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サウジアラビア -- 「ビジョン2030」は成功するか (特集 中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブの春」を越えて)

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Academic year: 2021

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(1)

サウジアラビア -- 「ビジョン2030」は成功するか

(特集 中東地域の現実と将来展望 -- 「アラブの春

」を越えて)

著者

近藤 重人

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

256

ページ

8-9

発行年

2017-01

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00048549

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2)

8

  サウジアラビアは現在、サルマ ーン国王の息子のムハンマド副皇 太子が、強力に経済改革を推進し ている。二〇一六年四月に同副皇 太 子 が 中 心 と な っ て 策 定 さ れ た 「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 に は、 サ ウ ジアラビアが二〇三〇年に到達す べき数値目標が数多く挙げられて い る。 こ の「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 に関する評価は様々あるが、極め て野心的な計画であるという評価 が一般的である。本稿では、この 野心的な将来計画である「ビジョ ン二〇三〇」が本当に実現可能で あるか、検討していきたい。

 「

  「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 で は、 二 〇三〇年に到達すべき数値目標が 列挙されている。たとえば、サウ ジアラビアにあるイスラームの聖 地へ小巡礼(ウムラ)する者を八 〇〇万人から三〇〇〇万人まで増 加させ、GDPに占める民間部門 の割合を四〇%から六五%に、海 外直接投資の割合を三・八%から 五・七%に、サウジアラビアの政 府系ファンドである公的投資ファ ンド(PIF)の資産をSR六〇 〇〇億(一六〇〇億ドル)からS R七兆(一兆八六〇〇万ドル)以 上に引き上げ、非石油収入をSR 一六三〇億(四三四億ドル)から SR一兆(二六七〇億ドル)に増 加させることなどが掲げられた。   また、二〇一六年六月に発表さ れた「ビジョン二〇三〇」の下位 プログラムの一つである国家変容 計画(NTP)二〇二〇では、二 〇二〇年までに達成すべき数値目 標が掲げられた。たとえば、非石 油収入をSR一六三五億(四三五 億ドル)からSR五三〇〇億(一 四一三億ドル)に増加させ、国債 の格付けをA1からAa2に上昇 させ、金属・非金属などの鉱業部 門の経済生産をSR六四〇億(一 七〇億ドル) からSR九七〇億 (二 五八億ドル)に増加させることな どが掲げられた。そして、ムハン マド副皇太子が議長を務める経済 開発問題会議は、NTPなどのプ ログラムの進捗状況を監視・指導 するための「ガバナンス ・ モデル」 を設け、各政府機関が問題なく目 標を達成できるか監視することと なっている。   こ の よ う に、 「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 や そ の 下 位 に あ る N T P は、 海 外 直 接 投 資 の 増 加 な ど を 通 じ、 観光業(巡礼)や鉱業(金属・非 金属)など民間の非石油産業を発 展させ、巨大な政府系ファンドの 投資収益を中心に非石油収入を増 や す と い う 戦 略 を も っ て い る が、

〇三〇﹂

成功

はたしてこうした目標は達成可能 なのであろうか。

 経

  石油産業に深く依存したサウジ アラビアにとって、民間の非石油 産業を発展させることは悲願であ り、 「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 で も そ の点が強調されている。具体的に 石油に代わる産業として挙げられ ているのは、たとえば観光業や金 属・非金属などの鉱業である。   まず、観光業に関して、宗教ツ ーリズムの発展が期待されている。 イスラームの聖地であるマッカと マディーナを擁するサウジアラビ アであっても、巡礼月以外の時期 に聖地を訪れる(これを小巡礼と いう)人は比較的少なかった。そ のため、小巡礼目的の訪問者を増 やし、閑散期のホテルなどの稼働 率を上げようとしている。さらに、 単に巡礼客が聖地を訪れるだけで はなく、サウジ国内の観光名所を 訪 れ る こ と も 今 で は 促 し て い る。 しかし、サウジアラビアでは外国 文化の無制限な流入を危惧する国 内の保守的な風潮から、まだ全面 的な観光ビザの解禁には慎重にな っている。しかし、観光ビザの全

特 集

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アジ研ワールド・トレンド No.256(2017. 2) 面的な解禁なくして、観光業の飛 躍的な発展は難しいだろう。   次に、金属・非金属などの鉱業 であるが、二〇一五年一二月にマ ッキンゼー・グローバル・インス ティテュートが発表したレポート は、この部門に大きな発展の潜在 性 が あ る と 指 摘 す る。 な ぜ な ら、 サウジ西部の山岳地帯では近年小 規模の探鉱によって多くの鉱物資 源の開発に成功しており、仮に同 国が本格的にこの分野に投資し始 めれば、生産拡大の余地が大きい という。しかし、たとえば地形的 にサウジアラビアと連続している 隣国のヨルダンでもリン鉱山が開 発されているが、その産業規模は サウジアラビアの石油産業よりは るかに小さいものとなっている。   非石油産業の振興にとって、海 外直接投資の増加は非常に重要な ポイントである。ムハンマド副皇 太子が二〇一六年の夏から秋にか けて行った米国、中国、日本など への訪問は、この海外投資を呼び 込 む こ と が 大 き な 目 的 で あ っ た。 しかし、海外直接投資の増加にと っ て も 大 き な 課 題 が あ る。 ま ず、 サウジアラビアは財政上の理由か らビザの取得代金を大幅に引き上 げたため、特に資金繰りが苦しい 中小企業にとっては進出意欲がそ が れ る 結 果 と な っ て い る。 ま た、 サウジアラビアは輸入・小売・流 通分野で一〇〇%の外資による直 接投資を認めたが、そこにもサウ ジ人を一〇〇人以上雇うことをは じめ、様々な条件が付されている。 「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 が 掲 げ る よ うに、 海外直接投資をGDPの五 ・ 七%にまで引き上げるためには一 層の環境整備が求められるのでは ないだろうか。

 「

  サウジアラビアは国営石油会社 サ ウ ジ ア ラ ム コ の 新 規 株 式 公 開 ( I P O ) を 実 施 し、 公 開 し な い 分の同社の資産を公的投資ファン ド(PIF)に移管することを計 画している。サウジアラムコの資 産価値は二兆ドルともいわれ、そ の大部分を引き継ぐ予定のPIF の規模も「ビジョン二〇三〇」に よればSR七兆(一兆八六〇〇万 ドル)以上に達するとされる。し かし、PIFの投資戦略について は、まだ不透明な部分が多い。   もともとPIFは国内の産業育 成を支援する目的で一九七一年に 設立され、その後SABIC(サ ウジ産業基礎公社)などサウジア ラビアの基幹企業の過半数の株式 を保有するファンドへと成長して いった。しかし、ムハンマド副皇 太子はこのPIFを、単に国内の 産業育成のファンドとしてではな く、積極的に海外の発展分野への 出資を行って「稼ぐ」ファンドへ と変貌させ、それをサウジアラビ アの非石油収入の柱にしようとし ているように思われる。PIFの ルメイヤーン事務局長も、同ファ ンドの海外の出資比率を現在の五 %から二〇二〇年までに五〇%に 引き上げると発言した。PIFの 近年のウーバーテクノロジーズへ の出資をはじめとしたテクノロジ ー分野への積極的な投資も、基本 的にこのようなPIFの海外への 投資を増やす戦略の一環と理解で きる。   このように、PIFは国内の産 業育成を目的としたファンドから、 よりリターンを求めるファンドへ と変貌しようとしているが、まだ その試みは始まったばかりである。 さらに、成長分野へ投資すること で大きなリターンが期待できるか もしれないが、もちろん景気次第 ではむしろ損失も発生することに も留意すべきである。したがって、 「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇 」 が 掲 げ る よ うに、二〇三〇年までに投資収入 を中心とした非石油収入が石油収 入に代わるほどの規模の収益を上 げられるかという点は、かなり疑 問であるといわざるを得ない。

 ま

  上 で 検 討 し た と お り、 「 ビ ジ ョ ン二〇三〇」の柱と考えられる非 石油産業の発展や、サウジアラビ アの「投資立国」化には大きな課 題がみられ、おそらく期待したと おりには物事が進まないであろう。 足元では公務員の手当て削減やガ ソリン価格の上昇など、既に原油 価格の低下にともなう財政改革の 痛みが顕在化してきている。ただ し、実現可能性はともあれ、サウ ジアラビアが 「ビジョン二〇三〇」 と い う 明 確 な 目 標 を 打 ち 立 て、 人々に明るい未来を期待させたの は 事 実 で あ る。 「 ビ ジ ョ ン 二 〇 三 〇」やNTP二〇二〇の諸政策が 本格的に実施されるのはこれから であり、人々の期待を裏切らない で物事が進むのか、今後数年間の 動向に注目が集まっている。 ( こ ん ど う   し げ と / 日 本 エ ネ ル ギー経済研究所   中東研究センタ ー研究員) 04_特集.indd 9 16/12/26 10:18

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