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管理番号 平成 25 年度課題解決型医療機器等開発事業 新構造の振動子を用いた世界初の軟骨伝導による補聴器の開発 事業成果報告書 ( 概要版 ) 平成 26 年 2 月 委託者経済産業省 委託先リオン株式会社

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管理番号25-076

平成 25 年度課題解決型医療機器等開発事業

「新構造の振動子を用いた世界初の軟骨伝導による補聴器の開発」

事業成果報告書(概要版)

平成 26 年 2 月

委託者 経済産業省

委託先 リオン株式会社

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目次

1. 事業の概要 ... 1 1.1 事業の背景・目的及び目標 ... 1 1.2 事業実施体制 ... 3 1.3 成果概要 ... 5 1.3.1 開発製品「耳かけ型軟骨伝導補聴器」 ... 5 1.3.2 事業化計画 ... 6 1.4 当該事業の連絡窓口 ... 7 2. 本編 ... 8 2.1 衝撃に強い振動子の開発 ... 8 2.2 振動子の量産体制確立 ... 14 2.3 軟骨伝導補聴器の臨床研究 ... 19 3. 全体総括 ... 20

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ヘッドバンドも手術も不要な世界初の軟骨伝導による補聴器の開発

リオン(株)、調布電子工業(株)、奈良県立医科大学 H25-076 リオンは、国内ではトップシェアの補聴器メーカである。他に 聴力検査機器、騒音計、振動計、パーティクルカウンタなどの 計測器も製造販売。いずれも高い国内シェアを有す。 調布電子工業は、補聴器用のイヤホン・マイクロホンをはじ め、各種精密部品で培った精密金型製作技術を保有。 ヘッドバンドも手術も不要な軟骨伝導による補聴器 最新の補聴器技術の恩恵を受けられない難聴者がいる リオン株式会社、調布電子工業株式会社  外耳道閉鎖症等の難聴者は骨導補聴器かBAHAを使用 するしかなく、最新の補聴器技術の恩恵を受けられない。  骨導補聴器は頭蓋骨への圧迫による不快感をともなう。 BAHAは頭蓋骨にアンカーを埋め込む手術が必要である。  耳栓による耳閉感から補聴器を使用しない難聴者は多い。  開発した新構造の電磁型振動子は、通常のデジタル補聴 器で駆動でき、小形・高出力・低消費電力を実現した。  この振動子を外耳道入口の耳軟骨部に装着して音を伝達 する軟骨伝導補聴器は外耳道閉鎖耳等に有効である。  耳閉感から補聴器を使用しなかった難聴者にも耳を塞が ない、より自然な聞こえの補聴器を提供する。 Class Ⅱ 対象となる外耳道疾患のある難聴者の推定人口 骨導補聴器 BAHA Bone Anchored Hearing Aid 圧迫瘢痕 アンカー ボルト 試作した軟骨伝導補聴器装用例 新構造振動子断面図 国内の対象市場30万台/年 (軽中等度難聴者の半分) 新構造の振動子を用いた世界初の軟骨伝導による補聴器の開発

コンソーシアム

販売 相談・申請 製造販売業

リオン(株)

•製品化・事業化 •振動子の開発・製造 •商用機設計 •知財のとりまとめ ものづくり中小企業

調布電子工業(株)

•振動子部品の金型製作 PMDA 第三者認証機関 認証 卸企業、代理店 医療機関

奈良県立医科大学

•ニーズの提供 •臨床研究の実施 •臨床エビデンスの構築 事業管理機関 中 PL

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1. 事業の概要

1.1 事業の背景・目的及び目標 1)事業の目的

耳介奇形、小耳症、外耳道癌等で外耳道が閉塞する外耳道閉鎖症の患者は、気導補聴器では有効な聴力改善 が得られない。また、耳漏のある患者も、耳を塞ぐと耳漏が悪化するため気導補聴器を長時間使用することが できない。現在これらの患者は、骨導補聴器や BAHA(Bone Anchored Hearing Aid)の装用を余儀なくされて いる。しかし骨導補聴器は振動子を乳様突起(耳介後部にある側頭骨の突起部)に数 N(数 100 グラム)程度 の力で押し当て、頭蓋骨を振動させて内耳に音を伝える。この方式は、出力の大きさが十分でない、押し当て 力による痛みや長時間装用で皮膚びらんが生じる、などの問題がある。また頭蓋骨にチタン製ボルトを埋め込 む BAHA は、当然ながら手術を要するなどの負担を患者に強いる。また、外耳道閉鎖症や耳漏などの疾患を持 った難聴者だけでなく、補聴器の耳栓による耳閉感から補聴器を使用しなかった難聴者が存在する。 このような患者及び難聴者に対して、外耳道入口の耳軟骨部に音を振動で伝達する軟骨伝導方式が有効であ ることが判った。この方式の補聴器は、増幅された音声を耳軟骨部に装着された振動子の振動に変換し、振動 子自体の振動によって外耳道内に発生する音と耳軟骨部に伝達された振動によって外耳道内に発生する音の 両方によって、音声を耳に伝達する。外耳道閉鎖耳の場合、音は伝わり難いが、耳軟骨の振動が外耳道内の肉 組織に伝わり、あぶみ骨を経由して内耳に効率よく伝わり、特に有効である。耳を塞がない軟骨伝導補聴器は、 快適な装用と明瞭な聞こえを提供でき、さらに手術からも解放させることができる。 軟骨伝導補聴器は、通常のイヤホンと違い音の出口が無いので、故障の大きな原因となる耳垢詰まりの心配 が無く、汚れても洗うことができる。軟骨伝導補聴器では、外耳道を塞がなくても中等度の難聴レベルまで対 応できる音圧を出力することができる。従来のオープンフィッティングでは低音域の音圧が不足して対応でき なかった難聴者に対しても軟骨伝導補聴器によってオープン対応が可能になり、新しい補聴器市場を開拓する ことが期待される。このような軟骨伝導補聴器を開発することが目的である。 2)事業概要 平成 25 年度は、軟骨伝導補聴器で使用する振動子を試作し、衝撃に強い振動子を開発し、振動子量産体制 のための要素技術を確立する。高精度を要求されるバネ等の振動子部品の製作技術を確立する。また臨床研究 を実施し、軟骨伝導補聴器の有効性評価と耳の症状に応じた軟骨伝導補聴器フィッティングのためのノウハウ を蓄積する。平成 26 年度は、振動子量産体制を確立し、軟骨伝導補聴器製品化のための要素技術を確立する。 平成 27 年度は、軟骨伝導補聴器量産機の設計・製作を行い、平成 27 年度末の上市を目指す。 3)実施内容 ①衝撃に強い振動子の開発(リオン株式会社) 当初、軟骨伝導補聴器の研究に圧電型の振動子を使用していたが、振動子を駆動するために昇圧回路が必要 なため、ボタン電池 1 個で駆動する通常の補聴器として実用化することが困難だった。2012 年に新構造の電磁 型振動子を開発し(特許申請中)、小形・高出力・低消費電力を実現し、軟骨伝導補聴器の実用化が可能にな った。今年度はこの振動子の特にバネ構造を試作検討し、補聴器の JIS(JIS C 5512:2000)の耐衝撃規格、0.7m の高さから 3 回落としても性能が外れないこと、をクリアする振動子を開発する。 ②振動子の量産体制確立(リオン株式会社、調布電子工業株式会社) 金型による振動子部品の製作は調布電子工業(株)が実施し、高精度な曲げ加工が要求されるバネ等の振動 子試作部品金型の製作を、高精度マシニングセンタを導入して実施し、振動子量産機の部品金型製作技術を確 立する。また振動子組立のために不可欠な着磁装置、アーマチュア位置調整装置、振動子出力特性測定装置を 製作をリオン(株)が実施し、振動子量産体制を確立する。着磁装置は、振動子の左右各一対の磁石をそれぞ れ逆向きに着磁できるものを製作する。アーマチュア位置調整装置は、振動子磁気回路の中のアーマチュアに 働く4つの磁気力を調整して、これらの磁気力がつり合うように調整するもので、その試作機を製作する。振 動子出力特性測定装置は、振動子を耳軟骨部に装着したときに鼓膜面上に発生する音圧を近似的に模擬して測 定する装置で、振動子を耳軟骨部に装着したときと同程度の機械インピーダンスで保持する保持機構部と擬似

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耳の音響カプラで主に構成され、振動子の気導音出力を測定する装置を製作する。 ③軟骨伝導補聴器の臨床研究(リオン株式会社、公立大学法人奈良県立医科大学) 通常の気導補聴器が使用できなく、骨導補聴器か BAHA の装用を余儀なくされている外耳道に疾患のある難 聴者を主な対象として、軟骨伝導補聴器が、骨導補聴器や BAHA と比較してどの程度有効であるのか、どのよ うな疾患に対して有効であるのか、聞こえや装着の改善のためにどのようなフィティングを行うのが良いのか、 等を研究し、振動子量産機の設計、耳装用部の形状材質の設計、等、軟骨伝導補聴器量産機の設計に反映させ ることを目的として、臨床研究を実施する。被験者の疾患の把握、聴力検査、聴こえの評価等は奈良県立医科 大学が実施し、軟骨伝導補聴器の製作及び補聴器のフィッティングは奈良県立医科大学の指示によりリオン (株)が実施する。軟骨伝導補聴器開発へのフィードバックは両者協力して実施する。

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1.2 事業実施体制 (1)組織 (2)総括事業代表者及び副総括事業代表者 ○総括事業代表者 吉川 教治 リオン株式会社 取締役 R&Dセンター長 ○副総括事業代表者 成沢 良幸 リオン株式会社 R&Dセンター技術開発部長 医療機関 補聴器相談医 販売業者 補聴器販売店 事業管理機関 リオン(株) 事業管理 ものづくり中小企業 調布電子工業(株) 振動子部品の 製作・供給 【医療機関】 奈良県立医科大学 臨床研究の実施 PL【第二種製造販売業】 SL リオン(株) 製品化 薬事 知財の管理 第三者認証機関 顧客 (補聴器ユーザー) 認証 申請・相談

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(3)実施・管理体制 【事業管理機関】 リオン株式会社 ①事業従事者 氏名 所属・役職 吉川 教治 R&Dセンター・センター長 成沢 良幸 R&Dセンター技術開発部・部長 岩倉 行志 R&Dセンター技術開発部・顧問 中市 真理子 R&Dセンター技術開発部事業技術開発課・課長 綿貫 敬介 R&Dセンター技術開発部事業技術開発課 舟橋 史孝 医療機器事業部開発部聴能センサ開発課 古山 慶 医療機器事業部開発部聴能センサ開発課 谷口 和寿 医療機器事業部製造技術部生産技術課 津田 直紀 医療機器事業部営業部西日本営業所・課長 堀江 誠一 R&Dセンター技術管理課・主任 ②管理員 氏名 所属・役職 小林 和良 R&Dセンター技術管理課・課長 稲見 美代子 R&Dセンター技術管理課 江藤 友哉 経理部経理課・主任 【事業実施機関】 調布電子工業株式会社 ①事業従事者 氏名 所属・役職 尾澤 潔夫 代表取締役社長 佐藤 博幸 取締役・技術課長 佐藤 健司 取締役・製造課長 公立大学法人奈良県立医科大学 ①事業従事者 氏名 所属・役職 細井 裕司 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座・教授 西村 忠己 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座・助教 下倉 良太 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座・助教 齋藤 修 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座・言語聴覚士 (4) 機械器具等管理 機械器具については、当該委託契約に係る研究開発にのみ使用し、他の目的での使用は一切行わない。 当該機械器具の管理については万全の体制を整備し、管理を実行する。

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1.3 成果概要 1.3.1 開発製品「耳かけ型軟骨伝導補聴器」 製品① 【訴求ポイント】 従来骨導補聴器か BAHA を使用するしかなかった難聴者に、ヘッドバンドも手術も不要な世界初の軟骨伝 導による小形の補聴器を提供する。中小企業のものづくり技術に支えられた新構造振動子を外耳道入口の耳軟 骨に装用して使用する本補聴器は、耳栓による耳閉感から補聴器を使用しなかった難聴者に対しても、耳を塞 がない、洗える、小形でデザインの良い補聴器を提供する。平成28 年 3 月上市予定。 製品名 耳かけ型軟骨伝導補聴器 一般的名称 耳かけ型補聴器 クラス分類 Ⅱ 許認可区分 認証 申請区分 改良 製造販売業者 リオン株式会社 製造業者 リオン株式会社 販売業者 リオン株式会社 その他(部材供給) 調布電子工業株式会社 上市計画 国内市場 海外市場(具体的に: ) 薬事申請時期 2015 年 10 月 年 月 上市時期 2016 年 3 月 年 月 軟骨伝導補聴器装用のイメージ図 (耳装着部は、振動子を内臓し、外 観デザインの良いものにする。) い)

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1.3.2 事業化計画 (1) 事業化に向けた現状ステータス (a) 機器の開発(実証)目標達成状況 軟骨伝導補聴器開発のための最大の技術的課題であった、衝撃に強い振動子の開発は目標を達成した。これ により振動子量産機開発に目途が付いた。バネ等の振動子部品の製作についても、要求仕様をほぼ満足する仕 上がりを達成し、振動子量産部品供給にも目途が付いた。振動子の組立に必要な、着磁装置、アーマチュア位 置調整装置及び振動子出力特性測定装置のうち、着磁装置は完成、アーマチュア位置調整装置試作は、改善点 はあるが、ほぼ完成、振動子出力特性測定装置は未完成だが装置構造の目途は付いた。今年度の振動子量産体 制についても目標をほぼ達成した。 軟骨伝導補聴器の臨床研究では、外耳道閉鎖症と耳漏のある慢性中耳炎の被験者10 名で実施し、軟骨伝導 補聴器の有効性と改善点等が得られ、目標をほぼ達成した。 (b) 薬事対応状況 軟骨伝導補聴器もその伝達経路から空気伝導式補聴器に分類されるので、薬事は認証申請でいけると判断し ていたが、来年度早期にPMDA に相談し、既存の認証基準に合致するかどうかを確認する計画である。 (c) 知財確保状況 今年度開発した振動子のバネ構造について、2件の特許を出願した。1件は外国出願を行った。 (d) その他(事業化体制等)の整備状況 軟骨伝導補聴器の製品化に向け、社内手続き及び社内体制を整備するため、準備しているところである。 (2) 市場性(想定購入顧客)の検討結果 (a) 医療現場でのニーズ 耳介奇形、小耳症、外耳道癌等で外耳道が閉塞する外耳道閉鎖症の患者は、気導補聴器では有効な聴力改善 が得られない。また、耳漏のある患者も、耳を塞ぐと耳漏が悪化するため気導補聴器を長時間使用することが できない。このような患者及び難聴者に対して、外耳道入口の耳軟骨部に音を振動で伝達する軟骨伝導方式が 有効であることが判った。この方式の補聴器は、増幅された音声を耳軟骨部に装着された振動子の振動に変換 し、振動子自体の振動によって外耳道内に発生する音と耳軟骨部に伝達された振動によって外耳道内に発生す る音の両方によって、音声を耳に伝達する。外耳道閉鎖耳の場合、音は伝わり難いが、耳軟骨の振動が外耳道 内の肉組織に伝わり、あぶみ骨を経由して内耳に効率よく伝わり、特に有効である。耳を塞がない軟骨伝導補 聴器は、快適な装用と明瞭な聞こえを提供でき、さらに手術からも解放させることができる。軟骨伝導補聴器 は、通常のイヤホンと違い音の出口が無いので、故障の大きな原因となる耳垢詰まりの心配が無く、汚れても 洗うことができる。軟骨伝導補聴器では、外耳道を塞がなくても中等度の難聴レベルまで対応できる音圧を出 力することができる。 (b) 現状における問題点 耳介奇形、小耳症、外耳道癌等で外耳道が閉塞する外耳道閉鎖症の患者は、気導補聴器では有効な聴力改善 が得られない。また、耳漏のある患者も、耳を塞ぐと耳漏が悪化するため気導補聴器を長時間使用することが

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込む BAHA は、当然ながら手術を要するなどの負担を患者に強いる。また、外耳道閉鎖症や耳漏などの疾患 を持った難聴者だけでなく、補聴器の耳栓による耳閉感から補聴器を使用しなかった難聴者が存在する。従来 のオープンフィッティングでは低音域の音圧が不足して対応できない難聴者がいる。 (c) 本機器の想定顧客および市場規模 ① 国内 補聴器の国内市場は年間約70 万台(日本補聴器工業会加盟メーカーの 2012 年出荷台数が約 50 万台、その 他のメーカーで約20 万台と推定)であり、そのほとんどが気導式(空気伝導式)の補聴器である。 補聴器による補聴が有効と思われる難聴者のうち、補聴器を所有している難聴者の率は、我が国では24.1% に過ぎず、医学的手術を要する人工内耳や骨固定型補聴器の選択肢はあるものの、潜在需要としての市場の大 きさは現在の3~4 倍の 250 万台程度と見込まれる。補聴器の普及率が低い要因には、装用により外耳道を密 閉することの不快感(密閉感、圧迫感、音のこもり感など)による装用の拒絶が挙げられる。また、外耳道閉 鎖症や耳漏により、気導式補聴器の装用ができない場合もある。 軟骨伝導補聴器は、振動子を耳軟骨に当てて音を伝えるため、一般的な気導式補聴器のように耳栓を利用す る必要がない。近年ではオープンフィッティング補聴器といって、耳栓に3mm 台の開口を設け、耳閉感を軽 減させる補聴器が注目を集めているが、開口部からの音の漏れにより低周波数域の音の増幅には適さない。一 方、軟骨伝導補聴器は、低周波数で振動する耳軟骨を利用するため、低周波数域の音の増幅が可能であり、外 耳道を開放したまま広い帯域の音の増幅を可能にしている。 また軟骨伝導は快適な装用を実現するだけでなく、特定疾患の聞こえを補助することができる。例えば耳介 奇形、小耳症、外耳道癌等で外耳道が閉塞する外耳道閉鎖症の患者は、気導補聴器の耳栓を挿入することがで きない。また耳漏のある患者も、耳漏が外耳道内に蓄積されるため耳栓を利用できない。そういった患者に対 して耳を塞がない軟骨伝導補聴器は有用であり、実際高い補聴効果が報告されている。 このように本機器の想定顧客は、外耳道閉鎖症や耳漏のある中耳炎の患者(推定約15 万人)と中等度レベ ルまでの難聴者が対象となる。したがって本機器の軟骨伝導補聴器の市場規模は、補聴器購入者全体の約40% と見込まれ、年間約30 万台 600 億円となる。 ② 海外 補聴器の世界市場は年間約1000 万台であり、国内と同様にこの 40%が本機器の対象市場とみなせば、年間 約400 万台 8000 億円が市場規模と見込むことができる。 1.4 当該事業の連絡窓口 リオン株式会社 R&D センター技術管理課 小林 和良 TEL: 042-359-7045 FAX: 042-359-7464 E-mail: kazuyosi@rion.co.jp

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2. 本編 2.1 衝撃に強い振動子の開発 2.1.1 振動子及びバネの構造による耐衝撃対策の策定 (1)新構造振動子について 通常のデジタル補聴器は、空気亜鉛電池1個で駆動し、消費電力は1 mW 程度である。軟骨伝導補聴器を実 現するためには、小形・高出力・低消費電力の振動子開発が不可欠であった。このためほとんどの補聴器用イ ヤホンの構造である、バランスト・アーマチュア・タイプの電磁型構造を採用して振動子を製作し、小形・高 出力・低消費電力は実現できたが、耐衝撃性に問題があった。 従来のバランスト・アーマチュア・タイプの電磁型変換器の構造(図2-1)は、アーマチュアが上下の磁石 の間のギャップ(空隙)を貫通し、2つの磁石からの磁気力がつり合う位置に置かれ、ヨークに固定される。 コイルに信号電流が流れると、上下の磁気力のバランスが崩れ振動する。電流が流れないときは、アーマチュ アはつり合いの位置に戻る。この復元力はアーマチュア自身の弾性によるものである。この構造では、衝撃を 受けたときにアーマチュアが塑性変形する。アーマチュアには磁性材料が使用され、磁気的特性が要求される ため、通常のバネ材料は使用できない。我々は、アーマチュアをヨークに直接固定しないで、バネを介して、 アーマチュアを位置決めし、アーマチュア自身の復元力ではなく、バネの復元力による新構造の振動子を2012 年に発明した(図2-2、特許申請中)。 (2)バネの構造による耐衝撃対策(案1) 以前に試作した新構造の振動子(図2-2 の構造)は、耐衝撃性にまだ十分でなかった。問題はバネをアーマ チュアとヨークに溶接固定した構造にあった。そこで今年度の第1案として、バネを溶接固定しない構造を検 討した。アーマチュアの左右それぞれに各2個のバネ(合計4 個)を使い、アーマチュアと上下のヨークとの 間にそれぞれバネを挟み込んで、アーマチュアを位置決めする構造である(図2-3)。この構造について特許出 願した。アーマチュアはギャップのほぼ中央に位置決めする必要があるが、この構造では左右それぞれで上下 のバネの反発力がつり合うようにアーマチュアは位置決めされる。 図2-1.従来のバランスト・アーマチュア型の構造 図2-2.新構造の振動子断面図 2-3.第1案の振動子バネ構造 2-4.上下のバネによるアーマチュアの位置決め l1, l2: バネ 1, 2 の自由長 s1, s2: バネ 1, 2 のスティフネ ス d: ギャップ長 Δx: アーマチュアの中心か らのずれ Δx = { (d-l1)*s1 + (l2-d)*s2 } / (s1+s2)

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内にするためには、バネを一定量押したときの反発力が±0.3 N 程度以内のバネを使用すれば良いとの結果が 得られた。この結果は、バネの反発力測定もアーマチュアの位置出しの組立も厳しいものではなく、容易な結 果であった。今回の試作では、バネの反発力の測定値による選別は0.1 N 毎に行い、その範囲同士のバネを上 下のバネに使用して組立てた。アーマチュア位置出しの組立結果は良好であった。 (3)バネの構造による耐衝撃対策(案2) バネ構造の第2案は、図2-5 のように、アーマチュアが上下のバ ネによって位置出しされるところは第1 案と同様であるが、バネは 上下2個で構成され、上下のバネと上下のヨークはそれぞれ中央部 で溶接固定される構造である。第1案のバネよりバネの長さ及び幅 を大きくすることにより、衝撃を受けたときのバネの溶接部に働く 応力を弾性範囲内に抑える構造である。この構造についても特許出 願した。 (4)落下衝撃解析の結果 第1案のバネ構造の振動子をモデル化して落下衝撃解析を行っ た(図2-6 参照)。x 方向の 70 cm から樫の板への自由落下の解析 結果から、衝突時にバネのアーマチュアとヨークとの係合部分の接 触具合が変化して応力が集中しないように動く様子が確認できた。 この解析の結果は、バネに働く応力が最大でもバネ材料の弾性範囲 内であった。z 方向についての落下衝撃解析も行ったが、衝撃加速 度が異常に大きく出ており、この解析条件は実際上は起こらない条 件を計算したと考えている。1つの計算に10 日程度かかることも あり、まだ十分な解析結果が得られていない。今後は、斜め方向の落下条件で解析を行う予定である。 2.1.2 振動子及び組立治工具の設計と部品の製作 バネの構造案2つについてそれぞれ振動子の設計を実施した。振動子の構造は、図 2-2 等でわかるように、 アーマチュアの両端がハウジングと固定され、アーマチュアとヨークはバネを介してつながっており、ヨーク にはコイルとマグネットが接着固定されている。コイルに信号電流が流れると、アーマチュアに対してヨーク 等の振動子ハウジング内の重い部分が振動する。この駆動力の反作用力がハウジングを通して出てくる。 このように振動子ハウジングの中ではバネを介してヨーク等の重い部分が浮いた構造になっている。このた め衝撃対策として、上記バネ構造以外に、ハウジングの内側とヨークとのクリアランスをそれぞれ第1案の振 動子iX66E の場合 0.2 mm、第2案の振動子 iX66F の場合 0.1 mm に設計した。 今年度設計・製作した2つの案の振動子の外形寸法、構造及び構成部品を表2-1 にまとめた。 図2-5.第2案の振動子バネ構造 図2-6.落下衝撃解析モデル

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表2-1 製作した2つの案の振動子の外形寸法、構造及び構成部品 第1案の振動子iX66E 外形寸法 第2案の振動子iX66F 外形寸法 No. 主な構成部品 個数 材料 個数 材料 1 マグネット 4 サマリウムコバルト磁石 4 サマリウムコバルト磁石 2 アーマチュア 1 PB パーマロイ 1 PB パーマロイ 3 ヨークA 2 PB パーマロイ 2 PB パーマロイ 4 ヨークB 4 PB パーマロイ 4 PB パーマロイ 5 バネ 4 SUS 304 のバネ材 2 SUS 304 のバネ材 6 コイル 1 自己融着線、導体径φ0.1 とφ0.15 の 2 種類 1 自己融着線、導体径φ0.1 とφ0.15 の 2 種類 7 ハウジングA 1 3D プリンタ造形材料 1 3D プリンタ造形材料 8 ハウジングB 1 3D プリンタ造形材料 1 3D プリンタ造形材料 2.1.3 振動子の性能評価 軟骨伝導補聴器の振動子出力を評価するために、一つは振動子の力出力の測定、もう一つは出力音圧の測定 を実施した。振動子の力出力の測定は、骨導補聴器の振動子出力を評価する場合に使われている、IEC 60373 に規定されたメカニカルカプラ(Bruel & Kjaer 社製人工マストイド 4930)を使用して測定する方法を採用し た(図2-8)。軟骨伝導補聴器の場合は、骨導補聴器の場合と異なり、振動子を乳突部ではなく外耳道入口の耳 軟骨部に装着して使用するので、人の乳突部の機械インピーダンスを模擬したメカニカルカプラで力を測定す ることは軟骨伝導補聴器の場合の力出力を正しく反映しているとは言えない。しかし他に適当な方法が無いの で、振動子の力出力はこの方法で測定することにした。 振動子出力音圧の測定は、振動子出力特性測定装置がまだ完成していないため、実耳に振動子を装着して測 定した(図2-9)。

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第1案の振動子(iX66E)の出力特性を以下に示す。図 2-10 は、0.1 V 入力時の力出力の周波数特性とその 時の全高調波ひずみの測定結果で、12 台の振動子の測定結果を重ねてプロットした結果である。現状の試作 ではこの程度のばらつきがあるが、組立が安定すればもっとばらつきは小さくなると考えられる。図2-11 は、 振動子のインピーダンスを小さくしたパワー版振動子(緑色のプロット)と比較した特性で、左図は0.1 V 入 力時の力出力の周波数特性、右図は振動子での消費電力が10 mW になる入力時の力出力の周波数特性(計算 値)である。0.1 V 入力時の特性ではパワー版が 10 dB 弱出力が大きいが、当然ながら、消費電力 10 mW の 特性ではほとんど差は無い。図2-12 は、0.03 V 入力時の振動子出力音圧の周波数特性(左図)と全高調波ひ ずみの周波数特性(右図)である。図中、緑色のプロットはパワー版振動子の特性である。 図2-10.0.1 V 入力時の振動子の力出力(左)と全高調波ひずみ(右)の周波数特性 0 dB:1μN 図2-11.パワー版振動子との力出力特性比較。左:0.1 V 入力時、右:10 mW 入力換算 0 dB:1μN 0 dB:1μN

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2.1.4 耐衝撃試験の実施・評価 製作した第1案の振動子(iX66E)5台を、補聴器の JIS(JIS C 5512 : 2000)の耐衝撃の規定通りに 70 cm の高さから樫の板の上に3回自由落下させ(実際は3回から9回の範囲で行った)、その前後で力出力の周波 数特性と全高調波ひずみを測定し、性能に変化ないかどうか試験を行った。その結果5台とも落下衝撃による と思われる性能の外れは無かった。3台についての結果を図2-12 に示す。1000 Hz 以下の低音域でのひずみ が落下前後で少し変化しているが、落下後の方が良くなる場合もある。この振動子の場合、バネが固定されて いないので、落下の衝撃によってバネの位置が若干ずれ、その影響がひずみの変化に現れたと考えられる。ま た人工マストイドによるひずみ測定のばらつきも20 %程度出る場合もある。したがってこの程度のひずみの 変化は問題ないと判断する(落下の繰り返しによって、ひずみがどんどん悪化する傾向は無い)。 第2案の振動子(iX66F)3台についても同様の落下衝撃試験を実施した結果、第1案の振動子同様に性能 への影響は無かった。ひずみについては、第1案は若干の変化が見られたが、第2案の方ではほとんど変化が 無かった。第2案の振動子のバネはヨークに溶接されているため、衝撃によるバネのずれの影響がないせいで はないかと推測される。 図2-12.0.03 V 入力時の振動子の出力音圧(左)と全高調波ひずみ(右)の周波数特性 0 dB:20μPa

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2.1.5 まとめ 衝撃に強い振動子の開発を目標に、バネ構造の異なる2つの案の振動子を設計・製作した。どちらの振動子 も、耐衝撃の目標を達成した。 どちらの振動子の構造も、上下のバネによって自動的にアーマチュアの位置が決まる構造であるが、試作で はバネを選別した結果、アーマチュアの位置決めは良好だった。バネの選別も厳しすぎることは無く、容易に 選別可能な条件であった。どちらの構造もアーマチュアの位置出しに関して良い構造であることが判った。

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2.2 振動子の量産体制確立 2.2.1 振動子試作部品の金型製作及び試作部品製作 2つの案の振動子は、衝撃を受けた際にどちらもバネに大きな応力が働くため、衝撃に強い振動子の開発は バネの製作にも大きく依存している。図3-1 は振動子第1案の バネ図面(板厚0.1)である。バネの寸法が精度良くできない と、振動子のアーマチュア位置が中心から大きくずれて組立て られ、振動子の歩留りを悪くする。このため精度の良いバネの 製作は振動子の量産体制を確立する上で重要である。 振動子を構成するヨーク等の他の部品も平面度や寸法精度 の要求が厳しい。これらの振動子部品の製作は、調布電子工業 (株)が担当した。同社は、従来より補聴器用イヤホン、マイ クロホン等の非常に小さい部品の金型製作を行ってきており、 培ってきた金型製作技術と経験が豊富である。さらに今回高精 度マシニングセンタ(Sodick 製ハイスピードミーリングセン タHS430L)を導入したことにより、振動子部品の高精度な金 型製作が可能になり、金型の微調整も短時間で対応できるよう になった 1例として、図3-1 のバネの製作について説明する。材料は で き る 限 り 耐 力 の 大 き い 材 料 を 使 用 し た か っ た た め 、 C1990EH 材(JX 日鉱日石金属)と NH15M 材(ナス鋼板) を試したが、スプリングバッグが強く、0.7 の寸法が大きくなり過ぎ、製品とすることができなかった。バネ 材としては少し劣るが、SUS304-CSP-H 材(ナス鋼板)を使用した。このバネの場合、1.36 の寸法での R 形 状と隙間0.7 の寸法を出すことが重要であり、このため試作金型を何回も製作した。導入したマシニングセン タが大きく貢献した。特に20000~40000 回転での点切削のビビりを抑えることができる日進工具(株)のエ ンドミルを使用して、R 形状のパンチとダイを作製し、製品として製作することができた。 図3-2 は製作した第1案の振動子のバネ、図 3-3 は第2案の振動子のバネの写真である。 2.2.2 着磁装置の製作 今回の振動子は、図2-2 のようにマグネットが 4 個あり、左右にそれぞれ 2 個ずつ置かれ、左右で逆向きに 磁化させる必要がある。左右の間隔は約4 mm 程度で、この間隔で逆向きの着磁磁場を発生させる必要がある。 図3-1.振動子第1案のバネ図面 図3-2.振動子第1案のバネ 図3-3.振動子第2案のバネ

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ンサ容量600μF の仕様で、着磁電流の流れる時間を短くすることで電線等での発熱を抑えた特徴がある。着 磁コイルは、ヨークを使用し、2回巻のコイルを上下左右に配置した構造である。図3-4 に製作した着磁装置 の写真を示す。 2.2.3 アーマチュア位置調整装置の試作 開発した新構造振動子のアーマチュアには上下のマグネットからギャップを通して磁気吸引力が働くが、コ イルに電流が流れていないときにこれらの磁気力が左右それぞれでつり合うように調整しなければならない (図3-5 参照)。ギャップ内でのアーマチュアの位置は、つり合い の位置に対して1000 分の数㎜程度の範囲内に調整する必要がある。 このためのアーマチュア位置調整装置を製作する。 マグネット着磁後、アーマチュアの位置が上下どちら側に偏って いるかを検出する方法と振動の感度を検出する方法を策定した。こ れらの検出信号を取り出し、アーマチュアの偏りが無く、振動感度 が適当な範囲に入るように調整するためのアルゴリズムを開発し、 アーマチュア位置調整装置を開発し、試作した。 2.2.4 振動子出力特性測定装置の製作 (1)目的 耳軟骨部に振動子を装着して使用する軟骨伝導補聴器は、骨導ではなく、ほとんど気導経路で音声が伝達さ れる。したがってその振動子の出力を評価するためには、適当な方法で音圧を測定し評価する必要がある。耳 の後ろの乳突部に振動子を押し当てて使用する骨導補聴器の力出力を評価する方法は、IEC 60373 に規定され ており、メカニカルカプラ(Bruel & Kjaer 社製人工マストイド 4930)を使用して測定する。振動子の力出力 は一応この方法で測定することができるが、軟骨伝導補聴器の場合、骨導経路で伝わる成分は気導成分と比較 して無視できるくらい小さい。軟骨伝導用振動子の出力評価のために気導音出力の測定方法を確立する必要が ある。 振動子の出力特性は、その保持方法(振動子から見た保持側の機械インピーダンス)の影響を受ける、また 外耳道が閉鎖している場合とそうで無い場合でも大きく異なる。振動子保持方法及び外耳道閉鎖の場合とそう 着磁電源 ここに 振動子 を置く 着磁 ヨーク 着磁ヨーク部 図3-4.着磁装置 図3-5.振動子断面図 マグネット アーマチュア ヨーク バネ コイル ハウジング

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で無い場合を模擬する方法を策定し、振動子出力特性装置を製作する。 振動子を人の耳軟骨部に装着した場合を模擬することを目的に、人の耳軟骨部の機械インピーダンスの測定 を行った。 (2)耳軟骨部の機械インピーダンス測定 機械インピーダンスの測定は、インピーダンスヘッド(B&K 社製 8000)とシェーカー(B&K 社製 4810) を使用して行った。シェーカーにインピーダンスヘッドを固定し、シェーカーを振動させ、インピーダンスヘ ッド先端に作用した力と振動加速度を測定して、インピーダンスヘッド先端から見た機械インピーダンスを測 定する。耳軟骨部の機械インピーダンスを測定するために、被験者の耳型を採り、インピーダンスヘッド先端 に固定するアタッチメントを用意して、それに耳型を固定し(図3-9)、シェーカーに固定されたインピーダン スヘッドを耳軟骨部に押し当てて、機械インピーダンスを測定した(図3-10)。耳型は、図 3-9 のように耳あ なタイプのカナルサイズと耳甲介腔まであるフルサイズを用意した。 耳軟骨部を押す力をコントロールするため、図 3-11 のようにシェーカーをバネを通してフォースゲージで 吊り下げて、測定を行った。 図3-9.アタッチメントに取付けた耳型 図3-10.耳軟骨の機械インピーダンス測定風景 カナルサイズ フルサイズ フォースゲージ バネ インピーダンスヘッド シェーカー アタッチメント 図3-11.耳軟骨の機械インピーダンス測定の外観

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(3)耳軟骨部機械インピーダンスの測定結果 成人男性3 名 3 耳のカナルサイズ耳型から見た機械インピーダンス測定結果を図 3-15 に示す。右は 3 名の 機械インピーダンスの大きさの平均値、左は位相の平均値である。誤差範囲は標準偏差である。それぞれ押し 当て力が約0 N の場合と約 1 N の場合がプロットされている。 図3-16 に、男性 2 名 2 耳のフルサイズ耳型から見た機械インピーダンス測定結果を示す。右は 2 名の機械 インピーダンスの大きさの平均値、左は位相の平均値である。以下上記と同様である。 シェーカー インピーダンスヘッド アタッチメント 被測定対象物 FFT R9211B Charge Amp-A Charge Amp-B 4810 8000 Zx 𝑎 𝜔 𝐹 𝜔 𝑉𝑎 𝜔 𝑉𝑏 𝜔 𝑉𝑖𝑛 B-ch A-ch OSC 図3-12.機械インピーダンス測定のブロック図 図3-15.カナルサイズ耳型から見た耳軟骨部の機械インピーダンス(左:大きさ、右:位相) 図3-16.フルサイズ耳型から見た耳軟骨部の機械インピーダンス(左:大きさ、右:位相)

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(4)耳軟骨部機械インピーダンス模擬の試み いくつかの弾性素材と形状について、機械インピーダンスを測定し、耳軟骨部に近い機械インピーダンスを 模擬することができないか、試した。材料と形状を工夫した結果、図 3-17 に示すように、耳軟骨部の機械イ ンピーダンスにかなり近い機械インピーダンスを持ったものができた。図ではこれを模擬軟骨と表示した。今 後はこれをベースに振動子出力特性測定装置を製作していく。 (5)まとめ 今年度の目標として、振動子出力特性測定装置を製作する予定であったが、耳軟骨部の機械インピーダンス に近い機械インピーダンスを持った振動子保持部の検討に予想以上に時間がかかり、装置を完成させることが できなかった。しかし現在、上述した模擬軟骨の形状・素材をベースに振動子保持部の設計に目途が付いたの で、これと擬似耳を組合わせて、振動子出力特性測定装置を早期に完成させる予定である。 図3-17.模擬軟骨と耳軟骨部の機械インピーダンス比較(左:大きさ、右:位相)

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2.3 軟骨伝導補聴器の臨床研究 2.3.1 被験者 外耳道閉鎖症または耳漏のある慢性中耳炎を経験する10 名(年齢 11 歳から 77 歳)の被験者に対して臨床 研究を行った。 2.2.2 補聴器評価 軟骨伝導振動子を用いた軟骨伝導の聴力測定、軟骨伝導補聴器のフィッティングを行い、補聴効果を確認し た。 軟骨伝導補聴器の装用閾値は、どの被験者も裸耳聴力よりも概ね10dB 以上改善しており、補聴器として機 能していることが分かった。気導補聴器とは同等、骨導補聴器とは低音において勝っている。BAHA との比較 においては、低音で軟骨伝導が有利に働くものの、高音ではBAHA による聴力が高かった。 語音明瞭度測定においては、多くの被験者で最良明瞭度が100%に近い値に達しており、軟骨伝導補聴器に おいても十分に言葉の聞き取りが可能であることを示せた。気導補聴器と比べてもそのパフォーマンスは遜色 がない。他の補聴器と比較すると、その評価が分かれ、今後も比較を行っていく必要がある。 「補聴器の聞こえの質問紙」における日常使用評価は、多くの被験者で高い評価を得た。特に軟性外耳道閉鎖 症の被験者は、聞こえ、満足度において評価が高い。一方、快適性、日常性は補聴器に馴染むのに要する時間 や、ハウリングなどによって評価が分かれた。 2.3.2 今後の課題 純音聴力検査において、軟骨伝導呈示では矩形の振動子をそのまま被験者に外耳道入口部にかけている。し かしこれでは十分に軟骨を励振することができず、軟骨伝導そのものの評価に繋がらない可能性がある。実際、 純音聴力検査で得られた聴力型を補聴器 DSP に入力しても、微調整では済まない大きな改善を余儀なくされ る。そのため今後は、軟骨伝導を十分に誘発できる検査用振動子の開発が必要になると考える。いくつかのア タッチメントを用意し、被験者の外耳道入口部の大きさに合わせて装用具を取り替える方策などが考えられる。 一方で、今後はイヤプラグの形状、またイヤプラグと外耳道との隙間の補完方法についても検討する余地が ある。 最終的な語音明瞭度については、軟骨伝導補聴器において高いパフォーマンスを示せたものの、骨導補聴器 や BAHA と比較すると、幾分劣る傾向が見られた。その要因は、高音域の出力不足と考える。1000Hz 以上の 周波数帯域は子音弁別において重要である。今後は軟骨伝導振動子の高音域出力強化を図り、さらなる語音明 瞭度向上を目指す。 また質問紙の結果から、聞こえについてはある一定の満足感を与えているものの、快適性、日常性に関して はまだ多くの改良の余地を残している。ハウリングの軽減や、手間の掛からないイヤプラグの挿入方法など今 後検討していく必要がある。

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3. 全体総括 事業化に向けて最大の技術的課題であった衝撃に強い振動子の開発を当初予定より短期間で達成できた。策 定した2つのバネ構造の振動子のどちらも目標を達成した。従来の振動子よりおおよそ1桁程度衝撃に強い振 動子を開発することができた。アーマチュアが上下のバネで自動的に位置決めされる構造は、意外にも従来の アーマチュア位置出し方法より、簡単で確実な方法であることが判った。 曲げ加工精度の厳しいバネを製作できるようになったことは、今後部品設計にも反映され、良い製品へ発展 する可能性がある。 軟骨伝導補聴器の臨床研究から、軟骨伝導特有の異音等の現象が現われており、これに対応する必要がある。 いくつか計画を達成できなかったものはあるが、達成内容としては計画をほぼ消化することができた。

表 2-1  製作した2つの案の振動子の外形寸法、構造及び構成部品  第1案の振動子 iX66E  外形寸法  第2案の振動子 iX66F 外形寸法  No.  主な構成部品  個数  材料  個数  材料  1  マグネット  4  サマリウムコバルト磁石  4  サマリウムコバルト磁石  2  アーマチュア 1  PB パーマロイ 1  PB パーマロイ 3  ヨーク A  2  PB パーマロイ  2  PB パーマロイ  4  ヨーク B  4  PB パーマロイ  4  PB パーマロイ  5

参照

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