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農業ICT -IoT・ビッグデータ・AI活用で農業を成長産業へ-:4.施設園芸における農業ICT研究の最前線

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Academic year: 2021

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(1)特集. 農業 ICT ─ IoT・ビッグデータ・AI 活用で農業を成長産業へ─. 4. 施設園芸における 農業 ICT 研究の最前線 峰野博史 (静岡大学). 基 基応 応 専 専般 般. 柳澤大地 (東京大学) 西成活裕 (東京大学) 久野 靖(筑波大学大学院ビジネス科学研究科). AI 農業とは?. 効率的に伝承できるだけでなく,新たな革新的な農.  人工知能を含めた情報科学の知見を農業分野に.  ここで,環境が作物にどのように関係するかを考. 適用することで,熟練農家(いわゆる篤農家)の. えるとき,植物の種類や生育段階,生育状態,それ. 持つ暗黙知である「匠の技」を定量化し形式知化. ぞれの生育段階によって異なる周辺環境への反応と. 産物栽培方法の確立に繋がる可能性がある.. 1). する AI 農業が注目されている .AI 農業の「AI」. いった側面から,熟練農家の判断を分析しなければ. は,情報技術を活用する「農業情報学(Agri-Infor-. ならない.本稿では,農学はもちろん植物生理学や. matics)であるとともに,「アグリ・イノベーション. 植物生態学といった異分野連携による知見をもとに,. (Agri-Innovation)」でもあり, 「人工知能(Artificial. 植物の生育・生理状態・環境応答に対し情報科学的. Intelligence) 」の研究をも包含する「農業情報科. アプローチを用いる AI 農業によって,急速な勢い. 学(Agri-InfoScience)」を指している.農家,作. で発展している施設園芸向け農業 ICT 研究の最前. 物,農地の各要素がかかわり合う農業において,農. 線を紹介する.. 家は,作物と農地の情報に基づき,どのような作業 をすべきか判断し実施している.この「判断」に着 目し,ICT を活用することでマニュアル化の難し. 802. 暗黙知の形式知化. い熟練農家のノウハウを継承しようと始まったのが.  施設園芸における主な環境要素は,図 -1 のよう. AI 農業である.. に描ける.大きく地上部と地下部があるが,施設園.  欧米先進工業国の多くは先進農業国でもあり,最. 芸環境で比較的制御の容易な環境要素は,地上部の. 新の工業技術力をベースに作業の無人化だけでなく,. 光や温度,湿度,CO2 濃度,風などである.刻々. 新品種を迅速に開発するための育種技術や,さまざ. と変化する植物の生育状態と環境要素に対し,熟練. まなセンサ等を用いた栽培管理システム等が導入さ. 農家のように適切な時期に適切な農作業を実施でき. れている.一方,日本は高コストな土地,労働力,. れば,光合成を促進して生育を早めて収量を増加さ. 農業生産資材に加え,急速に進む超高齢化社会に伴. せたり,果実糖度の向上や特定栄養価を高めた機能. い,卓越した生産性を誇る熟練農家のリタイヤによ. 性植物を生産したり,栄養成長と生殖成長のバラン. る匠の技の消失に直面している.また,近年は気象. スをとりながら病気や生理障害の発生を抑制するこ. 変動による周年生産の不安定化によって収益性も低. ともできるはずである.. 下し,労働の厳しさから担い手不足も深刻化してい.  施設園芸における農業 ICT の研究は,生産管理. る.しかし,失われつつある高度な栽培技術を AI. や生産記録,環境モニタリングといった分野だけで. 農業によって形式知化できれば,熟練農家が長年の. なく,農業機械連携や複合環境制御まで多岐に渡る.. 経験と勘に基づいて習得したノウハウを次の世代へ. 施設園芸の究極の姿といえる植物工場の場合,温度,. 情報処理 Vol.58 No.9 Sep. 2017.

(2) 4. 施設園芸における農業 ICT 研究の最前線. 外部環境要因. 1. 放射 全放射 光合成有効放射 2. 水分 相対湿度,降雨 3. 空気 風速,風向,気温. 内部環境要因. タイピングを同時に行うフィールド・フェ. 光合成 転流(師管). 葉. 転流速度 CO2. 蒸散 風速. 湿度(飽差). (導管). 環境要因(地下部). O2. ノミクスも可能になりつつある.. 植物体関連. 光,温度. 1. 放射 全放射 光合成有効放射 2. 水分(相対湿度) 3. 空気 気温,風速,CO2濃度. 1. 水分(pH) 2. 通気 3. 水分移動 4. 温度 5. 無機要素組成・濃度 6. 有機物組成・含量. 適用によって,野外の環境計測とフェノ. 6CO2 + 6H2O → C6H12O6 + 6O2. 養分. 水. 根. 濃度 流速. 1. 葉温 2. 光合成速度 3. 蒸散速度 4. 呼吸速度 5. 水ポテンシャル 浸透圧 植物体内水分移動速度 (葉面積指標) , 草姿, 6. LAI 茎径,果実サイズ,糖度. 植物体関連(地下部) 1. 根温 2. 根の呼吸量 3. 根圧 浸透圧 4. 呼吸速度 水分,酸素,無機要素. 図 -1 施設園芸における環境要素(文献 2)を参考に).  匠の技と呼ばれる暗黙知は,フィールド・ フェノミクスによる生命現象の解明によって, 暗黙知の背後に潜んでいる生命現象と紐づけ た形式知化が可能となる.施設園芸といった ある特定の栽培手法に限定すれば,これまで 暗黙知と呼ばれていた匠の技を形式知化でき るだけでなく,その背後に潜んでいる生命現 象とまで紐づけた人知を超える革新的栽培 モデルをも確立できると考える.. 湿度,日照,給水量を完全に制御できる.しかし, 太陽光を利用した屋外ハウスでの一般的な施設園芸 の場合,従来と同水準の設備費や維持管理費で,熟. マルチモーダル深層学習. 練農家が実施できているような生育状態に即した適.  施設園芸では,環境データ,生育データ,農作業. 切な環境制御を実現し,安定的な高収量を達成する. データといったデータに基づく制御環境要素(温度,. ことは難しい.そこで,露地栽培ほどではないにせ. 湿度,CO2,日射量,土壌水分量,養水分量など)の. よ屋外の状況によって変化する施設園芸環境の中で,. 中でも,特に養水分制御が収量,品質を大きく左右. UECS(Ubiquitous Environment Control System). する重要な要因となる.基本的な仕組みは解明され. や IEEE1888 のような多種多様なデータを収集し. つつあるが,多種多様な環境や品種の中で,環境変. 制御システムと連携できるようにするための通信プ. 動と生育状況を考慮した適切な判断指標を構築する. ロトコルの研究開発や,植物の現状態から将来の状. ことは大きな課題である.たとえば,特定の成長過程. 態を予測して先を見越した農作業を実施するための. に供給する水の量や養液濃度を高めるなど,植物へ適. 研究開発などが盛んに行われている.. 度なストレスを与えることは,成長促進や高糖度化に.  一方,ゲノムサイエンス分野の飛躍的な進展に. 効果的であることが知られ,熟練農家は高糖度な果実. よって,生命現象に関するオミクスデータ(生体. を栽培し付加価値を高めている.植物にとってのスト. 内の分子全体を網羅的に解析する学問を総称して. レスを何かしらの方法で定量化し,生育状態に即した. オミクスと呼ぶ)が大量に得られるようになって. 適切な環境制御を実施できれば,このストレス栽培を. きた.また,植物の丈,花の大きさや形,成長速度,. AI 農業で実践できるかもしれない.. 収量,耐病性といった生物の持つ遺伝子型が形質.  機械学習や深層学習によって,時間経過や季節変. として表現されたフェノタイプ(表現型)の測定. 化に加え植物の生育状態,地域で特性の異なる環境. に関するフェノタイピングによって個体ごとの形. といった実世界の法則が明確でない諸現象に対し,. 質情報を網羅的に収集し,オミクスデータと組み. 高い汎化性能を持ちかつ不確実性の高いデータに対. 合わせることでゲノム,遺伝子発現,代謝,形質. しても自律順応可能な革新的な栽培モデルを確立さ. 等の関係をも総合的に解析するフェノミクスの研. せようとする研究が始まっている.. 究も世界的に注目されている. 3). .特に,無線セン. ・ ・.  たとえば,植物体の蒸散量が根からの吸水量を. サネットワークやドローン,最先端の農業機械と. 上回ると,「萎れ」として草姿に現れる.そのため,. いった ICT を駆使したリモートセンシング技術の. 萎れ具合いの変化パターンを定量化し記録できれ. 情報処理 Vol.58 No.9 Sep. 2017. 803.

(3) 特集. 農業 ICT ─ IoT・ビッグデータ・AI 活用で農業を成長産業へ─. 機械学習器には,訓練データセットの経時特. 1. 画像特徴量抽出部. 256次元. 性変化に対し,各特性に関係するサブデータ セットで動的に構築した複数のサブモデルを 将来の 萎れ具合. 画像データ. 2. 萎れ具合予測部. 温度,相対湿度, 日射量,光合成有 効光量子束(PPF) ,飽差(VDP,HD). 3. 萎れ具合制御部 SW-SVR. 相対湿度 温度. 環境データ収集 (温湿度・日射量等). 飽差. 特徴量抽出 (飽差等). 制御信号 生成. 潅水. る学習器は,伝統的なものでも構わない.  このようなマルチモーダル深層学習によって,. 図 -3 は,2 時点の画像間から物体の動きを速 局所的変化. 推定値. 1 43 85 127 169 216 259 302 345 388 431 474 517 560 603 646 689 732 775 818 861 904 947 990 1033 1076 1119 1162 1205 1248 1291 1334 1377 1420 1463 1506 1549 1592 1635 1678 1721 1764 1807 1850 1893. (a)HOOFのみを用いた場合 真値. 0.03. 推定値. 大域的変化. 0.02. 度ベクトルで表した Optical Flow を用いて大き grams of Oriented Optical Flow)と,温度や湿 度,光量といった環境データに対し,蒸発散 量に関係する茎径の微小な変化を推定するの にどちらがどのように関係しているか,学習. 1 44 87 130 173 216 259 302 345 388 431 474 517 560 603 646 689 732 775 818 861 904 947 990 1033 1076 1119 1162 1205 1248 1291 1334 1377 1420 1463 1506 1549 1592 1635 1678 1721 1764 1807 1850 1893. 0.01. 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0. を用いている.もちろんここで使用す. く 6 方向にヒストグラム化した HOOF(Histo-. 0.04. 0. 4). SVR. 具合という暗黙知を定量化できる可能性がある.. (b)環境データのみを用いた場合 真値. 推定値. 局所+大域. 器に RF(Random Forest)を用いた場合の結 果を示す.  これらの結果から,草姿画像から抽出可能. 1 44 87 130 173 216 259 302 345 388 431 474 517 560 603 646 689 732 775 818 861 904 947 990 1033 1076 1119 1162 1205 1248 1291 1334 1377 1420 1463 1506 1549 1592 1635 1678 1721 1764 1807 1850 1893. 萎れ具合 萎れ具合 萎れ具合. 0.05. 真値. 性変化に順応可能な機械学習器である SW-. これまで形式知化の困難だった植物のストレス. 萎れ具合予測. 図 -2 マルチモーダル深層学習の例 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0. 用いてアンサンブル学習することで,経時特. (c)HOOFと環境データを用いた場合. 図 -3 画像特徴量と環境データの相乗効果. な萎れ特徴量は茎径の局所的経時変化を学習 でき,また環境データから得られる特徴量は 茎径の大域的経時変化を学習できる見込みが 得られた.熟練農家は栽培現場に訪れて植物. ば,間接的に蒸散量,つまり気孔開閉をモデル化で. を見たり触ったりすることで生育状態を把握し将来. きるかもしれない.また気孔開閉は,光合成に必要. を予測して判断している.つまり,画像データから. な CO2 吸収量にも関係するため,間接的に光合成. 得られる特徴量を深層学習によって自動的に抽出し,. 量も表現できる可能性がある.比較的計測の容易な. 環境データのような異なる次元のデータから得られ. 草姿画像から萎れ具合を表現する特徴量を抽出でき. る特徴量を適切に重畳して機械学習するマルチモー. れば,品質向上に関係するストレスの定量化を実現. ダル深層学習は,熟練農家がさまざまな感覚で判断. できるかもしれない.. している暗黙知を上手に形式知化する能力を持って. 図-2 は,CNN(Convolutional Neural Network). いる可能性がある.. を特徴抽出器として用いることで,比較的計測の容 易な草姿画像データから萎れに関係する特徴量を自 動抽出し,草姿画像から抽出の困難と思われる環境. 804. 訓練データセットの量と質. データ(温度,湿度など)を重畳することで機械学.  ここで,次に課題となるのが機械学習や深層学. 習するマルチモーダル深層学習の例である.目的変. 習に用いる訓練データセットの量である.一般的. 数には,蒸散量に応じて太さが微小に変化する茎径. に画像認識では,訓練データの量と質,特徴量,. をレーザ変位計で計測した値を設定している.また,. 機械学習器の順で認識精度に影響すると言われて. 情報処理 Vol.58 No.9 Sep. 2017.

(4) 過去の経験則. 誤差. 質. 入力データ量を増やすことで 特徴抽出 特徴抽出しやすくなるよう 入力データを加工・クレンジング. 画像処理. AGFA( Apple, Google, 等の強者 Facebook, Amazon). 相関 センサ 過去の環境 肥料 場所. ×. 若輩者. 生育. 機械学習. 量. 農薬. 百. 数. ~. 十. 数. 千. 数. ~. 百. 数. 数. 万. 十. 数. ~. 千. 目標精度. 萎れ具合. 0.25. 真値. データ量. 計 習 統 ング 学習 学 リ 層 械 デ 深 機 モ. 定困難な茎径の真値が,加工画像から抽出された 萎れ特徴量と,温湿度,光量を適切に重畳させる ことで,たった 1,400 時点の訓練データセットで いる.訓練データセットを 14,000 時点へ増加さ せると,茎径の変化をさらに適切に推定できるよ うになり,訓練データセットの量の課題は質の工 夫で改善できる可能性がある.. 推定値. 人知を超えた栽培へ. 0.20 0.15.  ICT を活用することで熟練農家のノウハウを継承. 0.10. しようとする AI 農業の実現に向けて,熟練農家の. 0.05 0.00 0.20. 萎れ具合. の結果を図 -5 に示す.1,400 時点の原画像では推. も茎径の変化をある程度推定できるようになって. 図 -4 訓練データの量と質の関係 0.30. トに対するマルチモーダル深層学習を実施した.そ. 4. 気象環境. 植物の状態. 4. 施設園芸における農業 ICT 研究の最前線. 8/5 8/7 8/9 . 8/11 8/13. 8/15. 8/17. 8/19. (a)原画像のみを用いた場合(1,400時点) 真値. 推定値. 暗黙知をいかに上手に形式知化するか,さまざまな 取り組みが始まりつつある.農学はもちろん植物生. 0.15. 理学や植物生態学といった異分野連携による知見を. 0.10. もとに,IoT や AI といった情報科学的アプローチ を用いれば,植物の生育,生理状態,環境応答を詳. 0.05 0.00. 8/5 8/7 8/9 . 8/11 8/13. 8/15. 8/17. 8/19. (b)加工画像と環境データを用いた場合(1,400時点) 図 -5 訓練データの質の工夫. 細に把握して暗黙知を形式知化できると考える.ま た,栽培現場の環境計測とフェノタイピングを同時 に行うフィールド・フェノミクスによって,その暗 黙知の背後に潜む生命現象と紐づけた形式知化まで. いる.しかし,訓練データセットを大量に収集で. できれば,これまでの人知を超えた革新的栽培モデ. きる分野や組織は,より深い深層学習で膨大な訓. ルの確立も夢ではないと考える.. 練データセットによって目標精度を達成できるが, 膨大な訓練データセットを得るのが困難な分野や 組織ではそうはいかない.そこで,たとえば浅い 深層学習でも特徴抽出しやすくなるよう訓練デー タセットを加工したりクレンジングしたりするこ とで,図 -4 に示すように高層の深層学習で膨大な 訓練データセットを用いるのと同等の精度を達成. ・ ・. 参考文献 1) 神成淳司:IT と熟練農家の技で稼ぐ AI 農業 , 日経 BP 社 (2017). 2) 日本施設園芸協会 日本養液栽培研究会:養液栽培のすべて  植物工場を支える基本技術,誠文堂新光社 (2012). 3) Fritsche-Neto, R. and Borem, A. : Phenomics : How Next-Generation Phenotyping is Revolutionizing Plant Breeding (2015). 4) Kaneda, Y. and Mineno, H. : Sliding Window-based Support Vector Regression for Predicting Micrometeorological Data, Expert Systems with Applications, Vol.59 (2016). (2017 年 5 月 26 日受付). できると考える.訓練データセットが同等量であ れば,精度は若干向上するだろう.  実際に今回例として挙げた植物のストレス具合の 定量化について,草姿の原画像,特徴抽出しやすく なるよう加工した画像,温度や湿度,光量といった. 峰野博史(正会員) ■ [email protected] 1999 年日本電信電話(株)入社後,NTT サービスインテグレー ション基盤研究所を経て,静岡大学学術院情報学領域,准教授.博 士(工学).新たな知的 IoT システム創出の研究に従事.JST さき がけ研究者.. 環境データを入力とした 1,400 時点の訓練データセッ. 情報処理 Vol.58 No.9 Sep. 2017. 805.

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