ポリオール法による金属 Co 、
および板状 FeCo の多段階合成
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4-1 緒論
第3章ではNaOHを溶解させたエチレングリコール(EG)溶媒に種々のCo塩を溶解させ、
加熱に伴うCo塩の構造変化について検討した。その結果、Co塩の種類によらず固体の中間生 成物が反応中に析出すること、そして中間生成物が溶解した後に金属Co粒子が析出すること がわかった。このことから、中間体の分子構造や溶解度などを制御することで、最終生成物で ある金属Co ナノ粒子の一次粒子径、または粒度分布といった粒子特性を制御できる可能性が ある。
そこで本章では、ポリオール法で合成したCo中間体をCo源として再びEG中に投入し、
金属Coナノ粒子が生成するかどうか二段階で合成を試みた。このとき反応温度やNaOHの有 無により、最終生成物の粒子特性がどのように変化するか検討した。また、これとは別に界面 活性剤の添加によって一次粒子の凝集を抑制できるかどうかについても調べた。
また、第二章で筆者は板状のFeCo前駆体を還元雰囲気中で焼成してFeCo板状粒子を得る ことに成功した。そこで、第3章で作製したCo中間体をFe原料とともにEG中で反応させ、
板状FeCo前駆体を合成できるかどうか検討した。得られた板状FeCo前駆体を還元雰囲気中 で熱処理した後、試料の結晶構造を評価した。
4-2 実験手法
本章で用いた試薬の一覧をTable. 4-1にまとめた。
Table 4-1 List of reagents.
Reagent Abbreviation Purity FW Maker
Ethylene glycol EG min.99.5%(GC) 62.07 Wako Chemical
Ethanol min.99.5%(mass/mass) 46.07 Wako Chemical
Iron(II) chloride tetrahydrate FeCl2 min.99~102% 198.81 Wako Chemical Cobalt(II) acetate tetrahydrate Co(OAc)2 min.99.0% 249.08 Wako Chemical
Sodium hydroxide NaOH min.97%(mass/mass) 40.00 Wako Chemical
Sodium bis(2-ethylhexyl) sulfosuccinate AOT >95% 488.5 Tokyo chemical industry Polyoxyethylene sorbitan monolaurate Tween 20 1227.7 Wako Chemical
4-2-1 ポリオール法による金属Co粒子の二段階合成
4-2-1-1 反応温度とOH−イオン有無の影響
Co中間体を投入する温度を変化させ、金属Co粒子が生成する温度条件を検討した。Co中 間体投入後からどのくらいの時間で析出するのか検討するため、溶液を分取した。反応温度が
190°Cを超える場合では、粒子が直ちに析出するため、溶液試料の分取が困難である。そのた
め反応温度を165, 175, 185°Cとした。また、OH−イオンの有無によって粒子の析出挙動が変 化するかどうかについても検討した。以下に実験方法を示す。
(1) 実験装置の準備
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セパラブルビーカーに200 mLのEGを量りとり、NaOHを添加して超音波を約20 min照 射して完全に溶解させた。セパラブルカバーに攪拌棒とパスツールピペットを取り付け、セパ ラブルビーカーにセットしてオイルバスに設置した。N2ガスを 200 mL/minでパスツールピ ペットから流入させながらスターラーを200 rpmで回転させた。
試薬の投入は、EG中に
NaOH→加熱→Co中間体
の順で行った。
(2) 加熱
熱電対で反応溶液の温度を観測しながら、卓上型プログラム温度調節器を用いて 10°C/min の昇温速度で加熱した。所定の反応温度に達したらそのまま保持した。所定温度に到達した後、
温度が安定するまで約10min保持し、Co源を投入した。
(3) Co源の投入と溶液試料の分取
3-2-2-3に述べた手順でNaOHを添加した系でCo中間体を合成した後、3-2-2の手法を用い てCo中間体の粉体試料を回収した。このCo中間体試料 200 mgを加熱した溶媒に投入した。
Co中間体試料は、1回の反応当たり約200 mg得られる(3-3-1-2参照)。このことから、投入す るCo中間体試料の量は200 mgとした。反応中、投入物の色の変化が目視で確認できたら溶 液を約10 mL分取した。
(4) 生成物の回収
反応終了後に室温まで空冷して分散液試料を得た後、3-2-2 の手法を用いて粉体粒子を回収 した。NaOHの投入量や反応温度、反応時間は以下のように設定して実験を行った。
・OH−イオン濃度:0、0.125 mol/L
・反応温度:165、175、185°C
・反応時間:20 min~3 h
・昇温速度:10°C/min
4-2-1-2 OH−イオンの影響
第3章から、NaOHを添加するとCo中間体の析出温度が195°Cから170°Cに低下するこ とがわかった。これとは別に、反応温度を165°Cから185°Cへ増加させると金属Co粒子のサ イズが減少した(4-3-1-1参照)。以上のことから、反応温度を185°CとしてNaOHの投入量を 増やすことで、得られる金属Co の粒子径をさらに減少できると考えた。これについて検討す るため、NaOHの投入量を変化させて実験を行った。以下に実験条件を示す。
・Co源の投入量:200 mg
・OH−イオン濃度:0、0.05、0.10、0.50 mol/L
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・反応温度:185 °C
・反応時間:30 min~3 h
・昇温速度:10°C/min
4-2-1-3 界面活性剤の影響
2-5-3 で記した通り、サブミクロンを下回るサイズの粒子を合成する際には粒子の分散・凝
集の抑制が有効である。ここでは、生成物の凝集を抑制する目的で、陰イオン性界面活性剤で あるジ(2-エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム(AOT)、または非イオン性界面活性剤で あるポリオキシエチレン(20)ソルビタンラウリン酸モノエステル(Tween 20)を添加してCo 中間体の作製を試みた。AOT、Tween 20の構造式をFig. 4-1に示す。AOTは陰イオン性界面 活性剤として微粒子合成に用いられる一方1,2、Tween 20は非イオン性界面活性剤として微粒 子合成に用いられる3,4。Tweenは側鎖の脂肪酸の炭素鎖長により末尾の数字が異なり、Tween 20(ラウリン酸: 炭素鎖長12), Tween 40(パルミチン酸: 炭素鎖長16), Tween 80(オレイン酸:
炭素鎖長18)などがある。ここでは側鎖の鎖長が最も短いTween 20を選択した。基本的な実
験は4-2-1と同様である。
添加剤の投入は
NaOH→添加剤→加熱→Co中間体
の順で行った。
以下に実験条件を示す。
・Co源の投入量:200 mg
・OH−イオン濃度:0、0.10 mol/L
・界面活性剤:AOT 3.0 g Tween 20 3.0 g
・反応温度:185°C
・反応時間:30 min~1 h
・昇温速度:10°C/min
4-2-2 ポリオール法による板状FeCo前駆体の合成
基本的な実験操作は2-1-1で示したFeCo前駆体の合成方法と同様である。ここではCo源 としてCo中間体を用いた。2-2-1では、板状FeCo前駆体粒子を合成するために約498 mgの Co(OAc)2を投入した。このうちCoが占める重量は118 mgである。一方、3-3-3-5よりCo中 間体に占めるCoの重量は44.9 wt%と見積もられた。以上のことから、Co 118 mgを含むCo 中間体の重量は260 mgとなる。そこで、Co中間体投入量を260 mgとした。実験条件を以下 に示す。
・Fe源の濃度:0.04 mol/L (FeCl2 1.6 g)
・Co源の濃度:0.010 mol/L (Co中間体 260 mg)
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・OH−イオン濃度:0.125 mol/L
・EG:200 mL
・反応温度:120°C、または180°C
・反応時間:120°Cで30 min反応後、180°Cで3、6 h反応
・昇温速度:室温~120°C : 2 °C /min、120°C~180°C : 2 °C /min
4-2-3 熱処理による板状FeCo合金粒子の作製
4-2-2で得られた板状FeCo前駆体を還元雰囲気で焼成した。焼成の手法は2-3-3と同様とし
た。以下に実験条件を示す。
・反応温度:400、500、600°C
・反応時間:1 h
・水素ガスのフロー速度:200 mL/min
本章で作製したサンプルの一覧をTable. 4-2にまとめた。
Table. 4-2 Sample name and preparation parameters.
Sample
Amount of Co source (mg)
Concentration of NaOH (mol/L)
Amount of additive reagent (g)
Reaction temperature (°C)
Reaction time (h)
Purpose
Co-3h165SH0 0 165 3
Co-2h165SH1/10 0.100 165 2
Co-3h175SH0 0 175 3
Co-0.5h175SH1/10 0.100 175 0.5
Co-1.5h185SH0 0 185 1.5
Co-0.3h185SH1/10 0.100 185 0.33
Co-1.5h185SH0 0 1.5
Co-0.5h185SH1/20 0.050 0.5
Co-0.5h185SH1/10 0.100 0.5
Co-0.5h185SH1/2 0.500 0.5
Co-3h185TW 0 Tween 20 (3.0) 3
Co-0.5h185TWSH1/10 0.100 Tween 20 (3.0) 0.5
Co-0.5h185AOT 0 AOT (3.0) 0.5
Co-0.5h185AOTSH1/10 0.100 AOT (3.0) 0.5
FeCo-3h180SH1/8 260 0.125 180 3
FeCo-6h180SH1/8 260 0.125 180 6
Synthesis of FeCo precursor
185 Changing
surfactant Changing reaction temperature and effect of NaOH
200 185 Concentration
of NaOH 200
200
4-3 結果・考察
4-3-1 金属Co粒子の粒子特性と構造特性
4-3-1-1 反応温度の影響
NaOHを添加しなかった場合、165、175°Cでは3 h反応させた後も粒子は生成しなかった。
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一方、185°Cで2 h保持したところ磁性を持つ金属粒子が生成した。SEM像観察から、185°C
で合成した試料の平均粒子径は250 nmと見積もられた(Fig.4-2(a))。
これに対して、NaOHを添加した場合はいずれの反応温度でも磁性を持つ黒色粒子が回収で きた。金属粒子が生成するまでに必要な時間は、反応温度を165°Cから175°Cに上げたとこ ろ2 hから0.5 hへと減少した。さらに反応温度を185°Cとした場合では、20 minの熟成で 黒色粒子が生成した。ここでは熟成時間ごとに溶液試料をサンプリングしたため、粉体の収量 が非常に少なく、XRDを測定することができなかった。
これに対して、SEM像観察では反応温度によらず数十nmの一次粒子が凝集し、サブミク ロンサイズの二次粒子を形成している様子が観測された(Fig.4-2(b)~(d))。SEM 像から見積も っ た 平 均 粒 子 径 は 440 nm (サ ン プ ル Co-2h165SH1/10)、350 nm (サ ン プ ル Co-0.5h175SH1/10)、250 nm(サンプルCo-0.3h185SH1/10)と、反応温度が高温になるほど減 少した。高温になるほど熱エネルギーが多く発生して還元反応が促進されたためだと考えられ る。
4-3-1-2 OH−イオンの影響
NaOHの投入量を変化させて合成した粒子のSEM像をFig.4-3(a)~(d)に示す。NaOH投入 量によらず、一次粒子が凝集したサブミクロンサイズの二次粒子が観測された。二次粒子径の 平均値はそれぞれ250 nm(サンプルCo-1.5h185SH0)、310 nm(サンプルCo-0.5h185SH1/20)、
270 nm(サンプルCo-0.5h185SH1/10)、410 nm(サンプルCo-0.5h185SH1/2)と見積もられた。
また、試料のXRDプロファイル(Fig. 4-4(a)~(d))によると生成物はすべてfcc型Coに帰属 された。次に XRD のピーク幅から Scherrer の式により結晶子サイズを求めたところ、10.7 nm(サンプル Co-1.5h185SH0)、8.5 nm(サンプル Co-0.5h185SH1/20)、8.9 nm(サンプル Co-0.5h185SH1/10)、12.8 nm(サンプルCo-0.5h185SH1/2)という値になった。
NaOH の投入量を 0.05~0.10 mol/L とした場合、NaOH を添加しなかったサンプル
Co-1.5h185SH0と比較して結晶子サイズはわずかに低下した。これとは逆に、NaOHの投入
量を0.50 mol/Lに増やしたところ結晶子サイズは有意に増大した。一方、SEM像観察から見
積もった平均粒子径はサンプルCo-0.5h185SH1/2 を除いて顕著な差は見られなかった。この ことから、平均粒子径と結晶子サイズはいずれも NaOH を過剰に添加すると増加したことが わかる。以上のことから、NaOHの投入濃度は通常の条件どおり0.10 mol/Lに固定して、次 に界面活性剤の添加について検討した。
4-3-1-3 界面活性剤の影響
Tween 20のみを投入した場合には粒子は生成しなかった一方、Tween 20とNaOHの両方
を投入したサンプルCo-0.5h185TWSH1/10では30 min保持後に粒子が生成した。サンプル
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Co-0.5h185TWSH1/10のSEM像(Fig.4-5(a))より、数十nmの一次粒子が凝集したサブミク ロンサイズの二次粒子が観測された。SEM像から、凝集粒子の平均粒子径は約270 nmであ った。一方、XRDプロファイル(Fig. 4-6(a))から、試料はfcc型Coに帰属された。また、Scherrer の 式 か ら 試 料 の 結 晶 子 径 は 9.6 nm と 求 め ら れ た 。NaOH の み 投 入 し た サ ン プ ル 0.3h185-EGSH1/10 (Fig.4-3(c))と比較して、粒子形状、サイズ共にほとんど変化は無かった。
非イオン性界面活性剤では静電的に粒子に吸着する能力が乏しく、このため凝集抑制の効果が 見られなかったものと推察される。
一方、AOTのみ用いて得られたサンプルCo-0.5h185AOTのSEM像(Fig. 4-5(b))では、角 張った形状を持つ粒子に加えて、六角形の板状粒子が若干観測された。SEM 像から、凝集粒 子の平均粒子径は約160 nmと見積もられた。AOTを添加した試料では添加前と比較して凝 集が抑制されたことがわかる。AOT は陰イオン性界面活性剤であるため、反応途中で生じる 金属イオンに対して静電的に相互作用して凝集が抑制された可能性がある。一方、サンプル Co-0.5h185AOTSH1/10のSEM像(Fig.4-5(c))ではサブミクロンサイズの板状粒子が互いに異 なる方向で組み合わさっている様子が観測された。SEM像から平均粒子径は250nmと求めら れた。
また、サンプルCo-0.5h185AOT のXRDプロファイル(Fig.4-6(b))から試料はhcp型Coに 帰属された。XRDピークから結晶子径を求めたところ、15.2 nmと算出された。AOTとNaOH を用いて得られたサンプルCo-0.5h185AOTSH1/10のXRDプロファイル(Fig.4-6(c))でも同様 に、hcp型Coに由来する回折ピークが観測され、結晶子径は17.4 nmと求められた。
結晶子径の値はNaOHの添加前後で有意には変化しなかった一方、NaOH添加により平均
粒子径は160 nmから250 nmへと増加した。NaOHの添加前後で結晶子サイズがあまり変化
しなかったことから、一次粒子の特性は NaOH の有無にあまり左右されないものと推察され る。一方、AOTのみ添加したサンプルCo-0.5h185AOTでも六角形の板状粒子が若干認められ たことから、NaOHが一次粒子の凝集や合一を促進した結果、板状粒子が支配的に生成した可 能性がある。生成直後の段階で粒子が互いに近接しており、成長過程で組み合わさったものと 推察される。界面活性剤を添加して得られた試料の結果をTable 4-3にまとめた。