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くも膜下出血急性期脳損傷のメカニズム

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● 新評議員

要  旨

 くも膜下出血(SAH)の病態において,発症急性期脳損傷のメカニズムが近年注目されている.我々は,齧歯 類 SAH モデルを用いて,酸化ストレスの減少が Akt/GSK3β 生存シグナルの活性化を介して SAH 後の急性期 脳損傷を軽減することを示した.また,実際の SAH 臨床例において,MRI 拡散強調画像が急性期脳損傷の検 出に有用であり,治療後の転帰予測も可能であることを報告した.SAH 後の急性期脳損傷は転帰に大きな影 響を及ぼすことから,新たな治療ターゲットとして治療方法を模索していく必要がある. (脳循環代謝 25:81∼84,2014) キーワード : くも膜下出血,急性期脳損傷,Akt/GSK3β,拡散強調画像

はじめに

 くも膜下出血(SAH)は診断・治療技術が向上した現 在においても依然として死亡率の高い疾患の一つであ る.急性期死亡を免れ,その後の脳血管攣縮を乗り 切ったとしても急性期脳損傷によって quality of life が 損なわれる症例がしばしば経験される1, 2).したがっ て,SAH 後の急性期脳損傷のメカニズム解明および適 切な治療方法の開発が SAH 患者の転帰改善に繋がる 可能性がある.我々はこれまで,齧歯類を使用した SAHモデルや実際の SAH 臨床例において急性期脳損 傷のメカニズムを研究してきたので紹介する. 1.齧歯類 SAH モデルにおける SAH 急性期脳損傷の メカニズム  SAH 急性期脳損傷のメカニズムにはアポトーシスが 関与することが報告されている3).さらに,アポトー シスには酸化ストレスが影響を与えるとされ,copper/ zinc-superoxide dismutase(SOD1)の過剰発現により酸化

ストレスを軽減することで,SAH 後の大脳皮質におけ るアポトーシスを減少させることが知られている4) 脳虚血においては,SOD1 の過剰発現は Akt/GSK3β 生 存シグナル経路を活性化することでアポトーシスを抑 制する5).したがって SAH においても,酸化ストレス の減少は Akt/GSK3β 生存シグナル経路の活性化を介 して急性期脳損傷を軽減する可能性がある.そこで, 我々は SAH 急性期脳損傷と酸化ストレスとの関係を 解明する目的で,SOD1 過剰発現(SOD1Tg)ラットを 用いて,Akt/GSK3β 生存シグナル経路に着目して研究 を行った.Bederson らの方法に準じてラット SAH モ デルを作成した6).左外頸動脈より 3-0 ナイロン糸を 左内頸動脈に向けて挿入し,左前大脳動脈と左中大脳 動脈分岐部において左内頸動脈を穿通して SAH を作 成した(図 1).野生型ラットでは,大脳皮質における DNA断片化は対照群と比較して SAH 後 24 時間にお いて有意な増加を示した.一方,SOD1Tg ラットでは SAH後 24 時間における DNA 断片化は野生型ラット と比較して有意な減少を示した(図 2A).また,SAH 後 24 時間における死亡率は SOD1Tg ラットにおいて 有意に低かった(図 2B).以上より,酸化ストレスの 減少は SAH 急性期脳損傷を軽減し,急性期死亡を減 少させる可能性があると考えられた.次に,SAH 後の 大脳皮質における Akt および GSK3β のリン酸化を ウェスタンブロットにて検討した.野生型ラットおよ び SOD1Tg ラットの両群でリン酸化型 Akt およびリン

くも膜下出血急性期脳損傷のメカニズム

遠藤 英徳

1

,冨永 悌二

2 1広南病院脳神経外科 2東北大学脳神経外科 〒 982-8523 宮城県仙台市太白区長町南 4 丁目 20-1 TEL: 022-248-2131 FAX: 022-248-1966 E-mail: [email protected]

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脳循環代謝 第 25 巻 第 2 号 ─ 82 ─ 酸化型 GSK3β は SAH 後に増加した(図 3).2 群間の 比較では,SOD1Tg ラットでは野生型ラットと比較し てリン酸化型 Akt およびリン酸化型 GSK3β の有意な 増加を示した.したがって,SOD1Tg ラットでは, SOD1過剰発現による酸化ストレスの減少が Akt や GSK3β の脱リン酸化を抑制し,Akt/GSK3β 生存シグ ナル経路が持続的に活性化することで急性期脳損傷を 減少させたと考えられた.以上より,SOD1 過剰発現 による酸化ストレスの減少は Akt/GSK3β シグナルの 活性化を介して SAH 後急性期脳損傷を軽減する可能 性が示唆された6, 7)

2.MRI 拡散強調画像(DWI)における SAH 急性期脳損 傷の検出  我々は,実際の臨床例において DWI を用いて SAH 急性期脳損傷の評価を行ってきた8, 9).DWI が脳虚血 の検出に鋭敏であることに議論の余地はないが,SAH 急性期脳損傷の検出に対して有効であるという報告は 少なかった.我々は前交通動脈瘤破裂急性期に対麻痺 を呈する患者に対して DWI を撮影し,両側前頭葉内 側部に異常高信号を確認したことから,DWI を用いて SAH急性期脳損傷を検出可能なのではないかと考え た(図4)9).そこで,2006 年から 2008 年にかけて当院 図 1.SAH ラットモデルの外観 SAHは基底槽を中心にびまん性に分布し,対照群と比較して全体 的に腫脹していた

図 2.A:SAH 後の DNA 断片化.野生型ラットでは対照群と比較して SAH 後 24 時間に

おける大脳皮質の DNA 断片化が有意に増加していた.SOD1Tg ラットでは SAH 後 24 時 間における DNA 断片化は野生型ラットと比較して有意に減少していた.B:SAH 後 24 時間における死亡率は SOD1Tg ラットにおいて有意に低かった.

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くも膜下出血急性期脳損傷のメカニズム

─ 83 ─ で外科治療を行った重症くも膜下出血(来院時 Hunt and Kosnik grade IV or V)38 例の術前 DWI 所見を後方 視的に検討した9).これら 38 例を,DWI において高 信号域を認めない群(N 群),spotty(≤10 mm2)な高信号 域を認める群(S 群),areal(>10 mm2)な高信号域を認 め る 群(A 群)に 分 類 し た と こ ろ,N 群 が 7 例 (18.5%),S 群が 13 例(34.2%),A 群が 18 例(47.3%) であった.N 群の 7 例中 7 例(100%),S 群の 13 例中 7例(53.8%)が転帰良好であったのに対し,A 群では 転帰良好症例は認めなかった.DWI 高信号を呈した領 域のうち,不可逆性損傷であると思われた領域(慢性 期 T2 強 調 画 像 で 高 信 号 を 呈 す る 領 域)の apparent diffusion coefficient(ADC)ratio は 0.71 であり,可逆性 損傷であると思われた領域の ADC ratio 0.95 よりも有 意に低かった.以上より,重症 SAH において,発症 急性期の DWI 所見に基づいて治療後の転帰予測が可 能であると思われた.拡散強調画像で捉えた異常所見 は SAH に伴った何らかの急性期脳損傷を捉えている と考えるが,そのメカニズムとして,動脈瘤破裂や急 性水頭症に伴った頭蓋内圧上昇,急性期の脳血管攣 縮,破裂に伴った微小塞栓など,複数の因子が関与す ると考えられた. 図 4.前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血で対麻痺を 呈した症例の画像所見 A:来院時 CT.半球間裂を中心とした SAH を認める.B: 来院時 DWI.両側前頭葉内側部に高信号を認める.C: 来院時 ADC map.ADC 値は低下している領域と低下し ていない領域が混在している. 図 3.A:SAH 後の大脳皮質におけるリン酸化型 Akt のウェスタンブロット.野生型ラットおよび

SOD1Tgラットの両群でリン酸化型 Akt は SAH 後に増加した.2 群間の比較では,SOD1Tg ラットでは 野生型ラットと比較してリン酸化型 Akt の有意な増加を示した.B:SAH 後の大脳皮質におけるリン酸 化型 GSK3β のウェスタンブロット.野生型ラットおよび SOD1Tg ラットの両群でリン酸化型 GSK3β は SAH後に増加した.2 群間の比較では,SOD1Tg ラットでは野生型ラットと比較してリン酸化型 GSK3β の有意な増加を示した.

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脳循環代謝 第 25 巻 第 2 号

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おわりに

 SAH における脳損傷の治療ターゲットとして,従来 は遅発性脳血管攣縮をはじめとした delayed ischemic neurological deficits(DINDs)が中心に考えられていた. しかしながら,DINDs のみならず,急性期脳損傷も転 帰に大きな影響を及ぼすことから,治療ターゲットと して研究を行い,新たな治療方法を模索していくべき であろう.

文  献

1) Broderick JP, Brott T, Tomsick T, Miller R, Huster G: Intracerebral hemorrhage more than twice as common as subarachnoid hemorrhage. J Neurosurg 78: 188–191, 1993 2) Hütter BO, Kreitschmann-Andermahr I, Gilsbach JM:

Health-related quality of life after aneurysmal subarach-noid hemorrhage: impacts of bleeding severity, computer-ized tomography findings, surgery, vasospasm, and neuro-logical grade. J Neurosurg 94: 241–251, 2001

3) Matz PG, Fujimura M, Chan PH: Subarachnoid hemoly-sate produces DNA fragmentation in a pattern similar to apoptosis in mouse brain. Brain Res 858: 312–319, 2000 4) Matz PG, Copin JC, Chan PH: Cell death after exposure to

subarachnoid hemolysate correlates inversely with

expres-sion of CuZn-superoxide dismutase. Stroke 31: 2450– 2459, 2000

5) Endo H, Nito C, Kamada H, Nishi T, Chan PH: Activation of the Akt/GSK3beta signaling pathway mediates survival of vulnerable hippocampal neurons after transient global cerebral ischemia in rats. J Cereb Blood Flow Metab 26: 1479–1489, 2006

6) Endo H, Nito C, Kamada H, Yu F, Chan PH: Akt/GSK-3beta survival signaling is involved in acute brain injury after subarachnoid hemorrhage in rats. Stroke 37: 2140– 2146, 2006

7) Endo H, Nito C, Kamada H, Yu F, Chan PH: Reduction in oxidative stress by superoxide dismutase overexpression attenuates acute brain injury after subarachnoid hemor-rhage via activation of Akt/glycogen synthase kinase-3beta survival signaling. J Cereb Blood Flow Metab 27: 975–982, 2007

8) Endo H, Shimizu H, Tominaga T: Paraparesis associated with ruptured anterior cerebral artery territory aneurysms. Surg Neurol 64: 135–139; discussion 139, 2005

9) Sato K, Shimizu H, Fujimura M, Inoue T, Matsumoto Y, Tominaga T: Acute-stage diffusion-weighted magnetic resonance imaging for predicting outcome of poor-grade aneurysmal subarachnoid hemorrhage. J Cereb Blood Flow Metab 30: 1110–1120, 2010

Abstract

Mechanism of early brain injury after subarachnoid hemorrhage

Hidenori Endo

1

and Teiji Tominaga

2

1

Department of Neurosurgery, Kohnan Hospital, Miyagi, Japan

2

Department of Neurosurgery, Tohoku University Hospital, Miyagi, Japan

Exact mechanisms of early brain injury after subarachnoid hemorrhage (SAH) is still undetermined.

We showed that reduction in oxidative stress may attenuate early brain injury after SAH via activation

of Akt/GSK3β survival signaling in rat SAH model. We also showed that diffusion weighted imaging

(DWI) is useful tool to detect early brain injury after SAH in the clinical setting. DWI can provide an

objective means to estimate the outcome of poor-grade SAH. These research about early brain injury

after SAH could provide new therapeutic approach.

図 2 .A:SAH 後の DNA 断片化.野生型ラットでは対照群と比較して SAH 後 24 時間に おける大脳皮質の DNA 断片化が有意に増加していた.SOD1Tg ラットでは SAH 後 24 時 間における DNA 断片化は野生型ラットと比較して有意に減少していた.B:SAH 後 24 時間における死亡率は SOD1Tg ラットにおいて有意に低かった.

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