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勢 田 二 郎
-LUR6(7$
1.緒言 小学校家庭科の被服領域において、衣服の洗浄について学習する。その際に使用される洗剤の適正 使用量の指導については、洗剤容器に各メーカーが記載している使用量の目安を基準にしている。こ れを説明する場合の参考資料として、人工汚染布の洗浄具合を、洗濯前、水洗い、目安量の洗剤で洗 浄した場合および目安の15倍量を用いた場合の4者の比較について示している1) 。しかしながら、目 安量の示す意味は人工汚染布の洗浄状況からはわかりにくく、また、教室でこの人工汚染布を使った 実験を再現することは相当困難である。さらに、洗剤を必要以上に使用すると、すすぎに多くの水を 必要とし、余分な洗剤で河川を汚すことを指摘している。これも誤解を招きやすい表現であり、使用 された洗剤は余分でないものも、汚れとともに外部に排出される。 中学校でも、洗剤の使用量は目安量を基準として、必要以上に使用しても汚れの落ちる割合はあま り変わらないとグラフにより示しているが、科学実験や生活体験として説明されず、理解しにくいも のと考えられる2) 。高校においても、界面活性剤の特性としての浸透作用、乳化・分散作用および再 汚染防止作用などが説明されるが、洗剤の使用量については、目安の基準を超えた説明はなされてい ない3) 。 以上のように、洗剤の適正使用量は、メーカー表示の目安として説明されているだけであり、個人 の体験としての洗剤使用量の理解は現在の学校教育現場では成就しにくいこととなる。筆者は、現在 の社会化された衣生活において洗濯過程が実感できない生徒や学生の存在に危惧をいだいている。衣 類を洗濯機に入れ、洗剤を投入し、ボタンを押せば終了する洗濯操作では洗剤の働きや、すすぎなど の各過程が実感できないのは当たり前のことである。著者は、生活体験として過去 の洗濯操作を体験している。その過程において、洗剤溶液の有効性の判断は液の泡 立ちにより決定していたと記憶している。そこで、洗剤溶液の泡立ちが学校教育現 場において教材として使用できるか否かを検討したので報告する。 2.洗剤 表1に、使用した市販洗剤4種と界面活性剤試薬の一覧を示した。市販洗剤は一 般的な衣類の粉末洗剤2種とすすぎが1回で済むという最近の液体洗剤およびお しゃれ着洗いに使われる液体洗剤の2種である。表1にはメーカーと商品名および ラベル表示の成分並びに使用量の目安を示した。洗剤の使用量の目安は、メーカー の推奨条件であり学術的根拠は記載されていないが、一般的には洗剤溶液の臨界ミ セル濃度よりやや高濃度側に設定されるようである。そこで、図1に示した滴数計 を用いて、洗剤溶液の表面張力を測定した。滴数計を用いる方法は、一定容量の液 図1 滴数計体が毛細管から図のように液滴として落下する際の滴数を測定し、次式から表面張力を算出するもの であり、簡易的方法として知られている。 γ γ0(n0Q) (1) ここに、γは表面張力、Q は滴数で あり、添え字0は純水の場合を表す。 式(1)から純水の液滴数と試料の液 滴数を測れば純水の表面張力の文献値 から試料の表面張力の値を求めること ができる4) 。尚、測定は22℃で行った。 一例として、洗剤% の濃度(&)と 表面張力(67)の関係を図2に示し た。図2の副図は洗剤濃度を対数目盛 で示したものである。副図の低濃度側 と高濃度側を直線近似し、その交点か ら市販洗剤の見かけの臨界ミセル濃度 (cmc)を求めた。結果を表1の最下 行に示した。誤差の範囲は濃度境界の 取り方による計算から算出したもので ある。洗剤7と$については粉末であ り、溶解しない成分(アルミノケイ酸塩) が含まれるために、所定濃度の水溶液 を調整し24時間放置後上澄み液を使用 した。ただし、洗剤7は白濁したまま であったので測定していない。 表1に明らかなように、洗剤使用量 の目安はほぼ実測cmcの値と一致す る。すなわち、洗剤の使用量は汚れと 量的に比例するものであるが、通常の 洗濯時には汚れ量も少なく、cmc程 度でよいことになる。 洗剤 記号 T A B C /$6 メーカー ライオン(株) 花王(株) 花王(株) 花王(株) ナカライテスク(株) 商品名 トップ アタックバイオ(; アタックネオ エマール 試薬 成分 6)(、石けん、32( /$6、32( 高級アルコール系非イオン 32( ラウリルベンゼンスルホン酸1D /$6、脂肪酸系陰イオン その他 その他 その他 その他 界面活性剤濃度 22% 22% 74% 18% 100 使用量目安 浴比 110∼120 浴比 110∼120 浴比 110∼120 浴比 ── (一般タイプ) 濃度09∼07g1 濃度09∼07g1 濃度04∼03g1 濃度 13g1 実測FPF ── 10±04J1 022±010J1 16±05J1 012±005J1 表1 洗剤試料 (6)(:αスルホ脂肪酸エステル、 32(:ポリオキシエチレンアルキルエーテル、 /$6:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩) 図2 洗剤%の濃度と表面張力 図3 泡沫系の構造
3.泡立ち 泡沫系の構造を図3に模式的に示した。泡の状態は、一般に形も大きさも様々であるが、平面膜と プラトー境界(図3中の矢印の向かう液相領域)とで構成されていると考えられる。プラトー境界の 液体部の圧力は平面膜部の圧力より毛管圧分だけ低いため、平面膜部の液体は接合部に排液される(図 では矢印で示した)。したがって、泡沫の安定性は平面膜を形成する2つの界面膜の相互作用に依存 する。図に示したように、界面に吸着した洗剤溶液の場合には、静電気的斥力が働くと考えられ、洗 剤濃度の上昇により泡沫の安定性は増加すると考えられる4) 。 洗剤の種類により起泡性は異なるが、同一洗剤において泡立ちは洗濯に有効な界面活性剤の残存量 の目安になる5) 。洗剤溶液の泡立ちを教材として使用するためには、実際に洗濯試験をする必要がある。 しかしながら、時間的に制約のある授業中に洗剤濃度と泡立ちの関係を実習することは相当困難であ る。そこで、教室でも容易に実行できる洗濯実験として、所定濃度の洗剤溶液を試験管に注ぎ、布を 試験管中で洗濯することを考えた。すなわち、布を試験管に入れ、撹拌操作として試験管を上下に激 しく振ることとした。その後直ちに布だけを取り出し、泡立ちを調べる方法とした。以下に教材とし て使用する洗濯条件を検討した結果を示した。 3.1 布の種類 図 4 は、 洗 剤 $%&の 泡 立 ち を 3 種 の 布( 綿 ブ ロ ー ド、 毛 モ ス リ ン、 綿・ ポ リ エ ス テ ル 混 (6535))を洗浄 後 比 較 し た も の で あ る。 先 ず、 洗 浄 後 の 泡 立 ち の 差 を 明 確 に す る た め に、 目 安 量より相当希薄な洗剤濃度とした。次に汚れ布の使用は、汚れの種類やその量に依存するので、教材 としての使いやすさを考慮し、上述の3種の布を十分洗浄したものを用いた。したがって、汚れの洗 浄というよりも布による洗剤の吸着による界面活性剤の消費と考えられる。具体的には、浴比を110 として、洗剤の目安量の約16量濃度の洗剤溶液10POを試験管に採集し、布1Jを浸漬し、洗浄と同様 によく振り、その後10分静置した。布を取り出した後、手で強く20回上下に振り、静置1分後の泡立 ちの様子を撮影したものである。ブランクは、洗剤溶液だけを振ったものである。 洗剤$と%は、表1に見られるように、陰イオン活性剤と非イオン活性剤が配合されたものであ るが、&は非イオン活性剤単独である。図から洗剤により泡立ちには相当の差が見られるが、綿を含 む布を使用した場合には$と%において泡立ちの減少が明らかである。毛を用いた場合には、図に おいては泡立ちの減少が最も少ない結果であった。一般に、ナイロンや毛繊維は、繰り返し洗濯によ り陰イオン活性剤を吸着するとされている6) ので、結果の解釈に矛盾を生じる。試料の脱脂が不十分 であったかもしれず、教材としては使いづらい。洗剤&は、洗剤$や%と比較して、泡立ちが大きく、 明確な差は得られなかった。洗剤&は非イオン活性剤が主であり、泡立ちメカニズムの差や繊維への 吸着量などの要因が考えられるが、原因は追求していない。一般に、衣服素材としても綿が最も使用 図4 泡沫の高さに及ぼす洗剤と布の種類
量が多いので、本報告では、綿との組み合わせを用いることとした。 本報告では、泡立ちの放置時間による影響についての検討はしていないが、強振直後から1分後の 泡高さを比較することとした7) 。泡立ちを起こす手法として5RVV0LOHV法や回転法および撹拌法を検 討したが7) 、いずれも教育教材としては不適切と判断し、手動による上下の強振法を採用した。泡が 液面上に浮上して集合した系(泡沫系)の科学については未解決の課題も多く複雑であり、その安定 性は界面活性剤や共有成分に依存することが知られている4) 。しかしながら、本報告では、市販洗剤 は多くの共有成分を含んでおり、泡沫の安定性における共有成分の影響を追求することは本来の目的 から離脱するので、さらなる検討はしていない。 3.2 洗剤濃度の影響 洗剤7 を用い、目安量濃度を中心 (066J1)として高濃度側と低濃度側 の5種の異なる濃度の洗剤溶液を準備 し、上述のように、綿布を浸漬後洗浄 と同様によく振り、その後10分静置し た。布を取り出した後、残浴を手で強 く20回上下に振り、1分間静置した。 図5は、布を浸漬しない場合(ブランク) と比較したものである。泡立ちの高さ がすべての濃度において低下している。 ブランク溶液の泡立ち高さに対する洗 浄後の泡立ち高さの比を泡沫高さ低下 度と定義し、図6に示した。図のプロッ トの上下の線は、泡立ち高さの読み取り誤差の影響を示 したものである。目安量濃度(066JO)以下においては、 図5の左図のように大きく泡立ちが減少している。これ は洗剤が消費されて残存量が減少していることを示すと 考えられる。高濃度側においても減少が見られるが、泡 沫高さ低下度は明らかに小さく、まだ洗剤が十分残存し ていることが推察できる。さらに、図5の右図から明ら かなように、ブランク溶液の泡立ちは目安量濃度以上に おいて大きく変わらないことが観察される。泡立ちが空 気の取り込みであり、図3に示した泡沫系の構造から、 平面膜部への界面活性剤の吸着が斥力を生じ、泡の消滅 を阻害すると考えれば、臨界ミセル濃度である目安量濃 度以上において泡立ちが大きく変わらず、目安量濃度以 下において相当変化することは理解される。図789に洗 剤$%&の泡沫高さ低下度の結果も示した。これらの洗 剤についても、図4と同様の傾向が見られ、洗浄前の目 安量濃度以上において泡立ち高さが大きく変わらない現 象が観察されたが、洗浄による泡沫高さ低下度は洗剤の 種類に依存し、一定の結果は得られなかった。しかしな 図5 洗剤7の濃度と泡沫高さ 図6 洗剤7の泡沫高さ低下度 図7 洗剤$の泡沫高さ低下度
がら、いずれの洗剤においても、目安量以下での泡立ちは小さく得られた。 4.教材としての使用 以上の結果から、以下のような適正洗剤使用量に関する教材を使用し、授業実践を行い、感想を調 査した。 4.1 調査項目 調査対象:山梨大学教育人間科学部 2年生 18名、4年生 4名、院生1名 計 23名 $洗濯経験について $−1 衣類の洗濯を自分でしたことが ⑴有( 手洗い 機械洗い )23名 ⑵無 0名 家庭科教員を志向する大学生であり全員が洗濯をしたことがあった。 $−2 洗剤を買ったことが ⑴有( 石けん、合成洗剤、台所洗剤、その他 ) 21名 ⑵無 2名 合成洗剤と台所洗剤を購入したことがあるが、石けんを買ったことがない学生が6名、 図8 洗剤%の泡沫高さ低下度 図9 洗剤&の泡沫高さ低下度 教材 試料 1 洗剤 市販家庭用衣類洗濯洗剤 2 衣類 綿布または7&布 用具 試験管(蓋付きポリプロピレン製)、定規 方法 目安量濃度を中心として高濃度側と低濃度側の異なる濃度の洗剤溶液を準備し、所定量 を試験管に採取する。この試験管を、内部溶液が漏洩しないように注意しながら、手で強く一定回 数(例えば20回)上下に振り、1分間静置する。泡立ち高さの観察から目安量以上の濃度におい て泡立ち高さが大きく変化せず、洗剤の洗浄力があまり変わらないことを指導する。泡立ち高さを 観察後、試験布を浸漬(浴比1:10)し、洗浄時と同様によく振り、その後一定時間(例えば10分) 静置する。試験管内から布を取り出した後、残浴を手で強く一定回数(例えば20回)上下に振り、 1分間静置後泡立ちの高さを観察する。布を浸漬しない場合(ブランク)と比較し、泡立ちが減少 していることは洗剤が消費されていることを示すと考えられる。洗浄後も大きく泡立つことは過剰 の洗剤を使用していることを指導する。
その他洗剤(住居用?)を買ったもの2名であり、全くなし2名であった。 $−3 洗剤を水に投入してかき混ぜたことが ⑴有 23名 ⑵無 0名 $−4 洗剤溶液が泡立つことを ⑴知っている 23名 ⑵知らない 0名 $−5 洗剤溶液がなぜ泡立つかを ⑴知っている 3名 ⑵知らない 20名 <筆者の感想>全員が泡立つ現象は経験的に理解していると考えられるが、その理由については多く は理解していない。したがって、先ず泡立つメカニズムを簡単に説明した方がよい。授業実践では、 この部分を簡単に説明して実習したので、大学生には大略理解されたと考えられる。 % 実習教材について %−1 実習教材の説明はわかりやすいと 1:まったくそう思わなかった 0名 2:あまりそう思わなかった 1名 3:少しそう思った 11名 4:とてもそう思った 11名 わかりにくいと思った部分は ( はじめに布をいれず泡立てる理由と実際の洗濯でどの工程に相当するのか? ) %−2 実習操作は簡単と 1:まったくそう思わなかった 0名 2:あまりそう思わなかった 0名 3:少しそう思った 6名 4:とてもそう思った 17名 簡単でないと思った部分は ( 洗剤溶液10POを定量することおよび泡立ちの高さを測定するところ ) %−3 洗剤の標準使用量が理解できると思ったか? 1:まったくそう思わなかった 0名 2:あまりそう思わなかった 2名 3:少しそう思った 11名 4:とてもそう思った 10名 理解しにくいと思った部分 ( 2名がどのような結果になれば良いのかわからなかったと記載した。 ) <筆者の感想>試験管を見て洗濯工程をイメージしづらいかもしれない。
& 受講者の意見・感想 1 洗剤の使用量は写真やグラフだけではわかりにくく、実習するにも難しいと思っていた。今回 の方法なら子供でも簡単にでき、目で見えるのでわかりやすいく、学校でも簡単にできる。 2 洗剤の泡の量の比較は写真でなんとなくわかったが、実験結果が同じようにいかなかった。 3 教科書の資料としてしか洗剤の使用量についてみてこなかったので、今回自分の手で実験し体 感することができておもしろかった。布に対する標準使用量が目に見えてわかり興味深かった。 プラスチックの試験管は小学生が使うのに良いと思った。 4 簡単な作業だったので、実験としても分かりやすく、小学生でもできると思った。洗剤を多く 入れればその分汚れが落ちると思っていたが、洗剤が多く残り、泡が増え、汚れ落ちがそんな に変わらないことがわかり、楽しい実験であった。 5 泡立ちの多少から洗剤がどれだけ使われたかを調べることができて勉強になった。泡の高さを 定規で測るのは難しかった。洗剤を多く入れても洗浄の効果が変わらないことを実感でき、入 れすぎは環境にも良くないので今後は気をつけたい。 6 簡単な作業なので、小中高校でもできそうだと思った。ただ説明や原理を聞くだけの授業より も活動がある方が楽しく意欲的に学べると思った。使用前後の泡立ち方の違いが比較できたこ とでよくわかった。 7 やり方と実験の意図がわかりやすかった。洗剤量が多すぎても泡の量が増えるということでは ないことがわかった。 8 実験自体は簡単だけど、なぜ泡立つのかなどの知識がないと実験の目的がわからないと思った。 9 均等な力で振ることや泡の高さを測るのが少し難しいが、小学生は楽しんでできると思った。 泡の高さを比較するために、試験管の振り方を指定するとよい。 10 試験管がプラスチックキャップ付きだったことで、振りやすくこぼれる心配がなかった。回収 した布が繰り返し使えるところがエコだと思った。 11 蓋付きの試験管は便利だと思った。危険なものでないのがよい。 以上のように、設備や材料が比較的容易に準備でき、学校現場での使用に適していると考える。視 覚に訴える教材は学習に適していると考えられるが、洗剤の種類によっては泡立ちに差が出にくい場 合もある。泡の生成に関する説明を学習者のレベルに合わせて行う必要がある。さらに、実際の授業 を小中高校で実施し検討する必要がある。 5.文献 1)例えば、「小学校 わたしたちの家庭科 5・6」,開隆堂、 (2005) 2)例えば、「技術・家庭[家庭分野]」,開隆堂、 (2005) 3)例えば、「家庭総合」,開隆堂、 (2005) 4)岩澤康裕ら 監修 ;「界面ハンドブック」、(株)176(2001) 5)例えば、酒井豊子、柳 許子、岡村幸子、渡辺紀子 ;「被服科学実験」、三共出版(1987) 6)例えば、矢部章彦、林 雅子 ;「被服整理学・染色化学」、光生館(1970) 7)角田光雄、間宮富士雄 ;「洗浄の理論と応用操作マニュアル」、(株)176(2001)