はじめに 2014(平成 26)年 4 月に行われた診療報酬改定の中の大き なトピックスとして,「急性期リハビリテーションの充実」と いう項目が示され,その際の参考資料として図 11)のような 急性期病院における入院中の ADL の変化についてのデータが 示された。入院時の ADL と退院時の ADL を比較した結果, ADL が入院中に低下したものが約 3.7%も存在したという結果 である。急性期病院では,治療や処置優先という機能的な性格 上,どうしても患者を寝かせておく時間が長くなってしまうこ と,それに加えて,在院日数の短縮のために,治療の目処が立 てば退院という事情も重なり,このような結果になったのだと 推測される。したがって,疾病の治療が落ち着けば退院という ことが多く,これにより,ADL は低下したままの退院を余儀 なくされる。急性期病院から回復期病院への転院等の手続きが とられれば,まだ救われるが,最悪の場合,ADL が低下した ままで在宅生活を送っていかなければならないということも考 えられる。このような入院中の ADL 低下は入院直後に発生し てしまうことが多い。図 21)は入院 2 週間以内の患者の ADL の変化を示したグラフであるが,実に入院患者の 17%が入院 後 2 週間で ADL が低下してしまっているという悩ましい結果 である。厚生労働省はこれらの事実を深刻に受け止め,可及的 早期にリハビリテーション関連職種(理学療法士・作業療法 士・言語聴覚士)が介入することによって ADL を維持させよ うとする施策を打ちだし,それが病棟専従セラピストの配置で ある。ADL 維持向上等体制加算という名目で疾患別リハビリ テーションが開始されるまでに限定して,専従の常勤理学療法 士,常勤作業療法士または常勤言語聴覚士が 1 名以上配置され るときに加算されるもので,入院から疾患別リハビリテーショ ンの開始までに発生するとされる ADL 低下を食い止めようと するものである。今までは,入院した患者が治療や処置を受け, その間に ADL が低下し,その後に疾患別リハビリテーション が介入して ADL の改善に努めるという流れであったが,すべ ての入院患者,治療を受ける患者に対して,治療や処置と並行 してリハビリテーションを可及的早期に開始して行くべきであ るという考え方である。つまりは,あくまでも疾患に捉われず, 予防的に介入していくという施策で,我々理学療法士の価値, 職域が広がる機会が設けられたことであるとは思うが,病態に よっては,超急性期の全身状態が不安定な患者に関わることに なるため,リスクを伴うことを忘れてはいけない。今までは, 呼吸循環系の障害に関わっていたセラピストが中心に実施して いたであろう領域に,様々なセラピストが,場合によってはハ イリスク患者に関わる機会が増えることになるため,リスク管 理を含めた急性期理学療法の知識と技術の向上が急がれる。 呼吸ケアチーム 呼吸器の領域ではすでに急性期への対策はとられており,呼 吸ケアチームという形で多くの病院で理学療法士が関与してい る。呼吸ケアチームは,表 1 に示す通り,人工呼吸器管理にあ る患者が対象となる。その中で理学療法士は,人工呼吸器の安 全管理,人工呼吸器の設定に関する助言,口腔内の衛生管理, 適切な排痰援助や体位変換に関する助言,その他の呼吸ケアに 関する助言などの役割を担っている。呼吸障害を対象とした チームでの活動ということ,呼吸リハビリテーションの十分な 経験者が従事するということで,ベッドサイドモニタリングな ど,リスク管理にも長けたセラピストが従事していると考えら れるが,前述した病棟専従セラピストについても,同等の知識 や技術が今後要求されることになると予想される。 最近の急性期呼吸理学療法の役割 急性期における呼吸理学療法の役割については,少し前まで は,長期安静臥床によって発生する問題や術後に発生する呼吸 器合併症の治療が主たる対象であった。しかしながら最近は, 手術技術が発展して低侵襲となってきたこと,人工呼吸をはじ めとする全身管理の方法が飛躍的に発展してきたことによっ て,急性期の病態管理が行いやすくなっている。これにより,
呼吸理学療法の実践的役割 ─急性期から在宅まで─
*
─ 1.急性期─
長谷川 聡
1)玉 木 彰
2)大 島 洋 平
3)内部障害理学療法研究部会
*The Practical Role of Respiratory Physical Therapy: 1. Acute Stage
1) 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 (〒 606‒8507 京都市左京区聖護院川原町 53)
Satoshi Hasegawa, PT, PhD: Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University
2) 兵庫医療大学大学院医療科学研究科
Akira Tamaki, PT, PhD: Graduate School of Health Sicence, Hyogo University of Health Sciences
3) 京都大学医学部附属病院リハビリテーション部
Yohei Oshima, PT: Rehabilitation Unit of Kyoto University Hospital
今までは合併症に対する治療が対象となっていた理学療法士の 役割が,予防的な関わりへとシフトし,より多様な疾患,重症 な疾患が対象となることが多くなっている。具体的には,廃用 症候群や呼吸器合併症の発生予防,そして最近トピックスとし
てしばしば取り上げられる,ICU acquired weakness(以下, ICU-AW)への対応などが理学療法士としての重要な役割と なっている。理学療法士は,これらの仕事を,機能的予後から QOL の改善まで視野に入れ,急性期の時点で長い視野をもっ 図 1 急性期病院における入院中の ADL の変化 文献 1)厚生労働省中医協 平成 24 年度入院医療等の調査より 図 2 急性期病院における入院 2 週間における ADL の変化 文献 1)厚生労働省中医協 平成 24 年度入院医療等の調査より 表 1 呼吸ケアチーム加算の対象 次のいずれにも該当する患者であること。 1.48 時間以上継続して人工呼吸器を装着している患者であること。 2.次のいずれかに該当する患者であること。 A. 人工呼吸器装着状態で当該加算を算定できる病棟に入院(転棟および転床を含む) した患者であって,当該病院に入院した日から起算して 1 ヵ月以内のもの B. 当該加算を算定できる病棟に入院した後に人工呼吸器を装着した患者であって,装 着した日から起算して 1 ヵ月以内のもの
て遂行していくということが大切であると考える。 急性呼吸障害症例に対する理学療法における基本概念 急性呼吸障害を罹患する症例に対して理学療法を実施する際 の基本的な考え方としては,適切な循環管理のもと,可及的早 期に運動機能に対する積極的介入をはじめることである。肺は 障害からの回復に比較的長時間を要するため,呼吸状態の改善 状況に理学療法の治療計画を合わせていると,対象者の臥床期 間は長期化してしまう。特に重症例では治療に長期間を要する ため,血行動態を含めた全身状態に合わせ,まずは運動機能や 精神心理機能への積極的介入を進めることを考慮すべきであ る。つまり,現在では積極的な介入による運動機能に対する主 効果と呼吸不全に対する副次的効果を狙うという方向にシフト している。 急性期呼吸理学療法の実際 急性期における呼吸理学療法は,呼吸不全を改善させるため の治療戦略のひとつであるとされている。実際には包括的に関 わることが重要で,具体的には,肺合併症の予防・治療,人工 呼吸器からの早期離脱,早期離床,ICU-AW への対応,精神・ 身体機能的予後の改善を目的に理学療法を展開していくことに なる。それらを実現していくための具体的な手段は,1.ポジ ショニング,2.気道管理,3.Early Mobilization である。 1.ポジショニング ポジショニングとして行うべき中心の治療は,体位変換であ るが,単に 2 時間毎に側臥位や仰臥位を繰り返すというルーチ ンの体位変換は,褥瘡予防としては有効であるかもしれない が,呼吸理学療法として体位管理を実施する場合,病態を正確 に把握したうえで,呼吸管理,全身管理など治療的観点に立っ た体位変換を行わなくてはならない。ポジショニングの目的 は,表 2 に示すように,局所への分泌物の滞留を予防するこ と,換気を改善させること,荷重側肺障害を予防すること,人 工呼吸器装着患者であれば,人工呼吸器関連肺炎(Ventilator Associated Pneumonia:以下,VAP)の発生を予防すること, そして,いかに患者がリラックスできるポジションをみつける かということであり,それぞれの症例に対して目的意識をもっ てポジショニングという治療をするべきである。 1)荷重側肺障害 荷重側肺障害とは,下側肺障害とも呼ばれるが,下側肺領域 の圧迫性無気肺に,時間の経過とともに気道分泌物の沈下,血 流増加によるうっ血が加わり,これらが混在して発生した肺病 変であり,図 3 に示すように,X 線,CT 画像から明確に評価 できる。急性期の安静管理が続くような症例では非常に多く認 められる病態であるが,治療手段としては,腹臥位療法が有効 とされる。 2)腹臥位管理 腹臥位管理の有用性について,最近では多くの臨床効果の報 図 3 Early Mobilization とプライマリケアにおける経過の比較 文献 4)より引用 表 2 ポジショニングの目的 褥瘡予防 気道クリアランス 換気や酸素化改善 肺容量増大 荷重側肺障害予防 VAP 発生予防 安楽体位
告がでており,呼吸器合併症を予防するという報告や予後を改 善させるという報告も見受けられる。これまでは,ARDS 患 者を含んだ臨床試験では,人工呼吸管理中での腹臥位療法の生 命予後に与える有用性は否定されてきた。しかしながら,予 後までも改善するという非常にインパクトのある結果が 2013 (平成 25)年に Claude ら2)によって報告された。466 例の重 症 ARDS 患者を少なくとも 16 時間の腹臥位療法を施行する群 と仰臥位のまま管理する群の 2 群にランダムに振り分け,腹臥 位療法の早期からの適応効果について検討した結果,28 日死 亡率が腹臥位群で 16.0%,仰臥位群で 32.8%であり,有意な差 を認めた(p < 0.001)。さらに,非補正 90 日死亡率は腹臥位 群で 23.6%,仰臥位群で 41.0%であり,有意な差(P < 0.001) を認めた。そして合併症発生率は,心停止が仰臥位群で高かっ たことを除いて,両群間で有意差はみられなかった。すなわち 重症 ARDS の患者において,早期からの腹臥位療法は 28 日死 亡率,90 日死亡率を有意に減少させると報告している。近年 の集中治療領域の RCT の報告で死亡率にここまでの差がでた 報告はなく,非常に貴重なデータであるといえる。 3)腹臥位と前傾側臥位 腹臥位管理の利点が数多く報告されている中で,実際の臨床 現場では,特に人工呼吸器管理や多くのライン管理をされてい る患者に対しては,スタッフの労力,マンパワーが必要となり, リスクを伴うものでもあるため,日本の医療環境の中ではなか なか浸透し難いという問題があった。そこで,腹臥位の代用的 な方法として,最近では前倒しの側臥位,いわゆる前傾側臥位 が多用されている。神津ら3)は,腹臥位と前傾側臥位の両方 法における酸素化の変化,体位変換に要したスタッフ人数,体 位変換の困難度および合併症を評価し,両方法で比較検討した 結果,両方法ともに酸素化を有意に改善させるが,改善度は腹 臥位の方が有意に大きく,体位変換に要したスタッフ人数は前 傾側臥位で有意に少なく,体位変換の困難度は前傾側臥位で有 意に低かったと報告している。合併症は腹臥位にて皮膚の発 赤,顔面の浮腫,低血圧,頻脈を認めたが,前傾側臥位では認 めなかったと述べている。前傾側臥位は,腹臥位と比較して酸 素化の改善効果は小さいものの,その変化は有意であり,ス タッフの手間や合併症が少なく,効果と負担,およびリスク軽 減の両面において効果的であると考えられる。腹臥位と前傾側 臥位の選択について表 3 にまとめた。 4)禁忌と注意点 ポジショニング実施において特に注意すべき点として,体位 変換による誤嚥性肺炎や VAP の発生予防である。体位変換の 際にはどうしても頸部の動きや姿勢の変化に伴い,カフと気管 の間でリークが発生してしまい,カフの膨らみが足りないと, 誤嚥の危険性が高くなる。それを予防するためにカフ圧を十分 に上げる必要があるが,一方でカフを膨らませすぎると気管粘 膜障害を起こしてしまう。ポジショニング実施の際には,適切 なカフ圧の管理が重要となる。一般的に,カフ圧は 20 cmH2O 以上 30 cmH2O 以下で管理することが推奨されている。また, それと同時に頻繁な口腔ケアの実施も肺炎予防の観点から非常 に重要である。 2.気道管理 呼吸理学療法としての気道管理とは,排痰,咳嗽介助,口腔 ケアが挙げられる。 1)排痰(気道クリアランスの改善) 気道クリアランスを改善させる方法として,体位ドレナー ジ,呼吸介助手技,咳嗽介助手技,機器を用いた方法などが 代表的であるが,昨今,呼吸理学療法手技の広まりによっ て,臨床現場ではどのような症例に対しても呼吸介助手技を もって排痰を実施するという風潮が見受けられる。しかしなが ら,呼吸介助手技というものはあくまでも補助的手段として 実施すべきものであると考える。まず第一に実施すべきこと は mobilization,つまりは離床を進め,体動を促すこと,もし くは体位ドレナージを行うことである。また,適切な気道の加 温・加湿の確認,人工呼吸器装着中の場合,貯留分泌物の移動 に影響するとされる換気様式を変更するなど,その反応を評価 することが必要である。これらを実施したうえで無気肺や分泌 物の貯留が改善しないような症例に対しては,呼吸介助手技を 補助的に実施することを原則とすべきである。つまりは,目的 とする部位に応じた体位,姿勢をとり,重力を用いて末梢気道 から中枢気道へ分泌物を移動させるが,その際の注意点を以下 に述べる。分泌物はその性状によって,病態の把握ができるこ とはもちろんであるが,その粘調度によって気道内環境が左右 される。分泌物の粘性を確認し,気道内の適切な加温加湿を行 うことが重要である。適切な吸入気の加温・加湿が行われない と,粘膜が損傷するとともに気道分泌物の粘稠度が増加し,粘 液線毛クリアランスがさらに障害される。これにより,気道内 クリアランスの悪循環形成や分泌物による気道閉塞をきたす危 険性がある。ふたつ目は,体位ドレナージ実施前に中枢気道の 開存を確認すべきであるということである。姿勢を変換する前 に挿管チューブと中枢気道の開存が確保されているかをまず評 価することが必要である。中枢気道が開存しておらず,分泌物 表 3 腹臥位と前傾側臥位 ・ALI や ARDS の酸素化改善には腹臥位の方が効果的であるが,前傾側臥位も有効 である。 ・両側性の下側肺障害に対しては,原則として腹臥位を選択するべきである。 ・ライントラブル,皮膚トラブルのリスクがある症例の場合やマンパワーの不足な どがある場合は,前傾側臥位を選択する。 ・腹臥位療法が適応であり,もっとも効果があると判断され,可能である場合は, みすみす前傾側臥位にとどめてしまうことは控えるべきである。 ・片側性の肺病変の場合は前傾側臥位を選択する。
が中枢気道をふさいでいる状態では,適切な空気の流れが阻害 されるため,末梢気道が開存しない。したがって,体位ドレ ナージを実施する前には中枢気道の評価と,吸引による開存を 実施することが重要である。 3.Early Mobilization Early Mobilization の原則は,循環動態に問題がなければ可 及的早期に運動療法の介入を進めるべきであるというものであ る。具体的には,体位変換,ベッドアップ,座位練習,立位練 習,四肢関節可動域トレーニング,四肢筋力トレーニングなど を段階的に行っていく。 1)Early Mobilization の効果 Schweickert ら4)は,ICU に お い て 人 工 呼 吸 器 で 管 理 さ れた 104 名の患者を対象に,早期に理学療法もしくは作業療 法を実施する early mobilization グループと看護師によるプ ライマリーケアのみを行うコントロールグループに分け,そ の後の経過を比較した結果を報告している。図 3 に示すよう に,退院時の ADL が自立レベルにまで回復したものの割合が, early mobilization グループで 59%,コントロールグループで 35%という結果となり,統計学的な差を認めた。また,early mobilization グループにおいてせん妄持続期間,人工呼吸器装 着期間が短かったという結果も認められた。さらには,図 4 に 示すように,early mobilization の実施は,急性期に影響を与え るだけではなく,その先の予後にも影響を及ぼすと述べている。 プライマリーケアのみを行ったグループでは,ADL が自立する 人の割合が在院 14 日ぐらいで止まってしまうのに対し,early mobilization グループでは,14 日以降も ADL が自立する患者 の割合は増え続けている。すなわちこの結果は,早期の関わり 方が機能的予後にも影響を与える可能性を示唆している。 2)Mobilization に伴うリスク early mobilization の効果としては,プラスの効果だけでな く,急性期の病態の不安定な時期に介入することも多いことか ら,マイナスの影響も及ぼしてしまうことを忘れてはならな い。心機能の回復が不十分なまま離床を盲目的に行うことは, 心不全の増悪や重症不整脈や虚血発作を誘発する可能性があ る。心原性ショック(低心拍出量)状態のときは身体の代謝に 必要な血流量が得られないため,mobilization により,急激な 血圧低下や意識障害をもたらす可能性がある。利尿が低下して いる場合は,mobilization により,骨格筋への血液量を増加さ せることで,腎臓への血液量が低下するため,さらに尿量の減 少をもたらす可能性がある。間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患な どの増悪時には,急激な mobilization により,気胸を発症させ ることがあるため,呼吸苦と SpO2の十分なモニタリングが必 要である。以上のリスクに関しても考慮しながら実施すること が重要である。 3)Mobilization の基準と条件 上述した mobilization の効果とリスクを考慮して,各施設に おいて mobilization の介入基準を設定する必要がある。原則と しては,心機能のアセスメントが mobilization の絶対条件とな る。しかしながら,我々理学療法士にとって心機能のアセスメ ントは容易ではないため,血圧・心拍数・SpO2などのバイタ ルサインの確認はもちろんのこと,水分の in-out バランスや投 薬などの治療内容から mobilization の可否や負荷を判断する。 水分の in-out バランスについては,日々の継時的な看護記録を 参考にする他,体重増加や下肢の浮腫が増悪していないことを 確認する。投薬に関しては,薬の種類,投薬内容の変更,薬の 増量,減量を逐次確認して,現在,心機能の治療がどの段階に あるのかを確認することが重要である。たとえば当院では,ノ ルアドレナリン(ノルエピネフリン)や塩酸ドブタミン(ドブ トレックス)を使用しているような状況であれば慎重に実施 し,塩酸ドパミン(イノバン)投薬中であれば,離床の進め方 を容量によって判断するという基準を設けている。これらの基
図 4 Early Mobilization とプライマリケアにおける退院時 ADL 患者の割合の比較
準の設定に関するエビデンスは報告されていないが,施設独自 の離床基準を作成することが重要である。 4)段階的離床の阻害因子を考える 段階的離床を進めていくうえで,すべての症例がスムーズに 各段階をクリアできていくとは限らない。当然予定通り進まな い症例も多く存在する。そのときに「今日無理だったから明日 もう一度チャレンジしてみましょう」,そして,「まただめなら 次の日チャレンジしてみましょう」というようなことになって いないだろうか。理学療法士として離床を進めていくうえで は,離床の進行をただ進めることに躍起になるのではなく,離 床の進行を阻害している因子を正確に評価してそれらを取り除 いていくようなアプローチをしなくてはならない。「なぜうま くいかなかったのか?」を正確に評価し,阻害因子を取り除く ようにアプローチしていく必要がある。たとえば,立位の保持 を獲得するステップにいる症例が,立てなかったとする。その ときに,ただ単純に介助をして立たせ,その介助量を徐々に減 らしていって,立位を獲得させるという進め方をするのではな く,なぜ立てないかというところを詳細に評価する。たとえ ば,呼吸困難が出現しているのであれば,「横隔膜機能が不十 分で換気が不足しているのではないか?」,「疼痛が強いため換 気ができていないのではないか?」「痰が気道を閉塞していて 換気を妨げているのではないか?」,「精神的に緊張して頻呼吸 になっているのではないか?」など様々な仮説をもとに,それ らを評価し,いわゆる機能障害を排除しながら離床を進めてい くことが基本的原則である。
5)ICU- acquired weakness(以下,ICU-AW)への対応 ICU 管理中の重症患者において神経筋障害を発症すること があり,その多くが ICU-AW の病態であるといわれている。 ICU-AW の診断基準を表 4 に示すが,具体的には,左右対称性 の四肢麻痺を呈する症候群とされており,3 つの病態に分類さ れ,critical illness myopathy( 以 下,CIM) と critical illness polyneuropathy(以下,CIP),両者の混在した critical illness neuromyopathy(以下,CIN)に分けられる。CIM は喘息重 積患者などに多量にステロイドが投与された際に起こる近位筋 優位の四肢麻痺である。CIP は敗血症や多臓器不全などの重症 患者に発症する四肢麻痺性のポリニューロパチーで,遠位筋や 下肢に優位に症状が出現する。ICU-AW の危険因子はベッド上 安静,全身性炎症,多臓器不全,筋不動化,高血糖,ステロイ ド,神経筋遮断薬投与などが考えられている5)6)。数日以上続 く多臓器不全は ICU-AW の危険因子であり,多臓器不全の原 因としては敗血症が最多である7)8)。MacFarlane ら9)によっ て CIM の最初の報告がされてから 35 年程度しか経っておら ず,非常に歴史が浅い病態であり,海外の集中治療領域では注 目されているが,本邦ではまだ認知度が低く,実際には診断が つけられていないことが多い。しかしながら考えられている以 上に罹患率は高く,数日間以上の人工呼吸管理など,重症患者 を対象とすると,約半数に発症している可能性もあるといわれ ている。最近では,重症な病態においても早期からのリハビリ テーションが ICU-AW 予防の手段として重要視されてきてお り,その他のメリットも考慮すると,早期から積極的にリハビ リテーションを行うべきであると結論づけられている報告が多 い4)10‒12)。 6)肺移植手術後 ICU-AW への対応の実際 我々も ICU-AW の調査のひとつとして,元来,重症の呼吸 器障害をもち,手術侵襲が非常に大きく,人工呼吸器管理時間 が長くなる肺移植術後患者の骨格筋機能低下について調査を進 めてきた。肺移植術後の症例においては,術後,呼吸機能は驚 異的な回復を見せるが,術直後の上下肢の筋力低下は著しいこ とを経験してきた。そこで生体肺移植手術を受けた症例の術 前と術後約 20 日の胸部 CT 画像から第 12 胸椎レベルの脊柱起 立筋の断面積(以下,CSA)を計測し,経過を分析した(図 5)。その結果,肺移植手術約 20 日後には CSA が約 12%減少 していることがあきらかとなった(図 6)。1 日あたりの減少 率は 0.68%であり,健常者を対象として実施された 20 日間の ベッドレストの研究結果13)で得られた,1 日あたり 0.5%の減 少という結果以上に骨格筋量の減少が認められた。ベッドレス トの研究では,対象者は完全にベッド上安静を保っているが, 我々の研究の対象者である肺移植手術後患者は,手術翌日から mobilization や筋力トレーニングなどの介入を開始しているに もかかわらず,このような結果となった。したがって,肺移植 手術後には,単純に安静による廃用症候群のみが原因となって 筋萎縮が起こっているのではなく,ICU-AW の影響が少なから ず起因していると考えられた。一般的に肺移植手術後症例は, 手術侵襲が大きく,免疫抑制剤やステロイドの多量投与,高血 糖,低栄養,人工呼吸器管理の長期化,経口摂取の遅れ,体動 制限などの状態になることが多く,ICU-AW のリスクファク ターを多く抱えている状況であると考えられる。したがって, これらの諸問題に対応していくようなリハビリテーション介入 が必要であり,リハビリテーションとしてできることは,早期 経口摂取の開始,術前からの栄養療法の介入,糖代謝を意識し 表 4 ICU-acquired weakness の診断基準 下記 1 かつ 2 かつ(3or4)かつ 5 を満たす。 1.重症病態の発症後に全身の筋力低下が進展。 2. 筋力低下はびまん性(近位筋 / 遠位筋の両者),左右対称性,弛緩性であり,通 常脳神経支配筋は侵されない。 3. 24 時間以上あけて 2 回行った MRC score の合計が 48 点未満,または検査可能な 筋の平均 MRC score が 4 点未満。 4.人工呼吸器に依存している。 5.背景にある重症疾患と関連しない筋力低下の原因が除外されている。
た運動療法の強化,他職種で携わる離床の促進,筋萎縮を予防 する新たな介入方法の検討などが必要であろう。 7)ICU-AW に対する骨格筋電気刺激トレーニングの導入 未発表ではあるが,我々は上述した ICU-AW に関する課題 に対して,骨格筋電気刺激トレーニングの導入を開始した。図 7 に示すような,ベルト電極式骨格筋電気刺激 Belt electrode Skeletal muscle Electrical Stimulation(以下,B-SES)を用い て ICU にて術後早期からの骨格筋トレーニングを実施した。 随意運動では通常,Type Ⅰ線維が優先的に動員され,Type Ⅱ動員にはかなり大きな負荷が必要になるが,電気刺激におけ
図 5 胸部 CT 画像からの脊柱起立筋断面積の算出
図 6 肺移植手術前後における脊柱起立筋断面積の比較
図 7 ベルト電極式骨格筋電気刺激 Belt electrode Skeletal muscle Electrical
る運動単位の動員はまったく逆である。電気刺激では,太い神 経線維をもつ Type Ⅱ線維が優先的に動員される。このような 特性があるために,電気刺激による筋収縮では,糖をエネル ギー源とする速筋線維が優先的な筋収縮を起こし,結果とし て,糖の代謝が高まることとなる。実際に,宮本ら14)は,糖 尿病患者を対象とした骨格筋電気刺激が,食後高血糖を抑制す ることを報告している。我々は,肺移植後,甲状腺クリーゼを 発症し,循環動態が不安定となり,症状安静を強いられた結果, るい痩が著しかった症例に対して,B-SES トレーニングを 1 ヵ 月間実施した結果,図 8 に示すように,大 部の筋萎縮の予防 と血清血糖の低下を認めた。これは 1 症例のみの結果であるが, 現在は,全症例に対して,術後超早期からの B-SES トレーニ ングを導入しており,同様の効果を認めている。B-SES トレー ニングの生理学的な効果については ICU-AW の予防および治 療に有効であると予想されるため,今後はその臨床効果を早急 に示したいと考えている。 結 語 急性期における呼吸理学療法の役割としては,呼吸器合併症 の予防と治療,Early Mobilization(早期離床・ICU-AW 予防) となるが,理学療法士は,急性期における全身管理,治療戦略 のひとつとして重役を担っている責任感をもって携わる必要が あると考える。そのためには患者の病態に応じた早期の対応 力,そして安全かつ効果的に実施できる方法や技術の確立が必 要であろう。 文 献 1) 厚生労働省ホームページ 中央社会保険医療協議会総会第 262 回 議 事 録 資 料.http://www.mhlw.go.jp/fi le/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000031309.ppp(2013 年 12 月 4 日引用) 2) Claude G, Jean R, et al.: Prone positioning in sever acute respiratory
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