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中枢神経障害に関する基礎的研究の動向と臨床への応用

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 1 号 59 ∼ 64 頁(2019 中枢神経障害に関する基礎的研究の動向と臨床への応用 年). 59. 理学療法トピックス シリーズ 「基礎研究の動向と臨床への応用」. *. 連載第 4 回 中枢神経障害に関する基礎的研究の動向と臨床への応用. 石 田 和 人 1). 中枢神経疾患に対する理学療法のターゲット.  このように活動参加レベルに対して,直接的にアプ ローチすることは,リハビリテーションの理念に基づ.  脳卒中や脊髄損傷など中枢神経疾患は,古くから理学. いた価値観で理解すれば,きわめて重要な取り組みで. 療法の対象疾患とされてきた。そして,理学療法が多く. あり,必要不可欠な理学療法の側面である。しかしこの. の患者様のリハビリテーションや予防に寄与してきたこ. ような対応を漫然と行うのであれば,それは理学療法と. とは周知の事実である。しかし,そもそも中枢神経疾患. いう治療行為ではなく,単なる訓練となり,理学療法の. に対する理学療法の果たす目的を議論する場合,治療の. 専門性を無視した,いわゆる,「リハビリ」とか「訓練」. ターゲットを具体的に示す必要があると考えられる。ま. に陥ってしまう危険性をはらんでいる。. ず大きな区分で考えると,活動参加レベルの改善に直接.  それに対し,機能構造レベルにおける改善をめざすア. つながるアプローチを展開するのか,あるいは,機能構. プローチは,本来あるべき理学療法の姿といえる. 造レベルの改善を求めるのかにより,理学療法は本質的. ぜならば,理学療法は非特異的な物理刺激を用いて,身. に異なる内容となる(表 1)。この両者を統合した形で,. 体機能の改善を図る治療の技術および科学であるからで. 患者様の機能を高めて日常生活活動の自立につなげるこ. ある. とが求められるのは当然である。ただ,理学療法の治療. 学療法の効果を論ずるうえでは,様々な治療手段が提案. 効果や意義を考えるうえで,やはりこの両者を明確に分. されているが,その多くは筋力,関節可動性の改善や循. けて論ずる必要があるものと考えられる。ここでは中枢. 環促進など,いわゆる末梢要因の変化として捉え得るも. 神経疾患の基礎的研究について論ずる前に,その立場に. のである。要するに,中枢神経疾患を対象とはしている. ついて確認しておきたい。. ものの,運動器疾患や呼吸循環器疾患に対して行われる.  まず,活動参加レベルの改善に直接つながるアプロー. 理学療法と共通する治療ターゲットであるといえる。た. チとしては,移乗および移動動作の確立,日常生活活動. だ,実際には,このような末梢要因の改善により中枢神. の改善などが挙げられる。たとえば,脳卒中急性期にお. 経疾患患者の機能形態レベルは大きな改善を示し,重要. いては,ベッドサイドにおいて,可及的速やかにリハビ. な役割を遂行していることも事実である。. リテーションを開始することが奨励されており,全身状.  では,機能形態レベルの改善をめざした理学療法の中. 態を診ながら座位保持の練習などを積極的に行う。また,. で,特に中枢神経系それ自体の機能改善を図るような対. 回復期では,装具を作成して異常歩行パターンを抑制し. 応を展開することはできないのであろうか。たとえば昨. つつ自立度の高い歩行能力が獲得できるように対応す. 今,研究報告が盛んになっているニューロリハビリテー. る。維持期においては,年齢や経過などによる差異はあ. ションは,運動や物理的刺激を用いて神経系自体の機能. るものの,機能改善の見込みがプラトーに達することが. 改善を図ることをコンセプトとしており,理学療法によ. 認められており,実際の生活場面や社会参加の場面で必. り脳機能を改善しようとするものであり,本来の理学療. 要となる諸動作について,具体的な改善策が求められる。. 法としてあるべき姿なのかもしれない。. 1). 。な. 1). 。ただ,中枢神経疾患による機能障害に対する理.  このように理学療法ターゲットの整理を試みたが(表 *. Basic Research for Central Nervous System Disorder and Clinical Application 1)豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科 (〒 440‒8511 愛知県豊橋市牛川町松下 20‒1) Kazuto Ishida, PT, PhD: Department of Physical Therapy, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University キーワード:脳出血,脳梗塞,病態モデル動物,トランスレーショ ナル神経科学. 1),中枢神経疾患に対する理学療法の基礎的研究,特に 病態動物モデルを用いた研究では,中枢神経系自体の回 復と,それに依存した個体としての機能再建に着目され ることが多く,本稿では運動刺激などの理学療法が中枢 神経系に及ぼす効果について,いくつかの報告と自験例.

(2) 60. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. 表 1 中枢神経障害に対する理学療法のターゲット 理学療法のターゲット. 具体的内容. 活動参加レベル. ・ 基本動作指導 ・ 移動動作指導 ・ 歩行練習 ・ 日常生活活動指導 など. 機能構造レベル. 末梢組織へのアプローチ. ・ 関節可動域改善 ・ 筋力改善 ・ 神経筋再教育 ・ ストレッチ ・ モビライゼーション など. 中枢神経系へのアプローチ. ・ 末梢組織へのアプローチの結果,変調され る神経可塑的変化 ・ ニューロリハビリテーション ・ CI 療法 ・ 電気刺激,磁気刺激によるニューロモジュ レーション など. 表 2 脳血管障害および抑うつの病態モデル動物. を交えて論じてみたい。. 脳出血モデル. 中枢神経障害の病態モデル動物. ①マイクロバルーン注入法.  動物実験では,対象となる疾患の病態モデル動物が用 いられる。それにより実験条件を統一することが可能と なるが,同一の動物種,週齢を用い,同一の損傷を与え ることで,「病態モデル」を作成する。また,病態モデ ルを確立することは,病態生理の解明や治療の効果およ び作用機序の探求に大きな貢献をもたらす。. ②自己血注入法 ③コラゲナーゼ注入法. 脳梗塞モデル ①脳卒中易発性高血圧モデル※ ②光化学モデル ③ Endothelin-1 注入モデル.  筆者らはこれまで,脳卒中(脳出血,脳梗塞)および 脊髄損傷の病態モデル動物を用いて,理学療法研究を実. ④電気凝固モデル ⑤中大脳動脈閉塞モデル. 践してきた。脳卒中は,理学療法の対象疾患としてポ ピュラーなものであるが,病態モデル動物としては,表. 抑うつモデル. 2 に示されるように,いくつかのものが報告されている。. ① 慢性拘束ストレスモデル. 特に脳出血モデルの作成については,マイクロバルーン. ② 慢性緩和ストレスモデル. 2) 注入法 (小さなバルーンを脳内に挿入し膨らませるこ. ③ 水泳ストレスモデル. 3). とにより血腫を再現したもの) ,自己血注入法 (自己血. ④ 社会的敗北ストレスモデル. を脳内に注入することで脳内出血の様態を表したもの). ⑤ 母子分離ストレスモデル. なども考案されているが,我々は特に,コラゲナーゼ注 入法. 4)5). を用いてきた。本法は,コラゲナーゼという. 石田和人,石田章真:病態モデルを用いた中 枢神経障害に対する理学療法研究の動向.理 学療法学.2010; 37; 650‒653(表 1)を基に作成.. コラーゲン分解酵素を脳内に微量注入することで脳血管 の基底膜を破壊し,脳内出血を引き起こさせる方法であ り,臨床上の脳出血病態に類似し,現在もっとも有効な.  また最近は,多種多様な中枢神経系の病態モデルが研. 脳出血モデルであるとされている。特にコラーゲン分解. 究対象とされており,たとえば,パーキンソン病,ハン. 酵素の注入部位を線条体に設定すれば,線条体出血モデ. チントン舞踏病,あるいはアルツハイマー病などの神経. ルが作成され,また内包に限局した注入を行えば,内包. 変性疾患,また,統合失調症,うつ病などの精神疾患に. 6). 出血モデルが作成されることなどが報告されている 。. 関するモデル動物も紹介されている。特に抑うつモデル.

(3) 中枢神経障害に関する基礎的研究の動向と臨床への応用. 61. については,いくつかの方法が検討されており,たとえ. 樹状突起の拡大・伸長を導いたことが考えられ,ひいて. ば,実験動物を身動きのできないところに閉じ込めて. はシナプス新生をもたらした可能性も予想される。この. 拘束する慢性拘束ストレス(chronic restraint stress) ,. ように,脳出血後の単純な有酸素運動(トレッドミル運. また飼育用のゲージを濡らす,傾けるなど数種類のスト. 動)による,神経の可塑的変化を導くメカニズムが考え. レス負荷を数週間の間に順次施すことによる慢性緩和ス. られ興味深い知見であると思われる。. 7). トレス(chronic mild stress) を継続的に負荷して無.  このようなトレッドミル運動による脳卒中後の機能. 気力な状態を誘導することなどが行われている(表 1) 。. 回復に関する研究は,脳梗塞モデルを用いた研究にも. また,飼育ケージの中に柵で隔て,すぐ隣に凶暴性を示. 散見される。特に,一過性中大脳動脈虚血再開通モデ. す大きなラットを置くことにより,身体的ストレスは免. ル(transient middle cerebral artery occlusion:以下,. れるものの,常に恐怖感が与えられる環境下で過ごす社. t-MCAO)は,その代表的なモデル動物である。一側の. 会的敗北ストレス,また生後すぐに胎児から母親ラット. 総頸動脈より塞栓糸を挿入し,中大脳動脈の起始部を閉. を離別させて飼育する母子分離モデルなどを用いた検討. 塞させ,数時間後に抜去することにより血流を再開通さ. もみられる。これらのストレス負荷モデル動物は,行動. せる。その際に,大量の活性酸素種が発生するため,そ. 量の低下や快感消失症(anhedonia)などを招くことが. の傷害が助長される。臨床的分類で示すとすれば,心源. 8). 10). 報告されており ,抑うつ状態や気分障害のモデル動物. 性脳塞栓症様の病態である。Yang ら. と考えられている。このように,理学療法士が臨床場面. t-MCAO モデルラットを用いて,20 m/ 分の速度で 30. で遭遇する様々な中枢神経障害に関連した病態モデルの. 分間のトレッドミル運動を 1 週間実施したところ,脳梗. バリエーションが広がってきていることが今日の動向の. 塞体積の減少を認めることを報告した。そして,その運. ひとつであるといえる。. 動はモデル作成 1 週間後に開始した群に比べ,24 時間. 病態モデル動物を用いた理学療法の基礎研究. は,60 分間の. 後の早期に開始した群の方がその効果性の高いことを示 した。また,Wang ら. 11). は,週令の若いラットと老年. 1.トレッドミル運動による脳卒中後の機能回復. のラットで脳梗塞後の運動の効果について比較検討し,.  ラットの左線条体にコラゲナーゼ(type IV)を微量. 若いラットは脳梗塞後,わずか 1 週間の運動により脳梗. 注入すると,血管内皮を構成する基底膜を破壊し,脳. 塞体積の軽減を示したのに対し,老齢ラットでは脳梗塞. 4). 。その後,運動障害スコア(motor. 体積の軽減効果に 2 週間を要することを示した。しか. deficit score:以下,MDS)を用いて機能回復の時間経. し,老齢ラットであっても時間をかければ効果を見いだ. 過を調べると(0 ∼ 12 点で評価,もっとも重症な場合. せるという理解にもつながる有益なエビデンスであると. 12 点),本脳出血モデル作成の翌日には,MDS が 9 ∼. 考えられる。. 10 点程度と強い運動麻痺を呈しており,その後徐々に.  我々は,t-MCAO モデルを用いて,脳梗塞前にトレッ. 回復を示し,3 点台にまで回復を示す。この自然回復経. ドミル運動(15 m/ 分,1 日につき,30 分間)を 3 週間. 過に対し,脳出血後 4 日後よりトレッドミルによる運動. 実施しておくと,脳梗塞を生じさせても,脳梗塞体積が. (9 m/min)を毎日 30 分間,脳出血後 2 週まで実施する. 小さく治まり,運動機能障害も軽微することを報告し. 出血を引き起こす. 12). 。このとき,脳組織に対する酸化ストレスの程度. と,運動を実施しないコントロール群に比べ運動機能の. た. 回復が促進され,より早く機能の回復が起こることがわ. を組織学的に調べると,運動せずに脳梗塞を起こした群. 2). かった 。この 2 週間の機能回復を確認した後,深い麻. に比べ,事前に運動を実施して脳梗塞を起こした群の方. 酔をかけた状態で脳を摘出し,脳出血による傷害の程度. が,酸化ストレスの影響の小さいことを示した。. について,トレッドミル実施群と自然回復群を比較して.  このように脳梗塞後のリハビリテーションによる効果. 観察したが,この両者に差は認めなかった。つまり,ト. のみならず,脳梗塞の予防効果についても動物モデルを. レッドミルを行うことで,脳出血後の機能回復は促進さ. 用いた実験的研究により証明されている。また,脳梗塞. れたが,これは神経の損傷自体を軽減させるような神経. モデルの研究では,機能回復の視点のみならず,脳梗塞. 保護的作用によるものではないと考えられた。しかし,. 体積を軽減させる効果が示されていることは驚きでもあ. 組織学的手法により,樹状突起の拡大・伸長について調. る。臨床場面で,ヒトが脳梗塞を発症する場合,トレッ. べたところ,脳出血を起こした反対側の線状体におい. ドミル運動のような有酸素運動により,はたして脳梗塞. て,自然回復の後,樹状突起の拡大・伸長が確認され,. を軽減しうるのか否かは,疑問の余地を残すであろう。. トレッドミル運動を実施することにより,さらに拡大・. しかし,少なくともこのような運動による刺激が,脳に. 伸長が促されることを見いだした. 9). 。このことは,ト. なんらかの保護的な作用をもたらすことは確かであると. レッドミル運動という,いわば単純な有酸素運動の繰り. 想定される。骨格筋の収縮のみならず,心血管系の活動,. 返しにより,なんらかの神経栄養因子の発現が促され,. 肝,腎,骨などの働きは,自律神経,ホルモン,栄養因.

(4) 62. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. 子,免疫系を介して,脳の内因性保護効果を誘導するも 13). ト運動による研究についても進めている。Tamakoshi. 17). ,理学療法は,脳をひとつの臓. が設定したアクロバット運動は,格子台,綱渡り,障. 器と見立てた立場で,その生物学的効果の視点からも検. 壁,紐梯子,平行棒の 5 課題からなり,各課題につき移. 討されるべきと考えられる。. 動距離は各 1 m である。いわば,我々も楽しめそうな. のと考えられており. 山林地区の自然公園に造られたフィールドアスレチック 2.運動による記憶学習機能の改善効果. コースのようなものであり,バランス機能や筋力など複.  トレッドミル運動および輪車を用いた有酸素運動は,. 合的な運動学習を必要とする運動スキルトレーニングで. 記憶学習機能の改善効果を有することも知られている。. ある。脳出血後 4 ∼ 28 日後,毎日この 5 課題のアクロ.  げっ歯類(ラットおよびマウス)にトレッドミル運動. バット運動コースを各 4 回実施した。このアクロバット. をさせると,海馬で神経活動が高まり,脳血流も増加. 運動による機能回復効果は,前述のトレッドミル運動に. することが示されている。このときの神経活動は運動. 勝るものであった。しかも驚くことに,前者のトレッド. 強度依存性であり,運動強度(速度)が強いほど高い。. ミル運動は,設定した速度と時間から換算すると,1 日. こ れ に 対 し, 脳 由 来 性 神 経 栄 養 因 子(brain derived. に 270 m 移動したことになるのに対し,後者のアクロ. neurotrophic factor:以下,BDNF)は,運動により海. バット運動では,その移動距離がわずかに 20 m のみで. 馬(特に,歯状回)で発現が高まることが知られている. ある。すなわち,運動スキルを要求される運動様式を用. が,低速度な条件の方が高まるようである。さらに,ト. いることで効率よく機能の回復が促されることがわか. レッドミル運動のような強制的な運動よりも,輪車のよ. る. うな自発的な運動でその発現が高まることが報告されて. ス後ニューロンのマーカーである PSD-95 タンパクの発. いる。また,BDNF の発現量は運動量依存的であると. 現を解析したところ,脳出血 14 日後,脳出血側の線状. 報告されている. 14). 。いずれにしても,継続的な有酸素. 17). 。また,ウエスタンブロット法を用いて,シナプ. 体で発現増加が認められ,28 日後には両側の大脳皮質. 運動と神経栄養因子の発現には密接な関係性が証明さ. 運動感覚野において発現の増加を示した。このことは,. れている。この事実は,海馬において,樹状突起を伸. 脳出血後に行うアクロバット運動により,早期には線状. 張・拡大し神経可塑性を高めるばかりでなく,神経新生. 体,またその後,大脳皮質において神経の可塑性が高. 15). (neurogenesis). を誘導することにより,海馬の機能. まっていることを証明するものである。. を高め,しいては記憶学習機能の強化につながることが.  このアクロバット運動が脳出血後の機能回復促進効果. 予想される。. をもたらす要因について考察すると次のような点が挙げ.  我々は,前述の脳梗塞モデル(t-MCAO)において,. られる。まず,運動課題の難易度に依存して神経可塑性. 虚血から再開通までの時間を 90 分とした場合,記憶障. が誘導されるという点である。また,運動を行う際,体. 害を示すことを確認した。それでモデル作成 4 日後から,. 性感覚の入力に着目し,入力情報の質的および量的な変. 1 日 30 分間,4 週間のトレッドミル運動を実施すると,. 化を伴うように工夫すると神経可塑性が高まるものと考. 脳梗塞体積の減少を示し,空間記憶の機能が改善を示す. えられている。このアクロバット運動もまさに体性感覚. ことを示した。またこの時,運動強度(トレッドミルの. 情報の入力変化を伴う運動課題であると考えられる。さ. 16). 。さらに,ト. らに,課題遂行には周囲の環境と巧みに適応する必要が. レッドミル運動を行うことにより,組織学的解析から海. あり,その環境との相互作用が対象者の努力を要求され. 馬歯状回の樹状突起が存在する部位で,微小管関連タン. ること,すなわち,能動的であることにより,神経の可. パク(microtubles associated protein 2:MAP-2,樹状. 塑性が高まるものと推測できる。また,運動学習を伴う. 突起のマーカー)の発現性が高く,細胞数の増加も認め. 運動課題である条件は,すなわち,大脳基底核系および. た。すなわち,脳梗塞後,なんらかの機能障害を起こし. 小脳系の関与を伴う運動であるといえる。我々の行った. た海馬において,樹状突起の拡大および神経新生を誘導. アクロバット運動による機能回復促進効果の検討では,. したものと推測される。. 小脳については確認していないものの,脳出血後 14 日.  このような動物モデルを用いた研究結果から,脳卒中. 後に,出血側の線条体で PSD-95 の発現増加が認められ. 後の運動療法の効果のひとつとして,記憶学習効果など. ることから,このアクロバット運動による機能回復促進. の高次脳機能もその守備範囲に加えることができそうで. 効果には,大脳基底核系がかかわる運動学習の過程を伴. ある。今後の臨床応用に向けた研究にも視野が広がるも. う可能性が想定される。. 速度)の低い方がその効果は高かった. のと考えられる。 4.CI 療法 3.アクロバット運動による機能回復と神経可塑性.  CI 療法(constraint-induced movement therapy)は,.  筆者らは脳出血ラットの機能回復に関してアクロバッ. 脳卒中片麻痺の非麻痺肢を使用制限し,麻痺肢を強制使.

(5) 中枢神経障害に関する基礎的研究の動向と臨床への応用. 用することにより,麻痺肢の機能回復が促進されるとい 18). 63. け,脊髄損傷モデル作成後 7 日目から 30 日間,1 回に. 。我々の研究室では,本法を動物実. 60 分間,週に 5 回の頻度で実施した。経時的に H 反射. 験に持ち込み,運動機能の改善効果ならびにその機序に. を導出し(術前および 7, 14, 21, 30, 45, 60, 75 日目),H. ついて解析を進めている。病態モデルには,内包出血モ. 波振幅の刺激周波数依存性低下を指標に過反射の程度を. デルを用いて,出血翌日から 1 週間,非麻痺側前肢を. 評価する。その結果,非運動群では,5 または 10 Hz で. ギプスで軽く固定して使用制限を行う。その後の運動. 刺激した場合の H 波振幅が脊髄損傷モデル作成時から. 機能を調べたところ,MDS による全身的な運動機能に. 75 日目まで,日数の経過とともに増加した(p<0.01)。. 差異は見られないものの,single pellet reaching および. また,7 日目から 30 日間の自転車式他動運動を実施す. ladder test による巧緻的な運動機能回復に差がみられた。. ると(運動群) ,非運動群に比べ,5 または 10 Hz 刺激. う治療法である. 時の H 波振幅増加が抑えられ,その効果は 60 日目まで 5.豊かな環境. 継続した(p<0.05) 。本研究により,脊髄損傷モデルラッ.  成熟した大人のマウスを通常の飼育環境より広いス. トを用いて,非侵襲的な方法により H 反射の記録を経. ペースの中で,輪車,トンネル,おもちゃなどを並べ,. 時的に 75 日目まで記録することができ,運動を実施せ. その配置を毎日変えるという「豊かな環境」で飼育する. ず自然経過を観察した非運動群では,各刺激周波数に対. と,海馬歯状回の顆粒細胞層でニューロン新生が増加す. する H 波振幅の増加がみられ,過反射の亢進を捉える. 19). 。またこれを放射線照射に. ことができた。また,脊髄損傷モデル作成後の急性期. より抑制すると,海馬の機能に依存すると考えられる空. (7 日目から 30 日間)に自転車式他動運動を実施する. ることが示めされている. 24). 。また,モ. 間学習の長期記憶が低下すると報告されており,増えた. と,過反射が抑制されることがわかった. 脳細胞が海馬の機能発現に寄与しているものと考えら. デル作成後,30 日が経過して過反射が増悪した段階か. れる。. ら MBET を実施する実験においても,一旦増加した過.  一方,側脳室壁の脳室下帯においても成熟したラット. 反射を減弱させる効果が示された. でニューロン新生が報告されており,ここで産生された.  MBET による過反射抑制効果は,1 日 60 分間,週 5 回,. 幼弱なニューロンは吻側に移動(migratioin)して,嗅. 4 週間で効果ありと報告されており. 20). 25). 。 26). ,評価に用いる. 。中大脳動脈閉. H 反射の記録はヒトにおいても非侵襲的に比較的簡便に. 塞による脳梗塞モデルラットでは大脳皮質ならびに外側. 実施可能であるので,脊髄損傷患者でも同様のデータを. 線条体が傷害されるが,このとき側脳室壁の脳室下帯で. 蓄積して,運動療法の効果を検証することができる。そ. 内在性の前駆細胞産生が高まり,新生ニューロンとして. して,UAMS の Garcia-Rill 博士らの開発したヒト用の. 分化して,数週間後,外側方向すなわち梗塞巣のある外. MBET を用いて,脊髄損傷患者の下肢筋緊張亢進(痙. 側線条体に向かって移動し,あたかも脳梗塞で傷害され. 性)を減弱させる効果が認められることが報告されてい. たニューロンに置き換わるかのような分布を呈する。た. る. だ,このとき移動した新生ニューロンの数は十分多く.  このように基礎的研究の成果をダイレクトに臨床研究. 球にまで達することが知られている. 27). 。. はなく,梗塞巣の脳組織が再生されるレベルには至っ. へ応用させる画期的な研究プロジェクトであり,まさに. ていない。しかし,将来的にこの分野の研究が進めば,. “translational neuroscience” (トランスレーショナル神経 28). 。また,基礎研究と理学療法(臨. ニューロン新生により自己の脳組織を修復させうる可能. 科学)の実践であった. 性を含んでおり大変興味深い。. 床)の橋渡しを示す意味で非常によいモデルプロジェク.  なお, 「豊かな環境」については,さらに研究が進んで. トといえよう。. おり,記憶力の向上. 21). やストレスに対する効果 22),ま. 23) が報告され,アル た,β - アミロイドの沈着抑制効果. ツハイマー病に対する治療効果につながる期待もある。. 臨床研究への橋渡し. これから先の理学療法の開発に向けて  我が国の理学療法も半世紀を超える歴史を重ね,これ までは特に,リハビリテーション医学分野における重要 な役割を果たしてきた。また,近年では,超高齢社会を.   筆 者 は 2007 年, 米 国 の University of Arkansas for. 迎え,健康寿命の延伸と医療経済効果に重きが置かれる. Medical Sciences( 以 下,UAMS) に て, 脊 髄 損 傷 モ. ようになり, 「予防」が大きな課題となってきた。そして. デル動物を用いた基礎的研究を経験し,この成果を脊. さらに,今後は,iPS 細胞を代表とする移植再生医療が. 髄損傷患者に応用するプロジェクトに参画した。自動. 展開されようとしており,また工学イノベーションや情. 的に回転運動する自転車式運動器(Motorized Bicycle. 報サイエンスの発展などもすでに動きはじめており,こ. exerciser trainer:以下,MBET)を用いて,脊髄損傷. うした新しい枠組みの中で,新しい医療体制が推進され,. モデルラットの他動運動を行う。運動群と非運動群に分. 理学療法は,これまでにない新たなニーズが求められる.

(6) 64. 理学療法学 第 46 巻第 1 号. ものと考えられる。こうした中,本稿の冒頭で示したよ うに(表 1) ,理学療法のターゲットを,あたり前のよう に日常生活活動の向上,すなわち活動参加レベルのアプ ローチばかりに捉われるのでなく,機能形態レベルの改 善,特に中枢神経障害においては,中枢神経系そのもの の再建が導かれる理学療法が求められるのであって,こ れこそ本来の理学療法の姿であるといえよう。たとえば, iPS 細胞から誘導された神経細胞を脳内に移植した際, 宿主にしっかりと生着し,機能を発現させるためには, 適切な理学療法が必要とされるかもしれない。病態モデ ル動物を用いた理学療法研究は,こうした未来の理学療 法に貢献する可能性を秘めているものと思われる。 文  献 1)石田和人:理学療法の本質と未来予想図(理学療法を創造 する).愛知県理学療法学会誌.2017; 29 (第 26 回愛知県理 学療法学術大会特別号):27. 2)Sinar EJ, Mendelow AD, et al.: Experimental Intracerebral hemorrhage: effects of a temporary mass lesion. J Neurosurg. 1987; 66: 568‒576. 3)Yang YG, Betz AL, et al.: Experimental intracerebral hemorrhage: relationship between brain edema, blood flow, and blood- brain barrier permeability in rats. J Neurosurg. 1994; 81: 93‒102. 4)Rosenberg GA, Mun-Bryce S, et al.: Collagenase-induced intracerebral hemorrhage in rats. Stroke. 1990; 21: 801‒ 807. 5)Del Bigio MR, Yan HJ, et al.: Experimental intracerebral hemorrhage in rats. Magnetic resonance imaging and histopathological correlations. Stroke. 1996; 27: 2312‒2320. 6)Masuda T, Hida H, et al.: Oral administration of metal chelator ameliorates motor dysfunction after a small hemorrhage near the internal capsule in rat. J Neurosci Res. 2007; 85: 213‒222. 7)Willner P: Chronic mild stress (CMS) revisited: Consistency and behavioural-neurobiological concordance in the effects of CMS. Neuropsychobiology. 2005; 52: 90‒110. 8)Schweizer MC, Henniger MSH, et al.: Chronic mild stress (CMS) in mice: Of anhedonia, ‘Anomalous Anxiolysis’ and activity. PLoS ONE. 2009; 4: e4326. 9)Takamatsu Y, Ishida A, et al.: Treadmill running improves motor function and alters dendritic morphology in the striatum after collagenase-induced intracerebral hemorrhage in rats. Brain Res. 2010; 1355: 165‒173. 10)Yea-Ru Yang, Ray-Yau Wang, et al.: Treadmill training effects on neurological outcome after middle cerebral artery occlusion in rats. Can J Neurol Sci. 2003; 30: 252‒ 258. 11)Ray-Yau Wang, Shang-Ming Yu, et al.: Treadmill training effects in different age groups following middle cerebral artery occlusion in Rats. Gerontology. 2005; 51: 161‒165. 12)Hamakawa M, Ishida A, et al.: Repeated short-term daily. exercise ameliorates oxidative cerebral damage and the resultant motor dysfunction after transient ischemia in rats. J Clin Biochem Nutr. 2013; 53: 8‒14. 13)Iadecola C, Anrather J: Stroke research at a crossroad: asking the brain for directions. Nat Neurosci. 2011; 14: 1363‒1368. 14)Cotman CW, Berchtold NC: Exercise: a behavioral intervention to enhance brain health and plasticity. Trends Neurosci. 2002; 25: 295‒301. 15)van Praag H, Kempermann G, et al.: Running increases cell proliferation and neurogenesis in the adult mouse dentate gyrus. Nat Neurosci. 1999; 2: 266‒270. 16)Shimada H, Hamakawa M, et al.: Low-speed treadmill running exercise improves memory function after transient middle cerebral artery occlusion in rats. Behav Brain Res. 2013; 243: 21‒27. 17)Tamakoshi K, Ishida A, et al.: Motor skills training promotes motor functional recovery and induces synaptogenesis in the motor cortex and striatum after intracerebral hemorrhage in rats. Behav Brain Res. 2014; 260: 34‒43. 18)Taub E, Uswatte G, et al.: New treatments in neurorehabilitation founded on basic research. Nat Rev Neurosci. 2002; 3: 228‒236. 19)van Praag H, Kempermann G, et al.: Running increases cell proliferation and neurogenesis in the adult mouse dentate gyrus. Nat Neurosci. 1999; 2: 266‒270. 20)Urakawa S, Hida H, et al.: Environmental enrichment brings a beneficial effect on beam walking and enhances the migration of doublecortin-positive cells following striatal lesion in rats. Neurosc. 2007; 144: 920‒933. 21)Petrosini L, De Bartolo P, et al.: On whether the environmental enrichment may provide cognitive and brain reserves. Brain Res Rev. 2009; 61: 221‒239. 22)Fox C, Merali, et al.: Therapeutic and protective effect of environmental enrichment against psychogenic and neurogenic stress. Behav Brain Res. 2006; 175: 1‒8. 23)Lazarov O, Robinson J, et al.: Environmental enrichment reduces Abeta levels and amyloid deposition in transgenic mice. Cell. 2005; 120: 701‒713. 24)石田和人,Arfaj A,他:脊髄損傷モデルラットにおけ る自転車式他動運動の後肢過反射抑制効果.理学療法学. 2008; 35(Supple 2): 141. 25)Arfaj A, Yates C, et al.: Changes in the H-reflex after spinal cord injury: A longitudinal study in awake rats. Society for Neuroscience 37rd annual meeting Abstract. 2007; 33: 405.2. 26)Reese NB, Skinner RD, et al.: Restoration of frequencydependent depression of the H-reflex by passive exercise in spinal rats. Spinal Cord. 2006; 44: 28‒34. 27)Kiser TS, Reese NB, et al.: Use of a motorized bicycle exercise trainer to normalize frequency-dependent habituation of the H-reflex in spinal cord injury. J Spinal Cord Med. 2005; 28: 241‒245. 28)Garcia-Rill E: Translational Neuroscience: A Guide to a Successful Program. Wiley-Blackwell, 2012, pp. 1‒13..

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