第 2 章
第 2 部 抗凝固薬
3. 臨床転帰
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Figure 10. Kaplan-Meier curves for the incidence of (a) total bleeding events, (b) gastrointestinal hemorrhage, and (c) intracranial hemorrhage among patients newly treated with warfarin or direct oral anticoagulants. WF; warfarin, DOAC; direct oral anticoagulant.
Figure 11. Kaplan-Meier curves for the incidence of (a) total bleeding events, (b) gastrointestinal hemorrhage, and (c) intracranial hemorrhage in the propensity score matched cohorts. WF; warfarin, DOAC; direct oral anticoagulant.
48 Table 10. Characteristics of the study patients after propensity score matching
Variables WF group
(n = 479)
DOAC group
(n = 479) p value Standardized differences
Age, mean ± SD 57.1 ± 9.5 56.7 ± 9.2 0.548 0.039
Gender male, n (%) 398 (83.1) 415 (86.6) 0.125 0.099
Antiplatelet agent (ATC code: B01C), n (%) 105 (21.9) 111 (23.2) 0.643 0.030 H
2-receptor antagonist (ATC code: A02B1), n (%) 60 (12.5) 64 (13.4) 0.700 0.025
PPI (ATC code: A02B2), n (%) 156 (32.6) 137 (28.6) 0.183 0.086
Heart failure (ICD10 code: I50), n (%) 270 (56.4) 253 (52.8) 0.270 0.071 Hypertension (ICD10 code: I10-I13, I15), n (%) 315 (65.8) 318 (66.4) 0.838 0.013 Diabetes mellitus (ICD10 code: E10-E14), n (%) 204 (42.6) 202 (42.2) 0.896 0.008 Prior stroke or TIA (ICD10 code: I60-I69, G45), n (%) 148 (30.9) 141 (29.4) 0.622 0.032 Bleeding event during 12 months before enrollment, n (%) 35 (7.3) 21 (4.4) 0.054 0.125 Renal dysfunction (ICD10 code: N17-N19, N28), n (%) 44 (9.2) 45 (9.4) 0.911 0.007 Gastrointestinal dysfunction (ICD10 code: K25-K29), n (%) 138 (28.8) 136 (28.4) 0.886 0.009
WF; warfarin, DOAC; direct oral anticoagulant, SD; standard deviation, PPI; proton pump inhibitor, TIA; transient ischemic attack, ATC; Anatomical Therapeutic Chemical, ICD-10; International Classification of Diseases 10th revision
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Table 11. Cox proportional model showing adjusted hazard ratios for the association between total bleeding events and the use of oral anticoagulant
Variables Hazard ratio 95% CI p value
Oral anticoagulant (WF compared with DOAC) 1.21 0.93-1.54 0.148
Age ≥ 60 years 1.72 1.36-2.17 <0.001
Gender: male 0.81 0.62-1.09 0.158
Antiplatelet agent (ATC code: B01C), n (%) 1.02 0.74-1.38 0.916 H2-receptor antagonist (ATC code: A02B1), n (%) 1.11 0.77-1.58 0.563
PPI (ATC code: A02B2), n (%) 1.12 0.87-1.43 0.387
Heart failure (ICD10 code: I50), n (%) 1.07 0.85-1.35 0.560 Hypertension (ICD10 code: I10-I13, I15), n (%) 0.96 0.75-1.23 0.739 Diabetes mellitus (ICD10 code: E10-E14), n (%) 1.04 0.83-1.32 0.728 Prior stroke or TIA (ICD10 code: I60-I69, G45), n (%) 1.57 1.23-1.99 <0.001 Bleeding event during 12 months before enrollment, n (%) 0.86 0.55-1.28 0.470 Renal dysfunction (ICD10 code: N17-N19, N28), n (%) 1.09 0.68-1.66 0.706 Gastrointestinal dysfunction (ICD10 code: K25-K29) 1.30 1.00-1.67 0.048 WF; warfarin, DOAC; direct oral anticoagulant, PPI; proton pump inhibitor, TIA; transient ischemic attack, ATC; Anatomical Therapeutic Chemical, ICD-10; International Classification of Diseases 10th revision, CI; confidence interval
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IV. 考察
本研究は、AF患者の抗凝固療法としてWFおよびDOACを用いた場合における出血性合 併症のリスクの差を明らかにする目的で実施された。また、実臨床におけるリスクを評価す るために、大規模レセプトデータベースが使用された。その結果、AF を伴う若年者のWF とDOACの間の総出血事象のリスクに有意な差は無かったことが示された。
レセプトデータベースより、日本で2011年にDOACが承認されて以降、WFの処方率が 減少する一方で、DOAC処方率は徐々に増加していることが示された。日本のAFレジスト リデータを用いた研究はこの傾向を支持している[4]。世界的には、新たにAFと診断された 患者が増加し、DOACの使用が増加することでWFの使用が減少している[87,88]。我々の研 究では、患者の特徴に応じて、WF 群と DOAC群における患者背景次のような差異が見ら れた。抗血小板薬、H2ブロッカーおよびPPIの併用率は、DOAC群と比較してWF群で有 意に高かった。加えて、高血圧、腎機能障害および消化器障害を伴っている割合も、DOAC 群よりWF群で有意に高かった。さらに、CHADS2スコアはDOAC群と比較してWF群で 有意に高かった。これらの結果は、WFが虚血性脳卒中のリスクが高く、臨床状態が比較的 悪い患者に主に使用されたことを示唆している。承認されて初期段階のDOACでは臨床経 験が限られているため、虚血性脳卒中リスクの低いAF患者においてDOACがより選択的 に使用された可能性がある。
全出血事象および頭蓋内出血のKaplan-Meier曲線は、WF群とDOAC群の間で発生率に 有意差が無いことを示したが、WF 群ではDOAC 群よりも有意に高い消化管出血の発生率 を示した。しかし、交絡因子を考慮しない単変量解析では誤った結論に繋がる可能性があっ たため、交絡の可能性を低減するために傾向スコアマッチングを行った。マッチングを行っ た後では、総出血事象、消化管出血、頭蓋内出血の発生率に有意な差は見られなかった。ま た、同様の結果がレジストリデータを用いた観察研究で報告されている[4]。したがって、
WFとDOACでは出血事象の発生率に影響を与えないことが示唆される。
実臨床の観察研究において、数種類のDOACでWFよりも消化管出血のリスクが高い可 能性があると報告されている[89,90]。また、日本の観察的コホート研究において、DOACが 承認された後、虚血性脳卒中および出血事象のリスクが高い患者において、重大な出血事象 が増加した[91]。しかし、我々の研究における分析結果は出血事象の発生率に関してDOAC とWFの間に有意な差が無いことを示した。多くの研究がWFと比較してDOACの有効性 と安全性を報告している。これらの研究のメタ分析は、重大出血事象に関してDOACがWF
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に類似していると報告している[81]。実臨床ではWFや DOAC ではなくむしろ他の因子が 出血事象と関連し得る。我々の研究では、ベースライン時における60歳以上の年齢、虚血 性脳卒中またはTIA の既往および消化器障害などの因子が出血事象の予測因子であった。
クレアチニンクリアランスが30ml/min未満の日本人のAF患者では重大な出血のリスクが 高いと報告されているが[92]、本研究における腎機能障害は統計的に有意な結果を示さなか った。また、高齢および虚血性脳卒中の既往は出血事象の危険因子として報告されており [93]、我々の知見はこれらの結果を支持するものであった。
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小括
1. DOACが承認されて以降、WFの処方量が減少しDOACの処方割合が年々増加してい る。
2. WF群とDOAC群では患者背景に差異が見られ、WF群では抗血小板薬やH2ブロッカ ー、PPIの併用率が高く、高いCHADS2スコアを有し、高血圧、腎機能障害および消 化器障害の有病率も高かった。
3. 傾向スコアマッチングを適応し出血事象の発生率を比較するとWF群とDOAC群の間 に有意差は見られなかった。
4. 出血事象の発生リスクを増加させる因子として、抗凝固薬が開始される時点における 年齢(60歳以上)、虚血性脳卒中またはTIAの既往および消化器障害が重要である。
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総括
循環器用薬剤の適正使用に関する調査を行う上で、免疫抑制剤や抗凝固薬といったハイ リスク薬の適正使用に関して、薬物相互作用による血中濃度への影響や体内動態に関係す る遺伝子多型の解析といった薬物動態的観点から、使用薬物の有効性を引き出し、副作用 を低減させる重要性を再確認できた。また、データマイニング手法を用いることで、ビッ グデータの中に埋もれている薬物の特性を探し出すことが可能となり、実臨床における臨 床成果の改善が図れることを理解できた。
第 1 部では、国内で心臓移植を実施している施設の1つである国立循環器病研究センタ ーで保有している診療情報を用いて調査を行った。第1章では、心臓移植患者におけるフル コナゾールとエベロリムスおよびタクロリムスの間の薬物相互作用について症例報告を行 った。フルコナゾールとの併用が解除されたことでエベロリムスとタクロリムスのクリア ランスが上昇し血中濃度を維持するために投与量を増やす必要があった。したがって、心臓 移植患者にフルコナゾールが併用される場合、エベロリムスおよびタクロリムスの血中濃 度を注意深く観察しなければならない。また、この薬物相互作用による血中濃度への影響に
は CYP3A5 の遺伝子多型の差異が関与していると予想されたことから、遺伝子多型解析を
実施した。その結果、この症例の患者はCYP3A5*1/*3遺伝子型を有しており、CYP3A5 に よって代謝経路が確保されているため、フルコナゾールがエベロリムスおよびタクロリム スの薬物動態に及ぼす影響は比較的小さいと考えられた。
第2章では、LVAD装着患者におけるWFコントロールとVKORC1およびCYP2C9遺伝 子多型との関係を後ろ向きに調査した。VKORC1-1639GA かつCYP2C9*1/*1を有する患者 をGA群としVKORC1-1639AA かつCYP2C9*1/*1を有する患者をAA群として群間比較を 行った。GA群の患者はAA群の患者よりもWFに対する感受性が低く、LVAD植込み初期
段階のPT-INR値において目標範囲よりも低くなる頻度が高かった。また、LVAD植込み初
期段階において抗凝固療法が不十分となる原因が VKORC1-1639GA を有することであると 多変量解析の結果から見出した。しかしながら、遺伝子多型の差異によらず、注意深く PT-INR を測定し WF の投与量を調節することで良好なコントロールを得られることが分かっ た。これらのことから、VKORC1-1639G>AおよびCYP2C9遺伝子型を予め知っておくこと で、LVAD植込み後の抗凝固療法をより適切に遂行可能であることが示唆された。
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第2部ではJMDCレセプトデータベースを用い、NVAF患者のWFおよびDOACの出血 事象の発生リスクを比較した。WF群およびDOAC群における平均年齢は若くそれぞれ56.6
±9.3 歳および 56.8±9.8 歳と有意な差は無かったが、いくつかの併用薬や既往歴に有意な 差が見られた。患者背景を揃えて比較するため、WF および DOACの新規使用者に対して 1:1の傾向スコアマッチングを適用した後、WF群およびDOAC群のKaplan-Meier分析を 行った結果は全出血事象、消化管出血および頭蓋内出血において同等の発生率を示した。ま た、抗凝固薬使用時の全出血事象の発生率を増大させ得る因子を同定するために Cox 比例 ハザード回帰モデル分析を行ったところ、抗凝固薬が開始される時点における年齢(60歳以 上)、虚血性脳卒中またはTIAの既往および消化器障害が危険因子であると分かった。
本研究結果は今後の循環器用薬の適正使用に関して貢献するものと考えられる。
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