板状FeCo粒子合成プロセス開発に向けた基礎的研究
著者
檜山 尚徳
学位授与機関
Tohoku University
平成 21 年度
博士課程前期学位論文
板状
板状
板状
板状 FeCo
FeCo
FeCo
FeCo
粒子合成プロセス開発
粒子合成プロセス開発
粒子合成プロセス開発
粒子合成プロセス開発
に向けた基礎的研究
に向けた基礎的研究
に向けた基礎的研究
に向けた基礎的研究
環境科学研究科 ジャヤデワン研究室
A8GM1418
檜山 尚徳
i 目次 目次 目次 目次 第 1 章 緒論... 1 1-1 電磁波利用の現状 ... 2 1-2 GHz 帯の電磁波を吸収する磁性損失材料 ... 3 1-3 軟磁性金属材料... 4 1-4 扁平状粒子 ... 6 1-5 微粒子合成法 ... 7 1-5-1 トップダウン法 ... 7 1-5-2 ボトムアップ法 ... 7 1-5-2-1 気相法... 7 1-5-2-2 液相法... 8 1-5-2-2-1 共沈法... 8 1-5-2-2-2 熱分解法 ... 8 1-5-2-2-3 ポリオール法... 8 1-6 研究目的... 9 第 2 章 板状 FeCo 粒子の作製と高周波特性評価... 15 2-1 目的 ... 16 2-2 実験手順... 16 2-2-1 板状 FeCo 前駆体粒子の合成 ... 17 2-2-2 板状 FeCo 前駆体粒子の生成過程... 18 2-2-3 熱処理による板状 FeCo 合金粒子の作製... 18 2-2-4 板状 FeCo 前駆体粒子の微粒子化... 18 2-2-4-1. OH−イオンの影響... 19 2-2-4-2. ポリオールの影響... 19 2-2-4-3. 界面活性剤の影響... 19 2-2-4-4. 核生成剤の影響 ... 20 2-2-5 試料の評価方法... 21
2-2-5-1. 走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope, SEM) ... 21
2-2-5-2. X 線蛍光分析装置 (X-ray Fluorescence Spectrometer, XRF) ... 22
2-2-5-3. X 線回折装置(X-Ray diffractometer, XRD) ... 22
2-2-5-4. 試料振動型磁力計 (Vibrating Sample Magnetometer, VSM)... 23
2-2-5-5. 高周波測定装置 ... 24
ii 2-3 結果と考察 ... 25 2-3-1 板状 FeCo 前駆体粒子の形態観察と構造分析... 25 2-3-1-1. SEM 像観察... 25 2-3-1-2. XRF 解析 ... 26 2-3-1-3. XRD 解析... 26 2-3-2 板状 FeCo 前駆体粒子の成長過程... 26 2-3-3 板状 FeCo 前駆体粒子の還元による板状 FeCo 合金粒子の合成... 27 2-3-3-1. SEM 像観察... 27 2-3-3-2. XRF 解析 ... 27 2-3-3-3. XRD 解析... 27 2-3-3-4. 磁気測定 ... 28 2-3-4 板状 FeCo 粒子の微粒子化... 28 2-3-4-1. OH−イオンの影響... 29 2-3-4-2. ポリオールの影響... 29 2-3-4-3. 界面活性剤の影響... 30 2-3-4-4. 核生成剤の影響 ... 30 2-3-5 高周波測定... 31 2-4.結論... 50 第 3 章 金属コバルトナノ粒子の生成機構解明 ... 52 3-1. 目的 ... 53 3-2. 実験手順... 53 3-2-1. 試薬... 53 3-2-2. 実験方法... 53 3-2-2-1. Co 粒子生成における Co 塩の影響 ... 53 3-2-2-2. CoCl2を用いた Co 中間体の合成... 54 3-2-2-3. Co(OAc)2を用いた Co 中間体の合成 ... 54 3-2-3. 試料の評価方法... 55
3-2-3-1. 走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope, SEM) ... 55
3-2-3-2. 紫外・可視吸光光度計(Ultraviolet and Visible spectrophotometer,UV-vis) 55 3-2-3-3. X 線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Spectroscopy, XAFS)... 56
3-2-3-4. X 線回折装置(X-Ray diffractometer, XRD) ... 58
3-2-3-5. Fourier 変換赤外分光装置 (Fourier Transform Infrared Spectrometry, FT-IR) ... 58
iii
3-2-3-6. 示差熱重量分析装置(Thermo gravimetry−Differential thermal analysis,
TG-DTA)... 59
3-2-3-7. 元素分析(Elemental analysis) ... 59
3-2-3-8. ガスクロマトグラフ質量分析計(Gas chromatography-Mass spectrometer, GC-MS)... 60 3-3. 結果および考察... 60 3-3-1. Co 粒子生成における Co 塩の影響... 60 3-3-2. CoCl2を用いて合成した Co 中間体の構造特性 ... 61 3-3-2-1. 溶液試料の UV-vis スペクトル ... 61 3-3-2-2. 溶液試料の XAFS 分析... 61 3-3-2-3. 固体試料の XRD プロファイル... 62 3-3-2-4. 固体試料の FT-IR スペクトル... 62 3-3-2-5. 固体試料の TG−DTA プロファイル... 62 3-3-2-6. 固体試料の元素分析 ... 63 3-3-2-7. 固体試料の GC-MS 分析 ... 63 3-3-3. Co(OAc)2を用いて合成した Co 中間体の構造特性... 63 3-3-3-1. 溶液試料の外観 ... 63 3-3-4. UV-vis スペクトル... 64 3-3-4-2. XAFS 分析... 64 3-3-4-3. XRD プロファイル ... 65 3-3-4-4. FT-IR スペクトル... 66 3-3-4-5. TG-DTA プロファイル... 66 3-3-4-6. 元素分析 ... 66 3-3-4-7. GC-MS 分析 ... 67 3-3-5. 中間体の構造推定 ... 67 3-4 結論... 85 第 4 章 ポリオール法による金属 Co、および板状 FeCo の多段階合成 ... 87 4-1 緒論 ... 88 4-2 実験手法... 88 4-2-1 ポリオール法による金属 Co 粒子の二段階合成... 88 4-2-1-1 反応温度と OH−イオン有無の影響 ... 88 4-2-1-2 OH−イオンの影響... 89 4-2-1-3 界面活性剤の影響... 90 4-2-2 ポリオール法による板状 FeCo 前駆体の合成... 90
iv 4-2-3 熱処理による板状 FeCo 合金粒子の作製... 91 4-3 結果・考察 ... 91 4-3-1 金属 Co 粒子の粒子特性と構造特性... 91 4-3-1-1 反応温度の影響 ... 91 4-3-1-2 OH−イオンの影響... 92 4-3-1-3 界面活性剤の影響... 92 4-3-2 板状 FeCo 前駆体粒子の粒子特性と構造特性... 94 4-3-3 板状 FeCo 合金粒子の粒子特性と構造特性 ... 94 4-4 結論 ... 100 第 5 章 結論... 102 謝辞... 105
1
第
1
章
2 1-1 電磁波利用の現状1,2 近年、携帯電話など小型情報機器のデジタル化、高速化、高周波化およびカラーディスプレ イ、カメラ機能搭載に伴い、使用される周波数帯が拡大しつつある。これまでは船舶・航空機 無線やラジオ・テレビ放送を目的として、MHz 帯が広く利用されてきた。一方、携帯電話、 衛星放送などでは既に GHz 帯の利用が進んでいる(Fig.1-1)。これに加えて、デジタル機器用 途では Bluetooth (2.4 GHz)や無線 LAN (5.0 GHz)、自動車用途ではノンストップ自動料金収 受システム(Electronic Toll Collection System, ETC, 5.8 GHz)や車載用ミリ波レーダ (76.0 GHz)などが利用され始めている。その結果、電磁波と電子回路間の電磁干渉による、電子機 器の誤作動や電子回路内部での混線などの電磁障害が問題となっている。また、放射電磁界に よる人体防護の問題も深刻化している。従来の規制ノイズ周波数帯域は 30~1000 MHz であ ったが、高周波利用の拡大に伴って GHz 帯への対応も必要となってきている。
そこで、情報通信機器には電磁適合性(Electro-Magnetic Compatibility, EMC)という、 機器外部への不要電磁波の放出や外部電磁波の機器内部への侵入を抑制する能力が求められ ている。この考えに基づいた対策法として、電磁波シールド材や電磁波吸収体の利用が挙げら れる。
電磁波シールド材と電磁波吸収体の概念図を Fig. 1-2 に示す。電磁波シールド材は入射した 電磁波を表面で反射する材料であり、機器全体をシールド材で覆うことで外部への放射ノイズ (Electro-Magnetic Interference, EMI)を防止できる。しかし、実際は半導体素子などの発 熱放熱のために設けられた通気孔や、カード挿入スロット部などの開放部から電磁ノイズが漏 洩する問題がある。また、機器外部にシールドを施しても、内部回路や部品間で生じる電磁ノ イズの干渉は抑制できない。電磁波吸収体とは、電磁波エネルギーを内部に取り込み、導電損 失、誘電損失および磁性損失の効果により減衰させ、そのエネルギーが熱に変換されて消費さ れる材料である。放射ノイズ発生源は電子回路を搭載するプリント基板の LSI 素子上などにあ るため、プリント基板に直接貼り付けることでノイズを抑制できる。電磁エネルギーは以下の 3 種類に分類出来る。 導電損失 2
2
1
E
P
=
σ
Eq. 1-1 誘電損失1
22
P
=
ωε
′′
E
Eq. 1-2 磁気損失1
22
P
=
ωµ
′′
H
Eq. 1-3 P:吸収量 [J]、ω:角周波数 [rad/s]、E:電界 [V/m]、H:磁界 [A/m]、 µ″:複素比透磁率の虚数部 [H/m]、ε″:複素比誘電率の虚数部 [F/m]、σ:誘電率 [F/m] 導電損失を利用して電磁波を吸収する材料を導電性吸収材料、誘電損失を利用する材料を誘3 電性損失材料、そして磁気損失を利用する材料を磁性損失材料という。それぞれの特徴を生か して、目的とする周波数に合った材料としたものが電磁波吸収体である。 導電性吸収材料とは、抵抗体や抵抗線、抵抗皮膜で、これに流れる導電電流によって電磁波 を吸収させる。この場合、適切な抵抗値のものを生産する必要があるが、導電性繊維による織 物によって優れた導電性、加工性、柔軟性を持った電磁波吸収体が得られている(「セーレン 導電性繊維」セーレン株式会社)。誘電性損失材料には、カーボンゴム、カーボン含有発泡ウ レタン、カーボン含有発泡スチロールなどがある。磁性損失材料の代表的なものはフェライト である。金属板で裏打ちしたフェライト板は、比較的広い周波数にわたって高い電波吸収特性 を示す。整合する周波数は材質によって決まり、およそ 0.3~1.5 GHz の範囲にある。電波吸 収体の厚さは、ほとんどの場合で 5~8 mm である。既に報告された中で最も薄いものは 700 MHz 用で厚さ 0.8 mm である。 電磁波吸収体の電気磁気特性を決定づける要素として、材料の磁気特性や粉体の形状・大き さ、粉体と誘電体との混合比率、粉体の配向・配列などが挙げられる。広帯域にわたって高い 磁気損失特性を維持するには、特に粉体粒子の形状・大きさと配向度が重要なファクターであ る。扁平粒子などのアスペクト比が大きい試料では球状粒子と比べて磁気損失が向上するとと もに、広帯域化への対応が可能となる。また、扁平状の磁性粒子を高密度に配向させることに より高周波対応磁気損失能力の向上を実現する。 1-2 GHz帯の電磁波を吸収する磁性損失材料2 EMC 対策に用いられる電磁波吸収体には、これまでに主にスピネル型の結晶構造をもつフ ェライト材料が用いられてきた。特に高周波帯域では、電気抵抗の大きな Ni 系のフェライト 材料が主流となっている。ところが、最近の数 GHz 帯を利用する携帯無線機器の急速な普及 や、デジタル電子機器の高周波化で、GHz 帯の周波数をもった電磁波が機器ノイズとして発生 するようになり、スピネル型フェライトの周波数限界が問題になってきている。交流磁界中に 置かれた磁性体では、磁化の反転に磁壁移動や磁化回転に起因する位相遅れや慣性を伴い、磁 化Iは ( ) 0 j t
I
=
I e
ω δ− Eq.1-4 となる。したがって、透磁率µは ( ) 0 0 0 0 0 0 0 0cos
sin
j t j j tI e
I
I
I
e
j
j
H e
H
H
H
ω δ δ ωµ
=
−=
−=
δ
−
δ µ
=
′
−
µ
′′
Eq. 1-5 (µ:周波数、H:磁場) と複素数の形で表される。スピネル型フェライトの透磁率と自然共鳴周波数の関係について4 Snoek は、式中の透磁率の虚数部µ″が最大となる周波数 frと初透磁率µiの積Sがフェライトの 組成によらず、 r
5600 (MHz)
iS
=
µ
⋅
f
=
Eq. 1-6 なる上限(Snoek’s limit)を超えられないことを示している。すなわち、透磁率は frに反比例す るので、高周波領域ではフェライトに大きな透磁率は望めない。しかし、フェライトに比べて 磁化Iの値が大きい軟磁性金属材料を用い、還流磁区の発生や渦電流を抑える手段を講じてや れば、フェライトを凌駕する特性を実現することができる。 1-3 軟磁性金属材料3 周波数が数 GHz 程度の交流磁界に対しては、前述したように飽和磁化が高い材料が好まし い。Table1-1 に種々の材料における飽和磁化と抵抗率の値を示す。表より明らかなように、金 属磁性材料はフェライトに比べて飽和磁化が高い。ところが、金属材料は一般的に電気抵抗が 低く、高周波磁界に対しては渦電流による表皮効果が現れる。このため材料の大部分は有効に 機能せず、高周波用途には不向きと考えられてきた。Table.1-1 Saturation magnetization and Resistivity of various materials4
Materials and composition Saturation magnetization(T) Resistivity(10-8Ωm)
Fe 2.15 10~20 Co 1.79 7 Ni 0.61 20 Fe22Ni78(Parmalloy) 1.08 55 Fe50Co50(Permendur) 2.45 26 Fe85Al5Si10(Sendust) 1.00 80 32MnO,17ZnO,51Fe2O3(Mn-Zn Ferrite) 0.43 >105 15NiO,35ZnO,50Fe2O3(Ni-Zi Ferrite) 0.20 >1012 軟磁性材料を高周波で応用する場合、高周波まで磁気特性を維持するためには渦電流損失と 磁気共鳴損失を共に抑制することが必要となる。また、透磁率を向上するためには、保磁力が 低いことが必要となる。 高周波領域で磁気特性を維持するのに一番問題となるのは渦電流損失である。これは磁化変 化に伴って電磁誘導の法則によって試料内に電流が流れ、そのために磁化変化が制動を受ける という現象である。いま、半径 r0の円柱を考え、これを長軸に沿って一様な速度で磁化する 場合を考える(Fig. 1-3)。このとき試料には長軸を中心として電界 E が生じる。電磁誘導の法 則
rot
E
B
t
∂
= −
∂
Eq.1-75 によって、一般にある想定した回路について、
∫
=
−
∫∫
dS
dt
dB
ds
E
n s Eq. 1-8 Bn:磁束密度、s:厚さ、S:断面積 の関係がある。この場合には電界Eの分布は円柱の中心軸に関して対称であるから、回路とし て半径rの円を考えると、Eq.1-3 はdt
dI
r
r
E
2
)
(
=
−
Eq. 1-9 となる。この金属の抵抗率をρとすれば、電流密度iはdt
dI
r
r
i
ρ
2
)
(
=
−
Eq. 1-10 となるから、単位体積当たりの電力損失Pは 2 2 08
r
dI
P
dt
ρ
=
Eq. 1-11 となる。この式より、渦電流損失Pは磁化の変化速度の 2 乗に比例している。したがって、交 流磁化の場合には周波数の増加に伴ってこの損失は急激に増大する。 磁化変化が速くなると、渦電流が強くなり、それによる磁界のために磁化変化が抑えられる ようになる。この場合の渦電流の磁界分布はr=r においてはr より内側を流れている渦電流 は影響を与えない。そのため渦電流による磁界は中心軸の近くほど強くなる一方、試料表面で は 0 となる。ゆえに表面では磁化の変化速度は外部磁界の変化速度と等しいが、試料内部では この変化は抑えられる。外部から印加する交流磁界が角周波数ωで変化するときには、磁化変 化は表面からωµ
ρ
2
=
s
Eq. 1-126
の深さのところでは 1/e に減少する。このsを表皮厚さと呼んでいる。
Eq. 1-12、およびバルクの FeCo の電磁気特性を用いて算出した表皮厚さを Fig. 1-4 に示す。
材料の透磁率の値が数十の場合、GHz 帯の電磁波に対しては数百 nm 程度の厚みを持つ粒子を 用いれば表皮厚さの値を下回ることになる。これにより渦電流の影響を抑制できると考えられ る。 1-4 扁平状粒子 1-1 で、アスペクト比の大きな扁平状粒子では球状粒子と比較して磁気損失能力が向上する ことを述べた。ここでは、この理由について詳しく説明する。磁化回転におけるµ″は、磁化の 共鳴周波数近傍で極大値をとることが知られている。通常、材料の結晶構造に起因する磁気異 方性がある場合は、磁化は磁化容易軸のまわりに束縛されているので、その軸の周りで歳差運 動する。異方性磁界をHaとすると、磁化は Eq. 1-11 で与えられる周波数ωで共鳴する。 a
H
ω ν
=
Eq. 1-13 (ν:ジャイロ磁気定数) この場合、透磁率が回転磁化機構によることを仮定すれば、共鳴周波数と透磁率の関係は Eq. 1-12 で表される。 03
2
µ
ν
µ
ω
=
I
s Eq. 1-14 (µ_:比透磁率、Is:飽和磁化、µ0:真空の透磁率 4π×107) これに対し、フェロックスプレーナーと呼ばれるマグネトプランバイト型酸化物では、Ha と異なる一軸性の異方性定数Kuが負となり、磁化は ab 面で安定である。ab 面内で磁化が磁 化容易方向からはずれるときに作用する異方性磁界をHa 1、c 軸方向に振れるときのそれをHa 2とすると、磁化は次式で与えられる周波数を印加したときに共鳴を起こす。 a 2 0 a12
3
sI
H
H
ν
ωµ
µ
=
Eq. 1-15 Ha2>Ha1であれば、共鳴周波数が増大する。同様の効果は粒子の形状を扁平にすることによ っても得られる。 有限の大きさを持つ強磁性体を磁界の中に入れて磁化するときには、磁化のためにその両端 に磁極を生じ、そのため逆向きの磁界を生ずる。この磁界を反磁界と呼ぶ。反磁界の強さ Hd7 は磁極の強さ、また磁化の強さIに比例するから、 d 0
I
H
N
µ
=
Eq. 1-16 と書ける。Nは反磁界係数と呼ばれる比例定数である。Nは磁性体の形状にだけ関係する係数 で、例えば非常に細くて長い棒を長軸方向に磁化する場合、N はほぼ 0 と見なせる。これとは 逆に、太くて短い試料の場合ではNは大きくなる。このように、材料を扁平化することで反磁 界による自己エネルギーが増大し、磁化は面内を向くようになる。この結果、材料の結晶構造 に起因する異方性磁界とは別に、形状に起因する形状磁気異方性磁界が加わることになる。そ のため Eq.1-14 に示した周波数で共鳴を起こすことになる。この場合も、Ha2>Ha1であれば、 共鳴周波数の高周波化可能となる。 1-5 微粒子合成法5~7 ナノ粒子の合成法は大きく二種類に分けられ、一つは大きな塊を小さくしていく方法で、も う一つは原子や分子という物質の最も小さい基本粒子を集合させて大きくしていく方法であ る。前者をトップダウン法と呼び、後者をボトムアップ法と呼ぶ。 1-5-1 トップダウン法 トップダウン法の典型は粉砕である。固い均一な物体を 2 つ以上に分ける粉砕と、化学的、 物理的な力によって凝集し、塊になっている粒子を、元の粒子までにバラバラにする解砕とが ある。従来、粉砕だけで 1 µm 以下にするのは難しかったが、最近ではサブミクロン領域まで 粉砕出来るようになってきた。通常の粉砕にはボールミルや、らいかい機が使用されるが、最 近ではより効率が高いエトリッションミルや遊星ボールミルのような機器が開発されている。 粉砕は、粉砕機や媒体からの不純物汚染があるが、ライニングボールや内張り、または同種の 素材でできたボールやケースなどの使用により、不純物の混入を減らしている。この方法は、 生産性が高い、生産コストが安い等のメリットがあるが、得られる粒子径がサブミクロンサイ ズと、ナノサイズの粒子合成には不向きであるというデメリットがある。 1-5-2 ボトムアップ法 ボトムアップ法はガスや溶液の化学反応、物理的冷却などにより原子または分子状の凝縮性 物質から核生成、成長によりナノ粒子を合成する方法である。ボトムアップ法ではマイクロオ ーダーからナノオーダーの粒子を合成でき、反応条件の制御により粒度分布の制御も可能とな る。ボトムアップ法はナノ粒子の原材料相により、気相法、液相法に分類される。 1-5-2-1 気相法 気相法とは気相中におけるナノ粒子合成法の事で、ガス‐粒子転換プロセスとも呼ばれてい る。ガス中で粒子を合成することから、コンタミネーションが少なく、高純度の粒子が合成で8 きる。一般に原料となる蒸気および反応ガスの濃度、キャリアガスなどの選択により、微粒子 では大きさ、濃度、結晶構造などを制御できる事が特徴である。しかしながら、その製造過程 は複雑であり、ナノ粒子としての形態、サイズ、組成の精密な制御が非常に困難であり、大量 合成には向いていない。 1-5-2-2 液相法 液相法とは、液体中で原料化合物を反応させて粒子を合成する方法であり、液相合成法では 例えば主に共沈法や熱分解法、ポリオール法などが挙げられ、粒子が溶媒分散系で得られる特 徴がある。溶液中からの粒子生成反応は、大きく錯体変化、核生成反応および粒子成長反応に 分けられる。粒子のサイズ制御を行うためには、それぞれの反応について考慮する必要がある。 Fig.1-5 は La Mer diagram と呼ばれる、時間の経過につれて前駆体溶質の濃度の変化する様
子を示している8,9。この La Mer プロセスでは反応は大きく①未核生成期、②核生成期、③粒 子成長期の3つの過程に分類される。①では、固相析出の為の前駆体溶質が系内に蓄積される と、過飽和状態となり、臨界過飽和濃度の最小値C*minに達する。この値に達すると核が生成 し始め、②の核生成期に入る。この核生成期において、前駆体生成速度及び核生成と生成核の 成長による消費速度がバランスをとると前駆体濃度の上昇は停止し、やがて成長中の核が大き くなる。それにつれて消費速度の方が勝る様になって下降線を辿り、C*minを下回ると核生成 は止まり、後は既存の核がその数を変えること無く成長する様になる。即ち③期の成長期に入 る。この反応に従うと、前駆体濃度が急激に増加する場合には、核生成が支配的となり多量の 核が生成し、粒子成長に使用される前駆体が相対的に少なくなり、結果として粒子サイズが小 さくなる。逆に前駆体濃度が緩やかに増加する場合には生成する核の数が減少し、粒子成長に 使用される前駆体量が相対的に多くなるために、粒子サイズは大きくなる。 1-5-2-2-1 共沈法 共沈法は 2 種類以上の金属塩の混合溶液に沈殿剤を加え、沈殿粒子を得る方法であり、合金 触媒の調製法として、または高温超電導体用酸化物粒子作製法として幅広く利用されている 10,11。 1-5-2-2-2 熱分解法 熱分解法は有機錯体などを加熱することで微小粒子を得る方法で、酸化物のみでなく貴金属 や遷移金属の合成が可能である12,13。しかし、熱分解法では微小粒子の合成は可能でも、粒子 サイズの制御が困難である。 1-5-2-2-3 ポリオール法 ポリオール法とは、還元剤として非水溶液の多価アルコールを用いたアルコール還元法の一 種であり、酸化物から遷移金属、貴金属、合金の合成に成功しており、幅広い組成の材料合成 をできる事が特徴である14~17。 本研究では Fe や Co といった酸化され易い遷移金属粒子を合成するため、大量合成可能で
9 あり粒子径、組成の制御が可能なポリオール法を選択した。 次に、ポリオール法について今日まで解明されていることを記す。還元剤としてポリオール (多価アルコール)を用いるため、このように呼ばれる。金属ナノ粒子を低温で合成が可能、 容易に酸化されない粒子の合成が可能、危険な薬品を使わずに簡単な操作で大量合成が可能と いった特徴がある。これまでに Au、Ag、といった貴金属のみでなく、Ni や Co、Fe といった 還元の難しい遷移金属ナノ粒子の合成例が報告されている18~22。 粒子合成の流れは、 1. ポリオール中への金属塩の溶解 2. ポリオールによる金属イオンの還元 3. 核生成及び核成長による金属微粒子の形成 である。 Fig.1-4 にポリオール法におけるエチレングリコール(EG)の反応過程を示す。はじめに EG の 脱水反応が起こり、アセトアルデヒドが生成する。次にアセトアルデヒドが縮合してジアセチ ルが生成する。この際に生じた電子によって金属イオンが還元され、金属粒子が得られる23。 また、水酸化ナトリウムの添加により、系中でアルデヒド基の生成が促進されることが確認さ れている24。 1-6 研究目的 本研究では、GHz 帯の高周波吸収体応用を目指し、板状 FeCo 粒子の合成を試みるとともに、 その高周波特性を評価した。板状 FeCo 粒子は、最初に板状 FeCo 酸化物粒子を合成し、次に 得られた粒子を還元雰囲気中で熱処理することで作製した。板状 FeCo 酸化物粒子の合成法と しては大量合成、粒子径、組成の制御が可能であり、耐酸化性に優れた特性を持つ非水溶液系 の合成法であるポリオール法を選択した。 第 2 章では板状 FeCo 粒子の合成を試みた。合成手法としては、まず板状の酸化物系 FeCo 粒子をポリオール合成し、回収した粒子を還元雰囲気中で熱処理することで板状 FeCo 合金粒 子を合成するという二段階の過程を経た。最終的に得られた板状 FeCo 合金粒子の直径はミク ロンオーダーであったため、次にサブミクロンサイズの粒子合成を目指して、NaOH 添加量、 ポリオールの種類、界面活性剤の種類、核生成剤の種類について検討した。 第 3 章ではコバルト粒子の生成機構を検討した。最初に異なる Co 塩を EG 中に投入した場 合の反応の違いを検討した。この結果、検討した Co 塩の種類によらず、反応途中で淡桃色の 粒子が析出した。反応を長時間継続すると金属 Co が生成したことから、淡桃色の粉体は金属 Co の前駆体であることがわかった。そこで、原料として酢酸 Co を用いた場合をモデルケース に選び、反応中に分取した溶液ならびに中間生成物の構造を様々な分析装置を用いて解析した。
10 最終的に EG 中に酢酸コバルトを投入した反応における中間体の分子構造を推定した。 第 4 章では、第 3 章で構造推定した中間生成物を出発物として Co 粒子と板状 FeCo 粒子の 合成が可能かどうか検討した。Co 粒子の合成においては反応温度、NaOH 添加量、界面活性 剤の種類を検討した。一方、板状 FeCo 粒子の合成では、最初に中間生成物と鉄原料をポリオ ール中に添加することで鉄イオンを中間体に導入し、次に還元雰囲気中で熱処理することでサ ブミクロンサイズの粒子合成を検討した。
11
Fig. 1-1 Electromagnetic wave type
12
0.1
1
10
0.1
1
10
S
k
in
d
e
p
th
[
µ
m
]
Frequency[GHz]
µ
µµ
µ
=2.5
µ
µµ
µ
=30
µ
µµ
µ
=50
Fig. 1-4 Skin depth calculated with the electromagnetic properties of bulk FeCo. Fig. 1-3 The model of magnetized cylinder
13
Fig. 1-6 Reaction Scheme of the reduction action of ethylene glycol. Fig. 1-5 La Mer diagram
14 第 1 章の参考文献 1 清水康敬[ほか]編 最新電磁波の吸収と遮蔽 日経技術図書 p.85-118(1999) 2 橋本修監修 電磁波吸収体の技術と応用Ⅰ、Ⅱ シーエムシー出版 p.195-223(2003) 3 近角聡信 強磁性体の物理 裳華房 (1959) 4 近角聡信[ほか] 磁性体ハンドブック 朝倉書店 (1975) 5 小泉光恵、奥山喜久夫、目義雄 編集 ナノ粒子の製造・評価・応用・機器の最新技術 シーエムシー出版 (2002) 6 川口春馬 監修 微粒子・粉体の作製と応用 シーエムシー出版(2006) 7 日本材料化学会 超微粒子と材料 裳華房(1993)
8 V. K. LaMer and R. H. Dinegar, J. Am. Chem. Soc., 72, 4847 (1950) 9 杉本忠夫 日本結晶学会誌 34, 244-248 (1992).
10 B. Gurau, R. Viswanathan, R. Liu, T. J. Lafrenz, K. L. Ley, E. S. Smotkin, J. Phys. Chem,
102(1998)9997
11 C.N.R. Rao, R. Nagarajan, R Vijayaraghavan, Supercond, Sci, Technol, 6(1993)1 12 Y. Lu, X. Lub, B. T. Mayersa, T. Herricksa, Y. Xi, J. solid. State. Chem, 181(2008)1530 13 N. Shukla, E. B. Svedberg, J. Ell, A.J. Roy, Mate. Lett, 60(2006)1950
14 C. Feldmann, H.O. Jungk, Angew. Chem. Int. Ed, 40(2001)359
15 J. Merikhi, H,O, Jungk C. Feldmannet, J. Mater. Chem, 10(2000)1311
16 B. Jeyadevan, K. Shinoda, R. J. Justin, T. Matsumoto, K. Sato, H. Takahashi, Y. Sato, K.
Tohji, IEEE Trans Mag, 42, (2006) 3030.
17 C.N. Chinnasamy, B. Jeyadevan, K. Shinoda, and K. Tohji, J. Appl. Phy, 93(2003)7583 18 M.Tsujii, M. Hashimoto, Y. Nishizawa, and T. Tsujii, Mater Lett, 58, (2004) 2326.
19 C.N. Chinnasamy, B. Jeyadevan, K.Shinoda, K. Tohji, A. Narayasamy, K. Sato, S.Hisano,
J. Appl. Phy, 97(2005)10J309
20 P. Y. Silvert, R. H. Urbinab K. T. Elhsissen, J. Mater. Chem, 7(1997)293 21 S. I. Cha, C. B. Mo, K. T. Kim, S. H. Hong, J. Mater. Res 20(2005)2148 22 M. Tsuji, M. Hashimoto, Y. Nishizawa, T. Tsuji, Mater. Lett, 58(2004)2326
23 F.FIEVET, J.P.LAGIER, B.BLIN and B.BEAUDOIN, M.FIGLARZ, Solid State Ionics
32/33 (1989)198-205.
15
第
2
章
板状
FeCo
粒子の作製と
16 2-1 目的 ナノ粒子の磁気的・物理的・光学的特性はその粒子径や形状に依存するため、ナノ粒子合成 に関する研究では粒子径や粒度分布、形状の制御に関しても関心が高まっている。平板やロッ ドといった形状異方性を持つ磁性粒子は、磁気テープの記録材料や電磁波吸収体などの高周波 用途に用いられている1,2。 筆者が所属する研究室では、これまでポリオール法と呼ばれる液相を経由する化学合成法を 用い、これまで困難とされていた Fe, FeCo といった鉄ベース金属ナノ粒子の低温合成に初め て成功した3,4。 得られたサブミクロンサイズの FeCo 合金ナノ粒子に電磁波を照射して吸収特性を調べたと ころ、試料は数 GHz の領域で強磁性共鳴に由来する吸収ピークを示した。一方、その吸収率 については既存の微粒子材料と同様の値に留まった。これは、FeCo 合金粒子の表面で CoFe2O4(コバルトフェライト)のような硬磁性体が形成されたためと考えられる5。反磁界の影 響を抑制して材料の透磁率を向上させるには、十分に薄い平板粒子を二次元的に充填すること が有効と考えられる。 兒玉らの先行研究によると、Fe 塩と Co 塩を含む EG 溶液を 180°C に加熱した後で NaOH のペレットを投入することで立方体形状の FeCo 粒子が得られる。ここでは投入した NaOH 固 体の表面近傍で Fe2+と Co2+が同時に還元されることで FeCo 合金粒子が生成した可能性が指摘 されている6。その一方で、形状の制御に関してはあまり検討されていない。 FeCo 合金は bcc 構造をとるため、立方体の形状を維持したまま成長しやすい。このため、 様々な形状の FeCo 合金粒子を作製することは容易ではない。FeCo 合金粒子の形状を制御す る目的で、テンプレートを用いる手法7,8や、特異な形状を持った前駆体粒子を合成してそれを 還元する手法9が提案されている。そこで第 2 章では、兒玉らの先行研究で得られた知見を活 かして板状 FeCo 前駆体粒子を合成し、その粒子を還元雰囲気で焼成することで板状 FeCo 粒 子が生成するかどうか検討した。これに加えて、得られた試料の高周波特性が粒子サイズや形 状によってどのように変化するか調べた。 2-2 実験手順 本章で用いた試薬の一覧を Table2-1 にまとめた。
17 Table
Table Table
Table 2222----1111LisLisList of reagents.List of reagents.t of reagents. t of reagents.
Reagent Abbreviation Purity FW Maker
Ethylene glycol EG min.99.5%(GC) 62.07 Wako Chemical Ethanol min.99.5%(mass/mass) 46.07 Wako Chemical Cobalt(II) acetate tetrahydrate Co(OAc)2 min.99.0% 249.08 Wako Chemical
Iron(II) chloride tetrahydrate FeCl2 min.99~102% 198.81 Wako Chemical
Sodium hydroxide NaOH min.97%(mass/mass) 40.00 Wako Chemical 1,2-Propanediol 1,2-PD min.99.0% 76.10 Wako Chemical 1,3-Propanediol 1,3-PD min.97.0% 76.09 Wako Chemical 1,4-Butanediol 1,4-BD min.98.0% 90.12 Wako Chemical
Oleylamine OM min.70% 267.50 Aldrich
Oleic acid OA min.60% 282.46 Wako Chemical
Polyvinylpyrrolidone K12 PVP12 2000~3000 Acros
Polyvinylpyrrolidone K30 PVP30 44000~54000 Wako Chemical Polyvinylpyrrolidone K90 PVP90 1000000~1500000 Wako Chemical Hydrogen
hexachloro-platinate(IV) hexahydrate H2PtCl6 517.9 Wako Chemical
2-2-1 板状FeCo前駆体粒子の合成
Fe 塩として FeCl2・4H2O、Co 塩として Co(OAc)2・4H2O、添加剤として NaOH、溶媒に
は EG を用いて実験を行った。兒玉らの先行研究により、NaOH の投入比を変化させることで FeCo の形状及び組成が変化することが判明している。そのため、NaOH の投入量を減少させ れば板状の前駆体粒子を合成できると考えて実験を行った。以下に実験方法を示す。
(1) 実験装置の準備
セパラブルビーカーに 200 mL の EG を量りとり、NaOH を 25.0 mmol、FeCl2を 8.0 mmol、
Co(OAc)2を 2.0 mmol 投入した。超音波を約 20 min 照射して試薬を常温で完全に EG に溶解
させ、セパラブルカバーに攪拌棒とパスツールピペットをセパラブルビーカーにセットしてオ イルバスに設置した。連結管を用いて還流器を取り付け、パスツールピペットから N2ガスを 200 mL/min で流入させながらスターラーを 200 rpm で回転させた。反応装置の模式図を Fig. 2-1 に示す。 (2) 加熱 熱電対で反応溶液の温度を観測しながら、卓上型プログラム温度調節器を用いて 2°C/min の 昇温速度で 120°C まで加熱した。120°C で 30 min 保持した後、2°C/min の昇温速度で 180°C に加熱し、そのままの温度で 3 h 熟成した。 (3) 生成物の回収 保持終了後に得られた分散液を 4 本のガラス製遠心沈澱管に均等に取り分け、2,600 rpm で 20 min 遠心分離を行った。上澄み液をデカンテーションにより除去した後、遠心沈澱管に約 10 mL のエタノールを添加し、超音波を約 10 min 照射して粒子を分散させた。次に遠心分離器
18 にて上記と同様の条件で粒子を沈降させた。十分に洗浄するために、この操作を 3 回繰り返し た。洗浄後の粒子はエタノール中に保存した。粉体粒子を特性評価する際は、分散液を時計皿 に適量添加し、ホットプレート上で約 100°C で加熱することでエタノールを蒸発させることで 試料を得た。 2-2-2 板状FeCo前駆体粒子の生成過程 2-2-1 で述べた操作を経ることで、板状 FeCo 前駆体が得られた。そこで、次に板状前駆体 がどのような過程を経て生成するか検討した。ここでは粒子成長を遅らせる目的で、反応温度 は 2-2-1 で検討した 180°C よりも低い 150°C、または 160°C とした。それぞれの温度に到達 した直後に溶液試料を 10 mL 分取し、以降 1 h おきに溶液を 10 mL ずつ分取した。採取した 試料は粒子を含む分散液であったため、2-2-1 で述べた方法で粉体粒子を回収して形態観察を 行った。実験条件を以下に示す。 ・Fe 濃度:0.04 mol/L ・Co 濃度:0.01 mol/L ・OH イオン濃度:0.125 mol/L ・EG:200 mL ・反応温度と保持時間:120°C で 30 min 保持後、160°C、または 150°C で 3 h 保持 ・昇温速度:室温~120°C : 2.0°C/min、120°C~160°C(または 150°C) : 1.5 °C/min 2-2-3 熱処理による板状FeCo合金粒子の作製 2-2-1 で得られた粉体試料 約 200 mg をアルミナボートに添加して炉心管の中に挿入し、管 状炉の中で焼成した。最初に水素ガスを 200 mL/min で 30 min 吹き込み、管状炉の中を水素 ガスで満たした。その後所定の温度に加温し、反応温度に達してから 1 h 保持した。保持後は 加熱を止め、室温まで空冷した。冷却している間も水素ガスを流し続け、室温付近に達した時 点で水素フローを止めた。以下に実験条件を示す。 ・反応温度:200°C~700°C ・昇温速度:25°C /min ・反応時間:1 h ・水素ガスのフロー速度:200 mL/min 2-2-4 板状FeCo前駆体粒子の微粒子化 2-2-1 で得られた板状 FeCo 前駆体の直径は、SEM 像観察からミクロンサイズであることが わかった。(厚みについても書きたい)そこで、前駆体粒子のサイズをサブミクロンオーダーに 減少させる目的で、OH−イオンの濃度やポリオール溶媒の種類について検討した。これに加え て、界面活性剤や核生成剤といった添加剤により、粒子特性が変化するかどうか調べた。
19 2-2-4-1. OH−イオンの影響 ポリオール法において、NaOH に含まれる OH−イオンは金属イオンの還元反応を促進する ことが知られている。そこで、OH−イオン濃度を増加させることによって還元反応が促進され、 板状 FeCo 前駆体のサイズが減少するかどうか検討した。 基本的な実験操作は 2-2-1 と同様である。OH−イオンの濃度を変化させるために、NaOH の 投入量を変化させて実験を行った。実験条件を以下に示す。 ・Fe 濃度:0.04 mol/L ・Co 濃度:0.01 mol/L ・OH イオン濃度:0.375、0.60 mol/L ・EG:200 mL ・反応温度:120、180°C
・反応時間:120°C-30 min、180°C-3 h(0.375 mol/L)または 5 h(0.60 mol/L) ・昇温速度:室温~120°C-2°C/min、180°C-2°C /min 2-2-4-2. ポリオールの影響 ポリオールプロセスを用いたナノサイズの板状粒子の合成報告は多数あるが10,11、これらの 報告で合成された粒子は Co や CoNi 合金であり、板状 FeCo 粒子の合成は未だ達成されてい ない。本節では、サブミクロンサイズの板状 FeCo 粒子を合成する目的で、種々のポリオール 溶媒を用いて実験を行った。 基本的な実験操作は 2-2-1 と同様である。溶媒としては 1,2-PD、1,3-PD、1,4-BD の三種類 を用いた。1,2-PD と 1,4-BD ではナノサイズの Co 系板状粒子が得られる10,11。一方、Joseyphus らの研究によると 1,3-PD は EG よりも強い還元力を示す12。このことから、微粒子化に繋が ることを期待して使用した。以下に実験条件を示す。 ・Fe 濃度:0.04 mol/L ・Co 濃度:0.01 mol/L ・OH イオン濃度:0.125 mol/L ・溶媒:200 mL 1,2-PD、1,3-PD、1,4-BD ・反応温度:180°C ・反応時間:120°C で 30 min 反応後、180°C で 3 h 反応 ・昇温速度:室温~120°C : 2.0°C/min、120°C~180°C : 2 °C /min 2-2-4-3. 界面活性剤の影響 サブミクロンを下回るサイズの粒子を合成する際には、粒子の分散・凝集をコントロールす る手法が有効である13。粒子の分散性を向上するには粒子同士の接触を抑制する保護層の形成
20
が必要であるが、その手法は 3 種類に大別できる。一つは van der Waals 力、静電相互作用の 効果であり、もう一つは高分子、界面活性剤などの保護剤を使用することである。平井・戸嶋 らはポリビニルアルコールや PVP を保護剤として用い、金属イオンをアルコール還元法で還 元して得られる金属ナノ粒子を作製している14,15。ここでは、数種類の界面活性剤を用いてサ ブミクロン以下のサイズを持つ粒子が得られるかどうか検討した。 基本的な実験操作は 2-3-1 と同様である。添加剤を EG 中に投入する順番は、 NaOH→金属塩→添加剤 の順である。室温で種々の界面活性剤を溶解させて実験を行った。PVP は室温では溶解せず、 昇温中に徐々に溶解した。実験条件を以下に示す。 ・Fe 濃度:0.04 mol/L ・Co 濃度:0.01 mol/L ・OH イオン濃度:0.125 mol/L ・EG:200 mL ・界面活性剤: OM 10 mL、OA 10 mL PVP 3.0 g (K=12, 30, 90) K:粘性を表す。値が大きいほど分子量は大きくなる。 ・反応温度:120、180°C ・反応時間:120°C で 30 min 反応後、180°C で 3 h 反応 ・昇温速度:室温~120°C : 2 °C /min、120°C~180°C : 2 °C /min 2-2-4-4. 核生成剤の影響 ナノ粒子を合成する際にしばしば用いられるのが核生成剤である。原料以外に微小な粒子や 貴金属の塩を加えることで、これらが系内で核として働く。本研究では核生成剤として H2PtCl6、 またはマグネタイトを用いた。H2PtCl6は微小な Pt 核を形成するため、核生成剤として頻繁 に用いられる16-18。一方、マグネタイト(Fe3O4)は酸化鉄であり、鉄系の合金の合成の際に核生 成剤として良く機能すると考えて選定した。 基本的な実験操作は 2-3-1 と同様である。添加剤を EG 中に投入する順番は界面活性剤と場 合と同様で、 NaOH→金属塩→添加剤 の順である。H2PtCl6は投入濃度が非常に低いため、メタノール 50mL に H2PtCl61g を溶解さ せ、超音波洗浄器を用いてよく分散させた。使用時はマイクロピペットを用いて溶液中に投入 した。以下に実験条件を示す。 ・Fe 濃度:0.04 mol/L ・Co 濃度:0.01 mol/L ・OH イオン濃度:0.125 mol/L
21 ・EG:200 mL ・H2PtCl6: 1.0×10-5, 1.0×10-3, 1.0×10-4, 1.0×10-2 mol/L ・Magnetite:1 mL(トルエン分散) ・反応温度:180°C ・反応時間:120°C で 30 min 反応後、180°C で 3 h 反応 ・昇温速度:室温~120°C : 2 °C /min、120°C~180°C : 2 °C /min マグネタイトは熱分解法を用いて合成した。以下に合成方法を示す。
① OA 20.0 mL、OM 17.8 mL、Fe(III) acetylacetonate 1.33 g を三口フラスコに投入し て、窒素バブリングしながら 120°C、300 rpm で 1 h 撹拌した。 ② 次に温度を 300°C まで上げて、800 rpm で 2 h 保持した。 ③ 保持終了後に室温まで空冷し、得られた分散液に磁石を近づけて粒子を集積させた後、 アセトンで 3 回、エタノールで 3 回洗浄後、トルエンに分散させた。 本章で合成したサンプルの一覧を Table 2-2 にまとめた。 Table Table Table
Table 2222----222 Synthesis parameter and sample name.2 Synthesis parameter and sample name. Synthesis parameter and sample name. Synthesis parameter and sample name.
Sample Solvent
Concentra-tion of NaOH (mol/L)
Amount of additive reagent
Reaction tempera ture (°C) Reaction time (h) Concept
3h180-EGSH1/8 EG 0.125 180 3 Precursor synthesis
0h160-EGSH1/8 0 0h160-EGSH1/8 1 0h160-EGSH1/8 2 0h160-EGSH1/8 3 3h180-EGSH3/8 0.375 3 5h180-EGSH5/8 0.600 5 5h180-1,2PDSH1/8 1,2-PD 5h180-1,3PDSH1/8 1,3-PD 5h180-1,4BDSH1/8 1,4-BD 3h180-EGSH1/8-OM OM [10 mL] 3h180-EGSH1/8-OA OA [10 mL] 3h180-EGSH1/8-OMOA OM [10 mL], OA [10 mL] 3h180-EGSH1/8-PVP12 PVP(k=12) [3.0 g] 3h180-EGSH1/8-PVP30 PVP(k=30) [3.0 g] 3h180-EGSH1/8-PVP90 PVP(k=90) [3.0 g] 3h180-EGSH1/8-Pt1 H2PtCl6 (10 −5 mol/L)[1×10-3mg] 3h180-EGSH1/8-Pt2 H2PtCl6 (10−4 molL)[1×10-2mg] 3h180-EGSH1/8-Pt3 H2PtCl6 (10−3 mol/L)[1×10-1mg] 3h180-EGSH1/8-Pt4 H2PtCl6 (10 −2 mol/L)[1.0mg] 3h180-EGSH1/8-Mag Magnetite [1 mL] EG 0.125 160 Generation process of precursor EG 180 Concentration of NaOH
0.125 180 3 Changing polyol solvent
Changing surfactant
EG 0.125 180 3 Addition of nucleating
agent
EG 0.125 180 3
2-2-5 試料の評価方法
2-2-5-1. 走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope, SEM)
22 射し、対象物から放出される二次電子、反射電子、投下電子、X 線等を検出することで対象物 を観察する。通常は、二次電子を用いる。SEM では、細い電子線で試料を走査し、電子線を 照射した座標の情報から像を構築し表示する。観察試料は高真空中に置かれ、この表面を電界 や磁界で絞られた電子線(焦点直径 1~100 nm 程度)で走査する。走査は直線的だが、走査 領域を順次移動させることで、試料表面視野全体の情報を得る。 ***** 測定条件 ***** 測定装置:日立製作所製 HITACHI S-4100 加速電圧:1.0 kV 検体の作製方法 SEM 試料台にシリコンウエハーを貼り付け、その上にエタノール中に分散させた試料をス パチュラですくって一滴垂らした。エタノールが完全に蒸発したらマグネトロンイオンスパッ タ装置を使用して Pt を 30sec 蒸着し、ステージに取り付けて観測した。
2-2-5-2. X 線蛍光分析装置 (X-ray Fluorescence Spectrometer, XRF)
物質に X 線(一次 X 線)を照射すると、物質を構成する原子が励起されて、元素固有の波 長を持つ二次 X 線(固有 X 線)が放射される。XRF は、この固有 X 線を対応元素毎に分光す ることで試料を構成する元素の種類を評価できる。一方、得られた強度からは元素の含有率が 評価できる。XRF はマクロな組成分析で、試料全体の組成を測定できる特長がある。ここで は試料に含まれる Fe と Co の含有量を分析した。 ***** 測定条件 ***** 測定装置:堀場製作所製 蛍光 X 線分析装置 MESA-500W 対陰極:Rh 管電圧:50 kV、管電流:自動 測定時間:60 s 2-2-5-3. X 線回折装置(X-Ray diffractometer, XRD) X 線回折パターンを測定し、試料の結晶構造を同定した。結晶性の物質は原子、イオンまた は分子が三次元的に規則正しく整列している。その物質に X 線が照射されると規則正しく配列 した各原子が X 線を散乱し、この散乱した X 線が Bragg の条件と呼ばれる条件
λ
θ
n
d
sin
=
2
Eq.2-1 を満たすと、散乱線が互いに干渉しあって強め合い、回折線として観測される。この回折線は それぞれの結晶固有のものであり、これにより結晶構造を同定できる。 XRD プロファイルより Scherrer の式23
θ
λ
/
cos
9
.
0
t
B =
Eq. 2-2 を用いて結晶子径を算出した。X 線源は CuKα線を用いており、Kα1と Kα2の比率を考慮に入 れて、λ=1.5418 (Å)とした。Bにはプロファイル中の同一強線の半値幅を用いた。 ***** 測定条件 *****測定装置:Rigaku 製 X 線回折装置 MULTI FLEX 対陰極:CuKα(λ=1.5418 (Å)
管電圧:20 kV 管電流:20 mA
発散スリット:1/2°、散乱スリット:1/2°、受光スリット:0.15 mm 測定範囲:5°~80°
測定方法:Fix time(FT) 5 s、step 0.1° 検体の作製方法
測定試料を Si 無反射板の直径 3mm の窪みに充填し、スパチュラを用いて押し固め、表面を 平らにした。無反射板を装置の特定の位置に差し込み、測定を行った。
2-2-5-4. 試料振動型磁力計 (Vibrating Sample Magnetometer, VSM)
VSM は磁場を印加しながら試料を振動させてその磁化を測定する装置である。試料の近く に検出コイルを置き、試料を一定の振幅、振動数で上下に振動させる。すると、磁化された試 料がつくる磁場が、試料の振動と共に動き、検出コイルを通過する磁束が変化する。その磁束 の変化により、検出コイルには磁化の大きさに比例した誘導起電力が発生する。誘導起電力は 微弱なため、試料を振動させる加振器から参照信号を取り込んだ Lock In Amp を用いて読み 取る。磁化の絶対値は、飽和磁化値(54.56 emu/g)の分かっている Ni 標準試料を用いて比例配 分し磁化に換算する。 ***** 測定条件 ***** 測定装置:玉川製作所製 TM-TR2050-HG-C 測定速度:100 Oe/sec 測定範囲:< 10000 Oe 検体の作製方法 測定試料を約 30 mg 量り取り、2 cm 四方に切り取ったアルミホイルで包んだ。アルミホイ ルは試料が動かないようにしっかり固定した。これをサンプルホルダーに装着し、装置に取り 付けた。
24 2-2-5-5. 高周波測定装置 S パラメータ法を用いて測定した。本手法は、同軸エアライン中に試料を投入して、そのと きの S パラメータ S11(反射特性)、S21(伝送特性)を測定し、伝送線路理論に基づいて複素透磁 率の値を算出する方法である。また、本装置は磁界検出部にシールディドループコイルを用い た。シールディドループコイルの基本構造は半ターンの同軸線路のループと同一サイズの半タ ーンの導体を結合して1回巻きのループ形状としたコイルであり、同軸線路の終端に整合抵抗 を接続したとき、抵抗の両端には磁界強度に比例した電圧が検出できるため磁気センサーとし て働く。これにより高精度の測定が可能である。 ***** 測定条件 ***** 測定装置:凌和電子製 高周波透磁率系 PMM-9G1 Saturation magnetic field:5 kOe
Range:50 MHz~9 GHz Power level:5 dBm Average:16 回 Sweep:log No. of points:401 I.F.B.W:300 Hz 検体の作製方法 粉体試料 100 mg を容量 9 mL のバイアル瓶中に投入し、次に粘性の低いイソパラフィンを 約 10 滴加え、撹拌しながら超音波を照射して粒子と混合し、ペースト状にした。このペース トをガラス基板(3 mm×8 mm)上にできるだけ均一になるように爪楊枝を用いて塗布し、その 上からもう一枚のガラス板で挟み込んだ。試料の粘性があり過ぎると均一に塗布することが難 しくなる一方、粘性が低いと粒子が基板上から外に流れでてしまい、基板上の粒子体積が小さ くなる。この点に留意しながら検体を作製した。次に、このガラス板を直流磁界中(印加磁場 強度 10 A、10V)に置き、100°C 以下の温度でホットプレートを用いて加熱することでイソパ ラフィンを蒸発させた。加熱を 6 h 続けた後にガラス基板を取り出し、液体接着剤(アロンア ルファ アルファシアノアクリレート単量体)を一滴たらし、サンプルを固化させた。 2-2-5-6. 高周波透磁率測定装置 Ferrite-yoke 法とは、フェライト磁心に薄膜試料を押し当て、磁心のインダクタンス変化を 測定して薄膜の初透磁率µiを算出する手法である。2-2-5-5 で作製した高周波測定用サンプル をコイルに挿入し、これに U 字型のフェライトコアを乗せ、この時のインダクタンスLをイ ンピーダンスメーターで測定し、次に基板のみを挿入して同様の実験を行い、インダクタンス L0を測定する。このとき、フェライトコアの磁気抵抗が一定であるとすると、
25
l
S
n i 2L
=
µ
0µ
∆
Eq. 2-3 (∆L:インダクタンス変化 [nH]、S:試料の断面積、n:コイル巻き数、 µi:初透磁率、µi:真空の透磁率、l:フェライトコアギャップ長[mm]) が成立する。この式を展開すると、S
n
L
l
i 2 44
10
∆
⋅
=
π
µ
Eq.2-4 から、インダクタンス変化∆L = L−L0を代入することで、初透磁率µiを求めることが出来る。 *****測定条件***** 測定装置:Agilent 製 S パラメータネットワークアナライザー 8719ES Range:0.05~6 GHz Sweep mode:STEP Average:5 回 Electrical Delay:ジグに依存 No. of points:801 Format:REAL(Channel 1)、IMAGINALY(Channel 2) 2-3 結果と考察 2-3-1 板状FeCo前駆体粒子の形態観察と構造分析 2-3-1-1. SEM 像観察2-2-1 の手法で合成したサンプル 3h180-EGSH1/8 の SEM 像を Fig.2-2 に示す。これより平 均粒子径約 6 µm、厚さ約 2 µm の六角形の板状粒子が確認された。本実験では昇温速度、反 応温度および反応時間、金属塩及び添加物濃度が反応パラメータであり、反応温度条件によっ ては板状のみでなく、立方体形状(160°C 、Fig.2-3(a))や菱形(195°C 、Fig.2-3(b))の粒子が得 られた。このような形状異方性は、ある結晶面に対して有機分子やアニオンが優先的に吸着す ることで、特定方向への結晶成長が阻害されるために生じる19。水熱処理法で合成した Hematite 粒子では、このような様々な形状異方性を持つことが報告されている 19。その報告 では trietanolamine(TEA)を錯形成剤として用いており、Fe イオンに TEA が結合した錯体が 高温で穏やかに分解されるため形状異方性を持った Hematite 粒子が生成すると述べられてい る。本実験では特別な錯形成剤を用いていないが、反応途中で EG や EG 中に含まれる水分子 が配位子として働く可能性がある。以上のことから、水溶液系と同様に錯体を経由した結果、 形状異方性を持つ粒子が得られたものと考えられる。
26 2-3-1-2. XRF 解析
板状 FeCo 前駆体粒子を XRF により評価した結果、Fe : Co = 77 :23 (atm.%)と見積もら れた。原料の投入比は Fe : Co = 80:20 (atm.%)であったことから、投入比とほぼ同等の組成 比で粒子が得られたことが分かる。 2-3-1-3. XRD 解析 サンプル 3h180-EGSH1/8 の XRD プロファイル(Fig.2-4)は、ヘマタイトの XRD パターンと 類似している箇所があるが、完全には一致しなかった。これは、Co 原子が Hematite 結晶中 の Fe 原子と置換することで、ピークシフトしたためと考えられる。Hematite は菱面体晶系に 分類され、菱面六面体の結晶が 3 個合一して六角形に成長する20。本研究で観測された六角板 状粒子は、このような Hematite に類似した構造を持つ結晶が合一して形成された可能性があ る。これとは別に、杉本らによると、板状 Hematite 粒子の組成は、(001)、(104)面で構成さ れる二種類の粒子が混在しているか、または大部分が(001)面で構成された層状粒子の層間に稀 に欠陥を持つ(104)面の層が見られる粒子からなる21。サンプル 3h180-EGSH1/8 の結晶構造が Hematite と類似していると仮定すると、平板粒子の底面は(104)、(001)で構成されていると推 察される。 2-3-2 板状FeCo前駆体粒子の成長過程 150°C 熟成では粒子の生成が確認できなかった一方、160°C に加温した場合は粒子の生成が 確認できた。一方、160°C で加温した場合は粒子が析出したことから、反応時間ごとに試料を 分取して SEM 観察を行った(Fig.2-5)。Fig.2-5 (a)は反応温度が 160°C に到達した直後にサン プリングした粒子であり、一辺の長さが数 µm の菱形六面体の粒子が確認された。この視野を 拡大すると、直径数百 nm の球状粒子が観察された(Fig.2-5 (a)inset)。一方、160°C で 1 h 経 過した後に分取した試料の SEM 像(Fig.2-5(b))では菱形六面体の粒子のみが観測され、 Fig.2-5(a)で見られた直径数百 nm の粒子は確認できなかった。このことから、直径数百 nm の球状粒子が合一して一辺の長さが数 µm の菱形六面体を形成するものと考えられる。160°C での保持時間が増加するとともに菱形六面体は減少した一方、六角形の板状粒子は形状を維持 したまま粒子成長している様子が観測された(Fig.2-5 (c), (d))。 ここで、160°C で 2 h 熟成した後に回収したサンプル 2h160-EGSH1/8(Fig.2-5 (c))では直径 がサブミクロンオーダーで様々な形状を持つ粒子が確認されたため、これらの粒子を拡大して 観察した。Fig.2-6 に Fig.2-5 (c)で観察された直径数百 nm の粒子に焦点を当てて観察した SEM 像を示す。Fig.2-6 (a)に示した粒子の形状は菱形六面体であり、Fig.2-5 (b)で観測された 粒子に相当する。Fig.2-6 (b)では菱形六面体が頂点から溶解していく様子が観察された。 Fig.2-6 (c)~(d)のような多面体の形状変化を経て、Fig.2-6(d)のような六角形板状粒子へと成長 することが示唆された。反応初期に生成する粒子はサブミクロンサイズであるが、最終的に得 られた六角形板状粒子はミクロンサイズまで成長していた。これは微小な菱形六面体粒子が溶 解した後、より大きな粒子の表面上に析出するためと考えられる。
27 以上の結果をまとめると、板状 FeCo 前駆体粒子は最初に核となる菱形六面体粒子が生成し、 その粒子の一部が溶解と再析出を繰り返す仮定で板状六角形へと成長して生成したものと推 察される(Fig.2-6)。 2-3-3 板状FeCo前駆体粒子の還元による板状FeCo合金粒子の合成 2-3-1 で板状 FeCo 前駆体粒子の合成に成功した。そこで、次に板状 FeCo 前駆体粒子を水 素雰囲気中で熱処理することで、板状 FeCo 粒子の作製を試みた。また、熱処理後も粒子形状 を維持できているかどうか検討する目的で、焼成温度を種々変更して実験した。 2-3-3-1. SEM 像観察 Fig.2-7 に焼成試料の SEM 像を示す。200~600°C で熱処理した試料では、板状六角形の形 状を保持していた(Fig. 2-7 (a)~(e))。また、熱処理温度の上昇に伴って粒子表面の平滑性が徐々 に失われていく様子が観測された。とくに 500°C で焼成した粒子(Fig. 2-7(d))では、全体とし ては六角平板の形状を保っているが、その表面は多孔質であった。これに対して、600°C 以上 で熱処理した試料(Fig. 2-7 (e)~(f))の表面は比較的平滑だった。 この表面形状の違いは、還元反応および原子拡散の温度依存性によるものと考えられる。 500°C までは前駆体粒子に含まれる有機物の脱離が進行する。一方、一次粒子同士のネック形 成はあまり進行しなかったため、多孔体として観察されたものと考えられる。Co 中間体は 250°C 付近で有機物の脱離が起こる(第三章参照)。500°C で熱処理したサンプルは Co 中間体 よりも有機物の脱離が 500°C 付近であると推察され、有機物の脱離後の焼結が進まなかったと 推察される。これに対して、600°C 焼成では一次粒子同士が接触している界面での原子拡散が 促進された結果、表面の平滑性が増したものと考えられる。これに対して、700°C 焼成試料で は 600°C 焼成試料と比較して六角形の頂点の角が丸まっている様子が観測された。 2-3-3-2. XRF 解析 焼成試料に含まれる金属元素の比率は、焼成温度によらず Fe:75~78 atm.%、Co:22~25 atm.%の範囲に収まっていた。板状 FeCo 前駆体粒子の組成は Fe:77 atm.%、Co:23 atm.% であったことから、焼成前後で金属組成はほぼ維持されていることがわかる。
2-3-3-3. XRD 解析
Fig.2-8 に 焼 成 試 料 の XRD プ ロ フ ァ イ ル を 示 す 。 比 較 の た め 、 焼 成 前 の サ ン プ ル 3h180-EGSH1/8 の XRD プロファイルを Fig. 2-8(a)に示した。サンプル 3h180-EGSH1/8 は、 2-3-1-3 で述べたように Hematite と類似した XRD パターンを示す。の 200°C 焼成試料の XRD プロファイル(Fig.2-8 (b))は Fig.2-8 (a)と同様の形状だが、焼成によってピーク強度は低下し た。また、Fe や FeCo に帰属される回折ピークは観測されなかった。このことから、200°C 焼成で結晶構造の短距離秩序は変化するが、合金相への転移には至らないことが示唆された。
28
これに対して、300°C 以上で熱処理した試料(Fig.2-8 (c)~(g))では、Fe または FeCo に帰属さ れる bcc 由来のピークのみが検出された。
2-3-3-4. 磁気測定
焼成試料の飽和磁化と保磁力をプロットしたグラフを Fig.2-9 に示す。200 °C 焼成試料の飽 和磁化は約 3 emu/g と、焼成前のサンプル 3h180-EGSH1/8 とほぼ同じ値だった。バルクの FeCo の飽和磁化は 220 emu/g 以上である一方、バルク Fe の飽和磁化は最大でも 218 emu/g
に留まる22。このことから、200°C 焼成では FeCo や Fe は生成していないことがわかる。これ は Fig.2-8 の XRD の結果とも対応する。これに対して熱処理温度を 300°C 以上とした場合で は、熱処理温度の増加とともに飽和磁化は増加し、300°C 焼成試料では 190 emu/g、400°C 以 上では 220 emu/g 以上であった。一方、保磁力の値は 300°C 焼成試料で 180 Oe であったが、 熱処理温度が 500°C 以上の場合では約 25 Oe にまで低下した。 本章で得られた FeCo 合金は軟磁性金属に分類され、保磁力が低いことが特徴の一つである。 そのため、FeCo 合金相の形成に伴って保磁力が低下したと解釈できる。組成と構造評価の結 果を考慮すると、焼成温度の増加に伴って FeCo 合金の結晶化が進行したと考えられる。 2-3-4 板状FeCo粒子の微粒子化 2-3-3 で得られた板状 FeCo 粒子の直径はミクロンオーダーであったため、高周波材料とし て応用するには粒子が大きい問題がある。FeCo などの軟磁性金属は高い飽和磁化と透磁率を 示す一方、電気抵抗は非常に低い。電気抵抗の低い金属に交流磁場を印加すると、磁界の向き が変化するとともに粒子内部で渦電流が発生する。渦電流により生じる反磁界は、粒子内部の 磁気モーメントの緩和を抑制する。そのため実効的な透磁率が低下し、この結果高周波領域で の磁気損失能力が低下する。 渦電流を抑制する手法の一つに、磁性体のサイズを表皮厚さ以下に微細化する方法がある。 周波数が GHz 帯の場合では、直径がサブミクロン以下の粒子が必要である(第一章参照)。こ れらのことから、高周波材料として利用するには、粒子サイズを現在のミクロンオーダーから サブミクロン以下へと減少させなければならない。 ポリオールプロセスでは、NaOH などに含まれる OH−イオンが金属原料や溶媒分子に作用 することで、金属イオンが容易にゼロ価へと還元されることが知られている。一般にゼロ価の 金属は溶媒に対する溶解度が非常に低いため、NaOH の添加は LaMer Diagram(Fig.1-5)にお
ける臨界過飽和濃度の最小値C*minを減少させるものと推察される。これにより溶質からの核
生成が優先的に生じ、粒子サイズが減少することが期待される。
また、粒子サイズが小さくなるほど粒子間の凝集力は増加するため、1次粒子の凝集を抑制 する工夫が必要となる。ポリオールプロセスでは、ポリオール分子が溶媒、還元剤として働く
29 だけでなく、粒子同士の凝集を抑制する界面活性剤としての役割も果たす。それぞれの役割に 対する寄与は、ポリオール分子の構造に左右されると考えられる。これについて検討するため、 ポリオールの種類を変えて実験を行い、粒子の形態や凝集状態がどのように変化するか検討し た。これとは別に、界面活性剤を添加した場合についても同様の検討を行った。 2-3-4-1. OH−イオンの影響
NaOH の添加量を変えて作製した試料の SEM 像を Fig.2-10 に示す。NaOH 濃度を 0.375 mol/L とした試料では、板状粒子に加えて長さ 10 µm 以上のロッドが観測された(Fig.2-10(a))。
これに対して、NaOH の濃度を 0.60 mol/L としたサンプル3h180-EGSH5/8では、ロッドの
みが観測された(Fig. 2-10(b))。サンプル3h180-EGSH5/8は 180°C で 3 h 熟成した段階では 粒子が観測されず、粒子生成には 5 h の熟成が必要であった。NaOH 濃度が極めて高いため、 3 h の熟成では粒子の溶解が優先的に起こっていたものと推察される。 また、それぞれの粒子の XRF 測定を行った。サンプル3h180-EGSH5/8の金属組成は Fe:Co = 24 : 76 (atm. %)と算出された。この試料はロッドのみで構成されており、金属組成はロッド の組成に相当する。金属原料の仕込み比は Fe:Co = 80 : 20 (atm.%)であったが、得られた試料 の組成比は仕込み比とほぼ逆転した。 FeCo 合金を 150°C 以下でポリオール合成する場合、Co と Fe の析出速度はほぼ等しい一方、 160°C 以上では Co の析出速度が Fe の析出速度を上回り、Co リッチな FeCo 合金が生成する 6。 こ れ に 加 え て 、 NaOH 濃 度 が 極端 に 高い 場合 は Fe 粒 子が 溶 解する 6。 サ ン プ ル 3h180-EGSH5/8 の合成条件を考慮すると、Co の析出速度が非常に大きくなり Co リッチの 粒子が生成した、あるいは析出した Fe が再溶解した可能性がある。
サンプル3h180-EGSH3/8 のXRDプロファイル(Fig2-11(a))では板状六角形 FeCo 前駆体
と同様のピークが観測されたが、ピーク強度は低かった。これはロッドが混在しているためと 考えられる。Fig2-11(b)はサンプル5h180-EGSH5/8の XRDプロファイルで、板状 FeCo 前 駆体に由来する回折ピークは観測されなかった一方、10°付近に鋭いピークが観測された。サ ンプル3h180-EGSH5/8ではロッドのみが観測されたことから、XRD プロファイルはロッド の結晶構造を反映していると考えられる。 2-3-4-2. ポリオールの影響 Fig.2-12 に溶媒の種類を変えて得られた試料の SEM 像を示す。1,2-PD を用いた場合では、 金属塩は溶解したままで、粒子の生成は確認出来なかった。これに対して、1,3-PD を用いて 得られた試料(Fig. 2-12(a))ではサブミクロンサイズの八面体形状の粒子が観測された。一方、 1,4-BD を用いて得られた試料(Fig. 2-12(b))では、ミクロンサイズの立方体形状の粒子、サブ ミクロンサイズの決まった形状を持たない粒子が観測された。