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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 地球温暖化防止対策における「セクトラル・アプロー チ」の受容過程 Author(s) 本多, 清之; 井川, 康夫 Citation 年次学術大会講演要旨集, 24: 800-803 Issue Date 2009-10-24Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/8748
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2G10
地球温暖化防止対策における
「セクトラル・アプローチ」の受容過程
○本多清之,井川康夫(北陸先端科学技術大学院大) 1.はじめに 155 か国が署名し、1992 年に締結された気候変動枠組条約(いわゆる地球温暖化防止条約)のもと、 1997 年に京都で開催された COP3 において『京都議定書』が採択され、各国ごとに法的拘束力のある温 室効果ガスの削減目標を設定することになった。日本は基準年である 1990 年比 6%減を約束した。現在 京都議定書は 2008 年から 12 年までの第一約束期間に差し掛かっており、世界でもっとも省エネルギー の進んでいる日本のみが実質的な削減義務を負い、エネルギー効率の劣る国々から CO2 排出権を買う、 すなわち『「汚染者負担の原則」が「汚染者に支払う」原則にすり替えられて』[1]しまうという事態に 陥っている。 一方、京都議定書後、いわゆるポスト京都枠組みを決める COP15 会合がコペンハーゲンで 09 年 12 月 に開催されるが、今後の CO2 削減の方法論として、産業・技術分野ごとに取り組んでいこうという『セ クトラル・アプローチ(Sectoral Approach)』が脚光を浴びている。その有効性については否定的意見 もある[2]が、現実的な実務部隊はおおむね賛成している。(たとえば[3][4]) また、こうした国際レベルでの合意形成とガバナンスについては、国際レジーム論、地球環境レジー ム論などの国レベルからのアプローチも多数ある(たとえば[5])が、これらを踏まえ、鉄鋼業におけ るセクトラル・アプローチ普及過程を通じ、従来考えられてきたのとは異なる、国レベル及び産業・企 業レベルの多層構造の解明と、その中で技術の果たした役割を考察する。 2.世界鉄鋼業におけるセクトラル・アプローチの普及過程 産業・技術分野別に CO2 削減に取り組むという文脈でセクトラル・アプローチという概念が使われた のは、2004 年ごろ、Center for Clean Air Policy(CCAP)が最初と言われている[2]。また、米国ワシ ントンの政策シンクタンクである CCAP がセクトラル・アプローチを提案した主な理由は、1)途上国を 参加させるためのツール、2)先進国企業の国際競争力喪失問題の解決ツールとされている[2] [6]。一方日本国内では、新日鉄の内部資料[7]によると、2001 年 12 月には、長期的・公平負荷配分(国別 CAP)には限界があり、どうしても政治交渉にならざるを得ないのに対し、機能的に考えれば CO2 削減は、 科学技術に負うところ大であることに鑑み、地球規模で実効性のある温暖化対策はどのように実現すべ きかという文脈の中で、業界毎の Benchmarking と Best Practice、BAT(Best Available Technology) 導入率の向上による地球規模でのエネルギー効率の改善を目指すべきであるとされている。結論として、 効率的で実効ある温暖化対策を地球規模で描くためには、中短期的には国際競争力比較優位な企業・国 家からの技術移転に依るしかないとしている。 その結果、『国別は止めよう。世界共通の業界毎ルール』という言い方で、現在のセクトラル・アプ ローチ相同の方法論が提案されている。一般公表はされていないが恐らく CCAP に先立って世界で初め て主張されたものと思われる。 その後の実際の普及活動は、2005 年には日中 2 国間、06 年には APP(クリーン開発と気候に関するア ジア太平洋パートナーシップ Asia Pacific Partnership)7 カ国、07 年より WorldSteel55 カ国に拡大 されていった。経緯は表 1[8]に詳しいが普及のポイントは 4 つにまとめられている。 ①情報の共有(既存技術情報の共有(ハンドブック作成)、実態認識の共有(普及率やエネルギー原 単位などの共通の定義でのベンチマーク策定、普及の障壁実態把握、削減ポテンシャル共有)日本側と 現地専門家との交流) ②数値目標の設定(原単位目標や普及率指標も含む) ③目標達成のための技術普及活動(現地に各国専門家が集まって評価・改善推奨など議論を深め、必 要に応じてモデルプロジェクトを実施するなど)
④長期ビジョン、革新技術の開発プログラム(Worldsteel CO2 Breakthrough Program 参画)の共有。 これらに加えて、特に APP の場では、各国政府はそれぞれの産業代表に対し APP 会合への出席を義務 付けたほかは、それぞれの技術普及の「障害」を除去するという立場に徹することで、CO2 削減の「実」 を挙げることをサポートする役回りを演じ、各産業の自主的な取り組みに多くを委ねたことも特徴とし て挙げられる。 表-1.鉄鋼業におけるセクトラル・アプローチの拡大と進展 凡例:◎特に重要なテーマ ○重要なテーマ 3.自主的セクトラル・アプローチ普及に際しての国際レジーム形成メカニズム 世界鉄鋼業におけるセ クトラル・アプローチ普及 の交渉過程を図 1 に模式的 に示す。従来の国際レジー ム論ではあくまで主要な アクターは国家であり、企 業は NGO と同列と見なされ、 自国政府の政策を動かし、 技術的専門知識や政府省 庁へのつながりを利用し てレジームに影響を与え る[9]とされ、『それぞれの 国家がもつ国内的な法や 規制と、そうした制約のも とでしか行動し得ない企業(後略)』[10]という論調が主で、上述のようにある特定の産業が世界的な スキームを自主的に作り上げていくというあり方は想定されてこなかった。しかし、世界鉄鋼業のセク トラル・アプローチは上述のように政府の一定の介入と指導を仰ぎながらも、実質的に自主的に進めら れてきている。 本来は途上国は国別目標値の設定に今でも反対であり、どんな形でも自国の経済発展を妨げるような
(a)日中連携 (b)APP 連携 (c)worldsteel 連携 特 記 スタート時期 2005 年 7 月 2006 年 4 月 2007 年 4 月 対象国数 (世界粗鋼生産シェア) 2 (約50%) 7 (約60%) 55 (約85%) (a)から(c)へ順次連携 範囲を拡大 ①技術ハンドブック ○APP-SOACT へコア と な る 情 報 提 供 (2006.4) ◎SOACT 初版完成公 表 (2008.1) ○世界共通化は今後の 課題 現状は効果評価につ いて一部地域差が存 在 ②効率指標算定方法論 ○統計手法(キャパ シティービルディン グ) ◎算定方法論 7 ヶ国で合意 ◎算定方法論 更に、世界全体で合 意・共有化完了 更に、国際標準化を 検討(ISO 化など) 上記の前提として:デー タベース構築 ○7 ヶ国データベース 構築 ◎全世界データベース の構築 デ ー タ 守 秘 性 の 確 保、カバー率、データ 品質が重要 ③目標設定方法論 ◎先行、7 ヶ国で方法 論合意 ○世界共通の方法論共 有(これにより国際競争 条件の歪み解消) 具体的な目標は各 国政府との交渉で決 定 ④技術移転 ⇒専門家交流 ◎定期的専門家交流 会(相互の製鉄所訪 問の実施) ◎サイト訪問、技術交 流 ○交流会検討 技術普及による大き な削減ポテンシャル 実現 ⑤将来ビジョン ◎2050 年ビジョンの構築 (IEA, RITE 等も参考) 社会に公表 ⑥革新的技術の開発(抜 本的低炭素技術) ◎ 革 新 技 術 開 発 CO2Breakthrough Program(2003.10~) 革新技術が本質的な 解 直接交 流 ・ 交 渉 国家A 国家B 国家C 企業 業界B 企業 1 企 業 2 業界A 業界A 企業 1 企業 2 企業 1 企業 2 業界団体A 企業 1 企業 2 企業 3 従来ルート
図1 国家間、業界間交渉ルートの変化
レジーム形成を飲むはずがないと考えられており、実際 09 年 6 月にドイツ・ボンで行われた 2013 年以 降の気候変動に関する国際枠組みに係る議論[11]でも全く歩み寄りを見せていない。エネルギー効率の 向上による CO2 削減には確実に寄与するとはいえ、少なくとも鉄鋼業に関してこのような取組みが自主 的に行われているのは従来にない新しい国際レジーム形成メカニズムであると言える。 4.世界鉄鋼業において自主的セクトラル・アプローチが国際レジームとして定着した要因 実際にセクトラル・アプロー チで対象にされたのは、World Steel Association(世界鉄鋼 協会)を中心に進める 2050 年 をターゲットにした抜本的 CO2 削減技術開発を除けば、既存省 エネ技術の普及促進が主であ る。図 2 に省エネルギー設備の 現時点での普及率を示す[8]が、 これらの技術を APP7 カ国に普 及するだけで CO2 を日本全体の 排出量の 1 割に相当する年間 1.3 億トン削減できるという。 設備導入の対価だけで獲得で きれば、途上国にとってメリッ トは大きい。 こ う し た 自 主 的 セ ク ト ラ ル・アプローチが各国鉄鋼業に もたらした利害を整理したの が図 3 及び表 2 である。日本や 欧州の先進鉄鋼メーカーにと っては、省エネルギー技術が流 出しコスト優位性を失う代わ りに、国際的に不公平な税制や 排出権取引制度を回避するこ とで国際競争のレベルプレイ ングフィールド化(公正な競争 状態の維持)を図れれば、技術 流出の損失を補える。しかし中 国やインドにとっては、省エネ 診断の提供、日本からの優先的 低利融資対象化など、一部の個 別企業のメリットにとどまり、 国全体には利得が及ばないよ うに見える。 しかし、たとえば中国国内に 目を向けると、そこには既に最 新技術を享受できる、グローバ ル化した企業のグループ会社 と、そうした恩恵をこうむることのできない、主として国営の企業が併存しており、そうした企業が技 術供与を受けられずに取り残された場合、中国全体としてエネルギー効率の悪いままにとどまらざるを 得ない可能性が危惧されたものと考えられる。したがって国家としての中国には、一部の外国資本が入 った企業のアドバンテージを犠牲にしても全体最適を図るインセンティブが働いて当然と考えられる。 これは、『レベルプレイングフィールド化』が二つの側面を持っていることを意味している。企業そ のものがグローバル化することで、その分野に限っては国レベルの利害に大きな影響を与えてしまうわ 省 エネ 技 術 不 公 平 度 技術移転 世界規模のレベルプレイングフィールド化
図3 二重の意味のレベルプレイングフィールド化
中国・インド 外資欧州
ブラジルロシア 環 境税 ・ 排 出 権 取引 途上国国内の レベルプレイング フィールド化日本
国有 0% 20% 40% 60% 80% 100% Continuous castingCOG recovery LDG recovery CDQ TRT
C apa ci ty s har e of fac ili ty in tot al B O F s tee l pr oduc tion
Japan Korea EU (15) US China India
連続鋳造 コークス炉 ガス回収 転炉ガス 回収 高炉炉頂圧 回収発電(TRT) コークス乾式 消火設備(CDQ) 日本 韓国 米国 中国 インド 設 備 装 備 率 図2 鉄鋼業における省エネルギー設備普及率比較 出典: Oda et.al,(2007) [12] (日本語訳は日本鉄鋼連盟)
けで、これが新しい国際レジーム形成メカニズムの根源であると考えられる。 こうしたグローバル企業同士の努力の積み重ねが各国政府の政策に影響を与えている実態は、河野 [10]が新しいグローバルガバナンスの源泉として『企業のような私的アクター間にはたらく競争の基本 原理の重要性(中略)そうした市場競争を支える、より広い意味での制度(を政府が整備すること…筆 者注)の役割』を挙げているのに対し、企業のグローバル化が各国の国内制度の改変・拡充と国家の国 際戦略の変更を要求するという意味で、全く逆方向にも解決の糸口があることを示唆していると言える。
表2 セクトラル・アプローチによって各国が得られる利害得失
5.今後の展開 APP で活動している他の産業セクターのうち、日本が議長国を務めるセメント産業と国際競争の影響 が少ないと思われる電力を取り上げて検証を進めたい。 6.謝辞 古い書類の発掘や概念整理に根気よくご協力いただいた新日本製鉄環境部岡崎照夫部長、日頃から学 問的厳密性をご指導いただいている北陸先端大杉原太郎助教に深謝いたします。 7.参考文献[1] Prins Gwyn,澤昭裕ほか:“ How to Get Climate Policy Back on Course”London School of Economics and Political Science's Mackinder Programme and the Institute for Science, Innovation & Society at the University of Oxford (2009).
日本語訳;21 世紀政策研究所http://www.21ppi.org/pdf/thesis/090810_2.pdf (最新アクセス:2009.9.12.) [2] 明日香壽川:“セクター別アプローチをめぐる混乱および今後の国際交渉における重要課題”(2008) http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/sectoral_approach08.pdf(最新アクセス:2009.9.12.) [3] 上野 貴弘:“ バンコク AWG 会合に見るポスト京都議定書交渉の動向”(2007)
http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/download/08001dp.pdf(最新アクセス:2009.9.12.)
[4] Baron Richard:“SECTORAL APPROACHES TO GREENHOUSE GAS MITIGATION -Exploring Issues for Heavy Industry-” (2007) http://www.iea.org/textbase/papers/2007/Sectoral_Approach_Info_WEB.pdf(最新アクセス:2009.9.12.)
[5]横田匡紀:“地球環境政策過程”ミネルヴァ書房(2002)
[6]Schmidt Jake, Helme Ned, Lee Jin, Houdashelt Mark: “Sector-based Approach to the Post-2012: Climate Change Policy Architecture”.(2007)http://www.ccap.org/international/future.htm(最新アクセス:2009.9.12.)
[7]小谷勝彦:私信
[8]岡崎照夫,山口光恒:“鉄鋼業における省エネルギー技術の移転・普及の加速に関する考察-鉄鋼業のセクトラル・アプローチの実際 -” 環境経済・政策学会 2009 年大会にて発表予定
[9]Porter,Gareth, Brown,J.W. ed.:“Global Environmental Politics” 細田衛士監訳 “入門地球環境政治” 有斐閣(1998) [10]河野勝:“国内政治からの分析”;渡辺昭夫、土山實男編“グローバル・ガヴァナンス”東京大学出版会(2001)
[11]外務省:「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会第 6 回会合(AWG-LCA6)」、「京都議定書の下での附属書 I 国の更な る約束に関する特別作業部会第 8 回会合(AWG-KP8)」、「気候変動枠組条約第 30 回補助機関会合(SB30)」-概要と評価-(2009) http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/kankyo/kiko/awg_lca6_kp8_sb30.html(最新アクセス:2009.9.12.)
[12]Oda et.al.:“Diffusion of energy efficient technologies and CO2 emission reductions in iron and steel sector” Energy Economics Vol.29 No.4(2007)
国家(群) 状況 利得 損失 判断 日本 京都議定書「国別 キャップ」という 失敗 公正な国際競争 省エネコスト 優位性 利得大 西欧 域内排出権割り当 て 公正な国際競争 省エネコスト 優位性 利得大 アメリカ 京都議定書離脱・ 温暖化問題のリー ダーシップ喪失 公正な国際競争 省エネコストキャッチアップ 京都後のリーダーシップ なし 利得大 国 有 会社 省エネコスト劣位 省エネコストキャッチアップ なし 利得大 中国・ インド 外 資 導 入 会社 先進国並み 公正な国際競争 省エネコスト 優位性(国内 競争力喪失) 損失大 ブラジル・ロシア 省エネコスト劣位 省エネコストキャッチアップ なし 利得大 利 得大