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パナマ運河拡張とニカラグア大運河計画

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1 2014年9月18日 調査部 伊原 賢

パナマ運河拡張とニカラグア大運河計画

8月15日パナマ 運河開通100周 年 パナマ運河拡張 2015年末完工予 定(通航期間短 縮、輸送費圧縮) ニカラグア大運 河やスエズ運河 増設との競合 米国から日本へのLNG輸出計画(2014年8月) パナマ運河の拡張により大型船の通航が可能となった際には、LNGのみならず 米国メキシコ湾や中南米からの原油や石油製品の流入も期待され、アジアのエ

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パナマ運河:通航路 ①

パナマ地峡を掘削し大西洋と 太平洋を結ぶ77kmの運河。通 航には10時間(日中)、待ち時 間を含めると24時間。 2本の通航路からなり、大西洋 側からガトゥン、ペドロ・ミゲル、 ミラフローレスという3つの閘門 (こうもん、ロック)。閘門とは、 入口と出口にゲートが設けら れた長さ304.8m、幅33.53mの 大型のプール。 ガトゥン湖はカリブ海に注ぐ チャグレス川をせき止めて造ら れた世界最大級の人工湖。 出所:パナマ運河庁

パナマ運河:通航路 ②

現在通航できる最大の船の大きさは「パナマックス」サイズ(幅32m、 全長294 m、喫水12m)と呼ばれ、航行する船舶の国際基準の一つ。 運河の利用国として日本は、米国、中国、チリに続く第4位である (米国1億4357万ロング(英)トン、中国5272万ロングトン、チリ2805 万ロングトン、日本2238万ロングトン【1ロングトン=1.016メトリックト ン】発地と着地でカウントした量なので合計は実際の通航貨物量の 2倍:2013年パナマ運河庁調べ)。 重量ベースで世界の海上輸送貨物の4%がパナマ運河を経由。 累計の通航船舶数は2010年9月に100万隻(約90億ロングトン)を突 破。パナマ運河を通る海路は144、発着地は160ヶ国、1700港に上る。 通航関連業務に約1万人が従事。

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パナマ運河:通航量 ①

2013年度(2012年10月1日~2013年9月30日)の船舶通航 量は、船舶純トンベース(船舶の全容積から貨物・旅客の 積載に利用できない部分の容積を減じた値、1トン=100立 方フィート)で3億2060万PC/UMS (The Panama Canal / Universal Measurement System)トン。

運河の持続可能な最大通航量は3億4000万PC/UMSトン であり、現状フル稼働。 年間通航船舶数は1万3660隻と前年比6.08%の減少。「パ ナマックス」サイズの船は7035隻と2012年度の7241隻から 2.8%減少し、外洋船の58.4%。

パナマ運河:通航量 ②

通航料収入は18億4970万ドル、通航支援サービス

等を含む海事事業収入は24億1130万ドル。

パナマ国庫への歳入は9億8180万ドル。パナマ経

済はパナマ運河通航に係る輸出額(コロン・フリー

ゾーン、いわゆる免税地帯からの再輸出を含む)に

相関しており、過去10年間の輸出額の伸びが年

10.8%に対して、経済成長率は年9.2%。輸出額は

2012年度ベースで277.9億ドルとパナマのGDP

(362.5億ドル)の77%に相当。

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パナマ運河:通航量 ③

船種別ではコンテナ船、ドライバルク船(撒積船)、

タンカーの順。

1日に通航可能な船舶数は40隻程度であることか

ら、多くが太平洋側、大西洋側で1日以上の待機を

余儀なくされる(運河拡張後は55隻程度に拡大予

定)。

顧客満足度は98.7%で、2012年度は96%。

パナマ運河:通航量 ④

運河を経由する航路は、アジア~米国東岸を結ぶ

航路が、通航船舶トン数、輸送トン数ともに第1位で

39%のシェア。また、太平洋向け(西回り)の70%

強、大西洋向け(東回り)の60%が利用。

但し、同じアジア地域でもパナマ運河の利用によっ

て航路を短縮し、航海日数、消費燃料を削減できる

国は限られる(日本、中国、オーストラリア)。シンガ

ポールやインドでは、パナマ運河はむしろ遠回りに

なる。パナマ運河ルートのスエズ運河ルートとの境

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パナマ運河:拡張工事 ①

パナマ運河は通航量の増大と船舶の大型化という2つの課 題に直面。2013年度の通航量は、運河の処理能力の許容 上限3億4000万PC/UMSトンに近い水準で、更なる通航需 要の増加に対応できない状況。 通航量の35.9%を占めるコンテナ船を見ると、最大 4500TEUの「パナマックス」サイズを超える積載能力1万 TEU以上のオーバー・パナマックスと呼ばれる大型船が多 数建造。国際海上輸送におけるパナマ運河の相対的地位 の低下を危惧したパナマ政府は、2006年10月に国民投票 による賛成を受け、2007年9月に運河の拡張工事に着手。

パナマ運河:拡張工事 ②

総事業費52億 5000万ドル ①太平洋側と 大西洋側に新 閘門建設、② 既存水路と新 閘門のアクセ ス水路新設、 ③消費水量の 調節水槽、④ ガトゥン湖の 水位引き上げ、 ⑤水路拡幅と 水深増大ほか。

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パナマ運河:拡張工事 ③

運河の太平洋側出口に近いパナマ市ミラフローレス地区は、 大型クレーンが立ち並び、ブルドーザーやフォークリフトなど の重機が行き交う運河の拡張工事の現場 出所:パナマ運河庁

パナマ運河:拡張工事 ④

拡張工事が2015年末に完工すると、6.2kmの北水路により新閘門は、 ミラフローレス湖を回避してゲイラード水路に連絡。 1.8kmの南水路は新閘門と太平洋側の既存の運河入口をつなぐ

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パナマ運河:拡張工事 ⑤

幅49m(現在32 m)、全長366m (現在294m)、喫 水15m(現在 12m)の「ポスト・ パナマックス」サ イズ。 LNG船(標準船、 船幅最大49 m) やLPG船(VLGC) が通航可。喜望 峰ルート(45日) から20日間短縮。 出所:パナマ運河庁

拡張後のパナマ運河の通航量見込み

パナマ運河庁の計画では、2025年の運河通航量は現在の 1.5倍となる5億1000万PC/UMSトンに、通航料収入は現在 の3倍のレベルとなる61億ドルに増加することを見込む。 前提として、毎年平均3.5%の割合で通航料の値上げを行 うとしているが、これは20年間で通航料金が約2倍になる計 算。 計画通りに値上げが実施された場合には相対的にパナマ 運河のコスト競争力が下がってスエズ運河経由での海上 輸送が促進される可能性あり。

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ニカラグアの大運河計画 ①

2019年の完成を目指し、全長約280kmの新運河の建設を中国系企業(香港ニカ ラグア運河開発投資公司HK Nicaragua Canal Development Investment Co Ltd: HKND-Group)に発注。完成すれば、パナマ運河のライバル。 2014年7月7日、ニカラグア国会は、運河ルート(①Punta Gorda川のカリブ海側 Bluefields湾の河口と、②Brito川の太平洋側河口を、中米最大の淡水湖Lake Nicaraguaを挟んで結ぶ)を可決・承認。

ニカラグアの大運河計画 ②

2013年6月13日、HKND-Groupは、ニカラグア政府より、① 設計、②開発、③エンジニアリング、④ファイナンス、⑤建 設、⑥所有、⑦操業、⑧メンテナンス、⑨管理に関する50 年間リース(期間更新可能)の利権を付与。 HKND-GroupのCEOは、携帯電話等の情報通信企業 Xinwei Telecom Enterprise Groupを経営する弁護士の富 豪Wang(王)Jing氏(41歳)。HKND-Groupがニカラグア運河 計画への参画を表明した直後、Xinweiがニカラグアにおけ る情報通信のフルサービス事業に関する利権を獲得。

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ニカラグアの大運河計画 ③

サントス・コロンビア大統領は、ニカラグア運河計画を大言 壮語と評する。シンクタンク米州協議会(COA)のEric Farnsworth副社長は、中米には既にパナマ運河が操業し ており、建設費用は膨大な額に上り、プロジェクトの完成は 全く保証されない、と極めて懐疑的な見方。 去る5月15日に米州開発銀行アジア事務所が日本記者ク ラブで開催したセミナー「中米地峡地帯に第二の運河を- ニカラグアの挑戦-」に参加。通行船舶のサイズが大きく、 夢をいだかせる計画だが、プロジェクトの完成に必要な情 報に不明点が多いとの印象。

スエズ運河の増設

エジプト政府は今年8月5日、スエズ運河の拡張を発表。既存の運河 と並行して新たな運河を40億ドルかけて建設し通航可能な船舶数を 増やす計画。 スエズ運河は現在でも船幅77m、喫水19mまでの船舶の受け入れが 可能。 アジア-米国東岸間航路のスエズ運河とパナマ運河の将来のコスト 比較では、新パナマックス型船(13000TEU)とスエズマックス型船 (14000~15000TEU)について比較するのが適切。 船舶最大許容サイズの差とスエズ運河拡張により、スエズ運河の経 済性が向上する可能性がある。

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アジア石油市場への影響

国際エネルギー機関IEAによると、アジア・太平洋域の石油需要は 2013年以降2018年にかけて340万バレル/日の増加が見込まれて いる。我が国の石油産業は、国内需要の減少が続くなか、このアジ ア・太平洋域の石油需要の伸びを自らの成長戦略に取り入れてい く必要があろう。但し、域内では需要の増加を上回る精製処理能力 の増強が進められており、精製能力が余剰に向かうことから、輸出 環境に厳しい状況は続くだろう。 例えば、最も競合する韓国の製油所は15万DWTのタンカーでの出 荷が可能な桟橋を有し、製品輸出の柔軟性が高い。一方、我が国 の製油所の桟橋には、5万~10万DWTのタンカーまでに出荷制限 がかかる。米国からは、シェール革命による精製コストの低減を背 景に、パナマ運河拡張後は米国からの大型タンカーによるアジア 石油製品市場への参入も予想される。

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