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<第22回山梨医科大学CPC記録> 広範な縦隔リンパ節,肺転移を来した肝細胞癌切除後再発症例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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症例提示 松田政徳助手(外科学 1) 症例: Y. S. 37 歳,男性。(ID168-377-0)(1243) 主訴:心窩部痛。 家族歴:祖母が肝硬変で死亡。父親が肝硬変, 肝細胞癌で死亡。同胞二人が B 型肝炎ウイ ルスキャリアー。 既往歴: 21 歳時,交通事故で右下肢の複雑骨 折。この時輸血を受けた。1995 年,十二指 腸潰瘍。 患者背景:アルコール:焼酎 3 合/日を 15 年 間。タバコ 20 本/日を 15 年間。輸血歴あり。 臨床経過: 1989 年に健康診断で B 型慢性肝炎 と診断されたが,放置していた。1995 年 8 月から心窩部痛が出現。近医を受診したとこ ろ,腹部超音波検査で肝外側区域に最大径 8.2 cm の低エコー腫瘤像を指摘され,当院を 紹介,1995 年 10 月,第1内科に入院した。 外側区域の多発性肝細胞癌の診断で第1外科 転科,1995 年 11 月 14 日,肝外側区域切除術 および胆嚢摘出術を施行した。 <原発性肝癌取扱い規約> L,Mt,8.0 × 7.0 × 5.2 cm,H1,Eg,Fc(+),Fc-inf(−), Sf(+),S0,N(−),Vp1,Vv0,B0,IM1, P0,TW(+),Z2,T3,N0,M0,StageIII, 相対非治癒切除。 <切除標本の病理組織学的所見> 腫瘍は,核 に切れ込みと大小不同のめだつ異型細胞が巣 状あるいは偽腺管状に増殖している。中から 低分化型肝細胞癌で,周辺に衛星結節を伴い, 被膜形成を伴うが,被膜外浸潤は明らかでな く,肝静脈と門脈の二次分枝より末梢に脈管 侵襲が存在した(vv1, vp1)。非癌部肝臓は, 乙’型の肝硬変の所見を呈していた。 手術後の 11 月 24 日,術後補助療法として 左右の肝動脈より TAI を実施した。12 月 6 日退院。退院後は外科外来で経過観察を行っ た。1996 年 4 月ごろより AFP の上昇を認め, 6 月の腹部 CT では,肝内再発(内側区域に 第 22 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 10 年 12 月 2 日(水)午後5時 15 分− 7 時 場所:臨床講堂大講義室 司会:松本由朗教授(外科学 1),川生 明教授(病理学2)

広範な縦隔リンパ節,肺転移を来した

肝細胞癌切除後再発症例

要 旨: 37 歳の男性。6 年前 B 型慢性肝炎と診断されたが放置していた。心窩部痛が出現,肝腫 瘍を指摘され入院,外側区域の多発性肝細胞癌の診断で,区域切除と胆嚢摘出術を施行し,補助 療法として TAI を実施した。術後 5 ヵ月,腹部 CT で肝内再発が疑われ,さらに両肺に転移を認 め,CDDP の静注化学療法を開始した。しかし腫瘍マーカーは上昇を続け,肺転移の増大と肺門, 縦隔リンパ節転移が増大し,外来通院で保存的療法を行っていたが,呼吸困難と黄疸が増悪し, 喀血も出現,呼吸不全と腎不全が進行し,術後 2 年 6 ヵ月で死亡した。 剖検の結果,残肝に門脈と肝管に浸潤する壊死傾向の著明な多発性の肝細胞癌の再発と両肺, 肺門と縦隔リンパ節の他,脾,腎および骨髄に転移を認めた。リンパ節の転移は肺からの 2 次的 転移とみなされ,直接死因は肺転移と腫瘍の血管浸潤に伴う肺の出血性梗塞による呼吸不全と診 断された。また残肝の非癌部は線維化の強い慢性肝炎の像で,完成された肝硬変の所見はなかっ た。

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淡い染まりを認めた)が疑われたが,腹腔内 リンパ節腫大は明らかでなかった。その後も AFP の上昇傾向を認めたため,肝外転移の可 能性を考え,6 月 26 日骨シンチグラム,胸 部 X 線検査,胸部 CT 検査を行った。骨シン チグラムでは骨転移の所見はなかったが,胸 部 X 線検査,CT 検査で両肺に多発性の腫瘤 像を認めた。肝細胞癌の肺転移の診断で, CDDP80 mg/m2の静注化学療法を月 1 回の 割合で 9 月下旬から 12 月にかけて計 4 回行 い,経口的にはサンフラール S の投与を行っ た。しかし腫瘍マーカーは上昇しつづけたた め,97 年 2 月から 8 月まで断続的にノバント ロン 10 ∼ 20 mg/body の静注化学療法を計 4 回行った。しかし効果は認められず,肺転移 の増大と肺門,縦隔リンパ節転移の増大を認 めた。また肝内転移の増加,増大も認められ た。9 月下旬から咳嗽と軽度の呼吸困難が出 現した。本人,家族の希望もあり,これ以降 は,腫瘍に対する積極的な治療は行わず,症 状の軽減と自宅での生活を可能な限り延長さ せるための保存的治療を外来通院にて行っ た。11 月頃から断続的に 38 度台の発熱を認 めた。腫瘍マーカーは上昇し続け,呼吸困難 が増悪したため,1998 年 2 月 24 日再入院し た。呼吸困難苦に対し塩酸モルヒネを中心と した治療を行った。4 月より黄疸が増悪し, 喀血も出現した。5 月 7 日,窒息状態となり 挿管,人工呼吸管理とした。その後,呼吸不 全,腎不全が進行し,5 月 11 日午前 6 時 51 分死亡した。

95.10 HBsAg(+), HBsAb(−), HBeAg(−), HBeAb(+), HBcAb(+), HCV-Ab(−) HBV DNA polimerase 76 cpm ICG157.4 %

op+TAI 95.11 95.12 96.4 96.10 97.1 97.9 97.12 98.2.25 98.4.9 98.5.8 Alb (g/dl) 4.3 3.5 4.2 4.1 4.3 4.0 3.0 2.9 2.5 2.5 CHE (IU/l) 386 182 358 260 261 167 130 96 67 T-Bil (mg/dl) 0.6 0.6 0.6 0.6 0.8 0.6 0.5 0.7 6.9 10.8 D-Bil 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.3 4.3 6.9 AST (IU/l) 36 30 21 25 29 22 44 53 277 1359 ALT (IU/l) 60 113 30 37 48 22 52 35 119 761 ÎGTP(IU/l) 142 127 42 42 71 59 156 258 1170 441 LDH (IU/l) 137 157 125 139 125 118 518 2358 BUN (mg/dl) 10 20 84 CRE (mg/dl) 0.64 0.83 2.94 NH3 (Òg/dl) 47 PT % (%) 114 52 84 108 100 88 59 76 76 42 WBC (/Òl) 6500 6500 6470 5670 5740 2170 3540 3490 4160 10540 RBC (104/Òl) 446 344 485 448 344 386 317 293 308 331 Plt (103/Òl) 25.6 12.4 15.6 20.4 12.8 12.0 13.1 17.8 15.1 12.5 AFP (ng/ml) 29100 748 (324) 818 2399 6252 102581 125330 187317 10090 350100 (L3:52.8 %) PIVKA-II (AU/ml) 0.448 < 0.008 < 0.008 0.084 7.78 (5210) (52) (104) CEA (ng/ml) 1.5 血液検査所見:

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画像所見:スライドにて提示。 剖検目的: 01)残肝再発は肝内転移によるものと考えて良 いか。多中心性発癌の可能性はあるか。 02)残肝の再発腫瘍の進展状況。腹腔内転移の 有無。 03)肝細胞癌の肝外進展状況。特に肺転移と縦 隔リンパ節転移の状態と進展様式について。 04)肺転移があったにもかかわらず比較的長期 生存しえた要因。化学療法の効果はあった か。 05)喀血は肺転移や縦隔リンパ節転移によるも のか,その他の原因によるものか。 06)呼吸不全,腎不全の原因は。 検査値分析 尾崎由基男教授(臨床検査医学) AFP の半減期は 3 日程度であり,hepatoma が完全に切除されていれば術後 2 ∼ 3 週間で AFP は正常値に戻るはずである。しかし,本症 例では最も低下した場合でも 748 ng/ml と正常 値である 10 ng/ml を大きく超える数値を示し ていた。よって,正常と考えられた残存肝臓に 腫瘍が存在するか,既に癌転移が起きている可 能性が考えられる。 病理所見と診断 近藤哲夫大学院生(病理学 2) <病理所見>(剖検番号 1243)死後 2 時間 54 分で解剖。 <肉眼的所見> 01.外表:身長 169 cm,体重 62.1 kg。眼球結 膜・皮膚に黄疸,眼瞼結膜に貧血を認める。 頚部中央に気管切開孔,腹部正中・両下肢に 手術瘢痕を認める。表在リンパ節蝕知せず。 四肢に浮腫を認めず。 02.体腔液:左胸水 50 ml 黄色透明,右胸水 100 ml 黄色透明,心嚢水 7 ml 黄色透明,腹 水 450 ml 黄色透明。 03 .心臓( 2 2 0 g ):左室壁 11 m m ,右室壁 3 mm,梗塞巣なし。冠状動脈,弁脈に著変 なし。 04.大動脈その他血管系:軽度のアテローム硬 化を認める。大動脈周囲にリンパ節の腫脹は みられない。右総腸骨静脈から下大静脈にか けて壁在性の血栓を認める。 05.肺臓(左 400 g,右 680 g):肺と胸腔の癒 着はみられない。左肺には 3 cm までの腫瘍 の結節を多数認める。右肺には最大で 6 cm までの腫瘍結節が多発。右肺上葉に 10 cm ほ どの出血性梗塞があり,右肺尖静脈内に腫瘍 塞栓を認める。左右肺門リンパ節の腫瘍転移 による腫大を認める。左肺に bulla をいくつ か認める。 06.頚部・縦隔:頚部リンパ節・縦隔リンパ節 には広範に腫瘍転移によるリンパ節の腫大が みられる。奇静脈は腫瘍によりほぼ完全に閉 塞している。 07.肝臓(2180 g):外側区域切除術後。表面 は平滑で,一部横隔膜との癒着あり。割面は 胆汁のうっ滞により緑色調。最大 9 cm の癒 合性の多発の腫瘍増生を認め,壊死を伴い多 くは白色調であるが,一部は緑色を呈する。 肝内門脈には腫瘍塞栓が広範にみられ,ほぼ 閉塞している。一部肝内胆管にも腫瘍塞栓が あり,総胆管内にも長さ 2 cm ほどの緑色の 塞栓を認める。一部末梢胆管の軽度の拡張が みられた。 08.膵臓(十二指腸と合わせ 110 g):著変な し。 09.胃:内部に 1,300 ml の褐色調の液体を認め る。食道・胃・十二指腸に明らかな出血性病 変は認めない。 10.小腸・大腸:小腸・大腸とも粘膜に充血が みられる。上行結腸に数 mm の憩室を多数 認める。 11.腎臓(左 200 g,右 190 g):両腎とも皮髄 境界は明瞭で,皮質の厚さは 7 mm。右腎に 1 cm 程度の梗塞を 4 箇所認めた。 12.前立腺:著変なし。 13.精巣:著変なし。 14.甲状腺(19.2 g):著変なし。 15.副腎(左 4.5 g,右 5.2 g):著変なし。 16.脾臓(220 g): 3 cm と 1 cm の腫瘍の転移

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を認める。1 cm の腫瘍の周囲は出血性梗塞 をおこしており,割面で梗塞周囲の脈管内に 微小な塞栓を認めた。 17.骨髄:第 4 腰椎に緑色調の腫瘍転移を認め る。 組織学的所見 01.肺臓:右肺上葉は出血性梗塞を呈している。 肺転移性腫瘍,肺尖静脈内の腫瘍は中分化程 度の肝細胞癌であり,腫瘍には壊死が強く認 められる。ごく軽度であるが腫瘍周囲や両下 肺に気管支肺炎像を認める。全体的に肺胞の 肺気腫変化を認める。 02.頚部・縦隔:リンパ節に強い壊死を伴う肝 細胞癌の転移を認める。 03.肝臓:肝実質には軽度ながら focal necro-sis が散見され,門脈域にはリンパ球の軽度 の浸潤と門脈域の線維性の拡大,線維性架橋 形成がみられ,部分的に結節形成傾向が認め られる。慢性肝炎の所見で前肝硬変状態と考 える。 非腫瘍部ではオルセイン染色陽性の肝細胞が 散見され,HBs 抗原の存在を意味する。管 内胆管の拡張は部分的に軽度に認める。腫瘍 は中分化肝細胞癌(Edmondson Ⅱ)で,肉 眼的に認めた門脈,肝内胆管,総胆管内の塞 栓も同様の腫瘍である。腫瘍には壊死が目立 つ。 04.腎臓:右腎の梗塞巣の 1 箇所で楔型梗塞巣 につながる小動脈内に腫瘍塞栓を認める。 その他にも右腎には数箇所小動脈内腫瘍塞栓 を認めた。 05.脾臓: 2 箇所とも肝細胞癌の転移で,1 個 所は出血性梗塞を合併しているが,責任血管 の塞栓は組織学的には確認できなかった。 06.右総腸骨静脈:血栓内に好中球の浸潤があ り,感染を示唆する。 07.骨髄:正形成の骨髄で,3 系統とも通常の 分化,数を認める。緑色の部位は肝細胞癌の 転移であった。 図 1. 手術標本。肝外側区域切除標本で左側が切除断端。最大径 8 cm の塊 状型の腫瘍を認める。

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図 2.剖検時残肝。最大径 9 cm の癒合状の腫瘍が多発,肝内の門脈には腫瘍が充満 している。肝内胆管にも腫瘍が浸潤し,一部では腫瘍により胆管がほぼ閉塞 している(写真左やや下方)。

図 3.腫瘍の強拡大。腫瘍細胞が索状に増殖しており,一部には偽腺 管を認める。中分化の肝細胞癌の所見である。× 100,HE

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図 4.非腫瘍部肝臓。門脈域の軽度のリンパ球浸潤と線維性拡大, bridging fibrosis がみられる。部分的に結節傾向があり,F3 の慢 性肝炎の所見である。× 40,HE

図5.右肺。上葉には最大で 6 cm の腫瘍の転移があり,右肺尖静脈の腫瘍塞栓によ り,右肺上葉(右側)は出血性肺梗塞を呈している。

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<病理診断>

01.中分化肝細胞癌,再発

1)手術材料:病理検査番号 45480 Hepato-cellular carcinoma: Edmondson II >III eg, fc(+),fc-inf(−),sf(+),s0,vp1, vv1,b1,tw(+) 2)血行性転移:残肝,左右肺,脾,腎,骨 髄 3)リンパ行性転移:縦隔リンパ節,左右肺 門リンパ節 4)腫瘍関連病変 a.右肺尖静脈腫瘍塞栓および右肺上葉 出血性梗塞 b.奇静脈腫瘍塞栓 c.肝内胆管・総胆管腫瘍塞栓および閉 塞性黄疸 d.門脈腫瘍塞栓 e.脾梗塞 f.腎梗塞 02.B 型慢性肝炎(前肝硬変状態) 03.その他 1)右総腸骨静脈∼下大静脈血栓症 2)肺気腫 3)気管支肺炎 死因:呼吸不全(肺出血性梗塞,転移性肺腫瘍, 気管支肺炎,肺気腫) <考察> 肝癌術後の残肝よりの再発で,肺・縦隔リン パ節に広範な遠隔転移を認めた症例である。検 討事項他について考察する。 01.残肝再発は肝内転移か多中心性発癌か。 前回手術時,すでに腫瘍の静脈浸潤を認めて おり,剖検時残肝の肝内に分化が同様な腫瘍 が多発していることより,肝内転移によるも のと考えるのが妥当であるが,多中心性発癌 を正確に論じるには clonality の遺伝子学的 検索が必要である。 02.残肝の再発腫瘍の進展。 大小の結節が癒合状に多発しており,塊状型 の肝細胞癌の所見である。肉眼的には門脈に は腫瘍が充満しほぼ完全に閉塞している。管 内胆管も一部で腫瘍によりほぼ閉塞してい 図6.縦隔(右が口側)。数 cm に腫大したリンパ節転移を多数認める。

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る。腹腔内転移は認めない。 03.肝細胞癌の肝外進展状況。 肺,肺門・縦隔リンパ節,脾,腎,骨髄 04.長期生存しえた要因。 前回手術時には肝細胞癌には壊死は認められ ないが,剖検時の肝,肺,リンパ節の腫瘍に は壊死が強く認められたことより,化学療法 の効果があったと推察される。 05.喀血の原因。 喀血の原因は右肺尖静脈腫瘍塞栓にともなう 循環障害で出血性梗塞を来したためである。 その他腫瘍の肺転移は多数認めるが明らかに 出血している部位は認めない。 06.呼吸不全・腎不全の原因。 呼吸不全は主に肺出血性梗塞および肺転移性 腫瘍によると考えられるが,その他に肺気腫, 気管支肺炎も関与したと思われる。臨床経過 をふまえ最終的な死因を呼吸不全とした。 腎不全の原因としては腎に明らかな病理変化 を認めないことより,腎前性の腎不全が考え られるが,断定はできない。 その他:組織学的に確認できなかったが,腎臓 の梗塞巣,脾臓の出血梗塞も腫瘍の塞栓によ るものと考えられる。

参照

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