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〈講演会記録〉近畿大学法科大学院2016年講演会「事業経営に必要なコンプライアンスの『知恵』~法令違反は蜜の味?~」

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1.はじめに

こんにちは。大阪弁護士会の山口利昭です。よろしくお願いします。私は弁 護士になって27年目になります。平成2年に登録して,以来ずっと大阪で弁護 士をしています。今日は法科大学院の方もいらっしゃいますが,皆さんが想像 されている弁護士の仕事,いわゆる民事,刑事,親族・相続,少年事件も含め て一般に家庭裁判所,地方裁判所を中心に仕事をしていたのは15年ぐらいで, ここ12~13年は裁判からは全く遠ざかっています。 それでは今はどういう仕事をしているかというと,今日のお話とも関わるの ですが,いわゆる企業の有事対応が本業です。有事対応とは,会社の資金を横 領しているとか,現場でいろいろな不正を働いている,例えば性能偽装の商品 を作っているとか,他の会社と共謀して談合をしているといったことについ て,経営陣や大株主からの依頼を受けて不正調査をすることが一つの大きな柱

近畿大学法科大学院 2

6年講演会

日 時 2016年10月29日(土)14:00~16:00 場 所 近畿大学 東大阪キャンパスB館10階マルチメディア教室 テーマ 「事業経営に必要なコンプライアンスの『知恵』 ~法令違反は蜜の味?~」 講 師 山口利昭 氏(山口利昭法律事務所 弁護士)

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です。 また,最近,新聞やテレビでもよく報道されていますが,会社の中の経営陣 の支配権争いです。社長と副社長の派閥争いとか,今は出光興産の事件もよく 話題になっていますが,いわゆる創業家と現経営陣の争いです。それから,ス ティール・パートナーズや村上ファンドといった単語をどこかで聞いたことが あるかもしれませんが,いわゆる敵対的買収という形での現経営陣と大株主の 紛争もあります。そういった争いが起きた場合に,どちらかの側に付いて支援 を行うというのが二つ目の柱です。 三つ目の柱が今日の話とも一番関わるのですが,いわゆる企業不祥事です。 企業の中で何か大きな問題が見つかると,企業はマスコミにいろいろたたかれ るわけですが,そのような中でどうやってリスクを管理していくか,どうやっ て普通の業務の状態に戻していくかといったことのお手伝いをします。皆さん はテレビで社長の謝罪会見などをよく見ると思うのですが,あのような謝罪会 見を仕切るのも仕事です。そのように,企業が有事に至ったときの対応を基本 的に仕事にしています。世間的にはよくコンプライアンスといわれる分野で す。 このようなコンプライアンスの仕事をする人には,企業法務を中心に手掛け る大きな法律事務所の人が多いのです。それは大阪でも同様で,やはりコンプ ライアンスは大きな法律事務所がする仕事なのですが,私はそのようなところ とは全く無縁で,ずっと小さな事務所で過ごしてきました。 それでは,なぜそういう小さな事務所の弁護士がコンプライアンスの仕事を しているかというと,私はずっと前は「グレー」と言われる会社に好かれる弁 護士で,世の中に迷惑を掛ける会社の代理人として活動していた時期と関係が あります。世の中など,法律のとおりうまく規制できるわけがありません。例 えば昔,Xという会社がありました。全国に多くのマンションを建てたマン ションデベロッパーです。これは今から7~8年前,私が朝日新聞の「ひと」

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欄でカミングアウトしてしまった話ですが,私はXの社長にものすごく重用さ れていました。マンション用地の明け渡し,家屋明け渡しといった立ち退きの 交渉では,一つのマンション用地を取得するのに大体4年かかるのですが,そ れを2年でやってしまうのです。あまり上品でないことをしているわけです。 銀行からお金を借りてやっているのですから,4 年かかるところを2年でやっ てしまえば,マンションを造る側からすれば非常に助かります。そのようにし て社長に悪知恵をつけて,いろいろなことを支援していました。 ただ,そのようなことをしながらも,こうやって世の中に迷惑を掛けながら 仕事をしていて,本当にこの会社は大丈夫なのだろうかと思ったこともありま した。1989~1991年ごろの大阪はまだバブルの真っ盛りで,マンションデベ ロッパーはものすごくお金を持っていました。ただ,世の中的にはいつまでこ のような状態が続くのだろうかと不安にも思ったわけです。結果,バブルが崩 壊し,社長や専務が逮捕されました。私ももう少しで逮捕されるところでし た。 結局,会社は倒産して社長も逮捕され,私も大口顧客を失ったわけですが, そのときに何をしようかと考えていたら,昔からの知り合いだった公認会計士 の方から,「今までずっと裏から法令遵守を見てきたわけだから,今度は表から 見たらいいではないか」と言われたのです。自分がそれまで経験した仕事を通 じて,内部統制という企業の管理体制,管理システムについて勉強する中で, 企業というのは消費者,お年寄り等の社会的弱者,あるいは今の時代なら他国 の人にその企業が存続することの意義をきちんと認めてもらえなければ,長生 きしないということに気付いていました。私がずっと見てきた会社のように, 世の中に迷惑を掛けている企業はどこかで必ずつぶれてしまうということをい ろいろな人に知っていただきたいと思って,有事対応をはじめ,コンプライア ンスの仕事をするようになったわけです。

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今日のテーマである事業経営に必要なコンプライアンスの知恵というのも, テレビでは物事をきれいに言われる方もいらっしゃるのですが,普段の仕事を している中で,現実を直視しなければ,企業のコンプライアンスはなかなか芽 が出て大きく花開かないのではないかと思うので,今日はコンプライアンスの 「知識」ではなくて「知恵」ということでお話ししていきたいと思っています。

2.事業経営者から見たコンプライアンス経営

これは経営者の方々にお話をするときによく尋ねるのですが,あなたはどち らの経営者に共感を抱きますかということで,A経営者とB経営者の2人の経 営者の考え方をお示しします。A経営者は,「事業経営においては社会の信用 が大切である。わが社は『グレー』と呼ばれる行為にはそもそも近づかない。 たとえそのことによってビジネスチャンスを逃すとしても,『善悪はビジネス』 に優先するのである」という考え方です。さらに,社員が不正に及ぶことは企 業の信用を毀損することになるため,いかに防止するかが重要だと考えていま す。権限分掌(三権分立のように重要な権利を幾つかに分けて持つこと),ダブ ルチェック,ローテーション(例えば2年ごとに仕事を替わる等)といった内 部統制もきちんと整備しています。要するにグレーと呼ばれないように,「あ の会社は何かおかしいことをやっているのではないか」といううわさを立てら れないように,気を付けながら仕事をすることが大事だと言っているのがA経 営者です。 一方,B経営者は「コンプライアンスは大切であるけれども,グレーと呼ば れるビジネス領域に踏み込まないと,そもそも利益を獲得することはできな い」と考えています。「あの会社は真っ黒だ」と指摘されるような状況になれば, そのときに撤退を考えればいいのであって,どんどんグレーの領域にも踏み込 んでいって,その場,その場で考えればよいという経営方針です。さらに,他

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社と競争している以上は社員が不正に及ぶこともあり得るため,その不正をい かに早く発見して組織的な不正に拡大するのを防止するかということが重要で あると考え,内部通報を奨励しています。 つい最近も,興味深い事件がありました。皆さんもよくご存じの富士フイル ムとキヤノンが,東芝メディカルシステムズという医療機器の子会社をめぐっ て争った事件です。東芝の中でも東芝メディカルシステムズはドル箱企業なの ですが,売らなければ東芝の借金が減らないということで,2016年3月に売却 したのです。その入札で最後まで残ったのが,キヤノンと富士フイルムでし た。富士フイルムは医療機器では超一流ですし,キヤノンもこれから医療機器 の世界に進出していきたいということで,両社にそれぞれ日本を代表する大き な法律事務所が支援しながら競ったのです。そして,最終的にはキヤノンが買 収しました。 ただ,医療機器の会社を取得するには公正取引委員会の審査が必要です。公 正取引委員会に事前にM&Aに関する届け出をしなければいけないのですが, そのルールに従って真っ当に手続を踏んだのが富士フイルムです。一方,キヤ ノンはそのルールの抜け道をくぐって,まさに私からすればかなりきわどい手 法を取りました。そして,それについて公正取引委員会は異例の記者会見をし て,「今回のキヤノンと同じ手法を使ってM&Aをしてもいいかという質問が たくさん来ているけれども,今後,これと同じ手法を取ったら全てアウトとす る」と言ったのです。同じことをしたらアウトなのに,なぜ今回がセーフなの かはよく分からないのですが,富士フイルムの広報は「なぜキヤノンが公正な 競争をしていないのに公正取引委員会はノーと言わないのだ」と強く批判しま した。 皆さんはどちらのやり方に共感を持つでしょうか。これは典型的なパターン です。恐らく経営者が選んだ考え方が,多分,その会社の社員にも根づくと思 います。それぐらい違うわけです。従って,先ほど言ったA経営者とB経営者

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というのは普通にある話です。私がここで言いたいのは,別にどちらが正しい というわけではないのだけれども,コンプライアンスというのはその人の考え 方によっていろいろと捉えようがあり,昔から言われる単なる「法令遵守」と いう言葉ではなかなか捉えられないものになりつつあるということです。

3.不祥事が発生したときの企業の現実

1.ケース① 公表すべき不祥事を企業が公表しない場合 事業経営者も含めてコンプライアンス経営について理解していただくために 最初に言っておかなければいけないのが,「不祥事が発生したので支援してほ しい」と依頼されて私自身が危機対応をした企業の現実です。一つ目が,公表 すべき不祥事を企業が公表しない場合です。対外的にばれてしまう場合もあれ ば,ばれずに済む場合もあります。これは歴然とした現実です。「最近は必ず ばれますから,早く公表しましょう」と言う人もいますが,実際,皆さんが 「今年はテレビで企業不祥事の報道が多いね」と言っていても,私からすれば多 くも少なくもなくて例年どおりです。今年たまたまマスコミで取り上げられる 不祥事が多いというだけの話であって,現に私が対応したいろいろな会社の不 祥事には,今でも公表されずにいるものがあります。役員が「これは黙ってお こう」と言って,そのまま何もばれていないものが現実問題としてあるわけで す。 それは最近の不祥事を見ても分かると思います。例えば三菱自動車の燃費偽 装事件ですが,あれはなぜばれてしまったのでしょうか。これは日産自動車が 共同開発の軽自動車を執拗にチェックした結果,三菱自動車は最後の最後に逃 げられなくなってしまって,実は燃費偽装をしていたと明らかにしたわけで す。『不正の迷宮 三菱自動車』という本を読むと,日産自動車は三菱自動車の 燃費測定値を一生懸命測定したのですが,パンフレットどおりの数値が出な

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かったので三菱自動車に相談したところ,何と三菱自動車は「あなたたちの計 測能力が低過ぎるのではないか」と言ったのだそうです。それで日産自動車は プライドを傷つけられてかちんときて,「なにくそ」と徹底的に調べて,最後 まで追及して不正を暴いたといいます。三菱自動車がそんなことを言わなけれ ば,今も何も出ていなかったかもしれないのです。もしくは,日産自動車と三 菱自動車でどう対処するかを暗に相談していたかもしれません。やっているの は人間なのですから,そのようなものです。 今ちょうど日本シリーズをやっていますが,近鉄とジャイアンツが対戦した 1989年の日本シリーズでは,当初は近鉄が3連勝していたのです。それで近鉄 の加藤というピッチャーが「巨人はパ・リーグ最下位のロッテより弱い」と 言ってしまったものですからジャイアンツに火がついて,そこからジャイアン ツが4連勝して日本一になったわけです。やはり人間はばかにされたり,プラ イドを傷つけられたりしたら,今まで以上に力を発揮しますし,同じ目に合わ せたいと思うはずです。一緒に対処したい問題でも,そのように言われてし まったら,「あなたたちが悪いのだから,あなたたちが公表しろ」ということ になるのは当然かと思います。 それから,東芝の会計不正事件もありました。今,歴代の3人の社長が立件, 起訴されるかどうかという話になっています。金融庁は起訴する方向へと言っ ていますが,検察庁はなかなか慎重で,3 人を逮捕する,もしくは強制捜査を するところまではいかないということで,なかなか進展がないようです。あの 東芝の事件も何が発端だったかというと,朝日新聞の特集記事によりますと2 人の内部告発者です。その2人は原子力部門とパソコン部門の不正を暴いた人 たちです。ここから先は推測ですが,長年,社内で原子力部門とパソコン部門 の支配権争いというか,派閥争いが繰り広げられる中で,もしかしたらこの内 部告発は相手方を落とすための告発だったのかもしれません。金融庁にこのよ うな告発があったからこそ,金融庁が検査を始めて,内部告発が次から次へと

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「うちの部門でも」「うちの部門でも」と広がっていったのです。そして,結局, 社内調査ではなくて,もう社外の弁護士を中心とした第三者委員会でないと公 正な調査ができなくなってしまい,大きな問題に発展していったわけです。 さらに,今も記憶があると思いますが,オリンパス事件が発覚しました。4  年前,当時のオリンパスの外国人社長が会長の不正を告発したという事件です が,あれも実は内部告発です。「FACTA」という経済雑誌に最初に告発があっ たのです。ただ,その最初の事件というのは,それほど大したことではありま せんでした。 ところが,その最初の内部告発とは全く別のところで,ある日,オリンパス 社員が社内のコピー機のふたを開けたら,見たことのない書類がそのままコ ピー機の中に残っていたのです。「これは最近,社内で騒がれている事件に関 係するものかしら」と思ってよく見たら,いろいろ出てきたので,その社員は 「FACTA」に送ってみることにしました。それでこれは大きな問題だというこ とに山口義正という「FACTA」の記者が感づいて,点と点がつながったわけ です。もし社内のコピー機に原本を置き忘れていなかったら,オリンパス事件 は解明されなかった可能性が高いと思います。 従って,不祥事が出るか,出ないかは運なのです。出ない不祥事もあれば, 出る不祥事もあるのが現実です。われわれは「今は内部告発が盛んな時代だか ら,極力公表しましょう」と言うのですが,ちゃんと素直に公表する人もいれ ば,「それでも墓場まで持っていきます」と言ってばれない方に賭ける人もいま す。それで後でばれて大きな問題になるケースもあれば,本当にばれずに済む ケースもあるというのが現実です。 32.ケース② 覚悟を決めて企業が不祥事を公表した場合 二つ目が,覚悟を決めて企業が不祥事を公表した場合です。これも,マスコ ミで大きく報じられるケースもあれば,全くネタにならないケースもありま

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す。不祥事が起こると,「これは大変なことになりましたね。最大限の危機対 応をきちんとやっておかなければいけませんよ」と言って,弁護士に頼んで, 多額の費用を掛けて公表直前まで記者の質問に備えて社内調査をするわけで す。しかし,予想どおり多くのマスコミが来て批判されるケースもあれば,ふ たを開けてみたら記者がほとんど来ないというケースも実際問題あるのです。 例えば私が経験した事例で,情報ろうえい事件がありました。覚悟を決めて 社内調査の結果をもとに HP で公表しました。今でももちろん公表していま す。ところが,ほとんど何も取り上げられませんでした。その日に別の不祥事 があって,マスコミはみんなそちらの会見に行ってしまったのです。このよう なことがときどきあります。 最近の事例も同様で,これは言い方を間違えると語弊があるのかもしれませ んが,日本を代表する広告代理店の電通が少し前にマスコミに大きく取り上げ られたのが,インターネット広告に関する不適切取引です。インターネット広 告をこれだけ載せましたと言って広告料を請求していたのに,実はそれだけ出 していなかった,チェックが漏れていたというものです。トヨタ自動車からの 指摘を受けて電通が調査したところ,故意もしくはミスにより広告が掲載され ていなかったことが分かって,電通が謝罪しました。 この件は引き続き世の中で大きく取り上げられるのではないかと思っていた ところに電通社員の過労死事件があって,今,世の中ではそちらの方が大きく 取り上げられています。もちろん,私も非常に大きな問題だと思います。た だ,この広告の問題というのは非常に根の深い問題で,どちらかと言えばこち らを会社的にどうするかということを考えないといけないのですが,もうほと んど世間では騒がれなくなりました。このようなこともよくあるのです。

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3.ケース③ 企業不祥事がマスコミで大きく報じられた場合 三つ目が,企業不祥事がマスコミで大きく報じられた場合です。不幸にして 企業不祥事がマスコミで大きく報じられた場合でも,例えば上場会社で1~2 カ月で株価が戻るケースもあれば,長期にわたって株価が低迷するケースもあ ります。それにはいろいろな理由があります。例えばこの夏,ピーシーデポ コーポレーションという,パソコン環境の整備と高齢者向けのパソコンサポー トサービスを提供する企業で騒動がありました。ピーシーデポコーポレーショ ンは最近上場しており,2016年の前半は株価が1,400円でした。 ところが,ある80歳のおじいさんがピーシーデポコーポレーションにサポー トサービスの解約を申し出たところ,解約料が20万円と言われたのです。息子 さんが「それは高過ぎるだろう」と怒鳴り込んで,最終的には半額の10万円に なったのですが,それでも腹の虫が収まらなくて Twitter で事の経緯をつぶや いたところ,その話が全国に広まって,ピーシーデポコーポレーションは高齢 者を相手に何という商売をしているんだと非難されるようになりました。ご存 じのとおり株価は急落して,平成28年10月時点で400~500円台です。これから も大変な状況だろうと思います。 不祥事が発覚して大きく報じられ,これをきっかけとしてビジネスモデル自 体が世の中から批判されるようになってしまい,業績は長期にわたって低迷し ます。また,一度,内部通報という形で火がつくと,「ここもあった」「ここに もあった」と内部通報が次から次へと出てきます。そうなってくると,企業の 信用はどんどん失われていきます。従って,すぐに株価が回復する企業もあれ ば,ずっと低迷する企業もあるわけです。これがコンプライアンス経営の現実 だということを理解しておいていただきたいと思います。

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4.経営判断の要素としてのコンプライアンス

私が弁護士になった当時と今では,コンプライアンスの意味がだいぶ違って きています。今から20年ぐらい前は,世間的には法令を守ることがコンプライ アンスであるといわれていました。そのような時代には,経営者はコンプライ アンスの問題にあまり関わらなかったというか,コンプライアンスは担当者に 任せておけばよいスキルの問題だったのです。今と違ってバブルの時代までは 事前規制社会で,行政が網の目のようなルールをたくさんつくって,それを企 業が一個一個守っていれば,世間からそれほど大きく騒がれて批判されるよう なことはありませんでした。ある意味,企業を各監督官庁が保護していた時代 と言えます。法令遵守という言葉がぴったりで,コンプライアンス=法令遵守 だったのです。従って,自分の会社の経営にどのような法律が関わっており, どういう形だとそれに違反するのかということを担当者がきちんと理解して対 応していれば問題なかったのです。 ところが,皆さんの育ってきた時代というのは本当に不景気で,この20年間 はずっと日本経済はどん底だったわけです。何とか昔のように復活したい,で きるだけ企業には自由な活動をしてもらって業績を回復させてほしいというこ とで,国の政策もどんどん規制緩和の方向に進んできました。それは今も続い ていますが,規制緩和が進むということは,行政規制がどんどん小さくなって いくということです。 そこで,事前規制社会から事後規制社会へと社会は変わっていきます。なる べく企業のいろいろなルールを撤廃して,自由に営業活動をしてもらう必要が あるのですが,それと同時に,かつて規制していたときと同じような趣旨で, 各企業にはきちんと社会的な責任を果たしてもらわなければいけません。そこ で,今まであったような行政のルールを企業が自主的に守るような仕組みづく

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りとして,自律的な行動ということに光が当たるようになりました。平成17年 の会社法改正の中でも,内部統制ということが盛んにいわれました。それに ちょうど時期を重ねて,企業自身が自律的に適正な行動を取ることが求められ るようになり,そのあたりからコンプライアンスという言葉の意味も変わって きたのです。ルールが本当に少なくなってしまったので,企業が自分で社会の 要請に適切に対応することこそがコンプライアンスなのだということで,今で はコンプライアンスの発想をどうやってビジネスモデルに組み込んでいくかと いうことがいわれています。 ついこの間,企業内弁護士の人たちと対談をして分かったことがあります。 今,日本には企業内弁護士が1,700~1,800人います。特に若い人が多いのです が,企業内弁護士の中には転職している方もたくさんいます。彼らと懇親会の 席などで立ち話をする中で耳にするのは,意外にも世の中で著名企業といわれ ている企業,ガバナンスがしっかりしている企業ほど,法務部が活躍しにくい 傾向がある,ということです。一方で,カリスマ経営者のワンマン経営で,こ こ20年でぐんと伸びてきたというような会社では,法務など相手にされないの だろうと思ったらそうではなくて,逆に社内弁護士はすごく重宝され活躍の場 が与えられています。それは経営者がコンプライアンスの意味を自分の頭で考 えているからだ,というのです。何が正しいか,何が正しくないかを自分の頭 で考えるので,そこで差がつくのです。最近はコンプライアンスが経営者の哲 学に関わる問題になっているので,やはり担当者任せではなくて,経営者自身 がコンプライアンスを考えないといけない時代になってきたということです。 要するに,組織の適正な行動は事後の厳罰と事前のソフトローによって担保 される時代だということです。事後の厳罰というのは,皆さんが勉強している ハードローの世界です。刑法,民法,刑訴法,民訴法,行政法といった,最終 的には国家権力によって担保されているルールをハードローといいます。これ らは事後規制です。事前規制はどんどん取り払われていますから,何か問題が

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あったら,後でペナルティとして刑事罰,行政罰,あるいは民事賠償責任が科 されます。一つには,その厳罰化で組織の適切な行動が担保されます。そし て,もう一つが事前のソフトローで,分かりやすい例が社会的非難です。行政 の許認可等の事前規制はなくなっていますから,やってもいいのですが,「あそ こはどうも怪しいことをしているよ」という世の中の評判を使って企業を規制 していこうという考えです。 私は今,消費者庁の委員をしています。委員を務めていて気付いたのです が,消費者庁の職員はわずか330人しかいません。330人で全国の事業所の商品 表示が適正かどうかを監督しているのです。例えばエステサロンのいろいろな 宣伝文句が正しいのか,間違っているのか,優良誤認なのか,有利誤認なのか を監督するのですが,わずか330人でそのような監視ができるはずはありませ ん。金融庁内の証券取引等監視委員会も同じで,わずか三百数十人の職員しか いません。それで3,600の上場会社の開示情報を取引所と一緒に監督している のです。監視をするにしても限界があります。それではどうしているかという と,真面目な企業と不真面目な企業の二つに分けるのです。真面目な企業は自 由に事業をしてもいいけれども,その代わり,真面目な企業には自然治癒能力 があるはずだから,おかしいところがあったら自分で治癒して元どおりに回復 させてくださいということです。一方,不真面目な企業は競争の舞台からは外 れてもらいます。これが今の消費者庁や金融庁の考え方です。 ですから,例えば一つ間違えて消費者にうその商品表示をしたり,株主にう その開示をしたりして警告を出されたら,競争から外れてハンデを背負うこと になります。さらに,その前にいろいろな人がいろいろなことを言います。最 近では SNS で「あそこの会社は注意した方がいい」とか,さまざまなうわさ が流れます。そのようなうわさを耳にして,ある程度の疑惑が生じると,行政 は徹底的に規制をかけていきます。彼らは非常に情報収集をしていて,怪しい と思ったところをピンポイントで押さえるのです。これが最近の企業規制の在

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り方です。

5.ソフトローの実効性を確保するものとは

行政はソフトローを活用しています。刑事罰には自由刑や罰金刑(財産刑) がありますが,そういったものがあるからこそ,皆さん悪いことはしないわけ です。あるいは行政罰(行政処分)であれば,営業停止になってしまいます。営 業停止が倒産に等しい事業体もあります。それから民事賠償です。私が担当し ている海外のカルテル事件だと,民事制裁金が何百億円という世界です。10年 間ぐらい一生懸命働いて利益を出しても,全てアメリカ政府に分割払いで持っ ていかれてしまいます。これらはハードローの世界で,そのような実効性確保 の手段はソフトローにはありません。しかし,ソフトローの実効性は次の三つ により確保されています。 一つ目は,ハードローの脅威です。行政は,いきなり強制権限を出さないこ ともあります。「おかしいのではないですか」とささやきます。それに従うの か,従わないのかは自由です。その代わり,ブランドのある会社ほど後で問題 になったら怖いということで,萎縮してしまいます。この辺が行政の非常に巧 妙なところで,萎縮するのを狙って「これ以上やってしまったら,ハードロー を使うかもしれませんよ」と警告を発して,自律的な行動を企業に求めてきま す。 数年前,ディー・エヌ・エーの会長(前社長)の南場智子さんが『不格好経 営 チーム DeNA の挑戦』という本を出版しました。ディー・エヌ・エーは今 でこそプロ野球球団を持っているような大きな会社ですが,初めは3~4人の 小さい会社で,そこから急激に伸びていったときの喜怒哀楽が1冊の本になっ ています。当時,ディー・エヌ・エーは Mobage(モバゲー)というゲーム サービスを世の中に出して,これが爆発的にヒットしました。ところが,

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Mobage を 使 っ て 援 助 交 際 を す る 人 が 増 え て き た た め に,警 察 庁 か ら 「Mobage のビジネスモデルはいかがなものか」と言われて,事業存続の危機に 陥りました。これ以上やると風営法違反で規制をかけられるというところまで 来たわけです。そうなったら会社は終わりです。 そこで南場さんはどうしたかというと,同業他社と協働して,援助交際に Mobage を活用している人をつぶしにかかったのです。業界団体を立てて,警 察の代わりに援助交際目的の使用を一つ一つ取り締まっていきました。自浄能 力を自分の会社だけでなく業界団体として発揮することで,警察庁の懸念を払 拭し,窮地を切り抜けました。今,行政はまさにそのようなことを企業に期待 しています。 二つ目は,社会的信用(レピュテーション)です。最近は何か問題があった ら,「2ちゃんねる」などは当たり前ですが,すぐに SNS で発信されます。少 し前の電池の爆発問題でも,当初,S社は否定していたのですが,YouTube で S社の電池が爆発する様子を映した動画が公開されて謝罪したということがあ りました。これは YouTube の威力です。最近はそれ以外にもいろいろな SNS がありますから,企業はすぐに何らかの形で対応していかないと,炎上し てしまうこともあります。 また,この10月1日から消費者裁判手続特例法が施行されて,実際に特例適 格認定を受けた消費者団体(特例適格消費者団体)がいろいろな企業の消費者 契約の問題点をピンポイントでつつき,被害回復に向けて活動を始めます。裁 判まで起こさなくても,「この企業のこのようなことを問題にしている」と言っ ただけで,相当話題になると思います。そのような確定的な違法ではないグ レーの領域に関しては,何らかの自律的な行動を持たないと,社会的な信用が 落ちてしまいます。 三つ目は,企業倫理です。各企業とも,自社の企業行動規範のようなものを 持っています。これをもって社内的にきちんと組織を守っていくというか,悪

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い方向に走らないようにするわけです。これを行政も奨励していくということ で,以上の三つによりソフトローの実効性は確保されつつあります。

6.コンプライアンスとは何か

私は最近,NHK の「真田丸」を見ています。ちょうど真田幸村が幽閉され ていた高野山の九度山から大阪城に入城し,いよいよクライマックスを迎える ところですが,第38話で同じく九度山に幽閉された父・昌幸が,これから起こ る豊臣と徳川の戦に向けて幸村に戦術を授けるシーンがありました。そして, 最後に「いいか,軍勢を一つの塊と思うな。一人ひとりが生きておる。一人ひ とりが思いを持っておる。そのことを決して忘れるな」と遺言として幸村に伝 えるのですが,私はコンプライアンスもそういうことだろうと思います。 ついこの間の第42話では,幸村がこの戦(大坂冬の陣)は勝てると見るわけ です。実際に大阪冬の陣では勝つのですが,なぜ幸村が勝てると思ったかとい うと,家康は兵を寄せ集めていました。それぞれの大名が,家康に来いと言わ れたので仕方なく来ています。ですから,兵は戦場へ嫌々来るわけです。それ に対して幸村ら五人衆は,自分の功を競って今回の戦に出ています。われわれ は喜んで兵が戦う,従って勝機は大いにあると考えたのです。 企業のコンプライアンスもそうで,嫌々やっている企業と自ら進んでコンプ ライアンスが大事だと思っている企業では,かなりの違いがあります。コンプ ライアンスとは社会の要請への適切な対応です。しかし,実現するのは自身や 家族の生活を第一に考える社員です。社員が会社のために行動することを納得 することは難しく,また,納得したとしても,それを実行に移すことはさらに 難しいのです。そのことを経営者は決して忘れてはいけません。企業倫理は精 神論だとよくいわれるのですが,私は企業倫理というのは実践に使えるもので はないかと思います。

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7.不正リスク管理に当たり事業経営者が考えるべきこと

ここから先は,私がよく企業の社長に申し上げるような話です。不正リスク 管理に当たって事業経営者が考えるべきことは二つです。一つは,不祥事は起 こしてはいけない,不祥事を起こさないためにはどうすべきかということです (未然防止重視)。冒頭に申し上げた経営者Aと経営者Bの違いに関わるのです が,世の中の社長が私のような法律家の手伝いを求めるときは,大体が未然防 止です。これは社長の頭にすごくしっくり入るというか,納得するわけです。 ですから,こういうことに関しては予算が付きます。少々お金が掛かっても, 「先生,お願いします」と言われます。 しかし,私は社長に「これが100%ではありません。50%にしてください」 と言っています。そして,残りの50%の気持ちは,もう一つの早期発見・危機 対応重視に入れるように話をします。残念ながら,どんなことをしても不祥事 は起きます。ですから,起きたときにどうするのかを,普段から考える必要が あるのです。そのように言うと,大体の社長は嫌な顔をします。「そうですね」 と言う人は一人も見たことがありません。「失礼なことを言うな」「うちの会社 にそのような社員がいるわけがないじゃないですか」「うちの会社に,そのよう ないいかげんな商品があるわけがないじゃないですか」という感じです。 また,早期発見・危機対応を問い詰めていくと,必ず組織の中の触れられた くない部分に触れなければいけなくなります。ですから,みんな不機嫌になる のです。例えばテレビコマーシャルで「地域住民も,株主も,お客さまも,監 督官庁も,取引先もみんな大切にしています」と言っていても,早期発見・危 機対応を考えていくのなら,企業のステークホルダーであるお客さん,地域住 民,株主,従業員,監督官庁のどれを一番に考え,どれを切り捨てるのかとい うことを考えなければいけません。

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東京電力の福島の原発事故がありましたが,国会が主導する事故調査委員会 元委員の方に聞いた話では,東京電力は原発事故直後に地域住民を間違えて逆 の方向に誘導したそうです。普段からきちんと避難訓練をするべきだったのに しなかったから,そのようなことになったと言う人もいます。しかし,普段か ら避難訓練などできたのでしょうか。有事なので,皆さん「避難訓練をやって おかなければいけなかったのではないか」と質問するのですが,果たして平時 から避難訓練ができたかというと疑問です。もし避難訓練をすれば,地域の人 から「口では100%安全と言っているけれども,安全ではないから避難訓練をし ているのだろう」と言われるに決まっています。このように世の中には,有事 のためには考えなければいけないけれども,普段からあまり考えたくないよう なことがたくさんあります。しかし,そこを考えないと,本当の意味での不正 リスクの対応・管理はできません。 従って,不祥事が自分の会社でも起きると考える必要があります。もし会社 で皆さんが「うちの会社では不祥事を絶対に起こしていけない」とばかり言わ れていたら,不祥事を起こした同僚,上司,あるいは部下を見たときに,見て はいけないものを見たと,きっと思うでしょう。そして,誰にも報告しないと 思います。 私は時々,反社会的勢力と癒着した会社の事件に対応します。例えば銀行の 支店で暴力団組員の口座を作ってしまった,暴力団組員に融資をしてしまっ た,暴力団組員と契約をしてしまったといったケースです。今の時代,もちろ ん企業は暴力団排除を徹底していて,ルールとして厳しく言っています。です から,現場は暴力団と後で分かった瞬間に,まずいと思うわけです。そして, 目の前で起きてはいけないことが起きているということで,みんなで隠すので す。しかし,私に言わせれば今の時代は暴力団の排除など初期対応を間違わな いのであれば30分で対処できることです。しかし,それは私がプロだからそう 思うだけで,本人たちにしてみたら大変です。それで次から次へと暴力団がそ

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こに来て,最初は500万円の被害で済んだものが,本部が知ったときには何十億 円というお金が暴力団に流れているというような事態になってしまうのです。 これは未然防止ばかりを考えているからです。起こしてはいけないことが目の 前で起きていても,社員は報告しません。 社長が常々,「不祥事は当社でも起きる。大事なのは不祥事が起きてしまっ たときにどうすべきかだ」と社員に言っていたら,不祥事が起きても正直に 言ってくれます。しかし,「起きました」と言われて「よく言ってくれた」と言っ た経営者は,今まで私が見てきた中でわずか3人です。しかも,全て外国人ば かりでした。日本人の経営者で「よく言ってくれた」と言った人は一人も見た ことがありません。不利益なことをよく言ってくれたという気持ちが経営者に なければ,不祥事への迅速な対処は望めません。 従って,不正リスク管理では未然防止重視も大事ですが,早期発見・危機対 応重視も同じぐらい大事なのです。これは常に経営者の方々に申し上げていま すが,頭では分かっていても,これを実行するところまではなかなかいかない のが現実です。大事だと言うのは簡単ですが,それを実行に移すのはその100 倍ぐらい大変です。実行する方がよほど難しいと思います。

8.

「不祥事の芽」の存在

企業で不祥事が発生するとき,そこには必ず「不祥事の芽」があります。こ れはどこの組織にでも同じです。この近畿大学にもあります。私はある学校法 人で教職員用の内部通報の外部窓口を担当していますから,大学で起きている 不祥事はたくさん見ています。特にひどいのはアカデミックハラスメントで, 想像以上にえげつないのですが,そういったものを含めて不祥事の芽はたくさ んあります。 その不祥事の芽が本当の意味での不正に発展するかどうかは,そのときの運

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次第です。しかし,残念ながら,長い目でみると不祥事はどこの企業でも必ず 起きます。私からすれば,一次不祥事まではほとんど不祥事ではないような感 覚です。その程度のものはどこでもあります。例えば2016年10月の初め,三井 住友銀行の54歳の男性の副支店長が,10年間にわたって11億円を使い込んで逮 捕されました。自宅に現金で3億円,預金で5億円持っていて,愛人にお金を ずっと渡しながら暮らしていたといいます。多額の横領を見逃した銀行も銀行 だと思いますが,私からすれば,それは一次不祥事です。ですから,現にマス コミでもあまり報じられていません。 それでは二次不祥事とは何かというと,例えば11億円の不正があったのに, 支店長がこれを知っていて放置したとか,経営トップが知っていて行政に虚偽 の報告をしたとか,証拠を廃棄して隠蔽したというもので,マスコミの一番好 きなパターンです。一次不祥事に上塗りされたのが二次不祥事で,ここまでく ると「あんなにコマーシャルでは皆さんに寄り添うなどと言いながら,結局は 自分たちが一番大事なのだ」とマスコミの餌食になるわけです。ですから,わ れわれは一次不祥事をいかに早く発見するか,それから不幸にして発生したと きに,いかにして二次不祥事を防止するかということに非常に注目します。こ のように不祥事の芽は一次不祥事,二次不祥事という形で発展していくのが, 企業不祥事のパターンです。 例えば,先ほどの三菱自動車の事例でも,人手不足で技術者が足りないため に開発が遅延してきて,一次不祥事に発展していくケースもあれば,一つの同 じ組織・集団に長くいることで,だんだんみんな同じような考え方になってき て,世の中的には違っていることが当たり前のように見えてくることがありま す。その世の中の常識と組織のずれのようなものが,ある日突然,「それはおか しいだろう」と指摘されて,実は不祥事だったのだと気付くというケースもあ ります。 今から30年ほど前ですが,私が司法修習生のとき,2 年間の修習のうち1年

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半は大阪で過ごしました。大阪では弁護修習のとき,毎年恒例で近鉄電車の運 転をさせてもらうのです。最初に運転手さんに教えてもらって,もちろん横に いてもらうのですが,昼の回送電車を修習生が一駅ずつ交代で運転します。こ れは名物研修で非常に楽しみでしたし,良い思い出として残っています。 しかし,私が弁護士になって7年目に,朝日新聞の一面に「司法修習生が近 鉄電車を無断運転」と大きく報じられました。トップ記事です。これを受けて 当時の大阪弁護士会の副会長が謝罪会見をして「もう二度としません」と言っ て,その修習は中止されました。今から考えれば,いくら回送電車とはいえ, プラットフォームにはたくさんの人がいるわけですから,無免許のわれわれが 運転するのはいけないだろうと思います。しかし,当時は毎年の恒例行事で, これっぽっちも悪いとは思わなかったのです。後から批判されて,副会長が謝 罪会見を開くような不祥事だとは少しも思いませんでした。本当に今でも良い 思い出のままです。ですが,世の中でおかしいのではないかと言われたら,や はりおかしいのでしょう。そういうものなのです。不祥事の芽がある日突然, 一次不祥事になってしまいます。 3年ほど前,阪神阪急ホテルズのメニュー偽装事件がありました。バナメイ エビを車エビと言って出していたというものです。私は別の全国ホテルチェー ンの代理人で,この危機対応を支援したのですが,実はこの事件は,社員はお もてなしのつもりでお客さまを喜ばせるためにずっとやっていたのです。他の ホテルに勝つため,競争に勝つため,一人でも多くお客さんを獲得するため, 多くのお金を落とさせるためといったことは誰も考えていませんでした。本当 におもてなしです。おもてなし,おもてなしと言っているうちに,知らず知ら ずに一線を越えて偽装になってしまったというのが本当のところです。 また,何年か前にフジテレビで「ほこ×たて」という番組がありました。例 えば何でも穴を開けてしまうネジの会社と何も突き通さない壁の会社が戦うわ けです。面白かったので毎週見ていたのですが,実はやらせ番組だったという

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ことで,急になくなってしまいました。謝罪会見ではフジテレビの社長が「な ぜこんなやらせ番組を作ったのですか」と聞かれて,「あれはやらせではない。 過剰な演出だった」と言っていましたが,本人たちはそのような意識なのです。 なるべく多くの方に喜んでもらうために,演出,演出と思ってずっとやってい るうちに,ある日どこかで気が付くと一線を越えていて,やらせになっていた わけです。ですから,不祥事の芽が一次不祥事になる過程は非常に微妙な問題 で,不祥事はいろいろな形で出てきます。これは私からしても仕方がないとこ ろもあると思います。

9.企業不祥事の未然防止の知恵

―分かっちゃいるけどやめられない

いろいろな社員研修やeラーニングを見ていると,例えば社員研修で100点 満点を取らないといけないということで,社員が一生懸命頑張っていたりしま す。確かによく考えていると思います。何をしてはいけないか,何をしていい かは各企業や業界によって違いますから,いろいろな質問を一生懸命作ってい るのですが,私はそれがどうも不自然に感じるのです。 「コンプライアンス体制を構築して社員の不正を減らすために,コンプライ アンス綱領を作成したい。ガイドラインを作成して,できるだけ社員研修等で 周知徹底させましょう」というのはよくあるパターンです。確かにコンプライ アンス研修は効果があります。ただ,それはルールを知らなかったから不正を してしまった場合だけです。「それは駄目なのですか。知りませんでした。こ れから気を付けます」という人には効きます。知らなかった社員を少なくする こと,知っていれば不正をやらないことが明確な場合には効果があるというこ とです。 それでは,先ほどのメニュー偽装事件はどうでしょうか。当時,料理長や現 場担当者にヒアリングをしたところ,皆さんから出てきた答えは「ルールに書

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いていなかったからやりました(ルールに書いていなかったからやりませんで した)」というものです。結局,人間は自分に都合のいい方に考えます。やると 都合がいいときは「ルールに書いていなかったからやりました」,やらないと都 合がいいときは「ルールに書いていなかったからやりませんでした」という言 葉が返ってくるのです。メニューと食材の確認については社内に明確なルール がなかったから,やったということでした。 他にも「みんなもやっていたから,やりました」「この程度は業界の慣行な ので」「前任者もやっていたから,やりました」,それから「引継ぎのときに教 えてもらったから」という回答もありました。これは先ほどの私のパターンで, 引継ぎのときに教えてもらったというだけで,思考が停止しているわけです。 これはいいのか,悪いのかという気持ちが,前任者からの引継ぎというだけで 飛んでしまうのです。 「もっと会社にとって大切なことがあるからやりました」というのは確信犯で す。してはいけないとある程度は分かっているのですが,やったということで す。その他にも「ホテル競争に負けないことが大切だと思いました」「上司が やれと言ったので,やりました」「幹部からこれは偽装ではなく演出だと言われ たので」といった回答もありました。上から言われてしまうと,現場では思考 停止になってしまいます。「ルールの方がおかしいので,やりました」という回 答も多く見られました。会社で不祥事があったとき,今の現場でのルールが紙 に書かれたルールとは違っていて,紙のルールの方は知られていなかったとい うパターンが非常に多いです。「このルールは10年前までのものです。今,こ の会社は上場して前と違うルールがあるので,ルールどおりやっている人はほ とんどいません」と言われるケースです。 先ほどのようなコンプライアンスの研修は,ルールを知らなかったから不正 をしてしまった場合には役に立つかもしれません。しかし,実際にはルールが あっても,全員が素直に従うかというと,いろいろな理由があってなかなか従

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えない人もいるわけです。結局は「分かっちゃいるけど,やめられない」ので す。倫理的な行動を取れと言われて,倫理的な行動とそうでない行動を分ける ことが勉強だと思っていたら,精神論で終わってしまいます。何がやっていい ことで,何が悪いことかは勉強すれば分かるのだけれども,どうしても人間は やってしまうのだということを知らないと,ビジネスの中では生かせません。 先ほどの真田幸村ではありませんが,働いている人はみんな生身の人間で す。会社を一番と考えている人はいません。まず大事なのは自分の生活です。 結婚していたら,自分と奥さんと子どもです。何があっても,まずはそれが一 番大事なのです。これは絶対にそうです。その次に会社が来るかもしれません が,その代わり,自分がそこに勤めていることが誇りである,もしくは楽しみ であると思えないと,「会社のため」ともなかなか言えません。しかも,その 「会社のため」の中で最初に来るのは,わずか6~10人ぐらいの自分のグループ のためということです。私は多くの内部通報を受けていますが,内部通報者が 一番恐れるのは,現在仕事をしているグループで村八分にならないかというこ とです。会社からいろいろなことをされるよりも,私が普段会っている6~10 人に明日から口をきかれなくなる方が怖いわけです。最初に打ち明けられる心 配は,みんなこれです。 ですから,3 番目ぐらいに本当の意味での「会社のため」が来ます。どんな に偉そうに言っても,これが当たり前でしょう。独身ならまだしも,やはり結 婚したら奥さんの言うことを聞かなければいけません。奥さんも旦那さんの言 うことを聞かなければいけないでしょう。そして,そのうち子どものためにな るのです。いくら仕事優先と思っていても,やはり家族のためです。そう考え ると,例えば上司の不正を告げたいけれども,自分が告げたらきっとばれてし まうから堪えておこうとなるのは当たり前で,それが生身の人間です。そのよ うな生身の人間を相手に仕事をするわけですから,コンプライアンスも理想的 にいくわけがなくて,結局はやってはいけないのになぜやってしまうのかとい

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う,人間の弱さのようなところに光を当てていかないと,本当の意味で企業不 正を防止する,もしくは早期発見をすることはできないだろうと思います。 先ほど挙げられたメニュー偽装の理由はもっともであって,法令に当たらな いための理由にはなるかもしれません。メニュー偽装は景表法違反で,近畿日 本鉄道,阪急阪神ホテルズには措置命令が出されてしまいましたが,そのよう な法令違反に当たらないための理由にはなるかもしれないわけです。しかし, お客さんの目線に立ってメニューを作っていると言えるでしょうか。 コンプライアンスは法令遵守ではなく,社会の要請への適切な対応という意 味だと理解していただきたいと思います。3年前に対応したホテルチェーンの 事件で,私は記者会見で「社員はみんなおもてなしのつもりでやったのです。 決してだますつもりでやったわけではありません。おもてなし,おもてなしと 思っているうちに,いつしかそのおもてなしが過剰になってしまって,皆さん から偽装と言われても仕方がないようなことになり,今は大変反省していま す」と言えば,みんなから批判されずに済むと思って,社長にそのように指示 しました。しかし,結果は大失敗でした。私と社長は見事に赤恥をかきました。 マスコミに「おもてなしということはよく分かりました。しかし,それぐら いだったらお客さんは分からないだろうという気持ちがあったからこそ,おも てなしということでやったのでしょう」と言われて,答えられなかったのです。 そうなのです。これぐらい分からないだろうと思ったから,やったのです。お 客さんの目線に立って商売をしているわけではないということです。お客さん のためなどと都合のいいことを言って,実は自分のためなのです。人は自分の ためにいろいろなことを考えます。マスコミはそれをちゃんと見抜いていま す。お客さまのためと言いながら,これぐらい分からないだろうというおごり がどこかにあって,そのおごりがあったからこそ,偽装に至ったということで す。 ですから,商売というのは「○○のために」ではなくて「○○の視点・目線」

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で考えることが,特に消費者を相手にした事業では大切です。そこをきちんと 説明できないと,社会の要請への適切な対応は尽くせません。これは私の失敗 談です。

0.不祥事未然防止のための健全な懐疑心

冒頭の話に戻ると,ここまで経営者Bの観点を中心にお話ししてきました が,経営者Aは徹底した不正防止を重視していました。今は不正をした人に光 を当てましたが,不正を見抜くことが早期発見には大事になってきます。しか し,私は長く公認不正検査士として不正検査に携わっているのですが,不正を 見抜くのは本当に難しいです。スキルは磨けます。私もずっと磨いてきまし た。ただ,どんなにスキルを持っていても,難しいのは職業的懐疑心です。「目 の前にいる人がこの1年以内に何か悪いことをしている」という疑いを,どう やって持つかということです。この疑いがなければ,不正を見抜くことはほぼ 100%無理です。あとは内部通報や内部告発に賭けるしかありません。いくら 徹底した社内調査をしても無理なのです。従って,健全な懐疑心を持つことが 大事です。 社内調査体制や監査部門を置くことが大事であるということについては,ア メリカのダン・アリエリーという行動経済学の教授の『ずる―嘘とごまかしの 行動経済学』に面白いエピソードが出ています。あなたは間違えて家の中に鍵 を置いて外に出てしまい,家に入れなくなってしまいました。鍵屋さんに来て もらうと,わずか1分で鍵を開けてくれるわけです。鍵屋さんにお礼を言う と,鍵屋さんは次のように言います。「鍵というのは1%の泥棒から財産を守 るためにあるのではない。本当に泥棒をしようと思ったら,今のように1分で 開けてしまうのだから。鍵があるのは98%の普段は善良な人がその気にならな いためにある」。

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まさに企業の不正も同じです。企業には極悪人が勤めているわけではないで しょう。普通の真面目な人がほとんどというか,ほぼ100%がそうなのです。 たしかに確信的犯罪者もたまにいます。例えば近鉄メディアートでは約8年前 にわたり,親会社の近鉄から出向した社長が粉飾決算をしていました。事業が もうかっていないのに,もうかったように見せていたわけです。それは徹底し た恐怖政治で,社員に赤字は許さないと言って粉飾をさせていたのです。最後 にその社長は逮捕されました。しかし,親会社の近鉄で彼の同僚だった人は, インタビューで彼を極悪人とは言っていません。「あんなに責任感が強かった 人はいない」「社長としてのプレッシャーから,この会社を何とかしないと思い つめたのかもしれない」と同情していました。グループ会社の人はみんな「極 悪人」「恐怖政治」と言っていたのに,近鉄で彼を知っていた同僚はみんな「あ んなに責任感の強い人はいない」「なぜそうなったのか,いまだに分からない」 と言うわけです。 ですから,みんな基本的には真面目なのです。しかし,確信的に不正に走る 人も1%いて,例えばそれがトップの立場に立つ人であれば,不正はいくらで もできます。監査や社内調査は,普段は真面目にやっている人に「もしかした ら自分も悪いことができてしまうのではないか」という気にさせないためにあ るということで,この鍵のエピソードは企業の不正にも非常に役に立つ話かと 思います。 職業的懐疑心を持たないと,なかなか不正は見抜けません。例えば認知心理 学でゴリラのバスケット実験というものがあります。最近,非常に有名になっ てしまったので,もう知っている方もいるかもしれませんが,今でも Google で検索したら,一発で YouTube の動画が出てきます。それは約70秒間の動 画です。10人のアメリカの学生がいて,白のユニフォームが5人,黒のユニ フォームが5人で,バスケットボールに興じています。その中では試合形式で パスをしています。そして,これはテストのための動画で,あなたの動体視力

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を見たいなどと言って,白のユニフォームの人が何回パスをするかを全部 チェックして記録してほしいと言われるわけです。そうすると,言われた人は ずっと一生懸命見ます。今までの私の経験から言うと,答えが13~16回で分か れるのですが,正解は15回です。しかし,正解を見つけることが本当の狙いで はありません。 実験では,次に「今,あなたが見たの動画の中に,10人のバスケットボール 選手以外に誰かが出てきませんでしたか」と質問されます。10人のうち7人ぐ らいは「誰も出てこなかった」と答え,2 人が「そういえば黒い物が出てきた ような気がする」と言います。そして,1 人いるかいないかの割合で,「ゴリ ラが横切った」と答える人がいます。実は70秒間の動画の中で,カメラの前に ゴリラが約9秒にわたって右から左に横切るのです。真ん中でこちらを向い て,ポーズも取ります。それが見えていないのです。見たいのは何回パスをし ているかですから,ゴリラが横切ったのを一切見なかったわけです。従って, 人間は客観的な真実を見ているのではなくて,自分が見たいものを見て,聞き たいものを聞いて,それを真実だと思い込んでいるということです。 例えばここにいる方々が一つの組織だとして,もう10年一緒に仕事をしてい るとしましょう。あまり普段から大きな問題もなく10年過ごしてきたというこ とで,きっと周りはみんな真面目な人間だと思いますよね。そこで自分が監査 する役割になったときに,みんなのことは10年知っていて,みんな真面目に やってきたと思っていたら,誰のことも疑わないでしょう。しかし,疑わない 目で監査をしても,ゴリラ(不正)は見つかりません。そんなに甘くないので す。唯一見つかるのは,「こいつは何か怪しい」と思える人です。それで全員を 調べるのではなく,ほとんどは諦めて特定の人に絞って調査をして,やっと見 つかるわけです。それが現実です。強制権限のないところで不正を見抜くの は,それぐらい難しいのです。ましてや職業的懐疑心がない中では,不正を見 つけることは難しいだろうと思います。それは人間の心理として理解しておい

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てください。

1.誠実な会社だからこそ,経営者が知っておくべき知恵がある

111.有事になって「今が有事だ」と気づくことは難しい 最後に,誠実な会社だからこそ,経営者の方々が知っておくべき知恵につい てお話しします。長くこの仕事をしている中で,人間の弱さを見て,こういう ところに光を当てないとマスコミの餌食になってしまう,また同じことを繰り 返してしまうと感じることがあります。これは知識としてではなくて,「そう いえば,昔,こういうことを聞いたことがあるな」ということだけでも,頭の どこかに残っていればと思ってお話しするものです。 有事から学ぶ企業倫理の知恵は6点あります。良いことをして,悪いことを してはいけないとうレベルの話ではありません。1 点目は,有事になって「今 が有事だ」と気づくことは難しいということです。私はほとんどの組織でこれ を経験しましたし,これからも繰り返し経験するのだろうと思います。これが 現実です。ですから,私の仕事は「社長さん,あなた今,有事ですよ」から始 まります。みんな自分は大したことがない,自分は被害者だと思っています。 14年前のダスキン事件で不祥事を公表しないと決めた取締役会のメンバーの 心境は,「被害者も出ていないし,食品販売も終了しているのだから公表の必要 なし」というものでした。コンプライアンスに詳しい人はよくご存じですが, ダスキン事件とは,平成12年に全国のミスタードーナツで販売された期間限定 の豚まん*1,314万個に国内で無認可の添加物が使われていたという事件です。 もちろんダスキンは大企業ですから,まずは数社に作らせて,一番安くきれい に作ってくれた会社に決めたわけです。そのときに競争に負けた業者が「なぜ あんな豚まんができるのだろうか」と思って研究してみたら,違法添加物を

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使っていたことが発覚しました。それを知った業者はダスキンに文句を言いに 行ったわけです。それをダスキンの当時の役員が業者に6,600万円の口止め料 を支払って隠蔽しました。 しかし,6,600万円も裏金を使ったので,社内でうわさになってしまったので す。「何かおかしなことに使ったのではないか」「使途不明金のようになってい る」と2年後にうわさになってしまって,当時,ダスキンの社外監査役が調査 委員会の委員長になって調査が行われました。そして,2 年前に2人の役員が 違法添加物の入った豚まんを売り,口止め料を払ってそれを隠蔽したことが分 かったのです。それが取締役会で報告されて,もちろんその2人の役員は辞任 しました。 報告されたときの役員会には,ダスキンの監査役と役員の11人が出席してい ました。違法添加物の入った豚まんは既に全国の店で売り切ってしまっていま す。キャンペーンは1年半前に終わってしまっていますから,今は全く出回っ ていません。健康被害は出ていませんでした。それで,黙っておくことになり ました。私でもそうするかもしれません。唯一,1 人の社外取締役が社長に長 い手紙を書いて,「ダスキンとしては,こういう形で消費者を裏切ったというこ とは,自ら今すぐに公表すべきである。もしこれが後でばれた場合には,ダス キンの信用は地に落ちる」と進言しましたが,その社外取締役の意見にも従わ ず,社長もそのまま隠蔽しました。 ところが,社会調査委員会の報告があった半年後,口止めをした業者がもう 一回来てお金を要求してきたようです。しかし,ダスキンはもうお金は出せな いと言ったわけです。その1週間後,読売新聞から「過去に違法添加物の入っ たものを売ったのではないか」という取材申し込みがあり,ダスキンは大慌て で事実を公表しました。時既に遅しで,当時は大きな問題になりました。そし て,最高裁まで争ったのですが,平成20年に取締役と監査役には違法行為(リ スク管理義務違反)の判決が下り,合計5億7,000万円の損害賠償責任が認めら

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れました。 ただ,その当時に現場にいたら,私でも墓場まで持っていけるのではないか とは思ったかもしれません。過去に終わったことですし,健康被害も出ていな いということで,恐らく有事意識がなかったのでしょう。その社外監査役だっ た弁護士の方には別のシンポジウムで当時の心境を語ってもらいましたが, 多くの方の前で「そのときは,まさかこんなことになるとは思わなかった」と 言っていました。自分は社内調査で精いっぱいで,それで一段落ついており, まさか世の中に公表しなければいけないなどとはこれっぽっちも思わなかった そうです。私も理解できます。それぐらい有事意識を持つのは難しいのです。 112.忙しいと倫理的判断は後退する 2点目が,忙しいと倫理的判断は後退するということです。経営判断に法律 問題や会計処理,財務問題,技術問題などが表面化すると,それらの問題解消 だけに気持ちが向けられてしまい,解決したときには倫理上の問題が取り残さ れてしまいます。従って,第2思考回路の必要性が出てきます。 2013年にみずほ銀行で反社会的勢力への利益供与の問題が喫緊の課題になっ たときに,みずほ銀行はこの問題を取り上げるコンプライアンス委員会を設置 しました。これはよくある話です。コンプライアンス委員会の設置には,経営 陣は大賛成しました。そうでなければ,役員会でいつまでもコンプライアンス 問題への対処方法を考えなければいけないからです。そして,コンプライアン ス委員会を設置したことでこの問題はそちらへ丸投げされ,それによって役員 会での問題への関心は薄れていきました。「あれはどうなったのか」と誰も言わ ないのです。考えたくない問題はそちらへ行ってしまいました。 私が法律問題や会計問題などで意見書を求められたとき,必ず最後に書くの は「ただし,これは会社法上/金融商品取引法上違法ではないということを述 べたに過ぎず,コンプライアンス上は何ら問題がないことまでは保証できませ

参照

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しかしながら、世の中には相当情報がはんらんしておりまして、中には怪しいような情 報もあります。先ほど芳住先生からお話があったのは

巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ

○菊地会長 では、そのほか 、委員の皆様から 御意見等ありまし たらお願いいたし

○齋藤部会長 ありがとうございました。..

これからはしっかりかもうと 思います。かむことは、そこ まで大事じゃないと思って いたけど、毒消し効果があ

○安井会長 ありがとうございました。.

良かった まぁ良かった あまり良くない 良くない 知らない 計※. 良かった まぁ良かった あまり良くない

学側からより、たくさんの情報 提供してほしいなあと感じて います。講議 まま に関して、うるさ すぎる学生、講議 まま