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循環器用薬の適正使用に関する研究

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博士学位論文

循環器用薬の適正使用に関する研究

近畿大学大学院

薬学研究科薬学専攻

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博士学位論文

循環器用薬の適正使用に関する研究

平成 31 年 1 月 11 日

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i

目次

序論 ... 1 第1 部 移植医療 第1 章 心臓移植後患者における免疫抑制剤に対するアゾール系抗真菌薬の影響 ~エベロリムスとフルコナゾールの症例~ I. 諸言 ... 2 II. 症例 ... 3 1. 患者背景 ... 3 2. 各種薬物動態パラメータ ... 3 3. 血中濃度と投与量の経時変化 ... 5 4. 薬物濃度時間曲線下面積(AUC0-12h)の比較 ... 7 5. フルコナゾールの血中濃度の経時変化 ... 8 6. 遺伝子多系解析の方法と解析結果 ... 8 III. 考察 ... 9 第2 章 補助人工心臓装着患者のワルファリンコントロールと遺伝子多型の関係 I. 諸言 ... 12 II. 方法 ... 14 1. 研究デザインとデータ ... 14

2. Time in Therapeutic Range (TTR)の計算 ... 16

3. Warfarin Sensitivity Index (WSI)の評価 ... 16

4. 遺伝子多型解析 ... 16 5. 統計分析 ... 17 III. 結果 ... 18 1. 調査対象患者と遺伝子多型 ... 18 2. 対象患者群の基礎情報 ... 20 3. 抗菌薬の内容 ... 21 4. ワルファリンコントロール ... 22 IV. 考察 ... 28

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ii 小括 ... 31 第2 部 抗凝固薬 レセプトデータベースを用いた ワルファリンおよび直接経口抗凝固薬における出血リスクの比較 I. 諸言 ... 32 II. 方法 ... 34 1. 研究デザインとデータ ... 34 2. 研究対象母集団と研究デザイン ... 35 3. ベースラインの特徴 ... 38 4. アウトカムの定義 ... 38 5. 統計解析 ... 42 III. 結果 ... 43 1. 調査対象母集団 ... 43 2. ベースラインの特徴 ... 43 3. 臨床転帰 ... 46 IV. 考察 ... 50 小括 ... 52 総括 ... 53 引用文献 ... 55 謝辞

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序論

日本における心疾患による死亡は死因別死亡総数の順位において、悪性新生物(癌)に次ぎ 2 番目に多い。その中でも、心不全による死亡は心疾患の内訳の中で最も死亡数が多い疾患 である[1]。また、循環器疾患診療実態調査報告書(JROAD 2015)[2]では、毎年 1 万人以上の 割合で心不全患者が増加し、日本全体における心不全患者の総数は2005 年において約 100 万人だったものが2020 年には 120 万人に達するとされている[3]。今後、高齢化に伴いさら に心不全患者数が増加していくことが予想される。 心不全は心臓機能障害が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠 感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群と定義される。心不全が慢 性および長期化し急性増悪を反復するごとに心機能が低下し身体機能も徐々に低下する。 治療抵抗性が増大し強心剤の離脱が困難となった難治性心不全に対する最終手段として、 心臓移植および補助人工心臓などの特別な治療が適応となる。第1 部では、国内で心臓移植 および補助人工心臓治療を数多く経験している国立循環器病研究センターの診療情報を用 い、心臓移植後の免疫抑制剤とアゾール系抗真菌薬との薬物相互作用に関する症例の提示 および補助人工心臓装着患者の抗凝固療法における関連遺伝子多型との関係について検討 した。 心房細動は最も一般的な不整脈の1つであり、塞栓性合併症の発症リスクを増大させる ことから抗凝固薬を用いた予防が必要とされる。抗凝固薬は従来ワルファリンが使用され てきたが、凝固能を評価するプロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR)の治療域を維持する ために頻回なモニタリングを要することが問題となっていた。近年、ワルファリンのような モニタリングを必要としない直接経口抗凝固薬(DOAC)の登場により、急速に DOAC の使用 量が増加している[4]。また、ガイドラインでは DOAC の使用が推奨されているが[5,6]、使 用経験がワルファリンよりも浅く安全性や危険性に関してはっきりと分かっていない現状 がある。 第2 部ではレセプトデータベースを用いて DOAC とワルファリンにおける出血リスクの 比較を行うとともに、抗凝固薬を安全に使用する上での危険因子の同定を行った。 本研究は、循環器疾患に対する薬物療法におけるリスク・ベネフィットの改善を目指した ものである。

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2 第1 部 移植医療 1 章 心臓移植後患者における免疫抑制剤に対するアゾール系抗真菌薬の影響 ~エベロリムスとフルコナゾールの症例~

I. 諸言

エベロリムスは mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)を阻害する免疫抑制薬であ り、臓器移植患者を治療するために一般的に使用される。通常、心臓移植レシピエントはシ クロスポリンまたはタクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤と一緒にエベロリムスを 服用する[7]。心臓移植後患者において、エベロリムスを使用の際には、カルシニューリン阻 害剤を減量して併用し、エベロリムスの推奨される目標トラフ濃度(C0)を 3~8 ng/mL に到達 および維持するためのTDM が必要である[8]。エベロリムスおよびカルシニューリン阻害剤 は主に肝臓で代謝され、シトクロムP450(CYP)3A4 および 3A5 によって腸内で代謝される [9]。したがって、CYP3A 酵素を阻害または誘発する薬剤は、これらの薬物の血中濃度を変 化させ、有害作用および拒絶反応をもたらし得る。 抗真菌薬であるフルコナゾールはCYP3A 酵素の中等度の阻害剤であり[10]、CYP3A5 に 対する影響はCYP3A4 に比べて比較的低い[11]。フルコナゾールは用量依存的にシクロスポ リンおよびタクロリムスと相互作用し、その血中濃度を増加させることが報告されている [12]。肝臓移植患者の場合、エベロリムスとフルコナゾールを併用している期間、過度な曝 露を避けるためにエベロリムスの減量を必要とする[13]。また、タクロリムスは CYP3A5 遺 伝子変異に応じて異なる投与量を求められ[14]、フルコナゾールはタクロリムスのクリアラ ンスおよび投与量の減少を引き起こすことが示されている[15]。しかしながら、心臓移植後 患者におけるフルコナゾールと併用中のエベロリムスの薬物動態への影響は調査されてい ない。 今回、フルコナゾールとの併用によってタクロリムスおよびエベロリムスの薬物動態に 変化が生じた症例を経験したため報告する。

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3

II. 症例

1. 患者背景

本症例は特発性拡張型心筋症のために心臓移植を受けた50 歳代の男性であった。心臓移 植後、患者はタクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルおよびプレドニゾロンを含む免疫 抑制剤3 剤併用療法を受けた。移植後 154 日目に、真菌性発熱性脊椎炎(原因病原体:Candida albicans)の治療のためにフルコナゾール(400mg/日、静脈注射)を開始され、移植 368 日後、 移植心冠動脈病変(CAV)および腎機能障害の進行によりミコフェノール酸モフェチルはエ ベロリムスに置き換えられた。エベロリムスへの変更により、クレアチニンクリアランスは 変更前の31.8mL/min から回復した。エベロリムスに切り替えた後、タクロリムスの目標血 中濃度は3〜4ng/mL に設定された。移植 612 日後、血液培養が陰性となりβ-D-グルカンの 増加が見られなかったことから、真菌感染症の治癒に伴いフルコナゾール治療が終了され た。

2. 各種薬物動態パラメータ

フルコナゾールの投与が中止される前後のエベロリムスおよびタクロリムスの薬物動態 パラメータを表1 に示す。 フルコナゾール療法中のタクロリムスおよびエベロリムスの投与量はそれぞれ1.0mg/day および 0.5mg/day であったが、フルコナゾール中止後はそれぞれ 3.0 倍および 3.5 倍の 3.0mg/day および 1.75mg/day に増加した。また、体重あたりの見かけのクリアランス(CL/F/kg) はそれぞれ2.8 倍および 4.7 倍増加した。

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4

Table 1. Pharmacokinetic parameters of everolimus and tacrolimus pharmacokinetic before and after fluconazole withdrawal

Before

After After Before versus after 34 days 11 days 34 days

EVL dose (mg/day) 0.5 1.5 1.75 3.5 times↑ Weight-adjusted EVL dose (mg/kg/day) 0.007 0.020 0.023 3.3 times↑

C0 (ng/mL) 5.2 6.2 5.0 - Dose-adjusted C0 (ng/mL/mg) 20.8 8.3 6.7 68% ↓ Cmax (ng/mL) 7.7 12.5 12.6 - Dose-adjusted Cmax (ng/mL/mg) 30.8 16.7 12.6 59% ↓ AUC0-12h (ng×h/mL) 74.2 101.9 95.3 - Dose-adjusted AUC0-12h (ng×h/mL/mg) 296.6 135.8 95.3 68% ↓ CL/F/kg (L/h/kg) 0.05 0.10 0.14 2.8 times↑

TAC dose (mg/day) 1.0 2.2 3.0 3.0 times↑ Weight-adjusted TAC dose (mg/kg/day) 0.014 0.029 0.040 2.9 times↑

C0 (ng/mL) 4.2 4.4 2.0 - Dose-adjusted C0 (ng/mL/mg) 8.4 4.4 1.3 85% ↓ Cmax (ng/mL) 10.7 8.4 8.1 - Dose-adjusted Cmax (ng/mL/mg) 21.4 7 5.4 75% ↓ AUC0-12h (ng×h/mL) 70.6 63.1 42.7 - Dose-adjusted AUC0-12h (ng×h/mL/mg) 141.1 52.6 28.4 80% ↓ CL/F/kg (L/h/kg) 0.10 0.25 0.47 4.7 times ↑

EVL; everolimus, TAC; tacrolimus, AUC; area under the blood concentration-time curve, C0; trough

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3. 血中濃度と投与量の経時変化

フルコナゾール中止の前後におけるタクロリムス(A)およびエベロリムス(B)の C0、用量 あたりのC0、および体重あたりの用量の変化を図1 に示す。 フルコナゾール中止後、タクロリムスおよびエベロリムスの薬物動態に変化が生じたが、 本症例の場合は両薬剤の目標血中濃度に大きな逸脱が見られることなく、十分に免疫抑制 療法が制御されており拒絶反応は発生しなかった。

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6

Figure 1. Changes in C0 levels, dose-adjusted C0, and weight-adjusted dose of tacrolimus (A) and

everolimus (B).

FLCZ; fluconazole, EVL; everolimus, TAC; tacrolimus, C0; trough concentration, Cmax; peak

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7

4. 薬物濃度時間曲線下面積 (AUC0-12h)の比較

フルコナゾール中止の前後におけるタクロリムス(A)およびエベロリムス(B)の用量あた りのAUC0-12hを図2 に示す。 タクロリムスではフルコナゾール中止に伴い、141.1ng×h/mL/mg から中止後 34 日目に 28.4ng×h/mL/mg に 80%減少した。また、エベロリムスでは 296.6ng×h/mL/mg から中止後 34 日目に 95.3ng×h/mL/mg へと 68%減少した。

Figure 2. Dose-adjusted AUC0–12h of tacrolimus and everolimus before and after fluconazole

withdrawal

A: Tacrolimus B: Everolimus

FLCZ; fluconazole, EVL; everolimus, TAC; tacrolimus

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8

5. フルコナゾールの血中濃度の経時変化

図3 は、フルコナゾール中止後のフルコナゾール C0の変化を示す。 C0は、中止後11 日

目に25.2μg/mL から 1.90μg/mL に、そして中止後 24 日目に 0.20μg/mL に減少した。

Figure 3. Changes in the fluconazole C0 following fluconazole withdrawal.

FLCZ; fluconazole

6. 遺伝子多系解析の方法と解析結果

患者の血液サンプルは、Ampdirect Plus 試薬(Shimadzu Corp.、Kyoto、Japan)および GTS-7000(Shimadzu Corp.、Kyoto、Japan)を用い、CYP3A5 *1 および*3 の一塩基多型(SNP)に関し

て遺伝子多型解析を行った。このシステムは、患者検体からのDNA 抽出は不要であり、全

血 1μL から直接ポリメラーゼ連鎖反応によって遺伝子増幅を行い SNP の検出が可能であ る。

(14)

9

III. 考察

今回の症例では、フルコナゾールの中止によってエベロリムスとタクロリムスのクリア ランスの劇的な増加と、用量あたりのC0およびAUC0-12hの減少を引き起こした。過去の研 究では、エリスロマイシンやアジスロマイシンなどの CYP3A4 阻害剤がエベロリムスおよ びタクロリムスのクリアランスを低下させ、その血中濃度を増加させることが報告されて いる[16,17]。潜在的な CYP3A4 阻害剤であるアゾール系抗真菌薬は、多数の CYP3A4 基質 との薬物相互作用を誘導し得る。これらの相互作用の大小はアゾール系抗真菌薬の間で大 きく異なり、いくつかのアゾール系抗真菌薬ではエベロリムスおよびタクロリムスのクリ アランスを減少させ、血中濃度を増加させる[18,19]。フルコナゾールは CYP3A4 を阻害す るが、イトラコナゾールおよびボリコナゾールなどの他のアゾール系抗真菌薬よりも薬物 相互作用が弱いことが知られている[11,20]。シクロスポリン、コルチコステロイドおよびエ ベロリムスによる免疫抑制療法を受けている移植レシピエントでは、イトラコナゾールの 併用によってエベロリムスのクリアランスが 74%減少したが、フルコナゾール併用時には 有意な変化はなかった[17]。 今回の症例では、エベロリムスはフルコナゾール療法の開始時に使用されていなかった ため、他の症例報告の所見と直接比較することはできない。しかし、フルコナゾールの中止 後にエベロリムスのクリアランスが2.8 倍および投与量が 3.5 倍増加したことから、エベロ リムスの薬物動態はフルコナゾールの影響を受けていると考えられる。 また、タクロリムスとフルコナゾールの併用によってタクロリムスのクリアランスおよ び投与量に減少が見られると報告されており[12,15,21-23]、両者の間に薬物相互作用が存在 する。フルコナゾールはタクロリムスの代謝を減少し、フルコナゾールとの併用が避けられ ない場合にはタクロリムスのトラフ濃度および用量の調節を注意深く行う必要がある[24]。 一方で、低用量(50mg/day)の経口フルコナゾールは腎臓移植レシピエントのタクロリムス のトラフ値に有意な影響を及ぼさないと報告されている[25]。しかし、本症例の場合は高用 量のフルコナゾール(300~400mg/day)を使用しており、タクロリムスの投与量はフルコナゾ ール治療の開始時、投与量の変更時および中止後に用量依存的に変化したため、フルコナゾ ールはタクロリムスの血中濃度および投与量に影響を与えていたことを示唆している。 エベロリムスはシクロスポリンおよびグルココルチコイドとの併用投与が承認されてい るが、世界で最も使用されているタクロリムスと組み合わせて投与することが最も多い。過 去の報告では、エベロリムスとシクロスポリンの併用投与がエベロリムスの血中濃度を2.7

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10 倍増加させることが知られている[26]。シクロスポリンは CYP3A4 による代謝を受け、P-糖 タンパク質の基質であることからエベロリムスの代謝を約 50%抑制するため、エベロリム スの維持用量はタクロリムスを使用している患者の場合より 1.5~2 倍ほど少なくする必要 がある[27,28]。また、エベロリムスとタクロリムスとの相互作用に関する薬物動態学的デー タは希薄であるが、腎臓および心臓移植レシピエントに関する過去の研究において、タクロ リムスがエベロリムスの薬物動態にほとんどまたは全く影響を及ぼさないことが示唆され ている[27]。したがって、タクロリムスの血中濃度の変化がエベロリムスの血中濃度に影響 を与えるとは考えられていない。 フルコナゾールによる CYP3A4 阻害の程度は濃度依存であり、200mg 以上のフルコナゾ ールはCYP3A4 基質のクリアランスを阻害するのに十分な用量である[29]。フルコナゾール の半減期は約30 時間であり、体からの完全な排泄のためには 6〜10 日を要する。本症例の 場合、中止時のフルコナゾール濃度は25.2μg/mL であり、中止後 11 日目には 1.90μg/mL に減少した。その時、タクロリムスとエベロリムスの代謝はフルコナゾールの影響を受けて いなかった可能性がある。この症例の患者は、フルコナゾール中止から10 日後に比較的安 定したエベロリムスおよびタクロリムス濃度を示し、この後にフルコナゾールがエベロリ ムスまたはタクロリムス濃度に影響を与えなくなったことを示唆している。

CYP3A5 遺伝子型はいくつかの CYP3A 基質の代謝に有意に影響を及ぼす[30]。Lesche ら は、CYP3A5 *1/*3 遺伝子型を有する心臓移植レシピエントは CYP3A5 *3/*3(非発現体)遺伝 子型よりも目標C0に達するためにエベロリムスの投与量が 0.02mg/kg/day 多く必要とする ことを報告した[31]。反対に、いくつかの研究では、CYP3A5 遺伝子多型とエベロリムスの 薬物動態との間には関係が無いことが報告されている[32]。 エベロリムスはシロリムスの誘導体であり、シロリムスはフルコナゾール療法の影響を受 けることが以前に示されている。実際、血液および骨髄の同種異系移植を行った小児レシピ エントではフルコナゾール併用投与時にシロリムスの用量当たりのトラフ濃度を増加させ た[33]。さらに、CYP3A5 *1 アレルを保有する腎臓移植レシピエントは、適切な血中濃度を 達成するために、シロリムスの投与量を有意に増加させる必要がある[34]。少なくとも 1 つ のCYP3A5 *1 アレルを保有する個体は、CYP3A5 *3/*3 遺伝子型のキャリアより 1.5 倍ない し2 倍高いタクロリムスの投与量を必要とする[14]。 CYP3A5 遺伝的多型はアゾール系抗真菌薬と免疫抑制剤との間の相互作用の大きさにも 影響を及ぼす[35]。実際、タクロリムスとイトラコナゾールとの間の薬物相互作用は CYP3A5

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11 遺伝子多型によって影響を受け[36]、フルコナゾールによる CYP3A5 の阻害は基質および CYP3A5 *1 アレルの存在によって変化する[37]。本症例の患者は CYP3A5 *1/*3 遺伝子型(発 現型)を保有していたが、エベロリムスの代謝および用量調節において、CYP3A5 遺伝子型 による影響の違いははっきりと分かってない。また、CYP3A5 が発現し代謝経路が確保され ていたことから、タクロリムスの薬物動態に対するフルコナゾールの影響は軽微であった 可能性がある。

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12 第2 章 補助人工心臓装着患者のワルファリンコントロールと遺伝子多型の関係

I. 諸言

左室補助人工心臓(LVAD)は難治性重症心不全の患者に対する効果的な治療法であり、心 臓移植が行われるまでの間、移植待機患者をサポートするために使用されている[38-40]。日 本では2011年4月に心臓移植までの橋渡し治療として植込型定常流LVADが保険償還された [41-43]。国内において心臓移植を実施している主要施設の1つである国立循環器病研究セ ンター(NCVC)ではHeartMate II (St Jude Medical、formerly Thoratec Corp、Pleasanton、California) やJarvik 2000 (Jarvik Heart, Inc.、New York、NY、USA)がよく利用されている。

装置の技術的進歩にもかかわらず、脳血管障害や感染症、消化管出血などの重大な合併症 がLVAD療法中に発生する[44]。特に、脳血管障害は虚血性脳卒中および頭蓋内出血を含む 神経学的合併症をもたらし、LVADによって支持されている患者の死亡原因および移植不適 合の原因となる。ポンプ内血栓症はこれらの合併症の最たるものであり、脳血管障害は LVAD患者の予後および生活の質(QOL)に影響を及ぼすため、予防的抗血栓療法は長期管理 にとって重要である[45]。 ワルファリン(WF)は最も一般的に用いられる抗血栓療法であり、十分な抗凝固効果を維 持する目的および出血性合併症を予防する目的で、プロトロンビン時間国際標準化比 (PT-INR)に従ってWFの投与量を調整する[46-48]。しかしながら、PT-INRの目標範囲は装置間で 異なり、塞栓や出血性合併症を最小化するために、心臓弁置換手術後や心房細動のような臨 床背景に従って治療域を調節する必要がある[49]。LVAD患者ではLVAD植込直後の1ヶ月間 に有害事象が頻繁に起こり[50]、QOLの低下および退院の遅延に繋がることが多い。 ビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)およびシトクロムP450 2C9(CYP2C9)を コードする遺伝子の多型はWFの抗凝固制御に大きく依存し治療効果に影響を及ぼす[51]。 多くの研究により、VKORC1遺伝子およびCYP2C9遺伝子ならびに臨床的要因(年齢や性別、 体重、身長、併用薬剤)における相違点がWFの維持投与量の変動性と関連していることが示 されている[52-56]。さらに、WFの必要投与量は民族間で大きな差があり、日本人のWFの維 持量は白人よりも31%低いと報告されている[57]。しかしながら、日本人LVAD患者における 遺伝子多型の違いによるWFコントロールへの影響については検討されていない。 WFの抗凝固効果の有効性の尺度として、PT-INRの治療域内時間(TTR)が用いられ[58]、

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13

TTRを高く維持することがLVAD患者における脳卒中や重大出血、死亡の発生を抑制すると 報告されている[59]。また、WFによる抗凝固作用の反応性はWarfarin Sensitivity Index(WSI) で示される[60]。

ここでは、LVADを植込んだ直後および退院する直前のTTRおよびWSIとVKORC1-1639 G>AおよびCYP2C9遺伝子多型との関係を調べた。

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II. 方法

1. 研究デザインとデータ

研究デザインおよび患者選択手順のフローチャートを図4に示す。 研究コホートは、2013年1月1日から2017年10月31日までの期間で、NCVCにて心臓移植ま での橋渡しを目的とし、LVAD(HeartMate IIまたはJarvik 2000)を植え込んだ18歳以上の重症 心不全患者を対象とした。この後ろ向き研究のデータはNCVCの電子カルテから抽出した。 抽出されたデータには年齢および性別、身長、体重、基礎心疾患、処方データにはWFの投 与量および投薬期間、検査データにはPT-INRの値が含まれていた。頻度の少ない遺伝子多 型を有する患者は除外され、アミオダロンを併用していた患者はワルファリンとの薬物相 互作用を有するため対象から除外された。また、PT-INRの目標治療域を2.0~2.5と異なる範 囲で設定していた患者も分析から除外した。

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15

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16

2. Time in Therapeutic Range (TTR)の計算

HeartMate IIおよびJarvik 2000を植え込んだ患者は主に2.0~2.5をPT-INRの治療範囲と設定 されている。TTR値はPT-INRの治療範囲に対して実際のPT-INRが治療範囲内に収まってい た時間の割合である。さらに、治療範囲を上回った時間および治療範囲を下回る時間の割合 をそれぞれTime above therapeutic range(TATR)およびTime below therapeutic range(TBTR)とし て定義した。 WF療法の開始直後から1ヶ月間(Period 1)および退院直前の1ヶ月間(Period 2)において、 TTRおよびTATR、TBTRを算出した。TTRはRosendaal法に従い各患者について計算し[58]、 観測期間において未知のPT-INR値は線形関数を用いて補間され、観測期間中のすべての日 について推定された。TTRはPT-INRが目標範囲に収まっていた日数を観測期間中の総日数 で割ったものとして計算され、同様の方法を用いてTATRとTBTRが計算された。

3. Warfarin Sensitivity Index (WSI)の評価

WSIはPT-INR値を前日のWFの投与量で割った値と定義し、Period 1およびPeriod 2の2つの 期間において算出した。WFの前日の投与量が0mgであった場合、WSI値は除外された。

計算式は次に示す。

WSI = the PT‐ INR value

mg of warfarin dosage on the previous day

4. 遺伝子多型解析

VKORC1-1639G>AおよびCYP2C9 *1または*2、*3の遺伝子型はGTS-7000遺伝子型判定シ ステム(Shimadzu Corp.、Kyoto、Japan)を用いて全患者について退院後に決定した。このシス テムは、DNA核酸抽出を伴わない直接ポリメラーゼ連鎖反応技術を用いて、全血1μL中の 一塩基多型を検出することが可能である。

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17

5. 統計分析

統計解析はJMPソフトウェア(バージョン10.0.2、SAS Institute Inc.、North Carolina、USA)を 用いて行った。連続変数は平均±標準偏差(SD)または95%信頼区間(CI)として示され、 Student’s t-testまたはpaired t-test、Mann-Whitney’s U testを用いて差異を同定した。カテゴリ 変数と順序変数を数値(%)として示し、Pearson’s chi-square testを用いて比較した。すべての p値は両側であり、p <0.05の場合に有意差があるとみなされた。 Period 1においてWF療法中の不十分な抗凝固を表すTBTRとベースラインの臨床情報およ び過度な抗凝固を表すTATRとベースラインの臨床情報との関係を、多変量ロジスティック 回帰分析を用いて同定した。患者はPeriod 1中のTTRの割合に基づきTATRおよびTTR、TBTR 群に分類され、TTR値が66%以上であればTTR群に分類された。さらに、TTRが66%未満の 患者は治療範囲を上回った時間および下回った時間の割合に従って、それぞれTATRおよび TBTR群に分類された。TATRがTBTRより大きい場合はTATR群に分類され、TBTRがTATRよ り大きい場合にはTBTR群に分類された。 WFコントロールの経時変化の差を確認するために、反復測定一元配置分散分析(repeated measures one-way ANOVA) を 用 い た 。 VKORC1-1639GA 遺 伝 子 型 お よ び LVAD の 機 種 (HeartMate II)、BMI、性別(女性)、年齢を含む潜在的交絡因子について、調整オッズ比(OR) および95%信頼区間(CI)、p値を算出した。

VKORC1-1639G>AおよびCYP2C9 *1または*2、*3遺伝子の遺伝子型頻度における集団均質 性を試験するために、Pearson’s chi-square testを用いてハーディー・ワインベルク平衡(HWE) を確認した。

データの収集と分析は患者がインフォームドコンセントを得た後にのみ実施され、すべ てのプロトコールはNCVCの倫理委員会によって承認された。

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18

III. 結果

1. 調査対象患者と遺伝子多型

合計54人の患者がこの研究に含まれ遺伝子型が決定された(表2)。 そのうち、VKORC1-1639GAおよびVKORC1-1639AA型がそれぞれ13人および41人であり、 VKORC1-1639GG(野生型)を有する患者はいなかった。また、51人の患者がCYP2C9 *1/*1(野 生型)であり、3人がCYP2C9 *1/*3(ヘテロ変異型)をそれぞれ有していた。患者はVKORC1-1639AA + CYP2C9 *1/*1およびVKORC1-1639GA + CYP2C9 *1/*1、VKORC1-*1/*3(ヘテロ変異型)をそれぞれ有していた。患者はVKORC1-1639AA + CYP2C9 *1/*3の3種類の遺伝子多型の組み合わせを持っており、それぞれ38名および13名、3名であ った(図4b)。VKORC1-1639AA + CYP2C9 *1/*3遺伝子型を有する3人の患者は十分な数を確保

できなかったことから分析から除外された。また、アミオダロンを併用していた7人の患者

および目標とするPT-INRの範囲が異なっていた1人の患者も分析対象から除外した。

Table 2. Results of genotyping

VKORC1-1639G>A

CYP2C9

Genotype

Patients

Genotype Patients

GG

0

*1/*1

51

GA

13

*1/*2

0

AA

41

*2/*2

0

*1/*3

3

*2/*3

0

*3/*3

0

VKORC1; vitamin K epoxide reductase complex 1, CYP2C9; cytochrome P450 2C9

そ の 結 果 、1639AA か つCYP2C9 *1/*1 を 有 す る 患 者 (AA 群 )およ び VKORC1-1639GAかつCYP2C9 *1/*1を有する患者(GA群)のそれぞれ31人(72.1%)および12人(27.9%)を 調査対象患者とした。患者の特徴を表3に示す。

また、VKORC1-1639G>AおよびCYP2C9 *3の遺伝子型頻度はHWEに収まっていた(p = 0.314および0.833)。

(24)

19 Table 3. Patient characteristics

Number of patients 43 Age (years) 44.5 ± 11.8 Gender, n (%) Male 31 (72.1) Female 12 (27.9) Body height (cm) 165.1 ± 7.7 Body weight (kg) 55.6 ± 13.4 Body mass index (kg/m2) 20.2 ± 3.85

Body surface area (m2) 1.59 ± 0.19

Device type, n (%)

HeartMateⅡ 39 (90.7)

Jarvik 2000 4 (9.3)

Switching from paracorporeal VAD 8 (18.6) INTERMACS profile, n (%)

Level 2 12 (27.9)

Level 3 31 (72.1)

Cause of LVAD implantation, n (%)

Dilated cardiomyopathy 29 (67.4) Ischemic cardiomyopathy 4 (9.3)

Myocarditis 4 (9.3)

Dilated phase of hypertrophic cardiomyopathy 2 (4.7) Congenital heart disease 2 (4.7)

Sarcoidosis 1 (2.3) Restrictive cardiomyopathy 1 (2.3) VKORC1-1639G>A, n (%) GG (wild type) 0 (0.0) GA (hetero mutant) 12 (27.9) AA (homo mutant) 31 (72.1) CYP2C9, n (%) *1/*1 (wild type) 43 (100.0) *1/*2, *2/*2, *1/*3, *3/*3 0 (0.0)

VAD; ventricular assist devices, LVAD; left ventricular assist devices, VKORC1; vitamin K epoxide reductase complex 1, CYP2C9; cytochrome P450 2C9

(25)

20

2. 対象患者群の基礎情報

AA群とGA群とのPeriod 1およびPeriod 2における患者の基礎情報に有意な差は見られなか った(表4)。

Table 4. Patient characteristics at the 2 study periods

ALB; albumin, T-Bil; total-bilirubin, AST; aspartate aminotransferase, ALT; alanine aminotransferase, LDH; lactase dehydrogenase, CK; creatinine kinase, BUN; blood urea nitrogen, CRE; creatinine, WBC; white blood cell, RBC; red

AA group GA group AA group GA group

(N = 31) (N = 12) (N = 31) (N = 12) Gender  Male 22 (71.0) 9 (75.0) 22 (71.0) 9 (75.0)  Female 9 (29.0) 3 (25.0) 9 (29.0) 3 (25.0) Age (years) 44.1 ± 12.1 45.3 ± 11.6 0.781 44.1 ± 12.1 45.3 ± 11.6 0.781 Body height (cm) 165.5 ± 8.37 164 ± 5.8 0.566 165.5 ± 8.37 164 ± 5.8 0.566 Body weight (kg) 55.4 ± 13.1 55.9 ± 14.9 0.911 53.8 ± 12.1 52.1 ± 9.1 0.661

Body mass index (kg/m2) 20 ± 3.58 20.6 ± 4.63 0.646 19.4 ± 3.3 19.3 ± 2.97 0.881 Body surface area (m2) 1.6 ± 0.2 1.59 ± 0.19 0.918 1.58 ± 0.18 1.55 ± 0.14 0.617 Laboratory data  ALB (g/dL) 4.04 ± 0.42 4.12 ± 0.4 0.597 3.99 ± 0.35 4.03 ± 0.39 0.752  T-Bil (mg/dl) 3.35 ± 2.61 3.53 ± 1.79 0.823 0.75 ± 0.31 0.69 ± 0.3 0.56  AST (U/L) 100.8 ± 98.3 75.2 ± 38.7 0.389 29.4 ± 10.4 24 ± 6.33 0.099  ALT (U/L) 78.2 ± 182.5 25.7 ± 19.8 0.329 20.2 ± 9.88 17.1 ± 9.98 0.359  LDH (U/L) 445.4 ± 191.8 397 ± 94.9 0.411 335.8 ± 174.3 299.9 ± 78.4 0.498  CK (U/L) 681.1 ± 475.8 567 ± 353.7 0.456 60.5 ± 48.3 70.4 ± 48.3 0.55  Sodium (mEq/L) 140 ± 3.35 141.3 ± 3.11 0.251 139.5 ± 2.27 138.5 ± 2.23 0.181  Potassium (mEq/L) 4.19 ± 0.26 4.14 ± 0.33 0.587 4.1 ± 0.29 4.23 ± 0.26 0.208  BUN (mg/dL) 17.5 ± 8.09 15.2 ± 6.6 0.389 12.7 ± 4.46 12.5 ± 3.39 0.894  CRE (mg/dL) 0.96 ± 0.39 0.95 ± 0.26 0.912 0.74 ± 0.25 0.71 ± 0.12 0.719  WBC (103/μL) 9.08 ± 3.25 10.73 ± 3.32 0.146 5.41 ± 1.16 5.57 ± 0.95 0.67  RBC (106/μL) 3.67 ± 0.3 3.77 ± 0.34 0.355 3.61 ± 0.53 3.86 ± 0.41 0.153  HGB (g/dL) 11.5 ± 0.79 11.5 ± 0.95 0.934 11.3 ± 1.38 11.4 ± 1.13 0.762  PLT (103/μL) 115.4 ± 34.4 129.9 ± 49.8 0.282 199.3 ± 46.8 215.2 ± 30.5 0.283 Period from LVAD implantation to warfarin

administration (days) 1.58 ± 0.5 1.25 ± 0.45 0.053

Medication, n (%)

 Low dose aspirin 27 (87.1) 10 (83.3) 0.749 29 (93.5) 11 (91.7) 0.828

 ACEI or ARB 23 (74.2) 7 (58.3) 0.31 29 (93.5) 12 (100.0) 0.367

 Beta blocker 15 (48.3) 3 (25.0) 0.163 31 (100.0) 11 (91.7) 0.103

 Aldosterone receptor antagonist 29 (93.5) 11 (91.7) 0.828 29 (93.5) 12 (100.0) 0.367

 Diuretic agent 28 (90.3) 12 (100.0) 0.264 12 (38.7) 1 (8.3) 0.051

 Statin 7 (22.6) 1 (8.3) 0.683 10 (32.2) 3 (25.0) 0.642

 Calcium channel antagonist 11 (35.4) 4 (33.3) 0.894 9 (29.0) 1 (8.3) 0.149

 Heparin (days) 3.87 ± 2.41 4.33 ± 2.01 0.56

 Antimicrobial agent (days) 11 ± 4.66 9.91 ± 3.77 0.464 Period from LVAD implantation to the first

discharge date (days) 134.3 ± 101.0 128.9 ± 65.5 0.863

Period 1 Period 2

0.835 0.835

(26)

21

blood cell, HGB; hemoglobin, PLT; platelet, LVAD; left ventricular assist device, ACEI; angiotensin-converting enzyme inhibitor, ARB; angiotensin II AT1 receptor blocker

3. 抗菌薬の内容

LVAD植込み術後の感染を予防する目的で投与された抗菌薬を表5に示す。両群において 有意な差は見られなかった。

Table 5. Antimicrobial agent for prevention of infection after LVAD implantation AA group GA group p valuea Antimicrobial agents (N = 31) (N = 12) Doripenem 25 (80.7) 9 (75.0) 0.683 Tazobactam / Piperacillin 11 (35.5) 5 (41.7) 0.706 Teicoplanin 21 (67.7) 6 (50.0) 0.280 Linezolid 15 (48.4) 7 (58.3) 0.558 Daptomycin 6 (19.4) 1 (8.3) 0.379 Micafungin 29 (93.6) 10 (83.3) 0.301 All antimicrobial agents were intravenously administered.

aPearson's chi-square test

(27)

22

4. ワルファリンコントロール

AA群およびGA群のWFコントロールの結果は表6に示しており、PT-INRおよびWSI値、WF 投与量は散布図および箱ひげ図にて図5に示す。 Period 1において、AA群の平均PT-INR値はGA群よりも有意に高く(2.21 vs. 2.05, p < 0.0001)、 WFの平均投与量はGA群ではAA群よりも1.59倍高かった(3.40 vs. 2.14 mg, p < 0.0001)。AA群 の平均WSI値はGA群の1.68倍(1.14 vs. 0.68, p < 0.0001)であり、AA群はGA群よりもWFに対 する反応性が高かった。TTRとTATRはPeriod 1において両群間で差が見られなかったが、 TBTRにおいて有意な差が確認された(28.3 vs. 39.8%, p = 0.032)。 Period 2では、GA群とAA群の間でPT-INR値に有意差はなかった。WFの平均投与量はGA 群ではAA群より1.62倍大きく(4.80 vs. 2.97 mg, p < 0.0001)、AA群ではWSI値がGA群よりも 1.59倍高かった(0.81 vs. 0.51, p < 0.0001)ことから、AA群の患者はGA群よりWF感受性が高い ことが示唆された。しかし、TTRおよびTATR、TBTRは両群間で差がなく、WFコントロー ルの有意差はPeriod 2には確認されなかった。 Period 1とPeriod 2の間で抗凝固制御は有意に異なり、WF投与量およびTTRは両群の患者 において、Period 1よりPeriod 2で有意に大きかった。さらに、WSIおよびTATR、TBTRは遺 伝子型に関わらずPeriod 1よりPeriod 2で有意に低かったが、PT-INR値はGA群のPeriod 2にお いて有意に大きかった。

(28)

23

Table 6. Warfarin control in VKORC1-1639 AA and GA groups during 2 study periods

Period 1 Period 2 Period 1 versus period 2 AA group GA group p valuea AA group GA group p valuea AA group GA group (N = 31) (N = 12) (N = 31) (N = 12) p valueb p valueb

Measurements of PT-INR (times) 862 349 477 173

Measurements of PT-INR/patient 28.1 (26.9 - 29.3) 29.7 (28.5 - 30.9) 0.112 15.3 (13.4 - 17.3) 14.4 (11.3 - 17.5) 0.407 < 0.0001 < 0.0001 PT-INR value 2.21 (2.17 - 2.25) 2.05 (1.99 - 2.11) < 0.0001 2.20 (2.17 - 2.23) 2.22 (2.18 - 2.27) 0.214 0.6867 < 0.0001 Warfarin dosage (mg) 2.14 (2.08 - 2.20) 3.40 (3.23 - 3.58) < 0.0001 2.97 (2.91 - 3.03) 4.80 (4.60 - 5.01) < 0.0001 < 0.0001 < 0.0001 Dosage change (times) 13.0 (11.5 - 14.5) 13.6 (11.2 - 16.0) 0.633 5.48 (3.91 - 7.05) 5.00 (2.31 - 7.68) 0.632 < 0.0001 0.0004 WSI value 1.14 (1.11 - 1.18) 0.68 (0.63 - 0.74) < 0.0001 0.81 (0.78 - 0.84) 0.51 (0.45 - 0.56) < 0.0001 < 0.0001 < 0.0001 TTR (%) 43.8 (37.8 - 49.8) 36.9 (25.0 - 48.8) 0.223 66.8 (59.9 - 73.8) 70.3 (61.9 - 78.8) 0.498 < 0.0001 0.0005 TATR (%) 27.7 (21.6 - 33.9) 23.2 (14.2 - 32.2) 0.569 13.1 (7.74 - 18.6) 9.80 (1.54 - 18.1) 0.471 0.0006 0.0185 TBTR (%) 28.3 (24.5 - 32.4) 39.8 (28.5 - 51.1) 0.032 19.9 (13.3 - 26.5) 19.8 (9.30 - 30.4) 0.796 0.0046 0.0111

Data are presented as means (95% confidence intervals) with p values.

PT-INR; prothrombin time international normalized ratio, TTR; time in therapeutic range, TATR; time above therapeutic range, TBTR; time below therapeutic range

aMann-whitney's U test bPaired t-test

(29)

24

Figure 5. Comparisons of PT-INR, WSI values, and warfarin dosages between the genotype groups AA and GA during the 2 study periods

(30)

25 両群のPT-INRおよびWSI、WF投与量の経時変化を分析した結果、両期間においてAA群よ りもGA群でWSIが低く(図6)、GA群に比べAA群の患者はWFに対してより感受性が高かった (Period 1; p < 0.0003, Period 2; p = 0.0124)。 Period 1において、PT-INRの第1ピークは両群においてWF療法が開始されてから約1週間 後に現れ、第2のPT-INRピークはAA群では17日目に、GA群では22日目に現れた。GA群では 10~16日目の間で目標範囲よりも低い期間が出現し、WF開始後の一定期間、抗凝固療法が不 十分となる可能性が示唆された。Period 1において、AA群ではGA群よりPT-INR値が有意に 高かったが(p <0.0001)、Period 2では有意な差は認められなかった(p = 0.8033)。WFの投与量 は、Period 1の最初のPT-INRピークに従って減少し、PT-INRの減少と共に増加した。また、 両期間においてGA群の方がAA群より有意にWFの投与量が多かった(Period 1; p <0.0001, Period 2; p = 0.0002)。

(31)

26

Figure 6. Time-dependent changes in mean PT-INR, WSI values, and warfarin dosages during the 2 study periods

(32)

27

多変量ロジスティック回帰分析の結果、VKORC1-1639GA遺伝子型を保有することが不十 分な抗凝固療法となる危険性を増大させ(TBTR; adjusted OR, 4.89; 95% CI, 1.02–36.45; p = 0.046; 表7)、過度な抗凝固となる危険性を低下させることを示した(TATR; adjusted OR, 0.13; 95% CI, 0.01–0.92; p = 0.039; 表7)。

Table 7. Logistic regression analysis of risk factors for insufficient anticoagulation and excessive anticoagulation in period 1

Insufficient anticoagulation (TBTR)

Excessive anticoagulation (TATR)

Adjusted OR 95% CI p value Adjusted OR 95% CI p value

VKORC1-1639GA allele 4.89 1.02–36.45 0.046 0.13 0.01–0.92 0.039 Device type (HeartMateⅡ) 3.08 0.32–68.76 0.338 0.12 0.00–0.44 0.099 BMI 1.00 0.82–1.20 0.966 0.93 0.75–1.14 0.494 Gender (Female) 1.19 0.25–6.13 0.818 0.46 0.06–2.66 0.401 Age 1.02 0.96–1.08 0.474 0.72 0.94–1.08 0.997

OR; odds ratio, CI; confidence interval, VKORC1; Vitamin K epoxide reductase complex subunit 1, BMI; body-mass index, TBTR; time below therapeutic range, TATR; time above therapeutic range

(33)

28

IV. 考察

本研究では、CYP2C9 *1/*1遺伝子(野生型)を有するLVAD患者におけるWF抗凝固療法の初 期段階においてVKORC1-1639G>A遺伝子多型が治療効果に強く影響することを示した。 特にTBTRにおいて、Period 1ではAA群よりもGA群で有意に大きく、AA群と比較してGA 群では抗凝固療法が不十分となる傾向を示した。さらに、GA群の患者はWFに対する感受性 がAA群よりも有意に低く、GA群での不十分な抗凝固期間はWFに対する低い感受性を反映 するようであった。この結果は、LVAD植込み後の初期段階において、VKORC1-1639GA遺伝 子型を有する患者ではWF投与量の調節およびPT-INRの制御が困難であることを示唆して いる。 日本人におけるVKORC1-1639AA遺伝子型を有する頻度は約80%とされ、西洋諸国より高 いと報告されている[61-63]。今回の我々の研究では、VKORC1-1639GA遺伝子型よりも VKORC1-1639AA遺伝子型を有する患者が多く、以前の報告と一致していた。したがって、 WF療法は患者が高い感度を有していることを前提として開始された。しかし、VKORC1-1639GA遺伝子型を有する患者の場合はVKORC1-1639AA遺伝子型の場合よりも多くのWF 投与量を必要とするため、WF療法開始する前にVKORC1-1639G>AおよびCYP2C9遺伝子の 遺伝子型を解析し把握しておく必要性があると思われる。 WF療法を導入した直後の約1週間において、PT-INR値は両群において類似していた。抗菌 薬およびヘパリンの使用はPT-INRに影響を与え[64-66]、PT-INRの低下によって塞栓性合併 症のリスクの増大が報告されている[67,68]。LVAD植込み後、全患者が感染予防を目的とす る抗菌薬の使用やPT-INRが延長するまでのヘパリンブリッジを受けていたことから、WF療 法の初期における遺伝子多型に由来するWF感受性への影響の差異は不明瞭であった。また、 WF療法6日後にPT-INR値が低下し、10日目から16日目に抗凝固療法が不十分となる期間が 生じた。この変動はWF投与量の減少に起因する可能性があるが、ヘパリンブリッジ(WF療 法開始後の約4日間)および抗菌薬治療(WF療法開始後の約10日間)がPT-INRに影響を与えた ことは否定できない。さらに、過去の文献では、PT-INR値<1.5または≧2.5のLVAD患者はそ れぞれ塞栓性または出血性合併症の発症リスクが増加し[48]、これらはWF療法の最初の1ヶ 月以内に頻繁に発生すると報告されている[50]。したがって、VKORC1-1639GA遺伝子型を 保有するLVAD患者におけるWFによる抗凝固療法はLVADの植込み直後において不十分な 抗凝固となる期間が可能な限り短くなるよう注意すべきである。 Period 2では、AA群とGA群との間にPT-INR値に有意差は認められず、Period 1と比較して

(34)

29 PT-INRの変動はより安定し、TTR%は有意に大きかった。しかし、Period 2のTATRおよび TBTRはPeriod 1に比べて有意に小さかったことから、VKORC1-1639G>A遺伝子の多型とは 無関係に、慎重なWFの投与量調整により適切なPT-INRが誘導されていた。 Period 2のWSI値はAAおよびGA群の両方において、Period 1よりも低かった。したがって、 高いWF感受性は不安定なPT-INRと関連し、WF療法の初期段階における抗凝固作用の制御 を妨げる可能性がある。LVAD植込み後の初期段階において、WFコントロールを妨害し得る ヘパリンや抗生物質の存在があったが、WSIは退院前に安定化し減少していた。これはヘパ リンや抗生物質の中止によってPT-INR値のコントロールが良くなっただけでなく、LVADに よる血行動態の改善によるものが寄与した可能性がある[69-71]。 WFは主にCYP2C9およびCYP3A4酵素によって代謝されるため[72-75]、代謝酵素を阻害お よび誘導する物質は相互作用よってWFの薬物動態を変化させる。したがって、医薬品の中 にはWFとの重大な相互作用を有し、WF抗凝固療法に影響を及ぼし得るものが存在する。本 研究ではCYP2C9およびCYP3A4を阻害する医薬品であるアミオダロンを使用していた7人 の患者を分析から除外した。アミオダロンを除き、WFと相互作用を引き起こす医薬品を併 用していた患者はなく、我々の研究群の間で併用薬に大きな違いはなかった。したがって、 本研究では薬物相互作用が研究結果へ与える影響を考慮する必要性は低いと思われる。 3人の患者のみCYP2C9 *1/*3遺伝子型を保有していたため、CYP2C9遺伝子多型のWFコン トロールへの影響を詳しく調査することができなかった。しかし、過去の研究において、 CYP2C9 *3アレルを保有する患者はS-WFの代謝能力が低くなり[62,63]、WF感受性を増加さ せWFの維持投与量が減少すると報告されている。これらの知見は、変異型のVKORC1-1639G>AおよびCYP2C9遺伝子を有する患者がWFに対して有意に高い感受性を有すること を意味する。CYP2C9 *3アレルを有する患者は日本では稀であるが、WFの過剰投与を避け るために注意が必要である。 VKORC1-1639G>A遺伝子の遺伝子型に関わらず、CYP2C9 *1/*1遺伝子型を有するLVAD患 者ではWFの慎重な用量調整を行うことでPT-INR値を制御可能である。しかし、VKORC1-1639GA遺伝子型を有する患者は、WFに対する感受性がVKORC1-1639AA遺伝子型よりも低 いため、WF療法中に不十分な抗凝固となる可能性がある。したがって、LVAD療法の初期段 階においてVKORC1-1639GA遺伝子型を有する患者で生じる不十分な抗凝固療法を避ける ためには、PT-INR値に基づく慎重な用量調整が必要である。 多変量ロジスティック回帰分析において、VKORC1-1639GA遺伝子型は不十分な抗凝固の

(35)

30 リスクおよび過剰な抗凝固のリスクと有意に関連していた。BMI、性別、年齢は抗凝固療法 の効果に影響すると報告されているが[51,61,76]、CYP2C9 *1/*1遺伝子型の患者では、WF療 法の初期段階でVKORC1-1639G>A遺伝子多型が抗凝固効果を予測する上で重要な因子であ ることが分かった。したがって、LVAD植込み前にVKORC1-1639G>AおよびCYP2C9遺伝子の 遺伝子型を知ることでWFコントロールを容易にできる可能性がある。

(36)

31

小括

1 章 1. フルコナゾールとの併用によりエベロリムスおよびタクロリムスのクリアランスが低 下し、血中濃度を維持するための必要投与量が減少する。 第2 章 1. LVAD 植込み後の初期段階では VKORC1-1639 遺伝子型の差異による WF コントロール への影響が大きい。 2. VKORC1-1639GA 遺伝子型を有する場合は VKORC1-1639AA 遺伝子型を有する場合と 比較し、WSI が低値となり PT-INR の延長に時間を要することで塞栓性合併症発生の リスクが増大する。 3. VKORC1-1639 遺伝子型の差異によらず、WF の投与量を綿密に調節することで良好な PT-INR コントロールが可能である。

(37)

32 第2 部 抗凝固薬 レセプトデータベースを用いた ワルファリンおよび直接経口抗凝固薬における出血リスクの比較

I. 諸言

心房細動(AF)は、臨床における最も一般的な不整脈の 1 つであり、虚血性脳卒中および血 栓塞栓事象のリスクの増加と関連している。AF は日本社会における高齢者人口の増加に伴 い公衆衛生上の大きな懸念事項となっている。ビタミンK アンタゴニストである WF は、 数十年間の臨床診療において AF を有する患者の虚血性脳卒中を予防するために使用され てきた。WF 治療は脳梗塞予防に非常に有効であるが、PT-INR の生涯にわたる定期的およ び頻回なモニタリングを行いながら投与量の調節を必要とすることが大きな欠点である。 また、PT-INR の治療域は狭く、多数の食物および薬物との相互作用を有していることが治 療上の制限となり、結果として治療の失敗または中止に繋がる恐れがある。 日本では最近、非弁膜症性AF (NVAF)の虚血性脳卒中予防のために、ダビガトラン、リバ -ロキサバン、アピキサバンおよびエドキサバンの4 種類の直接経口抗凝固薬(DOAC)が承 認された。いくつかの大規模なランダム化比較試験(RCT)では、DOAC が WF と比較して有 効性および安全性において類似または優れていることが実証されている[77-80]。また、メタ 分析により、DOAC は WF と比較して脳卒中、頭蓋内出血および死亡率の有意な低下を伴 い、重大出血事象の発生率が同等であり、良好なリスク・ベネフィット評価を有することが 実証された[81]。さらに、DOAC は WF のように定期的な PT-INR モニタリングを必要とせ ず、食物や他の薬物との相互作用がより少ないためWF よりも利点があると評価され、最近 のガイドラインでは、NVAF の患者に WF の代替として DOAC を使用することが推奨され ている[5,6]。 NVAF の患者においては抗凝固療法の中断により虚血性脳卒中のリスクが有意に増加す るため、治療の遵守が不可欠とされるが、コンプライアンスを維持することは容易ではない。 ある研究では、WF による治療を開始した患者が比較的短期間に WF の使用を中断したと報 告されている[82]。また、DOAC の投与中断によるリスクは WF よりも低いが、DOAC の詳 細な治療様式ははっきりとしていない[83]。さらに、DOAC は比較的半減期が短いため、そ の治療効果を維持するためにコンプライアンスを徹底する必要がある。梗塞リスクと出血

(38)

33 リスクのバランスを取るために、臨床現場においてOAC の適正使用が必要とされるが、日 本のAF 患者における DOAC の治療様式と有効性、安全性との関連についてはほとんど報 告されていない。 RCT はある治療または介入による効果を実証するためのゴールデンスタンダードである が、設計上、抽出した患者のサブセットに限定されており、現実世界の人口を完全には再現 しきれない。しかし、現実世界から得た情報はRCT の理想化された条件と比較して、実臨 床をよりよく表すと考えられている。したがって、現実世界の情報はRCT からの所見を補 完することができ、適切に設計されていれば、実臨床における治療様式および患者の特徴に 関する貴重な情報を提供することが可能となる。現実世界のエビデンス研究には非介入研 究、患者レジストリ、レセプトデータベース研究、患者アンケート調査および電子カルテ調 査などがある。最近、Yamashita らは日本のレジストリデータに基づいて、AF 患者において DOAC による虚血性脳卒中および全身塞栓事象または重大な出血事象の発生に WF との有 意差がないことを報告した[4]。 第2 部ではレセプトデータベースを用い、日本の若年層における WF と DOAC の出血リ スクの差を調べることを目的とした。

(39)

34

II. 方法

1. 研究デザインとデータ

本コホート研究では、国際的に統一された疾病分類および匿名記録を連結して用い[84]、 日本医療データセンター(JMDC; Tokyo、Japan)によって構築された大規模なレセプトデータ ベースを使用した。このレセプトデータベースは2005 年 1 月から 2016 年 4 月の間に医療 機関および薬局から提出された約 380 万人(人口の約 3.2%)の被保険者の情報を有し、会社 員およびその家族を中心に構成されていた。JMDC データベースは暗号化された個人識別番 号や年齢、性別、国際疾病分類第10 改訂(ICD-10)に基づいた識別コードならびに処方薬の 名称、投与量および日数を含む患者に関する情報を含んでいた。また、すべての医薬品は欧 州製薬団体連合会 (European Pharmaceutical Market Research Association)の解剖治療化学分類 (ATC 分類)に従ってコード化され、異なる病院や診療所、薬局からのレセプトデータを連結

する目的で暗号化された個人識別番号が使用された。今回の研究コホートでは、このJMDC

データベースを用いて、新規にDOAC および WF を使用する患者に的を絞った。本研究は 2011 年 7 月 30 日に近畿大学薬学部の倫理委員会によって承認されたものである。

(40)

35

2. 研究対象母集団と研究デザイン

図7 は、患者選択のためのフローチャートを示している。2012 年 4 月から 2015 年 3 月に 新たにWF または DOAC 治療を開始した患者を JMDC のレセプトデータベースから選択し た。WF または DOAC の開始時に 18 歳以上であり、WF または DOAC 開始 12 ヶ月以上前 のデータベースの病歴を有する患者を抽出した。さらに、WF または DOAC 治療の開始前 の12 ヶ月間に少なくとも 1 回の AF の診断を受けた患者のみが登録された。AF の診断を表 すためにICD-10 コード I48 を選択した。心房粗動および弁膜性心房細動は日本の DOAC の 適応症として承認されていないため分析から除外し、弁置換術を受けている患者も除外し

た。また、少なくとも6 ヵ月間のフォローアップ期間に記録されたデータの無い患者または

試験開始前にWF もしくは DOAC を投与された患者は分析から除外した。

図8 は研究デザインを示している。AF の診断を受けた後の WF または DOAC の最初の処 方日を指標日として定義した。対象患者は指標日から次の事象のうち最も早い時期まで追 跡された。Case1 は投薬期間中に有害事象が発生した場合、Case2 は OAC の中止(処方間隔 が 3 ヶ月を超えた場合や投薬が中止されたと判断された場合)や別の OAC 薬への切り替え (打ち切られた症例と考えられる)があった場合、Case3 は研究期間の終わりとした。

(41)

36 Figure 7. Patient selection flowchart.

(42)

37 Figure 8. Schematic representation of study design.

Case 1: bleeding event, Case 2: censoring, Case 3: end of the study. Index date: Initiation of oral anticoagulant therapy (should be between April 2012 and March 2015), Discontinuation: When the prescription interval exceeded 3 months, it was judged that medication was discontinued. Registered in database: Start of observation

(43)

38

3. ベースラインの特徴

患者の特徴はベースライン期間に収集されたものを使用した。性別、年齢、抗血小板薬 (ATC コード:B01AC)、抗潰瘍薬の使用(ATC コード:A02BA、ヒスタミン H2受容体拮抗薬

(H2ブロッカー);A02BC、プロトンポンプ阻害薬(PPI))、心不全(ICD-10 コード:I50)、高血

圧(ICD-10 コード:I10-I13、I15)、糖尿病(ICD-10 コード:E10-E14)、虚血性脳卒中または一 過性脳虚血発作の既往(ICD10 コード:I60-169、G45)、出血歴、 腎機能障害(ICD-10 コード: N17-N19、N28)および消化管障害(ICD10 コード:K25-K29)を調査した。さらに、これらの ベースラインの特徴を用いて、CHADS2スコア(心不全、高血圧、75 歳以上の年齢、糖尿病、 虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作の既往(2 点)のポイントの合計)を算出した[85]。 OAC の利用動向を把握するためにJMDC のレセプトデータベースにおいて、2011 年から 2016 年 に処方されたWF と DOAC の割合も調査した。

4. アウトカムの定義

主な研究エンドポイントは消化管出血、頭蓋内出血および他の出血事象を含む全出血事 象の発生とした。出血事象に関する ICD-10 コードを表 8 に示す。出血事象の発生は OAC 療法開始後からフォローアップの期間を観察した。副次評価項目は表 8 に従って定義され る消化管出血および頭蓋内出血とした。患者は抗凝固療法の開始から目的のアウトカムの 出現、抗凝固薬の中止または研究期間の終了(2016 年 4 月)まで追跡した。

(44)

39 Table 8. List of ICD-10 codes for bleeding

ICD-10 code ICD label Total bleeding IH GH Number of claims Number of patients

D62 Acute posthaemorrhagic anaemia 〇 3,866 1,325

D683 Haemorrhagic disorder due to circulating anticoagulants 〇 137 23

D698 Other specified haemorrhagic conditions 〇 379 121

D699 Haemorrhagic condition, unspecified 〇 56,635 21,170

H113 Conjunctival haemorrhage 〇 61,186 39,197

H210 Hyphaema 〇 2,700 1,096

H313 Choroidal haemorrhage and rupture 〇 101 19

H356 Retinal haemorrhage 〇 31,018 7,732

H431 Vitreous haemorrhage 〇 30,120 3,893

H450 Vitreous haemorrhage in diseases classified elsewhere 〇 0 0

H922 Otorrhagia 〇 571 401

I230 Haemopericardium as current complication following acute myocardial infarction 〇 19 1

I312 Haemopericardium, not elsewhere classified 〇 33 5

I600 Subarachnoid haemorrhage from carotid siphon and bifurcation 〇 〇 1,248 191

I601 Subarachnoid haemorrhage from middle cerebral artery 〇 〇 750 135

I602 Subarachnoid haemorrhage from anterior communicating artery 〇 〇 1,034 181

I603 Subarachnoid haemorrhage from posterior communicating artery 〇 〇 79 16

I604 Subarachnoid haemorrhage from basilar artery 〇 〇 163 35

I605 Subarachnoid haemorrhage from vertebral artery 〇 〇 387 74

I606 Subarachnoid haemorrhage from other intracranial arteries 〇 〇 287 48

I607 Subarachnoid haemorrhage from intracranial artery, unspecified 〇 〇 20 8

I608 Other subarachnoid haemorrhage 〇 〇 835 174

I609 Subarachnoid haemorrhage, unspecified 〇 〇 39,159 12,995

I610 Intracerebral haemorrhage in hemisphere, subcortical 〇 〇 16,103 1,711

I611 Intracerebral haemorrhage in hemisphere, cortical 〇 〇 347 103

I612 Intracerebral haemorrhage in hemisphere, unspecified 〇 〇 0 0

I613 Intracerebral haemorrhage in brain stem 〇 〇 2,766 272

I614 Intracerebral haemorrhage in cerebellum 〇 〇 3,544 1,287

I615 Intracerebral haemorrhage, intraventricular 〇 〇 2,055 385

I616 Intracerebral haemorrhage, multiple localized 〇 〇 23 7

(45)

40

I619 Intracerebral haemorrhage, unspecified 〇 〇 77,154 39,402

I620 Subdural haemorrhage (acute)(nontraumatic) 〇 〇 7,530 2,236

I621 Nontraumatic extradural haemorrhage 〇 〇 27 8

I629 Intracranial haemorrhage (nontraumatic), unspecified 〇 〇 719 532

I850 Oesophageal varices with bleeding 〇 〇 2,302 280

I983 Oesophageal varices with bleeding in diseases classified elsewhere 〇 〇 0 0

J942 Haemothorax 〇 2,634 1,295

K226 Gastro-oesophageal laceration-haemorrhage syndrome 〇 〇 3,147 1,066

K250 Gastric ulcer: Acute with haemorrhage 〇 〇 20,777 7,508

K252 Gastric ulcer: Acute with both haemorrhage and perforation 〇 〇 18 10

K254 Gastric ulcer: Chronic or unspecified with haemorrhage 〇 〇 39,267 8,809 K256 Gastric ulcer: Chronic or unspecified with both haemorrhage and perforation 〇 〇 45 16

K260 Duodenal ulcer: Acute with haemorrhage 〇 〇 1,246 350

K262 Duodenal ulcer: Acute with both haemorrhage and perforation 〇 〇 37 14

K264 Duodenal ulcer: Chronic or unspecified with haemorrhage 〇 〇 3,972 902

K266 Duodenal ulcer: Chronic or unspecified with both haemorrhage and perforation 〇 〇 58 9

K270 Peptic ulcer, site unspecified: Acute with haemorrhage 〇 〇 2,026 732

K272 Peptic ulcer, site unspecified: Acute with both haemorrhage and perforation 〇 〇 0 0 K274 Peptic ulcer, site unspecified: Chronic or unspecified with haemorrhage 〇 〇 0 0 K276 Peptic ulcer, site unspecified: Chronic or unspecified with both haemorrhage and perforation 〇 〇 0 0

K280 Gastrojejunal ulcer: Acute with haemorrhage 〇 〇 0 0

K282 Gastrojejunal ulcer: Acute with both haemorrhage and perforation 〇 〇 0 0 K284 Gastrojejunal ulcer: Chronic or unspecified with haemorrhage 〇 〇 134 32 K286 Gastrojejunal ulcer: Chronic or unspecified with both haemorrhage and perforation 〇 〇 0 0

K290 Acute haemorrhagic gastritis 〇 〇 8,464 3,016

K625 Haemorrhage of anus and rectum 〇 〇 8,510 3,765

K661 Haemoperitoneum 〇 〇 3,986 2,153

K762 Central haemorrhagic necrosis of liver 〇 〇 0 0

K920 Haematemesis 〇 〇 2,214 1,055

K921 Melaena 〇 〇 95,180 39,396

K922 Gastrointestinal haemorrhage, unspecified 〇 〇 57,865 25,180

M250 Haemarthrosis 〇 2,043 705

N020 Recurrent and persistent haematuria: Minor glomerular abnormality 〇 0 0

(46)

41

N022 Recurrent and persistent haematuria: Diffuse membranous glomerulonephritis 〇 0 0 N023 Recurrent and persistent haematuria: Diffuse mesangial proliferative glomerulonephritis 〇 0 0 N024 Recurrent and persistent haematuria: Diffuse endocapillary proliferative glomerulonephritis 〇 0 0 N025 Recurrent and persistent haematuria: Diffuse mesangiocapillary glomerulonephritis 〇 0 0

N026 Recurrent and persistent haematuria: Dense deposit disease 〇 0 0

N027 Recurrent and persistent haematuria: Diffuse crescentic glomerulonephritis 〇 0 0

N028 Recurrent and persistent haematuria: Other 〇 0 0

N029 Recurrent and persistent haematuria: Unspecified 〇 0 0

N421 Congestion and haemorrhage of prostate 〇 434 117

N920 Excessive and frequent menstruation with regular cycle 〇 0 0

N921 Excessive and frequent menstruation with irregular cycle 〇 0 0

N923 Ovulation bleeding 〇 422 281

N924 Excessive bleeding in the premenopausal period 〇 661 269

N930 Postcoital and contact bleeding 〇 24 19

N938 Other specified abnormal uterine and vaginal bleeding 〇 117 41

N939 Abnormal uterine and vaginal bleeding, unspecified 〇 60,685 25,128

N950 Postmenopausal bleeding 〇 340 157

R040 Epistaxis 〇 79,045 36,062

R041 Haemorrhage from throat 〇 1,672 950

R042 Haemoptysis 〇 14,669 4,149

R048 Haemorrhage from other sites in respiratory passages 〇 3,155 714

R049 Haemorrhage from respiratory passages, unspecified 〇 681 137

R31 Unspecified haematuria 〇 209,959 66,300

R58 Haemorrhage, not elsewhere classified 〇 0 0

S064 Epidural haemorrhage 〇 〇 2,994 996

S065 Traumatic subdural haemorrhage 〇 〇 8,285 2,785

S066 Traumatic subarachnoid haemorrhage 〇 〇 5,326 1,904

S260 Injury of heart with haemopericardium 〇 0 0

S271 Traumatic haemothorax 〇 617 298

T792 Traumatic secondary and recurrent haemorrhage 〇 0 0

Open circle represents including criteria (Total bleeding, IH, or GH).

(47)

42

5. 統計解析

カテゴリ変数はパーセンテージで、連続変数は平均±標準偏差として示した。群間比較は、 適宜、Student’s t-test または chi-square test を用いて評価した。この観察研究における潜在的 な影響を低減するために、1:1 の傾向スコアマッチング分析を用いて[86]、WF と DOAC の コホート間におけるベースラインの特徴(H2ブロッカー、PPI、腎機能障害、糖尿病、虚血性

脳卒中またはTIA の既往、高血圧、抗凝固薬開始前の 12 ヶ月間の出血事象、心不全および 消化器障害)の差異を調整した。傾向スコアマッチペアは Nearest neighbor matching アルゴリ ズムに基づき、キャリパー距離を0.2 以内と設定し WF および DOAC 群をマッチングする ことによって作成された。出血事象の発生率はマッチング後のWF 群と DOAC 群との間で 比較した。傾向スコアが等しい集団の出血事象アウトカムを比較するためにKaplan-Meier 法 を実施し、log-rank test を用いて群を比較した。最後に、Cox 比例ハザード回帰モデル分析 を用いて全コホートにおける出血の危険因子を同定した。 報告されたすべての p 値は両側 であり、p 値<0.05 を統計的に有意であるとした。全ての分析は JMP バージョン 13.0(SAS Institute Inc.、Cary、NC、USA)を用いて行った。

(48)

43

III. 結果

1. 調査対象母集団

調査期間中、WF または DOAC の処方歴を抽出することにより、対象となる患者 9,969 人 を同定した。これらのうち、WF または DOAC の初めての処方以前の 12 ヶ月間のデータベ ース履歴がない患者、18 歳未満の患者、予備指標期間中に少なくとも 1 回の AF 診断がな い患者および少なくとも6 ヵ月間のデータベースフォローアップがない患者の総数 7,923 人 は除外され、分析対象可能な患者は全部で2,046 人であった(図 7)。これらの患者は WF 群 (n = 503)と DOAC 群(n = 1,543)の 2 つの群に分類された。

2. ベースラインの特徴

表 9 は研究患者のベースラインの特徴を示している。この調査の対象は主に会社員とそ の家族で構成されていたため、JMDC データに含まれる患者の年齢の範囲は 0~75 歳であっ た。性別分布は両群間で均等であり、平均年齢は若年でWF 群および DOAC 群でそれぞれ 56.6±9.3 歳および 56.8±9.8 歳と有意差は無かったが、他の特徴にはいくつかの有意差があっ た。WF 群は DOAC 群と比較して、抗血小板薬(25.1 vs. 10.2%)、H2ブロッカー(14.9 vs. 7.0%) およびPPI(34.0 vs. 24.5%)を併用している頻度が高かった。また、WF 群と DOAC 群の間で 高血圧(67.0 vs. 57.9%)、腎機能障害(11.1 vs. 4.5%)、消化器障害(29.4 vs. 23.9%)の割合および CHADS2の値(2.31 vs. 2.13)に有意差が認められた。指標日における DOAC の平均投与量は ダビガトラン(256.8±48.0mg)、エドキサバン(46.4±18.3mg)、リバーロキサバン(14.0±2.0mg) およびアピキサバン(9.6±1.4mg)であった。また、各 DOAC を使用している患者の割合はダ ビガトラン(36.6%)、エドキサバン(1.4%)、リバーロキサバン(38.1%)、アピキサバン(23.9%) であった。 DOAC は 2011 年に日本で導入されて以来、処方量が増加しており、2016 年において WF およびDOAC を使用されている患者の割合はそれぞれ 67.7%と 32.3%であった(図 9)。

(49)

44 Table 9. Characteristics of the study patients

Variables WF group (n = 503) DOAC group (n = 1,543) p value

Age, mean ± SD 56.6 ± 9.3 56.8 ± 9.8 0.650

Gender male, n (%) 419 (83.3) 1,306 (84.6) 0.473 Antiplatelet agent (ATC code: B01C), n (%) 126 (25.1) 158 (10.2) <0.001 H2-receptor antagonist (ATC code: A02B1), n (%) 75 (14.9) 108 (7.0) <0.001

PPI (ATC code: A02B2), n (%) 172 (34.2) 380 (24.6) <0.001 Heart failure (ICD10 code: I50), n (%) 288 (57.3) 828 (53.7) 0.160 Hypertension (ICD10 code: I10-I13, I15), n (%) 337 (67.0) 894 (57.9) <0.001 Diabetes mellitus (ICD10 code: E10-E14), n (%) 215 (42.7) 708 (45.9) 0.219 Prior stroke or TIA (ICD10 code: I60-I69, G45), n (%) 161 (32.0) 425 (27.5) 0.054 Bleeding event during 12 months before enrollment, n (%) 37 (7.4) 106 (6.9) 0.710 Renal dysfunction (ICD10 code: N17-N19, N28), n (%) 56 (11.1) 69 (4.5) <0.001 Gastrointestinal dysfunction (ICD10 code: K25-K29), n (%) 148 (29.4) 369 (23.9) 0.014 CHADS2 score, mean ± SD 2.31 ± 1.40 2.13 ± 1.36 0.010

CHADS 2 score: The sum of points for the following conditions: heart failure, hypertension, age ≥75 years, diabetes mellitus, prior stroke or TIA (2 points).

WF; warfarin, DOAC; direct oral anticoagulant, SD; standard deviation, PPI; proton pump inhibitor, TIA; transient ischemic attack, ATC; Anatomical Therapeutic Chemical, ICD-10; International Classification of Diseases 10th revision

(50)

45

Table 1. Pharmacokinetic parameters of everolimus and tacrolimus pharmacokinetic before and  after fluconazole withdrawal
Figure 1. Changes in C 0  levels, dose-adjusted C 0 , and weight-adjusted dose of tacrolimus (A) and  everolimus (B)
Figure  2.  Dose-adjusted AUC 0–12h   of  tacrolimus  and  everolimus  before  and  after  fluconazole  withdrawal
図 3 は、フルコナゾール中止後のフルコナゾール C 0 の変化を示す。   C 0 は、中止後 11 日 目に 25.2 μ g/mL から 1.90 μ g/mL に、そして中止後 24 日目に 0.20 μ g/mL に減少した。
+7

参照

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