義務教育年限延長問題に関する一考察 : 平生文相期における義務教育延長問題をめぐって
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(2) はじめに. 学率が90%を超え,受験地獄と言われるほどに高校入試の重要さ』が増 し,それに伴って中学校と小学校高学年の教育が問われていることが背. 私は,小学校と中学校の連携について考えたいと思い,常にこの問題. 景の1つとして浮かび上がってきた。. をテーマとして取り組んで来た。しかし,テーマが余りにも大きく,漠. 教授体制が異なることから,小学校の高学年に全教科担任制を導入し. 然としているためになかなか先へ進めない状態が続いた。このテーマで. た事例もあるが,結局,小学校では,全教科担任制の導入は困難である. は,論文として成り難いことを再三指摘されたが,それを受け入れられ. と結論づけられている。恐らく体制だけでなく,教育の内容が問われな. ない頑固な自分の姿がそこにあった。. ければならないものと思われる。小学校5年生から6年生にかけて急激. このテーマに固執しta元を辿れば,ここ(兵教大)に来るまでの6年. に変化する子ども達に応えられる内容が必要であると考えられる。. 間に小学校高学年を中心として学級担任をしてきたことが挙げられる。. 戦前,盛んに論じられた義務教育年限延長問題について,小学校教育. 小学校5年生から6年生にかけて,特に女子の心身の発達がめざましく,. で義務教育を延長しようとする立場と,尋常小学校に続く学校はすべて. 小学校6年生も2学期を過ぎれば大半が思春期に入っている。児童・生. 中等学校とし,延長する部分の教育を中等教育とする立場がある。両者. 徒の心身の発達の早期化が言われるようになって久しいが,この小学校. 共に,児童の心身の発達の転写を12歳頃とし,それ以降は青年前期に. 高学年から中学校にかけての時期における教育が改善されたとは言い難. 入るとしている。そして,青年前期における教育の重要さを認めている. い。、そこで,いつしか小学校と中学校がどのような繋がりを持てば,子. 点では同Uであるが,前者は,あくまで基礎教育とし,小学校教育での. ども達がスムーズに中学校に移行できるかを考えるようになっていた。. 延長を求めている。これに対して後者は,心身の発達を考慮し,青年前. そして,たまたま勤務する小学校が,学校間連携教育の県の研究指定校. 期に入った子どもたちに応えられる教育をするのであれば,中等教育と. (昭和60・61年度)の1つとなったために,テーマとして取り上げ. しなければならないと主張するのである。. ることとなったのである。. 従って,これら両者の立場を明らかにすることは,現代の小学校高学. ところが,前述の如く,とても大きなテーマであるために先行研究も. 年から中学校にかけての教育について考えるうえにおいて何らかの示唆. 少なく,文部省指定も昭和49年度の埼玉教育開発研究会(代表者,杉. を含んでいるものと考えるのである。. 田儀作)の「小学校および中学校教育の連携をはかる教育課程・指導方. 法の研究」と昭和57・58・59年度の愛媛県越智郡伯方町立伯方小 ・中学校の「小学校及び中学校における教育の連携を深める教育課程の 研究開発」があることがわかった程度であった。. しかし,これらが研究指定された背景を調べているうちに,高校の進. 一1一. 一2一.
(3) 《資料》について,学制改革案(①∼⑫),教育界の動きに関する資. 目 次. 料(⑬∼⑰),統計資料(⑬∼⑳)の順にまとめて掲載し,次のような 取り扱いをした。. 序章 義務教育年限延長問題 ……。・…・・…・…・・…・ 第1節 歴史的背景 ・・韓…・…・…・…… …・一… …. 第2節研究の目的 …………………………・… 第1章 義務教育延長運動 ……。…・。・・……・・…・・…. 第1節 義務教育年限延長に伴う諸問題 ……韓…・・…. 第2節 平生文相の義務教育八年制実施計画 …………. 第3節 教育界の動き ・・……・…………・……。…. 第4節義務教育年限延長案 ・……………・……… 第H章 阿部重孝と義務教育年限延長問題 ……………・ 第1節 田中文相の学制改革案 …。…………・…・… 第2節 学制改革私案 …………・…・…。………。・ 第3節 義務教育年限延長問題 ・………・…… …・… 第4節 教育改革同志会の教育制度改革案 ……。……・ 第皿章 義務教育年限延長問題と現代の課題 …・■一…■■…. 《注》 《主要参考文献》. 《資 料》 おわ り に. 一3一. 5 81 111 85 969 5 23 35 45 77 84 9 71. はじめに. 1.漢字で旧字体のものは,これを新字体に改めた。. 2.原文で,片仮名,平仮名の部分は,そのままとし,歴史的仮名遣い は1原文を損なわない程度に現代仮名遣いに改めた。. 3.学制改革案は,文部省の案(資料①∼⑥)と,そうでない案(資料 ⑦∼⑫)とに区別し,それぞれ年代順に掲載した。. 4.教育界の動きに開する資料は,促進同盟に関する資料(⑬∼⑯)を ひとまとめにした。. 5.資料の出典については,それぞれの資料の末尾に明記した。. まta,本文中に引用,掲載した資料についても《資料》の扱いと同U ようにしたが,法規については歴史的仮名遣いはそのままとした。. 一4一.
(4) 序章 義務教育年隈延長問題. 二非スト認ム」C了)とされた。答申と共に附された理由によると,学齢を. 満6歳から満14歳までとしているにも拘らず,義務教育の修業年限を. 6年としているために13・14歳の児童に普通教育が及ばない。この. 第1節歴史的背景. 6年間で普通教育を終えようとするがために学課課程を詰め込もうとす. 明治40年に義務教育干隈が4ヶ年から6ヶ年に延長されるにあたっ. る弊に陥り,児童の負担を重くし,それが健全な発育を妨げる虞となる. て,小学校令施行規則中の改正に関して出された文部省訓令第1号‘D. のである。また,欧米列強の多くが義務教育年隈を8年としている。8}が,. によると,明治33年の改正以来,尋常小学校に2ヶ年の高等小学校を. それに比べて国語国字の習得が困難な我国において,6年間の普通教育. 併置することを奨励してきたために高等小学校が大いに増加した。しか. では,徳性を洒養し国民生活に適応する知能を授け充実しだ国民を作る. も,4ヶ年の義務教育が普及してきteことや,日露戦争後,国民の知徳. には不足である。更に第一次世界大戦の教訊から,各国では祖国に対す. を上進する必要が出てきたことによって2ヶ年の延長が実現したのであ. る国民精神を輩固にし且国家産業の基礎である実質的智能を養成する必. る。(2)当時の実施後の様子について,澤柳政太郎は「当局者が考えたよ. 要を認め,既にイギリス,フランス等では世論が義務教育年限の延長を. りも容易に,何等の故障もなく,頗る完全に全国一斉に行われた」(3). 唱えているが,これに対応する国策を立てざるを得ない。以上の点から,. ことを述べている。義務教育年隈の次期延長の準備として,高等小学校. 義務教育年限を延長することの必要を認めている。しかし,それにも拘. :を併置することを奨励し,そのことによって高等小学校が増設されtaこ. らず,’市町村財政に重大な負担を加える虞があること,延長に際し多数. とが,実現を可能にし,2ヶ年の延長を容易ならしめたのである。そし. の小学校本科正教員が必要となること,児童保護者の教育費負担が増加. て,澤柳が「此の時既に近き将来に撃て次の延長を予想して居った」(4). することから時期尚早とされたのである(9)。. と云うように,同訓令において「固ヨリ今回ノ改正ハ尽目之ヲ以テ足レ. 大正11年に発行されたr教育五十年史』の中の文部次官赤司鷹一郎. リトスルニアラスト錐モ我国現下ノ情況ハ遽二之ヲ六箇年以上二延長ス. による「普通教育近時の傾向」(1a)よれば, 「華墨延長の実施期は理論. ルコトヲ許ササルヲ以テ暫ク之二満足シ其ノ完成ハ更訂之ヲ他日二期セ. としては最早到来して」いる。その上, 「大正8年置於ける小学校総数. ントス」(5)としたときから,義務教育年限延長問題は,懸案となってい. 25630に対して、尋常小学校数10950、高等小学校数250、. たのである。. 他の14430は実に尋常高等小学校であって、尚尋常小学校及び高等. 大正6年,「中外ノ情勢二照シ国家ノ将来二障へ」(6)るため設置され. 小学校は漸次尋常高等小学校に変更せられんとする趨勢に」ある。そし. た内閣直属の諮問機関である臨時教育会議で,義務教育年隈延長につい. て,「年限延長に関する計画も、予算も、当局に於ては既に調査済」で. ても審議されたが,同年12月,第2回答申において「義務教育年限ノ. ある(11)。それにも拘らず,未だに実現を見るに至らない。原因は,第. 延長ハ之ヲ希望スト難モ今日二於テハ地方経済ノ関係二鑑ミ尚其ノ時期. 一次世界大戦の影響で地方経済が一層険悪になったからであって,それ. 一5一. 一6一.
(5) をいかに解決するかにかかっていたのである(1 2)。. は総額1093596円であるが,経常費とし,臨時費は必要ないもの. 世界情勢からも,国運の進展のためにも,義務教育年限の延長は必要. とする。何故なら,この教員養成のtaめに道府県平均一学級程度の拡張. であるとしながらも,地方財政の窮迫のために実現が困難であったこと. であれば,既設の教室やその他の設備を利用すれば足りるとみているか. を伺うことができる。. らである。. このような経過を経て,大正13年,江木千之文相は義務教育年限を. 臨時教育会議で時機尚早とされた理由の中で,地方財政についてはこ. 8ヶ年に延長する計画を立て,文政審議会に諮問することになる。. の案からはわからないが,小学校教員の養成については具体的な案を立. 江木文相の立てた義務教育年限延長の計画案(資料①)によると,小. て,文政審議会に諮問しta。しかし,大正13年5月,内閣が総辞職し. 学校の修業年限を8ヶ年とし,尋常小学校と高等小学校の区別をなくし,. たために審議未了に終わり,実現しなかった。q3}. 高等小学校の3年制を廃止することになる。小学校を名称により区別す. 昭和に入って学制改革案が多数提出され,その内容に義務教育年限の. ることを止め,すべて修業年限8ヶ年の小学校に統一しようとするもの. 延長を含んでいるものが多い(1 4)。しかし,それらは学制全般にわたっ. である。そして,学齢児童保護者は,満14歳まで児童を就学させる義. ての改革案であり,義務教育年隈延長それ自体を問題としているもので. 務を負い,学年の中途で児童が満14歳に達した場合でもその学年の終. はなく,昭和11年に平生鉱三郎文相が義務教育八年三三を発表するま. わりまで就学させることになる。まta,2ヶ年延長される教育の内容は,. で大きく取り上げられることはない(15)。. 現制の高等小学校に準ずるけれども,特に徳性の栖養と実業的陶冶に重 点を置き,地方の情況に応じたものにしようとするものである。この計. 画は,大正14年4月1日から実施することになっているが,当分の問. 第2節 研究の目的. は実業補習学校の前期の就学で代用することを認めている。中等学校へ の連絡は現制の通り,小学校第6学年修了後を考えている。. 昭和11年6月に平生鉱三郎文相が,義務教育年限を2ヶ年延長して. また,2ヶ年延長することにより,小学校の教員が必要となるが,そ. 8年制とすることを中心とした学制改革案の大綱を示すと,俄然,義務. の補充方法について次のように考えている。即ち,延長実施により大正. 教育年限延長を求める運動が盛り上がり,教育界全体にその運動が拡が. 15年度に増加する学級数は1500,同16年度に増加する学級数は. っていく。そして,昭和12年早々には, 「義務教育八年制実施計画要. 2037,合計3537の学級が増加する。一一学級に一人配置するとす. 綱」 (資料⑥)が作成され,確実視されていtaが,これもまた内閣総辞. れば,大正14年度に1500人,同15年度に2037人養成すれば. 職のために,結局実現されずに終わっta “6)。しかし,義務教育八年制. よいことになる。従って,道府県で修業年限1ヶ年の本科第二部を平均. は,同年12月に設置され拒内閣直属の教育審議会において審議され,. して一学級分増募すれば対応できるとするのである。これに要する経費. 昭和13年12月,第10回総会で可決される(17}。その後手直しをう. 一7一. 一8一.
(6) けて昭和16年3月に「国民学校令」として公布されることになる(18)。. かにする。第1節では,昭和6年8月5日付の新聞に掲載された田中隆. 昭和11年から12年にかけての平生文相の時代に,高等小学校2ヶ. 三文相の学制改革案について批判した論文「学制改革案を評す」(2Pを. 年を義務とし,小学校教育を延長しようとする全国的な義務教育延長運. もとに,第2節では,雑誌r教育S(22}が主催した「教育改革」座談会. 動がある。これに対して,年限延長には賛成しながらも小学校教育の延. に提出された「学制改革私案」(資料⑨)をもとに,学制改革案につい. 長には常に批判的で,延長するのであれば中等教育でするべきだと主張. ての阿部の考え方を考察する。第3節では,「義務教育延長の先決問題」. する阿部重孝の持論がある。これら両者にみられる考え方を明らかにす. (大正10年5月)(23), 「義務教育延長問題の検討」 (昭和11年8. ることを目的とする。. 月)(24), 「義務教育延長問題」 (昭和12年1月)(25), 「義務教育. 即ち,第1章第1節では,r教育週報』(19)に掲載された義務教育年. 年限延長の問題」(昭和12年4月)(26》,を取り上げる。特に,昭和. 限が延長されるに際して起こってくる諸問題に関する諸家の見解に対し. 11年から12年にかけて阿部は,平生文相を中心とした文部省の学制. て考察する。第2節では,平生文相が昭和11年6月に年限延長を中心. 改革案や,教育界の動きに対して批判的であるが,これらの論文を通し. とした学制改革案の大綱を示し,それが義務教育年限延長案一本に絞ら. て義務教育年限延長に対する阿部の考え方を明らかにする。そして,第. れていく過程をみる。同年8月には,資料収集のために全国各地の実状. 4節では,阿部重孝の理論が,改革案の支柱であると云われている(27). 調査が行われ,年末には改正の必要な法規に関する検討がなされる。昭. 教育改革同志会の「教育制度改革案」 (資料⑪)を取り上げて考察する。. 和12年早々には「義務教育八年制実施計画要綱」 (資料⑥)も準備さ. 第皿章では,第1章,第年号で明らかにしta小学校教育で延長しよう. れ,議会に提出されるのを待つばかりとなっていたが実現されずに終わ. とした一連の動きと,阿部重孝の考え方の中にみられる現代に通じる問. る。この文部省の動きを追う。平生文相を中心としta文部省の動きに呼. 題について考察する。そして,これからの課題について考える。. 応するかのように義務教育延長運動が盛り上がる。特に帝国教育会の主. 尚,青年学校義務制については,義務教育年限延長と云うことでは画. 催で義務教育延長促進同盟が結成され,組織的,全国的な運動が繰り広. 期的な出来事であるが,軍部の要請によって急遽成立をみたこと(28),. げられる。第3節では,この同盟を中心とした教育界の動きを明らかに. 及び義務となる対象が男子のみであること(29)の理由から,本稿におい. する。そして,第4節では,昭和11。12年に提出された学制改革案. ては,取り上げない。. のうち,義務教育年限を8ヶ年とし,小学校教育で延長しようとする改 革案を取り上げ考察する。. これら一連の動きが,高等小学校を義務とし,小学校教育で延長しよ うとするのに対して,第1[章では,延長する部分の教育は中等教育で,. と主張する阿部重孝(2e)の義務教育年限延長問題に対する考え方を明ら. 一9一. 一10一.
(7) 第1章 義務教育延長運動. いであろう。諸外国の例に見ても、少なくも義務教育は八ヶ年に延長 さるべきである。而して、それは必ずしも小学校の課程に於ける延長. 第1節 義務教育年限延長の実施に伴う諸問題. を必要としない。或は現在の補習教育の如き制度のものであってもよ いのである。. 昭和11年4月4日付,r教育週報』(1)の「膨涛として義務教育延長. 〔茗漢会〕. 運動政府、教育団体動く」の見出しで始まる記事によると,義務教育の. 世界各国の現状は勿論近く我が社会の実状に徴するに、尋常六年卒. 年限延長は,教育界に久しい問題であること,世論は少なくとも8ヶ年. 業者と、高等二年卒業者とを比較するときは、其の差異極めて甚大で. の延長を要望しつつあることを述べている。そして,帝国教育会の教育. あって、高等小学校二ヶ年の教育の効果が予想外に大なるものを示す。. 調査会,茗漢会の教育制度改善委員会,全国連合小学校教員会の諸団体. 義務教育年隈の実現しないのは、主として経済上の理由に基づくと思. は教育制度改革案に之を加えている。更に内閣調査局(2)では,平生専任. うが、躍進日本の国力よりすれば、殆ど問題ではない。速に之を八ヶ. 文相(3)を迎えて文教刷新案に,義務教育年限8ヶ年延長の一項を加えて. 年とし、高等小学二年までを義務教育とすべきである。. いることを伝えている。. 〔全国連合小学校教員会〕. これら諸団体の義務教育年隈延長を主張する理由を次のように載せ』て. 世界の各民族は素質の向上と国家観念の酒養と実力の発揮に努め、. いる。. 競って義務教育年限延長と、之が内容の充実に全力を傾倒し、将来の 振興を目指して之が実現に腐心している。今や之が実施に撰する云為. 〔内閣調査局〕. する時代ではなく、如何に速やかに実施すべきかの問題だけが残され. 学科課程の全面的改善、高等小学校を廃止し補習制度を拡充する。. ている。. 中学校、師範学校、高等学校、大学の学制改革、入学試験準備、就職. (『教育週報』第568号). 難緩和、教育財政に於ける農村負担の軽減等の諸問題と共に、義務教 育年限八ヶ年延長の一項を挙げ、文教刷新上取敢ず学校制度の検討を. 内閣調査局は,文教刷新上取り敢えず学校制度の検討を試みるのであ. 試みることになっている。. り,帝国教育会は教育調査会で学制全般に亘る改革案の中の1つとして 義務教育延長問題を審議するのである。これは茗漢会の教育制度改善委. (帝国教育会〕. 六ヶ年の義務教育では確固たる思想の根底を培うには不十分で、そ. 員会も同じである。そして,全国連合小学校教員会は八大教育国策の一. の効果の稀薄なことは壮丁検査の結果でよく証明されている。国体明. 項として取り上げている。(4). 徴も選挙粛正も思想の根底のぐらついて居る国民には永久に徹底しな. この義務教育年限延長の問題について,文部省当局は,議案としては. 一11一. 一12一.
(8) まとまめていないが,尋常小学校を8ヶ年に延長することを理想として. 一、義務教育の二年延長は中等学校に重心をおいて考慮さるべきであ. いる。国家経済,個人経済の面から通年制の2ヶ年を延長することは困. る。. 難で,時間制の青年学校の下級2ヶ年位を義務制とすることも検討して. 二、現下の貧困町村を顧慮する時義務教育費を府県と国庫の共同或は. いることを述べている。しかし,いずれの場合も就学義務者数と現在の. 国庫の全額負担に移管すべきである。. 就学者数との開きが或程度まで接近した上でなくては実行できないこと. 三、義務教育延長問題は全国三四十万に及ぶ不就学児童問題の新たな. を明らかにしている。(5}. 対策を樹立すべきである。. これら諸団体の義務教育年限を主張している理由は,あくまでも学制. 四、一学級の児童数の全国平均六十県名を四十に下げ、基礎教育の充. 全般の改革の一貫として,世界の情勢,国内の情況を鑑みて取り上げて. 実を計るべく攻究すべきである。. いる。ところが,平生鉱三郎が文部大臣に就任してからは義務教育野守. 五、延長に伴う貧困児童の学級費について当局は対策を施すべきであ. 延長問題が,「膨溝として」学制改革の中心として取り上げられるよう. る。. になるのである。. (r教育週報』第580号). このようにして平生文相期に義務教育年限延長問題が浮かび上がって. くるのであるが,これが実現に当kっては幾多の問題が解決されなけれ. 欧米各国の義務教育年限が延長されta情勢からみれば,日本でも第一一. ばならない。その解決されなければならない諸問題をr教育週報』が特. 次世界大戦後には少なくとも2ヶ年の延長が実施されているはずであっ. 集した,「義務教育年限延長の前に横たわる各種の問題」(6)の諸家の見. た。当然当時の延長であれば小学校教育での延長であっただろうが,そ. 解にみることができる。. の後,社会や国民生活が変化し,特に尋常小学校卒業後上級学校へ進む. 次の文は,山下徳治の「五つの要望」である。. ものが多くなり(7),青年大衆の教育機関の必要性を訴えている。. そして,解決されなければならない問題を5つの要望としてまとめて 義務教育年限はフランスでは七年、ドイツと米国は八年、英国は今. いる。即ち,尋常小学校卒業後,児童は青年前期に入るためその教育の. 議会で決定を見だ一年を加算すれば十年になる。我国の義務教育延長. 内容,貧困市町村における教育財政の問題,尋常小学校卒業後上級学校. をその沿革から推定すれば、日露戦役後の二年延長に続いて欧州大戦. に進まない児童の就学の問題,基礎教育充実の問題(1学級の児童数を. 後の大正十年頃当然八年制が布かるべきであった。若しそれが実現し. 下げれば,その分教員を補充する必要があり,当然教員養成の問題を含. ていたら小学校を土台としての二ヶ年延長であったに違いない。然し. む),貧困家庭における教育費負担の問題である。. 社会や国民生活の状態はその後変化した。青年大衆の教育機関の必要 も切実になってきたそこから吾々は次の要望をもつ。. 一13一. 市町村の財政問題について,神奈川女子師範学校附属小学校主事の曾. 一14一.
(9) 田慶司は「問題の一つ」として取り上げている。時勢が移り文化が進歩. も異議はなかろうとしている。延長に当たっての問題として,経費負担. するにしたがって国家は市町村に対して年々と新しい施設を要求してく. を挙げ,概略の経費は国庫2千万円,地方3千万円(実施方法の如何に. る。教育費の膨張に悩む市町村は,教育に関することと共に一切の文化. よって大に軽減を得)が必要であるが“1),これは現在の国情よりすれ. 的施設を備えなければならない。それにも拘らず,市町村住民の経済は. ば相当難しいことであると述べている。しかし,「二年延長の成果が如. だいたい固定しているから,生産力が生産費に伴わず実質は後退してい. 何に教育的に重要であり、且世界列強の教育実情に対照すれば如何なる. る現状である。ここに市町村の疲弊する原因がある。従って「国家に於. 忍苦に堪えても決行しなければならぬ」とするのである。それは,国体. て教育の義務を強要し文化的諸施設を要望する上而して限りある市町村. の明徴選挙の粛正,広義国防の充実は一にその基調を国民教育の拡充に. 財政力にてはその目的を達すること能わざる以上、国家はその目的を達. 求めなければならないからである。(12). 成するに足る財政的補助を与えるところなければならぬ」のである。つ. 財政的な面からは,困難であるという悲観的な意見が多いが楽観的な. まり,義務教育を8ヶ年に延長するとすれば,これに備える国家的計画. ものもある。それは,文部省当局が実行できないとしていた理由の1つ. が充分に用意されなければならないのである。(8). である就学義務者数と現在の就学者数との開き(13)から述べたものであ. このような考え方から,山下の「五つの要望」(9)にも見られるように. る。. に国庫負担と云うことが必要となってくる。このことについては,帝国. 例えば,東京府視学官である林傳次は「地方の負担は激増せず」にお. 教育学専務理事の藤井興言は「教員給国庫負担が前提」で,義務教育年. いて, 「東京府に於ける昭和八年度の調査によると、比較的地方農村の. 限延長は, 「教員給全額国庫負担を実現することができれば解決は筒単. 状況に近い郡部(三多摩、八王子)に於ては、尋常卒業者中高等科に進. である」と述べている。政府が国防のために増税するのと同じ態度で,. んだものは、男75.22%、女4,9.50%である。高等科へ進まな. 国防の根本,国力培養の根本たる教育のtaめに考えるならば,教員給だ. かっk者の中、中学校へ入学した者が相当にあるから、全然尋常科だけ. けでも之を全額国庫負担とするか,あるいは少なくとも延長した部分の. と云う者は少い」(1 4)と調査結果を具体的に示す。前任地である愛媛に. 教員給について,国庫の負担を増額するかしなければならないとしてい. おいても,義務教育8ヶ年に延長することについて同様の調査をした結. る。(le》. 果,「町村負担増加は極めて僅かであるとの結論に達した」とし,8ヶ. また,新潟県教育会副会長である三崎文四郎は「忍苦断行を要す」に. 年に延長しても,急激に町村の財政に混乱を来すようなことはないと述. おいて, 「義務教育八ヶ年に延長は殆ど早引年来の懸案で、歴代文相の. べている。c15}. 計画、全国教育界の熱烈なる要望」であると述べている。そして,現内. まだ,鳥取市立因幡高女嘱託の山本徳蔵は,平生文相によって義務教. 閣の平生文相が,義務教育年限延長を教育国策の第一義として近日開か. 育年限延長の実施を計画されているが,「窮乏せる地方財政との調和問. れる閣議に提案しようとしていることについては,当然のことで,何人. 題が一大難関たるべしとの予想は、教員俸給不払の如き不祥事が今も尚. 一15一. 一16一.
(10) 跡を断taない状態から推しても尤の事」とみなしている。しかし,さら. ことを三重師範学校代用附属主事稲森縫之助は,農村を例に次のように. に一一歩進めて「具さに地方の真相を調査し深く考察してみれば、必ずし. 述べている。 「農村の一般は中等学校へ行くものが比較的少いが、高等. も然らざる所以が了解し得らるSことy思う」と述べ,鳥取県の実情を. 科へは義務の様に出てくる」のであるが,それは「余程の貧困でない限. 次のように紹介している。鳥取県においては,いずれの町村もその町村. り、高等科を卒えなければ一人前でない」という感Uが強いからである. 立尋常小学校に高等科を併置している。また,町村民はたとえ貧乏はし. とみている。しかし,実際には「今日の農村は頭の働きのある者を都会. ていてもその子弟を,せめて高等科に入れなければ親の義務が済まない. の工場や商店に吸収せられ」てしまい, 「全く都会の附属物の様な状態」. と考えている。従って,男子はごく少数の例外を除いて事実上8ヶ年の. であると嘆くように,卒業後の就職が高等科へ進んでいる主な理由のよ. 国民教育を施されているのが現状である。従って,制度上義務教育年限. うである。いずれにせよ農村小学校では「義務教育の男爵を延長しても、. 延長を断行されても,校舎の増築その他設備の改善,学級の増加ないし. 経費がそう膨張する様にも考えられない」とするのである。ところで,. 教員の増加などにより財政上の困難に拍車をかけるというような事はな. 稲森は,卒業後就職する者のことを考えるならば「アルバイトの原理」. い。つまり,従来から町村財政上教育費の負担加重のため国庫負担の増. に立ち,高等科教育の効果を挙げるように現在の教科を綜合して単純化. 額を要望しつつある窮状は認めちれるが,尋常小学校より上の学校に進. することを要望している。(18). 学している者の多い現実からみれば,直ちに町村財政に影響を与えるも. これらの意見は,尋常小学校卒業後上級学校へ進んでいる者の数が増. のではない。つまり,「事実の制度化のみ」であるとする。また,貧困. え,事実上8ヶ年の義務教育が行われているのと同じようなものである. のため6ヶ年の義務教育すら完全に受けられないものが少数ではあるが. から,地方教育財政への影響は,現在の窮乏状態に追い打ちをかけ,破. いることから,2ヶ年延長の際には,その就学を青年学校普通科におい. 綻に導くようなものではないことを述べているものである。そして,こ. て代用すればよいとしている。(16). れらには山下の「五つの要望」c19)の1,3および5に関して意味ある. 同じく鳥取県の東郷小学校長である峰地光重は, 「義務教育年季延長. 実情を報告しているように思われる。. の前に横わる諸問題」として考えられるものとして経費問題をあげるが,. 同じ鳥取県である山本,峰地の意見の中にみられる問題は,就学義務. 「我々の学校の実状ではまず現在の高等科に9割5分までは入学してい. 者数の中でごく少数の就学できない状態にある児童の就学をどのように. るのですから、あとの5分の児童に対する経費がかさむ位のものです」. するかという問題〔2s)である。これは山下の5つの要望の3と5に関係. と云う。また,設備についても多少その充実をはかる位のもので,「僅. し,不就学児童の中,特に貧困ゆえに就学できない児童の対策が早期に. かばかりの経費問題はあるとしても、非常時日本のためにこの国家百年. 解決されなければならない問題である。. の大計を是非たてy欲しい」と結んでいる。“7). また,三重の稲森が云うように,農村において高等小学校に進学する. 地方において,このように尋常小学校卒業後上級学校に進む者の多い. 者が多いのは,就職に影響するからであるとすると,延長する部分の教. 一17一. 一18一.
(11) 育の内容をどのようにするかということが問題となり,山下の5つの要. 協会(23}の本部役員を以て組織して居る中等教育懇談会では次のような. 望の1に相当するものである。. 決議文を当局へ提出しました」と応え,決議文を紹介する。. これまでの見解にみられるように義務教育押隈延長は,小学校教育で. 義務教育ヲ八ヶ年二延長スルコトハ時宜ヲ得タルモノナリト信ズ。. の2ヶ年延長であることが伺える。ところで,教育の内容という面から. 而シテ此ノ場合二於テハ尋常小学校六年卒業ヲ以テ中等学校二連絡ス. みて,この2ヶ年延長について中等学校の開係者はどの様な見解を持っ. ベキモノト認ム。. ているのであろうか。. 右決議ス. 東京府立実科工業学校教諭阿部野は「中等学校への影響」,特に工業. 昭和11年7月6日. 学校方面に関する影響を「たとえ中等学校が蚕食されることがあるとし ても、そんなことは問題ではない」としながらも,工業学校低学年から. 実施している専門実習の関係から次のように述べている。5ヶ年程度の. 義務教育を8ヶ年に延長することについては賛成しているが,江崎は 「小学校の延長ということになると、義務教育延長が国民教育の発展を. 工業学校で低学年を小学校に割愛する場合,「低学年から相当に突込ん. 企図しているに拘わらず、中等教育の内容を低下させるから反対です」. だ専門実習を課し、経費も充分にかけ、最も工業学校らしいやり方をし. と,高等小学校を義務とした2ヶ年の延長について反対の態度を示して. て成功している学校の特長を低下せしめる危険」がある。従って,中学. いる。同じく,留岡が中等学校の外に青年学校もあるので,それらとの. 校,女学校の低学年を小学校に取り込むことはできても,工業学校にな. 関係を考えなければならないのでは,という意見を述べたことに対して. ると不可能であるとする。それは,小学校の最後の2年間はかなり伸縮. 江崎は「義務教育延長は、どうしても国民の教育程度を高めなければな. 性のあるものでなければならないが,工業学校の性格上困難なことであ. らないのに青年学校代用案はそれを低下せしめるから反対です」と云う。. るとするのである。ζ21). そう云いながらも,政党その他の関係で止むを得ないならば譲歩しても. ここで,全国中学校長協会主事である江崎誠に,雑誌r教育』が行っ. よいと応えている。(24). た義務教育延長問題についてのインタビュー(22)をもとに,中等学校は,. つまり,中等学校の低学年の学力の低下を憂慮しながらも,義務教育. どの様に考えているかをみることにする。江崎にインタビューをしたの. 年限延長を優先さぜようとしているのである。このことは東京府立第一. は,留岡清男,山下徳治,菅忠道の3人である。. 中学校長西村房太郎が,学制改革の基礎とする意味で「他の問題と切り. 留岡が,義務教育延長問題について中学校側の意見を聞きに来た旨を. 離して単々に義務教育延長の遂行に嘉進ずることが、却て賢明の策では. 述べると,江崎は「全国中学校長協会の代表的意見というのではありま. ないか」(25}と述べていることにも表れている。. せんが、この延長問題をめぐって師範学校以外の六種の全国中等学校長. この時期における義務教育年限延長問題は,東京府立第一高等女学校. 一19一. 一20一.
(12) 長櫻井賢三が云うように「全体の学制の問題とは全然切り離して進むべ. 国民教育においても,生活に必要な知識技能の習得ということが主とな. き」である。教員給の問題,教員養成の問題,学制問題,貧弱町村,不. っていて,被教育者の心身の完全な発達のtaめというのではない。一般. 就学児童問題等,解決されることも必要ではあるが,それらは「断行後. に女子は17.5歳,男子は18.5歳が身体発育の完成期とされて居. に自から通ずる途も開けることと思う」と考えられる{26)ようになって. り,性格形成の上にも重大な時期である。それにも拘らず12・13歳. いるのである。そして,函館師範学校長である本橋傳治が「要は国民の. からこの時期に労働に従事させると,生理的に種々の変化を起こすもの. 総意に依る断の一語あるのみである」(27}と云うように,これを機会に. である。特に国際労働法によると,14歳からは労働者として採用し得. 義務教育年限延長を実現してしまおうとする意見が大勢を占めてくる。. ることになっている。ところが,わが国では「義務教育を終えて居れば. 12歳から採用し得る、という除外例が設けられてある」kめに,国民 では,なぜ義務教育年限延長を必要とするのであろうか。. の心身の完全な発達は望まれない。労働者の14歳の時および18歳の. 田中寛一は「六箇年を八箇年に延長するのは単に六に二を足すと考え. 時の修学程度と仕事の成績を調査すると,その18歳になったときの成. てはならない」として,心理学的な立場からその必要性を説く。心身の. 績は学校に長くいた者ほど良好である。また,年齢と学習能力を調べる. 発達について,身長は現制の高等小学校時代14・15歳頃に最も多く. と,12・13歳頃が最も大きく,年若くして労働に従事した者ほど心. 発達し,しかも力量が急に発達し,運動も速くなることを示すe.また,. 身共に発達が悪くなる。したがって,「心身を完全に発達せしむる様に. 記憶能力も思考能力も尋常小学校6年生あたりから急に発達し,14歳. 国家が対策を講じなければならぬが、その為めには義務教育年限の延長. の終わり頃になるとものを抽象的に考える力がほぼ大人の水準に達する. が必要である」とするe(3z). ことを挙げる。特に宗教上の信仰にはいるものの数が14歳頃に最も多 いことから,この時期は精神の感受性,内省力の発達があり,人間生活. 児童生徒の心身の発達上,或はまたその保護の必要から義務教育年隈. の原動力にもなるような影響を受ける人生中外も大切な時期であるとす. を延長することが叫ばれてきte訳であるが,地方財政の窮乏,学制全般. るのである。この高等小学校時代に相当する年齢にある者に対する教育. の改革との兼合い,教員給および教員養成の問題,貧困ゆえに就学でき. の重要性を説くのである。(28). ない児童の救済等,種々の問題のためにこれまでは見送られてきた。し. この田中と同Uく,労働科学研究所の桐原卑見は日本児童学会におい. かし,ここに平生鉱三郎が文相に就任するに至って,俄に義務教育年限. て, 「義務教育年限延長の科学的根拠」と題した講演‘29}で,心身の発. 延長実現の可能性が膨らんできたのである。. 達は12。13歳から15・16歳までの問が最も旺盛であることから, その必要性を主張している。. 労働科学の立場からは,既に15年も前から云われているが,今日の 一21一. 一22一.
(13) 第2節 平生文相の義務教育八年制実施計画. 政を緊迫しないような案を6月中に作成し,7月10日の閣議に提案す ることを明らかにする。しかし,平生文相の企図する義務教育年限延長. 昭和11年6月8日,平生文相は文部省首脳部の大異動を断行し,普. を中心とする学制改革を巡って内閣調査局は,教育内容に関する根本的. 通,実業,社会の各局長に改革案の大綱を示しta。(31). な検討と改革を行う必要があること,学制全体に対する綜合的な検討が. r大阪朝日新聞』の伝えるところによると,平生文相の企図する改革. 必要であることの見解を示す。また,大蔵省側は,財政上の見地から時. は,小学校教育から大学教育に及ぶ広汎多岐にわたるものであるが,そ. 期尚早を主張する。そして,この問題については内容を再検討して慎重. の大前提として小学校教育から改革していこうとするものであ。文相は. に取り扱う必要があり,他の国策(34}と同様に国策閣議で取り扱うこと. 我国現下の政治,経済,社会,文化の実状に鑑みて国民の知識水準を向. は不賛成であるとするのである。このような情勢からr大阪朝日新聞』. 上させることが最も重要で,これが「国家的躍進の根源」であると考え. は,学制改革案を提出した場合, 「これが採否並に実現については相当. ており,現在の小学校の義務教育年限を「二年延長して八年制にぜん」. の難関が横わっていると見るほかはないだろう」と,困難視するのであ. とするものである。つまり,「学制の全面的改革の成否を一にこの小学. る。(35}. 校義務教育年限延長の実現に賭けている」のである。そして,平生文相. その後,平生文相は,四囲の情勢に鑑みて義務教育年限延長案一本槍. は「学制改革については本日各局長に大綱を話して置いたが新陣容によ. で臨むことに決定{36)する。ところが,政友会,民政党も反対の意向を. って着々実行に移す考えである」ことを語る。(32). 示したので,不利な条件が揃うこととなる〔37)。即ち,政友会では「現. 義務教育年限の延長は,実施方法次第では膨大な経費を必要とする。. 在の義務教育年限6ヶ年でさえ、その負担に苦しみ抜いている際」であ. そこで,なるべく既存の施設によって実施する方法,即ち高等小学校2. り,2ヶ年延長することは実状を無視した計画であるとする。もし仮に. ヶ年を義務教育とするとともに青年学校2ヶ年を義務教育としてこれに. どうしても延長しなければならないのであれば,「高等小学校をこれに. あてる方針をとる。小学校校舎の増築,設備の拡張,経常費などに巨額. 充てることは不適当で青年学校によるべきである」とする。また,民政. の費用を必要とし,教育費の過重から窮迫した市町村財政を破綻に導く. 党では「国家財政多端の非常時に強いて年限延長を実行する切迫した必. 結果を招く。従って,「小学校の諸経費の大部分を中等学校と同様に府. 要があるかどうか第一疑問」である。先決問題として教育内容の根本的. 県の負担とし,市町村財政の緩和を計i!i府県に対しては国庫負担金を最. 改善を行うこと,漫然と教育年隈を延長すれば,かえって弊害があり効. 小限度二千万円増額せん」とする計画の概略を明らかにする。(33). 果が少ないこと,などの意見が多数を占めているのである。(38). このように文部省内の刷新を行いバ大綱を示して積極的に改革に乗り. しかし,平生文相は,あくまで「来月(7月)10日の閣議に提案す. 出Vた平生文相は,教育上,国民保健上からももはや論議の余地のない. る」(39}つもりで,経費予算などの具体案の作成を急ぐ。前述のように. ところであるので,3年ないし5年の問に漸次実施して中央,地方の財. 義務教育年限延長案一本に絞った文部事務当局三具(資料③)が,6月. 一23一. 一24一.
(14) 29日の新聞に発表されることになる。. 大の懸案である経費については,義務教育年限延長に要する経費と現在. 高等小学校2年を義務制として未就学児童全部に対して実施されるが,. の高等小学校教員俸給の半額を国庫負担とする。準備期間を昭和12年. 第1案と第2案にみられるように高等小学校を中心とした延長案につい. 度より2ヶ年として教員養成を行い,昭和14年度から実施し,2ヶ年. てもその実施期間の長短によって年度別予算に増減を来す。また,第3. で完成する計画である。即ち,昭和12年度には教員養成を行い,13,. 案のように青年学校普通科2年を義務制として高等小学校の代用とした. 14両年度において教員養成のほか小学校校舎の新増築,備品などの施. 場合でも,貧困家庭児童の教育に充てる便法をどのようにするかによっ. 設を整備する。その臨時費の総額は4240万円である。また,完成年. て経費関係に根本的な相違を来すことになる♂46). 度の昭和15年度以降の経常費は2450万円で,これは主として高等. いずれにせよ,これら3案を通じて確定的なことはr大阪朝日新聞』. 小学校新教員の俸給全額と現在の高等小学校教員俸給半額の国庫負担の. がまとめている次の4点となる。. 経費に充てられ,教員養成費なども昭和15年度より経常費となる。 ところで,義務教育延長の実施によって収容されることが予想されて. (一)義務教育年隈を八年に延長して十四歳まで就学の義務を負わせる. いる未就学児童約25万と,青年学校へ入学する児童約10万の合計約. こと. 35万の児童は,主として貧困家庭の子弟である。家業の手伝いをして. (二)小学校の教科課程を整理改善すること. いたり,雇用関係に置かれていたりするので,就学することになれば当. (三)男女中等学校,実業学校,高等学校尋常科などの二ヶ年を義務制. 然家庭経済に影響する。その対策として,現行の学齢児童就学規定第1. とすること. 条による補助金および欠食児童給与の規定を拡大活用することにより,. (四)義務教育延長に要する経常費,臨時費とも経費は全部国庫におい. 現在の年額116万円を倍額の230万円に増額して経費に充てること. て負担すること. になるe(41). (昭和11年6月29日付r大阪朝日新聞』). しかし,この文部省省議決定案は7月10日の国策閣議には提出され ず,7月15日の文部省首脳会議で一一部を修正し,青年学校代用案を取. 7月4日,文部省省議が開かれ文部事務当局三下(資料③)を比較検. り入れた義務教育延長案大綱(資料⑤)を決定した。. 討し,上記確定的な4点を含んだ最後案(資料④)が決定された。義務. 青年学校普通科2ヶ年の就学をもって当分の間市町村立高等小学校の. 教育の年限を延長して8年とナる。小学校は現制の通り尋常小学校6年,. 就学に代えることができること,青年学校代用に伴う所要経費は国庫に. 高等小学校2年とし,中学校,高等女学校,実業学校並びに文部大臣の. おいて負担することとする。昭和12年度は教員養成のための準備期間. 指定する高等小学校に相当する部分を高等小学校と同視する。小学校児. とし,昭和13年度より実施することを決め炬計画案である。これは,. 童保護者は,児童を満14歳まで就学させる義務があるものとする。最. 財政関係および社会の実状とを考慮し,つまりは四囲の情勢に鑑み,義. 一25一. 一26一一.
(15) 務教育八年制の原則確立を第一義として青年学校代用案を取り入れtaも. するよりも理想的」であるとする。(42). のである。. 即ち,ここで云う国民生活をしていく上で必要な教養というものは,. このようにして平生文相を中心とした文部省の義務教育延長案は,八. 国民自らの生活をしていく上で必要な教養というものではなく,国家の. 年制の原則確立を第一義とした大綱に絞られてくるのである。しかしそ. 要求する国民生活をする上で必要な国民的教養である。従って,独特の. こには,男女中等学校,実業学校,高等学校尋常科,そして青年学校普. 教科課程,教育内容を持つ各中等学校,実業学校,高等学校尋常科の教. 通科の2ヶ年を義務制としながらも,一一貫して高等小学校を中心に据え t. 育では不適当で,小学校教育による義務教育年限の延長を企図しようと. た計画案が考えられている。なぜ,,小学校を中心とした延長が必要なの. するのである。. であろうか。. 8月5日,昭和12年度予算省議を開き,新規総事業費総額2340. 経費の問題が一一番大きく作用していることは,これまでの経緯からも. 万円を決定する。新規事業の主なものとして義務教育八年制実施費を挙. 明かである。それ以外には,義務教育延長案大綱(資料⑤)にみられる. げ,197万円を計上している。そしてその中には,青年学校教員養成. ように,尋常小学椥・おい℃は「国民一癖麟領掌教育を施」し,. 費,高等小学校設備費などが含まれている。この時点で,普通学務局長. 高等小学校においては「特に国民的教養の徹底を期し、かつ教科課程の. は「義務教育延長が、教育国策の根本的なものであることは議論の余地. 画一を避け、土地の状況に応じて児童将来の生活に適切なる教育」をな. はない筈である」と云い,年限延長の実現に向けての準備を進めている. すことを目的としている。つまり,延長する部分の教育では「特に国民. ことを明かにする♂43). 的教養の徹底を期」すことが肝要であるとするのである。文部省の某氏. 8月25日,かねてから閣議において審議されていた国策項目につい. は,そのことについて義務教育の延長と云えば原則としては小学校教育. て,7大国策14項目が決定した。(44》平生文相は義務教育年限延長の. を延長すべきだと思うと云い,その理由を述べる。現在の6年の義務教. 1項を望んでいたが, 「教育の刷新改善」の項目の中に含めての採択と. 育では,今後の国民生活をしていく上において教養が不十分だからとい. なった。このことについて文部次官は, 「教育制度改善の基礎をなす義. うのである。義務教育の精神からすれば,延長された期間の教育は「国. 務教育延長を教育国策の中から除外するような事はない筈である」と云. 家として要求して居るXがある訳でその要求を充taすべき教科課程」に. う。昭和12年度の予算から義務教育延長に関する経費を除くようなこ. よって教育が行われなければならない。中学校,女学校,中等実業学校. とはないと考えており,万全の策を講じて「これが実現を期する決心で. 等の教育には,国家の要求するものも含まれてはいるが,それ以外にそ. ある」ことを述べる。(45). れぞれの学校に特有な何物かが加わっている。つまり,その分だけ「分 量的に見て之(国家の要求するもの)が希薄になって」いる。従って,. この国策が決定される1月ほど前の7月28日,文部省省議を開き,. 小学校教育を延長して義務制とすることが「他の何れの学校を義務制と. 義務教育年中延長問題に関して有力な資料とするために,全国各地の実. 一27慶. 一28一.
(16) 状を調査することを決めている。. 査を行った事務官によると,岡山県では,尋常小学校卒業者で高等小学. 調査は,8月上旬から2回に分けて調査員を派遣して実施する。第1. 校その他の上級学校へ入学しないものは僅かに8%で,ほとんど全部が. 回目の調査は代表的な20府県を対象とし,第2回目は特殊事情の存す. 進学していると見てよい。広島県もほぼ同様の情況である。この進学し. る数府県を対象としている。主として年限延長による町村負担の実際,. ていない者は,人員にして各町村2,3名程度である。都市と農山漁村. 高等小学校並びに青年学校生徒数学級数等の異動,各地の特殊事情など. からみると,農村はほとんど年隈延長実施と同様の状態であって,都市. を調査するものである。文部省の説明によると,ここで各方面の代表的. と漁村とが若干の不進学者を有している。これは都市には尋卒以下の出. な地方というのは,交通不便な農山漁村を含む。また,特殊事情の存す. 稼ぎ者が集まり一面複雑性を備えており,漁村は不理解からくる不進学. る地方というのは,尋常卒業の女児で女工になるものが多い新潟県とか,. 者を有しているからである。ところで,年限延長を実施すれば,増加す. 尋常卒業の男児が就職の関係から悉く高等小学校に入っている呉や八幡. る学級数は岡山県で22,広島県で45である。これに要する経費もそ. のような地方のことである。高等小学校や青年学校の生徒の現在数と年. んなに多額ではないとみている。また,市町村当局,名誉職,有志等多. 限延長実施後の生徒数から変動数を出し,町村費の増額の実際を調べ,. 方面の人々に会い,延長問題について意見交換をしたが,反対意見を持. それぞれの地方が持つ特殊な事情を調査する。これら2回の調査を実施. つものは少なく,「特に困難を感じるところはない」とみている。(48). して,義務教育年限延長実施のtaめの資料とするものである。(46}. 同じく事務官である日田権一一は,静岡,岐阜両県の調査をしているが,. 10班に分かれて全国の実情を調査しta文部省調査班の報告会が,9. 山間の村を調査しta結果について次のように述べる。その村は,村の長. 月2日に行われる。その結果について普通学務局長は「大体に於て義務. さが7里(約28㎞)という山間の細長い村である。その中に2つの尋. 教育延長実施に差支のない状態にある」と述べる。それは,尋常小学校. 常高等小学校があり,いくつかの分教場がある。従って,教育費は経費. 卒業者の大部分が高等小学校その他の上級学校に入学していて事実上ほ. 総額の6割何分かを占めている状態である。児童の就学歩合は良く,高. とんど義務教育を実施したのと同様の状態にあるからである。高等小学. 等小学校入学は,男子はほとんど全部である。しかし,女子は尋常卒業. 校を出なければ就職にも差し支えるという情況からか,山間の僻村や離. の約半数くらいである。その理由は女児の中には尋常を卒業するとすぐ. れ島のようなところでもほとんど全部高等小学校に入っているという事. に紡績工場に就職する者が多いからである。ところが,一流の工場では. 実を挙げ,大多数が延長を要望している実情をつかむ。そして,高等小. 高等小学校卒業者を採用するので,二流三流の工場に就職することとな. 学校へ行きたくても行けないという特殊な事情にあるものについても,. り,10時問労働を強制される(1時間は食事)。しかも衛生施設が整. 「それは極めて少数で、それらに対しては従来もやって居るように就学. っていない不衛生な所での労働であるため罹病して帰って来る者が多く,. 奨励費の方で解決はつく」としている♂47}. 死亡率も高い。現在,少年工の使用については,国際的な規約があるよ. 具体的にはどのような実情であろうか。岡山,広島両県にわたって調. うであるが我国では義務教育終了者は使ってよいという特別令がある。. 一29一. 一30一.
(17) 義務教育が延長され彪ら法の上から父兄や会社を抑制することができる. 教育紙『教育週報』が,義務教育年限延長と小学校教員給府県支弁の. ので,ある程度までその弊を救い得る。つまりは,女工の保護のために. 問題に関係する法規等の改正事項について質問したことに対して文部省. も義務教育年限延長は必要であるとする。(49}. 当局が応えたものである。そして,それは昭和11年11月21日付の. 鳥取県の高等女学校礪託の山本や小学校長峰地の報告にみられる尋常 小学校卒業者の9割5分までが高等小学校に進んでいる事実がある(5ω。. 『教育週報』に掲載されており,年限延長に関する改正案がほぼ出来上 がっていることを伺わせる当局の回答を得ている。{54). 三重師範学校代用附属主事稲森の報告にみられるように農村において高 等小学校に進学する理由が就職に関係していることの実情もある{5n。. 〈教育延長〉. そして,労働科学研究所の桐原の講演で取り上げられた年少労働者の保. ◇高等小学校設置. 護の問題がある(52)。これらの問題が,今回,文部省の全国各地の実情. 教育延長に伴い当然市町村に高等小学校設置の義務を負わせるこ. 調査によって,より正確に把握されることになる。また,義務教育年隈. とを原則とする。但し過渡期の処置として青年学校を代用し得る. 延長の実現のために派遣されteとはいえ,実際に文部省の調査員が現地. こととなっているので、その設置も認められている。これが設置. に赴いているのである。そして,延長問題に罪して意見交換をし,反対. について文部省としては出来る限り市町村負担が現在以上に増加. する者がほとんどない状態にあり,むしろ延長を要望していることをつ. せぬように考慮を払っている。. かんだことは,実現に向けて大きく進展したことになる。. ◇教育の内容. しかし,ここでも問題となってくるのは経費の問題である。事務官日. 教科目の整理配合、授業時数の増減をなす。. 田の報告の中にも見られるように教育費が経費総額の6割以上を占めて. ◇尋常小学補習科の規定改正. いる町村が存在するという事実である。尋常小学校卒業者のほとんどが. ◇児童の就学. 上級学校に進んでいるから,増加する経費は僅かである。僅かとはいう. 現制の学齢制度は廃止して満6歳より満14歳までの悉くの児童. ものの高等小学校2ヶ年が義務教育となれば,高等小学校教員俸給(仮. を収容するように改める。但し就学の猶予免除に関する事項は現. に半額国庫負担となるとしても)を負担しなければならなくなり,町村. 制の通り。. 財政が破綻することは目に見えている。. ◇授業料. このような問題を抱えながら文部省は,調査班の行っta調査の後,文. 高等小学校は尋常小学校と同様に授業料を徴収しないことを原則. 書により調査班の調査事項とほぼ同様の調査を全国市町村に対して行っ. とする。. ている(53)。そして,調査班の報告書と合わせて整理し,検討を重ねた. 〈府県支弁〉. 結果次のような方針を明らかにする。. ◇義務教育国庫負担法の改正. 一31一. 一32一.
(18) ◇小学校教員給府県負担法の制定(単行法による). 必要とする経費の総額は,18083651円となる。(59)これは,当初. ◇俸給最低額の規定(勅令による). の計画に比べればかなり低い額である。しかも就学猶予規定を現制のま. ◇負担法の施行令(勅令による). まとしたためか,就学奨励施設費として計上されteのが,総額で65万. (r教育週報』第601号). 円である。年度別でみると昭和13年度が17万円,12年度が48万 円である。(6e)これも,当初の計画をかなり下回る。不就学児童問題の根. これによると,現制の市町村義務教育費国庫負担法では, 「市町村立. 本的な解決は望めない。しかし,現在高等小学校で徴収する授業料総額. 尋常小学校ノ正教員及准教員ノ俸給二要スル費用ノー部ハ国庫之ヲ負担. は,520万円である(6nが,これを徴収しないこととしている。. ス」(55}となっているが,尋常高等の小学校教員の俸給が府県の負担と なることになり,市町村財政の負担が軽減されることになる。そして,. 昭和12年早々の1月4日,文部省省議を開き,今議会に義務教育法. これは平生文相が計画の概略を示した際に明らかにしたものである(56)。. 案を提案することを決定する。(62》既に,「土俵際まで押寄ぜ、今一と押. 高等小学校の授業料を徴収しないこととなり,児童保護者の負担も軽減. し」(63)というところまで来ているのである。そして,1月18日,臨. されるが,児童の就学猶予免除に関する規定が現制の通りである(57)の. 時閣議において,義務教育法案を提出することを正式に決める。(64)昨年. で,不就学児童の問題が据え置かれteままとなる。. の6月8日に改革案の大綱を示して以来,平生文相を中心とした文部省. しかし,このように関係法規の改正という具体的な事項についても文. は精力的な動きを見ぜてきた。それが,ここに至って閣議決定をみるこ. 部省が明らかにするようになったということは,それだけ実現の可能性. ととなり,実現は時間の問題となった。. が高くなったことを示している。そして,12月12日付r教育週報』. ところが,1月21日の衆議院本会議において政党と軍部の正面衝突. が伝えるように「政界に激変の起らない限り、義務教育延長の実現は確. が起こる。く65)その2日後の23日には,内閣総辞職という事態に追い込. 定的のものと見られて居る」c58}ようになるのである。. まれるのである。66)。この思いがけない,急な政変によって,平生文相. このような情況の下,満を持して作成されたのが「義務教育八年春実. の企図した義務教育8年制実施計画はくじかれることとなるのである。. 施計画要綱」 (資料⑥)である。この要綱は,先の義務教育延長案大綱. 昭和12年3月3日,林銑十郎兼摂文相が,議会に提出しないことを. (資料⑤)とほぼ同様の内容である。その中で,注目すべき点は「高等. 正式に言明する。(67). 小学校二丁ケル授業料ハ之ヲ徴収セザルヲ本則トスルコト」, 「児童生. 徒ノ就学ヲ容易ナラシムル為奨学奨励費ヲ増額スルコト」を新たに加え. ていることである。義務教育8年制実施に要する経費として,臨時費総. 額1157650円,経常費総額16926001円を計上している。 一一. R3一. 一34一.
(19) 第3節 教育界の動き. すパンフレットを作成し,各方面に配布することを決める。また,義務. 教育年限延長促進全国大会を7月24日に開催することも決める。c72). 昭和11年7月1日,帝国教育会の主催で,義務教育延長促進大会が. 7月20日,第2回実行委員会が開催ざれ,義務教育延長促進パンフ. 開催される。促進大会には,東京市内および近県の教育,教員団体30. レットが発表される。(73). 余の代表約150名が出席する。「軍備の対等。教育の対等」「軍備は 骨。教育は肉」を標語とUて掲げたこの大会で宣言・決議(資料⑬)が,. パンフレットは「何故、義務教育は今延長しなければならぬか」(資. 満場一致で可決される。(68). 料⑭)というものである。パンフレットは,「一・、義務教育の延長は政. 今や軍備は,英米との対等が主張されている。そして,産業もまた世. 府の公約である」「二、何故義務教育を延長しなければならぬか」「三、. 界の市場に雄飛しつつある。それにも拘らず,「独り国民義務教育のみ. 義務教育の延長は容易である」 「四、延長はぜひ今やらねばならぬ」の. 列強に劣る」ような現状である。これをそのままにしておけば,躍進日. 4項目で構成されている。. 本の発展も将来に待つことはできない。故に,少なくとも欧米諸国と同. 「一、義務教育の延長は政府の公約である」では,義務教育の8ヶ年. 等の義務教育年限の延長が必要なのである(69)。まして広義の国防とし. 延長は,明治33年以来一一貫した国家既定の方針であるとする。即ち,. て兵力充実の背景に国民精神の強化,個人体力の増進が要望されている. 明治33年の小学校令の就学規定を定めた第32条において「児童満六. 時である。年限延長は,一層その必要性を増すのである。従って,ここ. 歳二達シタル翌日ヨリ満十四歳二季ル八箇年ヲ以テ学齢トス」「学齢児. に「朝野官民心rg 一一にし、万難を排し、之が実現に逼進せんことを敢て」. 童保護者ハ就学ノ始期ヨリ其ノ終期南至ル迄学齢児童ヲ就学セシムル義. 宣言するのである。同時に「全国教育者の総意を糾合し義務教育年限延. 務ヲ負フ」(74》と明示しているように,当時より8ヶ年を義務教育の目. 長の即時断行を期す」ことを決議する。. 標としているのである。当時の国情では,実現は不可能であった。日露. そして,この促進大会において,義務教育延長促進同盟が結成される。. 戦争後の明治41年,4ヶ年から6ヶ年に延長した際に,文部省訓令に. 大会終了後,直ちに義務教育延長運動を行う。まず最初に,首相官邸,. おいて「固ヨリ今回二改正ハ未ダ之ヲ以テ足レリトスルニアラスト錐モ. 大蔵省,民政党,全国市町村会,文部省,内務省,政友会に歴訪,陳情. 我国現下ノ情況置上二之ヲ六箇年以上二延長スルコトヲ以テ暫ク之二満. を行うe(7z》. 足シ其ノ完成ハ更二之ヲ他日二期セン」(75)ことを明言している。これ. 7月3日,義務教育延長促進同盟の実行委員として,50名が選出さ. は,政府が国民に対して義務教育年限の延長を公約したものであるとし. れるe(71). ている。現在,軍事産業交通を始め諸般の文化はジ燦然として欧米列強. 7月11日,第1回実行委員会が開催される。同委員会において最難. を凌駕するに至っている。それにも拘らず,義務教育の実情は欧米列強. 関である経費問題について,どのようにすれば実現可能かを具体的に示. に及ばない。依然として30年前の旧態を踏襲している。これは,「国. 一35一. 一36一.
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