氏 名 長田 智司 博 士 の 専 攻 分 野 の 名 称 博士(医工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第388号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻 学 位 論 文 題 目 高周波誘導加熱と超音波振動を用いたアルミニウムの大気中固 相接合に関する研究 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 園 家 啓 嗣 教 授 秋 津 哲 也 教 授 中 山 栄 浩 准教授 石 田 和 義 准教授 小 川 和 也 准教授 小 川 覚 美
学位論文内容の要旨
本研究は,強固な酸化皮膜のため大気中での接合が難しいアルミニウムについて高周波 誘導加熱と超音波振動を併用して大気中で固相接合する手法の開発を行った内容を論じて いる.以下に各章の概要を述べる. 第1章では,アルミニウムおよびアルミニウム合金をとりまく環境及びその接合技術に ついて調査し,研究目的を明示した. アルミニウムおよびその合金の需要は増加しており,需要が高まるにつれて,アルミニ ウムおよびその合金への接合ニーズが高まっている.“溶融接合”や“ろう付”から,“摩 擦攪拌接合”や“拡散接合”へとアルミニウムおよびその合金への接合ニーズは多様化し ている.そんな中,材料を溶融させない固相接合技術が注目されている.しかし,アルミ ニウムおよびその合金を固相接合させるには問題がある.それは,アルミニウムと強く結 合した酸化皮膜が固相接合を阻害するからである.大気中でアルミニウムおよびその合金 を固相接合させる場合,アルミニウム材料を大きく変形させなければならない.真空中で アルミニウムおよびその合金を固相接合させる場合,大きな設備と長い処理時間が必要となる.そこで,本研究では,大気中で短時間に材料変形の少ないアルミニウム及びその合 金の固相接合法を考案し,接合装置を開発する.そして,考案した固相接合法の接合メカ ニズムを解明し,実用化を目指すことを目的とした. 第2章では,大気中で短時間に材料変形の少ないアルミニウム及びその合金の固相接合 法を考案した.その接合法を実現するためのハイブリッド固相接合装置を開発した. アルミニウムおよびその合金の接合に用いられている固相接合技術を,表面研磨などの 前処理,接合時間,変形量,熱影響の 5 項目で評価した結果,超音波接合法が本研究に適 していると考えた.しかし,現状の超音波接合では,超音波振動を発生させる圧電素子の 出力に限界があるため,機械部品などの大きなアルミニウム製品への適用は困難である. そこで我々は,材料を外部からの熱で軟化させながら超音波接合を行う接合法を考案した. ハイブリッド固相接合装置は,加熱ユニットと超音波振動ユニットと加圧ユニットで構 成されている.加熱ユニットは,局所急速加熱が可能で,制御性に優れる高周波誘導加熱 を用いた.超音波振動ユニットは,超音波振動を効率よく接合面へ伝えるため,熱や加圧 による材料固有振動数の変化に対応可能な発振器と,振動解析を活用して設計したホーン を用いた.また,加圧ユニットは,熱により材料が膨張しても一定の加圧力にて制御する ことが可能なサーボプレスを用いた.これらユニットの監視システムは,熱電対,放射温 度計,電流計,変位計,ロードセルにて構成した.開発した装置は,パラメータ及び振動 系を最適化させることで,今まで超音波接合では接合困難であったアルミニウム丸棒を大 気中で接合することに成功した. 第3章では,開発したハイブリッド固相接合装置を用いて,接合条件(接合温度および 接合時間,加圧力,振動振幅)が,接合強度にどのような影響を及ぼすのか検証した.そ の結果,得られた結論は次のとおりである. (1)超音波振動が接合強度に及ぼす影響 523K 以上に加熱したアルミニウム丸棒に超音波振動を印加し接合すると,接合部の破断 面には,延性金属の破断面の特徴であるディンプル形状が存在する.よって,超音波振動 を印加させると,外周部が金属接合し,超音波振動を印加しない場合よりも,接合強度は 上昇する. (2)接合温度が接合強度に及ぼす影響 接合温度の上昇に伴い供試材の引張強さ,耐力が低下するため,接合面での塑性変形領 域は,同圧力および同振幅を接合部に印加した場合でも,増大する.その結果,接合温度
の上昇と共に接合部面積が増大し,接合強度は上昇する. (3)接合時間が接合強度に及ぼす影響 接合時間は,ある一定時間まで,超音波振動は金属接合部の形成を促し,接合強度を増 加させるが,一定時間以降は,材料の変形,とりわけ接合部面積の増加に作用する. (4)加圧力が接合強度に及ぼす影響 加圧力が上昇すると接合面での塑性変形量は大きくなり,接合面が変形する時間も長く なる.よって,接合面では,酸化皮膜の破壊と生成が繰り返され,結果,接合強度は低下 する. (5)超音波振動が接合強度に及ぼす影響 周波数一定のもとで振幅を大きくすると,超音波エネルギーは大きくなる.したがって, 超音波エネルギーを増大させると接合強度は上昇する. 第4章では,新たに開発したハイブリッド固相接合装置での接合において,接合面の酸化 皮膜がどのように変化し,アルミニウム丸棒同士の金属接合が形成されるのか調査した. ・アルミニウム表面の酸化皮膜は,厚さ 100Å(オングストローム:10-10m)程度なので, その状態を捉えるのは困難である.そこで,陽極酸化法を用いて,人為的に接合面に 1 ㎛ 程度の酸化皮膜を生成し観察した.その結果,以下のことがわかった. ・超音波振動を印加することで,酸化皮膜は破壊され,部分的に消失する.また,超音波 振動により,アルミニウム組織に塑性流動が生じる.この塑性流動により,消失した酸化 皮膜は,接合界面からアルミニウム結晶粒内に取り込まれると考えられる. 第5章では,加圧力,振動力,熱エネルギーの役割を今までの実験結果から考察した.そ れらを踏まえて,新たに開発したハイブリッド接合装置での接合メカニズムは,以下のと おりと考える. ① 接合面を密着させ,熱と圧力および超音波振動を接合面に印加することで,接合面に 塑性変形が生じる.その際,酸化皮膜には亀裂が発生し,酸化皮膜を分断する. ② 材料は熱エネルギーによって軟化し,超音波振動のエネルギーにて塑性流動を起こす. 接合界面にある酸化皮膜は塑性流動により破壊が進みアルミニウム組織内部へ移動し ていく. ③ 酸化皮膜が消失した接合界面では,新生面の面積が拡大していき,強固な金属結合と なって接合が完了する.
第6章では,アルミニウム合金を大気中で形状を大きく変形させることなく短時間で接合 する新たな接合技術を開発することを目的に,インサート金属と接合強さの関係,超音波 振動が接合強さにおよぼす影響、超音波振動が接合部近傍組織へ与える影響について調べ た.その結果,得られた結論は次のとおりである. (1)超音波振動が接合強度に及ぼす影響 接合温度 823K で,アルミニウム丸棒の接合時に超音波振動を印可すると,超音波振動を 印可しない時より接合強度が高くなった.なお,超音波振動を印可した時のアルミニウム 丸棒の接合強度は,真空拡散接合したものよりは低かった. (2)超音波振動が酸化皮膜へ与える影響 破断面上にて観察した酸化皮膜の亀裂長さは,超音波振動を印可しなかった時より,超 音波振動を印可した時のほうが約 1.8 倍長かった.よって,超音波振動を印可することに より接合部表面の酸化皮膜が破壊は進行する. (3)超音波振動が接合部近傍の組織に及ぼす影響 アルミニウム丸棒の接合部近傍は,超音波振動を印可することにより塑性変形して加工 硬化する.更に,超音波振動を印可することで接合部表面の酸化皮膜が破壊される. (4)超音波振動が接合部の原子拡散へ与える影響 アルミニウム接合面に存在する酸化皮膜によって,元素の拡散が妨げられる.接合面の 酸化皮膜の存在が,大気中で接合した試料の接合強度が真空拡散接合の場合より低下する 原因の一つである 第7章では,市中で多く用いられているアルミニウム合金材である A6061 材と A6063 材 (6000 系合金)を供試材として,ハイブリッド固相接合装置の有用性を検討した.A6061 材は,Al-Mg-Si 合金に Cu を添加することで,強度を向上させた合金であり,車両や陸上構 造物,医療用機械部品などに広く用いられている.一方,A6063 材は,A6061 材より強度は 低いが,押出性,表面処理性に優れており,近年,軽量で熱伝導が良好な特徴を生かし, 自動車用熱交換器にも多く用いられている.そこで,A6061 材は,機械部品を想定し,丸棒 形状にて,A6063 材は熱交換器を想定し,パイプ形状のもので接合実験を行った.その結果, 得られた結論は次のとおりである. ・ ハイブリッド接合装置にて接合した A6061 合金材は,同条件で接合した A1070 材より も高い接合強度を有した.これは,超音波振動による酸化皮膜破壊効果とともに,合 金中の Mg 元素による酸化皮膜の破壊・還元効果が相乗したと考えられる.
・ インサート金属に Cu 箔を用いて A6061 合金材をハイブリッド接合装置にて接合した場 合,接合部界面に Al-Cu の共晶反応が見られた.また,A6061 合金材の方が A1070 材よ りも共晶反応層が厚く,接合強度も高かった. ・ ハイブリッド接合法にて A6063 パイプ材を接合した場合, 接合温度,接合圧力が上が ると接合強度も向上する.しかし,ある一定条件を超えると座屈が発生してしまう. ・ A6063 パイプ材をハイブリッド接合にて接合した接合強度は,ロウ付け接合にて A6063 パイプ材を接合した接合強度の 65%程度であった. アルミニウムおよびその合金を大気中で固相接合するために,高周波誘導加熱と超音波 振動を組み合わせた,ハイブリッド固相接合装置を開発した.そのハイブリッド固相接合 装置により,従来の超音波接合では接合が不可能であった,丸棒形状やパイプ形状のアル ミニウム及びその合金を,大気中で短時間に少ない変形量で接合させることができた.さ らに,ハイブリッド固相接合装置を用いて,アルミニウムおよびその合金と Ti や Cu との 異種材を接合させることができた.そして,これらの実験結果から,ハイブリッド接合法 の接合メカニズムを解明した. しかしながら,ハイブリッド固相接合装置にて接合されたアルミニウム及びその合金の 接合強度は,拡散接合やロウ付け接合の固相接合法で接合したアルミニウム及びその合金 の接合強度を上回る値まで至っていない.今後,超音波振動を高効率で接合面に作用させ, 広範囲で接合部近傍組織を流動させ,酸化皮膜を移動させる手法を考案することで,接合 強度の向上が図れると考える.さらに,アルミニウム合金系の酸化皮膜挙動を解析するこ とで,実用化を見据えた研究が前進すると考える. 最後の第8章「結論」では,以上の各章で得られた知見を述べ,論文全体を総括してい る. 論文審査結果の要旨 学位論文は,強固な酸化皮膜のため大気中での接合が難しいアルミニウムについて高周 波誘導加熱と超音波振動を併用して大気中で固相接合する手法の開発を行ったことを論じ ている.第 1 章は,アルミニウムおよびアルミニウム合金をとりまく環境及びその接合技 術について調査し,研究目的を明示した.第2章では,大気中で短時間に材料変形の少な いアルミニウム及びその合金の固相接合法を考案した.その接合法を実現するためのハイ ブリッド固相接合装置を開発した. 第3章では,開発したハイブリッド固相接合装置を用いて,接合条件(接合温度および
接合時間,加圧力,振動振幅)が,接合強度にどのような影響を及ぼすのか検証した.第 4章では,新たに開発したハイブリッド固相接合装置での接合において,接合面の酸化皮 膜がどのように変化し,アルミニウム丸棒同士の金属接合が形成されるのか調査した.第 5章では,加圧力,振動力,熱エネルギーの役割を今までの実験結果から考察した.第6 章では,インサート金属と接合強さの関係,超音波振動が接合強さにおよぼす影響、超音 波振動が接合部近傍組織へ与える影響について調べた.第7章は,市中で多く用いられて いるアルミニウム合金材である A6061 材と A6063 材(6000 系合金)を供試材として,ハイ ブリッド固相接合装置の有用性を検討した.第 8 章の結論では,各章で得られた知見を述 べ,論文全体を総括している. 審査委員会では,学位論文の内容について下記の指摘を受けて修正した. 高周波誘導加熱と超音波振動を併用することによってアルミニウムの大気中での固相接 合を可能にした本研究成果が評価された.従って,学位論文は審査により合格と判断され た. (1) 実験結果の図には、主な固相接合条件を入れる方が分かりやすい。 (2) 供試材のアルミニウム試験片の接合面の粗さは明記した方が実験結果を理解しやすく なる。 (3) 酸化皮膜近傍組織の観察結果の項では、接合部断面のミクロ写真にマクロ写真を追加し た方が観察位置をより理解できる。 (4) 接合時間が接合強度に及ぼす影響の項では、実験結果の傾向が理解されやすくなるよう に工夫した方が良い。 (5) 参考文献の項では、本研究を推進する上で参考にできる学術論文を多く記載する方が良 い。 (6) 本文中に誤字が少し認められるので、再度全体を見直す。 最終試験については下記の指摘を受けたが,高周波誘導加熱と超音波振動を併用するこ とによってアルミニウムの大気中での接合を可能にするハイブリッド固相接合法を開発し たことが評価された.従って,最終試験は合格と判断された. (1)高周波誘導加熱中のアルミニウム試験片のサーモグラフィーによる温度分布測定結 果が不明瞭である. (2)接合時間と接合強度の関係で,急激な変化を示している部分があり,それに対する 理由説明が不十分である. (3)接合のメカニズムの説明では、ポイントとなる点をもっと詳しく説明した方が理解
しやすかった.
(4)超音波振幅などの接合条件の範囲をもう少し広げて実験した方が試験結果の傾向を 把握しやすくなる.