138. 脂肪肝グラフトを用いた肝移植における移植後グラフト機能不全の機序解明
島田 光生
Key words:Nonalcoholic fatty liver(NAFL),肝癌,
脂肪肝グラフト,虚血再灌流障害
徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス
研究部 消化器・移植外科学
緒 言
近年,欧米のみならず我が国においても,いわゆるメタボリック症候群がその罹患率の増加と共に社会的大問題となってい る.同症候群の肝臓での表現形が,いわゆる脂肪肝であるが,その中に肝細胞の壊死や炎症性変化を伴う NASH(非アル コール性脂肪性肝炎)という病態が一定の割合で発症し,肝硬変・肝癌にまで進行しうる.我が国における唯一の生体肝移植 ドナー死亡例も同疾患症例であった.メタボリック症候群の蔓延とウイルス性肝炎の減少により,近未来的に脂肪肝・NASH 関 連肝疾患は我が国に於ける主要肝疾患になると予想され,肝臓外科領域における対策が急務である. 肝移植は末期肝不全に対する究極の治療である.そして脳死肝移植症例が限られている我が国(年間 5 例前後)において は,ほぼ生体肝移植のみが末期肝不全に対する救命措置であり,年症例数はさらに増加しつつある.そこで問題となるのが, ドナー候補に増加しつつある脂肪肝/NASH である.全肝肝移植において脂肪肝グラフトは,いわゆる Risky/Marginal Graft であり,移植後高率にグラフト不全を発症する.しかしながら,我が国ではますます生体肝移植に依存しつつあるのが現状であ り,脂肪肝人口(ドナー候補)の増加から,部分脂肪肝グラフトの安全な使用を目的とした何らかの対策が真に必要であると考 えられる.本研究の目的は,脂肪肝グラフトにおける機能不全機序解明と生体肝移植での適用,脂肪肝における虚血再還流障 害・肝再生の制御を通して,脂肪肝過小グラフトの包括的治療法を確立することである.方法および結果
1.Severe NAFL model rat の作成
Reeta Veteläinen らの方法1)に準じて Wister 系雄性ラット(6 週齢:体重 200g±SD)を用い,MCDD(メチオニン・コリン
欠損食:methionine/choline-deficient diet)を投与.4 週目で大滴性の脂肪沈着,steatosis index での脂肪化(60% 以上)(図 1),AST/ALT の上昇(図 2)を確認し,上記モデルを確立した.
図 1. H.E 染色による MCDD 摂取後肝組織像の検討. MCDD 投与後 4 週目で大滴性の脂肪沈着を認めた. 図 2. MCDD 摂取後の肝逸脱酵素の変化. AST/ALT は 4 週目以降で 2 週目に対し有意に上昇した. 2.高機能流動食 MHN-02 におけるラット温虚血再灌流傷害軽減効果 MHN-02(明治乳業株式会社)は Whey protein とそのペプチドを含む侵襲対応流動食であり,これまでにホエイプロテイン
により 30 分間の温虚血施行.MHN-02 投与群と非投与群と比較して,生存率,血液生化学所見(AST,ALT),HE 染色 におけるネクローシス領域,TUNEL 染色におけるアポトーシス細胞数において有意な改善が認められた.また MHN-02 投与 群で Tumor necrosis factor-α(TNF-α),Interleukin-6(IL-6)の抑制,Nuclear factor-kappa B(NF-κB)の 上昇,caspase3/7 活性の抑制を認めた.(投稿中,"Benefical effects of MEIN® on warm ischemia-reperfusion
injury in rat river")
3.Severe NAFL model rat における肝虚血再灌流障害に対する MHN-02 の効果
上記 Severe NAFL model rat に対し全肝虚血を 30 分施行.MHN-02 投与群では生存率が改善(図 3)し,ALT, AST 値 は 減 少 ( 図 4 ) を 認 め た . RT-PCR で は , MHN-02 投 与 群 で TNF-α , IL-6 , inducible nitric oxide synthase(iNOS)の減少を認めた(図 5).またミトコンドリアの代謝において非共役輸送に関係する Uncoupling protein 2(UCP-2)3)も MHN-02 投与群で有意に減少(図 6)し,MHN-02 による酸化ストレスの制御が示唆された.(投稿
中,"MEIN® ameliorated hepatic ischemia reperfusion injury in murine nonalcoholic fatty liver")
図 3. MHN-02 投与群/対照群の生存率の比較.
Severe NAFL model rat に対し全肝虚血を 30 分施行.MHN-02 投与群では生存率の改善を認めた.
図 4. MHN-02 投与による肝逸脱酵素の変化. MHN-02 投与群では ALT, AST 値の低下を認めた. 図 5. MHN-02 投与による炎症性サイトカインの変化. RT-PCR にて MHN-02 投与群で TNF-α,IL-6,iNOS が減少した.
図 6. MHN-02 投与による UCP-2 の変化. ミトコンドリア代謝において非共役輸送に関係する UCP-2 は MHN-02 投与により有意に減少した. 4.ラット肝虚血再灌流傷害に対する follistatin 投与の効果に関する研究 Follistatin は心,腎の虚血再灌流傷害に対する保護効果,また肝再生効果を有すると報告されている4).ラット肝虚血再灌流 傷害モデルにおいて follistatin を投与すると,生存率の改善(図 7)を認め,血液生化学検査にて AST,ALT,LDH の低 下,さらに RT-PCR にて IL-6 の有意な低下(図 8)を認めた.(投稿中,"Beneficial Effects of Follistatin in hepatic ischemia reperfusion injuring in rats")
図 7. Follistatin 投与群/対照群の生存率の比較. Follistatin 投与にて生存率の改善を認めた.
図 8. Follistatin 投与による炎症性サイトカインの変化. RT-PCR にて Follistatin 投与により IL-6 が有意な低下した. 5.脂肪肝虚血再灌流傷害における小胞体ストレス応答の解明と制御に関する研究 小胞体ストレス応答は生体内での恒常性を維持する作用を持ち,肝に対して細胞の保護作用および apoptosis 作用を持つ5).
上記 Severe NAFL model rat 及び正常のマウスに対し全肝虚血を 30 分施行.小胞体ストレス関連遺伝子である CHOP mRNA 発現を real time PCR にて測定した.正常肝では虚血再灌流障害において,コントロール群と比べ CHOP 発現の増 加を認めた.今後,steatosis,I/R の程度を変化させ検討し,さらに小胞体ストレス主要 3 経路の knockout マウスを使用し た検討を行う方針である.
考 察
脂肪肝における虚血再灌流傷害に関しては,NO の産生,また炎症性サイトカインの産生からの ATP の低下,ミトコンドリア の機能不全,さらには活性酸素の産生より肝障害が惹起されると考えられる.今回,我々は Severe NAFL model rat におい て高機能流動食 MHN-02 を投与することで,虚血再灌流時のサイトカインを抑制し,さらに酸化ストレスを抑制することで肝障 害を抑制し,これにより生存率を向上させたと考えられた.また follistatin 投与によっても,MHN-02 同様にサイトカインを抑 制することで,生存率の向上が認められた.今回の我々の研究は,脂肪肝グラフトを用いた肝移植における移植後グラフト機能 不全の機序解明,統合的治療法の開発の一助となると考えられ,今後さらに脂肪肝グラフト機能不全の機序解明を進めること で,肝移植成績の向上につながることが望まれる. 共同研究者 本研究の共同研究者は,九州大学大学院消化器・総合外科併任講師内山秀昭,徳島大学病院がん診療連携センター長宇都 宮徹,徳島大学病院消化器・移植外科助教居村 暁および森根裕二である. 文 献
1) Veteläinen, R., van Vliet, A. K. & van Gulik, T. M. : Severe steatosis increases hepatocellular injury and impairs liver regeneration in a rat model of partial hepatectomy. Ann. Surg., 245 : 44–50, 2007. 2) Kume, H., Okazaki, K. & Sasaki, H. : Hepatoprotective effects of whey protein on
D-galactosamine-induced hepatitis and liver fibrosis in rats. Biosci. Biotechnol. Biochem., 70 : 1281-1285, 2006. 3) Zhou, M., Xu, A,, Tam, P. K., Lam, K. S., Chan, L., Hoo, R. L., Liu, J., Chow, K. H. & Wang, Y. :
4) Maeshima, A., Zhang, Y. Q., Nojima, Y., Naruse, T. & Kojima, I. : Involvement of the activin-follistatin system in tubular regeneration after renal ischemia in rats. J. Am. Soc. Nephrol., 12 : 1685-1695, 2001.
5) Vecchi, C., Montosi, G., Zhang, K., Lamberti, I., Duncan, S. A., Kaufman, R. J. & Pietrangelo, A. : ER stress controls iron metabolism through induction of hepcidin. Science, 325 : 877-880, 2009.