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ポスト緑の革命期のインドネシア・ジャワにおける低投入農法の普及過程―有機SRI(System of Rice Intensification)の普及事例の社会ネットワーク分析―

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低投入農法の普及過程―有機SRI(System of Rice

Intensification)の普及事例の社会ネットワーク

分析―

著者

伊藤 紀子

雑誌名

農林水産政策研究

29

ページ

1-27

発行年

2018-09-25

URL

http://doi.org/10.34444/00000009

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研究ノート

ポスト緑の革命期のインドネシア・ジャワにおける

低投入農法の普及過程

―有機SRI(System of Rice Intensification)の

普及事例の社会ネットワーク分析―

伊 藤 紀 子

要   旨

 米の自給を達成したポスト緑の革命期のインドネシア・ジャワにおいては,環境,農家経営,肥 料補助金(財政)への負担を軽減する低投入農法の普及による,持続的な米の増産が志向されてい る。しかし,「有機SRI(System of Rice Intensification)」というインドネシアにおける代表的な 低投入稲作農法の普及は遅れている。本稿の目的は,国内で初めて有機米の輸出を実現した農村に おける有機SRIの普及過程の社会ネットワーク分析を通じて,低投入農法の普及が,農家の経営収 支,農家間の社会関係,農村の農業労働者の雇用制度に与える影響を明らかにすることである。  検討の結果,(1)有機SRIを導入した農家は導入していない農家に比べ,高い経済収益を得てい ること,(2)一部の農家が有機SRIの普及の主体として別の農家に技術を指導するなど,有機SRI の普及が近隣に住む農家の間のコミュニケーションを活発化していること,(3)農村に住む零細 規模の農家や土地なし層への所得分配を促す伝統的な雇用労働制度は,主に有機SRIを導入してい ない農家によって維持されていること,の 3 点が明らかになった。  調査地における有機米のブランド化のシステムは,低投入農法の普及が,農家所得の増加・社会 関係の活性化をもたらすモデルケースとして,他地域にも適用されている。ただし,こうしたシス テムは,伝統的な雇用労働制度を衰退させ,農村の所得格差を拡大させる要因となっている。更に 低投入農法が広範囲に普及するためには,農法の変化に伴う急速な社会経済的変化の影響を緩和す るような,社会の制度の調整が必要になると考えられる。 キーワード:ポスト緑の革命期,インドネシア,有機SRI,制度,社会ネットワーク分析  原稿受理日 2018 年6月 15 日.

1.はじめに:ポスト緑の革命期の

インドネシア農業の課題

 インドネシア政府は,1960 年代末からの「食 料生産集約化計画」(インドネシア語でProgram

Intensifikasi Produksi Bahan Pangan)の下,米

の高収量品種・化学肥料・農薬を多投する慣行 農法の普及による増産(「緑の革命」)を成功さ せ,1985 年に米の自給の達成を宣言した(加納, 1998,44 頁)。以降の「ポスト緑の革命期」(1) おいては,翻って,環境や財政(肥料補助金)へ の負担を軽減する低投入農法や有機農業の普及を 通じた,持続的な米の増産を志向するようになっ

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ている(2)。本稿の目的は,ジャワ(3)における「有

機SRI(System of Rice Intensification)」 と い う農法の普及事例の検討を通じて,低投入農法の 普及の農家・農村への社会経済的影響(具体的に は,農家の経営収支,農家間の社会関係,伝統的 な雇用労働制度に与える影響)を明らかにするこ とである。  米の趨勢自給(4)を農業政策目標の1つとして いるインドネシアでは,天候不順による不作が発 生する数年おきに米の輸入量が急増するため,安 定的な増産の必要性が高い(第1図)。しかし, 慣行農法の普及による従来の米の増産は,次のよ うな側面で限界を迎えつつある。第一に,生態系 や土壌など環境への影響である。ジャワにおけ る化学肥料の消費量は,緑の革命が本格化した 1970 年代から急増し(加納,1988,58 頁),1980 年代末からは,化学肥料の過剰投入による土壌の 劣化や稲の倒伏が観察されている(加納,2004; ADB,2009)(5)。第二に,化学肥料価格を低水準 に抑えるための補助金(subsidi pupuk)の財政 支出が拡大している。1998 年に一旦廃止され, 2003 年に復活した肥料補助金への財政支出は, 現在のジョコウィ政権下の 2014 年には 21 兆ルピ ア(Rp)へと増加し,農業保護関連予算の 51% を占めるようになった(6)。第三には,稲作農家に とって化学肥料など投入財への支出額は生産費を 増加させ,経営の負担となっている(7)。また一方 で,ジャワの都市部を中心に,過剰な化学肥料や 農薬を投与して生産された食品が健康被害をもた らすことを懸念する消費者の間で,安全で高付 加価値な食品への需要が増加している(Sugino and Mayrowani, 2010)。  こうした中政府は,慣行農法に代わる低投入農 法・有機農業の普及に強い関心を示してきた(杉 野・小林,2015,63 頁)。2001 年に開始された「Go Organic 2010」と呼ばれる有機農業振興の 10 カ 年計画において政府は,2010 年までに,環境へ の負荷,農家経営負担の少ない農法を慣行農法に 代替させていくことを政策目標としている(Siti Jahroh, 2010)。主な取組として,2002 年の有機 農産物の生産基準の設置,2003 年のインドネシ ア有機生産者組合(Indonesia Organic Alliance: IOA) の 形 成,2006 年 の ASEAN GAP の 策 定,2014 年の有機農産物基準の設定が行われた (Ariesusanty, 2011;米倉,2016)。こうしてイン ドネシアにおいて認証を取得した有機農産物の生 産面積は,2005 年の1万 7,800haから 2015 年に は 13 万 400haに増加した(FAOSTAT, HP)(8) ただし,有機農産物生産地のうちコーヒー,カカ オなどの輸出向けエステート作物生産地の割合が 第1図 インドネシアの米の生産量と輸入量

資料:USDA Foreign Agricultural Service. 注.生産量・輸入量とも精米重量.

輸入量 生産量

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61%と大半を占める一方,米を含む穀物のそれは 1.0%にとどまっている。今後,肥料補助金の対 象の多くを占める小規模稲作農家に低投入農法や 有機農業を普及させることが,政府の補助金への 財政支出を軽減しながら持続的に米を増産するこ とにつながると期待できる。  ここで,投入財(種子,化学肥料,農薬な ど)の利用量を抑制しながらも稲の収量を増加 させる効果のある有機SRIという農法に注目す る。有機SRIとは,①乳苗の利用(日齢8~ 12 日),②1~2本の苗の浅植え(1~2cm),③ 疎植正条植(25 × 25cm以上),④間断灌漑,⑤ 中耕除草による土壌への酸素供給,⑥堆肥(有 機肥料)施用の6点を原則とする,稲の根の分 げつや茎の成長を促す技術である(Uphoff and Randoriamiharisoa, 2002;Uphoff, 2009)(9)。この 技術は,導入した農家が①~⑥の要素の中からほ 場の条件に合った適切な技術を組み合わせること により収量の増加を図る,現場試行型技術という 特徴を持つ(Tsujimoto et al. 2009;横山・ザカ リア,2009,648 頁)。1997 年にアメリカの大学 教授によってインドネシアに紹介された後,各地 で有機SRIの導入が種子・化学肥料・農薬の利用 の減少による生産費の削減や,堆肥の利用・土 壌の回復,米の品質の向上,収量の増加,農家 の所得向上の効果をもたらしたことが実証され てきた(佐藤,2006, 2011;Yadi Heryadi and Trisna Insan Noor, 2016;Sukristiyonubowo et al., 2011)。2010 年には農業省も「2015 年までに インドネシア全土でSRIを導入する」と発表する に至った(佐藤,2011, 77 頁)。このように有機 SRIは,今日の有機農業・低投入農法普及政策の 中心をなす技術であると考えられる。  しかしながら,有機SRIの普及は遅々として進 まなかった。2012 年の時点で,全国 33 州のうち 29 州,2万 799haにおいて有機SRIが実践された と報告されている(SIMPATIK, HP)(10)。その実 施面積は全国の灌漑水田面積(約 441 万ha)の うち 0.5%を占めるに過ぎない(BPS, 2013)。有 機SRIの普及が進んでいない要因として,緑の 革命期における慣行農法の普及過程に比べて, 政府の役割が小さかったということが指摘でき る。慣行農法は,政府の指示の下にトップダウ ン の 方 式 で, 全 国 の 協 同 組 合(Koperasi Unit Desa:KUD)の組織化・信用事業を通じて一般 農家へ向けて一斉に普及した(大鎌,1990;水 野,1998)(11)。つまり,政府が普及を主導した一 方,農家は普及の受け手でしかなかった(加納, 1988,62 頁)。それに対し,有機SRIの普及の初 期段階においては農家が普及の主体として大きな 役割を果たした一方,政府の役割は相対的に小 さかった。有機SRIの普及は,環境問題に関心を 持っていた数名の農家が主体となって形成した農 民組合が,国際機関,NGO,企業などと連携を とりながらボトムアップの方式で進められてきた (横山・ザカリア,2009;横山,2011)。やがてそ のような活動を,州・県政府が支援するように なっていった。また,除草や間断灌漑に手間がか かり,ほ場条件により農家が自ら改良・工夫を加 える必要があるSRIは,農業以外にも就業機会が 豊富であるような地域の農家には受け入れられに くい(本台・中村,2016,ⅰ-ⅱ頁)。有機SRIの 普及を速めるためには,政府がより主導的な役割 を果たしながら,農業以外の就業機会が少なく水 管理を行いやすい灌漑設備が発達しているような 純農村地帯を中心に,普及の社会経済的制約を緩 和していくことが必要となる。  以上を踏まえて本稿の目的を,西ジャワ州(West Jawa Province) タ シ ク マ ラ ヤ 県(Tasikmalaya District)において国内で初めて国際有機認証を取 得してフェアトレードとして有機米の輸出を開始 した農民組合の活動拠点の村を事例に(12),有機 SRIの普及が,①農家の経営収支,②農家の社会 関係,③伝統的な雇用労働制度へ与えた影響を明 らかにすることとする。調査地には,非農業雇用 機会へのアクセスや灌漑の利用においてほぼ同様 の条件にありながらも,有機SRIを導入している 農家と導入していない農家が混住する。これらの 農家について①~③の実態を比較することによっ て,個別の農家の社会経済的条件と有機SRIの導 入・普及との関係を明らかにする。それぞれの検 討課題の内容は次のようなものである。 ①有機SRIを導入した農家の経営収支の分析を通 じて,収益の特色を明らかにする。有機SRIと いう低投入農法の導入・有機米のブランド化と いう商品経済化が農家の収益を高めるのかどう

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かを具体的に明らかにすることによって,低投 入農法を採り入れた経営の経済的持続性を検討 する。 ②有機SRIの普及が農家の間の社会関係に与え た影響を検討する。2000 年代の西ジャワ州で は,有機肥料や生物由来資材(Micro Organic Local:MOL)(13)を利用することで土壌を改良 するアグロエコロジカル・アプローチを広めて いた農家グループが主体となって,国際機関, NGO,企業などと連携しながら有機SRIを普及 させてきた(横山,2011)。また,有機SRIの 導入に伴って農家の集まりや技術の学び合いの 機会が増えたことが,農家のエンパワーメント や社会関係資本の形成に貢献したことが示唆 されている(Ishikawa, 2011;横山・ザカリア, 2009;Mishra et al. 2006)。このように,有機 SRIの導入を契機とする農家の社会関係の変化 を検討することで,技術普及の社会的影響の一 側面を明らかにする。 ③では,より長期的な視点から有機SRIの社会的 影響を考察する。人口稠密なジャワ農村では, 農地を所有する自作農や地主,小規模な農地を 借り入れて経営する小作,農地を所有すること も借り入れることもできずに他世帯の農地で農 業労働従事などによって生計を立てる土地なし 層(14)など,経済的格差・階層差のある世帯が 密集して暮らしている。所得の平準化を促すこ とで農村社会の秩序を維持するための,零細農 家や土地なし層の農村内包摂メカニズムの持続 と変容の過程の解明こそが,農業問題の研究の 根本課題であるといわれている(加納,1988, 3 頁)。特に,多くの近隣住民を収穫作業に参 加させることで,収穫米・稲作所得を貧しい零 細農家や土地なし層に対して分配する役割を果 たしてきた伝統的な雇用労働制度が,農村住民 の関係を維持してきた(金沢,1988,1993;米 倉,1986)。有機SRIの普及が,このような伝 統的な制度の変容とどのような相互関係にある のかを検討することで,技術普及の社会制度へ の影響について考察する。  有機SRIの普及が一部で進んできた地域を事例 に個別の農家が直面している社会経済的条件を検 討することは,これまで有機SRIの普及を制約し てきた要因の解明や,今後の,有機SRIに代表さ れる低投入稲作農法の普及に向けた課題の明確化 につながる。それは,米の自給を達成したポスト 緑の革命期のインドネシアが,環境,財政,農家 経営への負担を軽減しながら米を持続的・安定的 に増産することにより,農業の高付加価値化と国 民の食料安全保障を両立する方策を具体的に提示 することに,貢献すると考えられる。  本稿の構成は次のようになる。続く第2節で は,分析の枠組みと調査地の概要を述べる。第3 節では,西ジャワ州の農村における農家調査の結 果を用いながら,有機SRIを導入した農家の稲作 経営収支の分析,有機SRIの普及過程と農家の社 会関係・農村制度との関連の検討を行う。第4節 では農業技術普及理論を参照しながら,有機SRI の普及の社会経済的影響について考察する。最後 に結論をまとめる。

2.社会ネットワーク分析の導入・

調査地の概要

(1)社会ネットワーク分析   本 稿 は「 社 会 ネ ッ ト ワ ー ク 分 析 」(Social Network Analysis)の方法を用いて有機SRIの 普及過程を捉える。社会ネットワーク分析とは, 社会構造を,「社会を構成する主体の特徴の総 計」としてではなく,「財貨サービス,情報,態 度,行動を他の主体に伝達する主体間の社会的紐 帯(social ties)のネットワーク」として捉える 方法である(Scott, 2000)。換言すると,「主体の 行為を,主体の属性のみならず,他の主体との関 係や社会関係構造の全体によっても決定づけられ る」と想定する「社会選択」という視角から,社 会・経済の実態・動態を分析する(Granovetter, 1985)。例えば人を主体とすれば,その行為は, 性別,年齢,所得,教育水準などの個人の属性の みならず,他の人との関係(友人関係,親族関係, 隣人関係などの社会関係)のあり方,ネットワー クを構成する社会関係の全体構造(集団内の人々 が全体として緊密な関係を築いているのか,粗密 な関係を築いているのかなど)によっても影響を 受けると想定する。  社会的紐帯・主体の間の関係は,具体的にはグ

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ラフ(主体の数を表す点と,主体相互の関係・結 びつき方を表す線又は矢印からなる)によって図 示・可視化される(de Nooy et al., 2005)。グラ フは,それぞれの主体(点)が備える属性に関し ての詳細な情報を捨象し,対象とするネットワー クの中に「どれだけの主体がいるのか,主体の間 がどのようなパターンで結ばれているのか」とい うこと(のみ)を表現する。また,主体間を直接 に結ぶという二者間の関係(直接的な関係)のみ ならず,直接は結ばれていないが第三者を介して 結ばれているような間接的な関係も,ネットワー クの全体を構成する要素として考慮される。そう して,ネットワークの全体構造を俯瞰した上で全 体に占める各主体の相対的地位を測定できること が,社会ネットワーク分析の利点である(安田, 2001)。  本稿が社会ネットワーク分析の方法を用いる理 由は,有機SRIのような複雑で利用者(農家)自 身の実験・工夫による改善が志向されるような農 業技術は,特定の主体が多数の農家に対して,一 方的,一斉に普及するパターン(「集中型普及」 と呼ばれる)をとらずに,複数の主体(組織や農 家)の間のパートナーシップ・関係を通じて,徐々 に部分的に普及する傾向(「分散型普及」と呼ば れる)があるためである(15)。集中型普及の過程 で農家は普及の受け手でしかないが,分散型普及 の過程では農家も普及の主体となりうる。先に述 べたように,インドネシアにおける有機SRIの普 及は政府や公式な普及組織のような特定の主体に より主導されたというよりも,農家グループ(の ちに農民組合連合を形成,詳細は後述する),国 際機関,NGO,企業,地方政府など,複数の組 織の関係が強化された過程で進んだと考えられ る。本稿はまずマクロのレベルで,組織間のパー トナーシップを通じた有機SRIの普及過程を明ら かにする。  更に,有機SRIが初期に導入された1つの農村 を事例として,特定の地域内における農家から農 家への指導・助言・コミュニケーションの増加の ような「農業技術普及過程における農家間の学 び合いのプロセス」(以下,「ソーシャルラーニン グ」と呼ぶ)を伴う有機SRIの普及過程を,社会 ネットワーク分析の方法を用いて捉える(石川 他,2014,175 頁;Bandura, 1971)(16)。そして, 有機SRIの普及過程がソーシャルラーニングの活 性化の実態,農家の社会関係,農村の社会制度 とどのような関わり合いを持つのかという視角 から,有機SRIの普及の社会経済的影響を解明す る。ソーシャルラーニングの活性化は,地域内の 一部で新技術が普及しているような状況におい て,まだ新技術を導入しておらず導入するかどう かを迷っている農家が新技術の試用に対して抱い ている不確実性やリスクの認識・軽減に貢献する ため,技術の試行を促すということが実証されて きた(Foster and Rosenweing, 2010;Bandiera and Rasul, 2006;ロジャース,2005)。また,強 い信頼関係で結ばれている複数の人から情報を得 ることは,複雑な技術を試用・習得する過程で 重要な役割を果たす(Munshi, 2004;Todo et al., 2013)。

 緑の革命期の慣行農法の普及過程では,それま での粗放的・自給的な農業が営まれていた時代 に比べ,農村の「制度・組織」が大きく変化し たことが注目されてきた(Hayami and Kikuchi, 1981;速水,2000;Collier, 1977;藤田,1990a;米 倉,1986 など)。「制度・組織」とは,地主と小 作の間の土地貸借をめぐる契約,農作業を請け負 う雇用労働者との契約関係,水利の管理に関する 取り決めなどの,生産過程での農村住民の間の関 わり合いといった広義の制度(Institutions)= 「共同体の成員によって履行が強制されるところ のルールの集まり」を指している(North, 1990; Hayami and Kikuchi, 1981)(17)。ジャワの稲作農

村では,誰でも収穫労働に参加し収穫量の一定 割合の米(収穫労働者の取り分は “bawon” と呼 ばれる)を報酬として受け取る(雇用者は労働 費用としてbawonを支払う)無制限刈り取り制度 (derepan)が一般的であった。農村に住む零細農 家や土地なし層にとって複数の水田で農業雇用労 働に参加することによりbawonを多くの農家から 受け取ることは,食料となる米を確保する上で不 可欠であった。緑の革命期には,derepanに代わ り,田植えや除草などの作業を無償で請け負った 労働者のみが収穫労働に参加し収穫量の一定割合 の米(bawon)を受け取ることができる制限刈り 取り制度(cebelokan)が広がった(18)。零細農家

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や土地なし層は,限られた相手(通常は近所に住 む農家)との間で長期的・排他的な雇用労働契約 を結ぶことにより一定の米の分配を受け続けるこ とができた。労働者を雇用する農家も,米を分か ち合う文化・伝統を維持しながら労働者の人数を 制限することにより収穫労働者の取り分(bawon) を調整できるようになった。同時に,農家が一方 で労働者を雇いながら自らも他の農家の水田で雇 用され収穫米の一部を受け取るという相互雇用を 通じ,水田の広さや土壌・水利条件によって異な る米の収量・稲作所得が世帯間で平準化されてき た(金沢,1988,1993)。地代として収穫米の半 分を小作が地主に支払うという伝統的な分益小作 制(maro)が定額借地制へ移行するなど,地主 と小作の間の農業経営費負担に関する契約も多様 化した。このように,政府が主導した零細農家を 含めた組織化・信用事業の実施という「上から」 の慣行農法の普及と合わせ,農村社会における農 業労働契約制・分益小作制の変化が起きたことに よって,土地生産性・実質賃金の増加の受益者と して零細農家や土地なし層も包摂するような生産 関係の変化が進んだ。このような制度の変化は, 世帯間の経済格差,社会的軋轢を部分的に緩和し たため,比較的スムーズに多くの農村において 慣行農法が普及した社会的背景となった(加納, 1988,79 頁)。  他方で,有機SRIの普及過程が農家の社会関係 や農村の制度とどのように関連しているのかにつ いて焦点を当てた分析はなされてこなかった。い くつかのジャワ農村の調査は,有機SRIが普及し た過程で,多くの農家が「研修や集会などを通じ, 周囲の人との間で学び合う機会が増えた」,「他 の人との関わりを通じて知識が増えた」と感じ るようになったことを指摘している(Ishikawa, 2011;横山・ザカリア,2009)。また,農家の間 の水利をめぐる話し合いや地主による小作への農 法の選択に関する意向が,有機SRIの導入を促し たり阻害したりするという可能性が示唆されてい る(Takahashi, 2012;Yadi Heryadi and Trisna Insan Noor, 2016)。  本稿は,有機SRIの普及事例の社会ネットワー ク分析を行うことで,次のようにジャワ農村の 制度を捉える新たな視角を提示する。具体的に は,有機SRIを導入した農家と導入していない農 家が併存しているという有機SRIの普及過程にあ る村において,ソーシャルラーニングや雇用労働 契約を通じたつながりなど,農家がどのように多 様な社会関係を築いているのかをネットワーク分 析の方法を用いて可視化する。更に,ネットワー クの全体構造を把握した上で,それぞれの農家の 相対的地位を表す「ネットワーク指標」を測定す る。制度に関する先行研究の多くは,普及員から 農家への慣行農法の指導,地主・小作制,農家と 労働者の雇用契約など二者間の関係のパターンと して制度を捉えてきた。このような視角からは, 農村における社会関係の全体像やその中でそれぞ れの農家がどのような位置づけにあるのかを把握 することが難しかった。それに対して社会ネット ワーク分析は,間接的関係(第三者を介した二者 間の関係)を考慮することができる。例えば有機 SRIの普及過程では,農家は他者から指導を一方 的に受けるだけでなく,他者から教えられた技術 を他の農家に自ら教えるという,技術を媒介する 役割を果たすことが想定される(情報は3つの主 体の間で流れており,他者から指導された技術を 第三者に伝えた主体が,情報の媒介・普及におい て最も重要な地位にあるということになる)。対 象集団内でどのような農家が技術の媒介において 重要な役割を果たすのかを,ネットワーク指標の 1つである「中心性」(詳細は後述する)などを 用いて測定することができる。農業労働者の雇用 に関しても,個別の農家と労働者との間の二者間 の(相互)雇用関係のみならず,複数の相手との 雇用関係が構成する全体のネットワークの中で, 新農法の普及に伴って変化する農家の所得分配の 状況を示すことができる。このように,有機SRI が,農家の社会選択の側面,すなわち農村の社会 関係を考慮した上での農業経営や生活の実態と, どのように関わり合いながら普及しているのかを 明らかにする。それは,農村社会の成り立ちに対 する多面的な理解を深めることに貢献すると考え られる。 (2)調査地と調査対象の選定理由  西ジャワ州では,低地における大規模・商業的 な稲作と山地における小規模・自給向けの稲作が

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同時に展開されてきたため,緑の革命後も州内に おける米の商品化の程度に大きな地域差があっ た(水野,1988)。首都ジャカルタから約 200km 離れているタシクマラヤ県には,山地が多く存在 する。1980 年代でも米を販売している農家の割 合は 17%に留まっていたことから,自給向けの 稲作が長く維持されてきたと考えられる(BPS, 1986)。年間降水量は約 2,600mm,季節は乾季 (50mm以下/月),雨期(250mm以上/月),少雨 期(150mm/月)に分かれ,2期作~3期作が可 能である。2000 年代には,有機農業を推進する 方針を示した西ジャワ州政府の後押しの下,水利 条件の良いほ場で選択的・集約的に有機SRIが採 用されるようになった。  純農村地帯であったタシクマラヤ県における, 近年の有機SRIの導入と商業的農業の拡大は,農 村社会に大きな影響を与えたと考えられる。その ため,有機SRIの普及の社会経済的影響を考察す るための調査地として選定した。また,調査地の 農民組合は国内で初めて国際認証の取得・有機米 の輸出システムを確立・実践した。したがって調 査農民の経営のあり方は,低投入農法を採り入れ た商業的稲作の展開において最も先進的なモデル ケースとして位置づけられる。  今日,タシクマラヤ県の有機米のほぼすべてが 有機SRIを用いて生産されている(Yadi Heryadi and Trisna Insan Noor, 2016, 176 頁)。同県に おける有機SRIの普及過程は① 1992 年~ 2000 年 の準備段階,② 2000 年~ 2005 年の導入期,③ 2006 年以降の定着期,に分けられる。有機SRI普 及の過程では,農家グループによるNGOや農民 組合の形成,州・県政府の政策的支援,海外や都 市の企業による農家への農法指導・認証取得に関 する支援など,組織間のパートナーシップが重要 な役割を果たした(横山,2011)。 ① 準 備 段 階 の 1992 年, タ シ ク マ ラ ヤ 県 に お け るFAOプ ロ ジ ェ ク ト の 一 環 と し て 導 入 さ れ た 総 合 的 病 害 虫 管 理(Integrated Pest Management:IPM)を学んだ農家が,有機農 業に関心を持ちアグロエコロジカル・アプロー チの研究を始めた。これまでの肥料・農薬多投 型の農業によってほ場生態系が危機に瀕してい るとの認識を持つ農家はグループを作り,堆肥 や生物由来資材を利用して土壌を改良すること によって増産を図る方法に関する独自の研修教 材(Ekologi Tanah)を作成して農民学校を開 き,県内を中心に,自主的にアグロエコロジカ ル・アプローチを普及し始めた。 ②導入期の 2000 年,農家グループはアグロエコ ロジカル・アプローチの研修メニューに有機 SRIを採り入れた。2003 年には県内の全 39 郡 の代表農家に,3日間の有機SRI研修が実施さ れた。以前から農民学校の研修を受けていた多 くの農家が,この研修を機会に県内の広域に有 機SRIの情報を伝えた。 ③定着期の 2006 年,我が国の企業の資金援助や 農業省の協力を得て,農家グループは,有機 SRIの研修・普及を主な目的とするNGOを発足 させた。県政府は,2006 ~ 07 年,堆肥製造の ためのチョッパー,ミキサー,堆肥舎,家畜 (牛,山羊)などの購入のための補助金を提供 した(19)。有機米の生産地に政府の補助で建設 された真空パック機材を据える精米工場では, 近隣に住む農家の妻や非農家などが雇用される ようになった。2008 年,州政府の「健康・教 育・貧困削減政策」の一環として県政府が打ち 出した「有機稲作振興政策」において,有機 SRIは推奨技術として採用された。同じ年,農 家メンバーが代表となる「シンパティック農 民組合連合(Simpatik Farmers Cooperative: GOPOKTAN, 以 下 で は「 農 民 組 合 」 と 呼 ぶ)が設立された (20)。アメリカのフェアト レード企業は,農民組合に対して「シンタヌ」 (Sintanue)という西ジャワ向けにインドネシ アで開発された高収量品種の有機SRIによる生 産・有機認証取得を指導・支援すると同時に, シンタヌを “Volcano Rice” として商標登録 した。2009 年,農民組合の農家が国内で初め てIMO(スイスの有機農産物の資格付与団体) から有機米及びフェアトレードの認証を取得し た。ジャカルタの業者を通じてアメリカの企業 への輸出が開始され,その後,EU,マレーシ ア,シンガポール,香港への輸出も始まった。 更に 2013 年には中部ジャワ州で,タシクマラ ヤ県における有機認証取得・輸出を推進したの と同じアメリカ企業とジャカルタ業者が,同様

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に農民組合の農家を支援し国際認証取得,工場 での包装,ジャカルタ業者による買取,ベル ギー,ドイツなどへのフェアトレード輸出を開 始した。また国内の都市への有機米の流通が開 始された(SIMPATIK, HP)。  2011 年に農家の費用負担により建設された “Nagrak Organic SRI Center(NOSC)” という 宿泊施設や実験ほ場を備える研修センターは,全 国・海外からも研修希望者を受け入れている。参 加者は通常5日間のプログラムの中で,種籾の選 別,苗床の準備,移植,有機肥料や生物由来資材 の作製,除草,病害虫管理など稲栽培全体に関す る訓練を受ける。訓練を受けた農民の中から選ば れた研修指導員は,出身村で他の農家への指導を 担う。そのため研修センターは普及員の育成も実 施していることになる。この研修センターは政府 機関ではなく,有機SRIの普及に取り組むNGOの メンバーにより運営されているということが特徴 的である(佐藤,2011,85 頁)。  本稿の調査(2012 ~ 2018 年)の対象は,タシ クマラヤ県の中でフェアトレード輸出用の有機米 の精米・包装工場が建設され,地域の米のブラン ド化の拠点となっている村である(横山,2011; 伊藤,2016a,2016b)(21)。村の中でも,隣県に おいてインドネシアで初めて有機SRIを導入した 農家と友人関係にある農家が,初期に有機SRIを 導入した地区(「隣組」:Rukun Tetangga,以下 「RT」と呼ぶ)内に居住するすべての農家(22)(36 世帯,以下「調査農家」と呼ぶ)を聞き取り調査 の対象とした。  

3.調査農家の経営収支と社会関係の特色:

SRI農家と慣行農家の比較から

(1)SRI農家と慣行農家の基本的特色  以下では,調査農家を「SRI農家」(有機SRIを 導入した農家)18 世帯と,「慣行農家」18 世帯(導 入していない農家)に分類する。その上で,慣行 農家に比べたSRI農家の社会経済的特色を,稲作 経営収支や周囲の世帯との社会ネットワークのあ り方を検討することで明らかにする。  ここでSRI農家を「調査時点で過去1年間に 有機SRIを実践したと農家自らが認識している 世帯」と定義する(横山・ザカリア,2009,650 頁)(23)。多くのSRI農家は2期作を行い,農作業 を行わない時期には堆肥作りや農法の学習(研修 への参加)などを行っている。一方,調査時点で 有機SRIを実践したことがない,又は一度は導入 したがやめたという(調査時点の過去1年間に有 機SRIほ場を経営しなかった)農家を「慣行農家」 と定義する。多くの慣行農家は3期作又は2年5 期作を行う。調査対象のRTには,徒歩5分以内 で移動できるほどの敷地に家が密集している。そ のため調査農家は互いに顔見知りである。調査で は 36 農家の世帯主(すべて男性)のリストを作 成した上で,すべての農家に対して他の農家(35 人)との関係について質問をした。  慣行農家が「有機SRIを導入しない,もしくは 導入したがやめた理由」は大きく2つに分けられ る(第1表)。1つ目は世帯の属性に関連する(費 用・時間の制約,能力・労働力の制約,機械・設 備の制約など合わせて 22 件)。2つ目は労働者・ 地主・近隣農家との社会関係に関連する(14 件)。 田植え(間隔や植える本数などの工夫)・堆肥づ くりなど,農作業を請け負う労働者に伝えるのが 難しいという回答が多い(8件)。また,収穫労 働者に報酬として米を与えるためという回答が あった(1件,本調査地では有機SRIを用いて生 産した有機米は農民組合に買い取られる)。地主 の意向により導入をためらっているという意見も あった(3件)。小作と分益小作制を結んでいる 地主は,農法転換後に収穫が一時的に減ることに よって地代収入が減少するというリスクを避ける ために,小作の技術導入に反対するということが 考えられる。農薬を使用しないことによる病害虫 の被害が近隣農家へ及ぶことを懸念するという声 もあった(2件)。  SRI農家は慣行農家に比べて,世帯主の年齢 が低く,教育水準が高い傾向にある(第2表)。 SRI農家の経営耕地面積(0.67ha),そのうち自作 地の面積(0.43ha),経営耕地面積のうち自作農 の比率(64%),年間生産量(8t),販売率(47%), 販 売 価 格(5,064Rp/kg) は, 慣 行 農 家 の そ れ ら( 順 に,0.39ha,0.03ha, 7 %,2.4t,19 %, 4,358Rp/kg)を上回る。他方SRI農家の借入地の 面積(0.24ha)は慣行農家のそれ(0.36ha)より

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も小さい。収穫した米のうちSRI農家はその 53% を,慣行農家はその 81%を,自家消費や地代支 払い,雇用労働者への報酬の支払いなどのために 利用する。  土地の所有や貸借に関して,SRI農家において は経営耕地面積のうち自作地の割合が高く,逆に 慣行農家においては借入地の割合が高い。その意 味で慣行農家の方が,(農法の選択を含めた)地 主の意向を経営に反映させやすいと考えられる。 SRI農家のうち水田を借りていない自作農は9世 帯であり,残りの9世帯は水田(すべて又は一部) を賃借している。3世帯のSRI農家が他の農家に 水田の一部を賃貸している。慣行農家のうち土地 を借りていない自作農は2世帯のみである。残り の 16 世帯は,水田(すべて又は一部)を賃借し ている。水田を貸しているという慣行農家はいな い。1世帯のSRI農家が他の調査農家(近所に住 む父,SRI農家)から水田を借りている。その他 の調査農家の賃借相手はすべて調査農家以外(村 内外の農家及び非農家)である。このように,調 査農家の集団の内部では土地の貸借があまりなさ れていない。借地農のうち,慣行農家 16 世帯と SRI農家7世帯が,地代として地主に収穫米の半 分を支払うmaro制を実践している。   (2) SRI農家と慣行農家の経営収支  多くのSRI農家は,農民組合で毎年種子を購入 する。SRIはどのような品種の米にも適用できる ものとされているが,国際認証を取得するには IR種に比べて味の良い在来品種(「赤米」や「黒米」 と呼ばれる)やシンタヌの正式な種子を,農民組 合を通じて毎年購入することが農家に義務づけら れている。そのため有機SRI導入後に,栽培する 品種をIR種からシンタヌに切り替えたという農 家も多い。農家による農民組合への有機米販売価 格はシンタヌ(すべてのSRI農家が生産)7,000Rp/ kg,赤米や黒米(生産農家は調査対象の中で1 人)1万~1万 2,000Rp/kg程度である(籾米)。 組合への販売価格は,商人を通じて地元市場で米 を売る相場である 4,000 ~ 5,500Rp/kgに比べて高 第1表 慣行農家が有機SRIを導入しない・やめた理由 SRIを導入しない・やめた理由の分類 件数 「関係」に関連する事項 労働者との関係 田植え・堆肥づくりを労働者に教えるのが大変 8 慣行農法の方が労働者に米を与えられるから 1 地主との関係 地主の意向 3 近隣農家との関係 無農薬で病気が発生すると周囲に迷惑をかける 2 「属性」に関連する事項 費用・時間の制約 堆肥を作る費用が高い,家畜がいない,堆肥運搬が大変 5 時間がかかる,手間がかかる 8 能力・労働力の制約 高齢なので新しい農法がわからない,能力がない 5 男性労働力の不足 1 機械・設備の制約 パソコンや農具(耕耘機など)がない 2 一度試してみたが収量が上がらなかった 1 回答総数 36 資料:調査結果より作成. 注.慣行農家 18 世帯から,有機SRIを導入しない・やめた理由を聞き取り,筆者が整理した. 第2表 SRI農家と慣行農家の基本的属性 SRI農家 (N= 18) 慣行農家 (N= 18) 世帯主年齢(歳) 50 58 世帯主教育年数(年) 12 7 経営耕地面積(ha) 0.67 0.39 うち自作地(ha) 0.43 0.03 うち借入地(ha) 0.24 0.36 自作地が経営面積に占める割合(%) 64 7 借地農数(世帯) 9 16 うち同RT内からの借地農数(世帯) 1 7 年間籾米生産量(t) 8 2.4 収穫回数(回/年) 2 2.5 販売率(%) 47 19 販売価格(Rp/kg) 5,064 4,358 資料:調査結果より作成. 注 (1)SRI農家の販売率(販売価格)は,生産量のうち, 農民組合と地元の市場への販売量の合計が占める割合 (全販売量の価格の平均値). (2)ルピア(Rp)はインドネシアの通貨単位(2011 年1US ドル= 8,770Rp,2012 年 9,703Rp,2013 年 10,461.2Rp).

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い。また「チヘラン」(Ciherang)という,イン ドネシアで広く普及している高収量品種を生産し ているSRI農家7世帯はいずれも,その品種を自 家消費用に生産している。有機米の買取基準(認 証基準)を定めている契約書には,有機米の定義 (化学肥料・農薬使用の禁止),施肥(堆肥利用) の基準,生産物の品質基準(水分など)などが定 められている。これらの基準を満たしているかど うかを,毎年国際認証機関の指導を受けた組合の 検査員が調査する(2014 年の農民組合での聞き 取り)。  他方慣行農家の多くは,地元の市場や協同組合 を通じて高収量品種(チヘランやIR)の種子を 入手し2~3期作を行う。種子を毎年買わず,自 家採種や種子交換を行う農家も多い。多くの慣行 農家は,農村に米を買いに来る商人や地元市場, 協同組合などへ,収穫後の時期やその後現金が必 要になったときに個別に米を販売している。  続いて第3表によりSRI農家と慣行農家の稲作 経営収支(1ha当たり)を比較する。SRI農家の 平均的な経営耕地面積,単収,粗収益,堆肥費, 自作地地代,雇用労働費,生産費総額,稲作所得 は,慣行農家のそれらの値を上回っている。特に SRI農家のほ場の単収が慣行農家のそれを大きく 上回っているのは,SRI農家の多くが国際認証取 得のために農民組合から技術的指導を受けなが ら,先述した6つの有機SRIの原則を忠実に実践 していることに加え,優良種子の選定,水田の毎 日の観察による早期の病気予防,堆肥の改良など 自発的に生産量を高める活動に熱心であるためで ある(24)  慣行農家の賃借料,種子費,化学肥料・農薬 第3表 SRI農家と慣行農家の稲作経営収支        SRI農家(N= 18) 慣行農家(N= 18) 平均値 生産費に占める割合 標準偏差 平均値 生産費に占める割合 標準偏差 経営耕地面積(ha) 0.67 - 0.43 0.39 - 0.20 単収(年間,t/ha) 11.80 - 6.07 6.10 - 4.51 粗収益 37,237 - 31745.57 20,144 - 14967.88 賃借料 1,071 5% 0.99 1,120 6% 1.21 種子費 108 1% 235.91 140 1% 298.36 化学肥料・農薬費 0 0% 0.00 1,648 8% 913.49 堆肥費 117 1% 3015.70 67 0% 321.28 物財費小計 1,295 6% 3067.91 2,976 15% 846.04 支払い地代 7,049 34% 9477.70 11,296 56% 6837.69 自作地地代 3,943 19% 3425.33 275 1% 1210.25 地代小計 10,992 52% 7743.06 11,571 58% 6451.81 家族労働費 1,487 7% 4497.60 4,016 20% 5044.52 雇用労働費 7,194 34% 11049.92 1,499 7% 1277.81 労働費小計 8,681 41% 10953.37 5,515 27% 5347.22 生産費総額 20,968 100% 10448.36 20,062 100% 5638.08 稲作所得 21,700 - 30286.82 4,373 - 15124.16 資料:調査結果より作成. 注 (1)単収は,年間の1ha当たりの生産量を示している.SRI農家は年に平均2回,慣行農家は年に平均 2.5 回収穫を行うため, 1期当たりの単収はそれぞれ 5.9t/ha,2.4t/haである.技術の違いによる単収の差に関する詳細は,本文注 24 参照. (2)収支の計算方法は,高橋(2000,203 頁)・農林水産省(2017)の「農業経営統計調査」・「米の生産費」調査項目を参照. (3)粗収益以下の項目(平均値)の単位は 1,000Rp/ha. (4)生産費総額=物財費+労働費+地代. (5)稲作所得=粗収益-{生産費総額-(家族労働費+自作地地代)}. (6)地代支払い,雇用労働費について,現物(米)が用いられる場合,平均販売価格(4,500Rp/kg)で換算した. (7)賃借料はトラクターの賃借料. (8)標準偏差の大きい項目について,SRI農家と慣行農家の差が統計的に有意かを確かめるために有意水準5%で片側検定のt検 定を行った結果,粗収益,稲作所得については平均値の差が有意であることが分かった(t= 0.001,p<.05,t= 0.04,p<.05, t= 0.016,p<.05).生産費総額については5%水準で有意差は認められなかった(t= 0.236,p>.05).

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費,支払い地代,家族労働費は,SRI農家のそれ らの値を上回る。まとめると,SRI農家の物財費 (約 130 万Rp/ha)・地代(1,099 万Rp/ha)や物財 費・地代が生産費総額に占める割合(順に6%, 52%)は,慣行農家のそれら(順に 298 万Rp/ ha,1,158 万Rp/ha,15%,58%)よりも低い水 準にある。他方SRI農家の労働費(868 万Rp/ha) や労働費が生産費に占める割合(41%)は,慣行 農家のそれら(順に 552 万Rp/ha,27%)よりも 高い水準にある。ここに,有機SRIが投入財節約 的・労働集約的技術であるという特色が現れてい る。  また,SRI農家の経営耕地面積,単収,粗収 益,堆肥費,物財費,支払い地代,自作地地代, 地代,雇用労働費,労働費,生産費総額,稲作所 得の標準偏差は,慣行農家のそれらを上回る。慣 行農家のトラクター賃借料,種子費,化学肥料・ 農薬費,家族労働費の標準偏差のみがSRI農家の それらよりも高い(SRI農家のこれらの種類の費 用は一律に低い)。このようにSRI農家集団内部 では全体として,慣行農家の集団内部に比べ単 収,粗収益,費用,所得のばらつきが大きい。そ れは,技術導入直後のSRI農家の多くが,必ずし も最適な水管理,堆肥の施用による十分な量の収 穫や認証基準を満たす高品質な米の生産(高価で の販売)を行えないために,経験の浅いSRI農家 と熟練したSRI農家の間で収益の差が大きいため である。  以上のように,SRI農家の経営収支を慣行農家 のそれと比べるとばらつきが大きいものの,単位 面積当たりの粗収益が高く,化学肥料や農薬など の投入財にかかる費用は抑えられている。そのた め,SRI農家の経営の収益は,平均的には慣行農 家のそれよりも高い。 (3)SRI農家と慣行農家の社会ネットワーク: ネットワーク指標の比較  次に,SRI農家をとりまく社会ネットワークの 実態を慣行農家のそれと比較することを通じて, 有機SRIの普及過程と社会ネットワークの相互関 係を検討する。具体的には①有機SRIがどのよう に農家間で教えられ普及したのか表す「普及の ネットワーク」,②調査農家(SRI農家と慣行農 家の両方を含む)がどのように普段から農業に関 する情報を共有しているのかというコミュニケー ションのあり方を表す「情報共有のネットワー ク」,③社会制度としての農業労働雇用契約が, 調査農家と村内の農家・非農家の間でどのように 結ばれているのかを表す「雇用のネットワーク」 という3つの社会ネットワークを取り上げる。そ して,36 農家(点で表される)が構成する関係 のパターン(点を結ぶ線や矢印で表される)から, 農家の社会選択・社会構造の実態を解釈する。ま た,それぞれのネットワークにおける各農家の中 心性(一般的に用いられる3つの指標,次数中心 性・近接中心性・媒介中心性)を測定することに より,ネットワークにおける各主体の社会的地 位を,定量的に把握する(25)。第4表は,3つの ネットワークにおけるSRI農家と慣行農家のそれ ぞれのネットワーク指標の平均値を示している。 また第5表は,3つのネットワークにおけるネッ トワーク指標の上位5世帯の世帯番号,SRI農家 /慣行農家の別,それぞれの農家の中心性指標の 値を表している。 ①普及のネットワーク  第2図は,同一RT内で,有機SRIがどのよう に農家同士の社会関係を通じて普及していったの かを示している。図の左の方にある農家がRT内 で早い時期に有機SRIを導入した一方,右の方に ある農家は遅れて導入した。2000 年,国内で初 めて有機SRIを導入した農家(農民組合の代表者) の友人であるv35 が,調査農家の中で最も早く有 機SRIを導入した。2002 年には,同じ農家の友人 であるv5 が有機SRIを導入し,同じ年にv14 に技 術を指導した。有機SRIは 2004 年から 2011 年ま での間に,同RT内の農家の 50%にあたる 18 農 家に普及した。  SRI農家の次数中心性の平均値は1.78である(第 4表)。この値は入次数(ここでは指導を受けた 相手数1)と出次数(指導した相手数 0.78)の合 計である。すべてのSRI農家(18 世帯)の入次数 は1であった。つまり,すべての農家が他の1人 の農家から,有機SRIの導入に際して指導を受け た。他方,出次数(指導した相手数)には世帯間 で差がある。v5 の出次数は 11,v21,31,35 の それは1,その他の 14 世帯のそれは0の値をと

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第 5 表 ネットワーク指標の上位 5 世帯 ネットワークの種類 ネットワーク 指標 1 位 2 位 3 位 4 位 5 位 普及のネットワーク (SRI農家18世帯中) 入次数 全世帯(1) - - - -出次数 v5(11) v21, 31, 35(1) その他(0) - -次数中心性 v5(12) v21, 31, 35(2) その他(1) - -近接中心性 v5(0.36) v21(0.23)v1, 2, 3, 4, 6, 8, 9,14, 24, 25(0.21) - -媒介中心性 v21, 31, 35(0.05) v5(0.01) その他(0) - -情報共有のネット ワーク (調査農家36世帯中) 次数中心性 v5(S)(13) v3(S)(9) v8(S)(8)v6, 9, 23(S)(7) -近接中心性 v5(S)(0.49) v8(S)(0.45) v6(S)(0.42) v3(S)(0.41) v23(S)(0.40) 媒介中心性 v5(S)(0.28) v23(S)(0.19) v8(S)(0.15) v33(C)(0.14) v6(S)(0.12) 雇用のネットワーク (調査農家36世帯中) 入次数 v17, 20, 27(C)v25(S)(2)(2)v10, 12, 30, 33, 34(C)v2, 3, 32(S)(1)(1) - - -出次数 v11, 28(C)v9(S)(5)(5) v5, 6, 21, 36(S)v16, 34(C)(4)(4) - - -次数中心性 v11, 20, 28, 34(C)v9(S)(5)(5) - - - -近接中心性 v20(C)(0.11) v11, 12, 17(C)v9(S)(0.1)(0.1) - - -媒介中心性 v17(C)(0.0012) v12(C)(0.0010) v20(C)(0.0009)v34(C)(0.0007)v33(C)(0.0004) 資料:調査結果より作成. 注 (1)上位5世帯のみ(同列の場合を含む)の情報を表す. (2)vの後の数字は世帯番号. (3)括弧内の数値はネットワーク指標. (4)情報共有と雇用のネットワークに関して,世帯番号の後にSRI農家と慣行農家の区別を表記.(S)はSRI農家,(C)は慣行 農家. 第4表 SRI農家・慣行農家のネットワーク指標の平均値 ネットワークの種類 ネットワーク指標 SRI農家(N= 18) 慣行農家(N= 18) 普及のネットワーク 入次数 1.00 -出次数 0.78 -次数中心性 1.78 -近接中心性 0.21 -媒介中心性 0.00954 -情報共有のネットワーク 次数中心性 4.72 2.06 近接中心性 0.33 0.24 媒介中心性 0.06173 0.02000 雇用のネットワーク 入次数 0.28 0.61 出次数 2.28 2.06 次数中心性 2.56 2.67 近接中心性 0.05 0.06 媒介中心性 0.00004 0.00027 資料:調査結果より作成. 注 (1)近接・媒介中心性の指標は,有向ネットワーク(普及・雇用のネットワーク)を無向ネットワークとみなして計算 した(de Nooy et al., 2005).

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る。v5,21,31,35 の4世帯は,出次数,次数・ 近接・媒介中心性の指標の上位を占める。一方, その他の 14 世帯は下位を占める。v5 は出次数, 次数・近接中心性において1位であり,媒介中心 性は2位である(第5表)。 ②情報共有のネットワーク  第3図は,有機SRIの情報に限らず農業全般に 関する日常的な助言や情報共有がどのような農家 の間で行われているのかを示している。図に描 かれた 60 本の線のうち,27 本がSRI農家同士を, 26 本がSRI農家と慣行農家を,7本が慣行農家の 間を結んでいる。  SRI農家の中心性指標の平均値(次数中心性 4.72,近接中心性 0.33,媒介中心性 0.06)は,慣 行農家のそれらの値(順に 2.06,0.24,0.02)を 上回る(第4表)。媒介中心性が4番目に高い v33 を除いては,中心性指標の上位世帯のすべて を,SRI農家が占めている。v5 は,次数・近接・ 媒介中心性のいずれの値も1位である(第5表)。  また,先述した普及のネットワークにおける中 心性指標の上位4世帯(v5,21,31,35)のう ちv5 は,情報共有のネットワークにおいても次 数・近接・中心性指標が1位であった。その他の 3世帯は,情報共有ネットワークにおける中心性 指標は高くない。 ③雇用のネットワーク  第4図は,調査農家が同じ村(他のRTを含む) に居住している世帯(農家・非農家を含む)との 間で,どのように農業労働雇用契約を結んでい るのかという雇用のネットワークを示す。SRI農 家の入次数(0.28),次数中心性(2.56),近接中 心性(0.05),媒介中心性(0.00004)は,慣行農 家のそれらの値(順に 0.61,2.67,0.06,0.00027) を下回る(第4表)。また,SRI農家の出次数 2000 v36 v35 v31 v32 v2 v24 v1 v4 v8 v9 v22 v21 v25 v3 v6 v14 v5 v23 2002 2004 2005 2007 2008 2011(年) 第2図 有機SRIの普及のネットワーク 資料:調査結果より作成. 注 (1)●がSRI農家. (2)vの後の番号は世帯番号. (3)矢印は,技術を指導した主体から,指導を受けた主体に向けて引かれている(方向のある有向 ネットワークとして描いている). (4)縦列に並ぶ農家は,同じ年に技術を導入した農家(上の数字が導入年を表す。左側の世帯程早 く,右側の世帯程遅く導入した). (5)世帯番号のない点は,調査農家以外の,隣県において初めて有機SRIを導入した農家.

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(2.28)は慣行農家のそれ(2.06)を上回る。入次 数が1位であるv25,出次数・次数中心性が1位 であるv9,入次数・出次数が比較的多いv2,3, 32,5,6,21,36(v21 は普及のネットワーク上 位者でもある)のSRI農家を除けば,上位世帯の 多くは慣行農家によって占められている。特に, 媒介中心性の上位5世帯のすべてが慣行農家であ る(第5表)。  調査農家と,村内の農家・非農家との間に結ば れた雇用契約数(矢印の数)は 77 本である。そ の内訳は,慣行農家と非農家の間が 33 本,SRI 農家と非農家の間 28 本,慣行農家の間8本, SRI農家の間・SRI農家と慣行農家の間がそれぞれ 4本である(26)

4.有機SRIの普及事例の社会

ネットワーク分析

(1)有機SRIの普及の社会的影響  本節では,前節の検討を踏まえ,調査地の農家 間のソーシャルラーニングや社会制度の特色を明 らかにする。SRI農家は慣行農家に比べると,農 法の導入時や日常において農家同士の学び合いの 機会を通じ緊密なコミュニケーションをとって いる。したがって,有機SRIの普及過程における ソーシャルラーニングの活性化が起きているとい うことを読み取ることができる。  まず普及のネットワークにおいて,v5,21, 31,35 の4世帯とその他の 14 世帯の間では,出 第3図 情報共有のネットワーク 資料:調査結果より作成. 注 (1)●がSRI農家,○が慣行農家. (2)vの後の番号は世帯番号. (3)線は,調査対象農家の中から,普段から農業一般に関する助言を受けたり情報を聞いたりする相手 を無制限に選択した結果を用い,日常的な助言,情報共有の関係を持つ世帯間を結ぶ(方向のない無向 ネットワークとして描いている). v36 v35 v31 v32 v2 v24 v1 v4 v8 v9 v22 v21 v25 v3 v6 v14 v5 v23 v29 v30 v7 v28 v34 v20 v33 v26 v10 v11 v12 v13 v17 v15 v16 v18 v19 v27

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次数(指導相手の数)が異なる(4世帯の出次数 は1以上で,14 世帯の出次数は0である)。v5, 21,31,35 の4世帯は,自ら有機SRIを指導す る役割を担った普及の主体である。一方その他 の 14 世帯は,他の世帯から指導を受けた普及の 受け手である(27)。更に,v5 と,v21,31,35 の 3世帯の間では,普及の主体としての役割に違い があると考えられる。出次数,次数・近接中心性 が1位であるv5 は,最も多くの農家と最も近い 距離で結びついている。つまりv5 は,多くの農 家に素早く情報を拡散するのに最も重要な立場に ある。v5 は,先述のNOSC(有機SRIの研修セン ター)で学んだ正式な研修指導員(普及員)で もある。そのため他の農家は,v5 をリーダーの ような存在であるとみなしている。換言すると, v5 と他の農家との間で有機SRIに関する知識や経 験に大きな格差があるということが,調査農家の 中で共通に認識されている。他方v21,31,35 の 3世帯は,媒介中心性が1位であり,次数・近接 中心性はv5 に次いで高い。v21,31,35 の3世 帯はNOSCで研修を受けた正式な普及員ではない ものの,教えられた有機SRIを習得した上で,友 人や親族など個人的に親しい間柄にある1世帯の 農家に対して有機SRIを指導した。これらの3世 帯とその指導相手との関係の方が,v5 とその指 導相手との関係よりも,より水平的で対等であ る。それは例えば,普及のネットワークにおける v21,31,35 の3世帯とそのそれぞれの指導相手 (順にv22,32,36)との間の次数中心性の差(2 と1の差で1)が,v5 とその指導相手(v1,2,3, 4,6,8,9,14,21,24,25)との間の次数中心 性の差(v5 とv21 の差は 12 と2の差で 10,その 他の農家との差は 12 と1の差で 11)よりも小さ いということから,推察される。次に検討するよ うに,普及のネットワークにおける指導者と被指 導者であるv35 とv36 などは,情報共有のネット v36 v35 v81 v38 v39 v42 v40 v45 v43 v80 v82 v83 v84 v62 v72 v63 v59 v41 v74 v71 v73 v78 v34 v33 v29 v68 v69 v30 v28 v56 v58 v57 v51 v10 v52 v53 v16 v13 v50 v12 v49 v70 v67 v79 v54 v55 v76 v19 v75 v20 v18 v7 v77 v27 v66 v15 v26 v44 v61 v60 v46 v17 v48 v47 v11 v31 v32 v2 v24 v1 v4 v8 v9 v22 v21 v25 v3 v6 v14 v5 v23 第4図 雇用のネットワーク 資料:調査結果より作成. 注 (1)●がSRI農家,○が慣行農家, が調査農家以外の村内の農家・非農家(RT外の農家やRT内外の非農家 45 世帯). (2)vの後の番号は世帯番号. (3)矢印は,調査前年に田植え,除草,収穫の作業で雇用した相手世帯(同じ村に住む世帯のみ)を無制限に選択 した結果を用い,雇用者から被雇用者へ向けて引かれている(方向のある有向ネットワークとして描いている).

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ワークにおいて互いに相談している。有機SRIの 指導者とその指導相手との間で,日常的で双方向 的な学び合いが行われていると考えられる。  以上から,普及のネットワークにおける次数・ 近接中心性が1位であるv5 は,つながりの多さ や他世帯との距離の近さという意味で調査農家の 集団の中で圧倒的に地位が高い突出したリーダー である。一方,v21,31,35 のような媒介中心性 の高い農家は,より他の農家と近い立場で情報を 橋渡ししている。これらのv5,21,31,35 の4 世帯はいずれも,他の農家の行為を特定の方向 に向かうように影響力を行使できる「オピニオ ン・リーダー」という役割を果たす(ロジャース, 2005,36 頁)。このような社会ネットワーク上の 地位にある農家は,農業技術の周囲への拡散を導 きやすいため地域内の普及率の上昇に大きく貢献 しうる。  次に,情報共有のネットワークの構造とSRI農 家の地位について検討する。SRI農家の中心性指 標の平均値は慣行農家のそれよりも高いことか ら,SRI農家は慣行農家よりも緊密なコミュニ ケーションのネットワークを築いている。SRI農 家はそれぞれの水田の状況(水利,土壌条件など) に合わせて,間断灌漑,堆肥の利用,田植えの方 法などを具体的にどのように工夫すれば,収量の 増加につながるのかに関するそれぞれの記録を互 いに見せ合ったり,話し合いや集会の場を設けた りしている。それは,先行研究(Bandiera and Rasul,2006;Munshi,2004;Todo et al.,2013 など)と同様に,調査地における有機SRIの継続 にとって多数の人からの情報の取得が重要な役割 を果たしていることを示している。特に,普及の ネットワークにおける次数・距離中心性が1位で あったv5 は,情報共有のネットワークにおける 中心性も高い(次数・距離・媒介中心性がすべて 1位である)ことから,日常的な相談・助言相 手としても対象RTの中で最も重要な農家である。 普及のネットワークにおける中心性が上位であっ たv21,31,35 は,情報共有のネットワークにお ける上位世帯には入っていない。これらの3世帯 は,特定の相手に有機SRIを教えたものの,必ず しも多くの農家にとってのリーダーとして特別 な存在とはみなされているというわけではない。 代わりに,v3,6,8,23 などの情報共有ネット ワークにおいて中心性の高いSRI農家は,有機 SRIを他の世帯に指導してはいないが,一般的な 農業技術情報を速く多くの人に伝達・拡散しやす いため,持続的に情報の伝達を促し,新農法を維 持することに貢献していると考えられる。  更に,情報共有のネットワークにおいて,SRI 農家と慣行農家の間で 27 件,慣行農家同士で7 件のつながりがあり,慣行農家も日常的に他の農 家とコミュニケーションをとること,慣行農家の 中にも媒介中心性の高い(情報伝達を媒介する役 割を果たす)農家(v33)がいることが注目される。 ロジャース(2005,84-86 頁)によれば,人が新 しい行動をとるようになるプロセスには,①技術 を認知する段階,②技術の試用を検討する段階, ③技術の試用を決定する段階,④技術を実際に試 用する段階,⑤技術の効果を確認する段階の5つ の段階がある。そして既に一部分で普及している 行動については,③の技術の試用を決定する段階 において最も多くの有益な情報を必要とする。調 査時点で,慣行農家の全員が有機SRIがどのよう な技術であるのかについて,その概要を「知っ ている」と答えていた。慣行農家の中でも多く のSRI農家との関係を持つような主体は,ネット ワークを通じた情報の取得により有機SRIの導入 に対する不確実性を軽減する機会を多く持つこと ができるため,農法の転換を行いやすい立場にあ る。技術の転換を行いやすい立場にある主体を, 後述するように「照射量」の測定により特定でき る。  このように,自ら学び合いに参加したり,とき には他の農家に対して農法を指導したりすること について,農家は「教わったり教えたりすること によって,知識を増やしたり確認したりすること ができるため自信を持つことができる」,「環境に 良い農法を広めることに楽しみを感じる」といっ た,自己実現などの感情面に動機づけられている ことが多い(SRI農家,特に他の農家への指導を 行った農家への聞き取りより)。こうした実態は, 有機SRIの普及が,農家の主体性や農家同士の関 わり合いの増加を通じてエンパワーメント,社会 関係資本の形成につながるという他のインドネシ ア農村での観察の結果とも整合的である(Mishra

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et al. 2006;佐藤, 2011;Ishikawa, 2011;横山・ ザカリア, 2009)。  次に,雇用のネットワークの構造やSRI農家の 地位を検討する。慣行農家は,多くの貧しい世 帯(村に住む土地なし層などの農業労働への従事 などによって生計を立てる非農家)を雇う傾向が あること,自らが他の農家により雇用されるとい う相互雇用を実践していることから,中心性(特 に媒介中心性)が平均的に高い。慣行農家のうち cebelokanを実践していると答えた世帯は 94%で, SRI農家のそれ(50%)を上回る(28)。彼らが認識 するcebelokanとは,緑の革命期以来維持されて きた近隣世帯(主に土地なし層)を長期的に雇用 して収穫米の一部を報酬として与え続けるという 温情的雇用制度である(加納,1988,77 頁)。慣 行農家による労働者の平均雇用期間(16 年,基 本的に毎年,同じ特定の人を雇用する),同じRT 内の世帯を雇用する世帯の割合(83%),収穫労 働者に対して現物(米)による報酬の支払いを行 う世帯の割合(100%),相互雇用を実践する世帯 の割合(56%)はいずれも,SRI農家のそれら(順 に8年,50%,56%,44%)より大きい。例えば, 雇用のネットワークにおける次数中心性が1位で あるSRI農家(v9)は,出次数(近隣世帯を雇用 する数)が1位(5)であるが,入次数(近隣世 帯に雇用されている数)は0であるため一方的に 雇用するのみである。他方,同じく次数中心性が 1位(5)である慣行農家のうち2世帯(v34, 20)は,入次数が順に 1,2,出次数が順に 4,3 であるため村内の相互雇用を行っている。v34 は 媒介中心性も4番目に高く,雇用を通じた関係・ 情報を統制しやすい中心的地位にある(第5表, 第4図参照)。このような温情的雇用,相互雇用 といった地域内の世帯間の平等性を維持する社 会制度を踏襲する傾向が,慣行農家においては, SRI農家においてよりも明確に確認される。  他方SRI農家の半数は,cebelokanを実践してい ないという。SRI農家の一部は,田植え期などに 他のSRI農家を労働者として雇い,互いに助言し ながら適切な農法の研究・改善に努めている。除 草や収穫の時期には村内外の労働者への報酬を 現金で払うことが多い(相場は1日1人当たり 20,000Rp)。慣行農家に比べるとSRI農家の雇用 は,契約期間の短さ,労働者との社会関係の希薄 さ,現金払い,自らが雇用されることが少ないと いう特色がある。その要因の1つは,農民組合を 通じて有機認証取得のための資金援助を受けてい る農家には有機SRIを用いて生産した有機米を組 合に販売する義務があるため,労働者への報酬を 現金で支払うことである。例えば,出次数が上 位であるv9,5,6,21,36 のSRI農家は村内で多 くの労働者を雇う。しかしながらv9 を除いては, 近接・媒介中心性の上位を占めるSRI農家はいな い。SRI農家の近接・媒介中心性の低さは,雇用 のネットワークにおける他の世帯との距離が遠 く,ネットワークを仲介する役割が小さいこと, つまりネットワークからの自律性が高いことを表 す。反対に,慣行農家の近接・媒介中心性の高さ (他世帯との近距離での結びつき,関係を橋渡し するという重要な立場にあること)は,地域の雇 用関係に深く組み込まれ直接的・間接的に他世帯 と依存し合っている実態を表している。  以上のように,複数の零細農・土地なし層との 雇用契約を通じて米・所得を地域内で分配する ような慣行的雇用労働制度は,主に慣行農家に よって維持されている。逆に言えば,雇用ネット ワークにおける中心性指標の高い慣行農家(例え ばv11,12,17,20,28,34 など)に対して有機 SRIを普及することは,村の労働者への有機SRI に関する情報伝達・普及を急速に進める。雇用を 通じた労働者への有機SRIの情報伝達・普及は, 多くの慣行農家が「有機SRIを導入しない理由」 として挙げた「労働者への指導の困難」(第1表 参照)の解消につながる。 (2)有機SRI・低投入農法の普及を促進する方 策の検討  以下ではこれまでの事例調査結果を踏まえた上 で,今後有機SRIの普及を促進する方策を,農業 技術の普及理論を参照しながら検討する。SRI農 家のネットワークは,ソーシャルラーニングが活 性化している実態を表すと同時に,学び合う機会 や雇用関係から慣行農家や土地なし層を排除する ような閉鎖的・限定的特色を持っていた。すなわ ち,有機SRIを採り入れた有機米ブランド化のシ ステムは,伝統的に農村の世帯間を結び付けてき

参照

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