• 検索結果がありません。

幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性の検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性の検討"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 248 45 巻第 4 号 248 ∼ 255 頁(2018 年) 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 短  報. 幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性の検討* 松 田 雅 弘 1)# 新 田   收 2) 古 谷 槇 子 3) 楠 本 泰 士 4) 小 山 貴 之 5). 要旨 【目的】発達障害児はコミュニケーションと学習の障害以外にも,運動協調性や筋緊張の低下が指摘され, 幼少期の感覚入力問題は運動協調性の低下の原因のひとつだと考えられる。本研究は幼児の運動の協調性 と感覚との関連性の一端を明らかにすることを目的とした。 【方法】対象は定型発達の幼児 39 名(平均年 齢 5.0 歳)とした。対象の保護者に対して,過去から現在の感覚と運動に関するアンケートを実施した。運 動の協調性はボールの投球,捕球,蹴る動作の 25 項目,80 点満点の評価を行った。5,6 歳児へのアンケー ト結果で, 特に感覚の問題が多かった項目で「はい」と「いいえ」と回答した群に分けて比較した。 【結果】 「砂 場で遊ぶことを嫌がることがあった。手足に砂がつくことを嫌がった」の項目で, 「はい」と回答した群で 有意に運動の協調性の総合点が低かった。 【結論】過去から現在で表在感覚の一部に問題を示す児童は,児 童期に運動の協調性が低い傾向がみられた。 キーワード 協調運動,感覚異常,幼児. DCD とは運動の不器用な子どもで,その症状によって. はじめに. 学業成績や日常生活に障害を起こし,この運動発達の障.  近年,発達障害児が増加しており,発達障害児に対応. 害により支援を必要としている。発達障害児は一般的に. している教育・医療・保健機関において,発達段階に応. コミュニケーションや学習障害と認知されやすいが,乳. じた適切な対応が早急の課題とされている。本邦の発達. 児期には運動や認知の発育が遅延し,鉛筆で線を引く,. 障害者支援法における「発達障害」の定義は, 「自閉症,. 図形を模写することやハサミを使用して紙を切るなどの. アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,. 2) 微細な運動制御の障害が日常生活を困難にしている 。. 注 意 欠 陥 多 動 性 障 害(Attention Deficit Hyper-activity. その他にも障害物への接触する頻度が高く. Disorder:以下,ADHD)その他これに類する脳機能の. どによる生活上の困難性が指摘されている。. 障害であってその症状が通常低学齢において発現するも.  発達障害児は定型発達児よりも運動の協調性や運動イ. 1). 3)4). ,転倒な. 5). のとして政令で定めるもの」とされる 。発達障害と同. メージの能力が低下していることが指摘されている. 様に,発達性協調運動障害(Developmental Coordination. 自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:. Disorder: 以 下,DCD) も 社 会 的 に 注 目 さ れ て お り,. 以下,ASD)の 79%に明らかな協調運動が,10%に境. *. Relationship between Motor Coordination and Sensory Disturbance in Children 1)城西国際大学 (〒 283‒8555 千葉県東金市求名 1 番地) Tadamitsu Matsuda, PT, PhD: Josai International University 2)首都大学東京 Osamu Nitta, PT, PhD: Tokyo Metropolitan University 3)東京医療学院大学 Makiko Furuya, PT, PhD: University of Tokyo Health Sciences 4)東京工科大学 Yasuaki Kusumoto, PT, PhD: Tokyo University of Technology 5)日本大学 Takayuki Koyama, PT, PhD: Nihon University # E-mail: funwavesurfgogo@yahoo.co.jp (受付日 2017 年 6 月 13 日/受理日 2018 年 5 月 2 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 6 月 15 日]. 。. 6) 界級の問題が認められた 。さらに,ADHD 児の 55.2%. に DCD が認められた. 7). 。協調運動とは複数の要素が協. 同し,効率的に課題を遂行する能力である。運動にかか わる筋が適切な組み合わせで,適切な時間,適切な強さ で活動し,円滑で効率的な運動が実行されるとき,協調 性があると表現される。運動は適切な感覚入力をもとに 生成されるが,発達障害児の多くは手足の先端または口 や腹部に接触過敏性,音や光に対する過敏性がある報 告. 8). もみられ,その異常感覚が運動発達を遅延させて. いると考えられる。Bromlry ら. 9). の報告によれば,自.

(2) 幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性. 249. 閉症児の 71%に聴覚過敏,52%に触覚過敏,41%に嗅.  投球動作はバレーボールまたはテニスボールを準備. 覚過敏,40%に味覚過敏があった。適切な感覚入力の経. し,検者は 3 m 離れて立ち, 「ボールをこちらへ投げて」. 験は運動発達において重要であるが,生育時の感覚の苦. と指示した。下手投げはボールを両手で持ち,腕を下か. 手さや現在の感覚の苦手さが,現在の運動の協調性にど. ら上へ振り,体幹前方からボールを投げ出した。上手投. のような影響を与えているかについては明らかになって. げはボールを両手で持ち,体幹上方へ拳上し,両腕を上. いない。. から下へ振り,ボールを投げ出した。片手投げはボール.  我々は発達障害児の運動特性を明らかにすることを目. を片手で持ち,頭部側方へ拳上し,上肢を上から下へ振. 的として,発達障害児での使用可能な運動の協調性の評. り,ボールを投げ出した。テニスボールは片手投げのみ. 価尺度. 10). を行い,その妥当性に関して検討してきた。. 実施した(表 2) 。各動作を 3 回繰り返し,3 回目を評価. 幼児の年齢に応じて簡便に運動の協調性を評価可能であ. した。. る。しかし,感覚を幼児に評価することは信頼性に乏し.  捕球動作はバレーボールまたはテニスボールを準備. く,既存の評価方法もみられない。子どもの幼児期の反. し,検者は 3 m 離れて立ち, 「ボールを投げるので取っ. 応をもとに感覚の評価を行うことは臨床上で多くみられ. て」と指示し,バウンドなしか 1 回バウンドして被験者. る。そのため,養育者に対して幼児の感覚経験を探るた. に届くようボールを投げた。直接的な捕球,1 回床でバ. 11). を参考に. ウンドしたボールの捕球に関して上肢協調性,下肢協調. して,「表在感覚,味覚,聴覚と視覚,前庭感覚,体性. 性を各項目で点数化した(表 2)。投球動作と同様に各. 感覚と運動」の項目で著者らが作成した。将来的に発達. 動作を 3 回繰り返し,3 回目を評価した。. 障害児を対象とした感覚異常を把握する手がかりを検討.  蹴球動作はバレーボールを使用して,検者は 3 m 離. するために,今回,通園生活において問題を指摘されて. れて立ち,静止または検者が被験者に向かいボールを. いない幼児の保護者を対象に生育時と現在の運動感覚の. ゆっくりしたスピードで転がすのに対して,「ボールを. アンケートの結果と,我々が開発した協調運動の評価尺. 蹴って」と指示した。静止しているボールと検者から転. めに感覚運動のアンケートは Ayres の著書. 度. 10). の一部改変した評価尺度を用いて,その感覚運動. がされたボールを蹴る動作を評価した(表 2)。各動作. の経験と現在の運動の協調性にどのような関係性がある. を 3 回繰り返し,3 回目を評価した。. かを明らかにすることを目的とした。.  今回の評価尺度は,既存の評価尺度である幼児用の協. 対象および方法. 調性検査. 10). をバレーボール上手投げ,下手投げにおい. て,コントロール項目がひとつであったものを,それぞ.  対象は 39 名(男児 19 名,女児 20 名)の平均年齢 5.0. れ別に評価,無駄な評価段階を 7 点省略して改訂したも. 歳(標準偏差 0.8 歳)であり,その内訳は 4 歳児 12 名,. のである。それは先行研究同様の手順で,総合得点と,. 5 歳児 15 名,6 歳児 12 名とした。日常生活および,通. 年齢の関係を分析した結果,r = 0.66 とやや強い相関が. 園生活において言語理解および言語表出について問題の. みられ,年齢に応じた総合点の増加がみられた。既存の. 指摘がなく,医師による遅れの報告がないことを条件と. 評価尺度は先行研究. した。全対象者と保護者に対して,事前に本研究の目的. いる。. と方法を説明し,研究協力の同意を得た。本研究は首都.  分析は SPSS ver.21 を使用し,各年齢間の運動の協調. 大学東京荒川キャンパス研究安全倫理審査委員会の承認. 性の総合得点に関して一元配置分散分析を行い,事後検. (承認番号:15040)を得て実施した。. 10). で信頼性と妥当性が検討されて. 定には Scheffe の検定を用いた。各年齢間に運動の協調.  感覚運動のアンケートはその対象とする児童の保護者. 性に差があるかを確認したあと,保護者へのアンケート. に紙面で回答を求めた。感覚運動に関するアンケートは. 調査で感覚異常に関する回答が多かった項目の抽出を行. 過去から現在の表在感覚,味覚,聴覚と視覚,前庭感覚,. い,感覚運動のアンケートの回答で「はい」の割合が. 体性感覚と運動の 29 項目とした(表 1)。設問内容は基. 15%以上となった項目で,「はい」と「いいえ」と回答. 本情報以外の回答は「はい」と「いいえ」のどちらかと. した 2 群に分類した。なお,統計ソフトの SPSS sample. した。. power により,協調性の平均点および標準偏差から最.  協調運動評価方法は投球動作 11 項目(33 点),捕球. 低人数を算出した結果,2 群間でt検定を導入するため. 動作 6 項目(21 点),蹴球動作 8 項目(26 点)より構成. には,1群の最低サンプル数 10 が必要であることが示. されており,各運動時四肢体幹の協調性を評価して点数. された。今回のサンプル数は,5.6 歳で 27 であり, 「はい」. 化し,80 点満点で評価した。投球動作ではボールの大. との回答は,最高で 6 例であるため,ノンパラメトリッ. きさ(バレーボールとテニスボール)の違い,上手投. ク検討(Mann-Whitney 分析)を採用した。なお「はい」. げ・下手投げ・片手投げでの上肢協調性,下肢協調性を. との回答が,0 ‒ 3 例までの設問は,例数が小さく,汎化. 各項目で評価内容を作成した(表 2)。. した結論を導くことが困難と考え,「はい」の回答が.

(3) 250. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 表 1 感覚についてのアンケート設問内容 感覚. 番号 1. 設問内容 腹這いをさせようとすると泣くなどしてこの姿勢を嫌がった. あるいは歩けるようになるまで,ほとんど腹這いで移動することがなかった.. 表在感覚. 味覚. 聴覚 視覚. 前庭感覚. 体性感覚 運動. 2. 抱かれることを嫌がる様子があった.. 3. 手をつないで歩くことを嫌がる様子があった.. 4. 手づかみで食べることを嫌がることがあった.あるいは手が汚れることを嫌がった.. 5. 砂場で遊ぶことを嫌がることがあった.手足に砂がつくことを嫌がった.. 6. 着衣にこだわりがあった.衣服の素材にこだわりがあった.. 7. 転ぶなどしたとき疼痛を訴えないことがあった.. 8. 椅子に座ったとき,足が床に届くのに,わざと足を持ち上げるなどして床に足裏をつけないようにす ることがある.. 9. 日常生活でつま先歩きをすることがある.. 10. 強い偏食がある.. 11. 極端に辛い物を好む,あるいは強い味つけでも無反応である.. 12. 特定の匂いにこだわりがある.. 13. 匂いが引き金でパニックに陥る,あるいは泣き出すようなことがある.. 14. サイレンの音など特定の音に対してパニックになる,あるいは泣き出すことがある.. 15. 特定の音にこだわりがあり,聞き続けることがある.. 16. 光など特定の視覚刺激でパニックになる,あるいは泣き出すことがある.. 17. 屋外で目に入ったものに反応し,突然駆け出していくことがある.. 18. その場で回り続ける遊びを好む.. 19. 自動車や遊具などのわずかな揺れを極端に怖がる.. 20. 立位で目をつむるとふらふらすることがある.. 21. 歩行中ふらふら体が揺れることがある.. 22. ジャンプをするとバランスを崩し転倒しそうになることがよくある.. 23. 食器を倒す,コップを落とすといったことがよくある.. 24. 特に段差などないのに転ぶことがよくある.. 25. 手足の動きがぎこちないことがある.. 26. 歩くとき,べたあしでバタバタと音を立てて歩くことがある.. 27. スキップが苦手である.. 28. お遊戯,体操など先生や幼児番組の真似をして体を動かすことが苦手である.. 29. 幼児番組を見,マネして体を動かすことを好む.. 15%を上回る項目について,2 群間に協調性テストの得. のなかった 5,6 歳児(n = 27)に分けて表 3 に示した。. 点に差があるかについて,分析を行った。なおこの基準. 5,6 歳児の感覚運動のアンケート回答の割合が 15%を. で分析対象を選択すると, 「はい」に回答が 4 名を超え. 超えた「手をつないで歩くことを嫌がる様子があった. るものとなる。すべての解析は,有意水準 5%とした。. (24.0%) 」,「手づかみで食べることを嫌がることがあっ. 結   果. た。あるいは手が汚れることを嫌がった(16.0%)」, 「砂 場で遊ぶことを嫌がることがあった。手足に砂がつくこ.  協調運動評価の総合点の平均点(標準偏差)は 55.8. とを嫌がった(23.1%)」,「着衣にこだわりがあった。. (9.7)点で,4 歳児の平均点 46.5(3.9)点,5 歳児の平. 衣服の素材にこだわりがあった(19.2%)」,「強い偏食. 均点 57.9(7.6)点,6 歳児の平均点 62.6(9.4)点となり,. がある(16.0%) 」について,回答に「はい」と「いいえ」. 一元配置分散分析の結果(F = 15.30,p < 0.01)で年. とした 2 群に分けて,各群の運動の協調性を比較した. 齢によって有意差があり,事後検定の結果で 4 歳児と 5. (表 4)。有意差のあった項目は「砂場で遊ぶことを嫌が. 歳児・6 歳児には有意差はあったが,5 歳児と 6 歳児の 間には有意差はなかった。  感覚運動のアンケートの結果を全児童と年齢に有意差. ることがあった。手足に砂がつくことを嫌がった」で, 「はい」 (n = 6)の運動の協調性の総合点の中央値(25% tile ‒ 75% tile) ,平均ランク,順位和は 52.5(43.5 ‒ 60.0).

(4) 幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性. 251. 表 2 運動の協調性の評価項目と採点内容 項目. 1点. 2点. 3点. 4点. バレーボールによる投球動作 1)下手投げ. 体幹動かず上肢のみ. 体幹伸展を伴って前方 から投球. 体幹屈曲 + 伸展回旋を 伴って側方から投球. ―. 2)下手投球距離. 足元∼ 1 m 手前まで. 検者の足元. 十分なスピードで届く. ―. 3)下手投球コントロール. 90° 以上の異なる方向. 90° 以下の異なる方向. 検者に届く. 4)上手投げ. 体幹動かず上肢のみ. 体幹伸展を伴って上方 から投球. 体幹伸展 + 屈曲回旋を 伴って側方から投球. 5)上手投球距離. 足元∼ 1 m 手前まで. 検者の足元. 十分なスピードで届く. ―. 6)上手投球コントロール. 90° 以上の異なる方向. 90° 以下の異なる方向. 検者に届く. ―. 1)バックスウィング. 見られない. 肩伸展,肘屈曲. 体幹回旋,肩を後方へ 引く. ―. 2)上肢および体幹の動き. 体幹動かず上肢のみ. 体幹伸展を伴って上方 から投球. 体幹伸展 + 屈曲回旋を 伴って側方から投球. ―. 3)下肢の動き. 動かない. 前方へ踏み出し,膝伸 展位. 前方へ踏み出し,膝屈 曲し体幹伸展. ―. 4)投球距離. 足元∼ 1 m. 検者の足元. 十分なスピードで届く. ―. 5)投球コントロール. 90° 以上の異なる方向. 90° 以下の異なる方向. 検者に届く. ―. ―. テニスボールによる投球動作. バレーボール捕球動作:バウンドなし 1)捕球フォーム 1. 口頭指示で可. 両手と胸で捕球. 両手で捕球,胸との間 で確保. 両肘伸展し,体幹前方 で捕球. 2)捕球フォーム 2. 体幹と下肢動かない. 体幹を動かす. 下肢を踏み出す. ―. バレーボール捕球動作:バウンドあり 1)捕球フォーム 1. 口頭指示で可. 両手と胸で捕球. 両手で捕球,胸との間 で確保. 両肘伸展し,体幹前方 で捕球. 2)捕球フォーム 2. 体幹と下肢動かない. 体幹を動かす. 下肢を踏み出す. ―. テニスボール捕球動作:バウンドなし 1)捕球フォーム 1. 口頭指示で可. 両手と胸で捕球. 両手で捕球,胸との間 で確保. 両肘伸展し,体幹前方 で捕球. 2)捕球フォーム 2. 体幹と下肢動かない. 体幹を動かす. 下肢を踏み出す. ―. 股伸展膝屈曲,上体は 動かない. 蹴り足を一歩後方へ下 げる. 支持脚を踏み出し,蹴 り足を大きく引く. 静止したバレーボールのキック動作 1)バックスウィング. 見られない. 2)体幹. ほぼ動かない. 体幹屈曲を伴う. 体幹回旋を伴う. ―. 3)キックスピード. 足元∼ 1 m. 検者の足元. 十分なスピードで届く. ―. 4)キックコントロール. 90° 以上の異なる方向. 90° 以下の異なる方向. 検者に届く. ―. 動くバレーボールのキック動作 1)バックスウィング. 見られない. 股伸展膝屈曲,上体は 動かない. 蹴り足を一歩後方へ下 げる. 支持脚を踏み出し,蹴 り足を大きく引く. 2)体幹. ほぼ動かない. 体幹屈曲を伴う. 体幹回旋を伴う. ―. 3)キックスピード. 足元∼ 1 m. 検者の足元. 十分なスピードで届く. ―. 4)キックコントロール. 90° 以上の異なる方向. 90° 以下の異なる方向. 検者に届く. ―. ※動作不可の場合は 0 点とした. 点,7.83,47.0, 「いいえ」(n = 20)は 64.0(55.0 ‒ 66.0) 点,15.20,304.0 であり, 「はい」と回答した群で有意 に協調運動評価の総合点が低かった(表 4) 。. 考   察  今回,発育期と現在の感覚運動の経験と運動の協調性 について検討することで,その関連性を明確にすること を目的とした。まず,幼児期には年齢に応じて運動の協.

(5) 252. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 表 3 感覚運動に関するアンケート結果 全体(n = 39). 表在感覚. 味覚. 聴覚 視覚. 前庭感覚. 体性感覚 運動. 5,6 歳(n = 27). 設問. はい. いいえ. 未回答. 1. 3. 35. 1. 2. 1. 38. 3. 11. 26. 4. 6. 31. 5. 10. 6 7. 割合(%). はい. いいえ. 未回答. 7.9. 2. 24. 1. 2.6. 1. 26. 2. 28.9. 6. 19. 2. 24.0. 2. 16.2. 4. 21. 2. 16.0. 28. 1. 26.3. 6. 20. 1. 23.1. 8. 30. 1. 21.1. 5. 21. 1. 19.2. 4. 35. 10.3. 1. 26. 8. 1. 38. 2.6. 0. 27. 9. 4. 35. 10.3. 3. 24. 10. 5. 31. 13.9. 4. 21. 11. 1. 38. 2.6. 0. 27. 12. 0. 39. 0. 27. 13. 0. 39. 0. 27. 14. 3. 36. 3. 24. 15. 0. 39. 0. 27. 16. 0. 39. 0. 27. 17. 3. 36. 7.7. 3. 24. 11.1. 18. 2. 37. 5.1. 2. 25. 7.4. 19. 0. 39. 0. 27. 20. 1. 37. 2.6. 1. 25. 21. 0. 39. 0. 27. 22. 0. 39. 0. 27. 23. 2. 35. 2. 5.4. 1. 24. 24. 1. 37. 1. 2.6. 1. 26. 25. 0. 39. 26. 4. 35. 27. 4. 33. 28. 3. 36. 29. 25. 13. 3. 7.7. 1. 2. 1. 割合(%) 7.7 3.7. 3.7. 11.1 2. 16.0. 11.1. 1. 3.8. 2. 4.0 3.7. 0. 27. 10.3. 1. 26. 10.8. 2. 25. 7.4. 7.7. 3. 24. 11.1. 65.8. 14. 12. 3.7. 1. 53.8. *表 1 の設問と対応している.未回答を抜いた母数に対する「はい」と回答した割合. 表 4 運動に関するアンケート項目別の運動の協調性の総合点の比較(点) 設問 3 はい. 設問 4. 55.5. 52.5. (50.3 ‒ 64.5) いいえ. 62.0. (56.0 ‒ 64.5) 62.0. (54.0 ‒ 68.0). (54.0 ‒ 68.0). 設問 5 * 52.5. 設問 6 64.0. (43.5 ‒ 60.0) 64.0. (51.0 ‒ 69.0) 57.5. (55.0 ‒ 66.0). (54.0 ‒ 66.0). 設問 10 54.5 (53.8 ‒ 64.5) 62.0 (54.0 ‒ 68.0). 注 上段;中央値 下段;25% ‒ 75%   表頭の設問 3 ∼ 6,10 は表 1 の設問番号と対応している   * p < 0.05. 調性が変化するため,各年齢で運動の協調性に違いがな. 期に運動の協調性が変化すると考えられる。この時期. いかを確認した結果,4 歳と 5,6 歳の間に有意差があっ. は,身体知覚・身体図式が確立される時期であり,触覚. 12). の運動イメージが. 系・固有感覚系・前庭感覚系などの複数の感覚系が統合. 変化する時期と重なり,運動の協調性に関してもこの時. し処理が向上する。そのことで,体幹の安定性をもとに. た。これは我々が行った先行研究.

(6) 幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性. 実行機能で使われる四肢を巧みに動かすことが可能とな る. 13). 。そのため,今回の結果からも 4 歳と 5,6 歳の間. 253. 児童よりもバランス能力が低く,全身の筋を協調してバ ランス保持する能力も低い. 17)18). 。感覚運動経験が,全. に有意差が生じたことが考えられる。. 身を含む運動の基盤となることが考えられる。.  感覚運動のアンケートの結果,全年齢通して「砂場で.  定型発達児に対して感覚運動に関するアンケートと協. 遊ぶことを嫌がることがあった。手足に砂がつくことを. 調性テストの分析を行った。表在感覚の中でも特に手掌. 嫌がった」で「はい」と回答した児童の割合が特に多. の触覚の感覚過敏が多く観察された。また,感覚異常の. かった(表 3)。この設問は表在感覚の触覚に関する項. 有無の 2 群間で,特に「砂場で遊ぶことを嫌がることが. 目であった。触覚の受容器は脊髄神経節細胞からの神経. あった。手足に砂がつくことを嫌がった」のみ,「はい」. 線維終末であり,出生時には発生解剖学的に十分に形成. と答えた群に協調運動評価性の総合点で有意差はあり,. されているが,その有効な情報処理には視覚や他の感覚. 簡易的にその感覚の違和感が運動の協調性に影響するポ. との統合と経験が不可欠とされる。乳幼児ほど視覚情報. イントになる可能性がある。このように感覚と協調運動. が優位とされ,触覚能力は日常の経験により発達してい. 性との関連性は考えられるが,対象者数が少なく今後さ. く。そのため,触覚はその他の感覚よりも発達が遅く,. らなる検討が必要である。また,研究の限界として,今. その過程の乳児期で異常感覚を経験することは,運動の. 回は母親へのアンケート調査のため,母親の受け止め方. 協調性の未熟さにつながると考えられる。今回,表 4 に. で回答が変化すること,健常者に対する調査であったた. 示すように「砂場で遊ぶことを嫌がる」5,6 歳児にお. め,様々な発達の経過の児童について検討していきたい。. いて,協調運動評価の総合得点が有意に低値を示した。 感覚系の障害により運動出力の持続ならびに運動プログ. 結   論. ラムの維持が困難になるといわれている。運動は運動の.  感覚異常の有無で分類した 2 群間で協調性テストの平. 欲求や動機形成がもととなることで運動の方略・プログ. 均点にも特に「砂場で遊ぶことを嫌がることがあった。. ラム形成が促され,実行される。実行された運動の結果. 手足に砂がつくことを嫌がった」のみで有意差はあり,. が感覚系を通してフィードバックされ,照合され運動が. この項目の感覚異常が存在する場合に運動の協調性に影. 修正される. 14). 。感覚入力になんらかの障害がある場合,. 環境の変化などのフィードバックによる運動の修正に問 題が生じ,協調運動障害となると考えられる。そのため, 感覚運動の経験は重要であると考えられる。. 響を及ぼす可能性がある。 利益相反  本研究において開示する利益相反関係はない。.  感覚入力に対する異常は,ASD 児の 80%以上に感覚 刺激に対する感覚異常が存在するとされている。自閉症. 謝辞:本研究にご協力いただいた植草学園大学発達教育. の 71%に音に対する過敏,54%に接触に対する過敏が. 学部 植草一世先生,植草学園大学保育園の先生方に深. あるとの報告. 15). もある。ADHD では過剰に感覚刺激. 謝いたします。なお,本研究は JSPS 科研費(16K01874). を求めるか,逆に刺激を避ける傾向もある。アメリカ精. 「発達障害児における運動発達の特徴に焦点を当てた機. 神医学会の新しい診断基準 DSM-5 の ASD の診断項目. 能把握と発達促進プログラムの開発」の一部助成を受け. にも感覚の問題が加わったことから,臨床現場で感覚の. たものです。. 問題をどのように捉え,どのように対応するかが注目さ れていると考えられる。感覚過敏が幼児期の ASD のパ ニックや不適応行動の原因となっている場合も多く,対 応を考える場合に念頭に置く必要がある。日本で再標準 化中の感覚プロフィールと Vineland Adaptive Behavior Scale Second Edition(以下,VABS-Ⅱ)の ASD 児者の データの相関分析では感覚プロフィールの感覚の問題と VABS-Ⅱの不適応尺度との相関が高く,ASD 児者の感 覚の問題は不適応行動と関連が強いことが示唆された. 16). 。. そのため,感覚の異常が運動障害だけではなく,不適応 行動につながる要因のひとつでもあり,感覚入力に対す る配慮やアプローチは重要である。不適応行動だけでは なく,触覚系・固有感覚系・前庭感覚系などの複数の感 覚系が統合することでも,四肢の巧緻動作は発達す る. 13). 。また,発達障害のある傾向の子どもは同年代の. 文  献 1)宮尾益和:今,発達障害が注目されている理由,ADHD・ LD・高機能 PDD のみかたと対応.宮尾益和(編),医学 書院,2007,東京,pp. 2‒8. 2)Sugama K,Sengoku Y,et al.: A new device for measuring motor control ability by a visual stimulus: Toward the analysis of clumsiness for eye-hand coordination task corresponding to a visual target.Sapporo Medical University Bulletin of School of Health Sciences. 2007; 6: 59‒67. 3)島谷康司,関矢寛史,他:障害物回避の見積もり能力に 関する発達障害児と健常児の比較.理学療法科学.2011; 26(1): 105‒109. 4)伊藤秀志:遊びの相手や内容が幼児の体力・運動能力に及 ぼす影響について─子どもの体力・運動能力の変化,発 育・発達の特性等からの考察─.(財)静岡総合研究機構 情報誌.2008; 92: 51‒62. 5)松田雅弘:自閉症に対する理学療法介入,知りたかった!.

(7) 254. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. PT・OT のための発達障害ガイド.新田 收,他(編) , 金原出版,東京,2012,pp. 169‒172. 6)Green D, Charman T, et al.: Impairment in movement skills of children with autistic spectrum disorders. Dev Med Child Neurol. 2009; 51: 311‒316. 7)Watemberg N, Waiserberg N, et al.: Developmental coordination disorder in children with attention-deficithyperactivity disorder and physical therapy intervention. Dev Med Child Neurol. 2007; 49(12): 920‒925. 8)岩永竜一郎:発達障害児への支援─感覚・運動アプローチ を中心に─.小児保健研究.2013; 72(4): 473‒479. 9)Bromley J, Hare DJ, et al.: Mothers supporting children with autistic spectrum disorders: Social support, mental health status and satisfaction with services. Autism. 2004; 8: 409‒423. 10)松田雅弘,新田 收,他:幼児のための協調運動評価尺度 の開発─信頼性・妥当性の検討─.総合リハ.2015; 43(10): 955‒960. 11)Ayres AJ:感覚統合と学習障害.宮前珠子,鎌倉矩子(共 訳),協同医書,東京,1978. 12)松田雅弘,新田 收,他:幼児版運動イメージ評価尺度の. 開発─信頼性・妥当性の検討─.理学療法学.2017; 44(3): 213‒218. 13)福田恵美子:感覚統合障害としての発達障害:みかたと対 応,ADHD・LD・高機能 PDD のみかたと対応.宮尾益知 (編),医学書院,東京,2007,pp. 167‒196. 14)高草木薫:大脳基底核による運動の制御.臨床神経.2009; 49: 325‒334. 15)Bromley J, Hare DJ, et al.: Mothers supporting children with autistic spectrum disorders: Social support, mental health status and satisfaction with services. Autism. 2004; 8: 409‒423. 16)萩原 拓,岩永竜一郎,他:感覚プロフィール日本版の標 準化と信頼性,妥当性の研究.厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(精神障害分野) 「発達障害者の 適応評価尺度の開発に関する研究 H21 ∼ 23 年度」 .2012: 194‒273. 17)松田雅弘,新田 收,他:軽度発達障害児と健常児の立 位平衡機能の比較について.理学療法科学.2012; 27(2): 129‒133. 18)松田雅弘,宮島恵樹,他:軽度発達障害児の立位平衡機能 の特性について.了徳寺大学紀要.2010; 4: 45‒52..

(8) 幼児期における運動の協調性と感覚異常の関連性. 〈Abstract〉. Relationship between Motor Coordination and Sensory Disturbance in Children. Tadamitsu MATSUDA, PT, PhD Josai International University Osamu NITTA, PT, PhD Tokyo Metropolitan University Makiko FURUYA, PT, PhD University of Tokyo Health Sciences Yasuaki KUSUMOTO, PT, PhD Tokyo University of Technology Takayuki KOYAMA, PT, PhD Nihon University. Introduction/Background: In addition to having communication and cognitive learning disabilities, toddlers with developmental disorders have decreased motor coordination and decreased muscle tone, and problems with their sensory input are thought to be a causal factor. The aim of the present study was to investigate the relationship between motor coordination and sensory disturbance in children. Methods: The subjects were 39 healthy kindergarten children aged 5.0 (mean) years. Parents or guardians completed a questionnaire about the children’s past and present sensory and motor function. Motor coordination was evaluated by 25 items, involving throwing, kicking and catching a ball, on an 80-point scale. The children were categorized into ‘Yes’ or ‘No’ groups according to questionnaire responses to whether they had much coordination problem, and compared. Results: Children for whom the questionnaire response to the item “Have they sometimes disliked playing in the sand pit? Have they sometimes disliked sand on their hands or feet?” was “Yes” scored significantly lower for overall motor coordination. Conclusion: Children who showed some superficial sensory problems from the past to the present tended to have low motor coordination abilities. Key Words: Motor coordination, Sensory disturbance, Children. 255.

(9)

参照

関連したドキュメント

 調査の対象とした小学校は,金沢市の中心部 の1校と,金沢市から車で約60分の距離にある

 複雑性・多様性を有する健康問題の解決を図り、保健師の使命を全うするに は、地域の人々や関係者・関係機関との

2022 年 7 月 29 日(金)~30 日(金)に宮城県仙台市の東北大学星陵オーディトリウ ムにて第

・大都市に近接する立地特性から、高い県外就業者の割合。(県内2 県内2 県内2/ 県内2 / / /3、県外 3、県外 3、県外 3、県外1/3 1/3

地域 東京都 東京都 埼玉県 茨城県 茨城県 宮城県 東京都 大阪府 北海道 新潟県 愛知県 奈良県 その他の地域. 特別区 町田市 さいたま市 牛久市 水戸市 仙台市

住所」 「氏名」 「電話番号(連絡 先)」等を明記の上、関西学院 大学教務部生涯学習課「 KG 梅田ゼミ」係(〒662‐8501西 宮 市 上ケ原 一 番 町 1 - 1 5

 宮城県岩沼市で、東日本大震災直後の避難所生活の中、地元の青年に

It is found out that the Great East Japan Earthquake Fund emphasized on 1) caring for affected residents and enterprises staying in temporary places for long period, 2)