多数者と少数者の人権意識・前編 : アイヌ文化振興法をめぐる意識調査の統計的分析からの一考察
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第58巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)Vol.58,No.1. 平成19年8月 August,2007. 多数者と少数者の人権意識・前編 −アイヌ文化振興法をめぐる意識調査の統計的分析からの一考察−. 籾 岡 宏 成 北海道教育大学旭川枚法律学研究室. TakingMinorityRightsSeriously:AStatisticalAnalysisof theAttitudeSurveyofAinuCultureLaw,Partl MOMIOKA Hironari. DepartmentofLaw,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 筆者は,2006年12月から2007年2月にかけて北海道の4地域(旭川市,釧路市,白老町,新ひだか町)の 住民を対象として,アイヌ文化振興法に関する意識調査を実施した。本稿はその調査を,民族,地域,男女,. 年齢の観点から統計的に分析したものである。検証の結果,振興法への認知度および同法でのアイヌ民族の 位置づけに対する態度がアイヌ民族と和人では異なること,アイヌ文化に対する意識については地域差が顕 著であることなどが判明した。. Ⅰ.はじめに 「社会あるところに法あり」という法諺がある。これには,法は社会から生まれ落ちたものということ,. 法の存在なしでは社会は維持できないということの他に,法(とりわけ制定法)は社会の多数者の意思が反 映されたものということも含意されているように思える。すなわち,多数者によって規定されたルールが支 配する社会にあっては少数者の意思は軽視ないし無視されがちであり,少数者が自己の権利を実現するため には,個々の人権侵害の事案に対する事後的救済を裁判所に求めるという選択肢しか実質的には残されてい ないということになる。. 一方で,少数者に対して一定程度の配慮を示しその権利を保護しようとする法も存在する。わが国におけ るその数少ない例の1つが,「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関す る法律」(平成9年法律第52号)」(以下,アイヌ文化振興法という。)である。同法1条は,アイヌの人々を 民族と位置づけるとともに,アイヌ文化の誇りが尊重される社会の実現を基本理念として掲げており,同法 の目的が少数民族であるアイヌの人々の文化享有権の保護とアイヌ文化の普及促進であることがわかる。. 29.
(3) 粗 岡 宏 成. しかしながら,一般的に法というものは,いかに崇高な理想・高邁な精神を語っていようとも,社会に受 容・認知されなければ画餅となりその目的は達成できないこともまた事実である。とりわけ,少数者の権利 に関する法が問題となる場合には,このことは顕著である。なぜならば,少数者に関する事柄は法的にも事 実的にも多数者から等閑に付されがちであり,当該少数者に対してはもちろんのこと社会の多数者に対して も周知させなければ,少数者を保護する法を成立させた意味がなくなってしまうからである。 それ以上に重要なのは,法が運用される局面での多数者・少数者の意識の問題である。少数者保護の法が 適用される場面において,多数者が極めて強い不公平感・不満を抱いていたり,少数者の側が弱者・劣等の レッテルを貼られていると感じていれば,かえって少数者に対する偏見・差別が助長され,法の趣旨は完全 に没却することになる。. そうなると,かような弊害を防止し,法目的の実現を貫徹させる方策を考えるための第一歩として,法に 対する人々の意識についての堅実な現実把握が必要・不可欠となる。アイヌ文化振興法について言えば,果 たして社会の多数者である和人と少数者であるアイヌ民族に受け入れられているのか,そうだとしてどのよ うに捉えられているかが問題となる。このことに関する的確な調査を行うことにより,同法が現実社会に対 して与えた影響・意義とともに,その間題点も浮き彫りになるものと思われる。 にぶたに. 本稿の主たる目的は,アイヌ文化振興法および同法制定の直前に出された二風谷ダム判決(判時1958号33 頁 判夕938号75頁)1に関する北海道民の意識調査を多数者・少数者の観点から統計的に分析することに. よって,法の社会への関わりを考える上での手がかりを模索することにある。なお,地域,性別,年齢別に びらとり. よる違いの分析も副次的に試みたい。その過程で随時,以前に行った北海道日高管内平取町の住民に対する. 同内容の調査(以下,前回調査という。)2との比較も行うこととする。. Ⅰ.調査の概要 アンケート調査は,2006年12月から2007年2月末にかけて,旭川市,釧路市(旧阿寒町の地域が中心), 白老町,新ひだか町の4地域の成年男女を対象として行った。これらの地域を選定したのは,いずれもアイ ヌ民族関連の文化施設が存在し地元住民がアイヌ文化に接する機会があると推認されること,一定数のアイ ヌ民族が居住していることなどによる。それぞれの地域には以下のような特性が見られる。. 旭川市は,人口358,174人(2007年2月末現在)を擁する北海道第2の都市である。同市の近文(アイヌ. ちかぶみ. 語の「チカブ・ウン・ナイ」(鳥のいる場所という意)に由来)地区にはアイヌ民族が多く居住してきた歴. ね 史があるとされ3,近文に近接する地区には道内最古のアイヌ資料館とされる川村力子トアイヌ記念館があ 1 アイヌ文化振興法および二風谷ダム判決に関する文献としては,常本照樹「アイヌ新法の意義と先住民族の権利」法時69. 巻9号2頁(1997年),同「先住民族と裁判一二風谷ダム判決の一考察−」国際人権9号51頁(1998年),松本祥志「ア イヌ文化振興法および二風谷ダム事件一判決とアイヌ民族の国際法主体性」法セ518号18頁(1998年),岩沢雄司「二風谷. ダム判決の国際法上の意義」国際人権9号56頁(1998年),苑原俊明「マイノリティである先住民族の権利二風谷ダム 判決」重判解(平成9年)ジュリ臨時増刊1135号273頁,吉田邦彦「アイヌ民族と所有権・環境保護・多文化主義(上)(下)」 ジュリ1163号122頁,1165号96頁(1999年),大場崇代「日本の先住民族:アイヌ」太田一男・鳥居喜代和編『北海道と憲法』. 88頁(法律文化社,2000年),佐々木高明『多文化の時代を生きる一日本文化の可能性』(小学館,2000年)173頁,今井 直「先任少数民族の権利一二風谷ダム事件−」『国際法判例百選』156号98頁(2001年),保尾野初子「二風谷ダム訴訟 アイヌ民族への“償い”の言葉に代えた歴史的判決」法セ567号77頁(2002年)などがある。 2 前回調査の内容および考察の詳細については,拙稿「少数者の人権保護に関する意識と裁判所の機能−「二風谷ダム判決」 および「アイヌ文化振興法をめぐるアンケート調査の続計的分析からの示唆」 「 新法113巻5・6号1頁(2007年)参照。 3 旭川市のアイヌ民族間題に関する文献としては,旭川人権擁護委員連合会『コタンの痕跡−アイヌ人権史の一断面』(1971. 30.
(4) 多数者と少数者の人権意識・前編 カムイコタン. る。また,近郊の神居古澤や嵐山公園などではチノミシリカムイノミ(聖なる地での祈り)などのアイヌ文 化関連のイベントが定期的に開催されている。今回の調査では,この近文地区の350世帯,同市の他の地域 の350世帯を調査対象とした。. 次に,釧路市(人口は2007年6月末で191,422人)である。現在は釧路市と合併した旧阿寒町の阿寒湖温 泉地区は道内屈指の温泉街であるが,その西側の一角に「アイヌコタン」が存在する。ここは,約30ものア イヌ民芸品店が軒を連ねており,アイヌ生活記念館,森と湖の芸術館などの資料館が充実しているだけでは なく,コタン中心にあるチセ(家)では国の重要無形文化財に指定されているアイヌの古式舞踊が毎日上演 され,多くの観光客を受け入れている。今回の調査ではこの阿寒湖温泉地区の350世帯,釧路市のその他の 地域の350世帯を調査対象とした。 いぶり. しらあい. 胆振管内にある人口22,067人(2002年9月末)の白老町は,アイヌ民族の社会的地位の向上を目的とする. 団体である北海道りタリ協会に所属する会員が最も多い地区の1つであるとともに4,阿寒湖温泉地区と同 様,アイヌ文化関連の観光が盛んな地域でもある。同町にはしらおいポロトコタン(アイヌ語で「大きな湖 の畔にある集落」という意)があり,構内にはアイヌ民族博物館をはじめとして,チセ群,野草園,チプ(丸 木舟),民芸会館などの施設が点在する。ポロトコタンは日本人だけでなく外国人観光客も数多く訪問し, アイヌ観光のメッカの様相を呈している。また,白老町は,アイヌ民族の伝統的生活空間「イオル」の再生 事業の先行地域でもあり,アイヌ民族の衣食住環境を支えてきた樹木の栽培事業などが2006年6月からすで に開始されている。本研究では,このイオル事業に関する意識調査も盛り込まれている。. 新ひだか町もまた,昔からアイヌ民族が数多く居住してきたとされる地域である。日高管内に位匿するこ の町の人口は27,264人(2005年9月末)で,主な産業は軽種馬生産である。旧静内町地区内には,新ひだか 町アイヌ民俗資料館がある。. 今回の調査は,前回調査と同様,調査票を対象者に郵送し記入後返送してもらう「郵送調査法」を採用し た。この方法は,訪問面接法,街頭調査法,電話調査法等とは異なり,回収率が低くなる傾向が強い反面, 熟考の上返答することが可能であるため,匿名性が確保されれば被調査者個人の本音を引き出しやすいとい う側面もある。少数者の人権という極めてデリケートな問題を扱う本研究の場合には,郵送調査法が適して いるものと考えた。. 調査対象者は,電話帳から各地域700世帯,合計で2800世帯を無作為に抽出して選定した。その上で,そ れぞれの世帯に2通の調査票を封入し郵送した。ただし,旭川市は近文地区に,釧路市は旧阿寒町地区に半 数の350世帯を配分した。. 2007年2月末時点での最終的な有効回答数は,553世帯779通であり,世帯ベースで19.8%の回収率であっ た。これは,平取町を対象とした前回調査の12.8%と比較すると,幾分か改善した数字であった。これに寄 与した要因としては,前回調査が行われた平取町には二風谷ダムが位置し調査内容が住民に敬遠されたのに 対し今回の調査ではそのような側面がなかったこと,質問項目を大幅に削減したこと(前回調査の質間数は 23であったが今回は12とした),最初の質問を観光に関するものにして被調査者の心理的圧迫感を軽減した こと,調査票や依頼文に個人情報の保護を確約する文言を入れ匿名性の確保を強調したことなどが挙げられ る。. 民族,地域,男女,年齢別の回答票の内訳(未回答分は除外)は表1の通りである。. 年),金倉義慧『旭川・アイヌ民族の近現代史』(高文研,2006年)などがある。特に後者の文献では,明治から昭和初期に. かけて旭川・近文地区の土地処分をめぐって紛争のあった「給与地問題」を詳細に扱っている。 4 詳しくは,http://www.ainu−aSSn.Or.jp/aboutO3.htmlを参照。. 31.
(5) 粗 岡 宏 成. 表1 回答票の内訳 民 族. 度数 比率 人. 性 別. 度数 比率. 711 97.8%. 男. 件. 476 62.1%. アイヌ民族. 16 2.2%. 女. 性. 291 37.9%. 合 計. 727 100.0%. 和. 地 域. 767 100.0%. 合 計. 度数 比率. 年 齢. 度数 比率. 旭 川 市. 189 24.5%. 20. 代. 21 2.7%. 新ひだか町. 195 25.3%. 30. 代. 39 5.1%. 釧 路 市. 175 22.7%. 40. 代. 101 13.1%. 白 老 町. 213 27.6%. 50. 代. 154 20.0%. 772 100.0%. 60. 代. 228 29.6%. 合 計. 70歳以上 合 計. 227 29.5% 770 100.0%. これによれば,各地域からほぼ同程度の回答票を得たことになり,年齢別では50歳以上が8割近くに達し ていたのが特徴的であった。民族については5,前回調査でアイヌ民族が10.5%を占めていたのに対して, 今回は2.2%にとどまり,調査対象者の圧倒的多数が和人となった。また,前回調査では女性が27.6%しか なかったのに対し,今回は37.9%に上がっているのが大きな違いである。電話帳からの名寄せの関係上,男 性の世帯主に多く質問票を送付するという事情は変わらないにもかかわらず,このように女性の回答者の比 率が上がったのは興味深い。. Ⅱ.各質問項目の統計的分析−アイヌ民族・和人の意識の違いを中心として 1.アイヌ文化施設への見学(観光)について 本研究における質問票のQlからQ3までは以下の通りである。. Ql.今までに,アイヌ民族に関連する文化施設(博物館,民族伝統儀式などのイベント等)を見学したことがあ りますか。 全くない その他(関連施設に勤務しているなど) 回) ある( Q2.Ql.で「ある」と答えた方に伺います。 今後,アイヌ文化に関するイベントがあったとしたら,再び見たいと思いますか。 とても思う やや思う どちらともいえない あまり思わない 思わない Q3.白老町では,アイヌ民族の伝統的生活空間「イオル」を再生する事業の構想がありますが,これについてど う思いますか。 どちらともいえない あまり賛成しない 賛成しない 賛成する やや賛成. 山 アイヌ文化関連施設への訪問の有無(Ql) 未記入分を除外した上での全体の数字は,「ある」が638人(82.5%),「全くない」が130人(16.8%),■そ. 5 和人とアイヌ民族の関係史については,東村岳史『戦後期アイヌ民族一和人関係史序説−1940年代後半から1960年代後 半まで』(三元社,2006年)が詳しい。. 32.
(6) 多数者と少数者の人権意識・前編. の他」が5人(0.6%)であった。図1はそれをグラフ化したも のであるが,アンケート回答者の8割を超える人が何らかの形 でアイヌ文化に接した経験があると答えていた。これは,調査 対象の地域がアイヌ文化と関連の深いことを示すものである。 次に,民族別のクロス集計表を作成し,関連施設に行ったこ とがあるかについて和人とアイヌ民族の間に差があるか否かを 調べるため,独立性の検定(ズ2(カイ自乗)検定)を行った。 その結果,ズ2(2)=8.3235(()内の2は自由度を表す), p値(有意確率)=0.0156が得られた。これは,両民族の傾向 図1アイヌ文化関連施設への訪問の有無 に違いが見られるという判定結果が誤りである確率が1.56%に. とどまることを意味し,p<α(有意水準)=0.05となるので,「両民族の傾向に違いが見られない」とい う帰無仮説が有意水準5%で棄却される。すなわち,和人とアイヌ民族では行動傾向に統計的に有意な差が 見られることになる。具体的には,アイヌ文化関連の施設に行ったことが「全くない」と回答した和人が16.3% いるのに対して,アイヌ民族は6.3%にとどまっており,この点が有意差の認定に貢献したものと思われる。. 同様に,地域別のクロス集計表を作成し,独立性の検定を行ったところ,統計的に有意な差が認められた (α=0.01)。さらに,どのセルが有意性に貢献したかを調べるべくクロス集計表の残差分析を行ったところ, 「ある」と答えた旭川市民,白老町民がそれぞれ76.6%,92.9%であり,「全くない」と答えた旭川市民,. 白老町民がそれぞれ22.9%,5.7%で,いずれも1%の有意性が認められた。すなわち,旭川市民は,アイ ヌ文化関連施設に行ったことがある人の比率が他の地域よりも相対的に低く,白老町民は高いということに なり,両地域の住民の行動傾向は対照的であることが浮き彫りになった。 男女別のクロス集計表についても独立性の検定を行ったところ,統計的に有意な差が認められた(α= 0.05)。その残差分析によれば,女性よりも男性の方がアイヌ文化に接する機会が多かったことが判明した。. なお,年齢別のクロス集計表からは有意な差は見られなかった。 「ある」と答えた場合の回数については,平均値が4.67回,中央値が3回であった。 (2)再訪問の意思の有無(Q2) 未記入分を除外した上での全体の数字は,「とても思う」が121 人(18.3%),「やや思う」が302人(45.6%),「どちらともい えない」が140人(21.1%),「あまり思わない」が71人(10.7%),. 「思わない」が29人(4.4%)であった。図2はそれをグラフ 化したものである。これにより,アイヌ文化に触れた人の6割 以上が,再び訪問することについて積極的に考えていることが わかった。 次に,民族別のクロス集計表を作成し,独立性の検定を行っ. たが,和人とアイヌ民族の間に意識の違いが見られなかった。. 図2 再訪問の意思の有無. ちなみに,「思わない」から「とても思う」までを1点から5 点までに換算し平均値を求めたところ,全体が3.63点であり,和人が3.61点,アイヌ民族が3.75点となった。. なお,性別においても統計的に有意な差は認められなかった。 だが,地域別のクロス集計表から独立性の検定を行ったところ,統計的に有意な差が認められた(α= 0.05)。さらに,その残差分析を行ったところ,「とても思う」「あまり思わない」と答えた釧路市民がそれ. ぞれ24.0%,6.2%で,ともに5%有意による他の地域との差があり,「どちらともいえない」と答えた旭川. 33.
(7) 籾 岡 宏 成. 市民が28.9%で,1%有意による差があった。これらが有意差の認定に貢献したことになる。これによれば, 釧路市民がアイヌ関連の施設への再訪問に積極的であり,旭川市民は態度を保留していることがわかる。 さらに,年齢別でも統計的に有意な差が認められた(α=0.01)。その残差分析によれば,「とても思う」「あ. まり思わない」と答えた70歳以上の人がそれぞれ25.8%,5.8%で,ともに1%有意による他の年齢層との 差があり,「やや思う」と答えた60代が53.9%で,1%有意による差があった。つまり,60代以上の年齢層 には,アイヌ文化施設に再び行ってみたいと思う傾向が見られることがわかった。 (3)「イオル」事業構想への賛否(Q3). 白老町でアイヌ民族の伝統的生活空間「イオル」を再生しよ うとする構想があることについての賛否を問う設問であった。 全体として,「賛成する」が333人(44.3%),「やや賛成」が164 人(21.8%),「どちらともいえない」が205人(27.3%),「あ まり賛成しない」が38人(5.1%),「賛成しない」が12人(1.6%). 賛成する. 44%. であった。図3はそれをグラフ化したものであるが,6割を超 える人がイオル構想について前向きな評価を下していることが わかる。 やや賛成. 次に,民族別のクロス集計表を作成し,独立性の検定を行っ. 22,‘. たが,和人とアイヌ民族の間に意識の違いが見られなかった。. 図3 イオル構想への賛否. ちなみに,「賛成しない」から「賛成する」までを1点から5 点までに換算したところ,全体の平均値が4.02点,両民族の平均値については和人が4.04点アイヌ民族が4.00 点となった。なお,性別においても統計的に有意な差は認められなかった。 だが,地域別では有意な差が認められた(α=0.01)。有意差に貢献したセルを調べるべく残差分析を行っ たところ,「賛成する」「どちらともいえない」と答えた白老町民がそれぞれ51.9%,16.5%で,前者は5% 有意で他の地域よりも高い比率を示し,後者は1%有意で低い比率を示していた。「賛成しない」と答えた 新ひだか町民は3.7%で,1%有意で他の地域よりも高い比率であった。ここから,日高管内の新ひだか町 がイオル構想に賛成しない人が一定数いる一方で,現にイオル構想の一部が実施されている白老町において はこれを支持する雰囲気が強いことが判明した。 また,年齢別でも有意な差が認められた(α=0.05)。その残差分析によれば,「賛成する」「どちらとも いえない」と答えた70歳以上の人がそれぞれ50.2%,19.7%で,前者は5%有意で他の年齢層よりも高い比 率を示し,後者は1%有意で低い比率を示していた。一方,「賛成する」と答えた40代が31.3%で,1%有意 で他の年齢層よりも低かった。つまり,70歳以上の年齢層は,態度を保留する比率が低く,半数以上がこの 構想を支持しているのに対し,40代はイオル構想に積極的な人が相対的に少ないということが言える。. 2.アイヌ文化振興法について. 本研究における質問票のQ4からQ7までは以下の通りである。. 1997年5月に,アイヌ文化振興法(アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関す る法律)が国会で成立し,国や地方公共団体はアイヌ文化の振興を図るために努力しなくてはならないと定めら れています。 Q4.この法律を知っていますか。 よく知っている わずかに聞いたことはある. 34. 全く知らない.
(8) 多数者と少数者の人権意識・前編 Q5.Q4.で「知っている」「聞いたことはある」と答えた方に伺います。それは何を通して知りましたか。 新聞 雑誌 テレビ ラジオ インターネット ポスター パンフレット 講演会・説明会 学校の授業 地元のイベント 家族や知人との会話 分からない その他( Q6.この法律では,「アイヌ民族が先住民である」ことが全く触れられていませんが,このことについてどう思い ますか。 どちらともいえない 仕方がない 当然だ あまり良くない 良くない Q7.アイヌ文化振興法にある「アイヌの伝統文化の普及政策」は身の周りで十分に実現していると思いますか。 そう思う ややそう思う どちらともいえない あまり思わない 思わない ). (1)アイヌ文化振興法の認知度(Q4). 全体として,「よく知っている」が117人(22.9%),「わずか に聞いたことはある」が441人(57.1%),「全く知らない」が154 人(19.9%),であった。図4はそれをグラフ化したものである。 これによれば約8割の人がアイヌ文化振興法を認知しているこ とになるが,これは前回調査と大差のない結果となった。 わずかに聞い たことはある. 次に,民族別のクロス集計を行ったのが表2である。これに ついて独立性の検討を行ったところ,ズ2(2)=8.7289,p値(有. 57%. 意確率)=0.0127が得られ,統計的に有意な差が認められた(α. 図4 アイヌ文化振興法の認知度. =0.05)。集計表の残差分析によれば,振興法を「全く知らない」. 和人が2割にのぼるのに対してアイヌ民族のそれは皆無であった。さらに,振興法を「よく知っている」と 答えたアイヌ民族が半数であるのに対して和人のそれは22.1%にとどまり,これらのことが有意性の認定に 貢献した。以上のことから,アイヌ文化振興法に対する認知度はアイヌ民族の方が高いことが明らかになっ た。前回調査においても,振興法の認知度について同様の民族間の統計的な差異が認められていたが,今回 の調査はそれを再確認するものとなった。なお,「全く知らない」から「よく知っている」までを1点から 3点までに換算し平均値を求めたところ,全体として2.03点,和人が2.03点アイヌ民族が2.50点となったが, この差からも認知度の違いが鮮明となった。 表2 民族別クロス集計表 よく知っている. 民 族 アイヌ民族 人. 和 合 計. 8(50.0%) 156(22.1%) 164. わずかに聞いたことはある 8(50.0%) 409(57.9%) 417. 全く知らない. 合計. 0(0.0%). 16. 141(20.0%). 706. 141. 722. 地域別の集計表からも有意な差が認められた(α=0.01)。有意差に貢献したセルを調べるべく残差分析 を行ったところ,「よく知っている」と答えた旭川市民,釧路市民,白老町民がそれぞれ17.5%,16.2%,33.6% で,いずれも5%有意で他の地域よりも前2者が低く後者が高く,「全く知らない」と答えた旭川市民が26.5%. で,5%有意で他の地域よりも高かった。このことから,旭川,釧路などの都市部では全体として同法の認 知度が低いのに対して,白老町では高いということが言える。 同様に,男女別の集計表からも統計的に有意な差が認定された(α=0.01)。残差分析によれば,認知度 は男性の方が高く女性が低いという傾向が見られた。これは,アイヌ文化関連施設に行ったことがあるかと いうQlと同じ傾向であり,アイヌ文化と接触することと振興法の認知度との関連性が看取でき興味深い。. 35.
(9) 籾 岡 宏 成. 年齢別でも有意差が認められた(α=0.01)。残差分析を行ったところ,60代以上の年齢層が振興法をよ く知っているのに対して,20代から40代には全く知らない比率が高く,年齢層による違いが大きいことが明 らかになった。. かに聞いたことはある」と答えた人を対象に複数回答. 0∩ゞ ‖ 六 U n Y n X U O O n ︶ 0. 癖世. いての設問である。Q4で「よく知っている」「わず. 0■− U O ■ ︼ . V O ■ h X U 5 0 ■ − ■. アイヌ文化振興法の存在は何を通じて知ったかにつ. 5月 一 書 2 2 1 1. (2)情報源(Q5). ごi三ニ三 ̄ニニニl■. してもらった。合計で1027の回答のうち,「新聞」「テ レビ」「地元のイベント」「家族や知人との会話」と答. えたのがそれぞれ,435,352,46,37であった(図5 参照)。情報源としては,新聞とテレビといったメディ 図5 情報源. アが76.7%と極めて高い比率を示しており,マス・メ. デイアの影響力が圧倒的であることが判明した。その一方で,「学枚の授業」という回答がわずか7にとどまっ ており,学校教育の現場で振興法ひいてはアイヌ文化全般について十分に周知されていないことが懸念され る。 (3)アイヌ民族の先住性が明記されていないことへの 賛否(Q6). アイヌ文化振興法は,アイヌの人々を「民族」と位 置づけ,その文化の普及を促進するとしながらも,そ の先住性については一切触れておらず,アイヌ民族は 先住民族ではないという政府の立場を踏襲している。 これについての賛否を問う設問であった。全体として, 「良くない」が329人(43.2%),「あまり良くない」 が181人(23.8%),「どちらともいえない」が196人 (25.7%),「仕方がない」が43人(5.6%),「当然だ」 あまり良くない. が13人(1.7%)であった。図6はそれをグラフ化し. 24%. たものである。7割近くの人が振興法で先住性が触れ 図6 アイヌ民族の先住性が明記されていないこと への賛否. られていないことに否定的であり,「当然だ」と回答 している人がごく少数であったことは特筆に催する。 次に,民族別のクロス集計を行ったのが表3である。. これについて独立性の検討を行ったところ,ズ2(4). =12.7815,p値(有意確率)=0.0124が得られ,統計的に有意な差が認められた(α=0.05)。さらに残差 分析を行ったところ,「良くない」と回答したアイヌ民族が87.5%にのぼっていたのとは対照的に,和人は 42.8%にとどまった。これらのセルが有意性の認定に貢献した。前回調査では,同一の質問について両民族 の間に統計的な有意な意識差が見られなかったことと大きく異なる。なお,「当然だ」から「良くない」ま 表3 民族別クロス集計表 民 族. 良くない あまり良くない どちらともいえない 仕方がない. アイヌ民族 14(87.5%). 和. 人 299(42.8%) 172(24.6%) 合 計. 36. 1(6.3%). 313. 173. 1(6.3%) 175(25.0%) 176. 当然だ. 合計. 0(0.0%) 0(0.0%). 16. 40(5.7%) 13(1.9%). 699. 40. 13. 715.
(10) 多数者と少数者の人権意識・前編. でを1点から5点までに換算し平均値を求めたところ,全体として4.01点,和人4.01点アイヌ民族4.81点と なった。ここからも両者の差異が浮き彫りになった。 これに対して,地域別,男女別,年齢別では有意な差は認められなかった。 (4)アイヌ文化の普及政策は実現されているか(Q7). 今回の調査対象としたいずれの地域においてもアイヌ関 連のイベントが定期的に開催されているが,住民レベルで アイヌ文化の普及が実感されているかを調べる設問であ る。全体として,「そう思う」が47人(6.1%),「ややそう 思う」が166人(21.6%),「どちらともいえない」が194人 (25.3%),「あまり思わない」が257人(33.5%),「思わ. ない」が104人(13.5%)であった。図7はそれをグラフ 化したものである。「思わない」「あまり思わない」の合計. 図7 アイヌ文化の普及政策は実現されているか. は47.0%で,半数近くの人が普及政策の実現について否定 的であり,肯定的な回答(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)の27.7%を上回った。. 次に,民族別のクロス集計表を作成し,独立性の検定を行ったが,和人とアイヌ民族の間に意識の違いが 見られなかった。ちなみに,「思わない」から「そう思う」までを1点から5点までに換算したところ,全 体の平均値が2.73点,両民族の平均値は和人が2.71点アイヌ民族が3.31点となった。なお,性別でも統計的 に有意な差は認められなかった。 だが,地域別では有意な差が認められた(α=0.01)。有意差に貢献したセルを調べるべく残差分析を行っ. たところ,「そう思う」「思わない」と答えた旭川市民がそれぞれ1.1%,28.9%で,前者は1%有意で他の 地域よりも低い比率を示し,後者は5%有意で高い比率を示していた。一方,「そう思う」「思わない」と答 えた白老町民がそれぞれ12.3%,2.8%で,前者は他の地域よりも相対的に高く,後者は低かった(ともに1% 有意)。つまり,白老町の方が旭川市よりも格段に振興法の実現を実感しているということになる。これは, 白老町で実施されているイオル事業によるところが大きいと思われる。 また,年齢別でも有意な差が認められた(α=0.01)。その残差分析によれば,「そう思う」と回答した70. 歳以上の人が10.5%で他の年齢層よりも5%有意で高く,「ややそう思う」と回答した30代の人が7.9%で1% 有意で高かった。これは,年齢層が上になるほど政策が実現されているかについて肯定的であることを示唆 している。. 3.二風谷ダム判決について. 本研究における質問票のQ8からQllまでは以下の通りである。. Q8.判決中の(1)(アイヌ民族が先住民であると認めた)の部分についてどう思いますか。 とても良い 良い どちらともいえない あまり良くない Q9.判決中の(2)(ダム工事が違法であると宣言)の部分についてどう思いますか。. 良くない. 37.
(11) 籾 岡 宏 成 良い とても良い どちらともいえない あまり良くない QlO.判決中の(3)(ダム建設工事そのものは認めた)の部分についてどう思いますか。 良い とても良い どちらともいえない あまり良くない Qll.全体としてこの判決についてどう思いますか。 とても良い 良い どちらともいえない あまり良くない. 良くない 良くない 良くない. (1)裁判所が先住性を認定したことについての賛否(Q8) 全体でみると,「とても良い」が225人(29.4%),「良い」が 376人(49.1%),「どちらともいえない」が129人(16.8%),「あ まり良くない」が27人(3.5%),「良くない」が9人(1.2%). であった。図8はそれをグラフ化したものである。8割近くも の住民がアイヌ民族の先住性を司法が認めたことについて積極 的に捉えていることは特筆に価するものと思われる。前回調査 においては,平取町民の51.8%が「良いことだ」と答えていた. が(ただし,前回調査では「分からない」「その他」などの選. 良い 49%. 択肢があった),それと比較しても極めて高い数字であること がわかる。. 次に,民族別のクロス集計表を作成した上で独立性の検定を. 図8 裁判所が先住性を認定したことにつ いての賛否. 行ったが,和人とアイヌ民族の間に意識の違いが見られなかった。. ちなみに,「良くない」から「とても良い」までを1点から5点までに換算したところ,全体の平均値は4.02 点,両民族の平均値は和人が3.99点アイヌ民族が4.31点となった。なお,男女別,年齢別においても統計的 に有意な差は認められなかった。. しかし,地域別では有意な差が認められた(α=0.05)。残差分析の結果,旭川市民の意識に際立った傾 向が見られた。すなわち,態度を保留する「どちらともいえない」と答えた旭川市民の比率が10.6%で,1% 有意で他の地域よりも低く,最高の評価を下す「とても良い」を選択した同市民が37.6%で,これも1%有 意で他の地域よりも高い比率を示していた。同市では「とても良い」と「良い」の合計が87.9%と9割近く にも達していた。このことから,先住性の認定については,地域別では旭川市民が他地域と比べて極めて高 い評価を下していることが明らかになった。 (2)ダム工事の違法性の宣言について(Q9) 全体でみると,「とても良い」が123人(16.2%),「良い」が 244人(32.2%),「どちらともいえない」が298人(39.3%),「あ まり良くない」が60人(7.9%),「良くない」が33人(4.4%). であった。図9はそれをグラフ化したものである。これによる と,ダム工事が違法であると裁判所が判断したことについて,. 半数近くの人が評価していることになる。これは,前回調査に おける28.5%(ただし,前回調査では「とても良い」の選択肢 がなく「分からない」「その他」などの選択肢があった)を大. 図9 ダム工事の違法性の宣言について. きく上回る比率であった。. 次に,民族別のクロス集計表を作成した上で独立性の検定を行ったが,和人とアイヌ民族の間に意識の違 いが見られなかった。ちなみに,「良くない」から「とても良い」までを1点から5点までに換算したところ.. 38.
(12) 多数者と少数者の人権意識・前編. 全体の平均値は3.48点,両民族の平均値は和人が3.48点アイヌ民族が3.75点となった。なお,男女別,年齢 別においても統計的に有意な差は認められなかった。. しかし,地域別のクロス集計表から独立性の検定を行ったところ,有意差が認められた(α=0.05)。残 差分析の結果,旭川市と新ひだか町に特徴が見られた。まず,「どちらともいえない」と答えた旭川市民の 比率が31.5%で,5%有意で他の地域よりも低く,「良い」を選択した同市民が38.6%で,これも5%有意 で他の地域よりも高い比率を示していた。このことから,旭川市民は違法性の宣言について他の地域よりも 肯定的であることがわかる。次に,「良くない」と回答した新ひだか町民が8.3%で,1%有意で他の地域よ りも高い比率であった。これは,前回調査での平取町の9.6%に相当近い数字であった。同じ日高管内に位 置し二風谷ダムにも馴染みのある新ひだか町民が,平取町民と同じ意識傾向が見られたのは興味深い。以上 より,二風谷ダム自体に馴染みの薄い旭川市民と,同ダムと密接な関係を持つ平取町民,新ひだか町民とで は,1つの司法判断に対する印象が相当程度異なることが判明した。 (3)事情判決についての賛否(QlO) 全体でみると,「とても良い」が33人(4.3%),「良い」が172 人(22.6%),「どちらともいえない」が319人(42.0%),「あ まり良くない」が140人(18.4%),「良くない」が96人(12.6%). であった。図10はそれをグラフ化したものである。明確な判断. あまり良くない. 18,i. を回避する「どちらともいえない」と回答した人が4割を超え ていたのが特徴である。既に完成したダムそのものの存続は認 どちらともいえない. めたという事情判決部分に関する肯定・否定の比率はそれぞれ 26.9%,31.0%で,括抗しつつも後者の方が上回っていた。. 42%. 図10 事情判決についての賛否. 次に,民族別のクロス集計表を作成し,独立性の検定を行っ. たが,和人とアイヌ民族の間に意識の違いが見られなかった。ちなみに,「良くない」から「とても良い」 までを1点から5点までに換算し平均値を求めたところ,全体が2.88点であり,和人が2.89点,アイヌ民族 が2.56点となった。なお,地域別でも統計的に有意な差は認められなかった。. だが,男女別のクロス集計表から独立性の検定を行ったところ,統計的に有意な差が認められた(α= 0.05)。その残差分析によれば,「どちらともいえない」と答えた男性・女性がそれぞれ38.2%,48.6%で,. ともに1%有意で他方と差があった。つまり,女性の方がいずれかの立場を明示することを避ける傾向が強 かった。 さらに,年齢別でも統計的に有意な差が認められた(α=0.05)。残差分析を行ったところ,「とても良い」. 「良い」と答えた50代の人がそれぞれ0.7%,15.9%で,ともに5%有意で他の年齢層よりも低い比率であっ た。このことから,事情判決部分に対して否定的な50代の姿が浮かび上がってきた。ただし,これがなぜ50 代に特有の傾向なのかについては不明である。 (4)二風谷ダム判決全体についての賛否(Qll). Q8からQlOを踏まえ,二風谷ダム判決の総合的な評価を問う設問である。全体として,「とても良い」 が20人(2.6%),「良い」が196人(25.7%),「どちらともいえない」が337人(44.2%),「あまり良くない」. が154人(20.2%),「良くない」が55人(7.2%)であった。図11はそれをグラフ化したものである。QlOと 同様,4割を越える人が態度を留保し明確な立場の表明を避けていた。しかも,肯定・否定の合計がそれぞ れ28.3%,27.4%で,両者はほぼ括抗していた。 次に,民族別のクロス集計を行ったのが表4である。これについて独立性の検討を行ったところ,ズ2(4). 39.
(13) 籾 岡 宏 成. =10.4291,p値(有意確率)=0.0338が得られ,統計的な有 意差が認定された(α=0.05)。どのセルが有意性の認定に貢 献したかを調べるべく残差分析を行ったところ,「あまり良く ない」と回答したアイヌ民族が53.3%,和人が19.8%でともに. 1%有意で相互に差が見られた。これらの数字からは,アイヌ 民族の方が和人よりも,総合的に見て二風谷ダム判決を否定的 に捉えている傾向が強いということが言える。前回調査におい. どちらともいえない. ては,二風谷ダム判決に対する民族による意識の違いが見られ. 44%. なかったことを勘案すると,これは今回の調査で見られた大き. 図11二風谷ダム判決についての賛否. な特徴の1つである。なお,「良くない」から「とても良い」. までを1点から5点までに換算し平均値を求めたところ,全体として2.97点,和人2.98点アイヌ民族2.47点 となった。 表4 民族別クロス集計表 民 族. とても良い. アイヌ民族 0(0.0%) 和. 良い 2(13.3%). 人 20(2.9%) 182(26.0%) 合 計. 20. どちらともいえない あまり良くない 良くない 4(26.7%) 312(44.5%). 184. 316. 合計. 8(53.3%) 1(6.7%) 139(19.8%) 48(6.8%) 147. 49. さらに,地域別でも統計的に有意な差が認められた(α=0.01)。残差分析を行ったところ,「あまり良く. ない」と答えた旭川市民がそれぞれ28.1%で,1%有意で他の地域よりも高い比率を示しており,「とても 良い」と答えた白老町民が5.2%で,1%有意で他の地域よりも高かった。 これに対して,男女別,年齢別では有意な差は認められなかった。. 4.小 括 和人・アイヌ民族によって質問項目に対する回答パターンが異なったのは,Ql(アイヌ文化に触れたこ とがあるか否か),Q4(アイヌ文化振興法の認知度),Q6(アイヌ民族の先住性が法律に明記されていな いことへの賛否),Qll(二風谷ダム判決への賛否)であった。前2者については,自らをアイヌ民族と表 明する人がそうでない人よりもアイヌ文化およびこれを保護する法律に触れる機会が多いことから,十分に 予想される結果であった。. しかしながら,先住性に関する法律での扱いについて両民族の意識・態度の違いが鮮明に統計的な数字と して出たこと(「良くない」という回答をしたアイヌ民族の比率が和人の2倍以上であったこと)は特筆す べきである。これは,和人とは異なるアイヌ民族への帰属意識を持つ人々が,先住性が法律に明記されてい ないことに対して反感を抱いていることを示すのに十分な数字であろう。. また,二風谷ダム判決についての意識にも統計的な違いが認められ,「あまり良くない」とやや否定的な 立場にあるアイヌ民族が半数以上を占めていたことについては,いささか驚きを感じた。つまり二風谷ダム 判決をアイヌ民族がそれほど評価していないという結果が得られた。しかし,より詳細に見れば,裁判所が 先住性を認定したことについては(Q8),9割近くのアイヌ民族が「とても良い」または「良い」と評し ているのに対して,ダム工事そのものは認めた判決を下したことについては(QlO)半数以上が「良くない」. 40. 15 701 716.
(14) 多数者と少数者の人権意識・前編. 「あまり良くない」としていることから,事情判決部分を重視したために判決全体の印象が悪くなった可能 性もある。別の分析手法による再検討は別の機会に試みたい。 地域別では,Q5を除く10の質問のうち統計的に有意な差が出た項目は8にも上った。そのうち,5項目 は1%有意による差であった。つまり,アイヌ文化振興法に対する人々の意識は地域差が大きいということ が言える。とりわけ,アイヌ文化に対する白老町民の意識が高いことが大きな特徴であった。. 以上のように,本稿ではアイヌ文化振興法に関するアンケート調査での各項目における多数者・少数者の 意識の違いなどを分析した結果,振興法への認知度および同法でのアイヌ民族の位置づけに対する意識がア イヌ民族と和人では異なること,アイヌ文化に対する意識については地域差が顕著であることなどが判明し た。後編では,項目間の相関関係の解明,自由記入欄に記された少数者の人権に関する人々の意見の分析な どを行うことによって,少数者の人権が問題となる場合の社会と法との関わりについてさらに考察を深めた い。. (追記). 本研究は,文部科学省の科学研究費補助金(若手研究(B))の助成(「先住民族との土地紛争に関する司法の機能」課題番号 17730003,平成17∼18年度)による成果の一部である。 アンケートを実施させて頂いた旭川市,釧路市,白老町,新ひだか町の住民の皆様には貴重なご意見を多数いただきました。 この場を借りて御礼申し上げます。本稿において誤記,不適切な解釈・表現があるとすれば,全て筆者の責任です。. (旭川校准教授). 41.
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