実効性のある組織的生徒指導体制の構築を
図る校内研修の在 り方に関する研究
―「学習する組織」としての学校づくりをめざして一
教育実践高度化専攻
生徒指導実践開発 コース
P13037G
田中
祥平
実効性のある組織的生徒指導体制の構築を図
る校内研修の在 り方に関する研究
…「学習する組織」としての学校づくりをめざして一
教育実践高度化専攻
生徒指導実践開発 コース
P13037G
田中
祥平
実効性のある組織的生徒指導体制の構築を図る
校 内研修 の在 り方 に関す る研究
「学習する組織」としての学校づくりをめざして一
教育実践高度化専攻 生徒指導実践開発 コースP13037G
田中 祥平 【キー ワー ド】組織的生徒指導体制 校内研修 学習す る組織論 ダブル・ループ学習 【要旨】 児童生徒の問題行動が多様化、重層化 してい くなかで、実効性のある組織的・体系的な 生徒指導を展開す ることが求められている。そのためには、教職員間の同僚性・協働性に 基づ く組織的生徒指導体制の構築が不可欠の前提 となる。そこで、本実践研究においては、 学校を学び続ける組織 とす ることが実効性のある生徒指導体制の基盤 となると考え、P.セ ンゲの 「学習す る組織論」に基づ く校内研修を、筆者、メンター (連携協力校生徒指導主 事)、 大学指導教員 との協働で開発・実施 した。 全教職員 を対象に参加型の校内研修 「理想の学校」を実施 し、教職員一人ひ とりが 自ら の価値観 を省察す るとともに、お互いの価値観の相違を相互理解 し、学校組織全体の ビジ ョンの策定・共有、取 り組みの具体化を図るための協議を行つた。研修 を通 じて、生徒主 体で 「授業の約束事づ くり」を行 うことが決定 された。 メンター、管理職が中心 とな り、 筆者、大学指導教員 との協働のもと、全校授業 「授業の約束事づ くり」が開発 され、学校 長が授業者 とな り実施 された。 校内研修及び全校授業実施後に全教職員に対 して、アンケー トとインタビューを行つた ところ、生徒指導場面、授業場面における個々の教員の意識 と行動の変容 と、教員集団が 学び続 ける組織へ と変容を遂げつつあることが確認 された。個々の教職員の指導観お よび 教育観の相互理解が促進 され、次なる手立てを考 えるためのコミュニケーシ ョンが活発 に 行われ るよ うになってきたこと、また、お互いの指導観や教育観 を問い直す雰囲気が生ま れてきたことな どか ら、校内研修の核である 「ダブル・ループ学習」の一定の定着が図 ら れたもの と捉 えることができる。 なお、本実践研究における校内研修の開発・実施は、学校現場 と教職大学院 との連携・ 協働の一つのモデル を示 していると捉えることができる。1
問題の所在 と研究 目的 (1)問題意識 教員一人で行 う教育活動には限界がある。ま してや、子 どもたち一人ひ とりの課題やニ ーズを把握 した うえで多面的に指導・援助を行 う生徒指導においては、各教員がそれぞれ の個性や持 ち味を活かす ことは勿論、組織的な働 きかけを行 うことは不可欠なことである。 したがつて、教員間で相互に学び合い、切磋琢磨 して個々の指導力の向上 と対応の組織化 を図る機会が重要 となる。複雑な生徒指導上の課題が山積す る今、教員間の個性や経験の 違いを活か しなが ら、お互いが指導の幅を広げ、子 どもたちのために充実 した生徒指導を 進めることが求められる。 研修やケース会議、職員室での 日常会話など、様々な場面において、教員同士がお互い か ら学ぶ ことは多い。 自らの指導方法を リフレクシ ョン(省察)す るとともに、新たな指導 方法に出会 う機会でもある。また、一人では結論に至ることのできない課題の解決につな がることもある。大学や大学院、研究機関、あるいは書物で学んだ理論を実際の教育活動 場面に活か し、実践 している教員 も、実践経験か ら理論の構築をめざしている教員 も数多 く存在 している。限 られた時間 と資源のなかで教員が成長を遂げてい くには、教員相互で 切磋琢磨 しなが ら、組織 として体系的に学び続けてい くことが効果的であると思われ る。 このよ うな教員相互の学び合いにおいて重要なことは、教職経験年数や年齢の差を超 え て学び合 うことである。教育の現場において、経験が価値のあることは勿論である。 とり わけ新人教員や若手教員にとつては、ベテラン教員の経験か ら学ぶ ことは多い。 しか し、 ベテラン教員に経験に基づ く知の更新を促 し、学校現場に新 しい風を吹き込む とい う視点 に立てば、新人教員や若手教員の存在が学校全体の教育活動の充実に向けて寄与す ること も少な くない と思われ る。 したがつて、学校全体で組織 として、教員同士がお互いを認 め 合いなが ら、不断に学び続 けることが求められているのではないだろ う力、(2)生
徒指導の現状 と課題 高度情報化、グローバル化の進むなかで、生徒 を取 り巻 く社会状況や環境は急激 に変化 している。スマー トフォンや タブ レッ ト端末の普及により、人々はこれまで以上にネ ッ ト とかかわる時間が増加 し、Facebookや LINE等のSNSの発展により、いつでもどこで もあ らゆる人々 とつながることが可能な社会へ と変化 している。こうした社会の変容のなかで、 生徒の問題行動 も多様化、重層化 し、学校教育現場では、対応の困難 さが増 している。ネ ッ トを介 したい じめや暴力行為の増加、少年による凶悪犯罪やい じめを苦に した 自殺等、深刻な問題状況のなかで、対応すべき生徒指導上の課題 も多様化 している。 生徒指導は、本来、各教科 。領域をは じめ、学校 における日常生活のあ らゆる場面にお いて、体系的0計画的に行われる教育活動である。 しか し、問題行動への対症療法的な指 導に終始 している場合 も少な くなく、開発的・ 予防的な生徒指導が十分に行われていると は言い難い状況にある。困難な問題解決に向けての生徒指導を進めるにせ よ、開発的・ 予 防的生徒指導の充実を図るにせ よ、その具体化にあたつては、組織的・体系的な生徒指導 が全校的な取 り組み として行われ ることが不可欠であると思われ る。 また、中央教育審議会・教員の資質向上特別部会(2011)において、「今後10年間に教員 全体の約
3分
の1が退職 し、経験の浅い教員が大量に誕生」す ると報告 されている。学校 教育現場において退職者 と新規採用者の増大による教員層の大幅な入れ替わ りが生 じるた め、生徒指導の考え方やスキルの継承・発展が喫緊の課題 となつている。全教職員におけ る実効性のある組織的な生徒指導体制を展開す るために、教職員間の同僚性・協働性の構 築が求められているのである。(3)研
究 目的 同僚性・協働性を基盤 とす る実効性のある組織的生徒指導体制の構築を図る うえで、校 内研修 が果たす役害1は大きい。 岸本・久高(1986)によれば、校内研修は、「子 どもの期待 され るべき成長・発達を促進す るために、学校 として組織的・継続的に取 り組み、教師一人ひ とりの職能成長 と、集団 と しての成長の伸長を促進 し、かつ、教師集団の協働態勢を促 し、 さらには学校 の経営、組 織革新へ と結びつ く研修活動である」と定義 される。また、校内研修の機能 として、「①教 師一人ひ とりの職能成長、②教師集団 としての成長 と協働態勢の促進、③学校の経営、組 織革新」の3点
をあげられている。 では、組織的生徒指導体制の実効性 を高める校内研修 とは如何なるものなのであろ うか。 実効性 とは、学校 の組織力に他な らない。その組織力の向上の核 となるのが、「省察的な学 習能力」 と「省察的な自己更新力」である。曽余 田(2010)はセンゲの組織論に依拠 し、組 織力の向上を図るには、「意味や価値のある教育や学校を探求 しよ うとする姿勢」と「対話 的なコ ミュニケーシ ョンの質」によるところが大きい と指摘 している。本実践研究におい ても、セングの理論 を基盤 とし、教員が 自らの価値や暗黙の前提 を省察す るきつかけとな るよ うな校内研修の在 り方について検討 を行 う。研修を通 して、教員相互の経験を共有 し、 生徒指導の新たな知を生み出すべ く学び合 うことにより、実効性のある組織的・体系的な生徒指導を推進す る体制の土台が築かれ るのではないか と考えている。 ・ よつて、実効性のある組織的生徒指導体制の構築を図るための校内研修プログラムを開 発・実施す ることが本実践研究の 目的である。開発にあたつては、P.セ ンゲ(2011)の 「学 習す る組織論」及び、C・ アージ リス(2007)の 「ダブル 。ループ学習」の考え方を参考 とす る。
2
研究の方向性―学習する組織 としての学校づ くりを目指 して(1)学
習する組織 とは何か 曽余 田(2011)はアージ リス とシ ョーンの理論に依拠 して、組織学習のあ り方について次 のよ うに指摘 している。組織学習を推進 してい くのであれば、「児童生徒が悪い、家庭が問 題だ、それ らにどう対応す るか と問題 を外的環境のせいにす るよりも、自分たち(学校ない し教職員)の 実践のあ り方やその前提にある枠組みや価値(教育観や子 ども観 など)を見つ め直す必要がある。 自分たちの実践を批判 的に省察 し、学校の問題に無意識に影響を及ぼ している側面を見つけ出 し、 自分たちの行動を変革す ることである」 とい うのである。問 題解決だけでなく、問題設定の適切性 を問い直す ことが重要なのである。つま り、「ダブル・ ループ学習」を促進す ることのできるスタンスと力 をもつた組織 こそが、実効性のある組 織である。 では、「ダブル・ループ学習」 とは どのような学習を指すのであろ う力、COア
ージ リス (2007)に よると、「シングル・ループ学習」とは、日標や望ま しい結果に対 して不一致を発 見 した際、講 じてきた手立てを見直す ことを指す。□
□
清掃場所の細分化 清掃場所の評価 個々の生徒へ役割付与 図1
学校における 「シングル・ループ学習」の例 学校における清掃活動 を例に 「シングル・ループ学習」について考えてみる。生徒のな かには、清掃活動に取 り組まない者や教員の指導に従わない者 も少なか らず存在する(行為 と結果の不一致)。 そ うした生徒に対 して教員はあ らゆる手立てを講 じて、清掃活動に取 り 組むよ う指導す る。清掃場所の細分化や清掃状況の評価、生徒への役割付与、教員の監督 強化な どである。 このよ うに生徒が清掃活動に意欲的に取 り組む よ うになるために手立てを見直 していくことが 「シングル 。ループ学習」である。 「ダブル・ループ学習」 とは、 日標や望ましい変容に対 して不一致を発見 した際、組織 の枠組みや価値そのものの適切 さを吟味 し再構成す ることで不一致を修正す る学習であ り、 自らの枠組みや価値を問い、 自分たちが どのよ うに物事を認識 しているかを省察す る学習 である。 この 「ダブル・ループ学習」を学校での生徒指導にあてはめると図
2の
よ うにな る。生徒に変容 を促すために何 らかの手立てを講 じたが、教員が意図す るもの とは異なつ た結果 となつた場合、手立てを見直すのではな く、その手立てを行 うに至った学校の思考 の枠組みや前提 となる価値の見直 しを行 うとい う営為である。 〈生徒指導実践〉 見立て(Assessment) 計画(Plan) 日本票(Goal) (見かけ上の一致)枠組み。
価値
→
レ匠劉―
―
匿囚
メンタル 0モ デル 暗黙の前提 図2
学校 における 「ダブル・ループ学習」の例 ここでは制服指導を例に挙げて「ダブル 0ループ学習」の実際について考えてみる。明長 装の乱れは心の乱れ」 とも言われ るよ うに、制服には正 しい着方が決められていて、制月艮 の乱れを発見 した際には、教員は乱れを正すための指導を行 う。指導 された生徒はその場 で制服の着方を直 した り、身だ しなみを整 えた りす る。 しか し、 こうした制服指導は、そ の場限 りの指導にとどま り、制服 を正 しく着用す るとい う目標 をなかなか達成できないこ とも少なくない。 この とき教員は生徒が正 しく制服 を着用す るよ うに新たな指導を行 う。 例えば、朝のホームルームで服装チェックを行 うことや啓発 ポスターの作成、または生徒 による呼びかけなどである。 このように教員は 目標の達成に向け、指導方法の見直 しと変 換を図る。だが、このような指導方法の見直 しと変換だけでは、「ダブル・ループ学習」と は成 り得ない。 なぜな らば、制月風指導そのものの必要性や意味について問い直 していない か らである。 自分たち(教員)は なぜ制服指導をす るのか、また、学校には、なぜ制服があ り、正 しく着用 しなければな らないのか、までを問 う必要がある。組織の枠組みや 自明 と されている価値 を問 うことこそが、「ダブル・ ループ学習」に他な らない。 あらためて、清掃活動に関 して両者 を比較 して違いを明 ら力ヽこしたい。「シングル・ルー プ学習」では、生徒が清掃活動に取 り組む よう手立てを模索 し、講 じる。しか し、「ダブル・ループ学習」では手立てを見直すだけではなく、清掃活動の在 り方そのものを問い直す こ とか ら始める。つま り、「シングル・ループ学習」では「清掃活動あ りき」で手立てを見直 すのに対 して、「ダブル・ループ学習」では 「なぜ清掃活動を生徒が行 うのか」、あるいは 「なぜ学校には清掃活動があるのか」 とい う清掃活動そのものを問い直 してい くことにな る。 メンタル・モデル ←いの奥底 にある人間や世界に対す るイメージや仮説)や暗黙の前提 を問い直 してい くことこそが、「ダブル・ループ学習」の根幹である。 P.センゲ(2011)は、上記の概念の体系化を図 り、学習す る組織 を、「変化を迫 る環境か ら の外的な圧力以上に、 自分たちで生み出 した内的圧力を基盤 として」、「自らの未来を想像 す る能力をたえず高めてい く組織」であると定義 している。言い換えれば、「自分たちが本 当に望んでいる結果 を生む能力をたえず高めてい く組織、革新的で発展的な思考パターン が育まれ る組織、共通の志が 自由にはばた く組織、 ともに学び方をたえず学びつづける組 織」である。現在の学校 において、 自らの未来を創造す る能力を高める生成的学習を続 け る組織 を構築すること、つま り、「学習す る学校」の構築が求められているのではないだろ う力、
(2)学
習する学校のディシプリン P.センゲ(2014)は 「学習す る組織」を基盤に、「学習する学校」の構築を図るためには、 次のデ ィシプ リンを満たす ことが必要であると指摘 している。デ ィシプ リンとは、学習 し 修得すべき理論および技術の総体のことであ り、実践す るために学び、習得 しなければな らない理論 と手法の体系である。つま り、学習す る組織の中核をなす領域を指す。 ① 自己マスタ リー :個 人の ビジ ョンを明確 に し、生み出 したい未来に辿 り着 くための攻 略や指針 を共有す る。 ② メンタル・モデル :メ ンタル・モデルにおいて各個人の認識の省察を行 う。 ③ 共有 ビジ ョン :お互いに本質的に異なる日標や声明のすべてを整合的に調整す る。 ④ チーム学習 :組織 としてエネルギーや行動を共通の 目標 を達成す るために使い、集団 的思考のあ り方を変質 させ る。 ⑤ システム思考 :上 記の活動を通 して、相互依存性や変化をよりよく理解 し、 自分たち の行為によつておこる帰結を形作つている諸々の力に対 して、より効果的に応 じられ るよ うになる。3
学習する組織の構築を図るための校内研修「理想の学校」の開発・実施 6校内研修の在 り方について、中央教育審議会答申(2006)において、「各学校においては、 魅力ある職場づ くりを進めるため、教員同士が学び合い、高め合つてい くとい う同僚性や 学校文化を形成す ることが必要である。 このため、個々の教員の能力向上だけでな く、学 校におけるチームワークを重視 し、全体的な レベルア ップを図るとい う観点か ら、校内研 修の充実に努める必要がある。また、有機的、機動的な学校運営が行われ るよ う、校務分 掌などの校 内組織の整備や、個々の教員の知識 0経験を他の教員 も共有できるよ う校内体 制づ くりを進めてい く必要がある」 と述べ られている。 また、佐野(2010)は、校内研修の意義は、同 じ学校 に勤務す る教職員が研修にともに参 加す ることを通 じて、教職員個々人の資質能力の向上に寄与す るのみな らず、勤務す る学 校の組織開発そのものに貢献す ることが期待 され るところにあると指摘 している。 個々の教員の力量の向上 と学校組織開発を並行 して進めるための研修 としては、問題解 決のプ ロセスに全教職員が協働 して関わる参加型の研修 が有効であると思われ る。学校 内 で起 こった(あるいは、起 こるであろ う)事象をとり上げ、それに共通 して直面 している教 職員が、 自らの問題 として主体的にとりくむことができるよ うな校 内研修 である。 本実践研究においては、
A中
学校において、学習す る組織 としての学校づ くりを 目指 し て、P.セ ンゲの 「学習す る組織論」を参考に、校内研修の在 り方について検討を行 う。な お、A中
学校は、近畿圏にある公立中学校で、数年前に暴力行為が発生す るな ど、生徒指 導上の課題が多 くみ られ る小規模校(生徒 184名 、教職員20名)で ある。(1)校
内研修 「理想の学校」の開発・実施までの経過1)学
校の生徒指導上の課題を生む背景についての分析2013年
度の校内研修で行われたSWOT分
析によつて得 られた情報をふまえた うえで、筆 者 自身が行つた参与観察 と生徒指導主事(連携協力校 メンター)と の協議を通 して、A中
学 校の現在の生徒指導上の課題 を生む背景について検討を行つた。その結果、次のよ うな現 状が浮かび上がった。 ①教員及び教員集団の強み ・教員数が少な く情報が共有 しやすい ・新任教員が多 く、フッ トワー クが軽い 。個々には生徒に向き合っている教員が多い ②教員及び教員集団の弱み 。生徒指導の決ま りがあいまいで統一感がない・ 統一 した生徒指導方針がない ・ 教員個々に危機意識の相違がみ られ る ・ 現状を変 えることに関 して意識に開きがある 。新規採用者の増加 により、生徒指導の考え方やスキルの継承 。発展が困難である 。教員間の会話が少ない ・職員室の雰囲気が重い 。学校い じめ防止基本方針の共有が図 られているか定かではない 教職員間の意識の相違か ら統一 した生徒指導方針が共有 されていない とい う現状をふま え、学校全体 としての生徒指導 目標をあらためて確認す るために、研修テーマを 「理想の 学校」とし、「
A中
学校 を理想の学校 に してい くためには、今何が必要か」を教職員全員 で 協議す る参加型の校内研修 を企画することに した。事例研究を行 つてきたが、全教職員間 で 日標の共有ができていない とい う反省か ら、生徒指導方針 を全教職員で決定す ることで、 生徒指導 目標の共有化を図 り、実効性のある組織的な生徒指導体制の構築をめざす ことが 研修の 目的である。そのために、筆者、生徒指導主事(メ ンター)、 大学指導教員 との協議 を重ね、校内研修の具体化を図つた。2)校
内研修「理想の学校」策定までの具体的な経過 校内研修 「理想の学校」は、2014年
4月∼ 8月 までの期間、筆者 と生徒指導主事(連携 協力校 メンター)との週2回
の協議、及び節 目節 日で大学指導教員を交えての検討を通 じて、 開発を進めた。7月
に、作成 した原案を基に、大学で現職教員及び大学院生を対象 に2回
のシ ミュレーシ ョンを行 つた。1回
日のシ ミュレーションは、学校外の生徒指導経験の豊 富な現職教員 を対象に筆者がファシ リテーター とな り研修 を行い、原案の精緻化を図つた。2回
目のシ ミュレーシ ョンでは、教職大学院で生徒指導を学ぶ現職教員 。ス トレー トの院 生に、校内研修実施者であるメンターが加わ り、メンター 自身が参加者の立場で研修 を体 験す るよ うに した。 このよ うに、校内研修 「理想の学校」は、筆者、メンター、大学指導 教員、そ してシ ミュ レーシ ョン参加者の協働 によ り開発 されたものである。 校内研修「理想の学校」の実施にあたつては、研修実践者 自身の「ダブル・ループ学習」 についての理解 と思考の変換が求められる。筆者はもとより、メンターも研修の協働構築 の過程において、2人
の 日常的な議論や第二者(A中
学校の管理職 をは じめ他の職員、A中
学校以外の教育関係者など)を 交えての対話、大学院における学びへの参加 などを通 じて省 察を深 め、思考の変容が徐々に促 されていつた と考えることができる。① テーマ決定までの経過 校内研修で扱 う内容は、「
A中
学校のめざす理想の学校 とは何か」である。A中
学校では、 生徒会が 「理想の学校 とは何か」についてのアンケー トを行い、アンケー トの結果の集約 を基に、理想の学校の実現に向けて生徒会や委員会を中心に取 り組みが進 められている。 具体的には、生徒が周 りの生徒の 日常の行動でよかつたこと、されて うれ しかつたことを 発表す る 「いい とこさが し」 といった活動である。生徒の主体性が十分に発揮 され るまで にはまだステ ップが必要であ り、教員 はサポー ト役 としてかかわっている。 しか し、考え てみると、生徒の願 う「理想の学校」に対 して教員はどのよ うにとらえているのか、また、 教員 自身が願い、思 う「理想のA中
学校 とは何か」 とい うことについての議論がなされた ことはなかった。 そこで、校内研修 「理想の学校」においては、教職員全員 で理想の学校 について協議す ることを通 して、教員間の教育観や指導観の相互理解 と教育 目標や生徒指導方針の共有化 が図 られることをめざした。 これまでの指導方針・指導方法を問い直 し、経験か ら培われ てきた思考や認識の枠組みについての批判的志向を通 じて省察を深め、さらに最終的には、 議論す るだけに とどまらず、理想の学校 の実現に向けた、 日標や方針の決定、それに基づ く具体的な教育活動の展開までを視野に入れた研修 として企画を進めた。A中
学校では、生徒指導委員会や事例検討会 などを通 じて指導方法の見直 しを行 つてき たが、指導方針や 日標の共有が不十分であるため、一貫 した指導が行われていない現状が み られた。メンター も、「事例研究を行い指導方法のノウハ ウを研修で学んでも、日標の共 有がな されていないため、研修で学んだことをその後の指導に活かすのが難 しい」 と指摘 している。生徒指導上の個々の問題について研修や個別の事例研究では、その問題 に対 し ての議論の深ま りは見 られ るが、そこでの学びを他の問題解決へ と活か しきれない点に課 題がみ られた。そこで、特定の生徒指導上の問題 をとりあげて指導方法の見直 しやスキル の習得 をめざすのではな く、指導方針や 日標の根底的な見直 しと共有化を図ることが、A
中学校の生徒指導における喫緊の課題であると考え、「理想の学校」を研修テーマ とするこ とに した。 ②研修方法の決定までの経過 研修方法の特徴 としては、次の4点
があげられ る。a「
理想の学校」の実現に向けた手立てをどれほど実行 しているかについて点数化する 校内研修 「理想の学校」では、A中
学校 を 「理想の学校」 とす るために、これまでに どのような手立てを行 つてきたか、あるいは行えているかを点数化す る。教員個々が理想の 学校 と現在の学校の状況 との差を知ること、及び、同僚教員 との認識の違いを明確に相互 理解す ることを意図 した。個々の教員の指導方法を点数化す るのではなく、あくまでも現 在の学校が理想の学校に対 して どれほ どの手立てを実行に移せているのかを評価す る。現 職教員 とのシミュレーシ ョンを通 じて、学校の現状に対する捉え方の違いを共有す るには これまでの指導方法を点数で明記することが効果的であると考えたか らである。
b自
明とされてきた認識の枠組みや価値観を問い直すための視点や立場の変換 これまでの指導方法の批判的な見直 しは、やや もす ると自分たちの教育活動に対する否 定のよ うに受け取 られ る可能性があ り、参加 した教員にかかるス トレスが大きくなること が予想 され る。実際に現職教員 とのシ ミュレーシ ョンを行つた際に、指導方法を批判的に 見直す ことに抵抗感 があるとの意見が出された。そ こで、校内研修 「理想の学校」におい ては、これまでの指導方法の批判的な見直 しを直接行 うのではな く、 自明 とされてきた認 識の枠組みや価値観 を問い直すために、視点あるいは立場そのものの変換を図ることに し た。具体的には、教員 としての視点か ら生徒 としての視点への変換を試みた。c「
ダブル・ループ学習」をふまえた今後の指導方針の協議 指導方針 の決定は、「生徒の視点」に立ったときに導き出される意見を参考に全職員で行 うことに した。教員の立場や視点か ら出された意見を参考に今後の指導方針 を決定すると、 これまでに行われてきた指導の継続や応用 となる可能性がある。それでは、 自明とされて いる認識や価値観の問い直 しを図る 「ダブル・ループ学習」にな らない。そこで、生徒の 立場 。視点か ら意見を出す ことで、教員 としての発想か らシフ トし、その うえで、今後の 指導方針の決定を行 うことに した。dグ
ルー プ活動を基盤に した全教職員による指導方針の決定 出された意見や今後の方針 など、意見を集約・決定する際には、グループ活動の積み上 げの うえで、全教職員で行 うことに した。すべての教職員が決定事項に対 して参画 し、 コ ミッ トす ることを 目的 としたか らである。佐古(2008)も指摘す るように、学校組織は疎結 合 とい う組織特性 を有 し、個々の教員の裁量性 に重 きが置かれている。そのよ うな組織特 性をふまえた うえで、「学習す る学校」へ と変容を促 してい くには、協議における教職員間 の相互作用 と決定過程への全教職員の参画が必要である。そのために、グループでの活動 を研修 の中心に据えた。 以上の点に留意 して、校内研修 「理想の学校」の開発 を行つた。 10(2)校
内研修「理想の学校」の目的と概要A中
学校では、学校教育 目標 に沿つた全校的な生徒指導方針が定め られているが、実際 の運用 においては、各学年及び各教員の裁量に任 されているところが大きい。学年によつ て生徒の抱 えている課題は異なるため、学年 ごとに個々の生徒指導方針が設定 され、具体 的な手立てを講 じている。 しか し、各学年の生徒指導方針や各教員の生徒観・指導観の違 いに関 して、学年 を越 えての共通理解は行なわれていない。結果 として、各学年で行われ ている指導に対 して教員相互が疑間を抱 くことにな りがちで、全校的な生徒指導を行 うこ とが困難な状況にある。 以上のことをふまえ、本実践研究での校内研修プログラムは、A中
学校における理想的 な学校の在 り方について協議 し、 P.セ ンゲ(2011)の 「学習する学校」のディシプ リン(本 論文pp.5-7)を
参考に 「学習す る組織」の構築を 目指す ものとした。(3)校
内研修「理想の学校」の実際 1)方法 テーマ :「A中
学校における理想の学校 とは何か」 「A中
学校がこんな学校 になつた らいいな」とい う理想(例 :い じめのない学校、明るく元 気な学校、元気な挨拶が聞 こえて くる学校など)について協議す る ソフ ト面(生徒、保護者、教職員への働 きかけな ど)、 ハー ド面(校舎、環境、制度の整備 な ど)いずれでもよい。 司会進行 :生徒指導主事(メ ンター)及 び筆者2)研
修の主旨 ・理想の学校について議論す ることを通 して、学校教育 目標をふまえた2学
期の生徒指導 目標 を設定 し、実際に取 り組む活動を決定す る。 ・個々の教員の理想の学校像について自己開示す ることで、価値観の相互理解を図る。 ・実際の活動を決定す る過程で、これまでの取 り組みについての見直 しを行 う。 ・理想の学校の実現に向け、変革志向で新たな取 り組みを策定する。3)実
践内容①
個人作業(5分
)個々の教員が考える理想の学校について、ポス トイットに書き出す。どのような内容で
も構わない。一枚一項目、横書きで記入
②
グループ作業
(20分) 11あらか じめ学年
0教
科・性別等が偏 らないよ うに配慮 したグループをつ くつてお く。個 人作業であげられた理想の学校についてグループで話 し合 う。出された意見を分類 して、 カテゴ リー毎にまとめ、特徴が分かるような表札をつける。 自分の意見を出す ときには一 言付け加 えて、模造紙に貼 りだす。 グループで分類 したそれぞれの理想 について、A中
学校が現段階において どれだけ実行 できているかを各個人が10点満点で評価 し、それぞれのグループ としての平均点を出す。 点数の低い課題が、達成す るには困難 を伴 うが最 も重要な課題であるとみな し、グループ 毎に最重要課題 を選択する。 ③ 発表(5分
) グループでまとめた最も点数の低い項 目を、理想の学校を目指す うえで最重要課題 とし て発表する。理想 として考えていることが、実際の行動につながつていないとい う認識を 共有する。 ④ 課題を絞る(5分
) 発表をふまえた うえで、理想の学校の実現に向けて達成するには困難を伴 うが最も重要 な課題は何かを決定する。選択する基準はグループ活動 と同様に、各グループで発表 され た課題 ごとに再度グループで点数をつけ平均点を出す。出された点数の1番
低いものを、 全体でめざす 「理想の学校」 とする。 ⑤理想の学校の実現のために行つてきた、あるいは行つている手立てを確認する(10分)A中
学校の理想の学校を実現するには、これまでどのような取 り組みをA中
学校 として 行つてきたか、あるいは行つているかを確認する。 教職員全体で選択 したA中
学校の理想の学校を実現するために、これまで行つてきた、 あるいは現在行つている取 り組みや手立てについてグループごとに協議 し、確認する。出 た意見については、図3の
ように表記する。 部活動 自主学習プ リン ト 委員会・生徒会活動の充実一一一ゴ/
オー プ ンス クール参加 図3
教師 の視 点か らの理想 の学校実現 のために行 つた、あるい は行 つてい る取 り組み・ 手立て ⑥ 発表(5分
) グループごとに確認 された取 り組みや手立てについて発表する。書き出 した項 目が多い 生徒の自主性向上 12グループか ら発表を行ない、その後のグループは発表グループとは異なる意見のみを発表 す る。 自グループ とは異なる意見が出た場合、 自グループの模造紙に色を変えて書きカロえ る。 ② ダブル・ループ学習について説明(10分) シンガポールの植物園(既成の枠組みから自由な発想でつくられている)の写真を示 し、 「これは何でしょうか」とい う問いかけの後に、解説映像を流す。常識にとらわれた考え 方を提え直 し、新たな考えを発想 し、自らがとらわれている概念についての気づきを促す ことが目的である。その うえで、ダブル・ループ学習の意味について説明する。 ③ 生徒の立場からの手立ての見直 し
(15分
) ⑤であげた取 り組み 。手立てを、ダブル・ループ学習を参考に見直す。具体的な活動 と しては、教員の立場から考えた 「理想の学校」実現のために行つた、あるいは行つている 取 り組み・手立てについて、生徒の立場から(自分が生徒だとしたら、どう感 じ、どう思い、 何を求めるか)再考す る。 外部へ売 り込んでほ しい 一一 失敗 して もや らせ てほ しい 面 白い授業を してほ しい` ― 褒 めてほ しい 図
4
生徒の視点か らの理想の学校の実現のために行つて欲 しい取 り組み・ 手立て ⑨ 発表(5分
) 見直 した取 り組み 。手立てについて発表する。教員の立場か らと生徒の立場か らとの発 想の違いに気づき、その気づ きを、新たな取 り組み・ 手立てを考案す るきつかけとする。 自グループ とは異なる意見は色を変えて書き加 える。 ⑩ まとめ(2学
期に実際に取 り組む活動の決定) 教員の視点、生徒の視点か ら考えた理想の学校 についての意見のギャップを見比べて、 感想 を述べ合 う。理想の学校 の実現に向け、生徒の視点か ら考えた意見を参考に、全職員 で2学
期に実際に取 り組む活動を決定す る。 理想の学校 について全職員で議論す ることを通 して、また実践活動 を振 り返 る際にこれ まで述べてきたよ うな問いかけをす ることによつて、 自らの価値観 を振 り返るとともに、 研修の場での相互の発言によつて各教員の価値観の相互理解 を図ることをめざした。結果 として、「自ら成長 してい くために、自主的に取 り組む生徒の育成」とい う活動 目標が決定 された。(4)校
内研修実施後の感想 生徒の自主向上 131)主な感想(自由記述) 校内研修実施後の感想で多 くあげられていたのが、生徒の視点に立つ ことの難 しさと、 その必要性、重要性である。生徒指導は生徒の 自己実現 と社会的 自立を目指す教育活動で あるが、実際の学校では問題解決的な生徒指導に偏 りがちである。そのため、生徒の視点 か らではな く、教員の視点か らの指導に終始 して しま う。生徒の視点に立つ ことによつて、 指導の方向性に幅を持たせ ることの大切 さが確認 された と思われ る。 次に多 くあげ られていたのが、価値観の相互理解についてである。「理想の学校」をテー マに掲げたことで、 自分 自身の根底にある理想をみつめることができ、グループ活動を通 して、「各教員が抱いている理想 についてお互いに知ることができた」、他の教員 との価値 観の相互理解 を通 じて、「新たな視点や 自らとは異なる価値観に気づ くことができた」との 感想 も寄せ られた。 なお、点数化 とい う方法についても、点数化す ることで、各教員の価値観や視点な どの 違いが明確 にな り、価値観の相互理解がよ り促 され るとともに、 自分 自身の理想や価値観 を見直す ことができた との感想 も多 くみ られた。 以上の感想か ら、校内研修 「理想の学校」は、 自明 とされてきた価値観や認識の枠組み を省察す るきつかけとなつた と考えることができる。
2)感
想か らみえてきたもの 自由記述の感想 について、P.セ ンゲ(2014)が重要視す る、次の3つ
の観点か ら考察す る。aな
ぜそのアプ ローチを使 っているの力Ъ どうい う前提に基づいて使つているの力、b他
の選択を避 けているのは、 どんな信念、態度、価値観のためか。c現
在の実践の変革を促進す るために、思考のどうい う点を変える必要があるか。 研修後の感想 には、理想の学校 に向けての思考や視点の変換への気づきに関する記述が 多 くみ られた。おそ らく、研修 内容に視点の変換 を促す活動が中心的に組み込まれていた か らであると思われ る。 これまでは、教員の視点や立場か らの指導がほとん どで、指導方 法 も固定 されがちであった。 しか し、今回の研修 を通 して、理想の学校の実現には、生徒 の視点や立場に立つ ことが重要であることが教職員間で実感 されたものと思われ る。考え る立場や視点の変換 を図ることが、理想の学校 の実現への第一歩 となることが期待 され る。 このよ うに、現在 の実践の変革を促進す るための思考の変換(c)については、一定の効果 があったことが、感想か ら読み取れる。しか し、残 り2点
(a),(b)については、感想か らは、 考え方の深化を読み取ることができなかった。 これまでの自らの指導についての省察を十 14分に促す ことはできなかつた とい うことである。個々の教員の内面で省察が行われていた 可能性はあるが、指導方針や指導方法の自己開示を行 うなどして、集団 としての省察を促 す ような活動を組み込む必要があると思われ る。
(5)理
想の学校の実現に向けた具体的なアクシ ョン 1)取り組みに向けた議論 校内研修 「理想の学校」のまとめとして、理想の学校の実現に向けた取 り組みについて 議論 し、具体的な活動内容 を決定 した。議論のなかで、次に示す よ うな取 り組みがあげ ら れた。 ・(教員 自身が)自分の成長 したい姿を見せ る。例えば、部活動において、 自分の専門でな くとも、生徒 と一緒に活動す る。 ・創立40周年に合わせた記念行事で、身近な卒業生の講話を行い、キャ リアモデルを示す。 ・ルール(校則)づ くりを生徒が行 う。 ・ 生徒が授業を行 う。 ・ 生徒を地域人材 として活用す る(地域の清掃ボランティア)。 これ らの取 り組みの中か ら、今回の校内研修ではルール(校則)づ くりを生徒が行 うとい う案が多 く支持 された。しか し、「校則を生徒がつ くることの意義は分かるが、生徒がつ く つた決ま りをそのまま自分が受け入れ られ るか どうか 自信がない」 との意見が出され、教 職員全員が無理な く受け入れ られ るものとして、校則ではな く、楽 しく充実 して学ぶため の 「授業のルールづ くり」を生徒が行 うことが、協議によつて決定 された。 「ダブル・ループ学習」の本質は自明とされている価値を問い直 し、変革へ と繋げるこ とにある。問い直 しか ら決定 された価値が如何なるものであれ、その価値に従つて実践を 行 うのが本来である。 しか し、教育の公共性 と付託 された教育の責任 とい う観点か らは、 どのよ うな価値であつても許容 し、実践に移 してい くことは現実的に難 しい。今回の 「ダ ブル・ループ学習」を基盤 とした校内研修 「理想の学校」においても、変革に向けての新 たな視点は得 られたものの、変革に向けての実践の具体化 とい う点で限界に突き当たつた と考えることができる。公教育 とい う枠組みのなかでの 「ダブル・ループ学習」の在 り方 について、一層の検討が必要であると思われる。ただ、新たな発想の視点か ら、これまで 試み られなかつた具体的なアクシ ョンを起 こすに至ったことは、「ダブル・ループ学習」の 目指す方向への一歩を踏み出す ことができたのではないか と考えている。2)全
校授業「授業の約束事づ くり」の目的と概要 15全校授業 「授業の約束事づ くり」は、全校生徒が 自らの学校の授業の受け方に関す る約 束事を作成 してい く授業である。体育館に全校生徒が一同に会 し、学校長 自らが授業を進 めていった。校内研修後の具体的な取 り組みに向けた議論では、授業の 「約束事」ではな く、授業の「ルール」とい う表現が用い られていた。 しか し、「ルール」では守 らなければ な らない とい う意識が強 くはた らき、生徒の自ら主体的に成長 していこうとす る姿勢は育 まれないのではないか、とい うその後の職員会議での協議か ら、「約束事」の決定 とするこ とになつた。授業を楽 しく充実 したものにす るため、生徒 自ら守 り、 自ら取 り組んでい く とい う約束をみんなでつ くるとい うことが含意 されている。 取 り組みの流れ としては、クラスごとの授業の約束事を作成 し、その約束事を実践 し、 実践を通 して約束事の修正や追加 を行いなが ら、より具体的かつ現実的な約束事を作成 し てい く。 さらに
2学
期か ら3学
期にかけてクラスごとの授業の約束事をクラスごとに実践 し、その後、次年度に向けて、全校 としての 「授業の約束事づ くり」を全校生徒で行 うと い うプロセスが とられ ることになつた。学校 としての新たな授業の受 け方のスタイルを確 立 してい くとい う、取 り組みを生徒主体で進めることによつて、校内研修 「理想の学校」 で掲げた 「自ら成長 してい くために、 自主的に取 り組む生徒の育成」を図ることが 目指 さ れた。(なお、全校授業 「授業の約束事づ くり」の実際については、Appendixに
おいて詳 述す る。)(6)全
校授業「授業の約束事づ くり」実施後の感想1)教
員の感想か ら 多 くの教員か ら、「抽象的な意見をどのように取 り入れるか」、「なぜその意見にしたのか を聞き、 しっか りと考えた うえで一つの意見にま とめるにはどうすればよいか」、「生徒の 集中力 を維持す るには どうすればよかったのか」な ど、取 り組み対す る改善点や課題が指 摘 された。改善点や課題 を指摘す ることは、 自らの行動が生み出 した結果 を省察す るシス テム思考を実践 していると捉 えることができる。校内研修 「理想の学校」を行い、全校授 業 「授業の約束事づ くり」に至る過程 において、「学習す る組織」のデ ィシプ リンが実践 さ れ、A中
学校の教職員集団が「学習する組織」へ と変容 しつつあると考えることができる。2)生
徒の感想か ら'
生徒か らは、「異学年交流をす ることであ らゆる学年の意見を聞 くことができた」、「あま り話 したことない生徒 とも意見交流ができ自分 とは異なる意見を持つていることに気づ け た」な ど、異学年交流によって考え方の違いが分かつた り、価値観の幅が広がった りした 16とい う感想が寄せ られた。 また、これまでは教員がルールを作 り、それを生徒が守るとい う一方通行による指導が 多かったが、今回は生徒 自身で授業の約束事を協議作成 したので、「みんなで作つたものだ か ら守っていきたい」、「様々な案をこれか ら少 しずつ取 り入れて過 ごしやすい学校 にして いきたい」、などの感想 もみ られた。全校授業が、今後の取 り組み対す る意欲を高める効果 を持つたことが確認 された。 一方で、「ルールは教員が決めればいい」、「時間が長 く集 中が続かなかつた」などの否定 的な意見 もみ られた。 しか し全体的には、生徒 自身が決めた 目標 を、今後意識 しなが ら学 校生活に意欲的に取 り組 も うとす る姿勢が生まれたことが読み取れ、「自ら成長 していくた めに、 自主的に取 り組む生徒」への第一歩が踏み出 され るきつかけになつた と考えること ができる。
4
総合考察P.セ
ング(2014)に よる「学習する学校」のデ ィシプ リンに照 らして校内研修全体をふ り かえ り、その成果 と課題について検討 を行 う。 教職員の感想の記述や行動の変化か ら、A中
学校が 「学習する組織」へ と変容 しつつあ ることが確認 された。多 くの教員か ら、研修を通 して、これまでの経験か ら培われてきた 思考の枠組みや認識 に囚われていたことに気づかされた との感想が寄せ られ、また、これ までの指導が、場合 によると生徒の成長の妨げになつていることや生徒の成長に繋がつて いないことも実感す ることができたよ うである。教員が生徒の成長のきつかけをつ くろ う と模索 しても、結局の ところ教員の立場のみか ら考えた指導に陥ることが多い。生徒の視 点や立場に立って、生徒が成長す るために本当に求められ る指導や援助は何かを丁寧に議 論す る必要があることが確認 された。 こうした視点の変換の重要性 を実感 した教職員の行動にも、少 しずつではあるが変容が み られた。A中
学校教員の教室や職員室での行動観察 とインタビューか ら、次のよ うな研修の効果 が示唆 された。(1)教
員の行動の変化 1)生徒指導場面での変容 生徒指導場面では、怠学による不登校生徒へのかかわ り方に変化が見 られた。 これまで 17はそのよ うな生徒に、直接かかわ りを持 とうとする教員 は多い とは言えず、他の生徒の学 習を阻害 させないよ うにとい う方向で対応が行われていた。問題のある生徒を他の生徒か ら切 り離す ような指導や、他学年の生徒に対 しては、当該学年の職員に遠慮 した表面的な 指導が行われていたきらいがある。個に応 じたていねいな指導・援助が行われていた とは 言い難い状況 もみ られた。 しか し、今回の研修 を行 つたことによ り、生徒の視点・ 立場に 立った対応への変化が見 られた。 最 も顕著に現れたのが、教職員間の連携である。 これまでは主に担任が対応 し続 け、生 徒指導担当がサポー トに回ることが多かった。それが、同学年の他の教員や養護教諭 な ど 多 くの教員がかかわ りをもつ よ うになつた。 さらに、他の学年 との指導の連携 についても 議論が交わされた。SWOT分析の結果か らもみ られ るよ うに、各学年それぞれに生徒指導方 針に違いがみ られ、十分な連携 を図れているとは言い難い状況であつた。 しか し、研修後 の生徒への対応においては、各種委員会や会議において、指導方針の情報共有、な らびに 「なぜそのような指導を行ったのか」とい うことを話 し合 う場面がみ られるようになつた。 実際のルールではこのよ うに決められているが、問題のある生徒をどうにか学校行事や授 業に参カロさせ るためにはどうした らよいか とい う観点か ら、指導方針が議論 された りもし た。その際に、生徒の求めている指導や援助は何か、生徒の願いはどこにあるのかを念頭 に置いた議論がなされていた。問題行動に対す る指導 とい う表面的な事象で判断す るので はなく、その指導を行 うに至ったプロセスや価値観 に目を向ける研修のね らいが、わずか ではあるが表れてきていると考えることができる。 2')授業場面での変容 教職経験の長い教員は、これまでに何度 も同 じ単元の授業を行 つてきている。そのため、 発問や板書、ま とめ方な どが、これまでの経験を基に行われることが多い。 しか し、今回 の研修を通 して新たな授業づ くりも行われ るようになつた。「生徒にとつてわか りやすい授 業 とは何か」、「納得のい く授業 とは何か」 と生徒の視点に立った授業づ くりが行われ るよ うになった。その一例 として、調べ学習があげ られ る。 これまでは既習範囲を深めるため に調べ学習を行 つていたが、それはあくまでも教員主導の授業展開のためのものであつた。 しか し、今回の研修後、生徒が授業を行 うとい う授業づ くりを行 つたケースがある。実際 に考案 された指導方法は、生徒が未習内容についてそれぞれが内容項 目を選択 し、それ を 調べ、授業において生徒同士で教え合 うとい うものである。「生徒が授業を行 う」とい う指 導方法が試み られたことは、今回の研修を通 じて、学習指導において、これまでの思考や 18
認識の枠組みが変換 されたことを示す例 として捉 えることができる。
3)生
徒指導に対するメンタル・モデルの共有 今回の研修を通 じて、 自らの思考の枠組みや認識の省察を図るだけでな く、他の教員の 思考の枠組みや認識についても相互に理解することができた と思われ る。生徒指導場面に おいて表出され る教員の行動 を、 自らの思考や認識 を媒介 として対象化 し、 自らを問いつ つ他の教員の思考や認識 を推察 しようとす る態度がみ られるようになつた。 自らの思考や 認識の範疇 で しか、相手(生徒や他の教員)を判断 していなかつたことへの 自己覚知が促 さ れた と言えよ う。 今回の研修において、表面的な指導場面だけではなく、その指導に至つた思考や認識 に ついても議論を行つたことが、それぞれの教員の指導観 を相互理解す るとともに、 自己の 指導観 を批判的に捉 える姿勢 を生み出す ことに繋がつた と思われ る。(2)組
織 としての学校の変容 「学習する組織論」を参考に開発 した校内研修 「理想の学校」を行い、理想の学校の実 現に向けて全校授業「授業の約束事づ くり」を行つたことは、A中
学校が「学習す る組織」 へ と変容 しつつあることの表れであると考えられる。 「学習する組織」とは、「自分たちが本当に望んでいる結果を生む能力をたえず高めてい く組織、革新的で発展的な思考パ ターンが育まれ る組織、共通の志が 自由にはばた く組織、 ともに学び方をたえず学びつづける組織」のことである。A中
学校での校 内研修 「理想の 学校」か ら全校授業 「授業の約束事づ くり」の実施に至る経緯 は、このよ うな 「学習す る 組織」に向けて変容 しつつあることを示 している。その現われの一つ として、教職員間の コミュニケーシ ョンの変化があげ られる。 研修全体を振 り返ったアンケー トの 「研修を行 つたことで教員のコミュニケーシ ョンに どのよ うな変化がみ られま したか」とい う質問に対 して、「それぞれの教員の立場や考え方 がわか り話やす くなった」、「他の教員が どのよ うなルールを作つて授業 しているか聞 く機 会があった」、「これまで以上によ り様子がわかるよ うになつた」、などの回答が得 られた。 一方では、「コミュニケーシ ョンに変化は見 られない、これまで通 りである」との感想 もみ られたが、個々の教職員の指導観お よび教育観の相互理解が図 られ、次なる手立てを考 え るためのコミュニケーシ ョンが行われ るよ うになつてきた点において、校内研修 「理想の 学校」はコミュニケーシ ョンの変容 を促すきつかけとなつたもの と思われ る。 また、「自らの価値観(指導観、教育観)を具体的にどのよ うに問い直す(見直す)こ とがで 19きま したか?」 とい う問いに対 しては、「自らの指導観や教育観が明確にな り手立てがわか つた」、「これか ら生徒を見よ うと思えた」、「理想 と現実 とのギャップを考え直 していきた い」な どの回答がみ られた。 校内研修 「理想の学校」の核である 「ダブル・ループ学習」の一定の定着が図 られたも のと捉 えることができる。 しか し一方では、「自身の指導観や教育観を省察するまでは至つていない」などの感想 も み られた。 グループでの活動を中心に行つたことで、教員間の価値観の相互理解は図れた が、 自身の価値観 を省察す る作業や活動が不十分であつたためと思われ る。 また、「場の変容」が不十分であったことも要因 として考えられ る。校内研修「理想の学 校」で得た学習に関す る知識 を活用す る場面を創造できていない とい うことである。P.セ ンゲ (20011)は「偉大なチームは偉大なチームになることを学習」した と指摘 している。獲 得 した知識 を新たな取 り組みを行 うことで深化 させ、その結果か ら更なる知識の内面化 を 図るとい う「場の変容」を促す こと、獲得 した知を活用する場をどう創造するかが、今後 の課題である。
5
おわ りに 本実践研究では、実効性のある組織的生徒指導体制の構築を図るために、「学習す る組織 論」を基盤に、校内研修 「理想の学校」を開発 。実施 した。校内研修 「理想の学校」は、 外部人材 によつて開発 された校内研修ではなく、筆者、メンター、大学指導教員、シ ミュ レーシ ョン参加者な どの協働 によって開発・実施 されたものである。「学習する組織」への 変容を企図 した筆者 と大学指導教員が、メンターや管理職 と、A中
学校の実情やニーズを 捉えなが ら、協議を重ねた結果、学校現場か ら乖離 したものでない研修 としてつ くりあげ ることができたのではないか と考えている。 その点において、本実践研究における校内研修の開発・実施は、学校現場 と教職大学院 との協働 の一つのモデル を示 していると捉 えることができる。本実践研究を土台 とし、各 学校において、実効性のある組織的生徒指導体制の構築を図るとともに、学校現場のニー ズに応 じた教職大学院 との連携が一層促進 されることが望まれ る。 20【引用 。参考文献】
Chris Argyris(1977)Double Loop Learning in Organizationsク リス・アージリス(2007) 「ダ
ブル・ループ学習」とは何か (DIAЮ冊 ハーバー ド・ むジネス・ レビュー編集部編 組織能力の経
営諦 学び続ける企業のベス ト・プラクティクス
pp85-124)ダ
イヤモン ド社中央教育審議会(2006)今後の教員養成 。免許制度の在 り方について(答申
)文
部科学省htin://m_mext_2o. lo/b menu/shingi/chukvo/chukyoO/toushin/attach/1337014.htm
2014/2/26穆舞員照
中央教育審議会・教員の資質向上特別部会(2011)教職生活の全体 を通 じた教員の資質能 力の総合的な向上方策について(審議経過報告
)文
部科学省 pp.1-2岸本幸次郎・久高善行(1986) 「教師の力量形成」ぎょうせい
Senge,P.et al(2000)Schools that Learn:AFifthDisciplineFieldbookforEducators,Parents,and Everyone Who Cares About Education,Doubleday/currency
Peter Mo Senge(2006) The Fifth Discipline―The Art & Practice of the Learning Organization The Crown Publishing Groupピーター・M・ セング(枝廣淳子・小田理一郎 。中小路佳代子訳2011)
学習する離 システム思考で未来を創造する― 英治出版 ピーター・M・セング ネルダ 。キャンブロン
=マ
ッケイブ テイモシー 。ルカス ブライアン・ス ミス ジャニス・ダットン アー ト・クライナー(リ ヒテルズ直子訳2014)学
習する学校―子 ども。 教員・親・地域で未来を創造する 英治出版 佐古秀一(2008)学校の組織特性 と学校づ くりの組織論一学校の内発的改善力を高めるための学校組 織開発の理論 と鍛 佐古秀一編 学校作 りの組織論 pp.118-184 曽余田浩史(2008)学習する組織論 と「学校の有効性」 佐古秀一編 学校づ くりの組織論pp.4448
学文社 曽余田浩史(2010)学校の組織力 とは何力‐組織論 。経営思想の展開を通 して一 日本教育経営学会紀 要第 52号 pp.2-14 21Appendix
l
全校授業 「授業の約束事づ くり」の実際 全校授業 ll授業の約束事づくり」は、11月中旬∼12月上旬の期間、A中 学校の学校長、教頭、生徒指導主事(メンター)の3名が核 となり、筆者、大学指導教員との協働のもと、協議を重ねて策定した 先進的な取り組みを行つている和歌山県教育センターでの研 修をふまえ協働策定した原案を基に、大学生を対象にシミュレーションを行い、授業の流れや課題の投げ力ヽす方、時間配分などの精 緻化を図つた C方法 校内研修 欧 の学校」で活用した学習する組織論を応用して行う。 テーマ:蝶
の約束事づくり」 授業者:学校長 対象者:在校生184名(6∼ 7人の異学年グループで活動、グループ内に同じクラスの生徒ができるだけ重複 しないように配慮する。) ― :`≧老畑岡Jミ ②全校授業の主旨 楽しく充実した授業を受けるための約束事について全校生徒で協議し、具体的な取 り組み課題を作成・遂行 していくことを通して、 校内研修「理想の学校」で掲げた 「自ら成長 していくために、自主的に取り組む生徒」を実現するきつかけとする。 い 容 a アイスプレイキング(15分) 異学年でグループを構成するため、話 し合い活動が円滑に行えるようにアイスブレイキングを行 う。本授業では全4徒の参画が重 要となるため、今年徒が意見を表明しやすくなるように、言語を介さない身体的接触を中心とした活動(「サメとサケ」)から、「自己 紹介」、グループ全体でのコミュニケーションを中心とした協働作業で目的を達成する活動(カー ドを使つた「お店探しゲーム」)へと 段階的に、異学年生徒間の交流を進めたbグ
ループ(6カ作業は5効 授業の受け方に関する約束事について話し合い、決定していく。決定する項目は3つ である。暖 業の前」、暖 業の中」、蝶 の後」 である。蝶 の前」と 暖 業の後」は共通する時間帯ではあるが、次の授業に向けた時間である 暖 業の前」と授業終了後の「授業 の後」として、区別して約束事を作成する。 まず、グループ内で2人組をつくり、約束事について話 し合い、3つ の項目についてそれぞれ約束事を決定する。次にグループ全 体で3つの項目についてそれぞれ 1つ に決定する。 cクラス湛置К40効 ″ レープ内で話 し合つた約束事を、自らのクラスに持ち帰る。グループ活動 と同様に、クラス内で 2人組をつくり、各グループ活 動で話 し合つた約束事(授業の前、授業の中、授業の後)について話し合い、クラスの取り組みを1つ に決定していく。次に2人組同 士で4人組をつくり、2人組と同様の活動を行い、これを8寿蠍 16メ確kクラス全体へと人数を増中 して行 う。最後にクラスで各 項 目1つの約束事を決定する。 図5
グループ内での話し合いの例0謗渤ゞ決定された約剌 学習する組織の構築を図るための校内研修「理想の学校」の感想 月113分
前着席 中 瑠 する 後 意識を高める 発言す る(ト
プ次の授業の準備 復習する 質問する 私語 しない
。みんなで意見を交流し、 1つの方向性を出していく方法として、今回の手法は有効な手法だと思 う。生徒の目線に立つことも大事 だと改めて気づかされました (“代 男