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Microsoft Word - 都市計画学会投稿用_最終PDF用.docx

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* 学生会員 筑波大学大学院システム情報工学研究科社会工学専攻(University of Tsukuba) ** 正会員 筑波大学システム情報系社会工学域(University of Tsukuba) 1. はじめに 近年わが国では,防犯カメラの設置が増えているとされ る.この背景には,防犯カメラが持つとされる,犯罪を抑 止する,利用者に安心感を与える,犯罪捜査へ貢献すると いう効果への期待がある1).実際に,先行研究では,特定 の場所や罪種では,防犯カメラが犯罪抑止効果を有するこ とが確認されている2) 3).このような防犯カメラの効果への 期待に加え,世論の支持,設置コストの低下といった後押 し要因もあり,防犯カメラは今後も普及すると考えられる. その中でも,住民の犯罪不安を喚起させやすい道路等の 公共空間4)への数百台規模での大規模な設置が可能である ことから,地方自治体(以下「自治体」)が設置する防犯カ メラは,今後普及していく可能性が高い.樋野ら5)による と,個人や民間が設置するものと比べ,自治体や警察など の公的主体が設置する防犯カメラへの市民の賛成率は高い. 多くの市民の同意を得る中で,自治体が公共空間に防犯カ メラの大規模設置を行う事例は,今後増加していくものと 考えられる. 自治体による防犯カメラの大規模設置は,事業者等が私 有地に設置する場合に比べ,公共性の高い取り組みである. そのため,設置にあたっては,決定の合理性や透明性を確 保することが欠かせない.この点に関して,防犯カメラ設 置先進国の米国では,Center for Problem-Oriented Policing(問 題指向型警察活動センター)(1)が,自治体等が防犯カメラ を設置する際のガイドライン 6)を公開している.同ガイド ラインは,犯罪対策として公共空間へ防犯カメラ設置を行 う際に考慮すべき点を解説しており,自治体等はこのガイ ドラインを参考に防犯カメラを設置することで,効果的に 防犯カメラを設置・運用することができる. 一方,日本においては,警察が防犯カメラを設置する際 のガイドライン7)はあるものの,自治体向けのガイドライ ンは存在しない.また,一般に自治体の行う政策は,首長 の意向を含む様々な地域特性を反映しやすい.そのため, 現実に行われる自治体による防犯カメラの設置事業の内容 は,各自治体の考え方の違いを反映して多様なものが見ら れると考えられる.こうした現状を体系的に整理し,評価 を行うことは,わが国における今後の防犯カメラの設置・ 運用方針を検討するために重要であると考えられる. 防犯カメラの設置過程を明らかにした研究には,民間設 置のカメラを扱ったものがある8)9)が,自治体設置のカメラ に着目したものはない.一方,自治体設置の防犯カメラに 関する研究には,運用指針の比較分析10)11)や,公園に設置 されたカメラの設置過程を明らかにしたもの12)があるが, 市域全域への大規模な設置事業を対象としたものはない. 以上の背景を踏まえ,本研究では自治体による公共空間 への防犯カメラ大規模設置事業の事例(2)を対象に,①同事 業の取り組み実態を明らかにし,さらに,②同事業の評価 を行う.これらから,今後の増加が見込まれる自治体によ る公共空間への防犯カメラ設置に際し,検討すべき課題を 明らかにする.なお,ここでの「公共空間」は公共施設内 などの屋内の空間は含まない.また,ここでの「事業の取 り組み実態」とは,自治体の防犯カメラ設置事業における 事業決定から防犯カメラの運用までの間に,自治体と関係 主体間でなされる一連の検討・実施作業を指すものとする. 2. 研究の方法 (1) 防犯カメラ大規模設置事業の取り組み実態 (I) 対象事例 公共空間への防犯カメラ大規模設置を行ったすべての自 治体を,以下の手続きで抽出し,調査対象事例とする.① 地方自治体による公共空間への防犯カメラ大規模設置事業の取り組み実態と評価

Survey and evaluation of large-scale installation of CCTV in public space by local governments

村中 大輝*・雨宮 護**・大山 智也* Hiroki Muranaka*, Mamoru Amemiya** and Tomoya Ohyama* The recent years witnessed cases of large-scale installation of CCTV in public space by local governments. These

cases are still at an early stage, and they were done using various methods. This study aims to examine the pioneers of these cases and provide an evaluation. The results made clear that the installation process of CCTV varies from municipality to another in terms of the subject leading the project and the concept of public relations to the citizen. In addition, the results showed that there could be a problem with the current CCTV installation process in terms of the decision-making process of installation scale and location, and accountability to the citizen. One case in the study showed that there is a high possibility that CCTV has decreased vehicle-related crime and been receptive to citizen. Finally, in this study the author discusses the installation and investment policy of CCTV based on the results mentioned above.

Keywords: crime,CCTV,local government,program,evaluation,case study

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朝日新聞記事DB「聞蔵 II ビジュアル」(記事抽出期間:1984 年8 月 4 日~2015 年 6 月 30 日)を用いて,「“防犯カメラ” & “設置”」をキーワードとする記事検索を行い,すべての 記事を抽出する.②抽出された記事を読み,自治体が直轄 で防犯カメラを設置・運用する事例をさらに抽出する.③ 重複を除いた上で,市区町村単位で1 事業において 100 台 以上の防犯カメラを設置した,あるいは当該年度内にする 予定の全自治体を調査対象とする.これらの手続きの結果 抽出された,表2 の 8 市を本研究の対象とする. (II) データ 対象8 市へのヒアリング調査の結果を分析データとする. ヒアリングに際し,前述の米国のガイドライン 6)内の「実 装の際に検討すべき事項」を参考に,把握すべきプロセス を設定し,各プロセスに対応したヒアリング項目を作成し た(表1).ヒアリング調査は,2015 年 7 月~11 月にかけ て,防犯カメラを担当する部署に対して行った(表2). (III) 分析 表1 のヒアリング項目ごとに各自治体の結果を比較する ことで,対象8 市の特徴を明らかにする.また,関東・関 西での防犯カメラ大規模設置に先鞭をつけた自治体を先進 的な設置事例として取り上げ,より詳細な防犯カメラ設置 事業の取り組み実態を明らかにする. (2) 防犯カメラ大規模設置事業の評価 (I) 評価対象 政策評価には,セオリー評価(事業で用いられた方法論 が,事業目的に対して適切なものであったか)とインパク ト評価(事業実施によって,状況への改善効果があったの か)という段階がある13).一方,防犯カメラの評価視点に は,防犯カメラの設置により犯罪抑止効果が見られたのか という視点と,それが市民に受容されているかという正負 両面での視点が必要である6).そこで本研究では,セオリ ー評価,インパクト評価それぞれにおいて,効果性(犯罪 抑止効果はあるか)と受容性(市民に受容されるものであ るか)の視点を設定し,評価を行う. セオリー評価は,事業実施開始から事業が完了するまで の期間に対する評価であるため,この期間を経験している 全8 市を対象に行う.インパクト評価は,防犯カメラ設置 後の期間に対する評価であるため,調査時において設置完 了から1 年が経過していない自治体は評価対象から除き, 市川市を対象とする.いずれの評価においても,評価に用 いる基準としては,米国のガイドライン6)を用いる. (II) データ 全8 市を対象とするセオリー評価には,各自治体へのヒ アリング調査結果及び提供された書類データを用いる. 市川市を対象とするインパクト評価では,千葉県警察が 公開する犯罪統計14)と,カメラ設置前後の年に市川市が実 施した市民を対象とする社会調査(3)の結果を用いる. (III) 分析 (a) セオリー評価(全 8 市対象) 1) 効果性(犯罪抑止効果はあるか) 表1 把握すべきプロセスとヒアリング項目 把握すべきプロセス ヒアリング項目 I 防犯対策としての妥当性 I 防犯カメラ設置の経緯 (a)設置に至るまでの経緯/(b)解決したい地域の 問題/(c)目標のイメージ/(d)十分な検討が行われ たか/(e)他自治体からの影響 (a)設置のきっかけ/(b)設置の目的/(c)具体的な数 値目標/(d)防犯カメラを手段として選んだ理由 /(e)参考にした事例 II 日程・予算の制約 II 事業の概要 (a)日程の制約/(b)警察との関係性/(c)設置場所の 分布/(d)予算の制約 (a)事業スケジュール/(b)警察との協力状況/(c)設 置場所種別/(d)予算額の内訳 III 設置台数・箇所の妥当性 III 設置台数や設置箇所 (a)台数について十分な検討が行われたか/(b)箇 所について十分な検討が行われたか/(c)実際に 何が障害となるのか/(d)工事は順調に進んだか (a)設置台数の決定方法/(b)設置箇所の決定方法 /(c)設置の障害となったこと/(d)設置工事の進み 具合 IV 運用方法 IV カメラの運用 (a)目的に見合った性能か/(b)十分な検討が行わ れたか/(c)設置後広報は十分か/(d)情報の機密性 はあるか/(e)どのような運用方針か (a)カメラの性能/(b)性能を決める過程/(c)防犯カ メラ設置の周知方法/(d)画像の取り扱い/(e)運用 にかかる要綱 V 市民への説明責任 V 市民への対応 (a)設置前広報は十分か/(b)市民の同意を得てい るか (a)市民への説明/(b)市民からの反応 VI 他事業との連携 VI その他 (a)社会への影響/(b)補助金事業は成功している か/(c)カメラと連携できているか (a)他自治体からの問い合わせ/(b)補助金の利用 状況/(c)他に行っている防犯事業 表2 ヒアリング調査の概要 自治体名 設置台数 事業実施年度 調査日時 対象部課 千葉県市川市 152 2008〜2010 2015.11.20(金) 市民安全課 神奈川県大和市 285 2014 2015.9.14(月) 生活あんしん課 茨城県守谷市 100 2014〜2015 2015.9.15(火) 交通防災課 大阪府箕面市 750 2014 2015.7.30(木) 市長市民安全政策室/市議会議員 大阪府枚方市 250 2014 2015.7.31(金) 危機管理室 群馬県前橋市 100 2015 2015.9.1(火) 危機管理室 群馬県高崎市 350 2015 2015.9.11(金) 防犯・青少年課 兵庫県伊丹市 1000 2015〜2016 2015.7.31(金) 都市安全企画課 犯罪抑止効果を高めるためには,防犯カメラは,均等に 配置するのではなく,犯罪発生地点や罪種の分析に基づき, 犯罪集中地点(ホットスポット)などの必要な地域に集中 的に設置されるべきとされる6).そこで本研究では,自治 体による防犯カメラの設置台数・設置箇所が,そうした犯 罪分析に基づいて決められているものであるかを検討する. 2) 受容性(市民に受容されるものであるか) 防犯カメラの設置についての十分な説明がなされないこ とは,市民の不信を招き,設置が受容されないことにつな がるとされる6).そこで本研究では,防犯カメラ設置前後 における市民への情報提供に着目する.具体的には,設置 前に,市民への説明を,どのような方法でどの程度行った のか,また,設置後に,防犯カメラ設置の事実をどのよう な方法で市民に周知しているかを明らかにする. (b) インパクト評価(市川市対象) 1) 効果性(犯罪抑止効果はあるか) 防犯カメラの設置の効果は,犯罪抑止の面から評価され る必要がある6).そこで,市川市での防犯カメラ設置前後 の年次における刑法犯認知件数の変化と,市川市に隣接す る4 自治体(松戸市,船橋市,鎌ケ谷市,浦安市(以下「周 辺4 市」))での変化とを比較する.罪種は,先行研究2) 使用されている,ひったくり,自転車盗,車両関連犯罪(自 動車盗,オートバイ盗,車上狙い,部品狙いの合計)の3

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罪種とし,市川市で防犯カメラ設置事業が始まる前年の 2007 年を設置前,事業が完了した翌年の 2011 年を設置後 として,変化を比較する.なお,周辺4 市では,2007~2011 年において大規模な防犯カメラ設置事業は行われていない. 2) 受容性(市民に受容されるものであるか) 防犯カメラの設置が,市民の不信や非受容的な態度を招 いていないかを明らかにする必要がある6).そこで,社会 調査の結果をもとに,防犯カメラを認知した者とそうでな い者とで,防犯カメラへの態度が異なるかの分析を行う. 具体的には,市が設置・運用する防犯カメラについて,「設 置に賛成だ」,「地区のイメージが悪くなるのが心配だ」,「プ ライバシー侵害や画像の流出が心配だ」(4)とする考えにつ いて,それぞれ「1.全く思わない」~「5.とてもそう思 う」の5 件法で評定させた設問を従属変数として用いる. 市川市での社会調査はパネル時系列調査であるため,事 業開始前の2007 年とカメラ設置後の 2012 年の 2 時点で取 得された結果を,2012 年時点で,設置された街頭防犯カメ ラを認知しているか否か(5)に着目して,時点×カメラ認知 状況の2 要因を独立変数とした二元配置分散分析(対応あ り)を行う.これらにより,カメラ認知状況も考慮した設 置前後での同一回答者内の態度変化を明らかにする. 3. 防犯カメラ大規模設置事業の取り組み実態 (1) 項目ごとに見た事業の取り組み実態(表 3) (I) 防犯カメラ設置の経緯 (a) 設置のきっかけ 女児誘拐殺害事件(2014 年 9 月神戸)や,男児殺害事件 (2015 年 2 月和歌山)などの具体的な事件(前橋市,高崎 市,伊丹市)や,市民からの要望(市川市,大和市),市長 のマニフェスト(守谷市)などをきっかけとしながら,自 治体が主導して設置を行ったものが多かった.一方,警察 が設置を主導したものとして大阪府の2 市(箕面市,枚方 市)があり,両市では大阪府警察が各警察署に対し自治体 との協力での防犯カメラ設置を推進している背景のもと, 地元警察署からの働きかけを受けて設置が始まっていた. (b) 設置の目的 ほとんどの自治体で「犯罪の抑止」や「安全の確保」を 第一の目的としていた.副次的な目的としては,「体感治安 の向上」(市川市,大和市),「事件事故の早期解決」(守谷 市,高崎市)などが該当した.伊丹市は,「市民満足感の向 上」を第一目的とし,そのために犯罪の抑止が必要である という考えで最終目的が他自治体とは異なっている.また, 同市は水害の多い地域であるため,副次的な目的として「防 災」があげられていた. (c) 具体的な数値目標 「犯罪の抑止」を目的とする自治体では,担当者個人が 目標の目安を考えている自治体(守谷市,高崎市)が存在 したものの,数値目標を明確に定めているものはなかった. 副次的な目的として「体感治安の向上」をあげる自治体(市 川市,大和市)では,市民アンケートを実施し,市民の犯 罪不安の変化などを測ろうとしていたが,この場合でも特 に目標は設定されていなかった.また,カメラ100 台とい う設置台数自体を目標とする自治体(前橋市)もあった. (d) 防犯カメラを手段として選んだ理由 防犯カメラの有効性に関するテレビ報道や,実際に犯罪 が減少した事例から,有効な防犯対策としてカメラを選ん だとする自治体(箕面市,枚方市,前橋市,高崎市)と, ソフト面での防犯対策はすでに十分行っているため,新規 性ある防犯対策として防犯カメラを導入したという自治体 (市川市,大和市,守谷市,伊丹市)があった.高崎市で は,カメラ設置は「時代の流れ」だとする意見も聞かれた. (e) 参考にした事例 主に近隣自治体で防犯カメラの設置を行った事例を参考 にするものが多い(市川市,大和市,守谷市,枚方市,前 橋市,伊丹市).箕面市では,メディアでも報道されるなど 注目を集めた,東京都の大規模設置計画を参考としていた. 一方,特に他自治体を参考にせず,独自の設置を行ったも のもあった(高崎市). (II) 事業の概要 (a) 事業スケジュール 設置決定から完了までを単年度とするケースがほとんど である一方,単年度での設置サイクルを複数回行い,全体 として複数年度にわたる設置事業を行っている自治体(市 川市,守谷市,伊丹市)もみられた. (b) 警察との協力状況 多くの自治体では設置箇所の選定の際に警察との協力を 行っているが,全く行わなかった自治体(前橋市,高崎市) もある.これは両市では以前に行われた別事業で警察の要 望箇所にすでに防犯カメラを設置していたことによる.箕 面市では,事業開始当初から警察を事業共同実施主体と位 置づけた事業が行われており,防犯カメラの設置過程全体 に渡り警察との協力関係が見られる.また,防犯カメラの 設置許可において,信号柱へのカメラ設置許可を得られた 自治体(枚方市)と得られなかった自治体(市川市)があ り,各警察署によって対応が異なっていた. (c) 設置場所種別 全般的には,通学路を中心とする道路沿いに設置する自 治体が多かった.箕面市では「通学路」という言葉を使う ことで市民の同意を得やすくなったという意見も聞かれた. (d) 予算額の内訳 防犯カメラをリースで整備している自治体(市川市,枚 方市,前橋市,高崎市)と,購入して設置した自治体(大 和市,守谷市,箕面市)があった.市川市ではネットワー ク型カメラ(6)を導入しており,他市の主流であるスタンド アローン型カメラでは必要のない通信費がかかるため,運 用費が他市よりも高額となっていた.同市では,予算削減 のため,現在はスタンドアローン型への機種変更を随時進 めているとのことであった.防犯カメラの設置台数や性能 などの条件の違いもあり,設置費用,運用費用ともに自治 体間の差は比較的大きい傾向が見られた.

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表3 ヒアリング調査結果(自治体名後の数字は設置台数.アルファベットは表 1 の「ヒアリング項目」に対応) 市川市(152) 大和市(285) 守谷市(100) 箕面市(750) I a 市民アンケートでの要望 県内最多の犯罪数,住民からの要望 市長のマニフェスト事業 警察からの依頼 b 犯罪の抑止,体感治安の向上 犯罪の抑止,体感治安の向上 犯罪の抑止,事件の早期解決 犯罪の抑止 c なし,市民アンケート実施 なし,市民アンケート実施 刑法犯認知件数600件(担当者個人の見解) なし d ソフト面など他の防犯対策の充実 ソフト面など他の防犯対策の充実 ソフト面など他の防犯対策の充実 カメラ設置付近の犯罪が減少した事例 e 横浜市 厚木市,市川市 坂東市 東京都 II a 3 カ年事業,毎年度末設置完了 9~11 月入札,2~3 月設置完了 2 カ年事業,2 年目10 月設置完了 4 月警察から依頼,3 月設置完了 b 設置箇所の検討,(信号柱の使用は不許可) 危険箇所の情報提供 犯罪データの提供,現地調査 全般,警察は事業共同実施主体と位置づけ c 公園,住宅街 通学路,駅前 通学路,犯罪発生箇所,自治会要望箇所 通学路(市民の同意を得やすい) d リース約4199万円/年,運用約2669万円/年 設置約3928 万円,運用約952 万円/年※ 設置約1852 万円,運用約50 万円/年 設置1 億5000 万円,運用252 万円/年 III a 設置希望を出した自治会の数 予算に合わせて決定 市の面積や候補箇所から決定 1 校区約50 台(市長の意向) b 自治会の調査票と警察の意見から市が決定 学校・警察の要望から市が決定 警察との協議から市が決定 警察の提案から市が設置できる場所に調整 c 共架柱の強度不足・使用許可 特になし 特になし 関電電柱の使用許可 d 年度末に間に合わせた おおむね計画通り おおむね計画通り おおむね計画通り IV a ネットワーク型,38 万画素 スタンドアローン型,38万画素(台数重視) スタンドアローン型,約40万画素(台数重視) スタンドアローン型,約130万画素(画質重視) b 入札 入札,最低限の性能で数を重視 最低限の性能で数を重視 選考会によって最も画像の良い機種に

c 広報紙,ステッカー,看板,Web(箇所) 広報紙,ステッカー,看板,Web(箇所) 広報紙,看板,SNS 広報紙,電柱看板,Web,メディア d 非常時ライブ映像,サーバ保存,市職員 のみ抽出可 本体保存,市職員のみ抽出可 本体保存,市職員のみ抽出可 本体保存,市職員のみ抽出可 e 防犯カメラ条例あり 要綱あり もともとあった要綱を使用 ガイドライン作成中 V a 地区ごとに一般参加の事前説明会 カメラが向く家と自治会長に個別説明 近隣住民と自治会長に個別説明 「青少年を守る会」への説明会 b 反対意見はない,設置要望あり 基本的に賛成,設置要望あり おおむね賛成,少し気になるという意見も 賛成意見多く,反対は少ない VI a 設置当初から現在まで,全国から 最近特に多い,関西からも 県内・全国から 30 件以上,箕面警察署にも b 補助金事業なし 補助金事業なし 補助金事業なし 280 自治会中160 以上が興味 c 犯罪情報提供,青パト ドライブレコーダー,青パト,防犯灯 防犯指導員,防犯灯,青パト,防犯講話 犯罪情報提供,青パト 枚方市(250) 前橋市(100) 高崎市(350) 伊丹市(1000) I a 警察からの依頼 2014 年前橋市内での連続殺人事件 2014 年神戸の少女連れ去り事件 2014 年神戸,2015 年和歌山の事件 b 市民の安心・安全 公園内の安全確保 犯罪の抑止,事件事故の早期解決 市民満足感の向上,防災 c なし 100 台設置 昨年以下の犯罪数(担当者個人の見解) なし d 過去に設置したカメラ周辺で犯罪減少 テレビでの有効性の報道 ニュースでの有効性の報道,時代の流れ ソフト面など他の防犯対策の充実 e 東大阪市 太田市,高崎市 なし 箕面市 II a 12 月入札,年度末設置完了 年度後半設置開始,年度末設置完了 6 月入札,10 月設置完了 2015 年度200 台,2016 年度800 台予定 b 設置箇所の検討,信号柱の使用許可 なし(別事業では警察要望で設置) なし(別事業では警察要望で設置) 設置箇所の検討 c 犯罪発生箇所,危険箇所 公園にあるRC 造のトイレ 通学路,公園 通学路 d リース2200 万円/年,運用費不明 リース580 万円/年(運用費込み) リース3360 万円/年,運用400 万円/年 3 億1300 万円(未設置のため全体予算) III a 警察の提案から実現性を考え絞込み 100 台設置(市長の意向) 1 校区5 台(市長の意向) 1 校区50 台,全1000 台(市長の意向) b 警察の提案と現場確認から市が決定 公園にあるRC 造のトイレに市が決定 自治会の要望箇所に決定 警察の提案をもとに市民WS で決定 c 電柱看板のデザインの許可 公園愛護会長の了承 民地への電気供給,擁壁,カーブミラー 関電電柱か市施設という設置箇所制約 d 年度末に間に合わせた 未設置 設置中 未設置 IV a スタンドアローン型,約200万画素(画質重視) 乾電池式スタンドアローン型,130 万画素 スタンドアローン型,41 万画素 箕面市を参考にする予定 b 警察の基準を満たすカメラに コスト削減のため乾電池式に デモ画像で人物の確定ができる程度に 未定 c 広報紙,電柱看板(希望より地味),Web ステッカー ステッカー 電柱看板 d 本体保存,通常市職員のみ,緊急時警察 も抽出可 本体保存,警察のみ抽出可 本体下BOX に保存,市職員のみ抽出可 非常時ライブ映像,本体保存,市職員の み抽出可 e 要綱あり 危機管理室内の要綱あり すでに要綱を作成,議会の決済待ち 2015 年度中に条例制定予定 V a 代表者会議での説明 公園愛護会長への許可申請 自治会に委託 市長が全17 校区の地域懇談会を回る b おおむね賛成,場所変更の意見も 一部から反対意見(不動産会社など) 問い合わせ・クレーム共になし 反対はなし,慎重派も10%以下 VI a 府内の多くの市から 県内いくつかの市町村から 県内外から 3 ヶ月で約20 件 b 補助金事業なし ~8 月で25 件,~12 月で増加見込 補助金事業なし 2 年間で17 団体が利用 c 防犯灯補助金,防犯啓発,青パト 防犯灯,青パト 防犯灯 青パト,出前講座,防犯商品販売斡旋 ※既設の防犯カメラ運用費も含む. 以下,ヒアリング項目(表1 を再掲.表中のアルファベットに対応) I 防犯カメラ設置の経緯 (a)設置のきっかけ/(b)設置の目的/(c)具体的な数値目標/(d)防犯カメラを手段として選んだ理由/(e)参考にした事例 II 事業の概要 (a)事業スケジュール/(b)警察との協力状況/(c)設置場所種別/(d)予算額の内訳 III 設置台数や設置箇所 (a)設置台数の決定方法/(b)設置箇所の決定方法/(c)設置の障害となったこと/(d)設置工事の進み具合 IV カメラの運用 (a)カメラの性能/(b)性能を決める過程/(c)防犯カメラ設置の周知方法/(d)画像の取り扱い/(e)運用にかかる要綱 V 市民への対応 (a)市民への説明/(b)市民からの反応 VI その他 (a)他自治体からの問い合わせ/(b)補助金の利用状況/(c)他に行っている防犯事業

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(III) 設置台数や設置箇所 (a) 設置台数の決定方法 設置総数や1 校区あたりの台数が市長の意向で決められ ている自治体が多い(箕面市,前橋市,高崎市,伊丹市). 設置希望を出した自治会の数を設置台数とした自治体(市 川市)や,予算総額からの逆算で台数が決まった自治体(大 和市),市の面積や設置候補箇所数によって台数が決まった 自治体(守谷市),警察からの提案を市が絞り込んで台数が 決定された自治体(枚方市)もあった. (b) 設置箇所の決定方法 警察の提案をもとに,市がその場所に実際に設置可能か どうかを検討して,最終的に設置箇所が決定されるという ケースが多い(大和市,守谷市,箕面市,枚方市).警察が 設置箇所の原案を作成することの理由として,自治体職員 には専門的知識が乏しいため,警察に決めてもらっている という意見が聞かれた(箕面市).また,ワークショップを 開き,設置箇所の決定に市民の意見を取り入れるケースも 1 例見られた(伊丹市).そのほか,全自治会に設置希望調 査票を配布し,自治会の希望をもとに設置箇所を決定する 自治体(市川市,高崎市)もある.高崎市では設置箇所の 選定を自治会に一任しており,市は全く関与していない. 前橋市では,市内の公園にあるRC 造のトイレが約 100 箇 所であり,先に設定されていた100 台という目標設置台数 に合致すること,RC造のトイレは設置しやすい壁があり, 比較的大規模で利用者も多いことを理由として,設置箇所 として公園のトイレが決定されている. (c) 設置の障害となったこと 共架する予定の公園の柱・街路灯の強度不足(市川市) や,田んぼ・線路の擁壁やカーブミラーによってカメラ専 用ポールが設置できない(高崎市)といった問題で,予定 と異なる箇所への設置になるケースも見られた.電柱の使 用許可に関しては,同じ関西電力管轄でも,許可を得るた めに時間がかかった自治体(箕面市)とスムーズにいった 自治体(枚方市)があるなど,自治体間で差が見られた. (d) 設置工事の進み具合 ほとんどの自治体でおおむね計画通りという回答であっ た.遅れが生じた自治体でも,事業実施年度内に設置が終 わらないような事例は出ていない. (IV) カメラの運用 (a) カメラの性能 自治体が防犯カメラに期待する機能により,設置される 防犯カメラの性能に大きな差異があった(このことが予算 額のばらつきに反映している).防犯カメラの画質において, 防犯カメラの設置は,設置事実を犯人に知らせることによ る犯罪抑止が目的であるため,画質は粗くても良いという 自治体(大和市,守谷市)がある一方で,せっかく設置す るのなら,捜査への貢献ができるように人の顔や車のナン バーまで見えるべきだとする自治体(箕面市,枚方市)が あった.防犯カメラの仕様書を確認したところ,大和市, 守谷市が約40 万画素であるのに対し,箕面市は約 130 万画 素,枚方市は約200 万画素と大きな差が見られた. (b) 性能を決める過程 防犯カメラの数を増やすことを重視し,単価を抑えるた めに最低限の性能とした自治体(大和市,守谷市)がある 一方で,警察で使用しているカメラと同等の高い基準を設 ける自治体(枚方市)もあった.全般的には防犯カメラの 性能を条件として提示し入札をかける自治体が多いが,実 際に職員が画像を確認してから性能を決定した自治体(箕 面市,高崎市)もあった. (c) 防犯カメラ設置の周知方法 各自治体のカメラ運用要綱に規定された条件を満たすた めに,小さな電柱看板やステッカーのみを設置する自治体 (箕面市,枚方市,前橋市,高崎市,伊丹市)が多数とな った.これらの自治体では,要綱に規定される以上の周知 は積極的に行っていない.一方,防犯カメラの周知による 犯罪抑止効果を重視し,より積極的に,大きなサイズで目 立つ配色の看板を設置する自治体(大和市,守谷市)や, 路上へのステッカー表示を行う自治体(市川市)もあった. 枚方市では,当初は目立つ看板の設置を希望していたが, 電柱設置であるため,電力会社との契約の関係で目立ちに くい看板への変更を余儀なくされている.各自治体とも防 犯カメラ設置の事実は市のWeb サイト上で周知を行って いるが,防犯カメラの設置箇所については,市民への説明 のために積極的に公開する自治体(市川市,大和市)と, 悪用を防ぐなどの理由から非公開とする自治体(守谷市, 箕面市,枚方市,前橋市,高崎市,伊丹市)に分かれた. (d) 画像の取り扱い すべての自治体でリアルタイムでの監視は行わず,警察 などからの請求があった場合のみ開示する仕組みとなって いた.しかし,数台が防災用のネットワーク型カメラとし て設置されている自治体(市川市,伊丹市)では,非常時 にはライブ映像を取得する仕組みができている.撮影画像 の保存場所については,サーバ上で一元的に管理している 市川市を除き,設置された防犯カメラ本体のSD カード等 に保存されている.画像の複写に関しては,市職員のみに 許可されている自治体(市川市,大和市,守谷市,箕面市, 高崎市,伊丹市)もあれば,警察も取り出し可能とする自 治体(枚方市),警察のみが取り出し可能とする自治体(前 橋市)もあった. (e) 運用にかかる要綱 全ての自治体で要綱を定め,それに基づく防犯カメラの 運用を行なっていた.市川市では「防犯カメラの適正な設 置及び利用に関する条例」を制定し,唯一条例レベルで運 用ルールを担保している. (V) 市民への対応 (a) 市民への説明 市民一般向けの説明会を行った自治体(市川市,伊丹市) と,自治会長など代表者や一部の近隣住民への説明のみを 行った自治体(大和市,守谷市,箕面市,枚方市,前橋市, 高崎市)に分かれた.後者では,一般に防犯カメラ設置へ

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の反対意見は少ないので,代表者への説明があれば十分と 考える自治体が多かった.枚方市では,一般市民への説明 会を開催すべき事は認識しているが,そのために時間がか かることを避け,最終的に代表者への説明をもって代えた としている.高崎市では防犯カメラ設置の一切を自治会に 任せているため,近隣住民への説明に関しても防犯カメラ 設置希望を出した自治会によって実施有無が異なる. (b) 市民からの反応 市民からは,設置要望は多く寄せられるが,これまでに 寄せられた反対意見や苦情は,プライバシーの侵害や地区 のイメージ悪化を懸念したものが少数あるのみである. (VI) その他 (a) 他自治体からの問い合わせ 各自治体とも県内・県外問わず,多くの他自治体からの 相談が寄せられている.設置自治体を管轄する警察署に他 警察署からの問い合わせがあったケースもある(箕面市). (b) 補助金の利用状況 箕面市,前橋市,伊丹市では防犯カメラの設置事業と並 行して,市内の自治会が防犯カメラの設置を行う際の補助 金事業を行っている.これは,市内全域のカバー率をより 高める意図で行われているとのことであった. (c) 他に行っている防犯事業 どの自治体でも防犯カメラと並行して,青色防犯パトロ ールカーの運行や市民向け防犯講習会などのソフト面の防 犯事業を行っている.防犯カメラの関連事業としては,「動 く防犯カメラ」して,市の公用車100 台にドライブレコー ダーを装着している自治体がある(大和市). (2) 取り組み先進事例の概要 以下では先進的と考えられる2 つの自治体を取り上げ, 防犯カメラ設置事業の全体をより具体的に見ていく. (I) 市川市 市川市は,全国の自治体の中で最初に防犯カメラの大規 模設置に取り組んだ自治体であり,他の自治体からも先進 例として参照されている自治体である. 市川市の防犯カメラ設置過程と設置箇所を図1 に示す. 市川市では,市民アンケートで要望の高さが示されたこと を発端に,市主導で,犯罪抑止・体感治安の向上のために 防犯カメラの設置が行われた.同市は,古くから「防犯ま ちづくり」に取り組む15)など,ソフト面の防犯対策はすで に充実していたため,新規性ある施策として防犯カメラの 設置を開始した.2008~2010 年度にかけて,市内の道路・ 公園等に152 台の防犯カメラが設置され,その初期費用(リ ース契約+ネットワーク構築)は 3 年計 1 億 2596 万 8000 円,運用費用は2668 万 6916 円/年となっている.設置台数 は,設置を希望する全自治会の数に合わせて決定された. 設置箇所は,設置を希望する自治会に配布した調査票をも とに選定され,警察の意見を踏まえて,市が最終決定を行 うかたちで決められた.設置当初は152 台を一括管理する ネットワーク型カメラとされたが,運用費用が高額なため, 現在はスタンドアローン型カメラへの交換を順次進めてい 図1 市川市の防犯カメラ設置過程(左)と設置箇所(右) 図2 箕面市の防犯カメラ設置過程(左)と設置箇所(右) る.防犯カメラ設置の周知は,電柱看板,路上ステッカー, 広報紙,市のWeb サイトで行っている.Web サイトでは, 市内の全てのカメラの設置箇所をWebGIS で公開している. 防犯カメラ設置時には,市内8 地区の公民館を回り,一般 市民(参加自由)への説明会を行った. (II) 箕面市 箕面市は,関西地方で防犯カメラの大規模設置に最初に 取り組んだ自治体であり,750 台という前例のない規模の 設置に取り組んだことも手伝って,以後の大規模防犯カメ ラ設置の際に参照されている自治体である. 箕面市の防犯カメラ設置過程と設置箇所を図2 に示す. 箕面市では,箕面警察署長からの設置依頼を受け,他自治 体を先導したいとの市長の思いもあり,犯罪抑止を目的と した防犯カメラの設置が行われた.2014 年度に通学路に 750 台の防犯カメラが設置され,その設置費用は 1 億 5000 万円,運用費用は302 万円/年(7)となっている.設置台数は, 当初市内の全14 校区に約 40 台ずつ計 600 台としたが,カ メラ単価が抑えられたため,予算内で各校区約50 台ずつの 750 台に増やした.設置箇所は,警察が地図に候補箇所を プロットしたものを各校区の「青少年を守る会」(8)の要望 を踏まえた上で再度検討し,市が実際に設置することので きる電柱がある箇所に微調整するかたちで決定された.防 犯カメラ設置の周知は電柱看板,広報紙,市のWeb サイト で行われている.設置箇所の情報は,公開すると犯罪者に カメラの設置されていない場所の情報を与えてしまい,犯 設置台数決 定 設置箇所決 定 設置決定 設置要望 希望 調査票 設置箇所 候補 設置箇所 助言 市民 市川市 警察 自治会 周知 設置箇所 希望 設置希望 説明会 青少年を 守る会 箕面市 警察 設置台数 決 定 設置箇所 決 定 設置決定 各校区 に50台 補助金 事業 設置の 依頼 設置箇所 候補 設置箇所 希望 設置箇所 検討 説明会 周知

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罪抑止効果に悪影響があるという考えから,公開されてい ない.事業開始時にテレビなどメディアでの報道が盛んで あったため,一般市民への周知は十分であると考え,一般 市民向けの事前の説明会は開催されなかった. 4. 防犯カメラ設置事業の評価 (1) セオリー評価(全 8 市) (I) 効果性(犯罪抑止効果はあるか) 各自治体の防犯カメラ設置台数は,市長の意向や,自治 会の要望の数,予算制約などから決定されており,犯罪の 数や罪種別の構成比,犯罪の地理的分布や増減傾向などの 各自治体の犯罪情勢の分析は,根拠となっていない.設置 箇所についても,自治会の要望や校区当たりの均等配分が 重視され,犯罪の多いところに重点的に設置するという戦 略をとる自治体はない.設置箇所の選定時に警察の意見を 取り入れる自治体は多いが,実際にそうした方法を用いて いる市川市や箕面市の防犯カメラの分布(図1,図 2)を見 ると,均等な配置となっており,一部への集中的な設置は 見られない(図2 に見られる箕面市中央部の非設置地区は 住宅のない地区であり,住宅地には約50 台/校区の割合で 均等配置されている).米国のガイドラインは,防犯カメラ によって犯罪を減少させるためには,防犯カメラ設置箇所 の主な決定要因は犯罪の問題であるべきであり,ホットス ポットの確認は必須であるとしている 6).本研究で明らか とした自治体の防犯カメラ設置戦略は,この観点からは問 題解決にとって有効ではない可能性があると考えられる. (II) 受容性(市民に受容されるものであるか) 各自治体の防犯カメラ設置前の説明会開催状況を見ると, 市川市と伊丹市以外の6 つの自治体では,自治会などの代 表者や一部の近隣住民への説明のみで事前説明を完了して いる.また,防犯カメラ設置後の周知方法を見ると,市の 広報紙,看板,市のWeb サイトで防犯カメラの設置の事実 の周知を行っている自治体は多いものの,現場では,小さ な表示板の掲示にとどまっている自治体も多い.また,市 川市,大和市ではWeb サイト上で防犯カメラ設置箇所を公 開しているが,その他の自治体では設置箇所の公開は行っ ていない.米国のガイドラインは,広報の成功は,防犯カ メラの効果を高めるだけでなく,市民の体感治安の向上に も寄与するとしている6).本研究で明らかとした各自治体 の防犯カメラ設置前後での市民への説明は,自治体ごとの ばらつきが大きく,自治体によっては不十分である可能性 があると考えられる. (2) インパクト評価(市川市) (I) 効果性(犯罪抑止効果はあるか) 各罪種の認知件数について,市川市と周辺4 市とを比較 した結果,市川市の減少率が周辺4 市を上回った罪種は, 車両関連犯罪であり,ひったくりと自転車盗では,大きな 相対的減少は見られなかった(表4).カメラ設置以外の各 市の条件が統制されていないため,この結果のみから防犯 カメラの独立した効果の有無を検出することは困難である. 表4 カメラ設置前後の刑法犯認知件数の変化 ひったくり 自転車盗 車両関連犯罪 2007 2011 変化 2007 2011 変化 2007 2011 変化 市川 455 155 − 65.9% 1,948 1,725 − 11.4% 1,285 887 − 31.0% 松戸 411 137 − 66.7% 1,857 1,719 − 7.4% 1,310 995 − 24.0% 船橋 498 187 − 62.4% 2,175 1,998 − 8.1% 1,858 1,423 − 23.4% 鎌ヶ谷 82 25 − 69.5% 290 390 + 34.5% 288 289 + 0.3% 浦安 56 21 − 62.5% 1,006 851 − 15.4% 369 274 − 25.7% 図5 要因ごと推定周辺平均のプロファイル・プロット しかし,車両関連犯罪に対して防犯カメラの効果があると いう事実は,他の地域を対象とする研究でも見出されてお り2)3),市川市においても,防犯カメラの設置が車両関連犯 罪減少の一因である可能性は高いと考えられる. (II) 受容性(市民に受容されるものであるか) 各設問の回答結果に対する分散分析の結果(図5),「設 置に賛成だ」については,時点と防犯カメラ認知の交互作 用はみられず(F(1, 718) = .68, n.s.),時点の主効果のみが見 られた(F(1, 718) = 8.46, p<.01). 「地区のイメージが悪くなるのが心配だ」については, 時点と防犯カメラ認知の交互作用がみられた(F(1, 715) = 11.65, p<.01).カメラ認知群と非認知群について,それぞれ 単純主効果を見たところ,認知群では負の方向(F(1, 715) = 10.27, p<.01)に,非認知群では正の方向(F(1, 715) = 3.92, p<.05)に,それぞれ有意であった. また,「プライバシーや画像の流出が心配だ」についても, 時点と防犯カメラ認知の交互作用がみられた(F(1, 715) = 8.28, p<.01).カメラ認知群と非認知群について,それぞれ 単純主効果を見たところ,認知群のみ負の方向(F(1, 715) = 56.17, p<.001)に有意な結果となった. 以上から,防犯カメラ設置への賛否については,防犯カ メラの認知有無にかかわらず,時間の経過とともに賛成の 態度が高まったこと,地区イメージ悪化やプライバシー・ 画像流出の懸念といったネガティブな意見に対する態度は, 防犯カメラを認知した者は,時間の経過とともにより低く (つまり,防犯カメラに対してより肯定的に)なったこと が示唆された.すなわち,市川市においては,防犯カメラ は市民に受容されている可能性が高いと考えられる. 5. 結論 本研究では,自治体による大規模防犯カメラ設置事業を 事例に,その取り組み実態を明らかにし,さらに事業の評 価を行った.その結果,①事業の内容は自治体により大き 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 2007 2012 推 定 周 辺 平 均 「 設置に賛成だ」 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 2007 2012 「 地区のイメージが悪く なるのが心配だ」 非認知 認知 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 2007 2012 「 プライバシーや画像の 流出が心配だ」

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く異なること,②特に防犯カメラ設置時における台数や箇 所選定の決定過程や市民への説明の機会において課題があ ること,その一方で,③先行的に設置された市川市では, 車両関連犯罪に効果があり,市民にも受容されている可能 性が高いと考えられること,の3 点が明らかとなった. 防犯カメラ設置の根拠として犯罪情勢の分析がなされて いない点については,現在の自治体による防犯カメラの設 置事業は,問題解決指向というよりは,市民の要望に広範 に対応するための手段として実施されているという,事業 の性格を示すものと考えられる.防犯カメラの配置が均等 配置になっていることも,犯罪の抑止というよりむしろ, 多くの市民に防犯カメラの効果を公平に配分しようとする 自治体の考えを反映したものと考えることができる.本研 究で評価の拠り所とした米国のガイドラインからは,こう した自治体の事業の性格は問題解決に有効でないと批判的 に評価される.この点については,確かに,犯罪の問題が 米国ほど深刻でないわが国においては,犯罪の効率的な抑 止よりも市民への公平なサービス提供を重視した設置の方 が適切であると留保して考えることもできる.しかし,今 回取り上げた8 市の防犯カメラ設置の主な目的は「犯罪の 抑止」である.この事実から考えると,目的達成のために は,やはり防犯カメラの設置には一定の問題解決指向の戦 略は必要だと考えられる.目的に対応したふさわしい手段 が用いられるべきであるという点は,わが国の防犯カメラ 大規模設置の今後の課題として指摘できる. 市民への防犯カメラ設置前後の周知が,自治体によって は必ずしも十分に行われていない点も,今後の課題として 指摘できる.現在,防犯カメラは確かに公衆の支持を得る 存在となっているが,図5 に示される回答からもわかる通 り,地区のイメージ悪化や,プライバシーや画像の流出を 心配する声は,一定数存在する.世論の賛同が得られる中 であっても,市民の防犯カメラへの懸念を払拭するために, 市民への十分な説明は必要である.説明を通して防犯カメ ラの存在を市民に積極的に知らせることは,防犯カメラの 犯罪抑止効果を高める意味でも重要である6) このように,セオリー評価段階で問題が指摘されるにも 関わらず,市川市におけるインパクト評価(効果性)の結 果は肯定的なものであった.これは,防犯カメラを設置し たこと自体の効果の現れと考えられるが,即地的な犯罪情 勢分析を組み合わせることで,より大きな効果を得ること が期待できる.インパクト評価(受容性)の結果も,効果 性と同様に肯定的なものであったが,今回検討対象とした 市川市は,事前に一般市民への説明会を開催し,事後にも Web でカメラ設置箇所の公開を行うなど,設置前後におい て最も積極的な広報を行っている自治体である点に留意が 必要である.設置前後の広報が不十分である他の自治体で は,今後問題が生じる可能性もあり,今後の動向把握が必 要である. 本研究では,先進事例に絞って自治体の防犯カメラ設置 事業を明らかにしたが,今後,事業の普及によって事業内 容は多様化していくことも考えられる.今回明らかにされ た傾向が今後どのように展開していくか継続的に観察して いくことを今後の課題としたい. 【謝辞】 ヒアリング調査に応じていただいた各自治体の担当者の皆様に謝意を表し ます.また,本研究はJSPS 科研費JP26820257 の助成を受けました. 【補注】 (1) 警察関連の実務家,研究者,大学から成る非営利団体. (2) 本研究では,市区町村単位で1 事業において100 台以上の設置を行った 事例を大規模設置事業とした. (3) 市川市において,2007 年10 月(第1 波: カメラ設置前),2010 年2 月(第 2 波: カメラ設置中),2012 年 2 月(第 3 波: カメラ設置後)の 3 回にわた り,郵送法による質問紙調査で実施された.第1 波調査は,住民基本台帳 からの層化二段無作為抽出による2,000 名(20-69 歳)に対する調査で,1,1 83 名が回答.第 3 波調査は,第 1 波,第 2 波調査のいずれかに回答した者 が対象となった.今回の分析対象となるのは,第1 波,および第 3 波調査 双方に回答している者であり,かつ各設問に回答している者:765 名(男性 333 名,女性432 名,第3 波時点での平均年齢53.4 歳,S.D.12.2 歳)となる. (4) 「プライバシー侵害や画像の流出が心配だ」については,第3 波調査時 は,「プライバシーの侵害が心配だ」と「画像データが流出しないか心配だ」 とに項目が分けられた.この2 つの尺度のCronbach のα係数は0.82 と,一 定の信頼性が認められたため,加算した上で,2 で割り分析に用いた. (5) 実際の設問項目は,「1.知らなかった」,「2.知っていたが,実際に見たこ とはない」,「3.実際に見たことがある」となっており,上記2.と3.をあわせ て“認知”群,1.を“非認知”群とした. (6) データ通信機能のある防犯カメラ.通信機能のないスタンドアローン型 カメラに比べ,本体の単価による設置費用に加え,通信費がかかるため運 用費用も高額となる. (7) 電気代252万円(値上がり前)+修理費50万円(年に20台故障すると仮定). (8) 箕面市の各校区に存在する組織.毎年危険箇所調査をするなどの活動を 行っている. 【参考文献】 1) 島田貴仁(2012)「防犯カメラ:効果ある設置・運用と社会的受容に向け て」,そんぽ予防時報,251,20-27 2) 警察庁(2011)「警察が設置する街頭防犯カメラシステムに関する研究会 最終とりまとめ(案)」<https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki8/7th_siryou_2. pdf> 2016/4/30 最終閲覧 3) 樋野公宏(2008)「駐車場に設置する防犯カメラ等の効果及び利用者等の 態度:愛知県内での実験から」,都市計画論文集,43(3),763-768 4) 雨宮護・島田貴仁(2009)「都市の空間構成と犯罪不安の関連:地域特性 を考慮した防犯まちづくりにむけた基礎的研究」,都市計画論文集,44(3), 295-300 5) 樋野公宏・島田貴仁・樋野綾美(2008)「公共空間に設置される防犯カメ ラへの賛成態度:設置場所・設置主体の観点から」,都市計画報告集,7,4 5-48

6) Ratcliffe,J.(2006) Video Surveillance of Public Places <http://www.popcenter. org/Responses/video_surveillance/print/> 2016/4/30 最終閲覧 7) 警察庁(2011)「街頭防犯カメラ整備・運用の手引き(案)」<https://www. npa.go.jp/safetylife/seianki8/7th_siryou_3.pdf> 2016/4/30 最終閲覧 8) 朝田佳尚(2006)「防犯カメラの設置過程に関する社会学的考察:商店街 における調査事例から」,京都社会学年報,14,1-20 9) 朝田佳尚(2009)「地域住民が監視カメラに寄せる多様な意味」,ソシオ ロジ,53(3),73-89 10) 中野潔・浅野幸治(2005)「防犯カメラについての公的なガイドライン の比較における一考察」,情報処理学会研究報告,2005-EIP-29,37-42 11) 中野潔(2006)「防犯カメラのガイドラインにおける設置,管理面の記 述の比較」,情報処理学会研究報告,2006-EIP-30,1-8 12) 雨宮護・島田貴仁・高木大資(2011)「千葉県市川市における都市公園 へのネットワーク型街頭防犯カメラの設置例と市民の態度」,ランドスケー プ研究,74(5),783-788 13) 龍慶昭・佐々木亮(2000)「「政策評価」の理論と技法」,多賀出版 14) 千葉県警察犯罪統計 <https://www.police.pref.chiba.jp/trouble/crime_statistic s/index_town.php> 2016/4/30 最終閲覧 15) 山本俊哉(2005)「防犯まちづくり」,ぎょうせい

表 3  ヒアリング調査結果(自治体名後の数字は設置台数.アルファベットは表 1 の「ヒアリング項目」に対応)  市川市( 152)  大和市( 285) 守谷市( 100) 箕面市( 750) I  a  市民アンケートでの要望  県内最多の犯罪数,住民からの要望 市長のマニフェスト事業 警察からの依頼 b  犯罪の抑止,体感治安の向上  犯罪の抑止,体感治安の向上 犯罪の抑止,事件の早期解決 犯罪の抑止 c  なし,市民アンケート実施  なし,市民アンケート実施 刑法犯認知件数600件(担当者個人の見解

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