• 検索結果がありません。

〈論文〉人口減少社会における女性の労働力参加と出生率との関係について-兵庫県市・町別統計データから分析する-

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "〈論文〉人口減少社会における女性の労働力参加と出生率との関係について-兵庫県市・町別統計データから分析する-"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

人口減少社会における女性の労働力参加

と出生率との関係について

―兵庫県市・町別統計データから分析する―

湯浅 俊郎

はじめに

戦後、工業の発展とともに農山漁村から都市への人口移動が加速した。 この人口増加の局面において、農山漁村では過疎化の問題が生じた。それ に対して都市では、人口の大都市圏への集中とともに、大規模な宅地造成 と集合住宅の供給が進められたことにより人口の集中による都市化は郊外 へと膨張していったのである。 このように、日本社会において、都市は拡大してきた。しかし、2005 年 以降、日本社会は、人口減少の時代へと突入し、加速度的に都市圏は収縮 していく様相を示し始めた。かつて大規模な宅地造成がおこなわれた郊外 の地域においても、急速な少子高齢化の進展とともに、過疎地域と同様に 人口減少の問題が深刻化していく兆しが表れているのである。 また、内閣府により公表された『地域の経済 2016 −人口減少問題の克服 −』では、生産年齢人口は地方にいくほど減少し、2030 年度には全国の 8 割にあたる 38 道府県において、「域内の供給力が足りずに必要な需要を賄 えなくなる」という生産力不足に陥ると分析されている(日本経済新聞

(2)

【電子版】2016 年 8 月 26 日付)。 このことから、近年、進められている地方創生という点においても、人 口減少の問題は緊急性の高い問題である。そのような状況のなかで、神戸 や大阪といった大都市のベッドタウンが形成されている明石市では、市議 会定例会の市長の施政方針(第 1 回明石市議会定例会(第 1 日):2016 年 2 月 19 日開催)において、次のような人口の動向が報告されている。 本市の人口は、平成 22 年から 3 年続いた減少傾向を終わらせ、平成 25 年からは一転して 3 年連続で増加し、昨年 10 月 1 日の人口は、市の独自 集計による国勢調査速報の人口で 293,509 人となっております。 このように、人口が 3 年連続して減少した後、3 年連続して増加する V 字回復となっている市は関西では唯一、明石市だけです。 このように人口が V 字回復した明石市では、上述のように人口が回復基 調へと向かう前に、こどもを核としたまちづくりを進める「明石市第 5 次 長期総合計画」(2011 年度∼ 2020 年度)が策定されている。その総合計画 において、明石市は「まちづくり戦略」として「子どもの健やかな育ちで、 みんなの元気を生み出す」ことを設定し、目的の 1 つとして、「子育て世代 にとっての魅力を高め、定住と流入を促進する」ことをあげている。 しかし、流入人口の増加だけでは少子高齢化がともなう人口減少社会の 問題は解決しない。その問題の解決には、生産力を維持するために女性の 労働力参加が必要であり、人口の構造的な問題を解決するために出生率を 高める必要がある。  明石市では、出生率を上げる対策として、こども未来部長が、市議会で の答弁において次のことを述べている。 これまでのこどもに関する重点的な取り組みを維持し、若い世代に とって暮らしやすい、住みよいまち明石の実現を一層進めるため、こと し 9 月から第 2 子以降の保育所・幼稚園などの保育料について、兄弟姉 妹の年齢や保護者の所得にかかわらず、全て無料化することといたしま

(3)

す。これは、子育て世帯の転入のみならず、2 人目以降の出産を強力に後 押しし、 出生率を高めることを目的といたしております(平成 28 年第 1 回明石市議会定例会 3 月議会(第 2 日)2016 年 2 月 26 日開催)。 このように、明石市では出生率を高めることを目的に保育料の無料化を 進めている。また、待機児童の解消に向けて、2016 年 4 月から 2018 年にか けて、保育施設の定員を、約 1,800 人拡大することを進めているのである (神戸新聞 NEXT 2017 年 1 月 21 日)。 本研究は、都市・地域間格差が生じる様相が色濃くなっていく中で、人 口減少社会における地方都市の動向を考察していくために、明石市が進め ている「こどもを核としたまちづくり」の政策評価を目的とするものであ る。その目的の中で、本稿では、まず、明石市が所在する兵庫県内の市・ 町別の統計データを用いて、人口減少問題を解決するために必要である 「女性の労働力参加」と「出生率」との関係について検証していく。

1 女性の活躍推進を困難にする要因について

1.1 母親役割規範の影響の強さについて ―高度経済成長期 少子高齢化にともなう人口減少問題が突入している日本社会において、 労働力を維持するために女性活躍推進のもと女性の力を生かさなければ立 ち行かなくなる。しかし、国際比較の視点から、「世界経済フォーラム (WEF)の 2016 年版『ジェンダー・ギャップ指数』で、日本の順位は調査 対象 144 カ国のうち 111 位だった。前年より 10 下がり、過去最低の水準に なった。『男女の所得格差』で順位が大幅に下がった影響が大きく、配偶者 控除見直しを含む税制論議にも一石を投じそうだ」(日本経済新聞 2016 年 10 月 26 日[朝刊])と報告されているように、日本における女性の社会進 出が後進的であることが指摘されている。 日本社会において、このようにジェンダー・ギャップ指数が高い要因で ある「夫が家計を支え、妻は専業主婦として子育てなど家族内役割に専念 するという近代家族のありかた」は、1955 年から 1975 年までの 20 年間に

(4)

成立したものであるととらえられている。木本喜美子(2012)は、この時 期を、ブルジョワ近代家族とは別に、大衆近代家族が成立した時期と位置 付けている。 近代家族論について、木本(2012)は「とりわけこの立論においてキー ワードとなる『主婦化』は、既婚女性が家族内役割に専念し、『よき妻』 『よき母』としてふるまうべきであるという規範を随伴するものと想定され ている」(33)ととらえた上で、次のことを指摘している。 それは「高度経済成長期およびそれ以降、このような意味での『主婦化』 が、社会階層および地域差をのりこえて全国の津津浦浦をおおったのかど うかについて、実証的裏づけは必ずしもない」(33-4)ということである。 木本は、日本で近代家族の大衆化が進んだ高度経済成長期である 1960 年 代を「主婦化と既婚女性の賃労働者化がせめぎあう時代」1と位置付け、近 代家族規範と女性労働のありかたの関わりを実態に即して解きほぐすこと が、この時代を掘り下げる上で重要であると提起している。 その木本(2012)が、上述の問題意識にもっとも近い先行の調査研究で あると位置付けている倉敷伸子(2007)の事例報告をみると、1960 年代、 産業化に対し、香川県東部沿岸地域において、専業農家経営が解体する農 村部では、近代家族規範受容には直結しない規範が編まれていたことが指 摘されている。 その内容は、まず、「稼得労働や子育てに関しては、独立世帯化への欲求 が示されるものの、既婚女性が生産労働から離れることへの関心は女性自 身にも薄く、主婦役割への期待は、周囲にも女性自身にも意識されていな かった」(230)ということである。 一方、「子育てに専念する母親像」については、女性の高い支持率を得て いるが、「実際に子育てを行っていた時期は、子育てよりも労働が優先され た。母親が自身の子育てを肯定するには、子どもと身体的に近い距離にい たという事実(「子どものそばで仕事をしていた」など=筆者注)を『子育 てに専念』に置き換えるという規範の読み替えを必要とした」ことが報告 されている(230)。 つまり、倉敷の事例報告は、近代家族規範の構成要素である主婦役割と

(5)

母親役割に対して、「前者には距離を置き、後者には納得のいかない現状へ の批判が重ねられたのである。さらに、母親の役割規範の読み替えに示さ れるように、規範は受け手側の使い勝手によって解釈され直すこともあっ た」というように、近代家族規範の構成要素の中で、女性における「母親 役割の規範」の影響の強さを浮き上がらせているととらえられる。 また、木本(2012)は、自らの調査2において次の問いを投げかけてい る。 高度経済成長期以降に、事後的に修得された「母親は母乳で育てるべ きだ」「母親こそが子どもの世話をすべきだ」という言説が語られるよう になったのは、一体いかなる契機からであったのかという問いである。 1950 年代後半から 1960 年代にかけて子育て期を生きた既婚の製造職女性 が認識としても価値規範としてもまったく重視していなかった言説が、 どのような諸条件のもとで、むしろ後年にたち現れるようになったのだ ろうか。(48) このように、先行研究により、近代家族規範の構成要素の中で、「母親が 子育てに専念する」という「母親役割の規範」の影響は「主婦役割の規範」 よりも強いことが指摘されている。 1.2 1990 年代以降 S.H.Vogel(2012)3が「若い女性たちが、仕事か結婚か決断できずに悩ん でいた九〇年代。たいてい両方得ることを望むのだが、そこには実際の障 害だけでなく、『母親は家族をフルタイムで世話すべき』という専業主婦の 理想も障壁となっていた」(261)と述べているように、高度経済成長期以 降、1990 年代においても、日本の女性における「近代家族規範の影響の強 さ」が指摘されている。 S.H.Vogel(2012)は、当時の日本の女性のありかたについて次のように 報告している。

(6)

今や女性や家族が、『専業主婦の理想』に縛られることはほとんどなく なったが、それは常に判断基準として存在しており、最終的に何を選択 しようとも、全ての日本人女性が、その影響を多かれ少なかれ受けるの である。多くの男性もまた、女性のキャリアプランに同意しつつも母親 がそうであったように、妻が全ての面倒をみてくれることを望んだ。女 性は、その理想に歩み寄ることに抵抗を覚えても、社会的非難を浴びる ことを懸念したり、子どもをないがしろにしているのではと罪悪感を感 じたりした。(261-62) また、近年、内閣府の国際意識調査で実施された「就学前の子供の育児 における夫・妻の役割 (単一回答)」という質問に対して次のような回答結 果が報告されている。 日本では、「主に妻が行うが、夫も手伝う」が 55.0%で過半数を占め る。「妻も夫も同じように行う」は 33.2%と、前回(平成 22 年=筆者注) (30.8%)から大きな変化はみられない。各国の結果を比較すると、欧州 各国(フランス、スウェーデン、イギリス=筆者注)では「妻も夫も同 じように行う」の割合は 5 割を超えており、スウェーデンでは 93.9%と 特に高くなっている(『平成 27 年度少子化社会に関する国際意識調査報 告書』:32)。 このように、近年の国際比較調査の結果からみても、子育てに関する 「母親役割の規範」は、日本社会の女性に対して、近代家族規範の構成要素 の中で、根強い影響を持っていることが分かる。 特に日本において、強い影響を持っている「3 歳児神話」(子どもが 3 歳 になるまでは、常に家庭で母親の手で育てないと、その後の子どもの成長 に悪い影響を及ぼす)については、1998 年版『厚生白書』おいて、少なく とも合理的な根拠は認められないと否定されている4 しかし、現状では、仕事をする女性が出産後も継続就業する場合、女性 が仕事と育児との両立における時間的・精神的なコストを 1 人で負担して

(7)

いるケースが多いことが窺える。そのことは、『平成 23 年社会生活基本調 査』(結果の概要)により「家事関連時間」に関して「男性は 42 分,女性 は 3 時間 35 分と男女の間に依然として大きな差が見られる」(16)と報告 されていることからも察することができる。 つまり、女性の活躍推進とともに出生率を高めるには、上述のように両 立のコストを女性だけが担っているという社会構造を変えていく必要があ る。 その構造的な問題の解決をするためには、第 2 子出生について「21 世紀 出生児縦断調査及び 21 世紀成年者縦断調査特別報告書(10 年分のデータよ り)」(2013)では「第1子出産直後に夫の育児参加があると第 2 子が生ま れやすい」(19)ことが報告されているように、出生率を高めるには、男性 の家事・育児参加が重要であり、「母親役割規範」による制約を解消しなけ ればならない。 また、同特別報告書において「働いている妻について、職場に育児休業 制度がない、あるいは育児休業制度があるかわからないと答えた者では、 育児休業制度があると答えた者より第1子出生が起きにくい」(15)という ことや、「希望子ども数 2 人の実現には、第1子出生のタイミングや平日日 中の保育サポートの有無が、希望子ども数 3 人の実現には、妻の育児休業 制度利用に対する勤務先の雰囲気や親との同別居が重要である」(24)こと が示されている。 そのことから、育児休業制度など雇用のありかたに関して企業側の負担 や、育児支援策など国や地方自治体側の負担も必要であり、従来の近代家 族のありかたを前提とした制度的な枠組みを取り払わなければならないの である。

2 出生率を高める要因

2.1 出生率を高める要因について 人口減少社会に突入している日本社会において、女性の労働力参加とと もに出生率を高めることは重要な課題である。本章では、女性の労働力参

(8)

加と出生率の関係を検証していく中で、まず、出生率を高める要因につい て先行研究から検討していくこととする。 山本学(2014)は、都道府県別の時系列統計データを用いて、保育所の 潜在的定員率、女性の労働力率、合計特殊出生率という 3 つの指標をとり あげて、パネルデータ分析をおこなっている。  山本は、保育所の潜在的定員率を説明変数にし、合計特殊出生率、女性 の労働力率、それぞれの変数を被説明変数とした分析をおこなっている。 その結果、保育所の潜在的定員率と合計特殊出生率、保育所の潜在的定員 率と合計特殊出生率、どちらとも有意に正の影響があったことから、保育 所の整備は、女性の就業と出産・育児の両立支援策であると提起している5 しかし、山本の分析において、女性の労働力率と合計特殊出生率との関 係は分析されていない。山本の分析では「保育所が整備されると女性の出 生率は上がる」、「保育所が整備されると女性の労働力率は上がる」ことは 示されているが、「女性の労働力率が上がると出生率が上昇する」というこ とはとらえられていないのである。 柴田悠(2016)は「どのような対策をすれば、出生率が高まるのか」 (146)について、国際比較の視点から分析している。柴田は、国際比較時 系列データ(OECD28 ヵ国:1980 ∼ 2009 年)を用いて、女性労働力率、 離婚率、移民人口比率、公的教育支出、児童手当、産休育休、保育サービ ス支出、医療支出、住宅補助支出、経済水準、失業率、結婚率を説明変数 に、合計特殊出生率を被説明変数とするパネルデータ分析をおこなってい る。 この分析から、柴田は「先進諸国において、出生率を引き上げるには、 『保育サービスの拡充』と『移民の受け入れ』といった対策が有効だと考え られる」(2016:162)と報告している。 しかし、「『出生率を上げるために労働移民を受け入れる』という政策は、 先進諸国一般では有効だと考えられるが、少なくとも日本では有効ではな い可能性が高い」(柴田 2016:162)ことから、柴田(2016)は、日本にお いて出生率を高める有効な対策は「保育サービスの拡充」であるととらえ ている。

(9)

柴田は、子育て支援に関する「保育サービス」が有意で正の効果を示し たことについて「一般的に先進諸国の親たちは、仕事と子育ての両立(の ための保育サービス)を求めているのであって、家計の一時的な補助(児 童手当)や仕事を長期的に中断すること(産休育休)は、必ずしも出生行 動を促すわけではないようだ」(160)と述べている。 このように、柴田の分析においても「保育サービス」に関する変数が、 出生率に対して正の効果を持っていることが示されている6 次に、日本社会における人口減少問題の解決において、もう 1 つ必要な 事柄である「女性の労働力参加」は、「出生率」に対して、どのような効果 を持っているのか、先行研究から見ていくこととする。 2.2 女性の労働力参加という要因について 先述の柴田の分析における女性の労働力参加と出生率との関係をみてい くと、統計的有意性を示して、女性の労働力参加は出生率を低下させると いう負の効果を示している。 また、柴田(2016)は「『女性労働力率と保育サービス(や子育て支援支 出)との交互作用項』を投入して交互作用効果を検証してみたが、有意な 効果は見られなかった」(164)と述べている。 つまり、柴田の分析において「『保育サービスや子育て支援が高度に充実 すると、女性の労働参加そのものが(世帯稼得能力の安定化につながるた め)出生率の上昇につながるようになる』という傾向は、本データではみ られなかった」(2016:164)と報告されている。 しかし、分析対象のレベルは異なるが、京都府(2015)が実施した日本 の都道府県別データを用いたパネルデータ分析の結果では、「5 歳以下の子 どものいる夫婦の共働き率」が「0 ∼ 2 歳児の保育所利用率」とともに有意 に正の効果を示している7 そこで、柴田と同じく国際比較レベルのデータを用いている筒井淳也 (2015)の分析をみてみると、「女性の労働力参加率と出生率の関係」につ いて次のことが報告されている8

(10)

雇用労働に従事する女性が増えるにつれて、どの国でも出生率が下が ることになった。しかし女性の労働力参加が出生率へ与える負の影響は、 アメリカやスウェーデンといった少子化を克服した国においては、ある 時点から中和されるようになった。おそらく、スウェーデンでは、長期 的には公的両立支援制度の影響、アメリカでは民間企業主導の柔軟な働 き方の影響で、女性が賃労働と子育てを両立しやすくなったからだと思 われる。その後、女性の労働力参加と出生率との関係はいよいよ反転し、 女性が働くことは出生率に正の効果を持つようになる。(69) 筒井は、この結果について、「これは不況あるいは経済成長の鈍化のなか で若年者の雇用が不安定化し、それへの対応として男女がカップルを形成 し、共働きによって生計を維持するというケースが増えたからである」 (2015:69)と指摘している。 つまり、「女性が結婚・出産後も長期に働くことができる素地があれば、 経済の不調による男性雇用の不安定化に際して『共働きカップルを形成す る』という選択肢が合理的となる。そのことが女性の労働力参加と出生率 のプラスの関係を生み出した」(筒井 2015:70)のである。筒井は、このよ うに女性の労働力参加と出生率がプラスの関係となる過程の形成には次の ことが重要であると指摘している。 ここで重要なのは、希望と現実のギャップ、あるいは家計維持のため に『共働き戦略』が有効であるには、女性がそれなりに高い賃金で長く 仕事を続けられる、あるいは労働市場が柔軟で、女性が出産を機に一度 仕事を辞めても、ある程度条件のよい仕事に復帰できる、という見込み がなければならない。(筒井 2015:70) つまり、満足のいく生活をするという問題に対して、「現状では、子育て 後にパートとして再就労するのでは問題解決にならないことを多くの人が 悟っているからこそ、日本では未婚化が進んでいるのだ」(筒井 2015:70) ということである。

(11)

柴田の分析では女性の労働力参加は出生率に対して有意に負の効果を示 した。しかし、女性の労働力参加と出生率との関係の推移を見ていくと、 筒井(2015)は「二〇〇六年以降、出生率は反転し、女性の労働力参加率 と出生率の関係は日本でもようやく正に転化した」(71)9と報告している。 人口減少問題の解決には、女性の労働力参加と出生率を高めることが不 可欠であることから、本稿においても、「保育サービス」の効果とともに 市・町別データを用いて出生率に対する「女性の労働力参加」の効果につ いてもみていくこととする。

3 分析

3.1 使用するデータと変数 2003 年の次世代育成支援対策推進法の施行以降、市区町村において、地 域における子育て支援や、親子の健康の確保、教育環境の整備などを含む 少子化対策を実施し、それらを盛り込んだ行動計画を策定することが義務 付けられるようになった。次世代育成支援対策推進法により、地方自治体 が独自の少子化対策を充実させる動きが広がったのである。 そのことから、少子化対策をめぐる政策面でみると、都道府県レベルの 分析ではやや広いととらえられる。本稿の分析では、少子化対策の動向を とらえていくためにも、その計画を策定している市・町(兵庫県に所在す る計 29 市・12 町)レベルの時系列統計データ(市町村合併している場合は、 合併した市町の数値を合算して算出した)を用いて、パネルデータ分析を 進め、明石市が所在する兵庫県全体の傾向をとらえていく。 まず、本稿の分析における被説明変数は「出生率」である。本稿の分析 では、国勢調査結果及び人口動態統計調査結果に基づいて市・町別に算出 し、兵庫県により公表されている「合計特殊出生率」の時系列データを 「出生率」として位置づけた。期間は 2005 ∼ 2015 年の 3 ヵ年分を対象とし ている。 説明変数は「女性の労働力参加」である。被説明変数である「合計特殊 出生率」は 15 ∼ 49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したものである。

(12)

しかし、説明変数に関しては、20 歳から 39 歳の女性を対象にした。その理 由は、出産の多くが 20 歳から 39 歳に集中していることと、この年代に 1 人以上の子どもを出産しなければ、人口を維持する水準である 2.07 人以上 の子どもを出産することの困難性が高まると想定されるからである。 そのことから、説明変数として、市町別に集計された 20 歳∼ 39 歳の女 性労働人口(国勢調査)を分子に、市・町別に集計された 20 歳∼ 39 歳の 女性の総数(国勢調査)を分母にして算出した「女性労働力参加率」を 「女性の労働力参加」の指標とした。 もう一つの説明変数は「保育サービス」である。その変数については「保 育所の潜在的定員率」を指標とし、山本(2014)が用いた「潜在的保育所 定員率」の算出法を用いた10 その変数は、各年度の兵庫県市区町村別主要統計指標から入手した市・ 町別に集計された保育所定員数を分子に、市・町別に集計された 20 歳から 39 歳の女性の総数(国勢調査)を分母にして算出したものである。 説明変数については、「出生率」への効果に至るにはタイムラグがあると 考え、2000 ∼ 2010 年の 3 ヵ年分(5 年ラグ)を対象とした。 また、本稿の分析では、先の変数に加えて、次の変数も投入した。先述 の柴田(2016)の分析では統制変数として「離婚率」を投入している。本 稿の分析でも、統制変数として、国勢調査で公表されている市・町別の「離 別者数」(2000 ∼ 2010 年の 3 ヵ年分)を用いて算出した「離別率」11を回帰 式に投入した。その理由は次のことにある。 離婚が増えると、『離婚したので経済的に自立しなければならなくなっ た女性』が増えるため、女性労働力率が上がる」、「離婚が増えると、『離 婚したので経済的に不安定になった(子どもを産みにくい状況になった) 女性』が増えるため、出生率が下がる」、という二つの因果関係がありえ て、その結果として、女性労働力率と出生率のあいだに「見かけ上の負 の相関」が生じる(女性労働力率の効果が過少評価されてしまう)から である(柴田 2016:151)。

(13)

したがって、本稿の分析においても「離別率」を回帰式に投入し、上述 の可能性の問題を避けることにした。 3.2 分析結果について 表 1 は、出生率の規定要因について、パネルデータ分析をおこなった結 果である12。「時点特有」の固定効果を含めない分析では、出生率に対して 「女性労働力参加率」だけが統計的有意性を示し、出生率に対して正の効果 を示している。 さらに、景気循環による影響や、育児支援などに関する地域共通でおこ なわれた政策変更などの要因も制御する年固定効果を投入すると、「女性労 働力参加率」は統計的有意性をもって正の効果を示しているが、その係数 は減少している。また、年固定効果を投入した結果では、「離別者率」も統 計的有意性を示しており、出生率に対して、負の効果を示している。つま り、「離別者率」が上がると「出生率」が下がるということである。 表 1  20 歳から 39 歳女性における「出生率」の規 定要因についての分析結果 従属変数=合計特殊出生率 女性労働力参加率 0.0349*** 0.0230** 離別者率 − 0.0207 − 0.0794*** 潜在的保育所定員率 0.00787 0.007376 年固定効果 YES 注)***は P < 0.01、**は P < 0.05 次の表 2 は、分析期間を 2000 年から 2005 年、2005 年から 2010 年の 2 つ に区切って再推定したものである。 表 2 より、2000 年から 2005 年においては「女性労働力参加率」、「離別者 率」、「潜在的保育所定員率」、どの変数も統計的有意性を示さなかった。し かし、2005 年から 2010 年の時期においては、「女性労働力参加率」だけが 正に統計的有意性を示している。

(14)

この本稿の分析における 2005 年以降の「女性労働力参加率」と「出生 率」との関係の変化は、先述の筒井(2015)が報告した、2006 年以降、日 本において女性の労働力参加率と出生率の関係が正に転化したという動向 との整合性が高いととらえられる。2005 年以降、出生率に対する「女性労 働力参加率」の効果が変化している可能性が示唆されるのである。 表 2  時期別にみた 20 歳から 39 歳女性における「出 生率」の規定要因についての分析結果 従属変数=合計特殊出生率 2000-2005 2005-2010 女性労働力参加率 0.0134 0.0435** 離別者率 − 0.0906 − 0.0445 潜在的保育所定員率 0.0140 − 0.0123 年固定効果 YES YES 注)**は P < 0.05 また、先行研究において、出生率に対して有意に正の効果を示していた 「保育サービス」に関する効果は、本データではみられなかった。この「保 育サービス」に関する分析結果については、朝井友紀子・神林龍・山口慎 太郎(2016)による「保育所の整備」と「母親の就業率」との関係の分析 が参考になる13 朝井らは「現実には、母親の就業は祖父母との同居によってある程度達 成されていたのであって、公的保育サービスの充実は、すでに母親が就業 していた家族の保育負担を三世代同居から公的保育サービスに振り替える きっかけを与えただけで、結果として母親の就業率を劇的に引き上げたわ けではないという可能性が高いのである」(149)と報告している14 上述の朝井らの報告は「保育所の整備」と「出生率」との関係にも当て はまると推察できる。朝井らの分析結果における就業率との関係と同様に、 「保育所の整備」は、育児の援助を祖父母などの私的な支援から公的な保育 サービスに振り替えるきっかけを与えただけであるととらえられる。

(15)

つまり、「保育所の整備」は、2000 年から 2010 年の時点において、これ まで出産してなかった女性の出産を劇的に促したわけではないという可能 性が高いのである。 しかし、三世代同居が減少している現在、「保育所の整備」が「女性の労 働力参加率」の上昇とともに「出生率」を高める有効な手段となる可能性 は高いと捉えられる。 3.3  2005 年以降の「女性の労働力参加」と「出生率」との関係の変化に ついて 本分析において、2005 年以降、「出生率」に対する「女性労働力参加率」 の効果が変化している可能性が示唆される結果が表れた。そこで、本節で は、2005 年以降、女性の労働力参加と出生率との関係はどのように変化し たのかについて、兵庫県の国勢調査のデータで示される数値の推移を用い て、さらに詳しくみていくこととする。 まず、表 3 より、各年度の 20 歳から 39 歳の女性の有配偶者率の推移と 合計特殊出生率の推移をみると、出生率は上がっているのに対して、有配 偶者率が下がっている。そのことから、極論すれば、複数の子どもを産ん でいる層もあれば、(経済的な要因などで)子どもを産めない・産まない層 もあるというように、これらの層の間が広がり、配偶者を有して子どもを 産んでいる層が絞られている可能性が窺える。 表 3  兵庫県における各年度の 20 歳から 39 歳の女性の有配偶者率と出生率 の推移 女性有配偶者率 合計特殊出生率 2000 年 50.9 2005 年 1.25 2005 年 48.5 2010 年 1.41 2010 年 47.1 2015 年 1.48 注)各年度の国勢調査より作成 表 4 より、説明変数として用いた「20 歳から 39 歳の女性労働力参加率」

(16)

と、国勢調査の「就業の状態」の区分15の中で「主に仕事」に区分される 20 歳から 39 歳の有配偶者の女性の労働力参加率16の推移を見ていくと、両 者ともに上がっている傾向にある。 先の表 3 において出生率も上昇の推移にあることから、女性労働力参加 率が上がるとともに、配偶者がいても「家事より主に仕事をする女性」の 割合が高まり、出生率の推移も上がっていることが分かる。 表 4  兵庫県における各年度の 20 歳∼ 39 歳の女性労働力参加率と有配偶者 の女性労働力(主に仕事)参加率の推移 女性労働力参加率 有配偶者の女性労働力(主に仕事) 参加率 2000 年

55.7

20.0

2005 年

57.9

20.6

2010 年

59.6

25.1

注)各年度の国勢調査より作成 次に、20 歳から 39 歳の有配偶者に限定し、まず、仕事をしている女性 (就業の状態は「主に仕事」)と専業主婦(就業の状態は「家事」)の女性に おける「子どもの有り」の数の推移(2005 年度と 2010 年度)を見ていくと 次のとおりである。 表 5 より、「主に仕事」の女性、「家事」の女性、ともに「6 歳未満の子ど も有り」の割合は減少していない。その中で、配偶者がいても家事より主 に仕事をしている中で 6 歳未満の子どもがいる女性の総数が増加している。 一方で、「家事」に区分される専業主婦で 6 歳未満の子どもがいる女性の総 数は減少している。

(17)

表 5  兵庫県における 20 歳∼ 39 歳有配偶者の女性の「就業の状態」と「6 歳未満の子ども有り」の推移 2005 年 2010 年 主に仕事 (数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の子ど も有りの割合 主に仕事(数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の子ど も有りの割合

71,428

24,076

33.7%

78,149

27,659

35.4%

家事(数)子ども有り6 歳未満の (数) 6 歳未満の子ど も有りの割合 家事(数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の子ど も有りの割合

199,280 136,061

68.3%

153,051 107,044

69.9%

注)各年度の国勢調査より作成 2010 年度の国勢調査では「従業上の地位」の区分において「正規の職 員・従業員」という区分が新たに設けられている。「主に仕事」という区分 では、パートや派遣など非正規も含む。そのことから、表 6 は、正規雇用 に限定すると、6 歳未満の子どもがいる割合は、どのように変わるのかをみ てみたものである。 表 6 より、「正規の職員・従業員」の女性は、非正規を含む「主に仕事」 の女性よりも、「6 歳未満の子ども有り」の割合が高くなっている。このよ うに、対象を「正規雇用」の女性に限定すると「6 歳未満の子ども有り」の 割合が高くなるという動向は、2015 年の第 15 回出生動向基本調査の結果と 重なり合うものがある。 表 6  兵庫県における 20 歳∼ 39 歳の有配偶者の女性の「就業の状態」、「従 業の地位」と「6 歳未満の子ども有り」17 主に仕事 (数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の 子ども有り の割合 正規の職員 ・従業員 (数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の 子ども有り の割合 20 ∼ 24 歳 2,090 548 26.2% 1,432 426 29.7% 25 ∼ 29 歳 13,958 4,022 28.8% 10,997 4,077 37.1% 30 ∼ 34 歳 25,718 10,904 42.4% 19,388 10,231 52.8% 35 ∼ 39 歳 36,383 12,185 33.5% 23,403 10,387 44.4% 合計 78,149 27,659 35.4% 55,220 25,121 45.5%

(18)

第 15 回出生動向基本調査では「第 1 子出産前後では就業継続率は 4 割前 後で推移してきたものの 2010 ∼ 14 年では 53.1%へと上昇した」というよ うに、出産後も継続就業する女性の労働力参加率が上がっていることが報 告されている。さらに、同調査において、正規の職員の女性の第 1 子出産 前後の就業継続率を見てみると、2000 ∼ 04 年は 52.4%、2005 ∼ 09 年は 56.5%、2010 ∼ 14 年は 69.1% と上昇しているのである。 また、厚生労働省大臣官房統計情報部「21 世紀出生児縦断調査及び 21 世 紀成年者縦断調査特別報告書(10 年分のデータより)」(2013)においても、 「男女ともに、収入が高くなるほど結婚しやすい」(11)と報告されており、 「妻の就業状況が、パート・アルバイトや派遣社員・契約社員・嘱託といっ た非正規雇用である場合、正規雇用である場合よりも、第1子出生が起き にくい」(14)ことが報告されている。 つまり、2005 年と 2010 年 のデータを通して、「女性の労働力参加」と「子 どもの有無」との関係の動向をみていくと、子どもを産む層が絞られてい る中、配偶者を得て出産後も正規雇用として継続就業している女性が増加 し、その女性層が「労働力参加率」とともに「出生率」の数値を支えてい るという動向が窺える。

むすびにかえて

まず、人口減少問題の解決において、念頭においておかなければならな いことは次のことである。それは、出生率の上昇や出生数の増加を目的と すると、子どもを産まない人が生きづらい社会となる可能性があるという ことである。人口減少問題の解決に向けた政策目標は「子どもを産みたい 人が産める状況にする」ことを目標にしなければならないことは留意しな ければならない。 上述のことをふまえて、兵庫県の市・町別データを用いた本稿の知見を 整理していくと、本稿の分析において、配偶者を得て、出産後も正規雇用 の仕事を継続就業できる状況にある女性が出生率を押し上げている動向が みられた。そのことから、仕事と育児との両立が可能となるような状況が、

(19)

出産後も仕事を続けるとともに「子どもを産みたい」人に開かれているこ とが、人口減少対策には重要な問題の 1 つとなる。 出産後も継続就業している女性について、池田心豪は「出産後職場復帰 した女性は皆、『私は運が良かった』という。保育園にも、職場にも夫にも 恵まれた人だけが『運よく』両立できているのが現状だ」(日本経済新聞 12 月 30 日【朝刊】)18と指摘している。 つまり、現状では、出産後も継続就業したい女性において、仕事と育児 の両立が可能となる状況は「運」次第であるということである。したがっ て、「労働力参加率」とともに「出生率」を支えている「出産後も正規雇用 として継続就業する」女性の層が、「運」によって絞られているとみること ができる状況では、人口減少の問題の解決は困難性を増していくととらえ られる。 本稿の分析では、2005 年以降、「出生率」に対する「女性労働力参加率」 の効果の変化が示唆された。その時期は、リーマンショックによる経済不 況などが生じた時期である。この変化の要因として、経済の不安定化が進 んだことから、出産の規定要因として、特に経済的な要因が強くなったと とらえられる。また同時に、経済的な安定を得るためにも、共働きが合理 的な戦略となった可能性が高まったと推察できる。 上述のような状況のなかで、女性側の問題19だけに限定すると、出産後 における正規雇用の仕事の継続と育児との両立が可能な条件が揃えられる 女性が増加すれば、「労働力参加率」とともに「出生率」は上昇するととら えられる。 そのためには、まず、女性が仕事と育児の両立における精神的・時間的 コストを1人で負担しているという構造的な問題を解決しなければならな い。その解決のために、仕事と育児との両立をめぐる家族間の負担のあり かたを、女性だけではなく共働きで男性も家事・育児に参加するという方 向へ進めていく必要がある。 そのことと同時に、家族への支援に向けた、企業の負担のありかたや、 国や地方自治体の負担のありかたについて議論を深めていくために、子育 て支援の全体像を描いていかなければならないのである20

(20)

最後に、本稿における今後の課題を述べる。今回は短期間の効果の分析 にとどまり、時点数が少ないことから、シンプルな分析法となり、逆の因 果は十分に除去できていない。そのために、効果が課題に評価されている 可能性があることは注意しなければならない点である。より長期的な効果 の分析を進めていくことは本稿の課題である。 今後、具体的な事例として明石市が進める「子どもを核としたまちづく り」の政策の動向をとりあげていくとともに、少子化問題の解決に向けて、 家族、企業、国や地方自治体の負担のありかたを考察していくことが本研 究の課題である。 注) 1 1960 年代について、木本(2012)は「一方では教育界を中心に主婦・母親役割にまつ わる言説が強力に発信され続けた。また大企業において、男性一人の稼ぎで家族を養う べきだとする『家族賃金』観念を実質的に体現する年功賃金、手厚い企業福祉が大企業 を中心に構築され、主婦業に専念する既婚女性像が諸制度の基底には埋め込まれていっ た。だが他方では女性労働に期待を寄せ、働く既婚女性を念頭においた政策提言もあり、 1960 年代は『主婦化』にのみ回収されない多様な言説空間があった」(35)というよう に「『主婦化』という視点と女性労働の展開という側面を見据えつつ、社会階層差および 地域差を視野に取りこんだ実態分析によって、この時代の相を掘り下げる必要があろう」 (35)と捉えている。 2 木本(2012)は、福島県伊達郡川俣町において 1950 年代後半から 1960 年代にかけて 織物業に従事してきた女性を対象にライフヒストリーの調査をおこなっている。 3 S.H.Vogel は、元夫である『ジャパンアズナンバーワン』等の著者、E.F.Vogel ともに 1958 年に初来日し、東京の郊外に住む中間層の家族に関する研究調査で継続的な面接調 査を進めた。また、S.H.Vogel は、日本の精神科医療の現場を指導し、日本の社会問題と メンタルヘルスに関して研究をおこなっていた。 4 S.H.Vogel(2012)も「母親が常に赤ちゃんを身体接触しながら連れて歩き、いつでも 子どものニーズを肌で感じるスキンシップに代表される、日本の親子間コミュニケー ション。三歳頃までの、こうした赤ちゃんのニーズに対する敏感さは、子どもの健全な 発達にとって鍵となる。ただ多くの経験から、そうやってニーズに応じるのは、常に同 じ人間である必要はない」(264)というように、常に母親が子どもに携わらなければな らないということの必要性に関して否定的な見解を示しているのである。 5 しかし、山本(2014)は「保育所の整備は女性の就労支援と少子化対策の両立支援策 としての有効ではあるものの、人口を維持する水準である合計特殊出生率 2.07 に向けて は、働き方の見直しなどを含めた他の施策もあわせて推進していくことが重要であると 考えられる」(87)と述べている。

(21)

6 保育サービスに関連する指標として、山本は「保育所の定員率」、柴田は「保育サービ スの支出」であったのに対して、のちに見ていく京都府の分析(2015)では「保育所の 利用率」である。保育サービスに関して、山本、京都府の分析で用いられている変数を 対照させると、柴田の分析で用いられている変数は次のようにとらえられる。柴田の分 析で使われている保育サービスに関する変数は充実度の目安にはなる。しかし、保育サー ビスの支出という変数には物価などの問題も入ってくることが想定されることから、「保 育所の定員率」(山本)、「保育所の利用率」(京都府)と比べて「利用者からみた保育 サービスの整備の充実度」を示す指標として現物性の度合いは低いと捉えられる。 7 京都府の分析では「女性初婚年齢(2000 年から 2005 年、2005 年から 2010 年の変化)」、 「大学等進学率(2000 年から 2005 年、2005 年から 2010 年の変化)」、「5 歳以下の子ども のいる世帯での共働き率(1995 年から 2000 年、2000 年から 2005 年の変化)」、「0 ∼ 2 歳千人当たり保育所利用者数(1996 年から 2000 年、2000 年から 20005 年の変化)」、「有 業男性育児時間(1996 年から 2001 年、2001 年から 2006 年の変化)」、「子どもを対象と したボランティア活動行動者率(15 歳未満人口比率で調整:1996 年から 2001 年、2001 年から 2006 年の変化)」、「15 ∼ 49 歳女性人口に占める団塊ジュニア(1971 ∼ 74 年生ま れ)の割合(2000 年から 2005 年、2005 年から 2010 年の変化)」、「男性完全失業率(2000 年から 2005 年、2005 年から 2010 年の変化)」を説明変数とし、「合計特殊出生率(2000 年から 2005 年、2005 年から 2010 年の有配偶出生率の変化)」を被説明変数としたパネ ルデータ分析がおこなわれている。 8 筒井(2015)は、国際比較の時系列データ(OECD 加盟国で、データが入手できた国 のみ:1960 ∼ 2011 年)を用いて、国別に女性の労働力参加率と合計特殊出生率との相 関の推移をとらえている。 9 柴田(2016)、京都府(2015)、筒井(2015)の分析は、各々の分析方法や推定法も異 なっている。この違いをどのようにとらえていくかは、別に検討する。 10 この変数について、山本(2014)は「これは、出産年齢にあたる女性1人あたりで、 どの程度の保育所の利用可能性があるかを示す指標であり、実際に子供を産んだかどう かに依存しない指標である。仮に全員の女性が 20 歳∼ 39 歳のうち 5 年間保育所を利用 するとすれば、潜在的保育所定員率が 25%程度(利用 5 年間 / 母親の年齢幅 20 年)程 度は必要である」(85)と説明している。山本の分析も、出産の多くが 20 歳∼ 39 歳に集 中していることから、20 歳∼ 39 歳の女性を対象にしている。 11 「離別率」は、20 歳∼ 39 女性の離別者数を分子に、20 歳∼ 39 歳の女性人口総数を分 母にして算出した変数である。2000 ∼ 10 年度の国勢調査 3 か年分を対象にした。柴田 (2016)は「離婚率」であったが、本分析では代わりに国勢調査の市・町別データで入手 できた離別者数を用いた。 12 本稿のパネルデータ分析において、どの分析も、通常の回帰モデルとの妥当性におい て Prob>F = 0.000 で、固定効果モデルが採択される結果となった。また、固定効果モ デルと、固定効果モデルと異なり個体特有効果は説明変数と相関しないことを仮定する 変量効果モデルのどちらのモデルを採択するべきかを検定するために、Hausman 検定も おこなっている。その結果、どの分析においても、固定効果モデルが支持された。

(22)

13 朝井らは日本の都道府県別に集計された 1990 年∼ 2010 年までの国勢調査の公表数表 を用いて分析している。 14 朝井らは、女性の就業に対する地域における伝統的な価値観や、女性の就業意欲にお ける地域差などデータに現れにくい要因が保育所の整備と女性の就業率の双方に影響を 与えている可能性があるとし、その影響について「伝統的価値観が保育所政策の足を 引っ張り、同時に母親の就業率を低めているとすれば、伝統的価値観があるところで保 育所を整備しても、伝統的価値観そのものを動かさない限り、母親の就業率が上昇する とは限らない」(朝井・神林・山口 2016:124)ということなどをあげている。 15 国勢調査の「就業の状態」の区分には「主に仕事」、「家事のほか仕事」「通学のかたは ら仕事」「休業者」という区分がある。 16 20 歳∼ 39 歳の有配偶者の女性労働力(主に仕事)率は、「就業の状態」の区分におい て、「主に仕事」に区分される 20 歳∼ 39 歳の有配偶者を分子にし、20 歳∼ 39 歳の有配 偶者の女性総数を分母にして算出した数値である。 17 「6 歳未満の子ども有り」の数に関して、25 ∼ 29 歳の「主に仕事」の女性は 7022 人で あるのに対して、25 ∼ 29 歳の「正規の職員・従業員」の女性は 7077 人と増えているの は次のことからである。正規雇用で育児休暇をとっている場合、「就業状態」は「休業 者」に区分され、「従業上の地位」は「正規の職員・従業員」に区分されることによる差 であると捉えられる。 18 日本経済新聞の連載「女・男ギャップを斬る」の「共働き社会 追いつかぬ政策 平 日の子連れパパ / 母に求める水準高すぎる」において、水無田気流と池田心豪が「女性 活躍の現状と課題」をテーマに対談をおこなっている。その対談における「女性活躍の 現状」に関する池田の指摘である。 19 男性に安定した仕事と収入を求めるという家計責任の期待値が高いという負担の問題 も考えなければならない。 20 H.Babara(2014)は、ワークライフバラスの達成の度合いの可能性について、個人的 な要因(Individual factors)、制度的な要因(Institutional factors)、社会の要因(Socie-tal factors)という 3 つの要因をあげて、分析枠組みを設定している。 文献 明石市議会会議録検索システム,2016,「平成 28 年 第 1 回定例会 3 月議会(第 1 日 2 月 19 日 )」, 明 石 市 議 会 ホ ー ム ペ ー ジ,(2016 年 8 月 17 日 取 得,http//www.kensaku system.jp/Akashi/cgi-bin3/ResultFrame.exe?Code=f7wkgenfyx9hg5ayow&fi leName=H 280219A&startPos=0). ―,2016,「平成 28 年 第 1 回定例会 3 月議会(第 2 日 2 月 26 日)」,明石市議会ホーム ページ,(2016 年 8 月 17 日取得,http//www.kensakusystem.jp/Akashi/cgi-bin3/Result Frame.exe?Code=f7wkgenfyx9hg5ayow&fi leName=H280219A&startPos=0). 朝井友紀子・神林龍・山口慎太郎,2016,「保育所整備と母親の就業率」『経済分析』内閣 府経済社会総合研究所,191:121-152.

(23)

Oxford:OXFORD UNIVERCITY PRESS. 木本喜美子,2012,「織物女工の就業と家族経験 ―近代家族規範の検討」『大原社会問題研 究所雑誌』,650:33-48. 神 戸 新 聞 NEXT,2017,(2017 年 1 月 21 日 取 得,https://www.kobe-np/news/kurashi /201701/0009847466.shtml). 国立社会保証・人口問題研究所,2017,『2015 年 社会保障・人口問題基本調査(結婚と出 産に関する全国調査)現代日本の結婚と出産―第 15 回出生動向基本調査(独身者調査な らびに夫婦調査)報告書』,国立社会保障・人口問題研究所ホームページ,(2017 年 3 月 31 日取得,http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS/5_reportALL.pdf). 厚生省,1998,『厚生白書(平成 10 年版) 少子社会を考える―子どもを産み育てることに 「夢」を持てる社会を』. 厚生労働省大臣官房統計情報部,2013,『21 世紀出生児縦断調査及び 21 世紀成年者縦断調 査特別報告書(10 年分のデータより)』,厚生労働省ホームページ,(2016 年 8 月 17 日取 得,http://www.mhlw.go.jp/tiukei/saikin/hw/judan/tokubetsu13/dl/08.pdf). 倉敷伸子,2007,「近代家族規範受容の重層性 ―専業農家経営解体期の女性就業と主婦・ 母親役割」赤澤史朗ほか編 『年報日本現代史』12,現代史料出版:201-235. 京都府,2015,『京都府少子化要因実態調査報告書』,京都府. 内閣府,2016,『地域の経済 2016―人口減少問題の克服』,内閣府ホームページ,(2016 年 8 月 18 日取得,http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr16/chr16_index-pdf.html) 内閣府 子ども・子育て本部,2016,『平成 27 年度少子化社会に関する国際意識調査報告 書 』, 内 閣 府 ホ ー ム ペ ー ジ,(2016 年 8 月 18 日 取 得,http://www8.cao.go.jp/shoushi/ shoushika/research/h27/zentai-pdf). 柴田悠,2016,『子育て支援が日本を救う ―政策効果の統計分析』勁草書房. 総務省,2012,『平成 23 年社会生活基本調査 生活時間に関する調査結果の概要』,総務省 統計局ホームページ,(2016 年 8 月 18 日取得,http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/ pdf/youyaku2.pdf). 筒井淳也,2015,『仕事と家族 ―日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』中公新書. Vogel,Suzanne H.(西島美里 訳・土居健郎 解説),2012,『変わりゆく日本の家族―<ザ・ プロフェッショナル・ハウスワイフから見た五〇年』ミネルヴァ書房. 山本学,2014,「保育所の整備と女性の労働力率・出生率」『ファイナンス』財務総合政策 研究所,588:80-87.

表 5  兵庫県における 20 歳〜 39 歳有配偶者の女性の「就業の状態」と「6 歳未満の子ども有り」の推移 2005 年 2010 年 主に仕事 (数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の子ども有りの割合 主に仕事(数) 6 歳未満の 子ども有り(数) 6 歳未満の子ども有りの割合 71,428 24,076 33.7% 78,149 27,659 35.4% 家事(数) 6 歳未満の 子ども有り (数) 6 歳未満の子ど も有りの割合 家事(数) 6 歳未満の 子ども有り(数) 6 歳未満

参照

関連したドキュメント

なお、②⑥⑦の項目については、事前に計画内容について市担当者、学校や地元関係者等と調 整すること。

特に 2021 年から 2022 年前半については、2020 年にパンデミック受けての世界全体としてのガス需要減少があり、その反動

これらの先行研究はアイデアスケッチを実施 する際の思考について着目しており,アイデア

関係委員会のお力で次第に盛り上がりを見せ ているが,その時だけのお祭りで終わらせて

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

ヨーロッパにおいても、似たような生者と死者との関係ぱみられる。中世農村社会における祭り

継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、×年4月1日から×年3月 31

全体構想において、施設整備については、良好