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介護職の人材育成に関する一考察

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介護職の人材育成に関する一考察

吉田直美

* * 日本福祉大学福祉経営学部 1 介護職にはホームヘルパー (介護保険制度における 「訪問介護員」) と, 「介護職員」 (介護保険制度 において, 介護老人福祉施設, 介護老人保健施設, 介護療養型医療施設, グループホーム, 特定施設, 通所介護事業所等に勤務する施設職員) に分けられる. ホームヘルパーは, 利用者宅等に赴いて介護 業務を行う. また, 介護職員は, 訪問介護以外の介護保険施設等で働き, 直接介護を行う職員である. 両者は単に実際に介護を行う場所のみならず, 勤務体制, 具体的な業務の進め方等が大きく異なって いる. 本稿においては, 現在介護職として働き続けている介護職員を対象にし, 彼らの介護職として のキャリア継続を可能にしている要因を探索した. 要 旨 この論文は, 施設職員として介護職1 を 5 年以上継続している人を対象として実施したインタビュー の報告と分析である. 質問項目は, 入職までの生活歴, 教育歴, 介護職を選んだ理由, 介護職への とらえ方, やりがい, 今後の不安等を中心とした. そして, そこから介護職を選択するまで (過去), 介護職をどのようにとらえ (現在), 今後の懸念 (未来) の時系列的視点に従って, 介護職を選択 することと介護職としての適性, 介護職のとらえ方, そして介護職を継続していくにあたって必要 な労働環境について分析し, 介護職の人材育成のあり方について検討した. その結果, 職業選択の 理由として, 幼少時期から高齢者と交流する機会が多いと答えたものが介護職への適性を示してい た. また, 介護職を利用者との関わることに主眼をおいた業務であり, 自分はそれを好んでいると いうとらえ方と, 自分自身の人生にとってかけがえないもの (生きがい), というとらえ方の 2 側 面が明確となった. また, 5 年以上継続して勤務しているのは介護職にやりがいを感じているから であり, さらに, 介護職の専門性を, 介護固有の技術というより, 広く対人援助職に求められる価 値観やアプローチと認識していた. 今後介護職を継続するにあたっての不安は, 体力や腰痛をはじ めとする健康問題, 役職やマネジメント業務等への苦手意識, (女性にとっては) 結婚・出産後の 働きづらさ等が挙げられた. これらの知見から, 人材育成とキャリア継続について 3 段階に分けて 検討し介護職の専門性を論じた. キーワード:介護職の継続, 労働環境, やりがい, 人材育成, 専門性

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1. はじめに:介護保険制度と介護労働

1-1〈介護保険と介護職〉 超高齢社会となり, 介護保険制度の定着とともに, 高齢者への介護サービスの需要が年々高まっ ている. その一方で, 介護業界は, ①離職率が高く, ②非正規職員率が高く, ③給与水準が低い 等を要因とした人材不足に陥っている. 「介護労働者のキャリアに関する研究会2」 の中間報告 (2009) によると, 介護サービス分野で働く労働者は年々増加傾向にあり, 介護保険がスタート した 2000 年には約 55 万人であったが, 2006 年には約 117 万人と約 2.1 倍に増加. その後増加 割合が鈍化傾向にあるものの, 今後の需要見通しでは, 2014 (平成 26) 年には 140 万∼160 万人 の介護労働者が必要と見込まれると報告されている. 近年, 介護現場では, 人材不足, 早期離職の問題が深刻な状況となっている. 「介護労働実態 調査」 (2010) によれば, 2009 年の 1 年間における介護職の離職率は 17% (前年調査では 18.7%) と, 前年よりは低くなったものの, 全産業の平均離職率 (厚生労働省平成 20 年雇用動 向調査) の 14.6%と比べて高い. しかも約 8 割前後が入職してから 3 年未満の離職者であると 報告されている. すなわち, 人材育成確保と定着 (離職率が高い) の両側面において, 極めて困 難な状況に見舞われている. これらの背景には, 賃金水準の低さをはじめとした介護労働者の 「労働環境の悪さ」 が挙げられている3. 2000 年の介護保険制度創設により, 社会福祉サービスは, 「措置から契約」 に大きく方向転換 するきっかけとなった. これにより, 利用者本位の 「質の高い介護サービスの提供」 がより一層 求められるようになった. それに対応するためにとられた政策の一つが, 質の高い介護人材を育 成し, 職場に定着させることであった. そして, 質の高いサービスを安定供給できるシステムを つくることであった. 1-2〈介護労働における人材確保・育成についての近年の施策の概観〉 2004 年, 厚生労働省は, 介護の質を担保するために, 「ホームヘルパーを廃止し, 介護職を国 家資格である介護福祉士に一本化」 する方針を打ち出した4. しかしながら, 介護職の労働環境 2 「介護労働者のキャリアに関する研究会」 (座長:桐村晋次・法政大学大学院経営学研究科キャリアデ ザイン学専攻教授) は, 2008 年 11 月に設置された. 途中の 「中間報告」 を経て, 2 年にわたり, 調 査・研究・検討を行ってきた. 3 「平成 21 年度 事業所における介護労働実態調査」 (2010) によると, 労働条件上等の不満として, 「仕事の割に賃金が低い」 50.2%, 「人手が足りない」 39.4%, 「有給休暇が取りにくい」 36.9% 「業務 の社会的評価が低い」 36.4%となっている. 4 社会保障審議会介護保険部会による 「介護保険の見直しに関する意見」 (2004 年 7 月 30 日) において, 「介護職員については, まず, 資格要件の観点からは, 将来的には, 任用資格は 「介護福祉士」 を基 本とすべきであり, これを前提に, 現任者の研修についても, 実務経験に応じた段階的な技術向上が

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の悪さに対しては抜本的な改善はなされなかった。 その間, 介護保険を契機に生まれた福祉分野 への進学・就職人気は去り, 若者の介護職離れが目立つようになってきた. そしてここ数年は, 慢性的な人材不足が継続する中で, 人材養成の教育機関に学生が集まらなくなっている現象5 「介護福祉士養成施設」 の入学者の定員割れが相次いでいる. 介護福祉士の養成は未だ需要に追 いついていないのみか, 将来においても介護職不足が継続する懸念もでてきた. 厚生労働省が資格一本化の方針を打ち出した 2004 年当時, 在宅介護の担い手の約 9 割がホー ムヘルパーであった. ホームヘルパー 2 級の資格取得は 130 時間の研修で済むが, 介護福祉士の 受験資格は 3 年間の実務経験あるいは 2 年間の養成機関施設や福祉系高等学校での必要単位を修 得しての卒業などが要件となりハードルがより高くなっている. 資格取得までに要する経験や養 成期間6の差が大きいこともあり, 介護福祉士の国家試験に合格7することは, 既に現場で働いて いるホームヘルパーらにとっては大きな負担であった. そのため, 資格一本化方針に対して, 現 場からの反発は強く, 介護福祉士への一本化は, スムーズには進まなかった. その後, 2006 年, 介護職の中核的・指導的役割を担う層をつくる目的で 「介護職員基礎研修」8 図れるよう, 体系的な見直しを進めていく必要がある. 現在, 施設職員については, 既に 4 割程度が 介護福祉士の資格を有しているが, さらに質の向上を図っていく必要がある. 一方, ホームヘルパー については, 実働者数約 26 万人のうち介護福祉士資格を有する者は 1 割程度であり, 大半はホーム ヘルパー 2 級である. 2 級のホームヘルパーは, 事実上, 介護職場における標準的な任用資格となっ ているが, 介護福祉士の養成課程と比較すると 2 級ホームヘルパーは 130 時間であるのに対し, 介護 福祉士は 1,650 時間と大幅な開きがある. このため, 当面は研修の強化等により 2 級ヘルパーの資質 の向上を図ることを検討する必要がある.」 と提案した. 更に, 2005 年の 9 月 26 日には, 介護現場で 働く人の条件を国家資格である介護福祉士に一本化するため, ホームヘルパーなどを対象に実施する 研修の時間数を決めた. しかしながら, 介護業界における慢性的な人手不足, 現場からの反発も強く, 実際にホームヘルパー 3 級の研修が廃止され, 介護保険における介護報酬の算定から外されたのは, 2009 年度からである. 更に, 1 級については, 2008 年 2 月に厚生労働省老健局による 「介護職員基礎 研修について」 においては, 2012 年に廃止が示され, 介護職員基礎研修を受けるか, あるいは介護福 祉士資格の取得を促している. しかしながら, その一方で, 介護職員の人材確保が困難であることと, 介護職員基礎研修の実施が需要に追いつかない現状の中で, ホームヘルパー 2 級については, 2010 年 現在, 養成課程を 「当分」 存続させる方針となっている. 5 2008 年 4 月 4 日の読売新聞の記事 「介護福祉士養成大, 8 割で定員割れ…低賃金などで敬遠」 で, 介 護福祉士を養成する 「介護福祉士養成施設」 の大学・短大入学者の定員割れが 2008 年より相次いで いることが読売新聞の全国調査で報告された. 回答のあった大学の 8 割で今春入学者が定員割れとな り, ほぼ半数で定員充足率が 50%を下回っていた. 各大学は, 介護職が 「低賃金・重労働」 といわれ ることや, コムスン問題の影響を指摘. 養成課程から撤退する学校もあり, 介護保険を支える人材の 不足が深刻化していく懸念が示された. 6 ホームヘルパー 2 級の場合, 講義は 58 時間, 演習は 42 時間, 実習は 30 時間の計 130 時間の研修, 1 級でも計 230 時間の研修を受けることで資格が与えられるが, 介護福祉士の場合は, 実習は 450 時間 であるが, 2012 年からは 3 年以上の実務経験が有っても, 新たに 6 ヶ月以上の養成課程を経た上で国 家試験を受験する仕組みとなるなど, 現場で働く介護職にとって, ますます取得しにくい状況になる. 7 厚生労働省が発表している介護福祉士国家試験の合格率は, 2004 (平成 16) 年は 49.3%, ちなみに 2010 (平成 22) 年は 52%であり, 近年は 50%前後であることが多い. 8 厚生労働省は, 介護職員の資格要件について将来的に介護福祉士へ一本化する方針を打ち出し, それ までの対応の一つの策越として, 2006 年度に, 介護サービスの質の向上を図る上で, 介護職員の専門

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制度が新設された. なお, 2010 年 10 月現在, 介護福祉士の有資格者 (登録者) は全国で 898,709 人9となっている. また, 2008 年厚生労働省は, 「介護福祉士などの介護職は約 100 万人に達し, 今後 10 年間で 新たに 40 万∼60 万人必要になる」 と見込まれると予測した. そして, 人手不足が慢性化してい る介護分野の人材確保を支援するため, 2009 年度から介護職専門のハローワークを設置する方 針を発表した10. 更に, 有資格者等の人材の掘り起こしとして, 潜在的有資格者等養成支援事業 を立ち上げた11. 同年には 「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律」12 が成立 した. また, 社会保障審議会介護給付分科会で審議された 「介護従事者の処遇改善のための緊急 特別対策」13, 「介護従事者の処遇改善と人材確保対策」 などの施策が, 同時期に次々と実施され ることになった. 2009 年に実施された介護報酬改定14もその中の 1 つである. 介護報酬を全体として 「3%」 引 き上げた. 過去 2 回の介護報酬がいずれもマイナス改定であり, これは介護保険制度開始以来, はじめてのプラス改定であった. それだけ介護分野の人材不足の問題が深刻であり, 介護職の人 性を高めることが必要であることから, 施設, 在宅を問わず, 介護職員として介護サービスに従事す る職員の共通の研修として, 「介護職員基礎研修」 (500 時間) を創設した. ちなみに, 現行のホーム ヘルパー 2 級課程の研修時間は 130 時間, 1 級課程は 230 時間である. 9 財団法人社会福祉振興・試験センターホームページ http://www.sssc.or.jp/touroku/pdf/pdf_t04.pdf 10 読売新聞 2008 年 8 月 4 日の記事 「厚生労働省は 4 日, 人手不足が慢性化している介護分野の人材確 保を支援するため, 2009 年度から介護職専門のハローワークを設置する方針を固めた. 関連予算を 09 年度予算の概算要求に盛り込む. 介護に特化したハローワークは, 東京や大阪など, 人手不足が特に 深刻な大都市に数か所程度設置する方向だ. 介護福祉士やホームヘルパーなどの経験者をスタッフに 配置し, きめ細やかな支援を実施する. 就労希望者に対し, 担当者制による職業相談や社会福祉施設 の見学会などを実施し, 人材を求める事業主とのマッチング (組み合わせ) に取り組む. 介護福祉士 などの介護職は現在, 約 100 万人いるが, 今後 10 年間で新たに 40 万∼60 万人必要になると見込まれ る. このため, 厚労省は安定的に人材を確保できる体制整備が必要と判断した.」 11 厚生労働省が 2009 (平成 21) 年 2 月 17 日に発表した 「福祉・介護人材確保対策」 において, 潜在的 有資格者等養成支援事業 (平成 20 年度第 2 次補正予算) について組み込まれているが, 潜在的介護 福祉士が平成 17 年度において約 20 万人以上存在していると報告されている. 12 2008 年 5 月 28 日に公布, 即日施行された法律であるが, 条文は 「政府は, 高齢者等が安心して暮ら すことのできる社会を実現するために介護従事者等が重要な役割を担っていることにかんがみ, 介護 を担う優れた人材の確保を図るため, 平成 21 年 4 月 1 日までに, 介護従事者等の賃金水準その他の 事情を勘案し, 介護従事者等の賃金をはじめとする処遇の改善に資するための施策の在り方について 検討を加え, 必要があると認めるときは, その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする.」 と あるものの, その具体的内容は明記されていなかった. 13 2008 年 10 月 30 日の 「新たな経済政策に関する政府・与党会議, 経済対策閣僚会議合同会議」 にて決 定された. 14 介護報酬は, 2003 年と 2007 年に改正を行われ, それぞれ−2.3%, −0.5% (施設給付における食費お よび居住費の自己負担化を含めると−2.4%) と 2 回ともマイナス改定であった. 2009 年度の介護報 酬改定は, 深刻な介護分野の人材不足が背景にあり, 介護職の人材確保および処遇改善を図る必要が あるため, 改定率はプラス 3.0%で在宅サービスが 1.7%, 施設サービスが 1.3%の引き上げであった.

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材確保と待遇改善への要望が強かったことを反映している. しかし, 介護職員の処遇改善を図る ための 「3%」 の引き上げは介護事業者の増収になるものの, 当初の介護職員の給与を月額 2 万 円アップさせる件については, 合理的な根拠が全く示されていなかった. また, 2009 年 10 月に創設された 「介護職員処遇改善交付金」15 は, 2010 年 10 月からは, 交付 要件に, キャリアパス要件と定量的要件が追加された16. しかしながら, この交付金は, あくま でも 2 年半の時限的な措置である. 現政府が 2012 年以降も対応策を講じる方針だと発表しても, 政権交代が起こればこの方針が反故にされることが懸念される. 処遇改善とは別に介護職の研修・資格問題については, 職能団体である日本介護福祉士会が介 護職の人材育成, キャリアアップの仕組みに取り組んできた. 2009 年度からは, 日本介護福祉 士会生涯研修制度17が開始された. これまで介護職は, 比較的短期の養成研修で仕事につけ, 現場経験 (3 年以上) を積めば国家 試験の受験資格を得られていた. しかし, ホームヘルパー 3 級については, 養成の研修が廃止さ れ, 介護保険制度における介護報酬の算定条件からも外され, 事実上廃止された. また法改正に より介護福祉士養成は新カリキュラムが開始された. 介護福祉士国家試験は, 2013 年度からは その受験資格が変更となり, 養成施設卒業者に国家試験受験が課され (現在は受験免除年まで 3 年間凍結), 3 年の現場経験者にも半年の養成課程修了が受験要件 (現在は 3 年以上の現場経験 者には受験資格付与) となる. カリキュラム内容の見直し, 研修や実習時間の延長, といった教 育内容と量の充実を図る方針がより明確に打ち出されてきつつある. このように, 介護分野の人材確保や質の高い介護サービスをするための施策は次々と実施され てきている. そして様々な事業が立ち上げられ, 施策が打ち出されること自体は前進である. し かし, 介護分野の人材確保・育成における様々なメニューが存在するだけで問題は解決しない. すなわち, そのメニューを選択する価値 (メリット) や魅力が感じられなければ人々は介護職を 15 「介護職員処遇改善交付金」 とは, 介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して, 2009 年 10 月から 2011 年度末までの間, 合計約 4000 億円を交付する事業である. 厚生労働大臣は, 2012 年度以降も, 介護職員の改善に取り組んでいく方針を示した. 16 キャリアパスとは, 職場における職種, 役職をどのような道筋であがっていくのかを示したものであ る. 介護業界においては, 将来の経営展望に見合った人材を体系的に示し戦力を確保すること, また, 職員個人に対しては, 明確な目標を与え公正な評価を行うことにより, 人材の活性化を図ることを目 的としている. 具体的には, 目標達成管理, 能力開発, 人材育成, 教育研修, 能力業績主義賃金など が盛り込まれている. 職員は自己の能力を伸ばしながら業績に貢献し, 例えば 5 年後はどんな姿で仕 事をしているのかなど, 将来像が描きやすくなる. ☆厚生労働省が提示した処遇改善に関する定量的要件とは, 「平成 21 年介護報酬改正を踏まえた処遇 改善に関する定量的要件」 のことである. 処遇全般, 教育・研修, 職場環境等において 2009 年度 介護保険報酬改定を踏まえた処遇改善事項について, 2009 年 4 月以降に実施あるいは実施予定の事 項について必ず 1 つ以上○をつけることになっている. 17 日本介護福祉士会が介護福祉士のキャリアアップの仕組みとして作った制度. 初任者研修, ファース トステップ研修, サービス提供者責任者研修等, それぞれの研修にポイントが付与され, 研修実績を ポイントに数字化している.

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選択しない. また, 利用できる環境が整備されていなければ, 介護職がそれらを積極的に注文 (利用) することなく, 活用もされないのであれば, 絵に描いた餅に過ぎないのである. 1-3〈介護職研究の動向〉 政府による介護人材養成のシステムづくりが着々と進む一方で, 介護 (職) に関しては, 労働 環境に関わる介護職の健康問題 (腰痛, メンタルヘルス等), 賃金をはじめとする雇用管理, 人 材育成の観点からの介護教育問題, 介護 (職) の専門性について等のテーマでの研究が活発にな されるようになった. 1-3-1 労働環境 介護労働センターが年度版で出している 「介護労働者の就業実態と就業意識調査」 をはじめと して, 多くの調査研究がある. 低賃金, 過重 (長時間) といった劣悪な待遇等が介護職の離職の 原因であると指摘されている. そして, このような劣悪な労働環境から離脱するための環境整備 が迅速になされるべきであるという提言がなされている. 1-3-2 健康問題 健康問題については, 職業病ともいえる腰痛予防・対策がある. 1990 年代から, 産業医学, 産業衛生学, 理学療法の分野18から, 身体への負担を少なくするためのボディメカニクスによる 介護方法や福祉機器の開発, 腰痛等の身体的疾患と精神疾患との関連等の研究報告が数多くなさ れてきた. 近年は, 介護職のメンンタルヘルスへの対応も労働環境の中で重視されるようになっ てきた. 古くから, 介護は 「肉体労働」 であると考えられることが多かった. 単に肉体的な負荷が高い だけではなく, 対人援助職としての精神的な負荷も大きい労働である. また, 自分の感情をコン トロールして相手の利用者に対して的確な対応をとり, サービス提供をすることから, 精神的負 荷が大きい. 介護を 「感情労働19」 ととらえ, 対人援助職に認められるストレスから生じる介護 職のバーンアウト問題の実態報告もある. 心理的支援, 雇用環境の整備の問題が, 介護保険制度 の実施された前後から, クローズアップされるようになった20. 18 介護職の腰痛対策に関する研究報告は 1980 年代には論文報告はほとんどなく, 学会報告が 3 件であっ たが, 1990 年以降は急増し, 2010 年までの間に 186 件の学会報告・研究報告がなされている. 19 社会学者であるホックシールドが提唱した概念. 対人援助職等, 自分の感情を抑えてコントールし, 利用者に的確な対応をする労働である. 20 我が国でのヒューマンサービスにおけるバーンアウトの研究は田尾 (1987) の文献研究報告がなされ てから始まったが, 介護職のバーンアウトについて調査研究が多く取り上げられるようになったのは, 介護保険が実施された 2000 年以降である.

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1-3-3 専門性の問題 質の高い介護サービスが求められるにつれ, 介護の質, ひいては介護教育の質が問われるよう になった. 介護職サービスの向上のための教育プログラムやカリキュラムの検討とともに, 介護 職の労働環境・雇用条件を改善するための根拠としても, サービス提供の担い手である介護職の 専門性について検討する研究21がなされるようになった. 介護は, 家族, 特に家庭の主婦等によって担われてきた歴史的経緯があるために, 「慣れれば 誰でもできる仕事」 とみなされてきた. そのため長い間社会的評価は低く, 介護保険制度が導入 されるまでは, 無資格あるいは比較的短期に無試験で取得できるホームヘルパーが, その中心的 な担い手であった. しかしながら, 介護は, 適切な介護がなされるかどうかによって, 介護を受 ける人にとっての QOL を大きく左右する. のみならず, 生活や生命を支える 「命に関わる」 仕 事である. 医療技術の進歩によって, 以前では医療機関でしか対応できなかった重度の症状や障 害を抱えた人の在宅生活が可能になった. 介護保険制度という契約制度の下, 第三者による介護 のシステムが進められていく中で, 介護の質がクローズアップされ, その専門性が強く問われる ようになってきた. しかし, 現時点において介護職の専門性については, 研究者間で必ずしも統一した見解にはなっ ていない. 秋山 (2000) は, 社会福祉専門職の条件を, 「体験的理論, 伝達可能な技術, 公共の 関心と福祉という目的, 専門職団体の組織化, 倫理綱領, テストあるいは学歴に基づく社会的承 認」 の 6 つを挙げている. 更に, 専門職性向上の要件としては, 「教育内容の基準化, 研修制度 の充実, 上級資格への条件整備, 介護等が生活を支えるうえで必要なものであるという国民の意 識の改革, 職業上の位置づけにおける課題 (登録税の違い) 等」 を指摘する. 「社会福祉士及び 介護福祉士法」 は, 介護福祉士の業務を 「専門的知識および技術をもって, 身体上又は精神上の 障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い, 並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと」 と定義22している. そして, 厚生労働省は, 将来的には介護職の資格を介護福祉士に一本化しようとしている. しかし, その 介護福祉士さえ (2012 年度より新カリキュラムが試行され, 現状より改善されるとしても), 必 ずしも業界で 「専門職」 と認知されているわけではない. むしろ 「準専門職」23 として認識され 21 介護及び介護職の専門性に関する研究の多くは, 看護及び看護職との比較に基づくもの, 「社会福祉 士及び介護福祉士法」 に基づいた国家資格である介護福祉士のカリキュラムに基づくもの, フレック スナーやグリーンウッドの専門職成立の要件に基づいたものが大半である. 22 社会福祉士及び介護福祉士法出井 2 条 2 に規定されている. 23 準専門職の概念を導入・提唱したのは, 社会学者のA. エツィオーニやウィレンスキーであるが, 「準専門職」 の概念を明確にしたのは, 著名なA. エツィオーニで, 準専門職−教師・看護婦・ソー シャルワーカー を著した. 「準専門職」 の概念 (条件) とは, 確立専門職と比較して 5 点を挙げる. ①専門教育の年限が低い (5 年以下), ②生死やプライバシー (法的) へ直接関わることが少ない, ③ 秘密保持が比較的なされない, ④自律性 (autonomy) が低い, ⑤ワーカーの多くが女性で, 男性ほ どには組織上の地位を意識しない.

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ていることが多い. 一番ケ瀬 (2003) は, 介護福祉士の専門性の必要性を認めている段階である とし, 阿部 (2007) は, 介護業務自体が専門性を追及しにくい性格があるため, 現時点において は, 専門性の追及以前に, 介護職の労働条件を整備していくのが優先である段階と認識している. 看護及び看護職との比較研究24も多くなされているが, 本間ら (2008) は, 福祉施設介護職責任 者への聞き取り調査の結果から, 「介護福祉士の専門性は必要であるが, 専門性段階は低いとい う意識をもっていること, そしてその理由として労働条件や待遇, 社会的認知不足, 介護福祉士 の能力の不足や個人差, 養成学校における教育内容不足」 にあることを報告している. 本間ら (2009) は更に, このような社会的環境や介護福祉の能力不足や個人差といった資質に関わる問 題点を改善する方法として, 研修・教育体制の充実が求められているが, それだけでは不十分で, 介護職一人ひとりの自己研鑽への努力とともに, 研修のための外的環境の整備が必要だとしてい る. 専門性には, 社会的地位や労働条件の獲得のための 「権威」 を表わす側面と, その職務を全う するのに必要な 「職能」 がある. 介護及び介護職の専門性を語る場合, 介護が対人援助職として 利用者に質の高いサービスを提供できるためにより高度な知識・技術が必要だからという 「利用 者本位」 の視点 (井上 (2009), 笹谷 (2007)) と, 介護職の社会的地位・認知度を向上させ, 賃 金等の労働条件を向上させるという 「介護職の労働条件問題解決の手段」 という視点 (井口 (2009), で論じられている. 前者が 「職能」 として, 後者が労働条件の根拠としての 「権威」 と しての専門性であろう. この 2 つは車の両輪のようなもので, どちらも相まってこそ, 質の高い サービスの提供が実現でき, かつ介護人材が育つのであることはいうまでもない. しかし, 専門 性の中身が必ずしも明確でなく曖昧 (福嶋 (2006)) であるという現状において, 「専門職とは何 か」 という議論は現在も未確立であり, 議論が必要である. 本稿は, 入職までの生活歴, 教育歴, 介護職を選んだ理由, 介護職のとらえ方, やりがい, 今後の不安等を中心とした. そしてそこか ら介護職を選択するまで (過去), 介護職をどのようにとらえ (現在), 今後の懸念 (未来) の時 系列的視点に従って, 介護職を選択することと適性, 介護職のとらえ方, そして介護職を継続し ていくにあたって必要な労働環境について分析し, 介護職の人材育成のあり方について検討し介 護の専門職論を介護職自身の認識から分析してみた.

2. 介護職自身の認識:介護職インタビュー調査

2-1 研究概要 介護職 (介護職員) としての業務を継続している者が, 「入職までの経緯を含めた個人として 24 両者はその業務内容の領域が重なる部分も多いが, 医療機関等においては, 介護職が 「看護助手」 や 看護職の補助としての位置づけでの業務をしていることも多く, 相対的に介護は看護より専門性が低 いと認識されているのが現状である.

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の特性やキャリア形成をどのように歩んできたか」 「介護及び介護職に対する価値観とともに, 今後のキャリア形成についてどのように考えているか」 に焦点をあて, 介護職の人材育成・継続 勤務を可能にする要因を探索的に明らかにする. 2-2 調査について 〈調査対象〉 愛知県, 岐阜県, 兵庫県, 東京都内にある 「介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム)」 ・ 「介護老人保健施設」 において, 現在介護職としての業務に従事している現場経験年数 (勤続年 数) 概ね 5 年以上の介護職員 18 名を調査対象とした. 対象者の平均勤続年数 約 8.1 年 (26 歳 ∼49 歳) であり, 性別は女性 10 名, 男性 8 名であった. 対象者を 5 年以上の勤続年数と設定したのは, ①介護労働者の 8 割前後が入職 3 年未満で離職 していること, ②現場では入職して 3 年でフロアリーダー, サブリーダー等になるなど, 一人前, 中堅としての扱いを受けることも多いことから, 専門職を論ずるのに適切と判断したためである. 〈調査実施期間〉 2009 年 2 月∼3 月 〈調査形式〉 個別に半構造化インタビューを行った. インタビューは, ①入職までの経歴, 介護職を選択し た理由, ②介護職としてのスキルアップのための自己研鑽・組織の研修への取り組み姿勢, ③介 護をどのようなものととらえているか, ④介護職としてのやりがい, ⑤介護の専門性についての 考え, ⑥今後のキャリアビジョン, ⑦今後介護職を継続するにあたっての不安や障害について, ⑧質の良い介護人材を育成するにはどうしたらよいか等を中心に聞き取りを行った. 各インタビュー は約 1 時間実施した. また, インタビュー内容は録音され, 逐語文書化された. 〈調査内容〉 介護職との接点 (生活歴), 介護職につくまでの教育歴, 職歴と役割, 介護職を選択した理由, 資格取得状況, 介護職とは何か. 介護職の専門性について, 介護職のやりがい, 現在も介護職を 継続している理由, 介護職としてのスキルアップのための自己研鑽について考えていること, 介 護職を続ける場合の障害や不安, 介護職としてのスキルアップのための自己研鑽について考えて いること, 将来のキャリアビジョン等, 質の良い人材を育成するために必要だと思っていること 等. 〈分析方法〉 録音にて収集したデータは, 発言を逐一カードに書き, 1 つ 1 つを解釈してテーマに従って,

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分類し, 編成したグループをできるだけ簡潔に表すタイトルをつけ, その内容を分析して構造化 した. 〈倫理的配慮〉 氏名, 職場等は匿名化し, 発言者が特定できないように処理した 2-3 調査結果 2-3-1 基本的属性について (表 1) 調査対象者の基本的な属性としての, 性別, 年齢 (調査当時), 最終学歴, 福祉等の教育歴の 有無, 福祉以外の職歴, 現在までの介護職歴の年数, 入職時に取得していた資格, 現在取得して いる資格について傾向は, 以下の通りである.  勤続年数 介護職を 5 年以上継続している者が調査対象であったが, 最短が 5 年, 最長が 15 年であり, 平均勤続年数は 8.1 年であった.  教育歴と資格と職位 入職前の学歴に関しては, 高卒 4 名, 専門学校卒 3 名, 短大卒 2 名, 大学在籍中 1 名, 大卒 8 名であった. 18 名のうち他職種からの転職を経験者が 9 名, また, 入職前に学校教育で社会福 祉あるいは介護福祉を学んだ経験がない者も 9 名いた. 介護職に入職時点で介護や社会福祉の分野で取得していた資格としては, 介護福祉士は 3 名 (3 名とも介護福祉士養施設である専門学校あるいは短大の出身者), 社会福祉士は 2 名 (そのう ち 1 名は精神保健福祉士も取得していたが, 2 名とも社会福祉学部・学科の大卒), ホームヘル パー 1 級は 1 名 (福祉科高校出身), ホームヘルパー 2 級が 5 名 (そのうち 1 名は短大で保育士 資格を取得) であった. 出身は福祉系大学, 他分野領域の専門学校, 大学とバラバラであった. また, 入職当時には介護や社会福祉系の資格を有してない者は 7 名であった. 入職時にホームヘ ルパー 1 級・2 級や介護福祉士の資格がなく就職した者の中には 「同期で資格をもって入職して いる人がいるので, 入職当時は精神的には焦って一生懸命仕事を覚えました」 「とにかく資格を 早くとらなきゃと思った」 と, 入職時は資格の有無を気にしていた者もいた. その一方で, 採用 した施設側の方針で, 採用時に資格を全く重視していないところもあった. 現時点で取得している介護や社会福祉の分野での資格としては, 18 名中 17 名が介護福祉士の 資格を取得していた. 介護福祉士以外で入職後に新たに取得した資格としては, 介護支援専門員が 3 名, 社会福祉士が 1 名, 認知症ケア専門士が 1 名, 福祉住環境コーディネーターが 1 名であった. 現在, 職場における職位・役職については, 主任が 6 名, 副主任が 1 名, リーダー職が 3 名, サブリーダー 2 名, サブリーダー補佐 1 名・管理職コース 1 名であり, 「特に何もない」 と回答

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した者が 2 名, 「役職はないが教育係・指導係」 としての役割があると回答した者が 2 名であっ た. 但し, それぞれの職場の規模や組織体系, 呼称が異なっているので, 単純に比較はできない. ちなみに, 現在, 役職 (ユニットのサブリーダーも含める) に就いていない 4 名は全員介護福祉 表 1 調査対象者の属性 性別 年齢 介護職歴 (通年) 職位 (役割) 教育 歴① 教育 歴② 他職種 経験 入職前に取得 していた資格 入職後 (調査時点で) 所持している資格 特記事項 1 女性 26 5 年 サブリー ダー補佐 大卒 社会 福祉 なし H1級 介護/介支/ H1級 福祉科高卒経て大 学に 2 女性 30 10 年 リーダー職 短卒 介護 福祉 なし 介護 介護 前職は病院デイケ ア勤務 3 女性 27 5 年 リーダー職 大卒 社会 福祉 なし 社会/ 精神 介護/社会/ 精神/介支 4 男性 27 8 年 管理職コー ス職員 大学 中退 情報 経営 フリー ター他 なし 介護 現在通信教育で社会福 祉士取得目指してる ★5 女性 49 14 年 役職はなし 指導係 短卒 保育 科 保育士, 事務職 保育士・ H2 介護 前職は重度心身障害 児施設勤務 (保育職) 6 男性 34 6 年 サブリー ダー 専門 音楽 音楽デー タ作成 H2 級 介護/H2級/ 認知 前職は一般企業 (PC で音楽データ作成) ★7 女性 28 5 年 サブリー ダー 短大 福祉 以外 事務職 OL なし 介護/H2級/ 住環境 前職は一般企業 (事務職) 8 男性 39 9 年 役職はなし 教育係 大卒 社会 福祉 営業, 旅館業 H2 級 介護/H2級 前職は営業, 旅館 業 ★9 女性 36 9 年 ユニット リーダー 高校 普通 科 販売業 なし なし 前職は販売業(8 年) ★10 男性 36 9 年 なし 大卒 福祉 以外 銀行員 なし 介護 前々職は銀行員, 前 職は病院(認知症ケア) ★11 女性 39 14 年 主任 高校 普通 科 事務職 OL なし 介護 前職は一般企業 (事務職) 12 女性 27 7 年 なし 専門 介護 福祉 なし 介護 介護 13 女性 27 5年 副主任 大卒 社会 福祉 なし 社会 介護/社会 ★14 女性 37 15 年 主任 大卒 社会 福祉 なし なし 介護/介支 15 女性 29 9 年 主任 専門 介護 福祉 なし 介護 介護 16 男性 32 10 年 主任 専門 医療 福祉 なし なし 介護/H2級 ★17 男性 29 6 年 主任 大卒 経営 営業 H2 級 介護/H2級 前職は旅行会社 (営業職) 18 男性 29 7 年 主任 大卒 経済 なし H2 級 介護/H2級 * 「H」 はホームヘルパー, 「認知」 は認知症ケア専門士の略, 「介護」 は介護福祉士, ★はオープニングス タッフ, 「介支」 は介護支援専門員, 「社会」 は社会福祉士, 「精神」 は精神保健福祉士, 「住環境」 は福祉 住環境コーディネーター

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士の資格を取得しており, 教育歴において 1 名が介護福祉士養成課程出身者, 2 名が短大の保育 士養成課程出身者 (重度心身障害児施設勤務経験あり), 1 名が 4 年制大学社会福祉学部出身者, 1 名が 4 年制大学の福祉分野以外の出身者であった. 役職についている 14 名の中に, 普通科高 卒者を含め介護及び社会福祉分野の教育歴がない者が 9 名いた. 介護現場でのこれまでのキャリ アパスにおいて, 学歴や入職までの教育歴はあまり重視されてはおらず, 男女差は特にみられな かった.  生活歴の中での介護経験や高齢者 (障害者) との接点について (図 1) 18 名中, 実際に家族への介護や学校等を通してのボランティアでの介護体験があった者は 4 名 (そのうち 1 名は病院で数日の付き添いをした経験であった.), 直接介護をした経験はないが, 家族の中に障害を抱えた人や介護を必要とする人が存在 (短期の入院時も含めて) した時期があ り, 父母等が介護あるいはその他の支援をしている姿を見ていた経験がある者は 8 名いた. また, 入職するまでは, 介護経験及び介護を必要とする家族や身近な知人がいなかったと答えたのは 6 名であった. 但し, そのうち 1 名は, 「親が福祉分野の仕事についており, 介護についての話題 はよく聞かされていたので, 身近に感じていた」 という状況であった. 介護経験の有無に関わらず, 幼少時から祖父母と同居した経験者や, 別居であっても, 祖父母 や近所の高齢者によく幼少時面倒を見てもらった経験があると答えた者は 10 名いた. 彼らは総 じて祖父母等の高齢者に対して, 肯定的な印象を抱いていた.  介護職を選択した理由・きっかけ (図 2) 介護職を選択したきっかけや理由としては, ①子供の頃から祖父母や近所の高齢者と接する環 図 1 生活歴の中での高齢者 (障害者) との接点 幼少時から 高齢者(障害 者)との接点 がある生活 障害をもつ家族 (親戚)がいた 祖父母や近所の 高齢者に育てられ たり, 面倒みても らった経験がある. (別居・同居) 家族を介護した 経験がある 学生時代にボラ ンティアをした 経験がある 家族が祖父母 を介護してい るのを見てい た経験がある 家族に医療・福 祉従事者がいて, (福祉・介護に ついて) 話を聞 く機会があった 暮らし 介護経験 知識

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境にあったことが影響している, ②学生時代にボランティア等の経験があり, 福祉に関心があっ た, ③人と関わることが大好きだから, ④人の役に立ちたかった, ⑤家族が福祉・医療関係の仕 事についていて, その影響を受けた, ⑥これからは介護保険, 高齢化時代なので将来展望のある 仕事だと思った, ⑦知人・家族の紹介, の 6 つに大別できた. 複数のきっかけ・理由を挙げる者 が多かったが, ①が最も多く 10 名であった. ②は 4 名でボランティアを体験したのは中学, 高 校, 短大, 大学と時期はバラバラであった. ③は 4 名, ④は 4 名, ⑤は 3 名. ⑥, ⑦については 各 2 名であったが, この 2 つについては, 単独回答でなく併せて①∼⑤のきっかけ, 理由を挙げ ていた. 先に記した生活歴と連動しているが, 介護教育を受けた新卒採用者においても既卒で他職種か らの転職者においても, 幼少時から高齢者, 障害者と接する経験があったこと (ボランティア体 験を含め) が職業選択に大きな影響を及ぼしていることを示しているといえる. 具体的には祖父 母や近所の高齢者に可愛がられたり, 話相手になってもらった経験, 介護が必要になった高齢者 を家族が介護していて大変であったことを身近にみた経験, 自分が何もできなかったというもど かしさを感じた経験が挙げられていた. しかし, 10 名のうちで, 介護体験については, 短期間 であっても実際に自分が祖父母等の介護をした経験があるという者は 2 名であった. 直接介護の 体験がなくとも (当時, 幼少であった場合もあり), 介護の様子を主たる介護者 (母親等) のそ ばでみていていろいろ思うことがあったという認識をもっていたのが 5 名であった.  介護職とは何かの認識 (図 3) 貴方にとって介護職とはどのような仕事ですかという問いに対しては, 「利用者がその人らし く生きていくことを支えていく仕事」, 「利用者と喜怒哀楽をともにしていく仕事」, 「一対一での 図 2 介護職を選択した理由・きっかけ 家族が医療・福 祉分野の仕事を していたから 幼少時から祖 父母等, 高齢者 と接する環境に あったから 知人・家族の 薦め 将来性がある 仕事だと 思ったから 人の役に立ち たいという想い があったから 人と関わること が好き 学生時代にボラ ンティア経験が ある(福祉に興 味もった) 高齢者 との接点 暮らし 知識 人と関わりたい想い

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人と人がふれあう仕事」, 「利用者をよく理解し, その気持ちを尊重して関わること」, 「利用者と 一緒に支えあい, 生活を作り上げていくこと」 といった, ①利用者との関わることに主眼をおい た業務であるというとらえ方のグループと, 「利用者の生活を支えていくのと同時に, 利用者に 支えられていること」, 「人 (がどうやって生き, 死んでいくか) をみていく仕事」, 「自分にとっ ての天職」, 「自分の楽しみ, 楽しい仕事」, 「自分にとって生きていく上で大切なこと」 といった, ②自分自身の人生にとってかけがえないもの (生きがい), というとらえ方のグループの 2 つに 大別された. その両方をあげる者もいた. その一方で, 具体的な介護技術や知識を挙げた者が, 1 名いた. その 1 名も 「知識や技術も大切だが, それ以上に大切なのはお年寄りを敬い, お世話 させていただくという気持ち, 相手を気遣う気持ちが大切な仕事」 という, やはり利用者 (相手) との関わりに焦点をあてていた. 介護職にとって 「介護行為」 は必須業務であり, これはマズローの欲求階層説でいうところの 「生理的欲求」 と 「安全の欲求」 を保障するためのものである. 介護職がこの 2 つの欲求を保障 することは大前提ではあるが, 調査対象者は, 更にマズローの次の段階である 「所属と愛の欲求」, 「承認の欲求」, 「自己実現の欲求」 に主眼を置いているといえる. そして, 業務として利用者が これらの欲求を満せるようにするために関わるのみならず, 利用者と関わることで自分自身の欲 求をも満たしていこうとしているといえる.  介護職の専門性とは (図 4) 「介護 (の仕事には) 専門性があると思いますか (介護職は専門職だと思いますか)」 という問 いに対しては, 18 名中 16 名が 「ある (あるいは専門職だと思う)」 と答えた. それでは, どの ような専門性であるかという問いには, 「利用者の想いを尊重したさりげない介護をする技術」, 図 3 介護職とは (マズローの欲求階層と重ねて) 介護職と利用者が関わることで両者の様々な要求を満たしていく職 *介護技術と知識を用いた生活支援 *一緒に生活をつくりあげる *利用者を理解し, 利用者の気持ちを尊重する *その人らしく生きていくことを支える

生理的欲求

安全の欲求

所属と愛の欲求

承認の欲求

自己実現

自分 (介護職) 自身にとっての 生きがいという 視点 利用者と関わる という視点 (利 用者視点) 技 術 と 知 識

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「利用者の生活全体を (利用者と一緒に考え) よくしていくこと, 作り出すこと」, 「利用者の可 能性を引き出す環境をつくっていくこと」, 「利用者にとって何が一番適切かを的確に察知し, 他 職種につなげられること」, 「人間性, 社会性があり人と接することが好きで利用者の生活に関わ ること」, 「知識と経験に基づいた, 生きる価値を理解すること」 といった, 利用者の立場や気持 ちをよく理解し (気づき, 適切にアセスメントでき), 利用者 (の思い, ニーズ) に合わせての 生活を支えることである, というとらえ方をしていた. また, その中でも, 広い知識, アセスメ ント, 他職種との連携する力, 社会性, 人間性, 感性, 観察力, といったキーワードを用いたも のもいた. また, 介護職は専門職であると強調していたのは, 入職前に介護あるいは社会福祉分 野での教育を受け, 介護福祉士あるいは社会福祉士の資格を入職時に既に取得していたものであっ た (5 名). さらに, 技術というコトバを用いながらも, 「相手の気持ちを尊重したさりげない介 護ができる技術」 (1 名) というように, 「介護技術」 そのものではなく 「人との接し方」 に焦点 をあてており, 「介護職の専門性」 として, 具体的な介護技術を取り上げた者はいなかった. 「介 護職」 固有の専門性というよりは, むしろ広く対人援助職に求められている価値観, 知識, 技術, 経験を専門性と認識していた. 「介護職は専門職ではないし, 介護 (の仕事) に専門性はない」 とはっきり言い切ったのは, 保育職からの転職者と入職以前には介護及び社会福祉の教育を受け た経験がなく, 事務職から転職してきた 2 名のみであった. しかし, この 2 名についても, 「(介 護職が) 専門職であってほしい」 「これから専門職となると思う」 と付け加えており, 介護及び 介護職における 「専門性」 が必要であると認識していた. 「介護 (職) の専門性」 については, 研究者の間でもまだ一致した見解はなく, 「専門性の中身 が曖昧」 であり, 発展途上で未だ手探りで専門性の確立を図っている段階である. しかしながら, 「介護職とは何か」 と 「介護 (職) の専門性とは何か」, そして後述する 「介護職としてのやりが 図 4 介護職の専門性とは ኾ㐷⡯ 䈪䈅䈦䈩 䈾䈚䈇䋣 䋨Ꮧᦸ䋩 ೑↪⠪䈫䈱㑐 䉒䉍䉕ㅢ䈚䈩䇮 䇸䈠䈱ੱ䉌䈚䈒䇹 ↢䈐䉎䈢䉄䈱 ↢ᵴᡰេ䉕䈚䈩 䈇䈒䈖䈫 ੺⼔䋨⡯䋩䈮䈲ኾ 㐷ᕈ䈲䈭䈇䋣 ኾ㐷⡯䈮 䈖䉏䈎䉌 䈭䉎䋿 䋨ᦼᓙ䋩 䋼ኾ㐷ᕈ䈏䈅䉎䋾 䋼ኾ㐷ᕈ䈲䈭䈇䋾

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い」, 「現在まで介護職を継続できている理由」 について回答された内容は, 関連・共通している 部分が大きい. 介護職を, 介護の担い手 (介護職) が受け手 (利用者) との関わりの中で, その人らしく生き るために, 「生理的欲求」 や 「安全の欲求」 の段階から 「所属と愛の欲求」, 「自己尊厳 (承認) の欲求」, 「自己実現の欲求」 が満たされるような生活支援をしていくことと認識している. 介護 (職) に専門性がある (あるいはあってほしい) と認識していることが, 仕事に対するモ チベーションをあげ, 介護職としての継続勤務を促進させていることがうかがえる.  介護職としてのやりがいは何か 回答内容を大別すると, ①利用者や家族からの暖かいフィードバック (笑顔, 感謝等) を受け ること (18 名), ②自分が関わることで利用者や家族の役に立てていると実感すること (6 名), ③新人・後輩を育て, 育ってくれること (2 名), の 3 つとなった. ①については具体的には, 「お年寄りが好きだから, 穏やかな表情や笑顔をみせてくれるだけ で頑張れる」, 「利用者の笑顔や利用者・家族から感謝されたり, ほめられたりするとモチベーショ ンがあがる」, 「利用者に心を開いてもらえるようになること」 などが挙げられたが, この①につ いては, 18 名全員が 「介護職としてのやりがい」 として語っていた. ②については, ①と重なる部分もあるが, 「利用者のために対応 (や援助方針) を考えること」, 「看護と違って手厚い介助 (関わり) ができること」, 「利用者が自分を指名してくれる (明確に 必要としてくれる) こと」, 「自分が関わったことで利用者の生活の質がよくなったと実感できる こと」 など, より客観的に自分が関わったことに対する効果に関心が置かれていた. ③については, 直接的な介護ではなく, 「(自分の育てた) 後輩がリーダーとして育ってくれる こと」, 「新人を育てることが自分の喜びであること」 といった後進の指導・人材育成という業務 についての答えが目立った. これは調査対象者がすでに介護職として 5 年以上の勤務歴があるこ と, その多くがなんらかの役職 (主任, 副主任, リーダー等) を経験しはじめていることが影響 しているのであろう. 介護職のキャリアパスにおける指導教育, またマネジメント業務の部分に もあたるのは興味深い.  現在介護職を継続している理由 (図 5) 現在介護職として継続勤務している理由について, 全員が 「やりがいがある」 という表現を使っ ていた. その 「やりがい」 の内容は, ① 「人と関われる介護職そのものの魅力を感じるから」 (8 名), ② 「利用者に必要とされている満足感があるから」, ③ 「仕事に裁量権を与えられている達 成感があるから」 (3 名), ④ 「仲間や上司に支えられ, 自分が成長できたから」 (5 名), ⑤ 「今 の施設だからこそ」 (5 名), の 5 つに大別された. 複数の理由を挙げる者が大半 (18 名中 16 名) であった. ①については, 具体的には 「自分は人が大好きで, いろんな人と出会って関われる介護職を天

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職だと思っている」, 「お年寄りが好きで関わっていきたいから」, 「利用者と毎日関われ, いろん なことを経験するのが好き」 といった, 業務内容そのものをやりがいと感じていることが伺われ た. ②については, 具体的には 「利用者に必要とされたいという気持ちがあるから」, 「お年寄りの 役に立ちたい, 役に立っていると思うから」, 「利用者が感謝してくれて, 必要だといわれるから」 という 「利用者に必要とされる自分」 を感じて, 自己肯定感を感じていることが伺われる. ③については, 「自分のやりたいことをやらせてもらい, 仕事に達成感がもてるから」, 「リー ダーとして後輩を指導し, 育てる充実感がある」 など, 仕事における裁量権が与えられる状況で の達成感が伺われる (後述の 「介護職としてのやりがい」 を参照). これは, 今回の調査対象者 が, 介護職としてのキャリアが 5 年以上であるため, 18 名中 16 名が (施設によって役職等の名 称は様々であるが) 主任, 副主任, 管理職コース, リーダー職, サブリーダー, サブリーダー補 佐, 指導係, 教育係といった, 仲間や後輩を管理・指導・教育する役割を担う立場になったこと も関係しているのであろう. ④については, 「支えてくれる仲間や先輩がいたから (困ったことも) 乗り越えられた」, 「先 輩たちがいろいろ教えてくれ, 自分を育ててくれたから」, 「尊敬できる上司や仲間, 家族に恵ま れたから」 と施設における仲間や先輩のサポートに助けられたという認識があった. ⑤については, 「(尊敬できる) 施設長・上司や先輩がいて恵まれている」 と 「組織としての施 設 (法人) の理念や人材育成システムに魅力がある」 という思い入れが強く, 「職場組織 (ある いはトップ)」 への信頼感や愛着が強かった. ⑤については, ①∼④とは回答としての性質が異なっている. ①∼④の理由が⑤の今働いてい る職場だからこそ達成されていると解釈ができる. そして, ①∼④の状況を持つことによって介 図 5 介護職として継続勤務している理由 やりがいがある 人と関われる 仕事である介 護職そのもの に魅力を感じ ているから 仕事を任される ようになって達 成感があるから 利用者に必要 とされている ことの満足感 があるから 仲間や上司に支 えられ, 自分が 成長できたから (介護職そのものへの想い) (職場への想い) 今働いている施設 だからこそ

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護職のやりがいをより大きくするものであろうと推察できる. また, やりがいがある職場で働い ているからこそ, 介護職として働くことそのものに対しての想いと現在勤務している職場への想 いが育っていくのであろう. 池上 (2008) の高齢者介護施設の介護職員に対するアンケート調査によれば, 介護職の 3 人に 1 人が仕事の継続に迷いがあり, 疲労感, 賃金, 職場のストレスが加重されれば, 「やめたい」 意思に傾いていくことを報告している. また, 仕事を継続したい理由としては, 「介護の仕事が 好きである」 が最も多数で, 続いて 「利用者が好きである」 「生活のため」 「利用者の笑顔がみら れる」 「人の役に立ちたい」 となっている. 今回の調査結果と併せて, 介護職についている人に は, まず大前提として人と関わることが好きであること, 「介護」 そのものが好きであること, 人の役に立ちたい, といった認識を持ち, それがあれば仕事への達成感が得られる, という意識 をもっていることが示唆された. また, 「感情労働」 に焦点をあてた小檜山 (2010) の研究によれば, 介護は, 利用者の感情に 合わせて自分の感情をコントロールしていかなくてはならないことから, 職場において相談でき る管理者や相談窓口が存在していれば, 仕事の満足度を向上させ, 離職意向を減少させる効果が あると報告している. 今回の④の 「仲間に支えられ, 成長している自分がいるから」 や⑤の 「尊 敬できる施設長・上司・先輩に恵まれている」, 「組織としての施設 (法人) の理念や人材育成の システムに魅力がある」 という回答も, 仲間や先輩, 上司からの支援が介護技術や知識のみなら ず, 施設 (組織としての) メンタル面での支えがあることが離職防止のシステムとして動いてい ると考えられる. 今回, 入職前に介護や社会福祉の教育歴がある新卒採用者においては, 入職時の同期との仲間 意識や直接指導してくれた先輩, 上司の存在が, 励みになり, 支えになっていたと認識していた. これは, 新卒で就職する場合, 同期入職と一緒に新人研修を受ける機会が多いことによるもので あろう. そのため, 仲間意識が強くなっていることが考えられる. 一方, 他の仕事からの転職者 は, 年度途中に一人で入職していることもあり, 「同期の仲間と一緒」 の環境ではなく, 入職時 に直接指導してくれる先輩や上司によるサポートをより強く意識していた. メンター制25やプリセプター制26, チューター制27, あるいはそれに近い先輩が新人を指導する 体制を取り入れている施設で働いている場合で, 1 名のみ 「自分の担当の先輩職員との相性が合 わない場合は, 必ずしも良いとはいえない」 という意見はあった. しかし, 大多数は, 「利用者 への接し方など, やさしく教えてくれたり, 励まされた」, 「1, 2 年先輩だったので, 自分たち 25 メンター制度とは, 経験豊かな先輩社員が, 新入社員に対して仕事面・精神面での支援を行い, 新入 社員の早期自立を目指す制度のこと. 26 プリセプター制とは, 看護教育においてはじめられた, 一人の新人 (Preceptee) に一人の先輩看護 師 (Preceptor) が付いて, ある一定期間マンツーマンで教育指導を行なう指導方法の制度のこと. 27 チューター制とは, 新任職員育成制度であり, 同じ職場の先輩職員がチューター (=指導員) となり, マンツーマンで目標設定から日々の業務の指導・相談役を行う制度のこと.

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のお手本にした」, 「厳しい指導のもとに鍛えられた」, 「仕事でもプライベートでもよく相談した」, 「ちょっとしたことでも相談できるのは心強かった」, 「新人だけじゃなくて, 中堅の職員にも同 じようなシステムがあるといい」 と, これらの制度を高く評価していた. さらに, 自分が (先輩 として後輩とペア組む) 担当者になったときに 「自分の新人の頃を思い出して, いろいろやって あげたい, 教えてあげたいと思いました」, 「自分にとっても, 勉強になりました」 と答えている. 先輩職員からのこういったマンツーマンの指導を受けた経験が, 今度は自分が新人を育てること の意欲につながっている傾向がみられた. 今回の調査対象者が 5 年以上の介護職経験があるという条件であったためか, 各々の施設の立 ち上げから働いているオープニングスタッフが 7 名いた. 彼らの場合, 特徴的なのは, 先輩とい うよりは施設長や理事長, 上司を 「尊敬できる人」, 「ひっぱっていってくれる人」, 「私たちのこ とをよくみていてくれる人」 と認識していた. ある意味, 自分たちの将来の役割モデルのように とらえている者もいた. 彼らには, 自分たちが施設長や理事長, 上司や先輩, 同僚と一緒に今の 施設 (職場) を作り上げてきたという 「施設に対する思い入れ」 そして 「同僚への想い」 が強い という共通点があった. 施設の理念や組織そのものを, 自分たちが関わって作ってきたという意 識があり, 「職員同士の絆も強い」 と明言する者もいた. ちなみに, この 7 名のうち 5 名は入職前に介護に関する教育歴はなく, 入職時には介護や福祉 に関する資格がない他職種からの転職者であった. 介護職としてのやりがいは, ①利用者や家族からの暖かいフィードバック, ②自分が関わるこ とで利用者や家族の役に立てていると実感すること, ③新人・後輩を育て, 育ってくれることの 3 要素があげられたが, これらはすべて, 現在介護職として継続できている理由とリンクしてい るといえる.  介護職を継続するにあたっての不安や障害 (図 6) 18 名全員が何かしら介護職を継続するにあたっての現在及び今後の不安や障害を挙げていた. 大別すると, ①体力や健康上の問題 (11 名), ② (女性の場合) 結婚・出産をした場合に, 働き づらくなるのではないかという不安 (女性 11 名中 5 名), ③責任ある仕事 (役職につくこと) や マネジメントが苦手 (4 名), ④女性が多い仕事ゆえに (人間関係に) 気を遣うことが多くて気 疲れすること (3 名), 利用者が亡くなるたびに, ショックであり, 虚しさを味わうこと (3 名), ⑤賃金 (給料) が安い (2 名) の 5 つに大別された. なかでも, ①については, 具体的には, 腰痛 (悪化) の心配や疲労がたまることでの身体的つ らさ, 夜勤等で体力が続くかどうかの不安が挙げられていた. 「今はまだいいが, これから年を とってくると, 夜勤は身体的につらくなる. 年をとったら, 日勤のみで働きたい」, 「腰痛が悪化 したら, (働きたくても) 働けない」 という切実な想いを抱えていた. ②については, 5 名のうち既婚者 (新婚) 1 名, 独身者 4 名であったが, 「結婚相手によっては, 仕事を理解してもらえるかどうかとか, 通勤条件が厳しくなる可能性がある」, 「(結婚はともか

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く) 出産したら夜勤は無理だと思う.」, 「同じ職場で出産しても働き続けている女性はほとんど いない (実家等からの全面サポートがない限り) ので, 働きづらい環境になる」 といった認識を もっていた. 託児所のある施設もあったが, 独身者の場合は, 配偶者の協力がどれだけ得られる かが未知数のため, 不安感が強かった. ③については, 役職につくことで介護業務以外の業務の割合が増え, 仕事内容が変化すること への抵抗感が強く, 「介護は好きだけど人をつかったり, 責任ある仕事は苦手」, 「マネジメント 業務には興味がないし, 苦手である」, 「介護業務以外は煩わしい」, 「直接人と接する介護職が好 きだから」 という回答をした. 4 名のうち 2 名は主任職, 1 名はリーダー職, 1 名は役職無しの 状況であった. 厚生労働省が示す介護職のキャリアパスに関する 「介護労働者の確保・定着に関 する研究会 (中間とりまとめ)」 (2008) に, 「介護労働者の中には管理職になるよりも現場で常 に利用者と接し, 介護サービスを提供したいものがいる」 と指摘されているが, これに該当する. ④と⑤は精神的疲労感, バーンアウトの傾向を示すが, ④については 3 名のうち 2 名が男性で あり, 「(女性職員への対応は) 皆同じように接するようにしないといろいろあるので気を遣う」, 「(女性同士) 独特の雰囲気があって, 時々入っていけない」 と感じていた. ⑤は 「利用者さんが亡くなると (そのたび) にショックで疲労感がたまっていく」, 「利用者が 亡くなると虚しさが募る」 ことを挙げ, 利用者の死に直面することへの苦痛感を示していた. ⑥の給料 (賃金) の安さについては, 2 名ともこれだけを単独に挙げていなかった. 他に 「夜 勤が身体的につらくなっていく」, 「結婚・妊娠したら働きづらそうで周囲の理解を得られるか不 安」 と①あるいは②についての不安や障害を同時に挙げていた. 介護労働安定センター (2010) の調査によると, 介護労働者の労働条件の不満としては, 「賃 金が低い (60.5%)」 が一位であり, 続いて 「人手が足りない (39.4%), 有給休暇が取りにくい 図 6 介護職を継続するにあたっての不安や障害 個人特性 体力や 健康上の問題 結婚・出産で 働きづらくなる (女性) 給料が安い 責任ある仕事 (マネジメント) が苦手 女性の多い職場な ので, 人間関係に 気を遣い, 疲れる 利用者が亡くなる たびにショックや 虚しさを感じる  身 体 面   精 神 面  雇用条件

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(36.9%), 社会的評価が低い (36.4%), 身体的負担が大きい (33.0%), 精神的にきつい (31.1 %), 休憩が取りにくい (30.5%)」, となっている. 今回の調査対象者は介護職としての継続勤 務にあたっての不安材料や障害として, 筆頭に挙げた理由は, 賃金 (給料) ではなく, 腰痛や体 力等の身体的負担であったのは興味深い. 今回のインタビューの結果は, 池上 (2008) の調査結果同様の傾向を示した. 池上の調査は, 介護職の 3 人に 1 人は継続に迷いがあり, 健康状態や疲労感, 賃金, 職場のストレスが加重され れば 「辞めたい」 意思に傾き, 仕事の達成感, 働き甲斐, 仕事に対する姿勢 (介護が好き, 利用 者が好き) が高まれば 「続けたい」 意思に傾いていくと指摘する. さらに, 介護職を続けるかを 迷っている理由が, 賃金よりも心身の健康状態が最も影響している要因であり, 身体的疲労や精 神的疲労によって健康を損なうことで, 介護職の継続がこれまで以上に不健康な状態になるおそ れがあり, このことが継続に迷いを生じさせると報告している. 年収 (月収) については, 今回は常勤職のみを対象とした調査であったが, 率直に回答してく れた人もいれば, 曖昧にお茶を濁す回答をする人もあり, 全数のデータはとれなかった. また, 夜勤の回数等によってもかなり額が違い, 0 回 (施設によっては, リーダー職等は夜勤なしのと ころもある) から月 7 回ほど入っている人もおり, 「夜勤手当は収入になるけど, 身体的にはき ついので年をとったら夜勤はできない」, 「夜勤がなくなると生活が苦しくなる」 といった, 夜勤 を巡って手当をとるか身体的負担を回避するかという選択がなされていた. この夜勤業務が介護 職員にとって大きな身体的負担であることが示唆された.  将来のキャリアビジョン (図 7) 将来も介護職として働き続けたいか, どこでどのように働きたいか (あるいは働きたくないか) について語ってもらった. 将来に関しては, 明確なキャリアビジョンをもっている者から, 「(将 来) 結婚次第でいろいろ変わるかもしれない」 や, 問われるまであまり考えたことがなかった様 子の者までいた. また, 業務の中の比重はまちまちであったが, 「できればこれからもなんらか のカタチで介護に携わっていたい」 等, 全員が, 現在自分が介護職であることについては肯定的 にとらえていた. 将来の希望を大別すると, ①介護職以外の違う業務に (も) つきたい (9 名) ②できれば介護職のみを続けたい (ずっと直接利用者と関わる業務でいたい) (6 名), ③まだわ からないや将来的には状況次第 (3 名) の 3 つに大別された. ①については更に, 「将来は管理職になってマネジメント業務につきたい (施設長等)」, 「ケア マネージャーの業務につきたい」, 「相談員やレクワーカーもしたい」, 「後輩を育てたいので, 人 材育成の業務につきたい」 というように, マネジメント業務志向, 他職種へのシフトあるいは職 務拡大志向, 人材育成 (教育・指導) 志向の 3 つの方向性に分かれた. ②については, 「ずっと今のまま介護職を続けて利用者と直接関わっていきたい」, 「出産・結 婚したら日勤・パートに変わって働き続けたい」, 「いつまでも現場に関わりたい」 等, 介護職と しての業務そのものや介護現場への愛着が強かった.

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③については, 「結婚次第でどうなるかはわからないので, 介護職は好きだけど全然違う仕事 をすることになるかもしれない」, 「今のところ介護職でいいけど, それに固執しない. 将来的に は福祉に関わる仕事ができたらいいかなと思うくらい」 と, 現状には肯定的であるが, 将来に対 して明確なビジョンは持たない者であった. また, ①について, 何故その業務につきたいのか, について問うと, 積極的に望む者ばかりで はなく, 「身体的に (介護職として) 働くのがきつくなるだろうから」, 「年をとってきて体がダ メになって動けなくなるので」 等, 健康不安から他の業務を志向する者が目立った. ②について も, 「体がきかなくなったら, ケアマネージャーの資格をとる」, 「直接お年寄りと関わる介護を 続けたいが, 体が悪くなったら仕方ない」 といった, 介護職を続けたいが, 今後もし断念するこ とになるとしたら, それは健康問題・体力が原因であろうという見通しを持っていた. また, 積 極的に望んではいないが, 事情が許さなければ①におけるマネジメント志向の業務, 他職種への 転換等を考えざるを得ないという認識があった. ここでも, 「健康問題・体力」 が大きな影響力 をもっていた.

3. 介護職の人材育成に向けて

利用者に質の高いサービスを提供できる介護人材はどのようにしたら育成できるのかについて, 過去―現在―未来の 3 つの側面に分けて把握することが重要だと考える. まずは職業として, 適 性がある人に介護職を選択してもらうまでの時期である (過去). 次に, 介護職になることを選 択した人が, 教育あるいは現場研修の場で適切なサービス提供ができる介護職として養成され, 日々働いている現実である (現在). そして, 成熟した介護職かつ所属施設の組織を支える構成 図 7 将来のキャリア志向 (希望) 管理職・マネジメ ント業務志向 職種転換・職域拡 大志向 (他の職種 の業務もやりたい) 人材育成の業務 志向 (後輩指導) 体がきかなくなっ たら, 働き方検討 このままのスタイ ルで働きたい 介護職以外の 業務につきたい 介護職として継続 勤務につきたい まだわからない (状況次第) 希望する 働 き 方 *今の職場で働き 続けるかどうか?

参照

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