔科 4 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院 医学系研究科 衆衛生学 平成22年8月20日 受付 論文別刷請求先 〒371-0005 群馬県前橋市堀之下町16-1 群馬県 康づくり財団群馬県地域がん登録室 茂木文孝

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成 績 届出数と登録精度 群馬県がん登録事業が開始された 1994年の届出数は 2,648枚, DCOは 50.7%でスタートした. 届出数は順調 に増加し 1997年には 5,828枚 (DCO: 43.8%), 1999 年 には 5,658枚 (DCO: 46.3%) を数えた. しかし, 2000年 から減少しはじめ 2003年の届出数は 3,406枚 (DCO: 61.0%) にまで落ち込んだ. その後, 再び地域がん登録へ の届出票は増加し, 2006年には 6,310枚 (DCO: 39.4%) を数えた. 2007年の届出数は 13,731枚と驚異的に増加 したが, これは主に群馬大学病院に蓄積されていた症例 の届出によるものである. それを差し引いた届出数はお よそ 8,000枚であった. 2008年は 7,738枚, 2009 年は 12,265枚と届出数は急増しており, 登録精度は着実に向 上している (Fig. 1). 法令や厚生労働省の政策 1995年の EU 指令 (個人データ処理に係わる個人の保 護及び当該データの自由な移動に関する欧州会議及び理 事会の指令 ; The European Union Directive 95/46/EC, 以下, EU 指令) が発令されたのを受けて, 日本でも 1999 年に個人情報保護に関する検討が行われ, 2000年 10月 には「個人情報保護基本法に関する大綱」が 表された. 2001年 3月に個人情報保護法案が閣議決定され通常国 会で審議されたが, 2002年には廃案となってしまった. しかし,複雑な経緯の末,2003年 5月にようやく「個人情 報の保護に関する法律」(平成 15年法律第 57号) (以下, 個人情報保護法) が制定された. この中で, 患者情報を目 的外に利用することや第三者に提供することは, 第 16 条 3項や第 23条により「 衆衛生の向上 (中略) のため に特に必要である場合であって, 本人の同意を得ること が困難であるとき」は適用除外になることが示された. 2004年 1月 8日付けの厚生労働省 康局長の通知 ( 習 発第 0108003号) では, がん登録事業は個人情報保護法 の適用除外に該当することが明示され, 個人情報保護法 は 2005年 4月に施行された. また, 2001年 1月には群馬 県個人情報保護条例が施行されたが, 群馬県がん登録は 個人情報保護審議会の答申を得て継続されることになっ た. しかし, 2001年 9 月には群馬県がん登録から医療機 関への予後情報提供は中止された. その後, 2004年 7月 に開催された第 18回群馬県個人情報審議会において, 届出医療機関への予後情報の提供は群馬県個人情報保護 条例の第 8条「利用及び提供の制限」の例外に該当する ことが認められた. 2003年 5月に施行された 康増進法 (平成 14年法律 第 103号) の第 16条で「国及び地方 共団体は, (中略) 国民の生活習慣とがん, 循環器病その他の政令で定める 生活習慣病との相関関係を明らかにするため, 生活習慣 病の発生の状況の把握に努めなければならない」と規定 され, 具体的には「地域がん登録事業および脳卒中登録 事業である」( 発食発第 0430001号)ことが 康局長通 知で示されたことにより, がん登録の法的な根拠が確立 した. さらに, 2007年に施行されたがん対策基本法の第

Fig.1 Changes in the number of malignant neoplasm reports (M.N. Reports) and changes of accuracy.

The number of M.N. Reports was 2,648 when the regional cancer registry opened and Death Certificate Only (DCO) was accounted for 50.7%. M.N. Reports increased to reach 5,828 in 1997 (DCO: 43.8%). However, these reports began to decrease from 2000 and reached a nadir of 3,406 (DCO: 61.0%) in 2003. Subsequently, the number of M.N. Reports increased again and reached 6,310 (DCO: 39.4%) in 2006. There was a sudden jump to 13,731 in 2007,which was due to the inclusion of cases accumulated by Gunma University Hospital. The number of M.N.Reports was 7,738 in 2008 and 12,265 in 2009,and the accuracy of reporting has improved steadily.

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17条 2項では, 国及び地方 共団体は, がん患者のがん の罹患, 転帰その他の状況を把握し, 析するための取 組を支援するために必要な施策を講ずる」ことが記載さ れた. しかし, がん登録事業の文言は条文には織り込ま れず, 付帯決議にがん登録の環境整備が掲げられたに留 まっている. また, 地域や病院間でがんの治療内容や生存率に格差 が大きいことが指摘されたことから, 厚生労働省が 2001 年度から始めたがん医療の てん化政策として, 2次医 療圏に 1か所程度の「地域がん診療拠点病院」が示され ( 発第 865号), 2002年 3月から指定が始まった. この 指定要件の 1つとして院内がん登録の整備が定められた ことにより徐々に院内がん登録が普及し, 地域がん登録 への届出数増加につながった. さらに, 厚生労働省「第 3 次対がん 10か年 合戦略」が 2004年度から始まり, こ の中の「がん罹患・死亡動向の実態把握の研究」班 (主任 研究者 : 祖 江友孝. 以下, 祖 江班) によって地域がん 登録や院内がん登録の精度向上のために, がん登録の作 業手順やコンピュータ処理を全国共通にする「標準化」 政策が強力に押し進められた. 群馬県がん登録は 2007 年 2月に群馬県の独自システムから標準化への移行を開 始し 2008年 8月に完了した. 群馬県がん登録精度向上のための組織 群馬大学医学部構内に重粒子線治療施設を 設する計 画がきっかけとなって, がん罹患数の把握や治療成績の 評価に精度の高いがん登録が必要であるとの認識が高ま り, 2004年 11月に群馬大学医学部附属病院 (以下, 群馬 大学病院) と群馬県が中心になって群馬大学地域貢献特 別支援事業「新しい治療法の応用を目指したがん疫学 ネットワークの構築」(以下, がん疫学ネットワーク) が 立ち上がった. がん疫学ネットワーク」は群馬大学病院 の院内がん登録の整備と地域がん登録の精度向上が目的 であったが, その後に県立がんセンター, 群馬県医師会, 県内主要病院を構成に加えて 2005年 7月には「群馬県地 域がん登録連絡協議会」に発展した. この組織は院内が ん登録の整備・推進や,がん登録実務者のための講演会・ 研修会の開催, 医師会の先生へのアピール等を推し進め た. 2006年 9 月, がん対策基本法の成立を受けて群馬県 や群馬大学病院のプロジェクトを有機的に連携させる目 的で, 群馬県地域がん登録連絡協議会」は「群馬県がん 対策協議会」へ改組した. 2008年 7月には「群馬県がん

Table 1 Laws and policies related to the Gunma Prefecture cancer registry.

西暦 群 馬 県 国 1994年 群馬県がん登録事業が群馬県 康づくり財団で委託実施 開始 (1月). 1999年 1995年の EU 指令を受け個人情報保護に関する検討開 始. 2000年 個人情報保護基本法に関する大綱」 表 (10月). 2001年 群馬県個人情報保護条例施行 (1月). 群馬県がん登録は群馬県個人情報保護審議会で適用除外 と判断され継続. 予後情報提供を中止 (9 月). 個人情報保護法案の閣議決定 (3月). 通常国会に提出. 院内がん登録を指定要件の一つとする「地域がん診療拠 点病院」の整備開始 (8月) 2002年 個人情報保護法案廃案. 2003年 個人情報保護法制定 (5月). 康増進法施行 (5月). 2004年 群馬県個人情報審議会において, 届出医療機関への予後 情報提供は群馬県個人情報保護条例の例外に該当 (7月). がん疫学ネットワーク」が設置され「がん登録 開講座」 開催 (11月). 厚生労働省 康局長通知でがん登録事業は個人情報保護 法の適用除外に該当 (1月). 第 3次対がん 合戦略開始 (4月). 2005年 がん疫学ネットワーク」 から「群馬県地域がん登録連 絡協議会」へ発展 (7月). 個人情報保護法施行 (4月). 2006年 群馬県地域がん登録連絡協議会」によるがん登録実務者 のための講演会・研修会の開催 (2月). 群馬県地域がん登録連絡協議会」 から「群馬県がん対 策協議会」に移行 (9 月). がん対策基本法制定 (6月) 2007年 がん登録の標準化について検討開始 (2月). がん対策基本法施行 (4月). 2008年 群馬県がん登録事業実施要項の改訂, 群馬県がん登録資 料利用に関する取扱要領の制定. 予後情報提供とがん登 録資料利用が可能になる (7月). がん登録の標準化完了 (8月 ). 2009 年 群馬県がん対策協議会」と「群馬県がん対策推進協議会」 は第 2次「群馬県がん対策推進協議会」に統合 (8月).

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対策協議会」の提案を受けて群馬県がん登録事業実施要 項が改められ, 実務的に予後情報提供が再開された. ま た, 同時に群馬県がん登録資料利用に関する取扱要領を 定めて, 個人情報の保護に配慮しつつがん登録資料の有 効な利用を可能にした.さらに 2009 年 8月からは「群馬 県がん対策協議会」と, 群馬県がん対策推進計画を策定 するために設置された「群馬県がん対策推進協議会」が 統合し, 地域・院内がん登録の精度向上を図りながら群 馬県のがん対策全般を検討する第 2次「群馬県がん対策 推進協議会」が活動している (Table 1). 社会情勢の変化と届出数や登録精度の関連 1994年にはじまった群馬県がん登録は順調に届出数 や届出精度が増加していたが, 1999 年から国や群馬県に おいて個人情報保護の検討が行われたのに呼応して届出 数が減少し, 個人情報保護法が制定された 2003年には 届出数は最低になった. 群馬大学医学部構内に重粒子線 治療施設を 設する計画がきっかけとなって, 2004年に がん登録精度向上を目的とする「疫学ネットワーク」が 立ち上がった. 疫学ネットワーク」は 2003年に施行さ れた 康増進法や 2007年に施行されたがん対策基本法, 2004年度から始まった厚生労働省「第 3次対がん 10か 年 合戦略」の研究班 (祖 江班)やがん医療の てん化 政策よる追い風を受け「群馬県がん対策推進協議会」に まで発展し, がん登録のアピールや整備・推進を強力に 繰り広げた結果, 届出数は再び増加に転じ登録精度は向 上した (Fig. 2). 察 がん患者のプライバシーとがん登録 個人情報保護法は複雑な経緯を経て 2003年に成立し 2005年に施行された. 2004年 1月 8日付けの厚生労働 省 康局長の通知と合わせると, 患者情報を診察や治療 の目的外にがん登録事業に提供することは, 衆衛生の 向上のために特に必要であり, 本人の同意を得ることが 困難なために同法の適用除外になることが示された. し かしながら, 個人の尊重について規定する日本国憲法 13 条では患者のプライバシーの権利が保障されており, 刑 法 134条 1項の医師の守秘義務では, 正当な理由がない のに, 患者の診療に関わるデータを他に提出することは できないとされている. 憲法や刑法で定められた患者の プライバシーと医師の守秘義務が, 個人情報保護法の適 用除外や 康局長の通知で免除されると えるのには問 題が残っている.

Fig.2 Relation between the number of malignant neoplasm reports(M.N.Reports)and their accuracy,and the law and policy regarding the Gunma Prefecture cancer registry.

The number of M.N. Reports decreased from 2000 along with increased discussion about the protection of personal information both nationwide and in Gunma Prefecture. Conferences to improve the accuracy of the cancer registry started at Gunma University in 2004,and hospitals involved in the diagnosis and treatment of cancer were encouraged to submit M.N.Reports. Along with the policy of the research group from the Ministry of Health, Labour and Welfare and legal support that the Health Promotion Act gave to cancer registries, the number of M.N. Reports has increased again and accuracy has improved.

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がん登録事業に法的根拠を与えた 康増進法と個人情 報保護法・群馬県個人情報保護条例はほぼ同時期に施行 されたが, 患者のがん情報の届出と患者のプライバシー 権や医師の守秘義務, 個人情報保護との狭間に立たされ た医師には少なからず戸惑いを与えたと えられる. が ん登録の歴 が長い府県や強力な指導者がいる府県で は, 康増進法が施行される以前から府県内の医療機関 にがん登録の存在が周知され, その意義もすでに揺るぎ ないほどに浸透していたと思われるが, 1994年に地域が ん登録室が開設された群馬県では, がん登録に対する医 療機関や医師の認識は決して高かったとは言えず, がん 登録の精度の向上はこれからの課題であった. この時期 に個人情報保護法や個人情報保護条例が成立したために 群馬県がん登録へのがん届出数は激減し, 存続の危機さ えも感じさせられた. 他県では実際に個人情報保護審議 会の承認が得られずに一旦中断に追い込まれ, 近年に なって再開した地域がん登録室も知られている. 個人情報保護法・条例が成立するまでの過程で, がん 患者のプライバシーや守秘義務の意識が急激に高まり, 医師の戸惑いから法的根拠に乏しかったがん登録への届 出数が減少した. 群馬県がん登録の届出数の変化が如実 にそれを表していると えられる. 大学病院から始まったがん登録精度向上のための組織 康増進法が 2003年に制定されたのとほぼ時を同じ くして, 群馬県では群馬大学病院に重粒子線治療施設を 設する計画が進んでいた. 十 に精度が高い地域がん 登録では, がん統計を活用してがんの予防, 医療活動の 企画と評価を果たすことが可能である. しかし, DCOが 61.0% (2003年) であった当時の群馬県地域がん登録の 状況では, がん登録を活用して重粒子線治療施設の企画 や評価は不可能であることが判明した. これがきっかけ になって, 康増進法で法的根拠を得た地域がん登録の 精度向上が必要であるとの認識が群馬大学病院内で高ま り, 院内がん登録の設置や地域がん登録の精度向上が図 られることになった. この趣旨のもとに「疫学ネット ワーク」が組織されたが, 1. 群馬大学病院, 群馬県, 県立 がんセンター, 群馬県医師会, 県内主要病院と群馬県の がん医療を支えるすべての組織を構成要員にする「群馬 県地域がん登録連絡協議会」に発展したこと, 2. いずれ の組織も地域がん登録事業に理解を示し, その精度向上 のために積極的な姿勢と行動を示したこと, 3. 国のがん 医療の てん化政策による「がん診療拠点病院」の院内 がん登録普及に拍車がかかったこと, 4. 祖 江班による がん登録の標準化が推進されていたことから, 地域がん 登録の精度向上のための基礎が整備され, その後の届出 数の増加に結実したと えている. 群馬県の特徴は, 地域がん登録の精度向上の施策が重 粒子線治療施設を計画した群馬大学から発せられ, 群馬 県のがん医療を支える組織がそのために協調し, 康増 進法やがん対策基本法, 厚生労働省の研究班やがん医療 の てん化政策よる追い風を十 に受けられたことであ る. 法制化 わが国では,1960年代から広島,長崎,宮城を皮切りに 地域がん登録が開始されていたが, この根拠となるもの は老人保 事業の成人病指導管理協議会「成人病登録・ 評価部会」のガイドラインであった. この地域がん登録 事業に法的根拠が与えられたのは, 2003年に施行された 康増進法や 康局長通知で, 国及び地方 共団体は地 域がん登録事業を実施することでがんの発生の状況の把 握に努めなければならないと規定されたことによってい る. さらに 2007年に施行されたがん対策基本法では, が ん登録事業の文言は条文には織り込まれなかったが, 実 質的には国及び地方 共団体ががん登録事業を支援すべ きであることが記載された. がん登録事業については法 的な根拠はあたえられたが, 届出票を提出する立場から すると, 民間医療機関では個人情報保護法の, 国立病院 では行政機関個人情報保護法の適用除外により届出票の 提出が可能になっており, これについては 康局長通知 ( 習発第 0108003号) によって確認されている. また県 立病院では各地方 共団体の個人情報保護条例の適用除 外により届出票の提出が可能になっている. このように 様々な法律, 条例, 通知を寄せ集めてがん登録と個人情 報保護の関連が成り立っている現状である (Table 2). さらに届出票を提出する医師や医療機関の姿勢につい ては, 提出を許容する根拠はそろったものの義務づける 根拠はなく, 今日でもその提出は医師の篤志にゆだねら れている. 海外のがん登録の先進国に目を向けると, 欧 米や豪州, 韓国では, 地域がん登録が法律により制度化 されており, がんを届出義務の課された, あるいは届出 権限を与える疾患として, がん登録の精度を向上させて いる. 群馬県がん登録の届出数が個人情報保護法の影響で著 しく減少し, 康増進法やその後の国や群馬県の施策に より急激な増加に転じたという変動を示したのは, 裏を 返せば地域がん登録事業が国民の同意を得られた段階で はなく, 患者のプライバシーとの整理ができておらず, それを定めた法的根拠が乏しかったことに他ならない. 安定した良好な精度のがん登録を維持するためには, 国 民のプライバシーを定める憲法, 医師の守秘義務を規定 した刑法, 様々な医療機関の個人情報保護法との関連や, がんの届出義務について定められたがん登録事業そのも

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のの法律を制定する必要がある. そのためには, がん対 策を行ううえで罹患数や生存率といったがん登録の資料 が重要な指標になることを国民が理解し, がん登録事業 が社会的な同意を得られるように十 に議論されること が必要である. 文 献 1. 政府統計の 合窓口. 平成 20年人口動態統計 (http:// www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001064942) 2. 地域がん登録全国協議会. (http://www.jacr.info/) 3. 群馬県.個人情報の取扱い等に関する答申.(http://www. pref.gunma.jp/) 4. 兵庫県. 個人情報保護審議会. 審議内容及び答申 (http:// web.pref.hyogo.jp/pa14/pa14 000000009.html) 5. 丸山英二『地域がん登録の法的倫理的環境整備に関する 研究 : 平成 16年度∼18年度 合研究報告書 : 厚生労働 科学研究費補助金第 3次がん 合戦略研究事業』2007, p13.

Table 2 Regional cancer registry and laws for protection of personal information.

適用される法・条例 備 地域がん登録による医療機関からの個人 情報の収集 地方 共団体の個人情報保護条例 審議会等による 的承認 医療機関による地域がん登録への情報提供 民間の医療機関 個人情報保護法 適用除外 ( 康局長通知・厚生労働 省指針) 国の医療機関 行政機関個人情報保護法 康局長通知にて適用除外事例 独立行政法人の医療機関 独立行政法人等個人情報保護法 康局長通知にて適用除外事例 地方 共団体の医療機関 地方 共団体の個人情報保護条例 出典:安富 潔 地域がん登録事業と個人情報保護の法的枠組み」『地域がん登録の法的倫理的環境整備に関する研究:平成 17年 括・ 担研究報告書:厚生労働科学研究費補助金第 3次がん 合戦略研究事業』2006,p132をもとに 作成

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Effect of the Changing Social Environment

on the Accuracy of Gunma Prefecture Cancer Registry

Fumitaka Moki,

Hiroko Matunaga,

Naomi Tanaka,

Youko Kawasaki,

Shigeo Manabe,

Hideaki Chigira,

Kenrou Takahashi,

Nobuhiro Saruki

and Hiroshi Koyama

1 Gunma Prefecture Cancer Registry, Gunma Health Foundation, 16-1 Horinoshita-machi, Maebashi, Gunma 371-0005, Japan

2 Health Management Division,Department of Health and Welfare,Gunma Prefectural Government,1-1-1 Ote-machi, Maebashi, Gunma 371-8570, Japan

3 Department of Anesthesia, Gunma Prefectural Cancer Center, 617-1 Takabayashinishi-machi, Ota, Gunma 373-8550, Japan

4 Department of Public Health, Gunma University Graduate School of Medicine, 3-39-22 Showa-machi Maebashi, Gunma 371-8511, Japan

Aim: We investigated the influence of the law and policy on the number of malignant neoplasm reports (M.N. Reports) and the accuracy of reporting to the Gunma Prefecture cancer registry. M ethods: We compared the number of reports and the rate of Death Certificate Only reports from 1994 to 2009 in relation to changes of the law and conferences about the cancer registry and the policies of a research group at the Ministry of Health,Labour and Welfare(MHLW). Result : The number of M.N.Reports increased for several years, but decreased in 1999 after discussion about protection of personal infor-mation nationwide and in Gunma Prefecture. The number of reports was lowest in 2003 when the Act for Protection of Personal Information became law. Conferences to improve the accuracy of reporting started at Gunma University in 2004 and these strongly promoted the cancer registry, while receiving support from the Health Promotion Act, the activities of an MHLW research group, and government policy on cancer treatment. As a result, these reports began to increase again and the accuracy has improved. Conclusion : Both law and policy influence the number of M.N.Reports and their accuracy. Legislation about cancer registration would be preferable to achieve more accurate reporting.(Kitakanto Med J 2010;60:345∼351)

Key Words: population-based cancer registry, registration accuracy, legal authority, pro-tection of personal information, Gunma university heavy ion medical center

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