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Title
摂食・嚥下リハビリテーションの実際 機器を使用した嚥
下検査 : 嚥下内視鏡検査 : ②正常像と障害像について
Author(s)
石田, 瞭; 大久保, 真衣; 杉山, 哲也
Journal
歯科学報, 112(3): 273-275
URL
http://hdl.handle.net/10130/2822
Right
―――― カラーアトラス ――――
摂食・嚥下リハビリテーションの実際
機器を使用した嚥下検査 −嚥下内視鏡検査−
②正常像と障害像について
いし だ りょう
石 田
瞭,
おお く ぼ ま い
大 久 保 真 衣,
すぎ やま てつ や
杉 山 哲 也
東京歯科大学千葉病院摂食・嚥下リハビリテーション・地域歯科診療支援科
カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
1.はじめに
前回は,内視鏡による嚥下内視鏡検査
Videoendo-scopy(VE)の機器準備と操作に関わる解説をした。
今回は,内視鏡からみた摂食・嚥下の正常像と障害
像について解説する。VE に際し最小限おさえてお
きたいのは,咽頭・喉頭の形態異常,粘膜疾患,鼻
咽腔閉鎖,披裂部・声帯の運動,食塊形成,咽頭収
縮,喉頭侵入,誤嚥,咽頭残留である。VE では食
物物性の違い,ポジショニングの違い,また交互嚥
下などの代償手技により誤嚥をいかに予防,改善し,
安全な食事環境を提供するかがポイントとなる。
2.上咽頭ならびに鼻咽腔閉鎖の確認
内視鏡が鼻腔通過すると,直ちに上咽頭が観察さ
れるので,同部の形態異常ならびに粘膜疾患有無を
確認する。次いで,指示動作が可能な場合,/Ah/
発声や空嚥下により鼻咽腔閉鎖の確認を行う(図
1)。安静時には咽頭後壁と軟口蓋は一定のスペー
スが確保され,鼻腔と上咽頭が通じた状態となって
いる。一方,/Ah/発声時には軟口蓋が後上方に拳
上することにより呼気の鼻漏出をコントロールし,
声質明瞭化に大きく影響する。空嚥下時には,鼻咽
腔は完全閉鎖する。
障害像では,軟口蓋の拳上が不完全なために,指
示動作時に鼻咽腔閉鎖不全を呈する。鼻咽腔閉鎖確
認後,内視鏡を下方に進め,中咽頭ならびに下咽頭,
喉頭の観察を行う。
3.披裂部・声帯の運動
中咽頭・下咽頭における喉頭蓋谷や梨状陥凹に唾
液などの分泌物貯留がなく,形態異常ならびに粘膜
疾患がないことを確認の上,披裂部・声帯を観察す
る(図2)。安静時には声門が開大し,気管が観察で
きる。一方,/Ah/発声時には両側の披裂部,声帯
が左右対称的に近接し,声門が閉鎖される。
障害像では,指示動作時における披裂部や声帯の
運動不全を認める。片麻痺患者における麻痺側声帯
の運動不全は比較的多く観察される。下咽頭観察後
は,内視鏡を中咽頭レベルまで上げて,食物摂取に
よる検査に移る。
4.摂食・嚥下時の正常像
固形食の摂食・嚥下の正常像を図3に示す。VE
は準備期の評価が困難とされるが,a.咀嚼時の舌
根部の運動により間接的評価は可能である。また,
b.嚥下前移送(stageⅡ transport)は明瞭に評価
可能であり,誤嚥評価と合わせて観察するべきであ
る。咽頭期の評価は嚥下中困難であることから,嚥
下前後に行う。つまり,b.嚥下前移送において下
咽頭・喉頭への食塊早期流入がないことを確認する
とともに,e.嚥下後には咽頭残留や喉頭侵入,ま
た呼気に伴う誤嚥物の喀出有無を確認する。図3は
正常像のため,そのような症状は認めない。
尚,水分においては固形食と異なり,a.咀嚼,
ならびにb.嚥下前移送が省略されて,捕食後速や
かにc.嚥下が誘発される。
5.摂食・嚥下時の障害像
摂食・嚥下障害でよく観察される症状は,分泌物
等の貯留(検査開始時),喉頭侵入,誤嚥,咽頭残留
であり,必ず確認する必要がある。
① 分泌物等の貯留(検査開始時)
テスト食を摂取する前に図4に見られるよう
な分泌物等の貯留が観察される場合がある。検
査前に摂取した食物の残留が存在する場合もあ
り,症状がより重度であることを表している。
そのような患者では,誤嚥に十分注意が必要で
ある。
② 喉頭侵入
喉頭内に限定して食塊が侵入する状態が喉頭
侵入である(図5)。嚥下前に下咽頭へ流入した
食塊により観察される場合が多い。嚥下閾値が
上昇した患者にみられる場合が多く十分注意を
要するが,必ずしも誤嚥と同義ではなく,嚥下
誘発に伴い食道側へ移送されることも多い。
③ 誤嚥
声帯を超えて気道側に食塊が侵入した状態が
誤嚥である(図6)。誤嚥は嚥下中に起こる場合
が多いので,VE ではホワイトアウトのタイミ
ングとなる。このため,嚥下誘発前あるいは後
に観察する必要があり,検査者の熟達度により
誤嚥有無の精度に差が出やすく,初心者は特に
注意が必要である。検査中は随時,患者に嚥下
後に咳払いや発声を指示し,誤嚥物喀出有無を
確認することが重要である。
④ 咽頭残留
喉頭拳上不全,咽頭収縮不全,嚥下誘発のタ
イミング遅延,食道入口部の開大不全など,様々
な原因により,嚥下後に食塊の咽頭残留を呈す
る場合がある(図7)。残留がよくみられるのは
喉頭蓋谷,梨状陥凹であり,正常像で残留が観
察されることは少ない。咽頭残留物は後に誤嚥
につながることも多く,注意が必要である。
6.より有効な VE の活用のために
VE は少なからず患者負担があることから,その
負担を最小限とし,必要以上に実施することは避け
たい。このためには,改定水飲みテストなどのスク
リーニング検査や食事場面の評価など,外見上から
得られる情報を最大限に活用するべきである。摂
食・嚥下機能評価で使用される各種検査の役割を明
確に理解したうえで,必要に応じて VE を選択する
べきと考える。
摂食・嚥下リハビリテーションの実際
機器を使用した嚥下検査 −嚥下内視鏡検査−
②正常像と障害像について
石 田
瞭,大 久 保 真 衣,杉 山 哲 也
東京歯科大学千葉病院摂食・嚥下リハビリテーション・地域歯科診療支援科
図5 喉頭侵入
喉頭内に食塊が侵入している
状態が観察される。
図1 鼻咽腔閉鎖の確認
a.安静時には咽頭後壁と軟口蓋は一定のスペースが
確保され,鼻腔と上咽頭が通じた状態となっている。b.
/Ah/発声時には軟口蓋が後上方に拳上することにより
呼気の鼻漏出をコントロールする。
図2 披裂部・声帯の運動
a.安静時には声門が開大し,気管が観察される。b.
/Ah/発声時には両側の披裂部,声帯が近接し,声門が
閉鎖される。
図4 分泌物等の貯留(検査開始時)
全体に唾液とみられる泡状分
泌物が観察される。経鼻経管栄
養に伴い,自己唾液すらも嚥下
が困難な状態であることが推測
される。
図6 誤嚥
声門を超えて,気道に食塊が
侵入している状態が観察され
る。
図7 咽頭残留
嚥下後に喉頭蓋谷から梨状陥
凹にかけて食塊の残留が観察さ
れる。
図3 摂食・嚥下時の正常像(固形食)
食物を捕食すると速やかに咀嚼が開始される。a.咀嚼時には内視
鏡画像では口腔での食塊形成の観察は不可能であるが,舌根部が激し
く運動する様相から推測が可能である。やがて,b.嚥下前移送(stage
Ⅱ transport)により食塊が喉頭蓋領域まで移送され,ただちにc.
嚥下誘発する。その際,咽頭収縮と食塊の咽頭通過のために画像は全
体が一瞬白くなり,ホワイトアウトと呼ばれる。嚥下後は喉頭拳上に
より反転していたd.喉頭蓋が復位し,e.嚥下が終了する。