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<総説>網膜中心静脈閉塞症の病態と治療 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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網膜中心静脈閉塞症の病態と治療

山梨医科大学 眼科学教室 抄 録:網膜中心静脈閉塞症は網膜中心静脈に血栓性の閉塞が生じることによって発生する網膜循 環障害で,螢光色素を使った造影検査であるフルオレセイン螢光眼底造影検査にて病態を捉えるこ とができる。微小循環系の疾患であっても,全身的な血栓傾向が関与していて,分子マーカーによ る診断が有用な場合がある。原因としてプラスミノーゲン異常症などの先天性血栓性素因による場 合がある。合併症である血管新生緑内障の予防には虹彩,隅角の新生血管が生じ始めた時期に行う 汎網膜光凝固術が有効である。視力に影響する黄斑浮腫は光干渉断層計にて視覚的に病態を捉える ことが可能である。 キーワード 網膜中心静脈閉塞症,トロンビンアンチトロンビンⅢ複合体,レーザー光凝固術,光 干渉断層計 はじめに 網膜中心静脈閉塞症は網膜中心静脈が視神経 乳頭の篩状板を通過する付近で閉塞し,その結 果上流の網膜静脈,毛細血管の内圧が亢進して 網膜実質に出血浮腫をきたす病態である。一般 的な言葉である眼底出血のかなりの部分が網膜 中心静脈閉塞症と分枝閉塞症に一致する。眼底 の出血性病変であるとの認識が高いが,その本 質は血栓症である。代表的な血栓症である下肢 深部静脈血栓症などと共通する点がある反面, 眼球内の微小循環系に特有な側面もある。本稿 では本症の病態と治療に関して,専門外の方々 にも興味深い点を中心に,山梨医大眼科学教室 での研究成果を含め最近の知見の概説を行う。 網膜微小循環系 眼底は全身の中でも,毛細血管まで含めた微 小循環系を生体で観察できる数少ない部位のひ とつである。内頸動脈から分岐した眼動脈は視 神経管を通って眼窩内に進入し脈絡膜を潅流す る毛様動脈を分岐した後,網膜中心動脈として 視神経内を進み,視神経乳頭から眼底の網膜内 に分布する。さらに網膜毛細血管を経て網膜中 心静脈となる。網膜中心動脈−毛細血管−網膜 中心静脈より成る網膜血管ユニットはフルオレ セイン螢光眼底造影検査にて明瞭に描出され る。これはX線を使用するほかの臨床分野での 造影検査と異なり,螢光色素とフィルターを用 いる造影検査であり,毛細血管のような細い血 管像まで観察できる。頸動脈撮影では網膜中心 動脈の上流である眼動脈がかろうじてみること ができるのに対して,フルオレセイン螢光眼底 造影検査では眼動脈の枝である網膜中心動脈よ りもさらに末梢の微小循環が対象であり,その 〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 1999 年 10 月 29 日 受理: 1999 年 11 月 5 日

総  説

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感度の高さが理解できよう。螢光色素とは吸収 波長よりも長波長光を放出する物質で,フルオ レセインナトリウムの場合,青色光を吸収して 緑色光を放出する。そこで眼底を青色光で照ら し,眼底カメラの中の入射光路に黄色のフィル ターを置くと,通常は青色光は黄色フィルター を通過できないのでフィルムには何も写らず真 っ暗になる。ところが眼底の血管にフルオレセ インナトリウムがはいっていると,青色光を吸 収して緑色光を発するので,黄色フィルターを 通過してフィルムに血管像が感光する。(図1) この原理による眼底血管造影法は 1961 年に米 国の大学院生であった Novotny らが発明した1) そしてその後の網脈絡膜循環障害の種々の病態 理解の進歩にはこの技術が大いに貢献した。現 在螢光眼底造影検査としては,網膜血管をみる フルオレセイン螢光眼底造影検査以外に,赤外 領域で螢光を発するインドシアニングリーンを 使った赤外螢光眼底造影検査も臨床応用され, 網膜よりも深層の脈絡膜循環についても生体観 察が可能になってきている2) 網膜中心静脈閉塞症の病態 フルオ螢光眼底造影写真では網膜中心静脈が 拡張蛇行して螢光色素が静脈から漏出してく る。(図 2)これは中心静脈が視神経乳頭より も中枢部で閉塞して,網膜内の静脈内圧が上昇 していると考えると理解できる。閉塞の本態が 血栓による閉塞であることは Green ら3)によ って 28 例の病理像を検討して明らかとなった。 眼球は精密光学機器としての役割を担っている ので,特に網膜や視神経部位では生検による病 理検査が行えない点が臨床医学他分野と異な る。網膜静脈閉塞症が血栓によるものであると いうことを病理学的に証明するには,本症が発 症して間がない患者さんで他の原因で急死した ような症例における剖検例を集める以外に方法 がなかった。網膜中心静脈閉塞症のリスクファ クターとして高血圧,動脈硬化症,糖尿病,緑 内障が知られている。このうち動脈硬化症の関 与は視神経乳頭内で網膜中心動脈と中心静脈が 互いに血管外膜を共有していることと関係があ るとされている。このことは網膜静脈分枝閉塞 症における静脈閉塞部がほとんど常に,動静脈 が外膜を共有する動静脈交叉部位で発生するこ とでも納得できる。さらにこの場合,70 − 90 %の確率で動脈が静脈の上を走る交叉であ ることも静脈閉塞の病態を考える上で興味深 い4) 網膜中心静脈閉塞症の薬物治療 静脈血栓症として下肢などの深部静脈血栓症 図 2 網膜中心静脈閉塞症のフルオレセイン 螢光眼底造影写真。視神経乳頭に集ま る網膜中心静脈の枝が拡張蛇行し,螢 光色素が漏出している。 図 1 眼底カメラの光路図。下方の照明光源から出 た光は青色フィルターを通って青色光となり 眼底を照らす。眼底からはフルオレセインナ トリウムが青色光を吸収して緑色光を発する ので,青色光の反射光以外に緑色光がかえっ てくる。カメラの前にある黄色フィルターは 短波長光である青色光はカットするが緑色光 は通過させるので,フルオレセインナトリウ ムの像のみがフィルムに感光することにな る。

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では凝固能が亢進していて,その分子マーカー であるトロンビンアンチトロンビンⅢ(TAT), プロトロンビンフラグメント(PF1 + 2),D ダ イマーなどが高値となることが知られている。 網膜中心静脈は下肢深部静脈に比べるとはるか に細い静脈であるが,TAT を調べると上昇し ている場合がある。しかもその頻度は網膜内で の網膜静脈分枝閉塞症よりも網膜中心静脈閉塞 症のように視神経乳頭内での静脈閉塞症におい てはるかに高かった5)。網膜中心静脈閉塞症に 対する抗凝固療法については,無効であったと する報告がみられるが6),TAT が高値を示すよ うな血栓傾向にある症例を選んでワーファリン 投与を行えば,有効であるとの結果がえられる かもしれない。 先天性血栓性素因 先天性血栓性素因は種々の臓器での動脈,静 脈血栓症の危険因子になることが多い。その中 でもプラスミノーゲン異常症は日本人に多い先 天性血栓性素因である。プラスミノーゲン遺伝 子の分子異常によって抗原,活性値ともに正常 の 5 割となる 1 型異常症と抗原量は正常だが活 性値が半減する 2 型異常症にわけられる。1 型 異常症は血栓性素因とはならないとされている が,2 型異常症では静脈血栓症を繰り返す。網 膜中心静脈閉塞症は一般には 60 歳以上の高齢 者に多いが,毛様網膜動脈閉塞症に引き続いて 網膜中心静脈閉塞症をきたした 49 歳女性がプ ラスミノーゲン異常症であったことを我々が報 告した7)。山梨医大眼科網膜外来で調査したと ころ網膜中心静脈閉塞症または分枝静脈閉塞症 180 例中プラスミノーゲン異常症は 5 例確認さ れた。いずれも 2 型異常症であり,多くは若年 発症で再発性,多発性の傾向がみられた。欧米 では活性型プロテイン C 抵抗性(activated pro-tein C resistance)である factor Ⅴ Leiden によ る先天性血栓性素因をもった網膜静脈閉塞症の 頻度が最多であるというが8),本邦では factor Ⅴ Leiden の報告はない。このほか表にあげた ような先天性血栓性素因が網膜中心静脈閉塞症 の危険因子となりうる。 網膜中心静脈症の最も恐るべき合併症 ―血管新生緑内障 網膜中心静脈閉塞症のフルオ螢光眼底造影写 真において,網膜毛細血管が広汎につぶれてい ることがある。これは静脈圧の上昇によって漏 出してきた血漿成分によって網膜浮腫が高度と なり,組織間圧が上昇して毛細血管を閉塞させ るというメカニズムが考えられる。このような 状態を虚血型網膜中心静脈閉塞症とよび,毛細 血管が造影される非虚血型と区別している。虚 血型網膜静脈閉塞症では高率に虹彩,隅角に新 生血管を伴う増殖膜を生じ,房水の流出路であ る隅角線維柱帯を閉塞させて眼圧を上昇させ, 血管新生緑内障を発症する。新生血管の発生に は,網膜の毛細血管の閉塞に引き続く網膜神経 組 織 の 虚 血 が 重 要 で , vascular endothelial growth factor(VEGF)が硝子体を経由して前 部眼球に作用するためと考えられてきた。そこ でこの VEGF の産生源である虚血網膜組織をレ ーザー光で凝固して,酸素需要を減少させるこ とで治療できる。このような予防的光凝固治療 は,眼底全体をまんべんなく豆まき状に凝固す るもので,汎網膜光凝固術 pan-retinal photo-coagulation(PRP)と呼ばれる。(図 3)PRP は増殖糖尿病網膜症の悪化阻止のためにも行わ れる最も重要な治療手段である。 従来はフルオ螢光眼底造影検査である程度以 上の網膜毛細血管閉塞野が発見されれば,予防 アンチトロンビンⅢ欠損症 プロテイン C 欠損症 プロテイン S 欠損症 先天性活性型プロテイン C 抵抗性 プラスミノーゲン異常症 ホモシステイン尿症 表 1 先天性血栓性素因

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的に PRP を行うべきとされていたが,1995 年 に発表された米国の多施設共同コントロールス タディで,10 乳頭面積以上の網膜毛細血管閉 塞野が発見されても,1 ヶ月以内の頻度で眼科 検査を行い,虹彩または隅角に新生血管を発見 した時点で PRP を始めても遅くないとの結果 が示された9)。PRP を行うと視野全体が暗くな るという副作用があるので,虚血型の網膜中心 静脈閉塞症であっても必ずしも全例に PRP を 行う必要がないというこの報告は臨床上重要で ある。 黄斑浮腫 一方,非虚血型網膜中心静脈閉塞症の合併症 として重要なのが黄斑浮腫である。黄斑浮腫は 網膜静脈から漏出した血漿成分が層構造を示す 神経網膜内に貯留して,網膜の電気活動による 神経伝達を阻害する結果,視力低下を生じるも のである。従来は螢光色素が静注後数分で網膜 内に貯留するというフルオ螢光眼底造影像によ って浮腫を診断してきた。(図 4)近年,光干 渉断層計 Optical coherence tomography (OCT) が臨床応用できるようになり,生体眼において 網膜断層像の観察が可能になったが10),黄斑 浮 腫 の よ う な 網 膜 内 空 間 を 形 成 す る 病 態 は OCT 検査にて,直接観察することができる。 (図 5)また OCT を用いることによって網膜中 心窩の厚みを定量的に評価可能となった。黄斑 浮腫における視力低下が黄斑部の神経網膜の厚 みに比例するとの意見が多いが,疾患によって は必ずしもそうではないことがある。すなわち 網膜色素変性症でみられる類嚢胞黄斑浮腫では 黄斑部の浮腫の厚みよりもむしろその拡がりが 視力に関係していた11)。網膜中心窩は視細胞 のみで構成されるが,実は硝子体側にミュラー セルコーンと呼ばれるグリア細胞の蓋のような 構造がある。このことは 1969 年にすでに報告 されていたが,最近その臨床的意義が評価され, 黄斑円孔の発生メカニズムなどに関与している ことが推測されている12)。中心窩付近の比較 的狭い範囲の浮腫はこのグリアの蓋の部分に生 じると考えられ,この部位の厚みは神経要素を まきこまないためにあまり視力に影響しないの かもしれない。黄斑浮腫に対する治療法として 黄斑部を格子状に凝固するグリッド光凝固術が 行われてきたが,著明な視力改善効果は期待で き な い 。 黄 斑 部 に 癒 着 す る 硝 子 体 の 牽 引 が OCT にて捉えられることがあり,硝子体手術 でこの牽引をはずすことで黄斑浮腫を治療しよ うとする試みが,本症や糖尿病黄斑症で行われ, 良好な結果が得られている。 図 3 網膜中心静脈閉塞症に対して行われた 汎網膜光凝固治療(PRP)のあと。白 く縁取りされた暗い円形の光凝固斑が 密に配列している。凝固斑の部分の網 膜視細胞は萎縮脱落し,結果として網 膜の酸素需要が減少して,網膜神経細 胞の虚血状態が緩和され,新生血管誘 発刺激が消失する。 図 4 嚢胞様黄斑浮腫のフルオ螢光眼底造影 写真。中心窩に梅鉢状の螢光色素貯留 像がみられる。

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文  献

1) Novotney HR, Alvis DL: A method of pho-tographing fluorescence in circulating blood in the human retina. Circulation, 24: 82–86, 1961. 2) Flower RW, Hochoheimer BF: Clinical infrared

absorption angiography of the choroid. Am J Ophthalmol, 73: 458–459, 1972.

3) Green WR, Chan CC, Hutchins GM, Terry JM: Central retinal vein occlusion: a prospective histopathologic study of 29 eyes in 28 cases. Trans Am Ophtalmol Soc, 79: 371–422, 1981. 4) Duker JS, Brown GC: Anterior location of the

crossing artery in branch retinal vein occlusion. Arch Ophthalmol, 107: 998–1000, 1989. 5) Iijima H, Gohdo T, Imai M, Tsukahara S:

Throm-bin-antithrombin III complex in acute retinal vein occlusion. Am J Ophthalmol, 126: 677–682, 1998.

6) Kohner EM, Laatiskainen L, Oughton J: The management of central retinal vein occlusion. Ophthalmology, 90: 484–487, 1983.

7) Iijima H, Gohdo T, Tsukahara S: Familial dysplas-minogenemia with central retinal vein and cil-ioretinal artery occlusion. Am J Ophthalmol, 126: 312–314, 1998.

8) Larsson J, Olafsdottir E, Bauer B: Activated pro-tein C resistance in young adults with central retinal vein occlusion. Br J Ophthalmol, 80: 200–202, 1996.

9) The central vein occlusion study group: A ran-domized clinical trial of early panretinal photo-coagulation for ischemic central vein occlusion. The Central Vein Occlusion Study Group N re-port. Ophthalmology, 102: 1434–1444, 1995. 10) Hee MR, Izatt JA, Swanson EA, et al: Optical

co-herence tomography of the human retina. Arch Ophthalmol, 113: 325–332, 1995.

11) Hirakawa H, Iijima H, Gohdo T, Tsukahara S: Optical coherence tomography of cystoid macu-lar edema associated with retinitis pigmentosa. Am J Ophthalmol, 128: 185–191, 1999.

12) Gass JDM: Muller cell cone, an overlooked part of the anatomy of the fovea centralis. Arch Oph-thalmol, 117: 821–823, 1999.

図 5 網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫の OCT 像。本来ならば薄くなって陥凹すべき中心窩部分の網膜内

に浮腫液が貯留し,網膜断層像が逆に厚くなっているのがわかる。実際は網膜内構造からの反射の強弱 が疑似カラー表示で示される。

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Pathophysiology and Therapy for Central Retinal Vein Occlusion

Hiroyuki IIJIMA

Department of Ophthalmology, Yamanashi Medical University

Abstract: Central retinal vein occlusion is a circulatory disturbance caused by a thrombus in a central retinal vein. Its pathophysiology can be visualized with fluorescein angiography. A systemic prothrombotic tendency may be in-volved in the microcirculation of the retina, and the molecular markers for prothrombosis, including thrombin-an-tithrombin III complex, may have diagnostic importance. Congenital prothrombotic factors, including plasminogen deficiency, are involved in some cases. Panretinal photocoagulation using laser is effective for prevention of the asso-ciated neovascular glaucoma in the stage showing iris or angle neovascularization. Optical coherence tomography can visualize the macular edema, which affects visual prognosis.

Key words: Central retinal vein occlusion, Thrombin-antithrombin III complex, Laser photocoagulation, Optical co-herence tomography

図 5 網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫の OCT 像。本来ならば薄くなって陥凹すべき中心窩部分の網膜内 に浮腫液が貯留し,網膜断層像が逆に厚くなっているのがわかる。実際は網膜内構造からの反射の強弱 が疑似カラー表示で示される。

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