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ME (FSS2018 ) スイング計測装置を用いた野球打撃における指導方法の検討 ~ 評価シートが高校野球選手のバットスイングに対する理解に及ぼす効果 ~ Baseball Coaching of Hitting Technique using a Swing Measurement

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スイング計測装置を用いた野球打撃における指導方法の検討

~評価シートが高校野球選手のバットスイングに対する理解に及ぼす効果~

Baseball Coaching of Hitting Technique using a Swing Measurement Device

~The Effect of Evaluation Sheet on Understanding Bat-Swing in High School Baseball Players~

〇蔭山雅洋

1

, 山本雄平

1

, 田中成典

1

, 柴田翔平

2

, 鳴尾丈司

2

〇Masahiro Kageyama, Yuhei Yamamoto, Shigenori Tanaka, Shohei Shibata, Takeshi Naruo

1

関西大学

2

ミズノ株式会社

1

Kansai University

2

Mizuno Corporation

Abstract: According to the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology guidelines in 2013 on instruction in athletic club activities, it is important that coaches use not only their own experience, but also understand and use the results of studies by sports science specialists. In recent years, a device that provides measured results immediately after the batting swing has been developed by downsizing of the device following advances in sensor technology and IT techniques. This device measures the bat swing characteristics from the measurement data. However, coaching methodology based on scientific data is not yet established in amateur baseball clubs, possibly because of a mixture of rational and irrational instruction and difficulty in interpretation of the calculated numerical values. Therefore, the purpose of this study was to investigate the effect of using a data-based evaluation sheet on the understanding and motivation for batting practice in high school baseball players, and to examine the coaching method for baseball hitting using a swing measurement device.

1. はじめに

平成 25 年に文部科学省が報告した運動部活動で の指導のガイドラインでは,指導者が効果的な指導 を行うには,自身の経験に頼るだけでなく,スポー ツ医・科学の研究の成果を積極的に習得し,活用す ることが重要である[1]とされている.近年では,セ ンサ技術やIT 技術の発展により,計測装置の小型化 が進み,バッティング直後に,スイングの結果を即 時にフィードバックできる計測装置が開発されてい る[2].この計測装置では,取得された計測データか ら打者のバットスイングの特徴を計測することが可 能となる.しかしながら,アマチュア野球選手の指 導現場では,未だに,科学的なデータに基づいた指 導方法は,確立されていない.その原因として,こ れまで我が国の野球において,合理的な指導と非合 理的な指導が混在していること[3]に加えて,算出さ れた数値に対する解釈が難しいことが考えられる. 算出された数値と打撃成績からスイングの特徴を 検討した研究[4]によると,飛距離は出ないがヒット が多い (アベレージバッター型) 選手はスイング回 転半径が大きく,レベルスイング (スイング軌道が 0 度付近) でボールインパクトを迎え,ホームランが 多い (パワーヒッター型) 選手はスイング回転半径 が小さいことに加えてスイング速度が高く,アッパ ースイング (スイング軌道が 10 度-15 度) でボール インパクトを迎えることを報告されている.このよ うに,算出された数値に対する指標を構築し,選手 のスイングの特徴を明確にできることは,トレーニ ングや練習の方法を検討する上で非常に有益な知見 になるといえよう.

2. 研究目的

本研究では,これまで得られたデータに基づき作 成した評価シートの有効性を検討するため,配布後 のアンケート調査から高校野球選手のバットスイン グに対する理解度の変化を明らかにすることとする.

3. 方法

3.1. 対象者

本研究は,県大会ベスト 4 の戦績を持つ硬式野球 部に所属する高校生33 名であった.なお,すべての 対象者が,スイング計測装置を用いて,打撃練習を 実施していた.使用頻度は,20 日に 1 度であった.

3.2. アンケート調査

アンケート調査 (表 1) は,評価シートを 3 回配布 した後に実施した.評価シートは,2017 年 11 月 (1 回目),2018 年 3 月 (2 回目),5 月 (3 回目) に配布 した.つまり,配布前では,1 年生は 0.5 年,2 年生 は1.5 年使用していたことになる. 調査は,自身のスイングを評価したシート配布前 後のスイングの理解度,参考にしたスイングデータ 上位3 つあるいは後述するスイング計測装置を使用 した変化などを調査するため,直接記入法による質 問紙調査を実施した.評価点は,5:とてもそう思う, 4:少しそう思う,3:どちらともいえない,2:あま りそう思わない,1:全くそう思わないまで 5 件法に て回答させた. 本研究では,Q.8 「自身のバッティングフォーム に関する理解を深めることができていた/できてい る」の項目は自身のスイングに対する「理解力」, Q.9 「現状のスイングを理解し,練習をすることが

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できていた/できている」の項目は判断力,Q.10 「目 的や計画に沿って,トレーニングすることができて いた/できている」の項目は行動力とした.

3.3. 評価シートの作成・配布

対象者に配布した評価シートは,蔭山 (2017) の研 究[4]を基に作成した (図 1).この評価シートは,①測定 値,②10 段階での評価,③体重とスイングとの関係から 構成されている.評価に関しては,スイング時間が短い, スイング速度が速い,ローリングが高い,インパクト加速 度がゼロに近い,スイング回転半径が大きい選手は,評 価が高くなるように設定した.なお,評価は,これまで計 測した高校生の平均値およびSD を基に算出した.また 本研究では,評価シートを配布した1 回目に,後述する スイング計測装置から得られるスイング 8 項目およびそ れらの項目の最適値・評価値に関する説明を先行知見 [4,5,6,7]を基に行った. 表1.スイング計測装置に関するアンケート 学年: 年 野球歴: 年 (2017年11月以前)数値のみ測定した回数 回 (2017年11月以後)分析回数 回 評点 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 長打(2塁打以上)が増えた (飛距離が伸びた) 三振(空振り)が減った 凡打が減った あなたが知りたいバッティングの情報を教えてください(自由記述) アンケートは以上です。ご協力ありがとうございました。 1番目. (   ), 2番目. (   ), 3番目. (   ) スイングトレーサーを使用した変化を教えてください。評点は5段階です。 「5:とてもそう思う」/「4:少しそう思う」/「3:どちらともいえない」/「2:あまりそう思わない」/ 「1:全くそう思わない」 スイングトレーサーを使用して良かった バッティングに対する意欲が出た スランプが減った ヒットが増えた ヘッド角度 を理解している スイング軌道 を理解している 自身のバッティングフォームに関して、理解を深めることができている 現状のスイングを理解し、練習をすることができている 目的や計画に沿って、トレーニングすることができている あなたが重視した上位3つを教えてください。 1. スイング時間,2. スイング速度, 3. インパクト加速度, 4. ローリング, 5. スイング回転半径, 6. ヘッド角度, 7. スイング軌道 現時点のスイングトレーサー8項目に関する理解度を教えてください。 スイング時間 を理解している スイング速度(最大速度,インパクト時) を理解している インパクト加速度 を理解している ローリング を理解している スイング回転半径 を理解している スイング回転半径 を理解していた ヘッド角度 を理解していた スイング軌道 を理解していた 自身のバッティングフォームに関して、理解を深めることができていた 現状のスイングを理解し、練習をすることができていた 目的や計画に沿って、トレーニングすることができていた 評価内容 2017年11月時点のスイングトレーサー8項目に関する理解度を教えてください。 スイング時間 を理解していた スイング速度(最大速度,インパクト時) を理解していた インパクト加速度 を理解していた ローリング を理解していた 日付      /    /      スイング計測装置 に関するアンケート 名前: 測定回数 測定する(入学)以前からスイングトレーサーのことは知っていましたか? 「1: 使用していた」/ 「2: 購入を検討していた」/ 「3: 名前は知っていたが、どんなシステムか分かっていかった」/ 「4: 名前も内容も知らなかった」 フィードバックシート配布前後の考えを教えてください。評点は5段階です。 「5:とてもそう思う」/「4:少しそう思う」/「3:どちらともいえない」/「2:あまりそう思わない」/ 「1:全くそう思わない」

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1) 測定手順

本研究では,ティー打撃を採用した.なお,すべての 対象者が日頃から練習方法として,ティー打撃を取り入 れていることを確認した. 実験は,最大努力によるティー打撃を 5 回とした.測 定に先立ち,対象者にはストレッチを含むウォームアッ プを十分に行わせた後,打撃練習を行わせた.打撃す る ボ ー ル は 硬 式 球 ( 質 量 : 141.7-148.8 g , 円 周 : 22.9-23.5 cm) を,バットは金属バット (質量:900 g, 長さ:83-84 cm) を使用し,対象者が構えた姿勢での ボールの中心が大転子の高さと同じ高さになるようにテ ィー台を設定し,打撃位置は対象者がセンター方向へ 打ちやすい地点とした.

2) スイング計測装置の実施方法

本研究では,慣性センサユニット (セイコーエプソン 社製),アタッチメントおよびスマートフォンのアプリケー ションから成るスイング計測装置 (MIZUNO Swing Tracer) を用い,後述する 8 つのパラメータを計測した. この装置は,加速度センサおよびジャイロセンサを搭載 した慣性センサユニットをバットグリップエンドに装着す ることで野球スイング動作時のバット 3 次元挙動を算出 することができる.本ユニットは,3 軸加速度センサ,3 軸 ジャイロセンサ,3 軸高レンジ加速度センサの 9 軸セン サが搭載されていた.計測データは,サンプリング周 波数1000Hz で収録された.

3) スイング計測装置から得られるスイングの 8 項目

本研究で使用した計測装置は,バットスイングの特徴 を定量的に示すことが可能となっている.8 つのパ ラメータは,「スイング時間」,「スイング速度 (イン パクト)」,「スイング速度 (Max)」,「インパクト加 速度」,「ローリング」,「スイング回転半径」,「バ ット角度」,「スイング軌道」と定義されている.

4) 統計処理

評価シート配布前後におけるスイングの評価 8 項目 の理解度,自身のスイングに対する理解力や判断力, 行動力の比較には,Wilcoxon の対応のある符号順位 検定を用いて,比較した.本研究では有意水準を 5% 未満とした.すべての検定は統計ソフトIBM SPSS Statistics 24 (IBM 社) を用いた. 図1.配布した評価シート (一例)

4. 結果

4.1. 評価シート配布前後における項目間の比較

図2 は,6 か月間における自己のスイングの理解度を 比較したものである.配布前では,インパクト加速度,ロ ーリング,スイング回転半径に関する理解度の平均値は 約2 点 (あまりそう思わない) であったものの,配布後で は有意に増加した (p < 0.01).またスイング時間,スイン グ速度,ヘッド角度,スイング軌道に関する理解度は, 配布前において約4 点 (少しそう思う) と高いものの,配 性別 年齢 身長 体重 17.1 173.0 76.3 - 7 9 5スイングの平均 7.4 89.9 m 121.7 km/h インパクト速度MAX 7.4 92.2 m 124.2 km/h 0.120 10 0.119 10 秒 129.7 9 133.7 9 km/h 129.7 9 133.7 9 km/h 76 8 21 8 m/s² 1.67 3 1.58 3 回転/秒 0.17 7 0.16 7 m -27.9 - -33.2 - ° 4.7 - 4.0 - ° インパクト時のバットの上下方向への傾き。(グリップよりヘッドが下にあれば角度はマ イナスで表示されます)この値はバットスイングの軌道面を反映するため、値がマイナ スになるのは自然。 インパクトの寸前にバットヘッドが移動していた方向。+値はアッパースイング方向 へ、 -値はダウンスイング方向へ動きながら、バットがボールを捉えていることになる。 ミズノ株式会社スイングトレーサーHP 参照 メモ スイング開始からボールがバットに当たるまでの時間。短い時間でスイングできると、 ボールの軌道を長く手元まで見ることができる。 スイングした時のバットヘッドの速さ。ここではボールがバットに当たる瞬間のスピードを 計測。ヘッドスピードが速いということは、速い打球を打てる スイングした時のバットヘッドの速さ。ここではボールがバットに当たる瞬間のスピードを 計測。ヘッドスピードが速いということは、速い打球を打てる バットがボールに当たる寸前のヘッドスピードの変化量。通常は僅かだがスピードアッ プする。 インパクト寸前には値が小さくなるのが理想的で、大きく振り遅れた場合はバットの 加速度が大きな+値になることがある。 スイング前半部分のコンパクトさを表す指標。値が大きけばスイングがコンパクトであ ることを示す。 平均データ (5スイングの平均データを採用) 単位 結果 評価点 結果 評価点 チーム プロ選手 スイング解析結果表 2017/11/25 石垣昂汰 四日市工業 男 評価点 ※インパクト時のスイング速度は除く 打球飛距離 (推定) 打球速度 (推定) 5スイングの平均 インパクト速度MAX 測定日 名前 学校 0 2 4 6 8 10 スイング時間 スイング速度 (最大) ローリング インパクト 加速度 回転半径 5スイングの平均 インパクト速度が最も高いスイング <スイング評価> < 体重 > < ス イ ン グ 速度 > 0 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8 10

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布後に有意に増加した (p < 0.01). 1 2 3 4 5 評価点 (点 ) * * * * * * * 配布後 配布前 * P < 0.01 ※ 5件法にて回答 5: とてもそう思う, 4: 少しそう思う, 3: どちらともいえない, 2: あまりそう思わない, 1: 全くそう思わない 図2.配布シート配布前後における スイングの評価項目に関する理解度の比較 図 3 は,6 か月間におけるスイングの理解度およ び意欲の違いを示したものである.Q.8 「自身のバ ッティングフォームに関する理解を深めることがで きていた/できている (スイングに対する理解力)」, Q.9 「現状のスイングを理解し,練習をすることが できていた/できている (判断力)」,Q.10 「目的や 計画に沿って,トレーニングすることができていた/ できている (行動力)」は,配布後では配布前よりも 有意に増加した (p < 0.01). 1 2 3 4 5 Q.8 Q.9 Q.10 評価点 (点 ) Q.8:自身のバッティングフォームに関する理解を 深めることができていた/できている Q.9: 現状のスイングを理解し、練習をすることができていた/できている Q.10:目的や計画に沿って、トレーニングすることができていた/できている * * * 配布後 配布前 * P < 0.01 ※ 5件法にて回答 5: とてもそう思う, 4: 少しそう思う, 3: どちらともいえない, 2: あまりそう思わない, 1: 全くそう思わない 図3.評価シート配布前後における スイングに対する理解力,判断力,行動力の比較

4.2. 参考にしたスイングの評価項目上位 4 つ

図 4 はスイング計測装置を使用した際に参考にした評 価項目の上位 3 つの割合である.図 5 は順位ごとに分け た際の人数を示したものである.最も多かった上位 3 つ は,スイング時間が 28.3 %,スイング回転半径が 17.2 %, スイング軌道が,インパクト加速度が 14.1 %であった. 人数 (人 ) 0 2 4 6 8 10 12 14 3番目 2番目 1番目 図4.評価項目上位 3 つの内訳 28.3 10.1 14.1 2.0 17.2 13.1 15.2 スイング時間 スイング速度 インパクト加速度 ローリング スイング回転半径 ヘッド角度 スイング軌道 図5.評価項目上位 3 つの割合 (%)

5. 考察

5.1. 評価シートの有効性

評価シートを配布することによって,質問項目 8-10 の評価点が増加した (図 3).この結果は,指導 現場において,スイング計測装置から計測される測 定値を評価し配布することによって,自身のスイン グに対する理解力や判断力,行動力が高まることを 示唆するものである.野球の指導では,合理的な指 導と非合理的な指導が混在している[3]ため,評価シ ートによって,選手のスイングに対する理解力や判 断力,行動力を高めることができたことは,パフォ ーマンスを高めるうえで有効な一つであると考えら れる. また評価シート配布前では,スイング時間,スイ ング速度,ヘッド角度,スイング軌道に関する理解 度は高かったものの,インパクト加速度,ローリン グ,スイング回転半径は低かった (図 2).このこと より,前者の項目はスイングを評価しなくても理解 しやすく,後者の項目は評価することで選手のスイ ングに対する理解が高まると考えられる. したがって,これから使用する野球選手に対して は,インパクト加速度,ローリング,スイング回転 半径の 3 つの項目に関する理解を高める必要がある と考えられる.

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5.2. 高校生が参考にした評価項目に関して

高校生が参考にした測定値で最も多かった上位 4 つは,スイング時間が28.3 %,スイング回転半径が 17.2 %,スイング軌道が 15.2 %,インパクト加速度 が 14.1 %であった (図 4,5).以下では,それぞれ の項目に関して考察する.

1) スイング時間

野球の投手が放つストレートのボール速度は,年 齢経過に伴い増加する[8,9,10].さらに,競技レ ベルが上がるにつれて,対応するべき球種の数は増 加し,その質 (ボールの回転数,軸)[11,12]や変化 量も高くなる[13].このような厳しい時間的な制約お よび複雑な環境変動を含む状況では,打者はボール 軌跡初期までの限られた情報に基づいて球種・コー ス・到達時間を予測してスイングを開始する必要が ある[14].そのため,できる限りスイング時間を短く し,スイング開始前に得られる情報量を増大させる ことが正確な打撃に必要となる[15].これらの先行知 見より,投手が投げる高い速度のボールや質の高い ボールに対応するために,スイング時間を重視した 可能性が考えられる.

2) スイング回転半径

スイング回転半径は,バットヘッドが打球方向と 逆方向 (キャッチャー方向) を向いている時刻にお いてバットの回転中心がグリップエンドからみてど の位置にあるかを表している.打撃成績からスイン グの特徴を検討した研究[4]によると,飛距離は出な いがヒットが多い (アベレージバッター型) 選手は スイング回転半径が大きく,レベルスイング (スイ ング軌道が 0 度付近) でボールインパクトを迎え, ホームランが多い (パワーヒッター型) 選手はスイ ング回転半径が小さいことに加えてスイング速度が 高く,アッパースイング (スイング軌道が 10 度-15 度) でボールインパクトを迎える.さらに,アベレ ージバッター型とパワーヒッター型の両方を備える 選手も存在することが報告されている.そのため, スイング回転半径は,ボールに対応するために重要 な変数であると考えられる.本研究では,選手がスイ ング回転半径を大きくすることを目指したのか,小 さくすることを目指したかは不明であるが,ボール に対応するためにスイング時間に注目したことを考 えると,ボールに対応するためにスイング回転半径 を大きくすることを目指した可能性が考えられる.

3) スイング軌道

競技レベルの高い大学生を対象に,野球の打撃動 作における打球の飛距離と運動エネルギー (打球速 度) を決定する打球の特性およびそれらを生み出す インパクトを含むスイングの特性を検討した研究[5] によると,フリーバッティングにおいて打球飛距離 を長くするためにはスイング速度を高め,大きなス イング角度 (上向きのスイング軌道) でインパクト させることが重要であり,打球の運動エネルギーを 高めるにはスイング速度とスイング角度を増大させ るとともに大きなローリング (バットの長軸回りの 回転) 角速度を持たせたバットでインパクトを迎え ることが重要であるとされている.また打球の飛距 離を最大化するには,約 9°の上向きでインパクトす ることが重要である[6].しかしながら,野球では理 想的なスイング軌道でインパクトした場合に外野フ ライになる場合もある.そのため,スイング速度が 小さい場合は,スイング軌道を小さくする (地面と 平行に近づける) ことで外野の前に打つことも必要 になると思われる.そのため,高校生は,自身のス イング速度にあった打球角度に設定するために,ス イング軌道に着目した可能性が考えられる.

4) インパクト加速度

バットヘッドの加速度は,バットが動き始めた (1m/s) 時 (0%time) か ら ボ ー ル イ ン パ ク ト (100%time) までの間の 85%time 時に最大 (292.3 ± 53.5 m/s2) となり,インパクト直前では 0 に近似す る[7].そのため,インパクト加速度が正の値となる 場合は,適切なインパクト位置より手前で捉えてお り,ヘッドスピードがインパクト直前に最大値に到 達していないと判定できる.一方,負の値を取得し た場合は,ヘッドスピードが減速してからボールと 衝突していると判定できる.これにより,インパク ト加速度が0 m/s2であることが理想になるといえよ う.よって,高校生はインパクト加速度 0 を基準に, 増減の幅を大きくならないことに着目した可能性が 考えられる. 以上のことから,高校生は,スイング計測装置を 使用することで,投手が投げるボールへの対応や打 球角度に重要となる客観的な指標に着目したと推察 される.また高校生が参考した項目のうち,配布前 に理解が低かったインパクト加速度やスイング回転 半径が上位に抽出されたことは,スイング評価シー トが有効にはたらいた可能性が考えられる.

5.3. トレーニング現場への示唆

近年では,センサ技術やIT 技術の発展により,計 測装置の小型化が進むことに加え,科学的な知見に 基づく指導方法の必要性が高まっている.そのため, 本研究で使用したスイング計測装置を用いることに よって,指導者はその場でスイングデータを確認す ることができ,これまで行ってきた主観的な指導に 加えて客観的なデータに基づいた練習あるいは指導 が可能になると思われる.したがって,選手や指導 者は,スイング計測装置を用いることによって,選 手のスイングの現状を把握することができ,効果的 なトレーニングや練習を検討する上で非常に有益な 情報となるだろう. 野球ではホームランはそのまま得点を意味し,長 打 (二塁打や三塁打) は走者をより進塁させること ができる.そのため,打球を遠くに飛ばす長打力は, 得点力に結び付く重要な要素となる.事実,長打率 は,1 試合の平均得点と有意な関連性を持つ[16].ま た2008-2015 年の全国高等学校野球選手権全国大会 の結果からも チームの打撃力 (OPS:On-base Plus

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Slugging:出塁率と長打率を単純加算した値) が勝 利に最も強く影響する[17].したがって,長打力のあ る選手を多く育成することがチームの勝利に繋がる といえる.したがって,打力向上を目指したい野球 選手は,スイング計測装置を用いることによって, 客観的にスイングを評価することができ,長打力向 上に役立つと考えられる.

6. まとめ

本研究では,これまで得られたデータに基づき作 成した評価シートの有効性を検討するため,配布後 のアンケート調査から高校野球選手のバットスイン グに対する理解度の変化を明らかにすることとした. 本研究によって得られた知見は以下の通りである.  指導現場において,スイング計測装置から計測 される測定値を評価することは,スイングに対 する理解力や判断力,行動力を高めるために有 効である.  スイング計測装置を初めて使用する野球選手に 対しては,インパクト加速度,ローリング,ス イング回転半径の 3 つの項目に関する理解を高 める必要がある.  高校生が参考にした評価項目で最も多かった上 位は,投手が投げるボールに対応するために重 要なスイング時間,スイング回転半径,インパ クト加速度と打球角度に重要なスイング軌道の 項目であった. 本研究の結果から,スイング計測装置の使用は, 打力向上を目指す選手や指導者にとって,効果的な トレーニングや練習の方法が明確になると示唆され た.そして,より効果的な指導を実施するには,評 価シートの配布は,より有効な手段になると考えら れた.今後は,高校生が参考にした項目に対する身 体の動きを明確にする必要性が示された.

参考文献

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連絡先

蔭山雅洋 E-mail:kageyama@kansai-u.ac.jp

参照

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