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(1)

英語を第

2 言語として学習する際のエラーについて

∼一般的な傾向と日本人学習者の冠詞エラー∼

外国語学部英語学科

4 年

国際コミュニケーションコース 135番

学籍番号

97128278

鈴木智子

(2)

謝辞

この論文を書くにあたり、構成の仕方から参考文献の表記に至るまで様々な点におい てアドバイスをしてくださった演習担当指導教授の府川謹也先生、また、有効な参考文 献を紹介してくださった獨協大学教授の阿部一先生に深くお礼申し上げます。 2001年1月19日 鈴木智子

(3)

目次

謝辞 ……… ⅰ

目次 ……… ⅱ

0.序章 ………

1.発話における誤りの分類 ………

2.日本語と英語の言語的特徴 ………

3.日本語を母国語とする英語学習者が産出したエラーの例 ……

4.文献研究 ………

3

4.1 Richards and Sampson (1974) ……… 3

4.1.1 母国語の転移 (language transfer) ……… 3 4.1.2 言語内干渉(Intralingual interference)……… 4 4.2 Richards(1971)………4 4.2.1 Overgeneralization ……… 5 4.2.2 規則制限の無視 ……… 5 4.3 水野(2000) ……… 6 4.3.1 冠詞エラーの分類 ……… 6 4.3.2 共起エラーと語順エラー ……… 7 4.3.3 忘却エラー ……… 8 4.3.4 濫用エラー ……… 9 4.3.5 誤用エラー ……… 10

5.文献研究を踏まえての考察とまとめ ………

1 0

6.その他のエラーと今後の研究課題 ………

11

参考文献一覧 ……… 14

(4)

0.序論

昨年1年間、私は留学先のエセックス大学で心理言語学を専攻していた。1年間の講義 で心理言語学の概要を学び、年に2度のレポート作成時には特に第二言語習得における学 習者のエラー分析というテーマを取り上げた。その際、成人が第2言語を習得する上でど のような種類のエラーを犯し、どのような原因が考えられるのかという点を考察したが十 分満足のゆくものではなかった。したがって、今回の論文は同じテーマの中から、特に日 本語を母国語とする英語学習者が犯す冠詞のエラーに焦点を当ててみたいと思う。人が自 分の母国語ではない言語を習得しようとするときには、様々なエラーが観察される。論文 の前半では、発話上の誤りの分類を行い、一般に観察される第二言語習得過程におけるエ ラーの傾向について考察したい。私は先ほど述べたイギリス留学先でのレポート作成の際 に、日本語を母国語とする英語学習者に協力してもらい、ごく普通の会話を記録し、その 中でどのような種類のエラーが犯されたかを観察した。論文の前半部分に続く点として、 その中で認められたいくつかのエラーの中から特に冠詞エラーに着目し、そのエラーを発 端として、一般に観察されるそのほかの種類の冠詞エラーについても考察したいと思う。

1.発話における誤りの分類

私たちは発話に際して多くの誤りを産出する。たとえば、日本語を母国語とする日本人 であっても、日常生活を送る上で多くの発話ミスを犯す。度忘れして単語が口から出てこ ない場合やどもり、あるいは発話途中で二つの単語が混合され、実際には存在しない単語 が産出されたりする場合がある。これらとは異なり、母国語以外の言語を習得しようとす る際に犯される発話上の誤りがある。Corder(1967)はこれらの誤りを、言語学習者が言 語習得の発達段階におり、目標言語のルールに関する十分な知識を持ち合わせていないゆ えに起こる言語の組織的なずれ、あるいは逸脱とし、先に述べたような発話上の誤りとは 区別した。これから、この論文で考察していくエラーは後者の方である。さらに、言語学 習者が産出するエラーに関して、Snow(1998)は発達段階におけるエラー( Developmental error)と母国語の干渉によるエラー(Interference error)に次のような区別を与えている。 すなわち、発達段階におけるエラーとは、目標言語の持つ言語的な特徴に起因するエラー であり、母国語の干渉によるエラーとは、言語学習者が目標言語で言語活動を行う際に、 自らの母国語の影響を強く受けた結果起こるエラーである。

2.日本語と英語の言語的特徴

(5)

日本語を母国語とする英語学習者のエラーを考察するにあたり、両言語がどのような言 語的特徴を持ち、両言語間にどのような差違が認められるのかを検討したい。まず、日本 語は SOV という語順をとる言語であり、SVO の語順を基本とする英語とは語順の点で大 きく異なっている。

(1) a: 私はあなたを愛している。 a’: I love you.

さらに日本語は後置詞を持つ言語であるのに対して、英語は前置詞を持つ言語である。 (2) a: 私は友人の家に行った。

a’: I went to my friend’s house.

加えて、日本語における言語活動では語順の制約が弱く、例えば、目的語と主語の位置を 交換したとしても、作られる2つの文の意味には大きな差が生じない。さらなる点として、 日本語では主語の省略もしばしば観察される。一方、英語は統語的制約が強い言語であり、 それゆえに語順は日本語と比較してはるかに固定されており、主語の省略もくだけた言語 表現内で行われる以外にあまり観察されない。 (3) a: この美しい花は高くなかった。(水野 2000:60) a’: This beautiful flower was not expensive. (ibid.) b : 美しいこの花は高くなかった。(ibid.)

b’: *Beautiful this flower was not expensive.(ibid.) (4) a: 昨日それについて話し合った。

a’: *Discussed it yesterday.

さらに、この論文で焦点を当てていく冠詞に関して述べるならば、日本語には英語という 言語が持つ冠詞に相当するものは存在しない。

(5) a: これは 本です。 a’: This is a book.

3.日本語を母国語とする英語学習者が産出したエラーの例

レポート作成の活動の一環として、イギリス留学中に日本語を母国語とする英語学習者1 1 日本語を母国語とする22歳の女性である。会話記録当時、日本の大学の4年次、交換留 学制度を利用し、イギリスにあるエセックス大学で国際政治を専攻していた。英語の学習 を始めたのは13歳で、会話記録当時で約9年の学習暦を持つ。日本での義務教育による 英語学習のため、読み書き、文法が中心で、聞く・話すの訓練はあまり受けていない。イ

(6)

の英語による会話を録音した。その記録から文法的に誤っていると思われるいくつかの文2

をここに示したい。

(6): * I thought you will never tell me……

(7): *I don’t know what should I do.

(8): *She don’t want……

(9): *She tried to find _ job in _ United States.

(10): *She had _ argument with her parents.

上に挙げた5つのエラーのうち、(6)は時制の一致に関するエラーである。(7)では語 順のエラーが認められる。続く(8)は三人称単数が主語にくる現在形の文では述部の変 化が求められるという英語の規則が守られていないケースである。(9)と(10)で見られ るエラーは、本来入るべきところで冠詞が欠落しているというパターンである。これらの エラーのうち、この論文では特に(9)、あるいは(10)で見られたような冠詞に関わるエラ ーに着目し、考察を進めていきたいと思う。

4.文献研究

4 章の前半では、英語を第 2 言語として習得しようとする際に見られるエラーの一般的な ものについて取り上げ、後半では特に冠詞のエラーについて細かく研究された文献を取り 上げたい。

4.1 Richards and Sampson (1974)

Richards と Sampson(1974)は第2言語習得に影響を及ぼすと思われる7つの要素について 述べている。その中から、これから分析するエラーとのかかわりの深い 2 項目について扱 う。 4.1.1 母国語の転移(language transfer) ギリスでの留学生活は8ヶ月目を向かえていた。 2 日常の話し言葉や黒人英語では、ここで文法的な誤りとして挙げた文のいくつかが実際に 使われているという事実がある。しかし、ここで行われた会話の記録は英語を母国語とし ない英語学習者にはくだけた英語や黒人英語を使っているという認識・意識はない。した がって、上に挙げた文は英語を母国語としない英語学習者が自然に会話している中で無意 識のうちに犯してしまったエラーとして取り上げたい。

(7)

どんな言語にせよ、第 2 言語を学習するときに深く関わってくるのが母国語がもたらす影 響である。Richards と Sampson(1974:5)は、母国語からの転移だけが目標言語習得 に際しての原因にはなり得ないが、主要な要因のひとつであることを認めている。母国語 の転移は様々な形で現れる。例えば、学習者があることを目標言語で表現したいとする。 しかし、その学習者はそれを目標言語でどのように言うのかわからない、というような場 合、自分の母国語と対応すると思われる単語をつなぎ合わせて目標言語で表してしまうと いうことがある。池上(1991)は次のような例を報告している。 (11) *draw a dictionary (池上1991.1) これは、日本語の「辞書を引く」をそのまま英語に置き換えたために生じたエラーである。 池上(1991)は、日本の高校生の多くが大学入学試験において日本語の干渉を強く受 けている(11)のような回答を出したということを観察した。さらに、母国語の転移は 語順や時制など統語的な分野のも現れたりする。この後考察する冠詞のエラーのいくつか はその例である。それに加えて、発音の面にも母国語の転移は観察される。例えば、一般 的に日本人の英語学習者にとって英語のlとrの音の区別は困難であるといわれている。 次の例は私が留学していたときにある日本人が産出した印象に残るエラーである。

(12)?We eat lice for breakfast.

この文を産出した日本人は We eat rice for breakfast.と言っているつもりだったのだが、日本 語ではlとrは別の種類の音として認識されないため、おかしな意味の文を発してしまっ たのである。このように、母国語にないものが目標言語に存在していて、それをうまく使 用できないような場合も、ある種の母国語の干渉を受けているといえる。 4.1.2 言語内干渉(Intralingual interference) 言語内干渉とは、学習者の母国語の影響ではなく、すでに学んだ目標言語の知識が原因 となって生み出されるエラーのことである。つまり、言語学習者はその学習が新しい段階 に進んだとき、すでに習得された目標言語の規則に基づいて誤った仮説をたててしまうの である。その結果、その学習者の母国語にも目標言語にも存在しない言語の型がエラーと して産出されるのである。Richards(1971)は言語学習者がその発達段階において犯す、この 言語内干渉に起因する誤りをいくつかのグループに分類している。それについては4.2 で Richards(1971)として詳しく扱う。

(8)

4.2 Richards (1971)

4.1.2で述べたように、Richards は発達段階における言語内エラー(Intralingual and developmental error)について、4つのタイプとその具体例、考えられる要因を示した。その うち、3 章であげたエラーの要因と考えられるものについて特に取り上げたい。 4.2.1 Over-generalization Overgeneralization とは目標言語が持っているある統語的構造に基づいて、同じ言語内の別 の規則から逸脱した統語的構造を作り出すということである。つまり、少なくともある程 度の目標言語の学習が進んだ段階において、以前に学んだ言語上の規則を新たな状況に当 てはめてしまったり、あるいは新たな規則を学んだ後で、その規則を以前に学んだ構文で 使用してしまったりすることである。次の文はその例である。

(13): *He can sings. (Richards 1971:174)

(14): *She cannot goes. (Richards 1971:183)

これらのエラーを産出した学習者は、三人称単数が主語になる文で、時制が現在の場合、 動詞に-s あるいは-es がつくというルールをすでに知っていると思われる。しかしその統語 的ルールを助動詞 can を使った文においても使用しており、Overgeneralization が起こってい ることがわかる。これは、三人称単数現在の文において動詞に s、あるいは es をつけなけれ ばならない、という規則の過剰訂正、つまり、正用法を意識しすぎてかえって誤った言語 形式を用いてしまうケースである。

(15): *He always talk a lot. (Richards 1971:183)

(16): *He come from India. (ibid.)

これらのエラーも Overgeneralization の例であるが、(13)や(14)とは対照的に、必要箇所で三 人 称 単 数 現 在 の 変 化 が な さ れ て い な い ケ ー ス で あ る 。 こ の よ う な エ ラ ー に つ い て Richards(1971:174)は、学習者が目標言語で言語活動を行う際、言語的負担を減らそうとす る結果ではないかと見ている。加えて、三人称単数現在の文以外の現在時制の文では動詞 の形に何の変化も必要でないため、これらの文を作るときのルールが三人称単数現在の文 を作ろうとするときにも強い影響を及ぼすことから s あるいは es の省略が起こるという見 方もできる。 4.2.2 規則制限の無視

(9)

これは目標言語の持つルールから外れた構文を一般化することと非常に近い種類のエラ ーである。Richards(1971)はこのタイプのエラーの起こる要因として、類推と規則の機械的 である。な反復を挙げている。例えば、前置詞の誤用がこれに当てはまる。

(17) a: We talked about it.(Richards 1971:176)

b: *We discussed about it.(ibid.)

(18) a: He showed me the book. (ibid.)

b:* He explained me the book.(ibid.)

上記の前置詞の誤用は、発達段階にある英語学習者が、あるタイプの動詞に結びつく特定 の前置詞を似たような動詞にも結び付けて使用するために生じると思われる。冠詞の誤使 用も類推が要因として挙げられている。つまり、学習者はすでに持っている英語使用の経 験から類推して、誤った冠詞の使い方を合理化してしまうということである。 4.3 水野(2000) 4.1,4.2の中では特に言語学習者が犯すエラーを母国語の転移と言語内干渉に 分け、それについて述べてきた。これらはある特定のエラーの要因ということではなく、 言語学習者が犯すエラーの一般的な要因として挙げられる。4.3では今までの考察を 踏まえた上で、日本人の英語学習者が頻繁に犯す冠詞のエラーについて詳しく研究した 水野(2000)の文献を取り上げる。 4.3.1 冠詞エラーの分類 日本語という冠詞を持たない言語を母国語とする英語学習者にとって、「英語の冠詞は、 ……日常もっとも頻繁に使用される語でありながら、……英語の構造中とりわけその使用 ルールがいつまでも不確実のまま残る語」(水野 2000: vii)とされている。水野(2000)は この英語の冠詞のエラーを、共起エラー、語順エラー、忘却エラー、濫用エラー、誤用エ ラーの 5 つに分類し、それぞれにどのような傾向があり、どのような原因が想定されるか について述べた。共起エラーとは、冠詞と this や that といった決定詞が並列して文中に現れ るタイプのエラーである。語順エラーとは冠詞とその後に続く形容詞の語順に統治が起こ っているタイプのエラーである。3つ目の忘却エラーとは、必要とされる個所で冠詞が脱 落しているタイプのエラーである。4つ目に濫用エラーが挙げられているが、これは冠詞 を必要としない個所で冠詞が使用されている場合が当てはまる。最後の誤用エラーとは、the

(10)

を置くべきところに a を置いたり、またはその逆のパターンによって正しい冠詞が選択され ていない場合を指す。以下の文はそれぞれのエラーの例である。

(19):* I like a this box.(水野 2000:49)

(20): *That is new a book.(ibid.)

(21): *She is φ mother of that boy. (ibid.)

(22): *after the school (ibid.)

(23): *A sun becomes red. (ibid.:50)

これら 5 つのエラーのうち、共起エラーと語順エラーは統語的な誤りであるのに対し、後 の 3 つのエラーは意味・語用論的な誤りであることが指摘されている。水野(2000)がこのよ うな分類を行ったのには次のような背景がある。冠詞の忘却エラーや濫用エラーを統語的 なエラーと見なすことは可能である。しかしながら、はじめの二つのエラーと他の3つの エラーにはある違いが観察された。それは、はじめの二つのエラー、つまり共起エラーと 語順エラーは初期レベルの英語学習者が頻繁に起こすエラーであり、その学習が中期にさ しかかる急激に減少するのに対して、他の3つは学習初期に見られるだけでなく、学習段 階が中級以上になってもなかなか減少しないという点である。はじめの二つのエラーが学 習段階中期以降に急激に減少するのは、この種のエラーの要因が学習初期で習得される統 語的なものに関わっているためと思われる。一方、その他のエラーが学習段階中期以降に さしかかっても大幅な減少を見せないのは、その要因が統語的なルールを習得しているか いなかという点の他に要因があるからである。水野(2000)はそれを意味・語用論的なルール としており、このような点を踏まえた結果、5つの冠詞エラーを大きく二つに分けた。す なわち、はじめの二つは英語という言語の持つ文法的なルールがつかみ切れていない英語 学習初期に犯しやすい誤りであるのに対して、後の 3 つは機械的には処理できないレベル の問題であり、意味・語用論的な要因も加わったエラーである、ということである。 4.3.2 共起エラーと語順エラー 先に述べたように、この二つのタイプのエラーは日本人の初級英語学習者によく見られ る。初級英語学習者の学習形態を水野は「全体論的学習の構え」と呼んでいる(水野 2000: 50)。これは、言語学習の初期段階では、学習者は目標言語を分析されない塊として理解し ようとする傾向がある、ということである。目標言語を分析できるまでのレベルに達して いないこの段階の学習者が産出するエラーは、分析可能な段階で犯されるエラーよりも機 械的・統語的である。 (19)の誤りの原因として、「限定力の低い日本語の統語規則」を英語にも当てはめる、つ

(11)

まり母国語の転移が挙げられている(水野 2000:164)。英語という言語の持つルールでは、 冠詞とその他の限定詞は同じ名詞句の中で共起することはできない。それは例文(19)に おいて、

(19)’ I like a box.

(19)” I like this box.

とすると、それぞれ適切な文となることからも理解できる。しかし日本語では、限定詞が ひとつの名詞句の中で共起したからといって、かならずしも統語的に誤った文になるとい うわけではない。つまり、英語という目標言語の持つ特徴をうまく分析できるレベルに達 していない初級の学習者は、「全体論的学習の構え」をとるため母国語の影響を強く受ける ということである。この共起エラーに分類されるものとして他の例をここに挙げたい。

(24) *This is a my pencil. (

水野

2000:49)

(25) *A that pen is in the box. (ibid.)

(26) *My father gave me a his pen. (

水野

2000:56)

これらの例も(19)と同様に、母国語の影響を受けやすい初級学習者が母国語を転移させ てしまった結果と見ることができる。 初級の英語学習者によく見られるもう 1 種類のエラー、語順エラーに関しては次のよう に説明されている。初級の学習者は、英語では名詞の前に冠詞を付ける、というルールを 知ってはいても、名詞句に関わってくる語が多くなると、うまく分析しきれない。そこで 生じる語順エラーの要因の一つとして、日本語の語順の転移が挙げられる。例えば、(20) の文の日本語訳は「あれは新しい一冊の本です。」となり、日本語の語順的に特に問題はな い。次の例もそれに当てはまるものである。

(27) *Beautiful a woman walked down the stairs around fifteen minutes ago. (

水野

2000:60)

(28) *This is big a pencil. (

水野

2000:59)

これに加えて、日本語と英語の間で見られる鏡像関係に関わる問題も原因として挙げられ ている。つまり、英語の語順は日本語の語順と逆になるパターンが多いが、すべてがその 点について規則的ではなく、例えば、

a pretty dog

(一匹のかわいい犬)のように日本語の 語順との違いがない場合もある。このような、学習者の母国語と目標言語の持つルールが 文の構造上同じであったり、異なったりするため、語順のエラーが引き起こされるのかも しれない。

(12)

4.3.3 忘却エラー 英語学習がある程度の時期に進んでからも、日本人の英語学習者がしばしば犯すとされ ている冠詞の忘却エラー、すなわち「冠詞を必要とする文脈における冠詞の脱落」(水野 2000:67)の要因については実験により次のことが観察されている。忘却エラーを産出した 英語学習者には、日本語の音声パターンを英語の言語活動にも当てはめていること、文脈 依存的な言語で、省略が起こりやすい日本語の影響により、英語の持つ統語的ルールの一 つである冠詞の使用を忘れてしまう傾向があること、さらにある単語の持つ強烈なイメー ジ・意味によって目標言語である英語の規則に対する意識が薄くなり、結果として必要箇所 で冠詞が脱落してしまうというイメージマスキングである。冠詞の忘却エラーに関して、 適切な文法指導がなされていないことも要因として挙げられている。つまり、日本の英文 法教育では、冠詞は定冠詞と不定冠詞の 2 種類に分けられており、ゼロ冠詞という概念を 取り扱っていない、という点である。この点に関して水野は「ゼロ冠詞は一般化、抽象化 という積極的な意味機能をもっているのであって、無形冠詞(φ)は、無冠詞と等価でも なければ、冠詞の省略でもない」としている(水野 2000:124)。言いかえるならば、冠詞が つかないということのもつ意味を認識していないため、冠詞語句に相当するものを持たな い日本語の統語パターンの影響を受けやすいということだろう。無形冠詞について名詞の 前にゼロをつけているという概念が認識されていれば、冠詞がやたらに忘却されるという ことはないはずである。さらに、イメージマスキング が観察されたことについて、水野 (2000:124)は日本の英語学習者には基本的な英語の語彙が定着していないということを指 摘している。すなわち、英語を母国語とする人々が常日頃使用する語彙がきちんと習得さ れているなら、ある単語の強烈なイメージによって冠詞使用のルールが見えなくなってし まうことはない、ということである。 4.3.4 濫用エラー このエラーは使用する必要のない文脈内で冠詞が使われている、というタイプのもので、 4.1.1の中で挙げられた 5 つのエラーの中の4番目のものである。例文(22)After the school において、定冠詞 the は不要である。1.の中で Snow(1998)はエラーを Developmental error と Interference error とで区別をしていたが、この濫用エラーは目標言語が持つ特徴によ って、その言語を習得しようとする学習者がエラーを犯してしまう Developmental error に分 類されると思われる。この点について水野(2000)はこのタイプの誤りは第2言語の学習 がかなり進んだ段階において、すでに習得した目標言語の規則を必要でないところにまで

(13)

適用してしまうことによってエラーが産出されると指摘している。つまり、目標言語の持 つ統語的な規則をある程度習得はしているが、それを適切に用いる方法を学習者がを習得 し切れていないということだろう。再び例文(22)に当てはめて考えてみると、このエラーを 産出した学習者は、名詞の前には冠詞が必要であるという英語の統語的ルールを習得して はいるものの、名詞の前であっても冠詞が用いられない場合があるという点に関する知識 を十分持ち合わせていないのである。このタイプのエラーは目標言語の持つ規則をある程 度理解し、分析できるレベルにまで達していながら、それが十分ではないために起こるも のなので、中級・上級レベルの学習者に付いてまわるエラーといえる。上で述べてきた濫 用エラーのその他の例として、次のものも当てはまる。

(29) *I’m going to go the shopping. (

水野

2000:71)

(30) *Let’s make a tea! (ibid.)

4.3.5 誤用エラー 誤用エラーとは、本来定冠詞を用いるべき箇所で不定冠詞を用いたり、不定冠詞を用い るべきところで定冠詞を使用したりするタイプのエラーである。例文(ⅴ)では、本来 sun につくべき冠詞は定冠詞である。なぜなら、sun は唯一冠詞であり、人類にとって普遍のも のだからである。このような種類のエラーが産出される要因について、水野(2000:75)は Tanaka(1983)3が名づけた「特定類型」に言及している。これは学習者が第二言語学習の 発達段階において、目標言語の中の一項目と母国語の一項目と対応・結合させ、ほかの項目 の意味を無視するということである。すなわち、冠詞に関して言うならば、日本の英語学 習者は、不定冠詞 a / an に対して「ひとつの」という母語を、定冠詞 the に対して「その」 という母語を特定類型として形成し、それによって冠詞がもっている機能・その他の意味を 取り入れることが難しくなっているのである。冠詞の機能は、それに続く名詞が新しい情 報なのか、それともすでに認識されている旧情報なのかを明確にするという面をもってい る。英語の冠詞がもつそのような機能が十分理解されておらず、また英語での言語活動に おいて、話していることが新情報なのか旧情報なのかという区別をつけることの重要性を 理解していないことが誤用エラーを招く一つの要因になっているのではないか、というこ とが指摘されている。しかしながら、目標言語の学習の段階が進み、それに関する知識や 語彙が増えてくれば、形成されていた特定類型も徐々に崩れてくると思われる。それでも なお誤用エラーが日本語を母国語とする英語学習者の間で観察されるのは、やはり日本語 と英語の意味・語用論的構造の違いに拠るところがあるからだろう。

3

Tanaka, S.(1983): Language Transfer as a Constraint on Lexico-Semantic

Development in Adults Learning a Second Language in Acquisition Poor Environments.

(14)

5.文献研究を踏まえての考察とまとめ

これまで、いくつかの文献から母国語以外の言語を学習する学習者の犯す誤りとその要 因について、特に、日本人の英語学習者が頻繁に犯す冠詞エラーについて取り上げてきた。 一口に冠詞のエラーといっても、種類は様々にあり、その要因も一つに限定することは難 しい。これらを踏まえて、私自身が留学先で記録したエラーについて考察してみたい。3 章で紹介した5つのエラーを含む文のうち、(9)と(10)はそれぞれ冠詞のエラーが観察され る文である。水野(2000)の冠詞エラー分析によると、会話の中で産出されたこれら二つの文 の冠詞エラーは忘却エラーに分類されるといっていいだろう。このエラーを産出した日本 語を母国語とする英語学習者は、脚注 2 でも記したとおり、かなり長い英語学習暦を持っ ている。また、英語を専門に学んできたこともあり、英語のレベルは少なくとも中級の上 だと思われる。世界各国で行われている英語の運用能力テストにおいても高い得点を得て いる。その点を考慮に入れるとき、水野(2000)が言及していたイメージマスキングによる冠 詞の忘却というのは考えにくい。なぜなら、目標言語のある語の意味やイメージが強すぎ ることによって冠詞使用のルールが見えなくなってしまう、イメージマスキングが起こる ほどこの日本人英語学習者の英語の語彙力、文法力は低くないからである。このケースで はゼロ冠詞の概念がこの英語学習者にうまく定着していないということがエラーの要因の 一つであると考えるのが妥当だろう。この学習者は日本の義務教育の中で、つまり、冠詞 を定冠詞と不定冠詞に二分化し、the に対しては「その」、a/an に対しては「ひとつの」とい う意味を対応させてきた文法教育の中で英語を学習してきている。無形冠詞について、ま た、それがもつ意味についてあまり触れられない日本の英語教育の現実から考えて、この 学習者にゼロ冠詞の概念がしっかり根付いているとは考えにくい。また、冠詞を持たず、 頻繁に省略が起こる文脈依存型言語の日本語の影響も、このケースで冠詞忘却エラーが起 こった要因の一つといえるだろう。Richards(1974)が述べたように、母国語からの転移だけ によって言語学習者の犯す誤りの要因が説明されることはないが、主要な要因であること は疑う余地がない。 母国語でない言語を学ぶ学習者が産出するエラーの要因は一辺倒ではなく、様々な要素 が関わりあっているのではないだろうか。同じエラーが違う学習者によって産出されたと しても、その要因は必ずしも同じではないだろう。冠詞の忘却エラーの要因に関して考え てみるだけでもそのことは明らかである。すなわち、今回、産出された忘却エラーにはイ メージマスキングは起こっていなかったと思われるが、例えば、かなり初期レベルの英語 学習者がまったく同じ忘却エラーを産出した場合は、それが要因の一つとなる可能性は十 分に考えられるということである。

(15)

6.その他のエラーと今後の研究課題

この論文では、特に日本語を母国語とする英語学習者の冠詞エラーについて言及した。 しかしながら、第3章で日本人の英語学習者が産出したエラーとして挙げられているもの の中には、冠詞エラーのほかに、(6)のような時制の一致というルールに反しているもの、 (7)のように英語の統語的語順のルールに反するもの、(8)のように主語と述部の一致のル ールが守られていないものなども含まれていた。 (6)の文では、本来従属節内の述部が時制の一致の法則にしたがって過去時制にならなけ ればならないはずである。しかし、記録された会話にはこれと同じタイプのエラーに分類 されがちな次のような文が含まれていた。

(31):He told her that he is not sure……

(32) : She said she is fine.

これらの文は、一見、従属節内の述部が時制の一致のルールにしたがって変化していない ように見える。イギリス留学当時のレポートでは、これらの文を時制の一致に反するエラ ーとして分類してしまったが、実際にはそのように分類できないことがわかった。安藤 (1983)はこの点に関して、時制の一致が起こるか起こらないかは産出された文の話し手の心 的態度に依存していることを指摘している。安藤(1983:248)によって示された時制の照応の 原則は, 発話時を基準として,従属節の時制が選ばれる場合は,時制の照応は 生じない。一方,主節の時制の示すとき(=事件時)を基準時として 従属節の時制が選ばれる場合には,時制の照応が生じる。 である。次の例で考えてみたい。

(33) a: John said that he likes music.

(安藤 1983:247)

b: John said that he liked music.

(ibid.)

a の文では,発話時を基準として従属節の時制を選んでいる。このような場合の話し手の心 的態度は,従属節内で述べている内容が発話時において真実であることを前提とするもの である。つまり,この文において,話し手は「ジョンは音楽好きである」という内容を真 実のものとして捉えているのである。一方、b の文では,従属節内の時制が主節の時制と一 致している。このような場合は,主節の時制を基準時としており,話し手は従属節内の内

(16)

容を客観的に述べているにすぎない。つまり、「ジョンは音楽好きである」ということに関 して,その内容の真偽は問題にしておらず,それを客観的に伝えているだけなのである。 このように,話し手が発話するときにどこに基準を置くかによって,時制の一致は生じた り生じなかったりするのである。したがって、(31)や(32)の文も,この文の発話者の心的態 度がはっきりと示されているわけではないので,これだけでは誤りであるとかないとかい う判断は下せないのである。しかし,(6)の文は時制が一致していなければ誤りである。安 藤(1983)は話しての心的態度は主節で使われる動詞の種類と密接な関係があることも 述べている。つまり,ある種類の動詞が主節にきた場合,時制の照応は随意的であるのに 対して,その他の種類の動詞が主節で使われる場合は時制に一致が義務的に起こるという ことである。(6)の文がエラーを含む文として扱われるのは,この文の主節の動詞が義務的 に従属節での時制の一致をもとめる動詞だからなのである。 新たな言語を学ぶとき、すでに学んだルールをほかの状況にも当てはめてしまうことが エラーの要因の一つであることを今まで述べてきたが、すでに持っている知識に固執し、 それを当てはめることによって、一概にはエラーと言えない文を誤りを含む文とみなして しまう現実があった。時制の一致が起こるか起こらないかに関しては上記に触れた点以外 にも多くのことが関わってくるため、この点については個人的な研究課題として今後、詳 しく調べていきたい。 次 に ( 7 ) の エ ラ ー に つ い て だ が 、 第 4 章 の 中 で 扱 っ た 言 語 内 干 渉 の 中 の overgeneralization であるとの見方ができる。(7)は疑問文が節の中に取り込まれているタイ プの文であるが、一般的な英語の統語的ルールに従うと、この文は I don’t know what I should do.となるべきである。つまり、この語順エラーは通常の疑問文 What should I do?における統 語的ルールの Overgeneralization である可能性がある。しかし、脚注1でも触れたように、 黒人英語のように従属節内においても倒置が起こらないケースがないわけではない。また、 (7)の文を日本語に当てはめてみると、「私は何をすべきかわからない。」となる。日本語の 統語的ルールでは疑問文をそのままの形で文中に取り込むことが可能である。すなわち、 このエラーの要因は母国語の干渉という見方もできる。産出された誤りの明確な要因を突 き止めることは難しく、この点にも課題がのこる。 最後に(8)は主部と述部の不一致が見とめられるエラーである。このようなタイプの エラーは、英語を母国語として習得する発達段階途中の子供たちも産出することが報告さ れている(Gleason and Ratner: 1998)。つまり、さらされた環境によって身につけた知識をも とに言語活動を行っているのだが、その知識が十分ではないためエラーを産出してしまう のである。しかしここで考えるべきなのは、(8)の文を産出した日本人英語学習者は、会 話が記録された当時においてもすでにかなりの年数の英語学習暦を持っており、英語に関 する知識が不足しているために誤ってしまったとは考えにくい、ということである。繰り 返し述べてきたが、誤りが犯される原因は常に明確なわけでも、限定的なわけでもない。 このような初歩的な誤りが上級の英語学習者から産出される要因には、今まで述べてきた

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ことだけでは片付けられない部分があるに違いない。例えば、このエラーは発話上のもの であったことは考慮すべき点かもしれない。話すという動作は書くという産出活動とは異 なり、瞬時のものであるので、書くことよりも精神的なプレッシャーが強く働くことが考 えられる。それが要因の一端となってエラーが産出されやすくなることが考えられるので はないのだろうか。この点については、(8)のエラーにだけではなく、その他に挙げたエ ラーにも当てはまるかもしれない。言語間同士の問題だけでなく、エラーが産出される環 境や状況という点も非常に興味深いものであり、今後の課題として研究を進めていきたい。

参考文献一覧

安藤貞雄(1983):『英語教師の文法研究』 大修館書店 池上嘉彦 (1991) :『〈英文法〉を考える』ちくまライブラリー 水野光晴(2000):『中間言語分析―英語冠詞習得の軌跡』 開拓社

Berko Gleason, J. and N. Bernstein Ratner (1998) Psycholinguistics. Harcout Brace.

Corder, S. (1967) The significance of learner’s error. International Review of Applied

Linguistics. 9: 147-159.

Richrds, Jack C. (ed.)(1974): Error Analysis-Perspectives on Second Language

Acquisition. Longman.

参照

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